第31話 違う道でも…… -Crazy for my dream- 「でもさ、意外だったよ」 ハルカはジュースの缶を片手に、アカツキの顔を見つめながらポツリと言った。 ポケモンセンターのロビーにて。 先ほどビーチで激しいバトルを繰り広げたふたりは、それぞれのポケモンを回復させるために、ポケモンセンターへと戻ってきた。 ポケモンをジョーイに預けて回復させている間、トレーナーの方も小休止を取ることにした。 休みがてら、いろいろな話に花を咲かせているというわけだ。 お互い話したいことがあるのだから、自然とそういう流れになる。 どちらともなく話が始まって、先ほどのバトルの話に変わったところだ。 「意外って?」 背もたれのない、ただの座椅子にふたり並んで座り、ジュースを飲みながら話す。 端から見れば、仲のいいカップルに映るのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。 「そのまんまの意味だよ」 訝しげに眉をひそめて聞き返すアカツキに、ハルカは輝かんばかりの笑みを向けた。 「いつかはバトルするんじゃないかなぁ、とは思ってたんだけどね。 今までにもいろいろとやってきたから、勝てるって思ってたんだよ。 でも、アカツキは強いね。 まさか引き分けになるなんて思ってもなかったもの」 「うん。ハルカも強いよ。 キルリアのサイコキネシスでジグザグマを盾に取られた時には驚いたもん」 アカツキは何気なく言葉を返したつもりだったが、ハルカの表情が曇った。 バトル中の出来事とはいえ、相手を盾にしたことに罪悪感を抱いているらしかった。 「ごめんね、そんなことしちゃって……」 「いいよ。それもひとつの戦い方だから」 申し訳なさそうに謝るハルカに、アカツキは気にしていないと告げた。 脳裏によみがえるその光景に、アカツキの顔から笑みが消えうせた。 気にしていないと言ったが、それでも気にしないというのは無理だった。 ハルカはとっさの思いつきで、ジグザグマをワカシャモの火炎放射に対する盾にしてしまったのだ。 少し前までのアカツキなら、卑怯だ何だと彼女を激しく責め立てていただろう。 だが、不思議なことにそんな気がまるで起こらない。 それは、彼が様々なバトルを経験して、視野が広がったためだ。 いろいろな戦い方を見て、たとえ卑怯と思われる方法でも立派な戦術と受け止められるようになった。 ある意味では成長と呼べるのかもしれない。 「ワカシャモに対して有利なタイプを持つヌマクローでも、相打ちになっちゃうんだもの。 よっぽど強く育てたってのが分かるよ」 「ありがとう」 賛辞を、アカツキは一応受け取ることにした。 鼻で笑い飛ばす理由なんてなかったから。 「ぼくも、ハルカがここまでやるなんて思ってなかった。 ユウキとも戦ったけど、やっぱりユウキは強かったよ。ハルカも、ぼくも。同じくらいだって分かるんだ」 「え、ユウキとバトルしたの?」 「うん」 アカツキとしては別段意識したつもりもなかったのだが、ユウキという名前を耳にしたハルカは驚きの表情を見せた。 「ユウキと会ったんだ。どこで?」 「ムロタウンだよ。ポケモンセンターで会ったんだ。 たぶん、偶然だったんだろうと思うけど」 「そうなんだ……」 偶然…… アカツキは少なくともそう思っている。 あのタイミングでポケモンセンターのロビーに顔を出しているという確率は、どれくらいだろうか。 考えると、それほど高くないという結論に至った。だから、偶然と言ったのだ。 あるいは、それは必然と呼べるのかもしれない。 その日でなくても、翌日……朝食でも摂っていれば、顔を合わせるかも知れない。 そっちの方が確率的には高いだろうし、そのふたつが同時に起こらないと考えると、確率の足し算が成り立つ。 とすれば、少しは必然に近づける確率だったのだろう。 「ハルカはユウキに会ってないんでしょ?」 「ええ。あたしは本島から離れてないから……ユウキとは正反対ね」 「うん」 三者三様の道筋。 アカツキはその中でふたりの親友と再会を果たした。 