SpecialEpisode-5『ポケモンレンジャー!デオキシスと謎の神殿!!』 (1) ポケモン達と心を通わせながら、日夜活動しているポケモンレンジャー。「キャプチャ・スタイラー」と呼ばれる装置を使い、数多くのポケモンたちの力を借りて、ポケモン達の、そして人々の生活を守るのが、彼ら、彼女たちの役目である。 ポケモンレンジャーが日々行っている活動。それは「ミッション」と呼ばれ、身の回りで起きる出来事の解決から、大規模な悪の組織との対決まで、その活動範囲は多岐にわたる。そうして数々の経験を積みながら、ポケモンレンジャーはポケモントレーナーやポケモンコーディネーターにも負けないで成長していくのである。 アスカ・チヒロ「キャプチャ・オン!」 ここにも姉妹で活躍するポケモンレンジャーがいる。姉のアスカと妹のチヒロ。2人ともポケモンと協力して人々の役に立ちたいと思い、姉妹揃ってポケモンレンジャーとなった。 レンジャーとしての活動の最中、アスカはホウエン地方からジョウト地方に向かう船上でマナフィのタマゴを保護するミッションを、チヒロはカントー地方とジョウト地方の間の森林地帯でシェイミを保護するミッションをそれぞれ受けた。依頼主はジョウト地方のポケモン研究の権威・ウツギ博士。珍しいポケモンの研究に関する論文を発表、広く保護を呼び掛けるために依頼したのだった。 アスカとチヒロは悪の組織として知られるロケット団の乱入を受けるものの、同行していたポケモントレーナーの協力を得て撃退に成功、無事にポケモンをウツギ博士のもとに送り届けたのだった。 そして、アスカとチヒロのもとに、今回も新たなミッションが舞い込んだのだった。依頼主はレンジャーユニオン・ジョウト支部責任者のアツシ。果たしてその内容は・・・。 チヒロ「行こう、お姉ちゃん!」 アスカ「うん!」 レンジャーユニオンは、アルミア地方の北西部に本部があり、全国各地に支部が置かれている。ジョウト支部はキキョウシティの郊外に置かれていた。 アツシ「・・・今回のミッションは、チョウジタウンの南にある遺跡にいるとされている、幻のポケモン・デオキシスを保護してもらうことだ。」 アスカ「デオキシス?」 アツシ「ああ。この遺跡の周辺では、以前からデオキシスとおぼしき姿を見かけたと言う情報が多数報告されている。」 アツシはそう言って、スクリーンに写し出された地図を拡大した。――チョウジタウンとキキョウシティの間を中心に、西はスリバチ山、東は44番道路に至る広い範囲にわたって、目撃情報を示す×印がつけられていた。 アツシ「ここの遺跡は、遥か昔に造られた神殿と言われているが、誰が何の目的で造ったのか、いまだに解明されていない。そのため、『謎の神殿』と呼ばれている。北にあるシント遺跡と何かしらの関連性も言われているのだが、やはりこれも推測の域を出ていないんだ。」 チヒロ「それで、あたし達にこのデオキシスを保護してもらいたいと?」 アツシ「ああ。だが、この神殿は仕掛けが施されているんだ。途中にあるスイッチのせいで、1人ではどうしても神殿の奥に行くことができないんだ。少なくとも2人以上いないと、このミッションはクリアできないことになるんだ。」 アスカ「と言うことは、誰か他にもこのミッションを受けた人がいるんですね。」 アツシ「そうだ。このミッションを最初に引き受けたレンジャーを紹介するよ。カントーから派遣されたセツナさんだ。」 アツシに紹介されて、1人の男性レンジャーが現れた。この人物がセツナだろう。 セツナ「初めまして。俺はセツナ。カントーからやって来たポケモンレンジャーだよ。」 アスカ「初めまして。あたしはアスカ。そしてこの子が妹のチヒロ。よろしくね!」 チヒロ「あたしはチヒロ。仲良くしてね!」 セツナ「こちらこそよろしく。俺はアツシさんから謎の神殿のミッションを受けたんだけど、途中のスイッチがどうしても1人ではクリアできない仕組みになっていて、それで仕方なく戻ってきたんだ。だけど君たちがいれば、3人で力を合わせて、ミッションをクリアできると思う。だから、一緒にデオキシスを保護しよう!」 アスカ「うん!」 チヒロ「よろしくお願いします!」 アツシ「では、改めてミッションを命じる。