第八話 「初めてのジム戦」  ここはカントー地方、ニビシティへと続く山道。あまり人の通らないその道を二人の少年が、ニビシティの方へと歩いている。 そのうちの一人、シュンは非常に機嫌がいい。 「えへへ、レイさっきはありがとね。ぼく初めてポケモン捕まえることができたよ」 「別に・・・そのサンドはついでだよ。オレのほうはエアームドをゲットできたしな」 先程、二人は野生のエアームドと出会い、レイがそのエアームドを捕獲した際、 近くにいた野生のサンドが巻き込まれて気を失っていたため、レイの指示でシュンがサンドを捕まえることができたのだ。 「おいシュン!余所見をするな、ニビはこっちだ!!」 「あ・・・わっ、ご、ゴメン。レイ」 二人は昨日パートシティでアオイ、ヨウヘイと別れてからずっとこの調子で歩き続けている。 「・・・ったく、あまり浮かれるな。お前はもっと注意力をつけろ!」 レイがシュンにそう言いながら歩いているとやがて街が見えてきた。 「ねえレイ、アレってニビシティだよね!!」 シュンが頬を紅潮させながら言うとレイも「あぁ」とうなずいた。 一方その頃、アオイとヨウヘイもフスベシティへと続く山道を進んでいた。 「くっそ〜、ロコンとニューラ追っかけてたらずいぶん時間がかかっちまったぜ」 「でもボクもウリムーをゲットできたし、気にしてないよ♪」 二人は途中、ポケモンを捕まえるのに夢中になり、予定の半日ほど遅れていた。 「ま、確かに二匹ともゲットできたし、夜にはフスベに着けそうだから良しとすっかな?」 アオイも気楽に言う。この二人は実はかなりマイペースなのだ。 「シュンとレイはどうしてるのかなぁ・・・?ね、アオイ」 「口うるさいレイが一緒だからなぁ〜、とっくにニビに着いたんじゃねぇの?」 シュンとレイはニビシティに入ると、真っ先に街のある場所へと向かっっていた。 「レ、レイ〜。ほんとにいく気なのぉ?」 「あぁ、嫌ならお前はついてくるな」 そう言ってレイはどんどん先に進んで行く。シュンもその後を必死で追いかけていると、やがて大きな建物の前にたどり着く。 「これが・・・ポケモンジム・・・?」 二人の目的地はニビシティのポケモンジムだった。 「そのようだな。ここのジムリーダーは岩タイプを得意としているらしい。・・・行くぞ」 そう言ってレイはジムの中に入っていく。中は薄暗く、人の気配がほとんどしない。 「お休み・・・なのかなぁ?・・・すいませ〜ん誰かいませんかぁ〜?」 レイの後をついてきたシュンが呼んでみると、奥のほうから目の細い、一人の青年が現れる。 「・・・挑戦者か?運がいいな。今このジムのトレーナー達は留守にしている。・・・このジムリーダーのタケシを除いてね・・・」 「あんたがジムリーダーか。面倒が省けていい。俺はビギンタウンのレイ!バッジを賭けた公式戦を申し込む!!」 レイの言葉にシュンもあわてて、「ぼくも」と付け加える。その様子を見て、タケシは 「・・・ん?二人ともまだ旅立ったばかりみたいだな。 それなら少しレベルを下げてやろう。ルールは2対2の入れ替え自由。それでいいな?」 その言葉を聞いてレイが不服そうに口を開いた。 「シュンはともかく、俺にハンデなど必要ない!大体、バッジを賭けた公式戦に手加減とはどうゆうことだ!!」 レイの言うことはもっともだった。通常、ジムリーダーと戦うという事はジムバッジを賭けた公式戦。 このバッジを規定数以上集めるとその地域で開かれているポケモンバトルトーナメントへの参加資格与えられ、 そこで好成績を残すことができれば、 ポケモンリーグ最高レベルの実力者・・・「四天王」に挑戦する権利を得ることができるのである。 それだけ大事なバッジだ・・・ポケモンマスターを目指す者にはノドから手が出るほどに欲しい物。 それほど大事なバッジを賭けた戦いに手加減、しかもジムを開き、リーダーを任せられているほどの者がそう言ったのだ。 「そのことか・・・確かにポケモンバトルに強さは必要だ。 だが、ポケモンを思いやる気持ち、お互いの信頼関係、それらはトレ−ナーとしてもっとも大事なものだ。 