第十六話 「再会」  カントーのヤマブキとジョウトを結ぶリニアの終着駅コガネ。 そこは最もジョウトでにぎやかであろう大都市。 シュン、レイ、ケン、クリス、カンナの五人はリニアに乗ってこのコガネについさっき到着したばかりである。 「うわぁ〜、大きな街だね。ね、兄ちゃん」 シュンが隣にいる青年のケンに興奮したような笑顔を向ける。 「・・・ん?あぁ、そうだな。・・・こんな大きな街に来るのはかなり久しぶりだ・・・」 ケンは少し険しい表情を見せていたが、シュンの言葉を聞いてすぐに表情を緩める。 「とりあえず、これからどうする? 流石に今日はもう、ポケモンセンターに行くしかないが・・・」 レイが全員に問いかける。 「そのほうがいいでしょうね。そろそろ日も暮れる時刻だし・・・。 でも、私はこの街は余り知らないから暫く探し回るしかないでしょうけど・・・」 カンナが少し困ったようにあごに手を当てた。 「じゃあ、私がセンターまで案内します。 この街には何度も来ていますから。ちゃんとついてきてくださいね?」 するとクリスが道案内を申し出、全員はその後をついて行く事にした。 その少し前・・・三人の少年がヒワダ側の入り口からこのコガネに到着していた。 「さてと・・・。ウバメの森は近道したから、なんとか今夜もポケモンセンターで休めそうだな。 アオイ、ヨウヘイ。ジム戦は明日にしようぜ?」 リーダー格らしい少年・・・ゴールドがそういって後ろを振り返る。 「あ〜、腹減った。おい、ぼさっとしてないで早く行こうぜ、ヨウヘイ」 「ほぇ〜、おっきい街だねぇ〜」 ヨウヘイと呼ばれた背の低い少年は街を珍しそうに、食い入るように見つめていた。 「ったく、聞こえてねぇのかよ?ほら、行くぞ!」 声をかけていた少年・・・アオイがヨウヘイの腕を引っ張って半ば無理矢理に連れて行く。 「え〜っと、確かポケモンセンターはこっちだったよな・・・?」 ゴールドは記憶を辿るようにゆっくりと辺りを確認しながら進んでいく。 そうやっている内に、やがて目的地のポケモンセンターが見えてくる。 「お、あったあった。二人とも、ついたぜ・・・って、美女発見!」 「なにぃ!!」 その時、ゴールドはセンターの前にいる一人の女性を発見、するとアオイも素早く反応した。 そんな二人の声が聞こえていたのか、女性はこちらを向いて近寄ってくる。 「キミ・・・もしかして去年のリーグ優勝者のゴールド君?」 女性の質問に、ゴールドは得意そうに前髪を掻き揚げる。 「はっはっは。こんな通りすがりのお姉さんまでおれに声をかけてくれるなんて、有名人はつらいね。 サインその他、あなたのような綺麗な女性の為ならなんなりと」 「お姉さん、オレはゴールドさんの弟子のアオイって言います。 どうです?よかったらこれからポケモンセンターで一緒に夕食でも・・・?」 アオイもゴールドに続くように女性に声をかける。 ・・・どうやらこの二人はかなりの似たもの同士らしい。 そんなやり取りを行っていると、その二人に近寄る二つの影があった。 「ごぉ〜るどぉ〜!!あんた、こんなとこまできて何やってんのよ!! 私に図鑑作成のほとんどを押し付けた上、カントーまで行かせて調べ物をさせてたくせに、いい身分じゃない!!!」 「・・・貴様はどこにいてもやることが変わらんのか!?少しは成長しろ!恥さらしめ!!」 すると、一つはゴールドの耳を引っ張り、もう一つはアオイの頭にかかと落しを決める。 「いってててててて!!く、クリス?なんでここに!?もう帰ってきたのかよ!!?」 クリスの手から逃れたゴールドは引っ張られた耳を押さえながら、逃げるように女性の後ろへ隠れた。 「ちょっと、なにカンナさんの後ろに隠れてんの!出てきなさい!!」 「こらこら、ちょっと落ち着きなさい。クリスちゃん」 そこへシュンと一緒に遅れてきたケンが現れてクリスをなだめ始める。 「あ〜、シュンにレイだ〜♪それにお兄ちゃんもいる〜。久しぶりだね〜ヨウヘイだよ、覚えてる?」 「あは、ヨウヘイ元気だった?」 シュンとヨウヘイは飛び跳ねながら、お互いに手を取り合って再会を喜ぶ。 「はは、相変わらず小っこいな、ヨウヘイは」 ケンもヨウヘイの頭を撫でながら、二年ぶりの再会を喜んでいる様子だ。 「・・・いっつつつ・・・て、テメェ・・・レイじゃねぇか!! カントーにいたんじゃなかったのかよ!?