謎の神殿のデオキシスを保護してもらいたい!」 アスカ・チヒロ「はい!」 (2) デオキシスを保護せよと言うミッションを受けたアスカとチヒロは、セツナと一緒に謎の神殿に向かっていた。 位置的にはチョウジタウンの南、くらやみのほらあなのキキョウ側の入り口から山を上ってしばらく行ったところにあるとされていた。 セツナ「そうか。アスカさんとチヒロさんって、有名なトレーナーとも知り合いなんだね。」 アスカ「うん。あたしが受けたミッションは、マナフィのタマゴを守れって言うものだったんだけど、一緒にミッションに協力してくれたのが、ホウエンのトウカジムのセンリさんの息子さんでポケモントレーナーのマサト君。そして、ナナシマで行われたバトルチャンピオンシップスのバトル大会で優勝したミキさんだったのよ。」 チヒロ「あたしが受けたのはシェイミを守れって言うミッションだったわ。あたしに協力してくれたのは、バトルチャンピオンシップスのコンテスト大会に出てたコトミちゃん。そして、ジョウトリーグ四天王のルリカさんだったのよ。」 セツナ「そっか。優秀なトレーナーにコーディネーター、そして四天王。君たちがそう言う方と知り合いで、俺、ちょっとうらやましいよ。・・・さあ、この洞窟がくらやみのほらあなだ。31番道路と45番道路、46番道路を結ぶ真っ暗なトンネルだ。そしてあそこの道を上っていけば、報告に言われている謎の神殿だよ。」 チヒロ「かなり険しい道ね・・・。そうだ、ポケモンをキャプチャしていけばいいかもしれないわ。」 アスカ「そうね!」 セツナ「おっ、頭いいね。途中から急な斜面が続くから、ロッククライムができるポケモンがいいかもしれないね。」 と、アスカ達のそばをポケモンの一団が通りかかっていた。ゴローニャだ。 アスカ「ゴローニャだわ!」 チヒロ「お姉ちゃん、早速キャプチャしよう!」 セツナ「そうだね!」 一同「キャプチャ・オン!」 アスカ達は一斉にキャプチャ・スタイラーを操って、ゴローニャの一団をキャプチャ・ディスクで囲む。やがて光の輪がゴローニャ達を取り囲み、キャプチャが無事に完了した。 セツナ「ゴローニャ、俺たちをこの山の上まで連れてってくれ!」 ゴローニャはアスカ達を頭上に乗せると、勢いよく斜面を登り始めた。やがて斜面の上に達した。 アスカ「ありがとう、ゴローニャ!」 役割を終えたゴローニャ達はリリースされ、斜面の下に降りていった。 チヒロ「これからは山道が続くんですか?」 セツナ「ああ。いくつか山を越えていくことになるだろう。そして、山を越えてしばらく行くと、謎の神殿があるんだ。この山道もたくさんのポケモンが生息しているから、気を付けた方がいいだろう。」 アスカ・チヒロ「はい!」 山道は、あまり人が入らないのだろう、岩や石がむき出しになっており、ときどき足を取られることも少なくなかった。さらにこれらに混じってイシツブテやゴローンが擬態しているのが紛れており、アスカやチヒロはセツナのアドバイスに従って、これらをキャプチャしながら進んでいくことになった。 それでもしばらく進んでいくと、両脇が高く切り立った崖に出た。崖はほぼ垂直に競り出しており、ポケモンの力を借りなければ容易に登れないのは誰が見ても明らかだった。 アスカ「すごい崖ね・・・。」 チヒロ「あたし達ではとても登れないわね。ポケモン達の力を借りなきゃね。」 セツナ「でも、この崖を登っていかなければ謎の神殿にはたどり着けないよ。」 アスカ「と言うことは、この近辺に生息しているポケモン達に協力してもらうんですね。・・・あ、いたわ!」 ちょうど崖の上空を数匹のポケモンが飛んでいくのが見受けられた。フライゴンの群れだ。 セツナ「あのフライゴンならこの崖の上まで運んでくれるだろう。行くよ!」 一同「キャプチャ・オン!」 アスカ達はキャプチャ・ディスクを上空に向けて放った。ディスクはフライゴンの群れを取り囲み、回りに白い光の輪を作り出した。そして輪はフライゴンに取り込まれていき、キャプチャが完了した。 フライゴンの群れがアスカ達のもとに降り立つ。 アスカ「フライゴン、あたし達をこの崖の上まで乗せていって!お願い!」 