Chapter-67『色違いのライコウ、跳ぶ!』 (1) アルフの遺跡を出発したマサト達は、32番道路を南に向かって進んでいた。 マサト「次の町はどこになるんですか?」 ミキ「次はマイタケシティになるわ。でんきタイプを使うマイタケジムがあるわ。そして32番道路から海側に入っていくとワカクサシティ。ユカリさんの地元になるわ。」 コトミ「そしてつながりの洞窟を抜けたらヒワダタウンですね。マサト、次のバッジもしっかりゲットしよう!」 マサト「うん!」 と、今の今まで晴れていた空が次第に曇り始め、やがて雲行きも怪しくなり始めた。 マサト「あれ、雨でも降るのかなぁ・・・?」 コトミ「変ね。ポケモンセンターで見た天気予報では雨になるとは言ってなかったわ。」 ミキ「これはポケモンの仕業かもしれないわ。」 マサト「ポケモンの!?」 ミキ「うん。ポケモンは持っている特性で天気を変えることがあるわ。例えばニョロトノは、普通の特性はしめりけやちょすいと言って、それぞれじばくやだいばくはつを発動できなくする効果やみずタイプの技を受けると体力が回復する効果を持っているわ。だけど、最近新しく発見されたニョロトノの特性にあめふらしって言う特性があるの。バトルに出したときに天候が雨状態になる効果があるわ。」 コトミ「バトルに出しただけで雨になるって言うことは、使い道を考えればかなり強そうですね。」 そう言っている間にも雲行きはますます怪しくなり、ついに雨が降り始めた。 マサト「降って来たね・・・。」 コトミ「どこか、適当な木のところに行って雨宿りしましょう!」 ミキ「待って。この雨、普段の雨とはどこか違うわ。」 コトミ「違う・・・?」 ミキ「うん。普通の雨にしてはあまりに急すぎるし、何かしら。どことなく妙な感じがするわ。」 そのときだった。 マサト「何か聞こえない?」 コトミ「ううん。」 ミキ「あたしは何も聞こえないわ。」 マサト「僕だけかなぁ。ポケモンが呼んでいる感じがするんだ。」 コトミ「あっ。確かこう言うのって、以前にもありましたよね?」 ミキ「そう言われてみれば・・・。間違いないわ。スイクンのときと似てるわ!」 以前、マサト達が道を通りかかったときに妙な北風が吹きわたり、色違いのスイクンが姿を現したことを思い出した。あのときスイクンとシンクロしたのはミキだった。そして今回、マサトがポケモンの声を聞いたと言っている。しかも天候が急変した。まさか・・・。 ミキ「間違いないわ。スイクンと同じジョウトの伝説に語り継がれるポケモン、ライコウだわ!」 マサト「ライコウ?」 マサトはポケモン図鑑を取り出してライコウをチェックした。 コトミ「雨雲を背負っていて、雷と共に生まれたと言われているのね・・・。」 ミキ「マサト君、もしあのときのあたしと同じだったら、きっとライコウはマサト君を導こうとしているのかもしれないわ。」 マサト「あれは!?」 道の向こうで突然稲光が轟き、向こうに1体のポケモンが現れた。ライコウだ。しかも色違いのライコウである。スイクンのときと同じだ。 マサト「ライコウ・・・?」 ライコウは全身から電気を発している。マサト達をどう見ているのだろうか。 コトミ「ライコウ、何かに怯えているのかしら。」 ミキ「もしかしたらあたし達に伝えたいことがあるのかもしれないわ。」 と、ライコウは強力な電気の大砲を空高く打ち上げた。でんじほうだ。サーナイトやエーフィが使うそれの何倍も威力がありそうだった。 マサト「でんじほう!?」 でんじほうは遠くの空、ずっと北の方向を目指して飛んでいくのが見えた。 コトミ「あの方向って、確か・・・。」 ミキ「シント遺跡!?」 シント遺跡。それはかつてシンオウの人々が故郷のことを伝えるべくジョウトに建てた遺跡である。いかりの湖の奥に眠っているのだが、まさか・・・。 マサト「ライコウ、僕たちに何を伝えたいんだい?」 と、ライコウは一段と高く吠えた。そのショックでマサトは気を失ってしまった。 そしてライコウはマサトを背中に乗せると、どこともなく走り去っていってしまった。 コトミ「マサト!」 ミキ「マサト君!」 果たして、ライコウはマサトを連れてどこに向かおうとしているのだろうか。そして、何をするつもりなのだろうか。 (2) マサトはふと気がついた。すぐ横にはライコウもいる。 マサト「(ここは・・・?)」 ポケナビを取り出して現在位置を確かめてみる。――そこは36番道路と37番道路が分岐するところから少し山あいに入った場所だった。ずいぶんと北の方まで運ばれたことになる。 マサト「(ずいぶん昔の遺跡みたいだけど、一体全体ここはどう言うところだったんだろう・・・。)」 アルフの遺跡やアスカナの石室で見かけたのと似た造りが広がっている。しかし、もうすでに朽ち果てて風化し始めており、歴史の古さと言うのが見てとれた。 マサト「あっ!?あれは!?」 マサトは遺跡の片隅に石盤にも似たものが残されているのに気がついた。 近づいて見てみると、それは何かしらの絵が描かれている代物だった。 マサト「何の絵だろう・・・?」 よく見ると、それはジョウト地方に伝わる伝説のポケモンとおぼしき絵だった。スイクン、ライコウ、そしてもう1匹いる。さらに下には点字とおぼしき文字で何か書かれている。 