SpecialEpisode-6『もう1つのバトルチャンピオンシップス!』 (1) カントー地方の南にある、7つの主な島とその回りにある無数の島々から成り立っている地方・ナナシマ。それまでポケモンリーグやポケモンコンテストも行われていなかったこの地方が、初めて行われたバトルとコンテストの大イベントに盛り上がった。「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」である。 ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、7のしまにあるトレーナータワーをメイン会場に、周囲に配置されたバトル大会とコンテスト大会の会場が舞台となり、マサト達を始め、たくさんのトレーナーやコーディネーターによる息詰まる熱戦、そして華麗なる演技が繰り広げられ、大成功のうちに幕を下ろすことができた。そして閉会式において、ポケモンリーグのケロ会長はナナシマリーグの設立を宣言、トモヤを始めとする5人のトレーナーがジムリーダーに選ばれたのだった。 そして、バトル大会ではミキ、コンテスト大会ではユカリが優勝、マサト達もバトル大会決勝トーナメントやコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに揃って進出、優秀な成績を収めたのだった。 しかし、バトルチャンピオンシップスを成功に導くまでには、裏で多くの人が働いていたのである。そして、マサト達の知らないところで、いくつもの名勝負が生まれ、あまたのトレーナーやコーディネーターがバトルを繰り広げていたのである。 このお話は、そのナナシマ・バトルチャンピオンシップス、大成功の裏で繰り広げられた、もう1つの物語である。 (2) 〜挿入歌:『Together(2007バージョン)』が流れる〜 広報部長「ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに、ゲスト解説として実況の横でアシスタントを務めてもらいたいのです。」 ルリカ「はい、わかりました。私に是非、ゲスト解説者として参加させてください!」 広報部長から直々にゲスト解説を要請されたこの女性。衣装は膝まであるスカートと一体になった水色のキャミソールを身にまとっており、胸のリングから出ている肩紐を首の後ろで結んでいるスタイルだった。彼女こそが、ジョウトリーグ四天王にしてくさポケモンの使い手・ルリカである。 ルリカ「私はルリカ。くさタイプを使うジョウトリーグの四天王。今回、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスにバトル大会のゲスト解説として招かれたの。それで、ナナシマに足を運ぶことになったんだけど、ナナシマに眠っていた特別な宝石、ダイヤモンド・パール・プラチナをめぐるネイス神殿の戦いに巻き込まれたの。それで、7のしまに入ったのは、もうすぐバトルチャンピオンシップスが開幕する日のことだったわ。」 ルリカの説明に合わせて、ルリカ自身がマサト達に協力して特別な宝石をロケット団から守り抜いたネイス神殿の激闘、そして1のしまのネットワークマシンの完成のときの描写が写し出される。そしてルリカは7のしまの港でマサト達と別れ、一足早く現地入りしたのだった。 ルリカ「(ここがバトルチャンピオンシップスの会場ね。設備もよく整ってるし、いいバトルが期待できそうね。今から楽しみだわ。)」 ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのメイン会場となるトレーナータワーは、「タイムアタックバトル」と言う、トレーナー達とバトルしながらどれだけ短い時間で屋上までたどり着けるかを競う競技が繰り広げられることで知られていた。バトルチャンピオンシップスの期間中はタイムアタックバトルの受付は中止となっており、間近に迫った開催に向けて大忙しとなっていた。 ルリカがゲスト解説を務めるバトル大会、そしてトップコーディネーターのソウスケがゲスト解説を務めるコンテスト大会。その実況席はこのトレーナータワーの屋上に特設スタジオが設けられることになっており、ここから全国に向かって試合の模様が中継されるのだった。 さすがにメイン会場と言うこともあり、警備員が至るところに配置されている。