フライゴンの群れは大きくうなずき、アスカ達をそれぞれの背中に乗せた。アスカ達が乗ると、3匹のフライゴンは高く飛び上がり、一気に崖の上まで飛んだ。 セツナ「アスカさん、チヒロさん。謎の神殿はあの方向だ!」 セツナはそう言うと、フライゴンを大きく右に旋回させた。 フライゴンはかなり高くまで飛んでいるらしく、ジョウト地方の広い範囲が見渡せた。上空から見ると、両側の切り立った崖がそのまま向こうまで続いており、自然の過酷さを物語っていた。 北西の方向はエンジュシティ。スズの塔が小さく見えていた。東の方向を見ると、雪をかぶったシロガネ山が高くそびえており、麓の方向からコガネシティに向かってリニアが走っていくのが小さく見てとれた。――そして北東の方向、ちょうどチョウジタウンと大絶壁のほぼ中間地点、四方を山に囲まれた窪地に、妙な建造物とおぼしきものがあるのが見えた。かなり小さかったが、あの場所がデオキシスの出現するポイント、謎の神殿と呼ばれている場所だろう。 チヒロ「あれですね。」 セツナ「ああ。あの場所が謎の神殿だ。デオキシスはきっとあの場所にいるに違いない。アスカさん、チヒロさん、準備はいいかい?」 アスカ「はい!」 チヒロ「いつでも大丈夫です!」 セツナ「じゃあ行くよ!フライゴン、あの遺跡に向かって急降下だ!」 セツナ、そしてアスカとチヒロのまたがったフライゴンは、セツナの指示を受けると、謎の神殿を目指して一気に急降下していった。 フライゴンは謎の神殿の入り口に着地した。 アスカ「ありがとう、フライゴン!」 アスカ達は礼を言ってフライゴンをリリースした。 セツナ「さあ、着いたよ。謎の神殿だ。」 セツナが手をさしのべた方向、そこに謎の神殿の入り口が大きく口を開けていた。――いかにも昔栄えた文明の遺跡と言った造りである。 チヒロ「デオキシスはこの奥にいるんですね。」 セツナ「ああ。だけど、デオキシスのもとにたどり着くまではたくさんの罠があると思う。それに、特定のポケモンをキャプチャしないと道が開けないところもあるんだ。もっとも1人ではトラップの関係から、奥までたどり着くことはできない。だけど、俺たちが力を合わせれば、きっとデオキシスと心が通じ合えると思う。ここまで来たなら、後は覚悟して足を踏み入れていくだけだ!」 アスカ「はい!行くわよ、チヒロ!」 チヒロ「うん!お姉ちゃん、デオキシスはきっと分かってくれるわ!」 セツナ「じゃあ、行こう!」 アスカ・チヒロ「はい!」 こうして、アスカ達は謎の神殿の中に足を踏み入れていった。 果たして、内部にある数々のトラップをくぐり抜け、アスカ達は無事にデオキシスのもとにたどり着くことはできるのだろうか。そして、デオキシスをキャプチャすることはできるのだろうか。 (3) アスカ達は、デオキシスを保護するためのミッションを受け、チョウジタウンとキキョウシティの間の山中にある謎の神殿に足を踏み入れていた。 アスカ「かなり昔に造られたみたいですね。」 セツナ「うん。この神殿は、誰が何のために作ったものなのか、いまだにはっきりしていないんだ。だから、ポケモン考古学の間でも、かなりの議論に上っているんだよ。」 チヒロ「そうなんですかぁ。」 と、そこに別の人物の声がした。女性の声だった。 女性「あなた達もこの遺跡を見学しに来たの?」 セツナ「いえ。俺たちはポケモンレンジャーです。この奥にいると言うデオキシスをキャプチャするためにミッションを受けたんです。」 女性「デオキシス?」 アスカ「はい。この神殿にいると言われている、幻のポケモンなんです。」 その瞬間、女性の口元に笑みが浮かんだ気がした。 チヒロ「(?・・・今、デオキシスって言ったとき、変に笑った気がしたけど・・・。)」 女性「まあ。珍しいポケモンを求めているのね。私はフミカ。ポケモン考古学者よ。」 アスカ「あたしはアスカ。そして妹のチヒロ。よろしくね!」 チヒロ「よろしくお願いします!」 セツナ「俺はセツナ。今回はアスカさんとチヒロさんと一緒にミッションを受けているんです。」 フミカ「あなた達も大変ね。私もここに行く途中で何回かデオキシスを見たんだけど、かわいそうだったわ。何かに操られているみたいだったわね。」 アスカ「操られている・・・?」 