ジム戦とは本来、ポケモンとトレ−ナーの絆と実力を試し、それらをより高みへと導く為のもの。 だからそのジムのリーダーが認めさえすればバッジなんてのは渡しても構わないんだ。 ・・・最近はジムリーダーに認められた証ではなく、勝った証だと勘違いしている者の方が多いけどね。」 タケシが苦笑まじりにそう言うが、レイは納得しない。 「だが、強さが必要なのも事実だ!俺にはハンデなどいらない!!」 「・・・わかったよ。じゃあ、そっちの帽子のキミから始めようか」 タケシがそう言ってシュンのほうを向く。 「は、はい!よろしくお願いします!!」 シュンはかなり緊張した様子でタケシに頭を下げる。 そして、二人はバトルフィールドに立つとすぐに試合が始まった。 「いくぞ。出ろ、イシツブテ!」 タケシのモンスターボールから閃光と共に石に腕が生えたようなポケモン・・・イシツブテが現れる。 「よ、ようし。行くよ、ヒーすけ!!」 シュンのボールからもいきおいよくヒトカゲが現れ、戦闘体制をとった。 「イシツブテ、体当たり!」 「ヒーすけ、よけて!」 すぐさま二匹の激しい攻防が展開され、レイは静かにそれを見守っている。 「ヒーすけ、ひっかく!」 ヒトカゲの爪がイシツブテに襲い掛かる。しかし、ヒトカゲの小さな爪は、石で出来た身体に簡単にはじかれてしまった。 それを見たタケシがすぐさまシュンに忠告する。 「岩タイプはその体が武器であり防具だ。生半可な物理攻撃など通用しない!」 それを聞いたシュンはヒトカゲに次の命令を下す。 「それなら・・・火の粉だ、ヒーすけ!!」 ヒトカゲのしっぽから無数の小さな火の玉が舞い、イシツブテに降り注いだ。 「ほう・・・少しは考えたようだが、岩タイプには炎系の技は効果が薄いぞ」 そのタケシの言葉どおり、イシツブテは火の粉にひるむことなくヒトカゲに向かっていく。 「でも、さっきよりもずっと効いてる!・・・ヒーすけ、もう一度火の粉!!」 シュンの言葉に従い、ヒトカゲはそのまま二度、三度とイシツブテに火の粉を放つ。 すると、流石に連続では火の粉を受け続ける事は出来ず、やがてイシツブテは力尽きて倒れる。 「むっ・・・!?戻れイシツブテ。・・・なかなかやるな。だが、次はどうかな?イワーク、出ろ!!」 タケシはイシツブテをモンスターボールに戻すと、次は巨大な岩のヘビ、イワークを出した。 「いくぞ!イワーク、岩落とし!!」 イワークはその巨体を持ち上げて大きな声で一声鳴くと、ジム内に散乱している岩をヒトカゲに向かって軽々と尾で弾き飛ばした。 「ヒーすけ、よけるんだ!」 しかし、シュンの声もむなしく、ヒトカゲは降り注ぐ岩をよけられずにそのまま倒れてしまう。 「あ・・・・・・ヒーすけ・・・ごめんね・・・」 シュンは涙を浮かべながら、力尽きたヒトカゲをモンスターボールに戻す。その様子を見たレイがシュンに怒鳴った。 「シュン!泣いてるヒマはないぞ!!早く次を出せ!!」 レイの言葉にシュンは我に返ると次のモンスターボールを手に取り、それをバトルフィールドに向かって投げる。 「物理攻撃は効果が低いから・・・サンドじゃなくてエーフィ、キミだよ!!」 ボールから美しい、ふたまたの尻尾を持ったエーフィが現れる。 「エーフィだって!?・・・少し甘く見すぎたか・・・だが、簡単に勝たせはしない!体当たり!!」 イワークはその巨体をエーフィに向かって突撃させる。しかし、それを予測していたかのようにエーフィは軽々とそれをよける。 「それならば・・・岩落とし!」 タケシの指示でイワークは再び散乱しているジム内の岩を尾で弾き、それらがエーフィに降り注ぐ。 しかし、それらはエーフィに当たることなく空中で静止する。 ・・・エスパータイプであるエーフィの得意技の一つである念力を使って止めたのだ。 それを見たシュンはすかさずエーフィに指示を出す。 「エーフィそのまま念力でイワークにお返しだ!!」 するとエーフィの念力で操られた岩は、今度はイワークに降り注いだ。 