ルリカも入るときに身分証明を求められた。 警備員「お名前とご用件をお願いします。」 ルリカ「私はルリカ。ナナシマ・バトルチャンピオンシップスのバトル大会で、ゲスト解説を務めさせていただくものです。」 警備員「ジョウトリーグのルリカさんですね。どうぞ。」 警備員に案内されて、ルリカはトレーナータワーの入り口に立った。 ルリカ「(いよいよね。実況の方も大変だけど、ゲスト解説はトレーナーやポケモンの心理を理解していないと務まらない、大切な役だわ。だから、緊張なんてしていられないわ。)」 入り口の自動ドアをくぐると、腕章をはめたテレビのスタッフが声をかけてきた。テレビカントーをキー局としており、シンオウ地方のテレビコトブキと同じ系列局であるナナシマレインボーテレビのスタッフだった。 テレビクルー「ジョウトリーグのルリカさんですね?」 ルリカ「はい。私はルリカと申します。これからよろしくお願いします。」 テレビクルー「こちらこそよろしくお願いします。まず、打ち合わせは屋上のスタジオで行われますので、早速行ってみてはいかがでしょうか。スタジオまでは私が案内いたします。」 ルリカ「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきますね。」 そしてルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上っていった。 階段を昇る度に実況席や解説席が一歩ずつ近くなっていく。果たして、ルリカはこの大役を無事に務め上げることができるのだろうか。 (3) ルリカはテレビクルーに連れられて、トレーナータワーを上に登っていった。本当ならエレベーターを使ってもよかったのだが、トレーナータワーの内部の様子を見てみたいと言うルリカの要望をクルーが受け入れたのである。 テレビクルー「普段はタイムアタックバトルで賑わっていまして、たくさんのトレーナーがどれだけ早く屋上まで行けるかを競っているんですよ。」 ルリカ「そうですね。通路は曲がっていて、まっすぐに進みにくくなっていますし、さらにどこからトレーナーが現れるかも分かりませんからね。不馴れなトレーナーですといきなりのバトルで戸惑うかもしれないですね。」 テレビクルー「そうですね。ですが、ここに何度も参加していくとどこで誰がどう言うポケモンを使うか、そしてどう言ったパターンで現れるかと言うのを熟知している人も多くなります。トレーナーやポケモンの体力にも左右されますが、早い人では1時間半か2時間で上まで到着するそうですよ。」 ルリカ「そうなんですかぁ。今度機会がありましたら、私も是非挑戦してみたいですね。」 テレビクルー「そのときは特別番組でも製作しましょうか?『四天王ルリカ、トレーナータワーに挑む!』と言う感じで。」 ルリカ「うふふ・・・。」 テレビクルー「とまあ、内部はこういう感じになっているんです。似た施設はホウエン地方にもありまして、キンセツシティの郊外にトレーナーヒルと言う建物があるんです。そこでもここと大体同じ、タイムアタックバトルが行われているんです。」 ルリカ「トレーナーヒルですね。私もかつてホウエンを回ったことがあるんですが、そのときはまだありませんでしたね。バトルやコンテストと、いろんなことに挑戦していくことで、人とポケモンは仲良く共存しているんですね。」 テレビクルー「そうですね。あ、ルリカさん、ホウエンを回ったって言うのは、確かホウエンリーグで優勝されたときでしたね。」 ルリカ「そうです。2年前のことになりますけど、ラルースシティで行われたときでした。でも私も、まだレベルとしては自分でも満足するところまでは行っていないと思うんです。それで、ホウエンのチャンピオンリーグは挑戦しないで、ジョウトに行ったんです。」 テレビクルー「そうだったんですか。カントーからホウエン、そしてジョウトを渡り歩いた実力。それが認められて、ジョウトリーグの四天王に選ばれたんですね。」 ルリカ「はい。でも四天王に選ばれたからと言って、更なる高みに向かう挑戦は終わらないと思うんです。だから、この前ワタルさんを相手にチャンピオン防衛戦に挑んだんですけど・・・。」 テレビクルー「いえ、あのときもルリカさんはいいバトルを見せていましたよ。きっとルリカさんでしたら、ワタルさんにも勝てる実力をつけられると思います。」 ルリカ「ありがとうございます。」 