フミカ「うん、そう言う感じだったわ。この遺跡はかなり昔に建てられたと言われているから、きっと昔の人が残した不思議な力が、デオキシスを操っているのかもしれないわね。」 チヒロ「そうですか・・・。お姉ちゃん、セツナさん、デオキシスが操られているんだったら、早く行ってキャプチャしてあげないと!」 アスカ「そうね。チヒロの言う通りだわ。行きましょう!」 セツナ「フミカさん、アドバイスをありがとうございました!」 フミカ「気を付けてね、レンジャーさん!」 アスカ達の足音はやがて遠ざかっていった。そして聞こえなくなった頃、フミカはアスカ達が向かっていった方向を見つめながら、不敵な笑みを浮かべていた・・・。 神殿の内部は、長い年月をかけて野生のポケモンが住み着いたのだろう、ポッポやイトマルなどが見受けられた。 チヒロ「野生のポケモンですね。」 アスカ「長い年月をかけて、この神殿はたくさんの野生のポケモンが生息している住みかになったんですね。」 セツナ「うん。かつて栄えた文明では重要な役割を果たしていた場所。それも長い年月をかけて、役割は大きく変わっていく。今はこうしてたくさんのポケモン達が生活しているんだ。」 と、行く手にいくつかのスイッチが見えた。――円形になった黄色のスイッチで、踏むと起動する仕組みになっていた。そしてスイッチの向こうは壁で仕切られていた。スイッチを起動させることで奥に進めると言う形になっているのだろう。 セツナ「アスカさん、チヒロさん。このスイッチだ!」 アスカ「確か、2人以上でないと作動しないって言ってたスイッチですね?」 セツナ「その通りだ。試しに踏んでみるよ。」 そう言ってセツナはスイッチを踏んだ。だが、スイッチは黄色いリングの半分が浮かんだだけで、全く反応しなかった。 チヒロ「このスイッチは黄色いリングができないと反応しないんですよね。と言うことは別のところにもスイッチがあるはずだわ。」 セツナ「よく気がつくね。これと同じスイッチがちょうど向こうにもあるんだ。でも俺がスイッチから離れると・・・。」 セツナはそう言ってスイッチから離れた。――次の瞬間、スイッチに浮かんでいた黄色い半円が消え、何の色も出さなくなった。 セツナ「この通り、スイッチが反応しなくなるんだ。それで、2人以上でないと奥に進めないって言う構造になっているんだ。」 アスカ「そう言うことだったんですね。チヒロ、このスイッチ、踏んでごらん!」 チヒロ「うん!」 チヒロはそう言ってスイッチを踏んだ。さっきと同じ、黄色の半円がスイッチの回りを取り囲んだ。 セツナ「じゃあアスカさん、向こうのスイッチも踏んでみてごらん。きっとこの壁の仕掛けが解けると思うよ。」 アスカ「はい!」 アスカがもう1つのスイッチを踏んだ。――次の瞬間、壁の一部が消えたかと思うと、奥に続く通路が現れたではないか。 チヒロ「お姉ちゃん、見て!」 アスカ「壁が消えたわ!これで奥に進めるわね!」 セツナ「さらに奥に進めば、デオキシスもいると思う。アスカさん、チヒロさん、これからは俺も進んだことがないから、どう言った罠が仕掛けられているか、誰も分からないと思う。慎重に進もう!」 アスカ・チヒロ「はい!」 スイッチの謎を解いたアスカ達は、さらに神殿の奥に足を踏み入れていった。 この奥はセツナも入ったことのない区域である。果たして、アスカ達はデオキシスのもとにたどり着くことはできるのだろうか。 (4) セツナの協力のもと、謎の神殿を奥深く進んでいくアスカとチヒロ。スイッチの謎を解いた3人は、現れた通路をさらに奥に向かって進んで行った。 と、行く手に興奮状態のポケモンが待ち構えており、アスカ達の道を塞いでいた。ゴローンとハリテヤマだ。 アスカ「ゴローンだわ!ハリテヤマもいるわ。でもどうしたのかしら。」 チヒロ「我を忘れて暴れているみたいだわ。キャプチャして落ち着かせてあげなきゃ!」 セツナ「そうするべきだけど、興奮しているポケモンをキャプチャするときはかなり注意した方がいいよ!」 アスカ「えっ、どうしてですか?」 セツナ「興奮しているときは、いつも以上に気持ちが伝わりにくいんだ。だから、キャプチャできるまで時間がかかりやすいんだ。