プロローグ 「夢、幻の如く」 穏やかな風が草花を揺らし、それらがこれから来る夏の到来を告げている。 町から少し離れた草原に、一人の青年が立っている。その青年は黒い髪と瞳で、服もそれらと同じく黒い。 それに視力が弱いのか、眼鏡をかけ、その服装では嫌でも目立つ赤いバンダナをつけていた。 淡い月の光が彼を照らし、夏の匂いをわずかに交えた春の風が辺りを包むと、 青年は空を見上げながらそれら自然の営みを楽しみつつも、何かを待っているようでもあった。 その時、辺りにピリピリとした空気の振動が起こり、急にその付近一帯が昼のような明るさに包まれる。 そして冷たい風が吹いたかと思えば、熱い風がそれを中和し、上空には海の香りを漂わせた巨大な影が宙を舞う。 さらに七色の虹が青年を取り巻くと、どこからともなく40pほどの赤く淡い光球が彼に近づく。 すると光球は消え、中から尾の長い犬とも猫ともつかない動物が現れる。 その姿は愛らしく、非常に短く白い体毛は月の光が反射して輝いている。 その動物は羽根もないのに宙に浮き、どこか神聖な雰囲気すら漂わせていた。 そして青年の方に寄り添うように近寄ると、それを合図に、バチバチと音を立てながら光る黄色い翼、 氷のように美しい蒼い翼、炎の如く揺らめく紅い翼、雄雄しさを漂わせる銀色の大きな翼、虹の様に鮮やかな炎を纏った翼。 それらが青年の周りに降り立つと、青年は優しい目でそれらを見渡し、何かを決意したように、 「さあ・・・行こうか。」 たった一言、そういって歩き出すと、それぞれの翼の持ち主も再び飛び去っていった。 草原に、静寂と幼い夢を残して・・・・・