第十二話 『天空の炎』 三人の少年と少女とおぼしき人影が、ハナダシティからヤマブキシティへと続く道を歩いている。 「あ〜あぁ・・・バッジ、貰えなかったよぉ」 最後尾を歩く、三人の中で一番背の低い少年が、残念そうに肩を落としている。 「・・・シュン。水タイプを使うジムリーダーにヒトカゲとサンドで戦いを挑んで、簡単に勝てるわけがないだろう!」 先頭を歩く一番背の高い少年は、肩を落としている少年・・・シュンに厳しく言う。 「ちょっとレイ。あなたは相性も良かったし、あのレベル差でも運良く勝てたからって調子に乗りすぎよ!?」 背の高い少年・・・レイに対して、年長者らしき少女が注意する。 「クリス、いちいち口を挟むな!大体、なんでお前が一緒に来ているんだ!!」 少女・・・クリスはレイの言葉を無視して続ける。 「話題を勝手に変えないで!! 大体、レイは自分のレベルを考えもしないで相手に突っかかりすぎよ! ジムバトルは喧嘩じゃない!自分の腕を磨き、試す所なの! もう少し、その偉そうな口の利き方を直したら!?」 少女に指摘され、レイは次の言葉が出ない。 「で、でも、レイがぼくに言ったことも正しいし・・・」 二人の後ろにいたシュンは、申し訳なさそうに小声で呟く。 「シュン君・・・君は不利な条件でよく頑張ったよ? だから次を頑張ればいいの。わかった?」 「う、うん・・・」 クリスがシュンの方を向いて優しく微笑み、シュンも顔を赤くしながら頷く。 レイは一人、面白くなさそうに足を速めていった。 そんな会話をしながら暫く歩いていると、三人の行く先で二人の男女がポケモンバトルを繰り広げていた。 「ジュゴン、冷凍ビーム!!」 「バクエン、右にかわして爆裂パンチ!」 ジュゴンが放った冷凍ビームを、バクエンと呼ばれたバクフーンは男性の指示に従って右へ飛び、攻撃を避ける。 そして凄い速さでジュゴンに近づくと、その勢いに乗って強烈なパンチを浴びせる。 その一撃でジュゴンは吹き飛び、戦闘不能となった。 「ジュゴン、戻りなさい!」 女性はモンスターボールにジュゴンを戻す。 「・・・バクエン、ご苦労だった。戻れ!」 男性もバクフーンをボールに戻すと、女性が話しかける。 「今回も負けた・・・か。また腕を上げたみたいね。元気にしてた?・・・ケン」 「えぇ、お久しぶりです・・・カンナさん。 でも一対一ではなく、ちゃんとしたフルバトルなら、結果は違っていたかもしれない。 流石は元四天王「氷のカンナ」。楽に勝たせてはもらえませんね」 二人・・・ケンと呼ばれた男性は、カンナと呼ばれた女性と親しそうに話している。 それを見ていた三人は、思わず目を見開いてその光景を見ていた。 「ケン・・・兄ちゃん・・・?」 「元四天王の・・・カンナだと・・・!?」 シュンとレイは道端で戦っていた二人を見て、驚きの声を上げる。 「何?どうしたの?あの男の人、二人の知り合い?」 クリスは事情を飲み込めずに、二人を交互に見ている。 すると戦っていた男女は三人に気付き、男性はこちらを向いて声をかける。 「・・・シュン・・・?それに、レイ!? 二人とも、どうしてこんな所に!?いや、それよりも久しぶりじゃないか。 二年ぶり位だっけ?俺の事、覚えてくれてるか?」 突然の再会に、シュンとレイは暫く硬直していた。 「え?あ、うん・・・兄ちゃん久しぶり。えと・・・あの・・・」 シュンは戸惑いながらうつむいており、声も小さくなっている。 「久しぶりに会って、照れてるのか?シュン。 でも、大きくなったなぁ。今年トレ−ナーになったんだっけ?」 「・・・う、うん。そうだよ。この前ヤサカ博士にポケモンを貰って旅に出たんだ。 ・・・あのさ、えっと・・・どうしよう・・・? 