もちろん、興奮しているからポケモンの攻撃も受けやすい。ディスクのダメージにも気を付けるんだ!」 チヒロ「分かったわ!じゃあ行くよ、お姉ちゃん!」 アスカ「うん!」 一同「キャプチャ・オン!」 アスカ達が一斉にキャプチャ・ディスクを放ち、キャプチャを始めた。 野生のゴローンとハリテヤマはかなり興奮しているのか、ディスクに向かっていわおとしやかわらわりを繰り出しており、その度ごとに上手くスタイラーを操らなければならなかった。 キャプチャ・ディスクはその性質上キャプチャ・スタイラーと連動しており、一定以上のダメージを受けてしまうとディスクは壊れてしまう。そうするとスタイラーにディスクを戻すことができなくなり、スタイラーの破損に繋がってしまうのだった。 アスカ「えいっ!やあっ!」 それでもしばらく囲み続けていくと、ゴローンとハリテヤマは緊張状態が解け、攻撃も収まった。さらに囲んでいくと、ようやく白い光の輪に取り囲まれ、そして輪は体内に取り込まれていった。 キャプチャしたゴローンとハリテヤマは落ち着きを取り戻したのか、静かに去っていった。 セツナ「ゴローンとハリテヤマも落ち着いたみたいだね。」 チヒロ「そうね。でもまだデオキシスのいるところまではかなりありそうね。気を付けていきましょう!」 アスカ「うん!」 なおもしばらく行くと、さっきと同じ、複数のスイッチが行く手を阻むところに現れた。ここも同じ手順を踏めば奥に進めるだろう。 セツナ「アスカさん、チヒロさん。さっきと同じ形で2つのスイッチを踏めば奥に進める。やってごらん!」 アスカ「分かったわ!チヒロ、行くわよ!」 チヒロ「うん!」 アスカとチヒロはスイッチの上に乗った。すると、半円がそれぞれのスイッチに現れたかと思うと、壁が取り払われ、奥に続く道が現れた。 セツナ「まだ奥に道があるみたいだね。行ってみよう!」 アスカ「はい!」 3人が通路の奥に進んだ、ちょうどそのときだった。 チヒロ「あっ・・・!」 アスカ「チヒロ、どうしたの!?」 チヒロ「キュウコンが・・・。」 セツナ「キュウコン?キュウコンがどうしたんだい?」 チヒロ「この奥はキュウコンをキャプチャしないと、進めないよ・・・。」 アスカ「(いつものチヒロの声じゃないわ。)これは神殿を造った古代の人が、テレパシーで呼び掛けてるんだわ!」 セツナ「テレパシー!?・・・そう言えば、さっきまでのチヒロさんの声と全然違うな。とにかく、この奥に進むためにはキュウコンをキャプチャしないといけないみたいだ。」 チヒロ「5匹・・・。」 チヒロはなおもうわ言を呟いている。 アスカ「5匹!?キュウコンを5匹キャプチャすればいいのね?」 チヒロ「5匹捕まえて・・・。そうすれば神殿の守り神に会える・・・。」 そう言うと、チヒロはぐったりとうなだれてしまった。 アスカ「チヒロ!しっかりして!」 セツナ「チヒロさん!」 だがチヒロは、次の瞬間何事もなかったかと言う表情で起き上がったではないか。 チヒロ「はっ?お姉ちゃん?それにセツナさん・・・?」 アスカ「よかったわ。気がついたのね!」 セツナ「チヒロさん、急にぐったりしたかと思うと、うわ言で確か、『キュウコンを5匹キャプチャして』と言っていたんだ。大丈夫だったか?」 チヒロ「うん、大丈夫。きっとキュウコンを5匹キャプチャできれば、デオキシスのいる場所に行けるのね。」 アスカ「チヒロ、あまり無理しないでね。」 チヒロ「あたしは大丈夫。さあ、行きましょう!」 セツナ「うん!」 通路を抜けると、そこは大広間とおぼしき広い空間だった。 この広い部屋もポケモン達が居住しているのだろう、ボスゴドラやコドラ、ココドラの群れが闊歩していた。そしてそれに混じって、数匹のキュウコンが広間を縦横無尽に走り回っていた。 セツナ「あのキュウコン、何て言う素早さだ。・・・ここは1匹ずつ、3方向から挟み撃ちでキャプチャすることにしよう!」 チヒロ「うん!」 アスカ「行きましょう!」 アスカ達はキュウコンのキャプチャに取りかかった。だがキュウコンは予想以上に素早く、キャプチャ・ディスクで囲った輪をいとも簡単に突き破ってしまった。ディスクが触れたときとは違い、輪を突き破っただけではスタイラーにダメージはないものの、それでもキャプチャするだけで一苦労だった。 