第一話 「旅立ちの朝」  まぶしい朝の陽射しが窓を通って、まだ眠っている少年の顔を照らす。 その光を目覚まし時計代わりにして起きるのが少年の癖だった。 だがそれも最後になるであろう。この日から少年は旅に出るのだから。 少年の名はシュン。カントーとジョウトの間で、さらに北のほうにある小さな町、「ビギンタウン」に住んでいる。 シュンは今年で11歳になる。 このあたりの子供は大抵、11歳になると「ポケモン」と呼ばれる、 モンスターボールとゆうボールに入れて持ち運びのできる特殊な動物を育成、 トレーニングして戦わせることのできる「ポケモントレ−ナー」となって各地へ旅に出るのだ。 −「ポケモン」正式には「ポケットモンスター」達は驚異的な環境適応能力を持ち、 一世代で数回ほど「進化」と呼ばれる成長にも似た行為を行うものも存在する。 中には凶暴で危険な能力を持つものもいるため、ペットや家畜としての飼育だけならばまだしも、 戦わせることのできるトレ−ナーになるには最低11歳以上でなければならない。−  シュンも例に漏れずポケモントレ−ナーとなり旅立つことを決めていた。 シュンはベッドから起き上がると、どこか夢見心地のような顔をして 「夢・・・だったのかな・・・」 と呟き、窓の外を見る。 ・・・二年前、旅人すらめったに来ないこの町に、一人のトレ−ナーがやってきた。 何もないこの町にそのトレ−ナーは一ヶ月もの間滞在し、シュンを始めとするビギンタウンの子供達は、 初めて目の当たりにするポケモントレ−ナーに何かと理由をつけては旅の話をしてもらったり、 手持ちのポケモン達と遊ばせてもらったりしていた。 そのトレ−ナーはケンと名乗り、 自然の豊かなビギンタウンでしばらくポケモン達を休ませるためにやって来たのだと言い、 一人っ子のシュンは特にケンと親しくなり兄のように慕っていた。 だが、ケンが再び旅立つ日、シュンは急な用事で彼を見送ることができず、 陽が暮れた後、ケンがよく遊んでくれた町外れの草原までふと足を運んだ。 その時、シュンは遠くで輝く何体ものポケモンの姿を見た。 鳥や竜のようでもあったそれらの中心にケンらしき人物がいたが、なぜか声をかけることも、近づくことさえもできなかった。 その後、友達やほかの大人達にそのことを話しても誰も信じてくれず、皆口をそろえて「夢を見たんじゃないか」と言う。 通常、手持ちとして持ち運べるポケモンは6匹までと決められており、 ケンの手持ちもリザードン、ピジョット、バクフーン、 エアームド、ネイティオ、ヘルガ−の炎や飛行タイプを中心とした6匹であった。 また、ビギンタウンには小さなポケモン研究所はあるが、ポケモンを治療したり、 手持ちを交換することのできるポケモンセンターは存在しない。 故にケンが手持ちを交換することはできるはずもなく、シュンが夢を見たと言われるのはしかたのないことだった。 だからシュンはポケモントレ−ナーになり、再びケンに会って事実を確かめようと心に決めていた。  そんなことを考えていると、不意に部屋のドアが開き、シュンの母親が顔を出す。 「シュン、あなたまだいたの?早く用意をしてヤサカ博士の所に行かないと、お目当てのポケモン、他の子に取られるわよ?」 そう言われてシュンは今頃になって思い出し、慌てて旅支度を始める。母親は大急ぎで着替えているシュンを見つめながら 「シュン・・・今日からトレ−ナーになるんだから、自分の格好に負けないようにね・・・」 「うん、そんなのわかってるさ。ちゃんと頑張るよ。」 そう言ってシュンは鏡に映った己の姿を見る。 4年前、四天王を倒し、最大のライバルであったグリーンを破ってポケモンリーグの真のチャンピオンとなったレッド。 当時11歳の少年がリーグチャンピオンになれるなど誰一人思わなかった。 その出来事を、シュンはテレビで見て深く感動し、たった一度だけ見たことのある、 テレビに映ったレッドの姿を真似てジーパンに白いTシャツ、帽子と上着はレッドとは色違いの青といった、服装をするようになった。 「一年くらい前にも、リーグチャンピオンになったゴールドって子もいるんだし、 チャンピオンは無理でも、四天王に挑める位になれるといいわね。」 シュンの母がそう言って部屋を出ると、シュンもリュックを背負って家を出る。 家の外に出ると、シュンは先に出ていた母に別れを告げる。しばらくは会えなくなるのだから・・・ 「それじゃあ、もう行くね。」 「ポケギアは持った?たまには電話をしてね。」 「うん・・・ママ、元気でね。」 そういうとシュンはヤサカ博士の待つ研究所へ走り出す。 そんなシュンの姿を見つめるシュンの母は、少しだけ涙を浮かべながらわが子の旅立ちを見送った。