ただそれだけのことかもしれない。 「ハルカは今までどうしてたの?」 「あたし?」 「うん」 「あたしはね……」 尋ねられ、ハルカは上を向いた。 大きな天窓から降り注ぐ陽光が、吹き抜けに満ちている。 空気中の塵や埃が光を反射して、きらきらと輝きの粉を作る。 そんな光景に見惚れていたわけではないが、ただ上を向いていた。 しばらく経ってから顔をアカツキに向けて、 「お父さんのようなすごいトレーナーになるのがあたしの夢だって、あたし、君にそう言ったでしょ?」 「うん、覚えてるよ」 「そのためにね、あたしは各地にあるジムに挑んできたの」 おもむろにバッグのチャックを開けて、中から箱を取り出した。 その箱にアカツキは見覚えがあった。 ハルカはその箱を開いてみせた。 すると―― 「うわ……」 燦然と輝くバッジが丁寧に三つ並べられていた。 ひとつはカナズミジムのストーンバッジ。 残るふたつに見覚えはなかったが、ホウエンリーグに出場するために必要なリーグバッジであることに違いはないだろう。 ぼくよりもひとつ多いし…… 呆然としていると、ハルカは端からバッジの説明を始めた。 アカツキがバッジに見惚れているとでも思ったのだろうか、どこか張り切っているような声で。 名前くらいは知っている街のジムで、名前も知らないジムリーダーと戦ったことを、誇らしげに話すハルカ。 彼らに敬意を抱き、彼らに勝った自分に自信をつけているのが、表情と口調から良く分かる。 そして最後にカナズミジムのストーンバッジに話が及んだ。 「これはカナズミジムのストーンバッジ。ジムリーダーはツツジさんだったかな? すっごく大変だったけど、何とか勝てたの。 初めてジム戦挑んだんで不安だったけど、その時にはヌマクローに進化してたから……何とかね」 「そうなんだ……ぼくも、実は……」 「?」 アカツキが同じ箱をリュックから取り出すと、ハルカはハッと驚いた。 「あれ? その箱……アカツキもジム戦挑んでるの?」 「うん」 アカツキは頷くと、恥ずかしげに視線を下げ、箱を開いた。 ハルカの箱に入っているのと同じストーンバッジと、あとひとつはムロジムのナックルバッジ。 「へえ……」 興味深そうに箱の中身を覗き込むハルカ。 数的に少ないから、余計に恥ずかしくなるのを何とか気力で堪え、 「ぼくはキミほど積極的にジム戦やってきたわけじゃないし…… ハルカの方がすごいよ。センリさんのようになれるといいね」 「うん」 と、頷いて……はたと気づく。 「どうしてアカツキがお父さんの名前知ってるの? あたし、キミの前で一度も話してなかったような気がするんだけど」 「うん。会ったから」 「へ?」 単純な答えに、ハルカは面食らった。 鳩が豆鉄砲食らったような顔をアカツキに向けている。 そんな顔を向けられながらも、 「ぼくもね、黒いリザードンをゲットするのに必要な実力が欲しいから。 だから、強くなりたくて、ジム戦やることに決めたんだ。 少しでも強くならなきゃ、リザードンなんてゲットできないからね」 「そうね。リザードンは強いもんね。新人トレーナーがほいほいゲットできるよなポケモンじゃないもんね」 ハルカは父センリから、いろいろなポケモンの話を聞いてきた。 ミシロタウンを旅立って、一度父の元へ赴いているのだ。 その時もいろいろな話を聞いたから、少しは造詣も深くなったつもりだ。 「それでまずトウカジムに行こうとしたんだけど……」 「そこでお父さんに会ったと、そういうこと?」 「うん。キミがぼくのこと話してくれてたみたいで、すぐにぼくだって、分かったらしいんだ。 でも、バトルは受けてもらえなかったよ。ぼくと同じこと、言われたと思うから」 「バッジを四つ集めろって話?」 「うん」 ハルカも同じことを言われたのだ。 新人トレーナーとバトルするのでは面白くない。 その代わり、せめてもっと強くなってから――具体的には四つのバッジを集めた後であれば、いつでも受けて立つと。 ハルカはセンリのような強くてカッコいいトレーナーになるために、何としても彼と戦わなければならないと思っている。 