タワーを上まで登っていくと、やがて屋上の広場に出た。広場は展望台を兼ねており、バトルチャンピオンシップスの会場から7のしまの市街地、そしてしっぽうけいこくまでを見渡すことができた。また、目立つところに電光掲示板が1台設置されており、普段は受付からここまでの所要時間が表示される。今回はバトルチャンピオンシップスを間近に控えていると言うこともあり、「Welcome――ナナシマ・バトルチャンピオンシップス」と言う表示がなされていた。 テレビクルー「スタジオはここになります。」 クルーはそう言って、特設スタジオを手で指し示した。――「ナナシマ・バトルチャンピオンシップス、報道席」と書かれた貼り紙が貼られており、一般客が多く訪れることを考慮してか、「関係者以外立入禁止」と言う貼り紙もなされていた。 そして四天王を務めているルリカのこと、名前はナナシマにも知れ渡っているのだろう、子供達がルリカの姿を見つけるや否や声をかけてきた。 子供達にとって四天王は憧れの的。そしてルリカも子供達が大好きなのである。 子供A「あ、ルリカさんだ!」 子供B「すごーい!本物だ!」 子供C「きれいでかっこいい!」 ルリカ「うふふっ。みんなありがとうね。お姉ちゃん、バトル大会で解説として実況のお兄さんの横に座るのよ。」 子供A「解説をするの?すごーい!」 ルリカ「今回のバトルチャンピオンシップスは、たくさんのお兄さんやお姉さんがバトルやコンテストに参加するのよ。お姉ちゃんはその中のバトル大会って言う方で解説をするの。ポケモンやトレーナーの心を理解してないとできない仕事なのよ。」 子供B「大変だね。でもお姉ちゃんだったらきっとできると思うよ!」 ルリカ「ありがとう。お姉ちゃんも解説としてしっかり参加するわ。みんなも応援してね!」 子供C「うん!僕、大きくなったらルリカさんみたいな強くて優しいトレーナーになる!」 ルリカ「ありがとう!」 その光景を見ながら、クルーはこう思っていた。 テレビクルー「(ルリカさんは子供が大好きなんですね。私も子供の頃はああやって強くて優しいトレーナーに憧れていましたっけ・・・。)」 子供達と別れたルリカは、実況席の特設スタジオの扉を開けた。 テレビクルー「あ!お待たせしました、ルリカさん。早速ですが、これから打ち合わせに入りたいと思います。では、実況とゲスト解説の皆さん、自己紹介を。」 イチロウ「私はイチロウと申します。ご存じかもしれませんが、テレビカントーのアナウンサーとして色々な番組を担当させていただいております。今回、バトルチャンピオンシップス、バトル大会の実況を務めさせていただくと言うことで、観客の皆さま方、そして全国の視聴者の心に残る実況ができればと思っています。よろしくお願いします。」 シンイチ「私はシンイチです。イチロウさんと同じく、テレビカントーのアナウンサーを務めておりますので、色々な番組で見かけたこともあるかと思います。私は今回、コンテスト大会の実況を務めさせていただくことになりました。ポケモン達の華麗な演技、それをいかにして全国の視聴者の皆様にお届けするか、大変重要な役割を仰せつかった訳であります。皆さん、是非よろしくお願いします。」 ルリカ「初めまして。私はジョウトリーグ四天王のルリカと申します。いつもは挑戦者を迎える立場にある私ですが、今回、イチロウさんの横でゲスト解説として参加させていただくことになりました。たくさんのトレーナーたちが繰り広げる激戦。それを全国の視聴者の皆さま方にお届けする重要な役割だと思っています。どうぞよろしくお願い致します。」 ソウスケ「初めまして。私はソウスケと言います。トップコーディネーターとして活動している傍ら、今回コンテスト大会のゲスト解説と言う大役をこうして任されたわけですが、多くのコーディネーターが演技を繰り広げるなかで、シンイチさんの実況をいかにして足を引っ張らずに解説ができるか、まだ不安だらけですが、皆さん、全国の皆さま方に印象に残る解説をお届けしたいと思います。ではどうぞよろしくお願いします。」 テレビクルー「皆さん、どうもありがとうございました。私もご高名なアナウンサーのお二方にポケモンリーグの四天王、そしてトップコーディネーターと言うそうそうたる顔ぶれをお迎えして、ますます身が引き締まる思いがします。ではよろしくお願いします!」 一同「はい。」 テレビクルー「では早速リハーサルに入りたいと思います。