そこにポケギアに通信が入った。 コトミ「マサト、大丈夫!?」 マサト「うん。僕はどこかの遺跡まで運ばれたみたいなんだ。」 ミキ「遺跡!?マサト君、落ち着いて話してみて。どの辺りにいるの?」 マサト「ポケナビの位置だと36番道路の南側、山あいに入ったところです。」 ミキ「聞いたことがあるわ。ホウエン地方の点字文明にまつわるイシュタル遺跡ね。」 マサト「イシュタル遺跡?」 ミキ「うん。あたしも以前ジョウトを回ってたときに訪れたことがあるんだけど、ジョウト地方の伝説にまつわるポケモンを書き記した古代の絵画が残されているわ。」 マサト「僕、今ちょうどその絵画のところにいるんです。下に点字で何か書かれていて、古代の人が僕たちに何かしらのメッセージを伝えたんだと思うんです。」 コトミ「何て書いてあるの?」 ミキ「あたしだったら多分読めると思うわ。でもどうすればいいかしら。あたしだって空を飛べるポケモンはみんなボックスに預けてしまってるし・・・。」 人を乗せて空を飛ぶポケモンはマサト達も色々と持っている。例えばマサトはリザードン、コトミはフライゴン、ミキはラティオスなどである。だが揃いも揃ってタカノリのコスモスシステムやコノハの育て屋に預けてしまっているのである。 と、ライコウが空に向かって高く吠えた。 マサト「ライコウ、何をするんだい?」 一方、コトミとミキは空に点字と見られる文章が浮かび上がったのを見た。 コトミ「マサト、今あたし達のいるところに点字の文章が浮かび上がったの。マサトのいるところの文章と似てるところはある?」 マサト「似てるところ、って言われると・・・。」 ミキ「マサト君、最初の点はどう言う配列になってる?」 マサト「左下の2つ以外は点になっています。」 ミキ「あたし達がいるところと同じだわ。じゃあ読んでみてもいい?」 マサト「はい。」 ミキ「じゃあ読んでみるわね。・・・『すいくん らいこう えんてい』『じょーとの だいちを かけめぐる でんせつの ぽけもん』『このちに わざわいが ふりかかりしとき かれら ふたたび よみがえらん』『かわりし いろの もとに』」 (「スイクン、ライコウ、エンテイ」「ジョウトの大地を駆け巡る伝説のポケモン」「この地に災いが降りかかりしとき、彼ら再び蘇らん」「変わりし色の元に」) コトミ「この地に災いが降りかかりしとき、彼ら、再び蘇らん・・・?」 マサト「変わりし色・・・?」 ミキ「この『変わりし色』っていう下りは、おそらく色違いのポケモンのことを意味しているのだと思うわ。」 マサト「とすると、ジョウト地方に災いが降りかかろうとしている・・・?」 ミキ「そうかもしれないわ。この前あたし達が見たスイクンも色違いだったでしょ?さっきのライコウも色違いだったし、今度はどこかで色違いのエンテイと出会うことになるかもしれないわね。」 と、再びライコウがマサトの方を向いて吠えた。 マサト「ライコウ・・・?」 ライコウは再びマサトを背中に乗せると、高く飛び上がっていった。 〜挿入歌:『アイスクリーム・シンドローム』が流れる〜 しばらくして、マサトは再びコトミとミキの元に戻ってきた。 マサト「ライコウ、僕たちに教えてくれたのは、このジョウト地方に危機が迫っているということなんだね。」 コトミ「この前のロケット団といい、もしかするとナナシマのとき以上のことになるかもしれないわね。」 ミキ「そうなると、あたし達だって負けていられないわね。」 ライコウはマサトの周りを一回りした。 マサト「ライコウ、どうしたの・・・?」 だが、ライコウは再び高く飛び上がり、マサト達の前から姿を消した。そして、後は何事もなかったかのごとく雲が消え、晴れ渡る青空が広がっていた。 コトミ「ジョウトに迫る危機・・・。」 ミキ「この前のスイクンのときもそうだったのかもしれないわ。ジョウト地方に今危機が迫っている。それでライコウはあたし達の前に姿を現したのかもしれないわ。」 コトミ「スイクンはミキさんを選んだ。そしてライコウはマサトを選んだのかもしれないわ。となるとエンテイはあたしになるのかしら。」 マサト「ライコウ、またいつか、どこかで会おう!」 マサトはライコウが走り去っていった方向に向かって言った。そして、ミキがマサトの肩に手を置いて言った。 ミキ「マサト君、伝説のポケモンはあたし達を試しているのかもしれないわ。今迫っている危機からジョウト地方を救うため、あたし達が選ばれたのかもしれないわ。スイクンのときはそんなこと、これっぽっちも思ってなかったけど、もしかしたらロケット団の魔の手はもうすぐそこまで迫っているかもしれないわ。だから、ナナシマのときの展開を繰り返さないためにも、慎重に行きましょう!」 マサト「はい!・・・色違いのライコウ、いつか必ずゲットしてみせる!」 色違いのライコウ。それはジョウト地方に今迫りつつある危機を知らせるため、マサト達を試しているのかもしれない。 そうこうしている間にも、ロケット団は新たなる魔の手を伸ばそうとしている。果たして、マサト達はこれからロケット団にどう立ち向かっていくことになるのだろうか。 ジョウトリーグとグランドフェスティバル出場に向けたマサト達の挑戦は、まだまだ続く。 Chapter-68に続く。 <このお話の履歴> 全編書き下ろし。