第二話 「パートナー」  三人の少年が小さな建物の前で誰かを待っているかのように立っている。 「シュン・・・遅いねぇ」 黄色のジャンパーと半ズボンの明るい緑色の髪の少年が呟く。少年は三人の中で最も背が小さく、同年代の子よりも幼く見える。 「また寝坊じゃねーの?ヨウヘイだって珍しく早起きしたのにな」 茶髪で、青い袖なしのシャツとハーフパンツの少年がからかうように、最初に呟いたヨウヘイと呼ばれた少年を見ながら言う。 「なんだよぉ、アオイだっていつも学校に遅刻してたのにぃ!」 ヨウヘイは自分をからかってくるアオイに抗議の声を上げる。その時、もう一人の少年が声を荒げながら 「お前たちは少しの間もおとなしくできないのか!!」 「ちぇ、何だよレイ。別にいいだろう?暇なんだし・・・」 レイと呼ばれた少年は、髪の色はアオイと同じ茶、緑のトレ−ナーに青のベスト、白い長ズボンをはいている。 彼は三人の中で最も背が高く、同じ年の子よりもはるかに大人びており、 よく年上に見られるが何よりもその言動が見た目の年を上げている。 「だが、確かにシュンの奴遅すぎるな」 さすがにレイも待ちくたびれたらしく、普段からつり上がっている目が更にきつくなっている。 「シュンは今日のこと忘れてるのかなぁ?」 「そうかもなー。今日のこと忘れる奴なんて、ヨウヘイとシュンくらいだもんな」 アオイは意地悪そうに笑ってヨウヘイを再びからかう。 「ボクそんなに大事なこと忘れないよ!!」 二人がまたそんなやり取りをしていると、レイが向こうのほうから走ってくる人影を見つける。 「ちっ、やっときたか・・・」 「お〜いシュ〜ン、早く早く〜!!」 ヨウヘイが飛び跳ねながら手を振ると、走ってくる人影、シュンも手を振りながら答える。 「ごめ〜ん、目覚ましかけ忘れちゃってぇ・・・」 ハァハァと息を切らし、シュンは三人の元へと駆け寄る。 「遅いぞ!!いつまで待たせる気だ!!」 レイが強い口調で言うが、今日は普段よりもさらに言い方がきつい。 「本っ当〜にゴメン、みんな」 「シュンが遅いから、もうオレ達は先にポケモンもらっちまったぜ」 アオイはそう言って首からさげているモンスターボールをシュンに見せる。 「へへ、ボクもだよ。ほら!」 ヨウヘイも腰につけたモンスターボールを取り出す。 「え〜、もうもらっちゃたの〜?」 「当たり前だ、遅刻などするやつが悪い。」 レイもトレ−ナーの二の腕の外側にボールをセットしている。 「安心しろって。お前が欲しがってたやつ、ちゃんと残ってるからさ。」 アオイの言葉を聞いて、シュンは胸をなでおろす。 「シュン、早くヤサカ博士に会って来い。待ちくたびれてるはずだぞ」 レイに促されて、シュンは研究所の中に入る。すると30代前半くらいの男性が退屈そうにモンスターボールをいじっていた。 「ヤサカ博士、おはようございます。」シュンが元気良くあいさつすると、男性はびっくりしたように振り返る。 「え?あっ、シュン君おはよう、遅かったね。さすがにもう来ないかと心配しちゃったよ。」 そう言いながらボールをシュンに手渡す。 「はい。シュン君が一番欲しがってたヒトカゲだよ。大事に育ててあげてね。」 「ありがとうございます。ヤサカ博士。」 シュンはモンスターボールを受け取ると早速中のポケモンを出してみる。 するとボールから閃光が飛び出し、中から小さな恐竜のようなポケモンが現れる。 「わあ・・かわいい。よろしくね、ヒトカゲ」 ヒトカゲと呼ばれたポケモンもうれしそうに尻尾を振っている。 「気に入ってくれたみたいだね。それじゃあシュン君、そのヒトカゲの名前はなんにする?」 「名前?」 「そうだよ。ヒトカゲはあくまでも種類の名前だからね。それに名前をつけたほうがポケモンも喜ぶし、よくなついてくれるよ。」 そう言われて、シュンはヒトカゲをどんな名前にしようか頭を悩ませる。すると、 「シュン、どんな名前にするんだ?」 声のしたほうを振り返ると、そこには先ほどの三人が入ってきていた。 「シュンあのね、ボクのピカチュウはピカピカって言うんだ。」 そういってヨウヘイはピカチュウを出して抱き上げる。 「オレのゼニガメはカメさんってんだ」 アオイもゼニガメを出してシュンに見せる。 「へぇ〜。ねえ、レイはどんなポケモンになんてつけたの?」 「ああ、こいつ自分のフシギダネに名前つけてないみたいだぜ?」 シュンの質問に、レイよりも先にアオイが答える。 「アオイ、勝手なことばかり言うな。俺だって名前くらい・・・」 「じゃあ、なんて言うの?」 シュンが再びレイに聞くと、レイは少しためらうように間をおき 「・・・フシギちゃん」 その直後、アオイが大きな笑い声を上げる。 が、いつの間にかレイが出したフシギダネの体当たりをまともに喰らって吹っ飛ばされる。 それを見たヤサカ博士は慌ててレイに注意する。 「レ、レイ君ダメだよ!ポケモンで人を攻撃しちゃあ!」 「俺は何も命令していない。アオイのやつが名前を馬鹿にするからフシギちゃんが怒っただけだ。」 レイは悪びれた様子もなく答える。そして吹っ飛ばされたアオイはヨウヘイに起こしてもらっていた。 そんなやり取りがありながらしばらくすると、 「う〜ん・・・そうだ!ヒーすけ。ヒーすけにする!」 「いいんじゃないのか?シュンらしいしな。」 ヒーすけと名づけられたヒトカゲもうれしそうに「カゲカゲー」と鳴いている。 「そうそう、忘れるところだった。はいシュン君、ポケモン図鑑だよ。」 シュンはヤサカ博士から図鑑を受けとると、上着の内ポケットにしまう。 「その図鑑には、今のところ約250匹分以上のデータが入っているから役に立つと思うよ。 それとシュン君用のIDも登録されているから。身分証の代わりにもなるんだから、絶対になくさないように注意してね。」 「はい、十分気をつけます。それじゃあ、そろそろぼく達出発しますね。」 そう言ってシュン達が外に出ようとすると、ヤサカ博士が呼び止める。 「あ、ちょっと待って。その前に言っておかなきゃいけないことがあるんだ。 君たちはカントーとジョウト、どちらに行くかは知らないけど、必ず最初に行く『パートシティ』までは四人で行ったほうがいいよ。 途中の「カゲロウの森」は別名「試練の森」と言われるほど、初心者トレ−ナーには厳しいところなんだ。 特に最近は、挫折したトレ−ナーや、捨てられたポケモンの怨念が幽霊になって人を襲うという噂が後を絶たないんだ。 なるべく一人で行かないほうがいい。わかったかい?」 ヤサカ博士の言葉に、シュン達は多かれ少なかれ、嫌な予感を覚えたのだった。