まずはイチロウさんとルリカさん、よろしくお願いします。」 クルーはそう言って、モニターに見本の映像を写し出した。――3年前のシンオウリーグ・スズラン大会準決勝、あのサトシがタクトとバトルしたときの様子が写し出された。 画面はサトシのジュカインがタクトのダークライと互角以上の勝負を繰り広げている場面だった。 イチロウ「ジュカイン、ダークライのダークホールで眠らされている!しかもゆめくいが襲いかかる!」 そこにサトシの呼び掛けが通じ、ジュカインが目を覚ました。さらにジュカインはリーフブレードでダークライを攻撃、大会を通じて唯一ダークライに黒星を付けたのだった。 イチロウ「ダークライ、戦闘不能!サトシ選手、タクト選手のダークライに初めて黒星を付けました!」 ルリカ「ダークライの特性はナイトメア。眠っている相手の体力を減らす特性です。ですがそれを打ち破るほどのポケモン達との絆。サトシ選手は本当にポケモン達との絆が深いですね。」 テレビクルー「はい、そこまでです。初めてにしてはなかなか上手でしたね。」 イチロウ「こうやってポケモンとトレーナーの心情を理解していないとゲスト解説は務まらないのです。でもルリカさん、あなたならきっと大丈夫です。是非よろしくお願いします!」 ルリカ「ありがとうございます!私の方こそよろしくお願いします!」 リハーサルも上手くこなすことができたルリカ。ゲスト解説としての仕事はいよいよこれから本番を迎えるのだった。 (4) ナナシマ・バトルチャンピオンシップスは、バトル大会で2000名、コンテスト大会でも1500名を越すトレーナーやコーディネーターが参加した一大イベントだった。 次々と行われる試合、そして演技に、実況アナウンサーやゲスト解説も忙しく対応しながらも、それでいて中身の濃い体験をすることができた。 中でも試合が昼の休憩に入るとき、そして1日の試合がすべて終了した後はスタッフ一同で楽しく食事をとる時間となっており、日替わりでいろいろな弁当が支給されたのだった。 それは大会初日、ちょうどユカリがコンテスト大会二次審査・コンテストバトルに駒を進めた夜のことである。この日の夕食として支給される弁当はシウマイ(※1)をメインに、卵焼きや唐揚げ、かまぼこ、竹の子の煮物、魚の照り焼き、昆布、漬け物、あんずが入っていた。業者も栄養面に配慮してか、ヘルシーな組み合わせとなっていた。 だが、業者と担当スタッフがやりとりしたとき、どういう訳か8食分の弁当が余計に注文されたのだった。昼食のときの弁当は誤発注はなかったのだが、これは一体どうしたことなのだろう。 放送スタッフ「(どうしよう・・・。8個も余計に注文されている。イチロウさん、シンイチさん、ルリカさん、ソウスケさんの分、そしてうちらの分。おかしいなぁ。どう考えても8個余ってしまうんだよなぁ・・・。)」 スタッフは8個分が上乗せされた弁当が入った袋を抱えてスタジオのドアを開けた。 放送スタッフ「皆さん、今日の晩ご飯が届きました。」 イチロウ「おっ、晩ご飯ですね。」 ルリカ「美味しそうですね。ここまでいいにおいが漂ってきます。」 シンイチ「にしても、ちょっと多い気がするのは気のせいではないでしょうか?」 放送スタッフ「(まさかとは思いたいけど・・・。)たぶん気のせいだと思いますよ。さあ、早く食べましょう。冷めてしまいますよ。」 ソウスケ「そうですね。ところで今晩のは何でしょうか?」 放送スタッフ「シウマイです。ほかに唐揚げや卵焼きなどおかずもいろいろ入っています。それにあんずも入っているんです。」 ルリカ「結構たくさん入っているんですね。皆さん、早く頂きましょう!」 放送スタッフ「そうですね。それでは皆さん、どうぞお召し上がりください!」 一同「いただきます!」 だが案の定、放送スタッフの予感は的中していた。誰のものでもない弁当が8個、袋の中に残ってしまったのである。 イチロウ「あれ?お弁当、余っちゃいましたね・・・。」 ルリカ「そうですね。ほかの皆さんは、もう召し上がったんですよね。」 スタッフ全員で文字通り美味しく頂いた弁当。だが8個分が余計に注文されたのだろう、手つかずのまま残っている。 シンイチ「もしかしたら誤発注の可能性もあるかもしれないですね。確認してみます。」 そう言うとシンイチは電話のところに向かい、注文を担当したスタッフに聞いてみることにした。 シンイチ「実況席のシンイチです。いつもお世話になっております。