ってか、再会早々いきなり蹴りやがって!!!」 アオイが後頭部を押さえながらレイの方を向いて立ち上がった。 「貴様こそ再会した時くらい、その恥さらしな行動をやめたらどうだ!!」 レイもアオイに食って掛かる。 「テメェ・・・今日という今日はあったまにきた、ぶっ飛ばしてやるよ!! 行け!サンダース!!」 「ほう・・・いい度胸だな?貴様とは一度決着をつけておきたかったんだ! 遠慮などせん!やれ、ブラッキー!!」 アオイのモンスターボールからは電気タイプのサンダース。 レイのモンスターボールからは悪タイプのブラッキー。 どちらも同じイーブイと呼ばれる種から分岐進化したポケモンだ。 そして二人は、ポケモンセンターの前でバトルを開始した。 「サンダース、電磁波だ!」 アオイの指示を聞いてサンダースは針のように尖った体毛を逆立てると、ブラッキーに向けて電磁波を放つ。 その攻撃はブラッキーを見事に直撃し、ブラッキーは麻痺してしまった。 「ふん、相変わらず補助系統の技が得意らしいな。 だが、その程度は予想の範囲内だ!ブラッキー、黒い眼差し!!」 レイの声と同時にブラッキーの眼は妖しい輝きを放ち、サンダースを照らす。 黒い眼差しとは、その光に照らされたポケモンを逃げることができないようにする技。 即ちモンスターボールに戻せなくなって、ポケモンの交換も不可能になるのだ。 「ちっ、交換させねぇ気か。・・・でもな、オレも昔のままじゃないんだぜ!?喰らいな、雷!!」 サンダースの身体から放たれた激しい電流は一度上昇し、本物の雷のようにブラッキーに向かって落ちる。 だが、ブラッキーはそれを軽快な動きで難なくかわす。 「・・・んな、麻痺してて動きは鈍っているはずじゃねぇのかよ!?」 「フン、甘いな。麻痺直しの実を持たせておいたんだ! 貴様と戦うのならば、これくらいの用意は当然だろう!!」 ブラッキーに予想外の動きをされて動揺するアオイ。 レイは己の読みが当たると、すぐに次の指示を考える。 「・・・だったら、もう一度電磁波を当てた後に雷だ!!」 「ちぃ、雷は厄介だ。ブラッキー、どくどく!!」 サンダースの電磁波が当たるのと同時に、ブラッキーのどくどくも相手に命中した。 「・・・げ!黒い眼差しで逃げられねぇ上に、どくどくだって!?」 どくどくは相手に強力な毒を与え、相手が行動する度にその効果は増大していく技。 通常の毒状態とは異なり、徐々にダメージを与えるのではない為、 使いどころを間違わなければこれ以上厄介な技はないのである。 「さぁ、そのサンダースは行動するたびに毒の進行が早くなるぞ? 降参するかアオイ?・・・それとも負けるとわかっていて続けるか!」 「・・・けっ!ようはブラッキーをさっさと倒せば交代できるんだ! だったらぶっとばす!いけ、雨乞いだ!!」 サンダースの身体が震えたかと思うと微弱な電気が上空へと走り、 辺りに小さな雨雲のミニチュアのようなものを作り出した。 「・・・雨乞いで雷の命中精度を上げる気か・・・。 更に言うなら、アオイのメインポケモンは水タイプのはず。 ・・・先の戦いまで考えての行動か。確かに腕を上げているようだな! だが、それだけじゃ俺には勝てない。ブラッキー、騙し討ちだ!!」 レイはアオイの行動の意図を理解すると、すぐさま攻撃に移る。 ブラッキーはサンダースに向かって不規則な動きでゆっくりと近づくと、 攻撃の間合いに入った途端、急にその姿を消した。 「サンダース、上だ!」 ブラッキーがジャンプしたことにアオイが一瞬早く気がつくが、 サンダースは闇夜に紛れたブラッキーの姿を補足できなかった為に攻撃を避けきれず、直撃を受ける。 更に毒によるダメージがじわじわと効果を表しだした。 「くっ・・・だが、まだいけるぜ!最大パワーの雷をお見舞いしてやれ!!」 アオイが叫び、サンダースが雷を相手に放つ。 それは巨大な光の柱となってブラッキーに避ける隙を与えずに直撃する。 その一撃で、ブラッキーの体力は大幅に削られた。 「・・・!まさかここまで威力があるとは・・・。 そうか、電気タイプの技の威力を少しだけ上げることができる「磁石」を持たせているのか! それでも防御能力の高いブラッキーなら、まだ耐えられる!もう一度騙し討ちだ!!」 