話したい事とか、聞きたい事とか一杯あるのに・・・わけわかんなくなっちゃったよぉ」 シュンは顔を真っ赤にして身振り手振り、必死で何かを言おうとしているが、上手く伝わらない。 それをケンは辛抱強く、しゃがんでシュンの話を楽しそうに聞いている。 その時、レイが横から口を挟んできた。 「ケンさん・・・その女性、元四天王「氷のカンナ」と言いましたよね?」 レイが鋭い眼でケンを見据える。 「・・・あぁ、そうだ。紹介するまでも無いと思うが、 彼女はポケモンリーグ、「カントー・ジョウト地区リーグ」の元四天王カンナさんだ」 ケンは立ち上がり、カンナの方を向きながら紹介する。 「あの・・・失礼ですが、そのカンナさんとケンさんはどういうご関係で?」 クリスも興味があるのか、話に加わる。 「君は・・・?」 「あ、はじめまして。私はクリスと言います。オーキド博士のポケモン図鑑作成を手伝っていたものです」 「初めまして、俺はケン。シュンやレイの兄貴分ってとこかな?」 クリスとケンが自己紹介を済ませると、カンナが口を開いた。 「初めまして。ケンが言ったけど、一応元四天王をやらせてもらっていたカンナは私。 さっきの質問だけど、ちょっとしたライバル・・・ってところかな? でも、彼にはまだ一度も勝ったことがないんだけど・・・ね」 カンナの台詞に、一同が驚きの声を上げる。 「えぇ!・・・兄ちゃん・・・すごく強いんだ・・・」 「・・・確かに、話には聞いていたが少し意外ではあるな・・・」 「元とはいえ、四天王の一人が一度も勝ったことないなんて凄いことですよ!」 そこへケンが慌てて声をかけた。 「ちょっ・・・カンナさん!ライバルだなんて、誤解を招くような言い方しないで下さいよ!」 「あら、嘘は言ってないでしょう? 事実、引き分けたことはあっても、勝った覚えはないんだし。 それに・・・私は「氷と水」。あなたは「炎と飛行」。 タイプ的にも、丁度いいライバルだと思うんだけど?」 カンナははっきりと、しかしどこかからかう様に言う。 「・・・そんなことはどうでもいい! カンナさん、俺と戦ってくれ!元四天王のあなたに、俺の今の力が何処まで通用するか、試したいんだ!!」 いきなりのレイの発言に、全員が一瞬あっけにとられる。 「・・・いいけど、私よりはケンの方が強いんだし・・・そっちじゃなくていいの?」 カンナが少し困ったように言う。 「構わない。どうせ、シュンがケンさんと戦うんだろうしな」 レイの言葉に、思い出したようにシュンがケンの方を向いた。 「ケン兄ちゃん!ぼくと戦ってくれるよね!? 二年前、ぼくがトレ−ナーになったらバトルしようって、約束したよね!? ぼく弱いけど、兄ちゃんに今のぼくの力を見て欲しいんだ!!」 シュンがまくし立てる様にケンに詰め寄る。 「あぁ、覚えているさ。今のシュンがどれだけ修行を積んでいるのか、見せてくれ」 ケンは、弟のように思っているシュンの頭を撫でながら優しく答えた。 すると、カンナがちょっとした提案をする。 「ねぇ、どうせなら私とシュン君。あなたとレイ君が組んだ、ダブルバトルにしない?」 その一言に、その場にいた全員が少し戸惑ったような表情をした。 やがて、レイが最初に口を開く。 「・・・俺はそれで構わない。シュンとも戦って見たいしな。 だが、俺の目的はあくまでもカンナさんだ。ケンさん、余り邪魔をしないでくれよ」 「・・・やれやれ、仕方ないなぁ。まぁ、面白そうだしいいか」 ケンもどこか楽しそうにしている。 「シュン君は・・・それでいい?」 「は、はい!宜しくお願いします、カンナさん!!」 シュンも姿勢を正してカンナに一礼する。 空は何処までも高く、暖かい初夏の風が、彼らの戦いを見守るように包み込んでいた。