・・・今晩の弁当なのですが、どうも発注ミスでも起きたのでしょうか、8個余ってしまったんです。ちょっと確認して頂けないでしょうか?」 注文担当スタッフ「分かりました。ちょっと調べてみますね。」 電話の向こうでキーボードを叩く音がした。どうやらスタッフも発注ミスの原因について調べているとみて良さそうである。 注文担当スタッフ「これは・・・?」 シンイチ「どうかしましたか?」 注文担当スタッフ「はい。やっぱり私の方のミスでした。注文するとき、32個って誤って送信してしまっていたんです。私を入れて24人のはずなのに、おかしいとは思っていたのですが、恐らくはキーボードの打ち間違えだと思います。」 シンイチ「差額は私達で負担いたします。それにしてもこの弁当、どうしましょう?」 注文担当スタッフ「今更返品もできないですよね。したらしたで『食べ物を粗末にするな!』って言われるのがおちですので・・・。」 シンイチ「そうですね。どうもありがとうございました。」 そう言ってシンイチは電話を切った。 シンイチ「・・・確認してみたところ、どうやら担当した側の発注ミスでして、8個余計に発注してしまったそうです。今更返品するわけにもいきませんし・・・。」 ルリカ「(8個ね・・・。)」 8個。それはちょうど8人分である。これを見てルリカはふとひらめいた。 ルリカ「(このまま食べ物を粗末にするわけにもいかないわ。そうだ。マサト君達にも食べさせてあげたいわ。マサト君、コトミちゃん、トモヤさん、ミキさん、ユカリさん、レイカちゃん、サヤカさん、そしてケイコさん。8人分ぴったりあるわね。)」 そしてこう切り出したのである。 ルリカ「あ、じゃあ余ったお弁当、私が頂いていいですか?」 ソウスケ「えっ?ルリカさんが?」 ソウスケは驚いた表情でルリカを見た。 ルリカ「知り合いに差し入れとして持って行こうかと思いまして。よろしいですか?」 シンイチ「ええ。構いませんよ。」 ルリカ「ありがとうございます。では行ってきます。」 イチロウ「はい。」 余ったままの弁当。腐らせてしまうのはあまりにももったいない。食べ物を粗末にしないためにも、知り合いに食べさせた方がいいのだろう。それに味もよく整っており、知り合いも喜んでくれるだろう。イチロウ、シンイチ、ソウスケを始め、ほかの放送スタッフも同じことを考えていた。 そしてルリカは弁当を持って放送席を出て行った。――その後ろ姿を見て、スタッフの1人はこう呟いていた。 放送スタッフ「ルリカさん、優しいんだね・・・。」 そしてこのことが、かえってスタッフと業者の間に親密な関係を築き上げたのである。それにふさわしい出来事が、いよいよバトル大会決勝トーナメント決勝戦、そしてコンテスト大会二次審査・コンテストバトルファイナルを迎えた日に起きたのだった。 この日の弁当は誤発注もなく、無事に発注できたのだが、発注が終わるとルリカは弁当の発注を担当するスタッフの元を訪れたのである。 ルリカ「失礼します。」 注文担当スタッフ「おや、ルリカさん。ここまで足を運ぶとは珍しい。どう言ったご用件で?」 ルリカ「はい。私達実況の関係者向けの弁当とは別に、特注のお弁当を発注して欲しいのです。」 注文担当スタッフ「へぇ。特注のお弁当を、わざわざ発注してもらいたいとは。早速業者の方に聞いてみます。ルリカさんもどうぞ。」 ルリカ「よろしくお願いします。」 注文のスタッフは弁当を製造する業者に連絡を取った。 注文担当スタッフ「いつもお世話になっております。ナナシマ・バトルチャンピオンシップス実行委員会・放送担当です。」 弁当業者「こちらこそお世話になっております。お弁当の注文、承りました。」 ルリカ「初めまして。私はバトル大会でゲスト解説を担当しておりますルリカと申します。」 弁当業者「確か、ジョウトリーグの四天王でしたね。お名前はかねがね伺っております。今回はどのようなご用件で?」 ルリカ「今晩、私の知り合いのためにパーティーを開こうと思っているんですけど、そこでお弁当を出したいのです。よろしいでしょうか?」 注文担当スタッフ「(知り合い・・・?ああ、そうか。こないだお弁当を持って行った方に食べさせてあげるんだね。)」 弁当業者「はい、かしこまりました。何名様でしょうか?」 ルリカ「8名分です。大丈夫ですか?」 弁当業者「大丈夫です。ではどう言ったものにいたしましょうか?」 業者はそう言ってたくさんのメニューを見せた。