目標にするだけじゃない。 目標は達成されるべきもの。つまり、超えるべきものなのだ。 「そうなんだ、だからお父さんに会ったんだね。って、もしかして、あたしの後をついて来るような形でカナズミシティまで行ったってこと?」 「そういうことになるのかな。ぼくにはそんなつもりなんてなかったんだけど……」 今度はアカツキの方が申し訳なさそうに言った。 ハルカが気にしているのではないかと思ったからだ。 話だけ聞けば、金魚のフンと思われても不思議はない。 もっとも、ハルカはそんな風に思ってはいない。 アカツキにはアカツキの旅があるわけだし、それについて文句など言うつもりもない。 たまたま、カナズミシティまでのコースが同じだっただけだ。 「ハルカはさ、ツツジさんに一度で勝てたんだよね?」 「うん、そうだけど……って、もしかして……」 「ぼくは一度負けちゃったんだ」 「あらあら……」 あっけらかんと笑いながらそんなことを言ってのけるアカツキに、ハルカは感心したような、あるいは呆れたような視線を向けた。 その視線がちょっとばかり痛いような気もするが、アカツキは話を続けた。 「でも、そのおかげで見えてきたものっていうのもあったから、まあ、なんていうか……負けてよかったと思えるんだ」 過去の遺恨(?)ですら、笑いながら話せるアカツキ。 そんな彼を見つめ、ハルカは不思議な気持ちを抱いた。 どうしてそんなことを笑いながら話せるのだろう。 負けの記憶なんて、あるだけでもあまりいい気はしないものなのに。 増してや口に出すなど、苦々しい経験を蒸し返すも同然ではないか。 だが―― アカツキにはそれができたのだ。 勝ち負けよりも大切な何かを見つけられたからこそだとハルカは思った。 「すごいね……リベンジして、勝てたんだもんね」 「うん。何とか……ね」 アカツキは躊躇いがちに頷いた。 ハルカが複雑そうな表情を見せたからだ。 彼女が何を考えているのか……当然分かるはずもないが、少なくとも陽気な音楽を胸中で鳴らしていないであろうことは分かる。 「それからぼくはムロタウンに行った。 ユウキと会ったりその他にもいろんなことがあって、ジムリーダーに勝って、それでこの街に来たんだ。 そんなに大したことじゃないんだけどね」 「そっか…… あたしはカナズミジムでバッジをゲットして、それからは東に進んだの。 カナシダトンネルを抜けてシダケタウンに行ってね。 そこからフエンタウン、キンセツシティとジム戦をクリアして、ここに来たってわけ。 少し休もうかと思ったんだけど……どうも、そうはいかないみたい」 ハルカは表情を明るくした。 口元に浮かぶ笑みは、本心から笑っていると分かるような笑みだった。 「?」 アカツキはその笑みが何を物語っているのか分からず、見つめたまま首をかしげた。 「あたしもね、おちおち休んじゃいられないってことよ」 「そっか」 見つめ返され、やっと分かった。 ハルカはアカツキをライバルと決めたのだ。 アカツキはそれを受け入れた。 何よりも、自分自身のためになるから。 「ハルカはホウエンリーグに出るの?」 「出るつもり」 「そっか」 予想通りの答えが返ってきて、アカツキは肩をすくめた。 口から漏れる軽い吐息。 ホウエンリーグ…… 一年に一度、サイユウシティで行われるポケモンバトルの祭典だ。 強豪たちがハイレベルなバトルを繰り広げる、戦いの舞台。 「お父さんのようなトレーナーになるには、なんでもチャレンジしなきゃね!!」 「そうだね……」 ハルカが目指すトレーナーは、トウカジムのジムリーダーであり、父親でもあるのだ。 そのハードルは高いだろうが、彼女ならきっと大丈夫。 踏みつけられても、雑草のように何度でも立ち直るだろう。 根拠なんてなくても、断言できる。友達と言うのは、理屈で物事を考える間柄ではない。 「そういうアカツキは?」 「ぼく?」 「そう」 まさか話を振られるとは思ってもいなかったらしく――よく考えてみれば、至極当然のことだったりするのだが…… アカツキは沈黙した。 