だが、それらをイワークによける術は無く、まともに攻撃を受けてそのまま地に伏せることになった。 「・・・見事だ。まさかエーフィを持っていたとはな・・・油断してたよ」 「このエーフィはパートシティでマイさんにもらったんです」 シュンが少し照れながら言うと、 「だが、人からもらったポケモンはすぐにはなついてはくれない。それもキミの実力だよ。おめでとう」 タケシがそう言った直後、レイがバトルフィールドに立ちモンスターボールを投げる。 「さあ、次は俺の番だな。いくぞ、フシギちゃん!!」 フィールドに現れたフシギソウは一声鳴くといつでも戦えるように身構えている。 先程の戦いを見て火がついたのか、レイの様子がいつもと違うのを感じ取ったシュンは、 すぐにエーフィをボールに戻し、フィールドから出て行った。 「・・・手加減はいらないと言ったな。後悔するなよ・・・行け、カブトプス!!」 するとタケシはシュンが今まで見たことの無いポケモンを繰り出した。 「カブトプス・・・大昔に一度絶滅したと言われていたポケモンか・・・。 だが、そいつは水岩の複合タイプ!俺のフシギちゃんの敵じゃない!!」 レイが叫ぶと同時にフシギソウの背中の植物からはっぱカッターがカブトプスへと放たれた。 しかし、カブトプスはいとも簡単にそれらをカマ状の両腕でことごとく切り落とす。 「確かに相性だけならそちらがはるかに有利だろう。 だが、旅に出たばかりのポケモンと俺が長年鍛え上げたポケモンではレベルが違いすぎる」 タケシが冷静にそう言うと、カブトプスは草タイプの弱点である氷系の技、オーロラビームをフシギソウに向かって放った。 「!?・・・フシギちゃん!!左後方によけるんだ!!」 レイの指示で何とかオーロラビームをかわしたフシギソウだが、完全に避けきれたわけではなく、大きなダメージを受ける。 「ほう・・・よくアレをかわしたな。 流石に言うだけの事はあるってことか・・・しかし、これで終わりだ。カブトプス、切り裂く!!」 主の指示を受けたカブトプスはフシギソウにその両腕のカマを振り上げ向かってくる。 しかしレイはそれを待っていたかのように、 「今だ!!メガドレイン!!」 そして、二体のポケモンが交錯する。・・・勝ったのは・・・フシギソウだ。 「なに!?・・・そうか、メガドレインがカブトプスの急所に当たったのか! ・・・だからあの切り裂くに耐えることも出来た・・・」 「クッ・・・これがジムリーダーの実力・・・。戻れフシギちゃん!次はエアームド、お前だ!!」 レイが次のポケモンを出すが、タケシのほうは次を出す気配が無い。 「二匹目を出す必要は無い。合格だ。君の実力ならこのバッジを渡してもいい。」 そのタケシの言葉にレイは少し戸惑った。 「ポケモン同士のレベルの差はかなりあったはずだが、君は相性を上手く使って戦った。 その上、ポケモンの身体を気づかって攻撃と回復を同時に行った。そのフシギソウを大切にしている証拠だ。」 「・・・別に、気づかった訳じゃない。一番いいと思っただけだ」 レイが照れたように視線を逸らしながらそう言うと、タケシが苦笑しながら続ける。 「ただ勝つだけなら、あの時ははっぱカッターを使うはずだ。それをわざわざ威力の低いメガドレインを使った・・・。 それが何よりの証拠だよ。さあ、二人とも受け取ってくれ。・・・・これがグレーバッジだ」 その夜、レイとシュンはニビのポケモンセンターにいた。 「初めてのジム戦で勝っちゃった。・・・まだドキドキしてるよぉ〜」 シュンは先程のジム戦での勝利にいまだに興奮していた。それを見たレイがシュンに注意する。 「シュン、今日はもう遅い。早く寝るんだ・・・明日からはトキワを通ってマサラに向かうぞ」 いきなりのレイの提案にシュンは驚いたが、それはすぐに喜びに変わる。 「え・・・?本当に!?やったぁ〜!・・・でもどうしたの急に?」 「あまりはしゃぐな!・・・ただ、元リーグチャンピオンの家を見るのも良いかと思っただけだ・・・」 そう言ってレイは視線を窓のほうにやると、そこには満天の星空が優しい光でニビの町を照らしていた。