――リーズナブルなものから豪華なものまで、いろいろ揃っている。ちょっと手軽に食べたいときのおにぎりから、がっつり食べたいときのためのボリュームたっぷりの弁当まで、量も様々だ。 ルリカ「あ、じゃあこの『とり南蛮重・大盛り』(※2)で。」 それはこの業者が作っている弁当の中でもとびきりのでか盛りだった。ご飯の上にぎっしりと鳥南蛮が載せられており、アクセントにいろいろな色のピーマン、さらに玉ねぎ、レモンも入っている。その量たるや半端なものではなく、何と800グラムを超えていた。そのためか業者のメニュー表にも「あなたは食べきれますか?」と言う一文が添えられていた。 弁当業者「かしこまりました。とり南蛮重・大盛りを8つですね。今日の夜に配達いたします。ありがとうございました。」 ルリカ「ありがとうございました。」 そう言うと業者は電話を切った。 注文担当スタッフ「800グラム・・・。たくさん食べさせてあげたいんですね。」 ルリカ「うふふっ。こう言う私って、変ですか?」 注文担当スタッフ「それはないと思いますよ。ルリカさん、本当に優しいんですね。私、今回ルリカさんみたいな方と一緒に仕事ができてよかったです。」 ルリカ「ありがとうございます。」 ルリカはそう言って、にっこりと笑った。 (5) イチロウ「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ナナシマ・バトルチャンピオンシップス最終日は参加者全員で楽しく大バトル!バトルスタンプラリーを行います!」 シンイチ「バトル大会に参加した選手がコンテスト大会に。またコンテスト大会に参加した選手がバトル大会にも参加できる、参加者全員が一体となって楽しむ催しです!実況の私達も一緒になってこの模様をお伝えしたいと思います。ではルリカさん、ソウスケさん、どうぞよろしくお願いします。」 ルリカ・ソウスケ「よろしくお願いします。」 激戦が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。ミキがバトル大会を、ユカリがコンテスト大会を優勝するまでには、それまでに敗れ去った多くのトレーナーやコーディネーターの姿があるのもまた事実だった。 勝つものがあれば、必然的に負けるものがいる。だがその中にも数多くの原石が散らばっているのである。そして、ナナシマ・バトルチャンピオンシップスはこの負けたトレーナーやコーディネーターに対しても次の大会に向けたレベルアップの場を提供するため、「バトルスタンプラリー」と言うイベントを企画していた。 バトル大会に出場した選手がコンテストに。またコンテスト大会に出場した選手がバトルに参加できるという内容で、まずは予選ラウンドで敗退したトレーナーや一次審査で落選したコーディネーターが対象となり、決勝トーナメントやコンテストバトルと並行して行われた。そして最終日となる今日は決勝トーナメントやコンテストバトルに勝ち残った選手も含めて、この場に残っていたトレーナー全員が参加することになっていた。任意の3か所でバトルすれば記念品をもらうことができた。 そして今、ちょうど2人の女性トレーナーが最後のスタンプをもらうため、バトルに挑もうとしていた。カントー地方・ハナダシティ出身のアユミ。そして同じくカントー地方・トキワシティから参加していたマドカだった。 アユミ「(あたしはアユミ。今回ナナシマ・バトルチャンピオンシップスに出場したんだけど、予選ラウンド3回戦で負けてしまったわ。だから決勝トーナメントに進むことはできなかったんだけど、また次のステップに向かう第一歩として、バトルスタンプラリーに参加することにしたの。)」 マドカ「(あたしはマドカ。あたしも予選ラウンド2回戦で負けてしまったの。でもどうして負けたのか、どこをどうすれば勝てたのかを改めて分析するきっかけになればと思って、バトルスタンプラリーに参加したのよ。そして今回、最後のスタンプをもらうために、あたしとアユミさんがこうしてバトルすることになったのよ。)」 かくしてバトルすることになったアユミとマドカ。勝負は3体ずつで行われ、先に2勝した方が勝ちというルールだった。 アユミ「マドカさん。あたし達でいいバトルにしましょう!」 マドカ「うん!手加減はしないわよ、アユミさん!」 アユミ「行くわよ、トゲキッス!」 アユミはトゲキッスを繰り出した。 