話が自分に返ってくるとは考えなかったのだろうか? だが、答えはすでにあった。 「ぼくはまだ決めてない」 「そうなんだ」 その答えに、がっかりしたように肩を落とすハルカ。 だが、表情までは崩れていない。そちらの方も予想していたのかもしれない。 「出るかもしれないし、出ないかもしれない。 優柔不断だって思うかもしれないけど……そこまでの道筋、ぼくはまだ立ててないんだ。 まずは黒いリザードンを追いかけて……すべてはそれからだよ」 「そうなんだ……」 同じ言葉を返す。 でも、先ほどとは意味合いがずいぶんと違った。 アカツキにはホウエンリーグよりも優先すべきものがある。 『黒いリザードン』を見つけ、ゲットすることだ。 それを果たした後なら、ホウエンリーグに挑戦するかもしれない。 そういった意味として受け取っていた。 「そうだよね。 アカツキにはアカツキの夢があるんだもんね……ごめん、なんか急かしちゃったみたいで」 「ううん、そんなことない」 申し訳なさそうに、うつむきがちに謝るハルカに、しかしアカツキは首を横に何度も振った。 別に彼女は自分の気に触るようなことを言ったわけではないのだ。 謝られる必要などないのだが…… 「でも、なんだか不思議」 「え?」 「ミシロタウンで初めて会った頃と、今。なんか、ぜんぜん違う人と話してるみたいだよ」 「え!?」 屈託なく微笑みかけると、アカツキはドキッとした。 表情が強張るのを自分でも理解しながら。 「ぜんぜん違う人……って、ぼく、そんなに変わった?」 「顔とか身体とか。そんなんじゃないの。 雰囲気、変わったなって。そう思ったの」 「そうなんだ、ユウキにも似たようなこと言われたよ。ぼくはそんなに変わった?」 「うん」 ハルカは躊躇うことなく頷いた。 確かに見た目こそ、ミシロタウンにいた二週間前となんら変わっていない。 前髪の一房が帽子からはみ出しているところも、帽子を前後反対にかぶっていることも。 ただ、中身が――内面が変わったような気がするのだ。 お世辞にも気が強そうには見えない外見を裏切って、中身には大きな夢を持っている。誰にも負けない夢。 ハルカは、アカツキを気の強そうじゃない男の子と評することができなかった。 それくらい、変わったように感じられたのだ。 「少し、大きくなったかな」 「そんな……からかわないでよ」 「ふふふ」 なぜか顔を真っ赤に染めて反論してくるアカツキに、ハルカは笑みを深めた。 変わった部分もあれば、変わらずに残っている部分もある。そういうことなのだ。 「やっぱり、アカツキはアカツキだね」 「ハルカはちょっと意地悪になったね」 「そうかもね」 アカツキは笑った。 久しぶりに、心から笑った。 不思議な気持ちを抱いたのは、ハルカだけではなかった。 アカツキも、なんだか分からないけど、不思議な気持ちを抱いていた。 「なんだろう、この気持ち」 暖かくて、やさしくて、そっと包み込んでいてくれる、天使の羽根のような、不思議な感触のする気持ち。 たとえるなら、安堵感のようなもの。 だが、それも正確ではないだろう。あくまでも『たとえ』だから。 やっぱりと言えば、やっぱりかもしれない。 アカツキはその正体に気づくことができなかった。 気づくことができたのは何年も先になってからの話だから、ここでは敢えて触れないことにする。 その気持ちを紛らわすように、口を開く。 「やっぱり、ぼくも君も、変わってないね」 「そうかもね」 結局のところ、些細な変化はあるにしろ、根本的な部分は何も変わっていないのだ。 「お待たせしました。 あなたがたのポケモン、回復が終わりましたよ」 と、そこでジョーイがわざわざふたりのモンスターボールを持ってきてくれた。 「ありがとう、ジョーイさん」 回復を終えたポケモンが入っているモンスターボールを受け取り、アカツキもハルカも丁寧に礼を言った。 「ゆっくりしていってね」 「はい」 にっこりと微笑んで、ジョーイはカウンターの奥へと戻っていった。 相変わらずの職業病だと、もう気にならなくなっている。 