第57話 引き延ばされた決着 -Stretched conclusion- ついに、この時が来た…… アカツキは学校の体育館を思わせる大きな建物の、やたらと重そうな扉の前で、胸に手を当て、深呼吸を繰り返していた。 どうにも心が落ち着かない。 一ヶ月前にここを訪れた時と、明らかに違っていると分かるからだ。 状況と……抑え切れない気持ちと、緊張感。 あの時も確かに緊張していた。 目的こそ同じだが、プレッシャーは段違いだ。 「落ち着いて。大丈夫。今のぼくならきっと勝てる。みんながいてくれるんだから」 わざと声に出して言い聞かせる。 背後の通りに人はまばらで、その声を耳に挟んだ者はいなかった。 この扉の向こうに、あの人がいる。 トウカジムのジムリーダーにして、親友であるハルカの父親・センリ。 強さという言葉は彼のためにあると思わせるような凛とした顔立ちに、猛禽を思わせる鋭い目つきが特徴の男性だ。 結局、前に来た時はこの扉の向こう側へ行くことができなかったが…… あの時は資格がなかった。 四つ以上バッジを集めた時には勝負しよう……センリはそう言っていた。 それは確かな約束であり、彼の与えた試練と言えた。 そして今、アカツキは試練を乗り越えて、約束を果たすために、夢を叶えるためのステップとしてここに立っている。 今までの道のりは、カンタンなものばかりではなかった。 何度も辛い目に遭ってきた。 その結果として、四つのバッジを手にできたのだ。 試練を乗り越え、強くなった。 今の自分なら…… 「よし、行こう。 いつまでもこうしてたって、何も変わらない」 ごくんと唾を飲み下し、決意を固める。 インターホンがなかったので、扉を叩いて何とかするしかない。 とりあえず、扉を叩いてみた。 何もせずにいきなり扉を開いても、住居侵入罪というか、何と言うか……あまりそういうのに気乗りはしなかった。 扉を三回叩いてノック代わりにしてから数秒後。 リアクションがあった。 やたらと重そうな扉が、音を立てて左右に開かれたのだ。 「……」 いよいよだ。 緊張が最高値に達した。 自分自身を見失わぬよう、拳を握りしめる。 爪が食い込む痛みが、意識をよりいっそう鋭く研ぎ澄ませ、心が冴えてくる。 左右に開かれた扉の向こうにいたのは、気の強そうな顔をした少女だった。 青を基調としたラフな服装をしているが、表情は笑っていなかった。 それも当然、ココがどこかを考えれば。 「チャレンジャーの方ですか?」 「あ、はい」 淡々と訊ねてくる少女に、アカツキは拍子抜けした。 気の強そうな顔の割には、落ち着き払った物腰で、風に吹かれて消えてしまいそうな蝋燭を思わせる声をしていたからだ。 「では、こちらへどうぞ。ジムリーダーがお待ちです」 「……はい」 礼儀正しい少女だと思った。 少女の後についてジムに入ると、外見に違わぬ光景が広がっていた。 外面はよくある体育館。 で、中もほとんど体育館。 だが、違う点はいくつかあった。 その中で最も分かりやすかったのは、丈夫そうなフローリングの床板に、バトルコートが描かれているところである。 ジムということを意識したものと思われるが、そのまんまという感じがしないわけでもない。 もっとも…… それ以外の違いを見つけるよりも早く、コートの向こう側に立っている男性が目に入ってしまった。 「センリさん……」 顔の下半分に笑みを浮かべ、腕組みをしてポジションについている彼は、一ヶ月前とまるで変わっていなかった。 「よく来たね、アカツキ君」 張りのある声で、言ってくる。 「四つのバッジを集めた君の実力、見せてもらうよ。 だが、その前に……」 有無を言わさぬ迫力を秘めた言葉は、アカツキの言わんとしたことを封殺した。 それに、口を挟む暇すら与えてもらえなかった。 センリは首からかけている笛を吹いた。 甲高い音が空間を駆け抜けていく。 「少し話をしようか」 途端に口調が和らぐ。 一体何のために笛を吹いたのか。 アカツキの抱く疑問は、すぐに解決へと向けて動き出した。 足音が聞こえてきたかと思うと、センリの背後から十数人の少年少女が出てきたではないか。 アカツキからは見えなかったが、裏に出入り口があるのだ。 笛の音を聞きつけて、駆けつけてきたようだ。 先ほど扉で応対に出ていた少女も、いつの間にかその集団に紛れていた。 センリを中心にして、左側に少年が、右側に少女が、きっちり分かれて、写真撮影でもするように整然と左右に並んでいる。 一体何がなんだか……まるで分からなかったが…… アカツキは気づいた。 並み居る少年少女の服装が二通りに統一されていることに。 少年たちの方は胸にモンスターボールを模したワッペンが縫い付けられた赤い服と、同じ色の長ズボン。少女たちは青を基調とした上下。 まるで男女の区別――それでいて対比。 きっと何らかの意味があるのだろうと思い…… 「……!?」 アカツキは少年のひとりと目が合った。 その少年の顔が一瞬、強張るのを確かにこの目で見た。 「ユウスケ……ここにいたんだ……」 好き放題に刎ねた茶髪に、そばかすの目だった顔立ちは、トレーナーズスクールにいた頃とまるで変わっていない。 ただ、その目つきが鋭さを増している。 少年――ユウスケは、アカツキと目が合ったことなど素知らぬ顔をした。 