マドカ「出番よ、ギガイアス!」 マドカはギガイアスを繰り出した。 アユミ「(ギガイアス・・・。イッシュ地方のポケモンね。それなら。)トゲキッス、はどうだん!」 トゲキッスがはどうだんを放つ。 マドカ「ギガイアス、受け止めて!」 ギガイアスは効果抜群になるはずのはどうだんを受け止めた。 アユミ「受け止めた!?」 マドカ「うん。ギガイアスの特性はがんじょう。一撃で倒されることがない特性なのよ。」 アユミ「(一撃で倒されない・・・。マドカさん、やっぱり手強いわね。)」 マドカ「ギガイアス、ロックブラスト!」 アユミ「トゲキッス、連続ではどうだん!」 ギガイアスがロックブラストを放つ。それをトゲキッスがはどうだんを連発して打ち砕いていく。だがロックブラストの威力が勝っていたのか、砕けなかった1発がトゲキッスに命中した。効果は抜群だ。 アユミ「トゲキッス!」 トゲキッスはそのまま地面に向かって落ちていく。 マドカ「今よ!ギガイアス、ギガインパクト!」 ギガイアスがギガインパクトでトゲキッスに襲いかかった。トゲキッスはギガインパクトをもろに受けてしまい、フィールドに崩れ落ちた。戦闘不能だった。 アユミ「トゲキッス、ゆっくり休んでね。・・・やるわね、マドカさん。よく育てられてるわ。」 マドカ「アユミさんだって、今のトゲキッス、かなり鍛えられていたわ。これから経験を積んでいけば、もっと強くなれると思うわ。」 アユミ「ありがとう!じゃあ次のポケモンを出すわね。行くわよ、ピカチュウ!」 アユミはピカチュウを繰り出した。 マドカ「出番よ、ヌオー!」 マドカはヌオーを繰り出した。相性の面ではアユミのピカチュウが圧倒的に不利だ。 アユミ「(まずいわ。ヌオーはじめんタイプも併せ持っている。ピカチュウのでんき技は効かないわ。)」 マドカ「ヌオー、マッドショット!」 ヌオーがマッドショットを放つ。じめんタイプの技であるマッドショットをもろに受ければ効果は抜群だ。 アユミ「(でもでんき技だけがピカチュウではないわ!)ピカチュウ、空高く飛んで!」 マドカ「ピカチュウがそらをとぶを使えるの!?」 宙返りしたピカチュウは風船で空高く飛び上がってマッドショットをかわした。 マドカ「ヌオー、みずのはどう!」 アユミ「ピカチュウ、みずのはどうをよく見て!」 ヌオーはみずのはどうをピカチュウに向かって放ち続けていた。だがよく見ると1発放ってから次に移るまでにわずかな隙が見られた。 アユミ「今よ!ピカチュウ、急降下!」 マドカ「ヌオー、マッドショットで迎え撃って!」 ピカチュウは急降下してヌオーに迫る。ヌオーもマッドショットを放って応戦するが、ピカチュウは右に左によけ続けており、なかなか命中しない。そして空からの強烈な一撃がヌオーに叩き込まれた。 マドカ「ヌオー!」 よほど威力が大きかったのか、ヌオーは一撃で戦闘不能となってしまっていた。 マドカ「ヌオー、よく戦ったわね。・・・アユミさん、そのピカチュウ、たくさんの技を使いこなせるのね。」 アユミ「うん。なみのりにそらをとぶと言った、普段のピカチュウが使いこなせない技も使えるのよ。意外な技を使えるって言うのは意表性もあると思うわ。」 マドカ「すごいわね、アユミさん。・・・ピカチュウを連れたトレーナーって言うと、サトシ君を思い出すわね。」 アユミ「うふふっ。サトシ君はポケモンマスターにまで上り詰めた実力の持ち主。そしてピカチュウはサトシ君の一番のパートナー。でもあたしのピカチュウは、サトシ君のとはひと味もふた味も違うわ。」 マドカ「そうね。サトシ君のピカチュウが覚えていない技も使えるもんね。さあ、最後の1匹ね。出番よ、カメックス!」 マドカはカメックスを繰り出した。 アユミ「行くわよ、フシギバナ!」 アユミはフシギバナを繰り出した。 マドカ「(相手はフシギバナ。みずタイプのカメックスにとってはタイプで不利ね。)カメックス、れいとうビーム!」 カメックスがれいとうビームを放つ。タイプで不利なカメックスだが、技でカバーする作戦だろう。 アユミ「フシギバナ、まもる!」 フシギバナはまもるの体制に入り、れいとうビームを防いだ。 アユミ「フシギバナ、続いてエナジーボール!」 フシギバナがエナジーボールを放つ。 マドカ「カメックス、ラスターカノン!」 カメックスもラスターカノンで応戦する。2つの技がフィールド中央でぶつかり合い、大爆発が生じた。 アユミ「やるわね、マドカさん!」 