だが、アスカ達3人のチームワークが効を奏したのか、1匹、2匹とキャプチャに成功、ついに最後の1匹を追い詰めるまでとなった。 セツナ「これで最後の1匹だ!油断するな!」 アスカ・チヒロ「はい!」 アスカ達は最後に残ったキュウコンのキャプチャに入った。 キュウコンは素早い行動でアスカ達のキャプチャを翻弄する。 チヒロ「早いわ!この1匹、他のと比べて素早い身のこなしね!」 セツナ「きっとこのキュウコンは、この神殿のキュウコンのリーダーだろう。気を付けるんだ。こいつは強い!」 アスカ「分かったわ!」 アスカ達はキュウコンの素早さに翻弄されながらも、行動を見極めつつキュウコンを囲んでいく。しばらくすると、キュウコンを白い光の輪が取り囲み、やがて輪は体内に取り込まれていった。キャプチャ成功だ。 セツナ「やったな!」 アスカ「うん!さあ、後はデオキシスのもとに行くだけね!」 チヒロ「あれだわ!」 チヒロはそう言って、キャプチャ・スタイラーで1つの方向を指した。――そこには赤く光る階段が現れており、それを登っていくといよいよデオキシスのいる場所にたどり着くのだろう。 セツナ「あれを上っていけばデオキシスのいるところだ。アスカさん、チヒロさん。デオキシスはさっきまでのキュウコンやほかのポケモンとは格段に違う。心してキャプチャするんだ!」 アスカ・チヒロ「はい!」 アスカ達は赤い階段を上っていった。 そこは、謎の神殿の中でも一番奥とみられる場所だった。そしてデオキシスは、アスカ達が到着するのを、まるで待ち構えている様子ともとれる表情を浮かべていた。 アスカ「このポケモンがデオキシスね・・・。」 チヒロ「4つのフォルムに姿を変えるって聞いたことがあるわ。以前カントー地方でデオキシスが現れたときは、ノーマルフォルムになったときでないとキャプチャできなかったっていう報告があるわ。だけど、今回はどうかしら。」 セツナ「それは俺も聞いた。アタック、ディフェンス、スピードの3つのフォルム、そしてノーマルフォルム。どのタイミングでキャプチャするかが問題だろう。行こう!」 と、そこに別の女性の声が響いた。さっき入り口のところにいた、ポケモン考古学者のフミカだ。 フミカ「デオキシスね。もとは宇宙からやってきたポケモンと言われているわね。」 一同「フミカさん!」 フミカ「あなた達が気になって、奥に進んでみたの。いよいよデオキシスのキャプチャに取り組むのね。しっかりキャプチャしてね!」 アスカ「はい!」 チヒロ「行くよ、お姉ちゃん!」 セツナ「準備はできたかい?じゃあ!」 一同「キャプチャ・オン!」 アスカ達のキャプチャ・スタイラーから、一斉にキャプチャ・ディスクが放たれた。 デオキシスは、以前の報告ではノーマルフォルムのとき以外はキャプチャを受け付けなかったと言うが、今回はどうなるのだろうか。果たして、アスカ達は無事にデオキシスをキャプチャすることはできるのだろうか。 (5) 謎の神殿の最奥部。そこにいたのは、4つのフォルムに姿を変える幻のポケモン・デオキシスだった。アスカ達はこのデオキシスを保護するためのミッションを受けていたのである。そして、いよいよキャプチャに取りかかることになった。 アスカ「えいっ!やあっ!」 チヒロ「お願い!」 セツナ「俺たちの言うことを聞いてくれ!」 アスカ達はキャプチャ・スタイラーでキャプチャ・ディスクを操り、デオキシスを取り囲んでいくが、さすがは幻のポケモンと言われるだけのこと、生半可に囲んでいるだけではなかなかキャプチャできない。そしてデオキシスは胸の水晶体から強烈なビームを発射した。 アスカ「ビームだわ!」 黒いビームは次の瞬間チヒロのキャプチャ・ディスクに命中、スタイラーがダメージを受けた。 チヒロ「スタイラーが!」 セツナ「今のビームはかなり手強いな。おや?」 セツナが言っている間にデオキシスはディフェンスフォルムに姿を変え、自らを光のシールドで身を包んだ。しかもシールドからアスカ達に向かって光線が放たれる。もちろんこの光線をまともに受ければディスク、そしてスタイラーにもダメージが行きかねない。 チヒロ「気をつけて!