「ハルカはどこへ行くんだい?」 リュックから取り出した布切れを片手に、モンスターボールをきゅっ、きゅっと磨きながら、ハルカに聞いた。 「あたし?」 「うん」 ハルカはモンスターボールを腰に差して、 「あたしはねぇ……ムロ島に行こうと思ってるのよ。キミからユウキのこと聞いて、会いたいって思ったわけじゃないよ。 ムロジムに挑戦しようと思ってね」 「そっか。それで四つめのバッジがゲットできたら、センリさんに挑戦できるもんね」 「うん。お父さんに言われたの。やるなら私を超えるだけのトレーナーになってみせろってね」 「そうなんだ……」 アカツキは驚嘆した。 実にセンリらしい言葉だと思わずにはいられなかった。 ほんの十数分話をしただけだが、彼の人となりは十分に伝わっていた。器の大きさは、普通の人の比ではないだろう。 そんな彼を目標にしているのなら、きっと大丈夫。 「お父さんに勝てたら……そうだね、残りのバッジをゲットしに、ホウエン地方の東部を回ってみるつもり」 「残りのジムっていうと……」 アカツキは頭の中にホウエン地方の地図を思い浮かべた。 どのあたりに大きな街があるのかくらいは知っているのだ。 ムロジム、トウカジムでハルカのバッジは五つになる。ホウエンリーグに出場するのに必要なバッジは三つ。 ヒワマキシティと、トクサネシティと、ルネシティだ。 三つの街ともここからではかなり離れているので、今まで以上に大変な道行きになるのは間違いない。 「そういうアカツキは?」 「まずは黒いリザードンと会ったエントツ山に行ってみる。 途中にジムがあれば、挑戦していくよ」 「ふーん……」 無難な答えに、ハルカは軽く頷いて見せた。 「ユウキはまだムロタウンにいると思うから、会えるといいね」 「うん。あたしもユウキとバトルしてみたいのよ。 物知りだから、いろいろと勉強になることとかも、あるかもしれないし」 「そうだね。ポケモン図鑑のデータ通信をするといいよ。ユウキ、すっごいから」 「へえ……」 そういえば……すっかり忘れていた。 ポケモン図鑑はポケモンを調べるための道具だと思っていた。 現に、アカツキとユウキ、どちらかと出会わなければ、データ通信をすることもないのだ。 「今日はゆっくり休むでしょ」 「そうねぇ、バトルでちょっと疲れちゃったな。 ね、アカツキ。気分転換にどっか出かけない?」 「え?」 突然の申し出に、アカツキはびくっと肩を震わせた。 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだ。 やはり……どう足掻いても子供である。 「アカツキは疲れてる?」 「え、そうでもないけど……」 「じゃ、決まりね」 ハルカは言うなり立ち上がった。 「ひとりで街中歩き回るっていうのもなんか変だし……じゃ、行こっか」 「うん。分かった」 アカツキは頷いて、席を立った。 確かにバトルで疲れたが、このまま一日ゴロゴロとポケモンセンターで過ごすというのも味気ない。 それに、せっかくホウエン地方の海の玄関口を訪れたのだから、名物や名所を思う存分見て回りたいところ。 「どこがいい?」 「どこでもいいよ」 気を利かせて選択肢を与えたのに、ハルカはそれをフイにしてしまった。 さながら、アカツキの心でも読んでいるような答えだ。 「じゃあ……海の科学博物館ってところに行かない? ユウキがさ、一度見といた方がいいって言ってたんだ」 「海の科学博物館かぁ……うん、そこがいいわ。そこに決まり!!」 ハルカはぱんぱんと手を叩いた。 未知の体験(?)に心でも弾ませているのか、ニコニコ笑顔だ。 つられるように、アカツキも笑みを浮かべた。 どうしてだろう、彼女の笑顔を見ていると、心配事がすべて吹き飛んでいくのだ。 「不思議な子だな……」 なんて思っていると―― 「ほら〜、何してんの? 行くよ〜!!」 「え……うん!!」 いつの間にやらハルカがポケモンセンターの入り口の自動ドアのところにいるではないか。 アカツキは慌てて彼女の後を追った。 第32話へと続く……