マドカ「アユミさんもなかなかの実力ね。じゃあ、これならどうかしら。カメックス、ハイドロカノン!」 アユミ「フシギバナ、ハードプラント!」 フシギバナがハードプラントで、カメックスがハイドロカノンで激突する。強力な技同士の激突となった。 互いに激しくぶつかり合うが、相性の面ではフシギバナの出したハードプラントが抜群の効果を与えられたのに対し、カメックスのハイドロカノンはフシギバナに対しては効果今ひとつだった。だがカメックスはさほどのダメージにならなかったのに対し、フシギバナはかなりダメージを受けてしまった。 今の技を受けてか、フシギバナが緑色の光を、カメックスが青い光をそれぞれ放ち始めたではないか。 アユミ「これはフシギバナの特性・しんりょくね。」 マドカ「カメックスの特性・げきりゅうだわ。・・・次で決まりそうね。」 アユミ「そうね!最後までいいバトルにしましょう!」 マドカ「うん!カメックス、ハイドロポンプ!」 アユミ「フシギバナ、エナジーボール!」 フシギバナのエナジーボールとカメックスのハイドロポンプが同時に放たれ、フィールドの中央でまたしても激しくぶつかり合う形となった。激しくぶつかったエナジーボールとハイドロポンプは拮抗する形となり、やがて激しい大爆発を巻き起こしたのだった。それぞれしんりょくとげきりゅうで威力が上がっていたのも影響していたのだろう、爆発の威力はあまりにすさまじいものとなっていた。 やがて煙が収まると、フシギバナとカメックスは互いに倒れ込んでいた。・・・どうやら両者とも戦闘不能となってしまった模様だった。 アユミ「・・・引き分けみたいね。」 マドカ「そうね。でもとてもいいバトルだったわ。アユミさん、どうもありがとう!」 アユミ「ううん。お礼を言うのはあたしの方だわ。マドカさん、ありがとう!」 〜挿入歌:『そこに空があるから』が流れる〜 激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップスは全ての日程が終了、閉会式を迎えることができた。そして、また新しい目標に向かって、次なる冒険が始まるのだった。 アユミ「マドカさん、これからどうなされるの?」 マドカ「あたし?・・・あたしはね、一度トキワシティに帰るんだけど、今度はジョウト地方に行ってみようと思うの。」 アユミ「ジョウト地方ね。あたしもこれからハナダシティに帰ることにしているけど、あたしもジョウトに行ってみようと思っているわ。マドカさん、あたし達ってこれからいいライバルになれそうね。」 マドカ「そうね。目指すは同じジョウトリーグ。これからは友達として、またライバルとして負けていられないわね。これからお互いに高め合えたらいいわね!」 アユミ「うん!たどる道は違うかもしれないけど、目指すものは1つ。次に会うときは負けないわよ!」 マドカ「あたしも次のバトルが楽しみだわ!それまでにまた強くなって、今度会うときもいいバトルにしましょう!」 そしてマドカは手を差し出した。――アユミはその手を取り、しっかりと握手を交わした。 いくつもの激闘が繰り広げられたナナシマ・バトルチャンピオンシップス。そこでは多くのトレーナーやコーディネーター、そして実況やゲスト解説の、数え切れないほどのドラマが生み出されたのだった。 南の島がバトル、そしてコンテストで熱く燃えた激闘の日々。ここでの日々は参加した彼ら、彼女たちの思い出として、いつまでも残り続けることだろう。 そしてナナシマは新たなるポケモンリーグ・ナナシマリーグの開設が決定、コンテストも行われることになった。今後、新しいバトルとコンテストの場所として期待されるナナシマ。ますますの発展が期待されることだろう。 (※1)「初日で差し入れした弁当の表記について」 この出来事はちょうどChapter-27の出来事と一致しています。このときも述べましたが、通常は「シウマイ」「シューマイ」「焼売」などいろいろな表記があります。ですがここでは、モデルとなった横浜駅の駅弁・「シウマイ弁当」にちなみ、「シウマイ」で統一することとします。 (※2)「決勝戦の夜に差し入れした弁当の表記について」 この出来事はChapter-38の出来事に当たります。モデルとなったのは小田原駅の駅弁・「BIGとり南蛮重」です。名称をそのまま使用することは商標登録に引っかかると判断したため、名称を一部変更して表記することとします。