ディフェンスフォルムは守りに入っているけど、だからといって攻撃しないわけではないわ!」 アスカ「分かってるわ。セツナさん、気をつけてね!」 さらに今度はスピードフォルムに姿を変える。と、次の瞬間デオキシスを囲っていた3人のディスクがはね飛ばされ、スタイラーもダメージを受けたではないか。 セツナ「何が起きたんだ!?」 それはデオキシスが周囲に作り出した影、「デオキシス・シャドー」だった。ちょうどディスクで囲っていたところに1つずつ現れており、その数はなおも増えていく。 セツナ「これでは手が出せない!」 チヒロ「あの影が消えるまで待つ以外に道はないわね。」 アスカ「そうね。」 しばらくすると影は消え、デオキシスはアタックフォルムに姿を変えた。するとデオキシスは強力な球を放ってアスカ達に襲いかかった。 アスカ「あれはサイコブーストだわ!」 チヒロ「エスパータイプでは最強の威力を誇る技ね。あれをまともに受けたらディスクはひとたまりもないわ。気をつけよう!」 セツナ「また姿が変わる!」 デオキシスはアタックフォルムからディフェンスフォルムに姿を変え、再びバリアで覆われた。 アスカ達もさっきのビームに気をつけながら取り囲んでいくが、やはりディフェンスフォルムではキャプチャの効果が薄いのか、光の輪はなかなか現れない。そうこうしているうちに今度はノーマルフォルムにチェンジ、水晶体から黒いビームを放ってアスカ達に襲いかかった。 セツナ「これは厳しいな。・・・アスカさん、チヒロさん。君たちは『コンバイン・キャプチャ』って知ってるか?」 アスカ「コンバイン・キャプチャ?」 セツナ「ああ。3人以上でキャプチャするとき、ある1点にキャプチャ・ディスクを置いてチャージしておくんだ。そうすると、キャプチャ・ディスクを置いていたところが白く光る。後は順に白い点を結んでいけば、通常のキャプチャと比べてとても気持ちが伝わりやすい、コンバイン・キャプチャができるんだ。」 チヒロ「3人でやるときは3点を、4人でやるときは4点を結んでいけばいいって言うことですね?」 セツナ「ああ。ちょうど今回は三角形を作る格好になる。そしてその三角形の中にうまくデオキシスが入れば、一気に気持ちが伝わるはずだ。やってみよう!」 アスカ「はい!」 アスカはそう言うとデオキシスの右斜め前のところにキャプチャ・ディスクを放ち、チャージの効果で白い光を発光させた。続いてチヒロが左斜め前、そしてセツナが真後ろにディスクを放って光を出す。 セツナ「準備はいいかい?」 アスカ「はい!」 チヒロ「デオキシスが攻撃に入らないうちに!」 一同「コンバイン・キャプチャ!トライアングル・フォーメーション!」 アスカはチヒロのディスクに、チヒロはセツナのディスクに、そしてセツナはアスカのディスクをめがけてラインを引っ張った。――その瞬間、デオキシスの周りに出来上がった三角形から黄色い光が放たれ、デオキシスを包んだ。 セツナ「やったか!?」 だがデオキシスは光が消えたかと思うと、すぐにフォルムチェンジしてディフェンスフォルムになった。そしてさっきと同じくバリアを張り、ビームを発射してアスカ達に攻撃をかけたではないか。 アスカ「まだ伝わらないの!?」 チヒロ「お姉ちゃん、もう1回やってみよう!」 セツナ「ああ!」 アスカ達は再びコンバイン・キャプチャの体制に入る。だがチャージをかけたその瞬間、デオキシスはスピードフォルムにチェンジしたかと思うと、デオキシス・シャドーを繰り出してキャプチャ・ディスクを弾いてしまった。 チヒロ「だめだわ!」 セツナ「影がいるときはうかつに手出しができない。アスカさん、チヒロさん、デオキシスの影が消えたときを狙って、もう1回コンバイン・キャプチャだ!」 アスカ「分かったわ!」 やがてデオキシス・シャドーは姿を消して、デオキシスは再びノーマルフォルムに戻った。キャプチャするなら今がチャンスだ。 アスカ「今度こそお願い!」 チヒロ「あたし達はあなたを守りたいの!」 セツナ「俺たちの言うことを聞いてくれ!」 一同「コンバイン・キャプチャ!トライアングル・フォーメーション!」 アスカ達はもう一度コンバイン・キャプチャに取りかかった。