第六話 「パートシティ」 シュン達四人がパートシティに到着したのは、完全に日が暮れた後だった。 「そういえば、アオイのカメールが森で使った技・・・確か普通じゃ覚えられないよね?」 シュンは先程の戦いでカメールが使った<泥かけ>という技について疑問をぶつける。 「ああ、あれか?へへ、技マシンだよ。旅立つ前に親父から貰ったんだ。」 技マシン・・・それは通常のレベルアップ等では覚えさせることのできない技などを、 機械を通して人為的に修得させるための道具である。 「お前等、無駄話ばかりしてないで早くポケモンセンターを探せ!!」 そう言ってレイが怒鳴る。余程森での戦いの結果が気に入らなかったのだろう・・・その時だ。 「誰かー!!その子達を捕まえてぇー!!」 若い女性の声に全員がその方向を見る。すると、こちらの方に四匹の小動物が走ってくる。 そして、その小動物は何を思ったのか、シュン達とまともにぶつかり、四人はそのまま倒れた。 「だ、大丈夫ですか?」 女性が駆け寄ってくると、四匹の小動物達はシュン達の腕の中でもがいていた。 「クソッ、なんで俺がこんな目に!!」 レイが悪態をつくと女性が申し訳なさそうに頭を下げる。 「本当にごめんなさい。捨てられたこの子達を保護したのはよかったのだけれど、 元気が良すぎてポケモンセンターから逃げ出してしまったの」 するとアオイが立ち上がり女性に近寄ると 「お姉さんが謝る必要なんてないですよ。 オレ達も丁度ポケモンセンターに行くところだったし、美しい人のお役に立てて光栄です。 あ、オレはアオイです。ビギンタウンから来ました。で、こっちは幼馴染の・・・」 「あ・・・シ、シュンです。こんばんは」 「ヨウヘイだよ!!」 「・・・レイだ」 四人が一通りの自己紹介をすると、女性は四匹の小動物をモンスターボールに戻した。 「!!・・・ポケモン・・・だったの?」 シュンが驚いたように女性の方を見る。 「そうよ。この子達はそれぞれ同じポケモン・・・イーブイから全く別の進化をした子達。 エーフィ、ブラッキー、シャワーズ、サンダースよ。 そうそう、私はこの先のポケモンセンターで医者をしているマイって言うの。パートシティへようこそ。小さなトレーナーさん達。」 女性−マイが優しく微笑むと、いきなりアオイが両手でマイの手を握り詰め寄る。 「マイさんって言うんですか?いや〜綺麗な方にふさわしい名前だ。あなたに治療してもらえるポケモン達が羨ましい。 こうして出会えたのも何かの縁。ぜひ電話番号を交換していただけませんか?」 アオイがそういった直後、レイが横腹に蹴りを入れてアオイは吹っ飛ばされる。 「・・・失礼、この馬鹿は女性を見ると無差別に声をかけると言う、 恥の極みとも言うべき病気の末期患者ですのでお気に悪くなさらないで下さい」 レイは当たり前のように説明し、マイはただ呆気にとられていた。 そこへアオイが復活し、レイに食って掛る。 「レイ!!テメェ、イテーじゃねぇか!!それに誰が病気で末期だ!!いい加減なこと言うんじゃねぇ!! 大体、綺麗なお姉さんに声をかけるのは男の勤めだろーが!!!!いちいち邪魔すんな!!」 レイはアオイの抗議を無視すると、まだ呆気にとられているマイに、 「マイさん・・・でしたね。ポケモンセンターまで案内してもらえませんか?」 そう言うとマイは我に返り、やや引きつった笑みを浮かべながら 「え、ええいいわ。さあ、こっちよ。暗いからはぐれないように気をつけてね」 四人はマイの案内でパートシティのポケモンセンターへと移動を開始すると、やがて三階建ての立派な建物に辿り着いた。 「さあ、ここよ。皆、今夜はゆっくり休んでね」 ポケモンセンターとは、通常トレ−ナーに限って無料でポケモンの怪我や病気を治療し、宿泊施設としても解放されている。 また食事も可能な為、多くのトレーナーがポケモンセンターで寝泊りしているのだ。 「わぁ〜、ぼく、ポケモンセンターなんて初めて来た!」 シュンが感嘆の声を上げ、その横でヨウヘイも初めてのポケモンセンターにはしゃいでいる。 「さ、皆入って」 マイに促されて中に入ると、ふわふわとした体毛に覆われたポケモンが出迎える。 「あの、もしかしてそのポケモンも・・・?」 「そうよ。この子もイーブイの進化形ブースター。私と一緒に育ってきた友達よ」 マイはそう言ってブースターを抱き上げる。 「シュン、イーブイは複数のタイプに分岐進化できる珍しいポケモンだ。 しかしこれくらいはトレーナーとしては常識だぞ。もっと勉強しておけ」 「う・・・はぁい」 「さ、皆はポケモンを預けて今日は泊まっていって。ご馳走するわ」 こうしてシュン達四人はポケモントレ−ナーの旅の第一日目を終えようとしていた・・・。