第十話 『リーグチャンピオン』 ここは緑多き町、トキワシティ。その町の一角にある建物・・・そこからにぎやかな歓声が絶え間なく響いてくる。 「トレーナーハウス」それは一年ほど前にできたトキワの新名所。 ポケモンリーグのあるセキエイ高原に続くチャンピオンロードに近い為、トキワシティには常に多くのトレ−ナーが集まる。 そのトレ−ナー達がバトルや情報交換を気軽に行える場所として建てられたのがこのトレ−ナーハウスなのだ。 今、そのトレ−ナーハウスの地下練習場で二人のトレ−ナーが白熱したバトルを繰り広げている。 「・・・くそっ!ピジョン、風起こし!!」 ピジョンの翼から物凄い風が衝撃波となって子犬のように愛らしいポケモン・ガーディに襲い掛かる。 しかし、そのガーディのトレ−ナーである少年・・・レイはどこか余裕に満ちた表情をして相手の行動を見つめている。 「見切った!!行け、火炎車!!」 レイの合図と同時にガーディの小さな体は炎に包まれ、ピジョンの風起こしをものともせずに突撃し、見事にその攻撃を命中させた。 まともに火炎車を受けたピジョンはその一撃に耐え切れず、静かに崩れ落ちるのを見届けると、 しばらくの沈黙の後、周りのギャラリーから歓声が上がり勝者を称えた。 その勝者・・・レイの所へ一人の少年が駆け寄ってくる。 「レイ!凄いね、五人抜きだよ!おめでとう!!」 少年が頬を紅潮させ、興奮気味にそう言うが、レイは余り興味がなさそうに 「・・・別に。森で捕まえたピカチュウと交換したガーディが、たまたま親の火炎車を受け継いでいてくれたから勝てたようなもんさ。 ・・・この町のジムリーダーは留守だったからとりあえず戦える所に来ただけだったし・・・ そろそろマサラに向けて出発するか?シュン」 そう言って、レイはシュンと共に、未だ興奮の冷めないトレーナーハウスを後にしてマサラに向かおうとしたその時だった。 「なかなか良い育て方をしてるじゃねぇか。特に背が高いほうの坊主は技のバランスやポケモン同士の相性を良く考えてある。 まだまだ荒削りだが、これから先が楽しみだ」 二人の行く手にいた、一人の少年がそう呟いた。そして二人はその人物が意外だった為、更に驚いた。 「え?え?・・・もしかして、トキワジムのジムリーダーの、元チャンピオンのグリーンさん!?」 シュンのそのセリフにグリーンと呼ばれた少年は少し不機嫌な表情を見せる。 「元は余計だ!・・・ったく、あの時レッドに負けたせいで元だの三日天下だの・・・」 ブツブツとそう言いながらグリーンが愚痴を言い始める。しかし、レイはそれを無視して言い放つ。 「トキワジム・ジムリーダー、グリーン!あんたに公式ジムバトルを挑みたい!!」 レイが鋭い目つきでグリーンを見つめる。 「いいぜ!オレは誰の挑戦でも受けてやる!!・・・と言いたい所だが、悪いな。 今日からしばらく急用でジョウトの方まで行かなきゃならねぇんだ。 また今度、お前達が今よりも、もっと強くなった時に相手をしてやるよ。じゃあな!」 そう言って、グリーンはモンスターボールからピジョットを出してその背に乗ると、西の空へと飛んでいってしまった。 取り残された二人は、その光景をただ黙って見ているしかなかった。 しばらくするとレイがイライラした様子で歩き出した。 「くそっ!何のために現れたんだ、あいつは!!戦う気がないなら初めから姿を見せなければいいものを!!」 「い、いいじゃない。グリーンさんに会えただけでも凄いんだよ? それに、レイなんかグリーンさんに誉められてたじゃない。「先が楽しみだ」って」 シュンが不機嫌なレイをなだめるように話しかけながら、二人は再びマサラへと向けて歩き出した。 同じ頃、アオイとヨウヘイはワカバタウンに来ていた。 「ポニータだと山を降りるのが速いね。ね、アオイ!」 そういってヨウヘイがアオイのほうを見るが、アオイの顔色は良くない。 「・・・?大丈夫、アオイ?お腹でも痛いの?」 「・・・お前なぁ、なんであんなのの上に乗って平気なんだよ? こっちは気持ち悪くて仕方がねえってのに・・・。どうなってんだよその体は?」 アオイは口元を押さえながら話しているが、相当辛そうに見える。 「・・・ん?大丈夫か?お前、顔色が悪いぜ?」 そこへ、ワカバタウンに住んでいるらしい、一人の少年が二人に話しかけてきた。 「はじめまして、ボクはヨウヘイだよ。でね、こっちが友達のアオイ」 ヨウヘイが元気よく挨拶をすると、少年も自己紹介をする。 「お、こっちのチビは元気がいいな。おれはワカバタウンのゴールド。