チャージしたディスクに向かってラインを引く。――そして再びデオキシスは三角形の中に取り込まれたかと思うと、黄色い光に包み込まれた。 セツナ「今だ!しっかりと囲むんだ!」 アスカ達は今度こそとばかりにデオキシスをキャプチャ・ディスクで取り囲む。そしてデオキシスを白い光の輪が包み込んだかと思うと、輪は体内に取り込まれ、辺りに静寂が広がった。キャプチャ成功だ。 アスカ「やったわね!」 チヒロ「うん!」 セツナ「俺たち、デオキシスをキャプチャしたんだ!」 アスカ「きっとフミカさんも喜んでると思うわ。・・・あら?フミカさんは?」 アスカが辺りを見回すが、すでにフミカの姿はどこにもいなかった。 チヒロ「不思議ね。キャプチャしたのを見届けないで姿を消してしまうなんて。でもキャプチャできたことだし、ミッションクリアね!」 セツナ「ああ!」 程なくして、謎の神殿にレンジャーユニオンの輸送機が到着した。 アスカ達が敬礼の姿勢をとると、中からアツシが現れ、デオキシスを見つめて言った。 アツシ「このポケモンがデオキシスか。3人とも、キャプチャするのに大変苦労したことだろう。」 アスカ「はい。」 チヒロ「なかなか気持ちが伝わらなくて、とても大変でした。」 セツナ「でも、デオキシスはキャプチャしたとき、俺たちに向かって、『ありがとう』って言っていた気がしたんです。」 アツシ「そうか。今回の働き、実に見事だった。私から言わせてもらおう。ミッションクリアだ!」 アスカ「ありがとうございます!」 チヒロ「やったね、お姉ちゃん!」 セツナ「また1つ、大きな責任を果たすことができた。これもみんなアスカさんとチヒロさんのおかげだ!俺からも礼を言わせてもらう。本当にありがとう!」 アスカ「あたし達の方こそ、本当にありがとうございました。また一緒にミッションに取り組みたいですね!」 チヒロ「また3人でミッションに挑戦しましょう!」 セツナ「ああ!」 アスカ達が見守る中、デオキシスはしっかりと保護され、ユニオンの輸送機に乗せられた。輸送機が向かうのはアルミア地方にあるレンジャーユニオン本部。宇宙からやってきたというデオキシスの謎を探るべく、研究が始められるのだという。 アツシ「これからもたくさんのポケモン達と一緒に、平和を守るために活動して欲しい!またミッションが入ったら、そのときは連絡することにしよう!」 アスカ「ありがとうございます!アツシさん、デオキシスのこと、よろしくお願いします!」 アツシとデオキシスを乗せた輸送機は、遠い空の彼方、アルミア地方に向かって飛び立っていった。 アスカ達は、輸送機が見えなくなるまで手を振り続けていた。やがて輸送機が見えなくなると、セツナのスタイラーに通信が入った。 セツナ「はい、セツナです。・・・はい。えっ?ロケット団とみられる一団がアルフの遺跡の謎を解こうとしている?・・・新しいミッションですね!」 通信を切ると、セツナはアスカとチヒロの方を向いて言った。 セツナ「俺は新しいミッションを受けた。だから、アスカさんやチヒロさんとはここでお別れだ。」 アスカ「新しいミッションですね。セツナさん、あたし達も応援してます!」 チヒロ「またよろしくお願いしますね!」 セツナ「ああ!」 こうして、アスカ達の活躍の結果、謎の神殿のデオキシスは無事に保護できたのだった。だが、これはポケモンと人間のお話の、ごく一部に過ぎない。まだ知らない、たくさんの出来事が、身近で起きているのだ。 これは、ポケモンと共に生活している者達になら、誰にでも起こりうる物語である。 一方・・・。 女「申し訳ありませんでした。まさかポケモンレンジャーの邪魔が入ってしまうとは・・・。」 男「そうか。だが次はアルフの遺跡だ。ここも私たちが探し求めている古代の遺跡の1つだ。今度はしくじるなよ。お前の幹部としての腕を見込んで頼んでいるのだ。」 女「分かりました。」 どことなく薄暗い部屋。そこで男女の会話がなされていた。男はいかにもという感じの不気味な眼光を放つ。そして、その男と会話を交わすその女の顔。それはどことなくフミカに似ていたのだった・・・。 <このお話の履歴> 2010年9月5日、ポケモン小説スクエア・小説投稿システムに掲載。