第九話 「真の頂を目指す者」  「くっそー、途中まではいい感じだったのになぁ〜」 「アオイ〜、早くポケモンセンターに行って、ピカピカ達を治してあげよう」 二人の少年がフスベジムと書かれた建物から肩を落としながら出てくる。 彼らはまだ、旅立ったばかりに新米トレ−ナー。 腕試しにとこの町のジムリーダーに挑もうとしたが、ジムトレ−ナー達との勝負に負け、仕方なくポケモンセンターに向かっていた。 しばらくしてフスベシティのポケモンセンターに到着すると、 二人はすぐに傷ついたポケモン達を預け、センター内の食堂で少し遅めの昼食をとる。 「はぁ〜、やっぱ竜使いの里だけあって、簡単には勝たせてはもらえねぇなぁ・・・」 アオイは日替わりのオススメランチを食べながらため息をつく。 「でもアオイは最初のジムトレ−ナーには勝てたじゃない。ボクは全然ダメだったのに」 もう一人の少年、ヨウヘイはお子様ランチをほおばりながら話す。その声にあまり落ち込んだ様子はなく、実に気楽だ。 「ヨウヘイ、お前はもう少しタイプとか相性とか考えたらどうだ? 相手が水タイプのタッツーなのに、地面タイプのウリムーで戦えば勝つのは難しいんだぜ?」 アオイは先程のジムトレ−ナーとの戦いでヨウヘイが負けた理由を指摘する。 「う〜ん、そおかなぁ〜?ま、いいや楽しかったし。それよりも、皆大丈夫かなぁ・・・?」 ヨウヘイはバトルの戦略や勝ち負けよりも、傷ついたポケモンの方が心配だった。 「お前たち、ジムに挑んで負けたって顔だな」 その時、二人の会話に割って入った人物がいた。歳はアオイ達よりも一つ上くらいだろうか、黒い服を着た赤い髪の少年だ。 「なんだよ、負けたら悪いかよ?テメェには関係ねーだろ!」 アオイがいかにも不機嫌そうな顔で答える。 「フッ・・・気に障ったか?まぁ、見たところ新米トレ−ナーのようだしな。 ここのトレ−ナー達が相手では一人にでも勝てれば上出来だ。しかし、ここのジムはあきらめた方がいい。 今のレベルならキキョウ辺りのジムで修行した方がポケモン達にかける負担も少ない」 少年がそう言うと、アオイはますます不機嫌な顔をする。 「んな事オレの勝手だろうが、テメエの指図は受ける気はないね!だいたい、他人に忠告できる程テメェは強いのかよ?」 アオイは少年を挑発するが、たいして気にした様子は無い。ヨウヘイはというと、そんな二人を気にもせず食事に夢中だ。 「やれやれ・・・もう少し自分のポケモンをいたわってやれ。レベル差がありすぎる相手とじゃあ、戦わされるポケモンが可哀相だ」 「な・・・もぉ〜アッタマにきた!!表に出やがれ!テメェがそこまで言うなら、どれほど強いのか教えてもらおうじゃねーか!!」 三人は食事の後、預けていたポケモンを受け取り、センターの外に出る。 「ポケモンは好きなだけ出せばいい。俺はこのニューラだけで十分だからな」 少年は自信たっぷりにそう言うと、モンスターボールから宣言通りニューラを出した。 「どこまでも人を馬鹿にしやがって・・・余裕ぶっていられるのも今のうちだぜ!行け、ロコン!!」 一方その頃、シュンとレイの二人はトキワの森にいた・・・が、 シュンは余所見をしていたせいでレイとはぐれてしまい、いきなり迷子になっていた。 「レイ〜、どこにいるの〜?レイ〜」 シュンは一人、レイを探す為に森をさまよっていた。 しかし、道が全くわからない上に、だんだんと見知らぬ場所に一人でいることの心細さがこみ上げてくる。 だが、シュンの目に涙がにじみ始めてきたその時だ。 森全体を包み込むような不思議な、それでいて安心してしまいそうな鈴のような音が鳴り響く。 直後、シュンは視界のすみで強い輝きを見つけた。 「今の・・・何?」 シュンがその光の方へ駆け寄ると、そこには虫の様なうすい羽を持ち、長い手と緑色の身体をした何かがそこにいた。 そう、まるで「森の妖精」のようなものが、空中に浮かんでいたのだ。 「君は・・・誰?ポケモン・・・なの?」 シュンがその妖精のようなものに近づこうとした瞬間、突風がシュンの視界をふさいだ。 そして次の瞬間、それは姿を消し、まるで何事もなかったように森は再び静寂に包まれる。 「一体・・・なんだったんだろう・・・?」 今の出来事に、シュンが首をかしげていると、近くの茂みからガサガサとレイが現れる。 「シュン、こんな所にいたのか!!・・・あれほど余所見をするなと言っただろう!!」 レイも同じようにシュンを探していたのだろう。会うなり、シュンに怒鳴りつける。 「ご、ごめん・・・レイ。あ、でもさ、今の光見た?妖精みたいなのもいたんだよ!」 シュンが少し興奮気味にレイに問う。 「光?妖精?・・・さぁな。・・・ったく、そんな事よりも早くこの森を抜けるぞ!!」 レイは特に関心を示さず、今度ははぐれないようにシュンの手を握ると、再び森の中を歩き出す。 ・・・シュンはレイに手を引かれながら、もう一度先程の場所を見つめていた。 アオイと赤い髪の少年とのバトルの結果に、ヨウヘイはただ呆然としていた。 「そんな・・・オレが・・・たった・・・ニューラ一匹にも勝てないなんて・・・」 アオイは両膝をつき、辺りにはアオイの手持ち全てのポケモンが倒れている。 「これで人の忠告を聞く気になっただろう?悪いことは言わない。今は他の町で修行した方が良い・・・じゃあな」 そう言って少年はきびすを返し、二人の前から去ろうとする。 「ま、待てよ!オレはビギンタウンのアオイ。・・・お前は?」 アオイの呼びかけに少年は足を止め、 「俺は・・・俺の名はシルバー。いずれ、真の最強と呼ばれる男だ!」 そう言い残し、赤い髪の少年・・・シルバーは再び歩き出す。 「シルバー・・・あいつ、何者なんだ・・・?」 アオイとヨウヘイは去って行くシルバーの後姿を、ただ呆然と見つめ、傾きだした赤い夕日は、静かに彼らを見守っていた。