レイの指示と同時に、ブラッキーは再び闇に紛れてサンダースを攻撃・・・するはずだった。 ブラッキーの攻撃がサンダースに当たる直前の出来事だ。 黒い大きな物体が二匹の首を掴んで地面に押さえつけたのである。 「なっ・・・バクフーン!?」 「だ、誰のバクフーンだよ?邪魔すんな!」 二匹は一匹のバクフーンによって押さえつけられていたのだ。 「二人とも、じゃれあうのはそれくらいにしたらどうだ? 再会した事が嬉しいのはわかるが、何時までもポケモンセンターの前で暴れるもんじゃないだろう?」 そう言いながらケンは押さえつけられた二匹に近寄り、サンダースに何かの木の実を与えた。 すると、サンダースの体を蝕んでいた毒が徐々に消えていく。 「え・・・?サンダースの毒が治った・・・?」 「・・・ケンさん、それは?この辺りで見かける毒消しの実ではなさそうですが?」 レイが少し不機嫌そうに聞いた。 「あぁ、これはモモンの実と言ってね。 毒を中和する作用があるもっと南の方の地域特産の木の実さ。 さ、二人ともポケモンをボールに戻しなさい。 シュンやヨウヘイだけじゃなく、周りの皆も心配しているぞ」 ケンがそう言って後ろを指差すと、戦いを見守っていた面々がこちらを見詰めていた。 その後、再会を果たした彼らはポケモンセンターの食堂で談笑しながら夕食をとっている。 だが、流石に八人という人数は目立つ。 否が応でも人の目を引くのだが、そんなことなど気にもせず、彼らの話は盛り上がっていった。 「ふえ〜、まさかアニキと元四天王のカンナさんがお知り合いだったなんてねぇ〜」 「でしょでしょ?ぼくも最初はびっくりしたんだよぉ」 アオイが感心したようにため息をつき、シュンが嬉しそうにはしゃいでいる。 「ったくよぉ、折角綺麗なお姉さんがいたと思ったのに、クリスに見つかるなんてついてないぜ」 「あんたねぇ〜、まだそんな事言う訳? 大体、面倒ごとを私に全部押し付けて自分はリーグだ、放浪の旅だって、自分勝手にやってるのが悪いんでしょうが!」 ゴールドとクリスは未だに先程の事で言い合っていた。 「あのねぇ、ボクはバッジを二個貰えたんだよ〜。見て見て〜♪」 「ほう・・・ヨウヘイも腕を上げたんだな。 皆バッジを貰っている数はほとんど同じ・・・。順調に強くなっているのか」 ヨウヘイが嬉しそうにバッジを見せながら、レイと話している。 それぞれが今までの旅の出来事や思い出などを話していると、不意にケンが口を開く。 「皆、そのままで聞いてくれ。シュン達は明日、ジム戦に行くんだろう? それに、カンナさんはラジオ局に仕事があるはずだし、俺は用事ができてエンジュまで行かないといけないんだ」 そのケンの言葉を聞いて、全員は彼が何を言おうとしているのかを理解した。 「そうね・・・折角楽しくなってきた所だけど・・・この辺りで解散しないとね」 カンナが食後のコーヒーを飲みながら呟く。 「え〜、ボク達お兄ちゃんにまだあったばかりなのにぃ〜」 「ま、アニキもトレ−ナーなんだし、仕方ないさ。 それよりもオレは、カンナさんやクリスさんのような綺麗な人と別れる方が残念でならないよ」 ヨウヘイが口を尖らせるように言い、アオイは名残惜しそうに二人を見詰める。 「あはは、アオイ君ってお世辞が上手なんだからぁ♪ ほんっと、どっかの誰かさんとは大違いよね!」 クリスが半分睨むようにゴールドを見る。 「アオイ・・・悪いことは言わねぇ。 クリスなんか相手にすると、後悔することになるぜ・・・?」 ゴールドが沈痛な表情で頭を抱えながら呟く。 「ちょっとゴールド!後悔するってどういう意味よ!?」 「どうもこうも、言葉そのままの意味だろ・・・」 クリスがゴールドに食って掛かる横で、レイが呆れたように呟いた。 その言葉を聞いたクリスが、今後はレイに怒りの矛先を向ける。 それをシュンとヨウヘイはオロオロとしながら成り行きを見ているしかできない。 カンナは何時の間にか部屋へ戻ったらしく、 そして・・・その喧騒の中、ケンは静かに席を立ち、ポケモンセンターを後にしていた・・・。 月は隠れ、闇が静かに夜を支配し 遥か北に見える塔のシルエットは、ただ悠然と時の流れを見守っている その闇夜の中、森の中を黒い小さな翼が塔の方へと飛び去っていく ・・・漆黒のマントをはためかせながら、疾り抜ける人影と共に・・・