よろしくな」 少年の名を聞いた瞬間、アオイの表情が大きく変わった。 「むぅ〜、ボクはチビじゃないよ!ヨウヘイだもん!!」 ゴールドにチビ呼ばわりされて、ヨウヘイはほほをふくらませて講義する。 「ば、ばか!ヨウヘイ、この人は去年ポケモンリーグのチャンピオンになったゴールドさんだぞ!! なんて口の利き方をしてんだよ!!」 アオイは具合の悪いことも忘れて、焦りながらヨウヘイに注意する。 だが、当の本人であるゴールドは気にした様子もなく素直に謝罪する。 「はは、悪かったよ。ヨウヘイ。・・・それにしても、有名人は大変だよなぁ。 ファンに挑戦者に、色んなヤツが逢いに来るんだよなぁ〜」 「はぁ・・・?」 どうやらゴールドは二人の事をファンか挑戦者で、 わざわざ自分に逢いに来ているのだと勘違いしているらしく、何故か得意そうにしている。 「あの〜、浸ってるトコ悪いんですけど、オレ達はただ偶然この町に来ただけで・・・」 「へ・・・??」 アオイの台詞を聞いたゴールドは一瞬間抜けな顔をするがすぐに立ち直る。 「ま、まあそーゆうこともあるさ。でも、折角おれに会ったんだし、サインほしーとか、戦ってみてーとか、 弟子にしてくれーとか・・・思わねぇ?」 「え?・・・あ、その・・・まぁ・・・それなりに・・・」 ゴールドの静かな迫力に、アオイは曖昧な答えを返す。 「そーだろ。そーだろ。やっぱ有名人は辛いよなぁ〜。よし、決めた!二人とも今夜はおれン家に泊まってけよ。 しばらくはこの町にいられるんだろう?このゴールド様がポケモンバトルのコーチをしてやるよ」 ゴールドは満足そうに、しかし強引に二人を誘う。だが、二人にとってこの台詞は意外ではあるが、またとない機会でもある。 「い、いいんですか!?本当に?ゴールドさんが!!?」 「わぁ〜、ボクもゴールドさんの部屋を見てみたいなぁ」 「ふっふっふ。男に二言はない!このおれにまっかせなさい!!」 そう言ってゴールドは自分の胸を叩き、二人を自分の家に案内した。 その夜、アオイとヨウヘイはゴールドの家に泊めてもらえることになり、三人は夕食を済ませた後、現在一緒に入浴中である。 「ねぇねぇ、ゴールドさんが旅をしていたときの話を聞かせてよ!」 ヨウヘイがゴールドの背中を流しながら話しかけ、ゴールドも快く答える。 「あぁ、いいぜ。・・・そうだなぁ、何から話そうかな・・・」 ゴールドは湯に浸かりながら、ワカバタウンのポケモン研究者であるウツギ博士から初めてポケモンをもらった時の事。 ジム戦の事。ロケット団という組織の残党と戦った時の事など、ゴールドは上機嫌でそれらを話し、 二人はその話に目を輝かせながら聞き入っていた。 やがて、自分と何度となく戦った一人のトレ−ナーについて話し始めた時である。 「でさ、その何度もおれに挑んできた奴はシルバーっていってさ・・・」 ゴールドがシルバーとゆう名を口にしたとたん、アオイは思わず湯船から立ち上がってしまいゴールドが怪訝そうな顔をする。 「・・・どうした?おれ、何か変なことでも言ったか?」 「あ、いえ・・・その、そのシルバーって奴、もしかして黒い服着て赤い髪のやつじゃ・・・?」 アオイが恐る恐る聞くとゴールドは目を丸くする。 「へぇ〜、あいつに会ったのか?で、どうだった?元気にしてたか?」 ゴールドの言葉にアオイは少し戸惑いながら答える。 「え?・・・はい、元気そう・・・でした」 アオイは少し落ち込んだ様子を見せると、ヨウヘイが話しに割り込んでくる。 「アオイねぇ、そのシルバーって人のニューラ一匹にも勝てなかったんだ」 「ば、ヨウヘイ!!よけーなこと言うんじゃねぇよ!!」 アオイは顔を真っ赤にして抗議し、ゴールドは笑いながら二人に言う。 「ははは、そっか。あいつは元気か。アオイ、あんまり落ち込むなよ。 おれだって、今あいつと戦って必ず勝てるって保障は全くないんだぜ?」 そう言って、浴槽から上がると、軽く伸びをして二人の方へ振り返る。 「ふ〜ん。そんなにシルバーって人強いんだぁ」 ヨウヘイは無邪気に笑いながら答える。 「ま、そうゆうこと。・・・そろそろ上がって寝ようぜ。続きは明日にでも話してやるからさ。 二人ともまだ旅慣れてなくて疲れてんだろ?」 二人はゴールドの言葉に素直に従い、風呂から上がってゴールドの部屋で寝ることにする。 すると、すぐに体の力が抜けていき、心地よい眠りに身をゆだねると、あっという間に深い眠りに落ちる。 やがて長い夜も終わり、東の空が白く明るさを帯びていく。 この世界に、静かに新たな一日の始まりを告げるように・・・