第十八話 「疾り出す獣」 「・・・クリス、あの野郎の消息はわかったか?」 夜も遅い、月の無い夜。コガネのポケモンセンターの裏庭で、人目を避けるような二人の人影があった。 「・・・全然。一年前に「私達三人」と「スイクン達」を引き合わせた上に、 捕獲までさせた「怪盗 闇神楽」は神出鬼没・・・。 ただ、「闇神楽」は必ずと言っていいほどポケモン絡みの犯罪には顔を見せているわ。 ・・・それも、ポケモンで犯罪を企てるヤツラの敵として・・・ ねぇゴールド、彼らは一体何がしたいのかな?」 クリスと呼ばれた少女は首をゆっくりと横に振りながら、ゴールドと呼んだ少年に説明する。 「おれのほうも、あの時の科学者のジジィについて調べてみたけどよ、あいつも全く手がかりがねぇ。 ただ、あいつは執拗に伝説や幻と呼ばれるポケモンを狙い、 他にも元々の戦闘能力が高いポケモンを捕まえている。 最強のトレーナーでも目指してるって訳じゃなさそうだが、 決して「ポケモンに優しい奴」じゃねぇってのはハッキリした。 そして、あの「闇神楽」とは犬猿の仲だってこともな・・・」 ゴールドも独自に調べた事をクリスへ報告したその時だった。 「ゴールド!アレを見て!!」 クリスが突然北の方向を指差す。 その方向を見ると、エンジュにあるスズの塔の最上階が燃えるような強い光に包まれ始めていたのだ。 「なんだありゃ!? クリス、ただ事じゃねぇぞ!急いでエンジュに向かうんだ!!」 「うん、わかった!」 「ゴールドさん!クリスさん!!」 二人がエンジュへ向かう為の行動を起こそうとした時、不意に二人に声をかける者がいた。 「シュン君・・・それに皆まで!」 「ちぃ、余計なとこで出てきやがって・・・」 そこには、塔の異変に気がついたらしいシュン達四人が二人の背後へと駆けつけてきている。 「クリス、あの光はなんなんだ!どうせあそこに行くつもりなのだろう?」 「水臭いぜ、ゴールドさん!オレ達も力になります!!」 レイ、アオイが交互に口を開く。 「皆、今回の事だけは首を突っ込まないで!遊びや冒険なんかで済む問題じゃないの!!」 「クリスの言う通りだ。足手纏いになりたくなかったら、黙ってな!!」 それをクリス、ゴールドの二人は厳しい口調で拒む。 「遊びや冒険のつもりで行く気などない! クリスこそ、こっちのことには勝手に首を突っ込んでおいて、 自分の都合には首を突っ込むななどと勝手なことばかり言うな!!こっちも勝手について行く、文句は言わせん!!」 レイも負けじと激しい口調で反論すると、二人はその剣幕に押されたのか、しぶしぶ四人の同行を承諾した。 「ったく、仕方ねぇな・・・クリスのせいだからな・・・! さあ、時間がねぇぞ!出て来い、ライコウ!!!」 「・・・絶対危ないことはしないでよ?皆、いい?じゃ、行くよスイクン!!」 二人は、荒々しい雷がそのまま獣化したようなポケモン・ライコウと、神々しい水のようなポケモン・スイクンを出す。 「で、伝説のポケモン〜〜〜!?」 「今回はこいつ等じゃないとまずいんだ!だからお前らを連れて行きたくねぇんだよ!!」 アオイは二人が出したポケモンを見てまともに驚き、ゴールドがうんざりしたようにぼやく。 「さ、皆後ろに乗って!!」 いつの間にかスイクンの背中に乗ったクリスが叫ぶ。 「オラ、もたもたすんな!行くぞ!!」 ゴールドが怒鳴ると、レイがスイクンに、アオイがライコウに乗る。 「ボクはクリスさんのほうにのる〜♪」 シュンがスイクンに乗ろうとした時、ヨウヘイがいきなり割ってはいる。 シュンが仕方なくライコウの方へ行こうとした瞬間だった。 「ゴールド、先に行くよ!スイクン、お願い!!」 そう言ってクリス達を乗せたスイクンが風のように走り出す。 「コラ、待ちやがれ!ライコウ、遅れるな!!」 ゴールドは、シュンが乗る前に出発してしまったのだ。 二匹が猛スピードで走り去った後には、凄まじい砂煙だけを残し、乗り遅れたシュンはただ呆然としていた。 「ケホッケホッ!そんなぁ〜・・・ぼくだけ置いてかないでよ〜〜〜!!」 砂埃にむせながら、シュンは涙混じりにスイクンとライコウが去った方向に叫んだ。 赤々と燃える夜の空を、ジョウトの全ての命が見上げる。 それは激しく幕を開けることになる、誰も知らない歴史の幕開け。 ・・・運命は今、激しくうねり始めた・・・