ドキッとした心を誰にも悟られないよう咄嗟に取り繕ったのだろうが、一番悟られたくない相手には筒抜けだった。 そういえば、ユウスケ同様三日間だけ同級生だったマイクは言っていた。 「あいつは実家のあるトウカシティに戻ったよ」 確かにそれはウソではなかった。 それに、ジムリーダーになりたいという夢を持っているなら、ジムトレーナーとして入門するのが近道だとも。 現に、彼は今ここにいるのだ。夢を叶えるための近道を駆け抜けるべく。 「驚かせてしまってすまない」 センリは小さく詫びた。 アカツキが、少年少女がいきなりやってきたことに驚いていると思ったらしい。 「彼らはこのジムのジムトレーナー……言い換えれば私の弟子だな。 日々トレーナーとして、人間として成長すべく苦難を分かち合っている者達だ。 彼らに来てもらったのは他でもない。君と私のバトルを、観てもらうためだ」 「え……」 バトルを観てもらう。 アカツキはその言葉に不吉な予感を抱きまくった。 そりゃそうだ。 どうしてバトルを他人に見せなければならないのか。 そんなアカツキの心中を察し、センリは言葉を付け足してくれた。 「君がどういう気持ちを持っているか、分かっているつもりだ。 だが、この程度で物怖じしていては、ホウエンリーグでは戦えない。 そういうことだよ」 アカツキははっとした。 ホウエンリーグはバトルの祭典。 サイユウシティの巨大スタジアムで、本選が催されるのだ。 ホウエン地方中から、ハイレベルなバトルを観るべく訪れた人々を数千人単位で収容するのだから、その規模は推して知るべし。 ホウエンリーグで戦うトレーナーは、そうした人たちの視線とも戦わなければならないのだ。 いかに自分のペースを乱さずに済むか……自分の『持ち方』がバトルの勝敗に直結していると言っても過言ではない。 「その様子だと、こういった形式は初めてのようだね。 だが、君ならば大丈夫だろう。 あの頃は頼りない感じが先行していたが、今はそうでもないな。 まあ、それはともかくとして……」 コホン。 つまらないことを言ったと思ったのだろう、咳払いして、 「さて、その理由だが、君に慣れてもらうためという以外にもうひとつある。 ポケモンバトルというのは自分でバトルをするのはもちろんだが、他人のバトルを観るということで学ぶものも数多いんだ。 彼らには私たちのバトルの中から、使えそうな知識、技術を盗んでもらうつもりでいる。 口で教えるよりもよほど効果的で、効率的だからね。 君もそうして、トレーナーの実力を磨いてきたはずだ。 ならば、分かってもらえるだろう」 「はい」 アカツキは首を縦に振ったが、ひとつ気がかりがあった。 見ず知らずの少年少女たちが観るのならともかく、その中にひとり、見知った顔があるのだ。 ユウスケ……彼が観ていると思うと、緊張は拭い去れない。 「君が四つのバッジをゲットしたことは、君の兄であるハヅキ君から聞かせてもらった。 次にこのジムに来るであろうことも、当然分かっていたよ」 「そうだったんですか……」 道理でここで待っていたわけだ。 実に用意周到と言うほかない。 「この一ヶ月、君は様々なトレーナーと出会い、そして様々なバトルをこなしてきただろう。 旅の中で得たものをこの場で発揮してもらいたい。 君がこのジムを制した証であるバランスバッジを手にするに相応しいことを、見せてもらいたい。 今の君にそれができるかい?」 「もちろんです!!」 アカツキは声を振り絞って叫んだ。 いきなり叫ばれると思わなかったようで、センリの両隣に控えていた少年少女のほとんどがビックリしていた。 ありったけの気持ちを込めて、アカツキは叫んだ。 今なら絶対に勝てる。勝たなくちゃいけない。 その気持ちを示すかのようにして。 それはセンリに届いた。 彼は笑みを深め、 「君の気持ちはホンモノだな。ならば、始めようか」 「はい!!」 「と、言いたいところだが」 予期せぬ横槍を入れられて、アカツキの肩が思わずコケた。 あまりにオマヌケだったので、自分で分かるほど表情を引きつらせた。 が、それも一瞬だった。 「えっと……」 センリが言葉を継ぎ足す前に、勇み足で返事なんてしてしまったものだから、あまりに恥ずかしい。 さっきビックリしていた少年少女が、仕返しとばかりに失笑しているのを目の当たりにして、さらに赤面。 「ほら、笑ったりしないこと」 隣の少年の肩が小刻みに震えているのを横目で認めて、さりげなく注意する。 すると不思議なことに、失笑が文字通り消失した。 「私としては君と一刻も早く戦いたいところなんだが、どうしてもこの場で君と戦いたい子がいてね。 この場じゃなくてもいいのにと諭したりはしたんだが、折り合いがつかなくて。 というわけで、この場で君には彼と戦ってもらうよ」 センリは少年たちの方に顔を向けた。 まさか…… アカツキの脳裏を駆け抜けていった予感は見事に的中した。 「ユウスケ。君の頼みは聞き届けよう。 一対一の時間無制限のバトルを存分に戦い抜きなさい」 「はい。ありがとうございます、ジムリーダー」 ポジションから退いたセンリに礼を言い、彼のいた場所へと歩いていくユウスケ。 その眼光は猛禽のように鋭く尖り、トレーナーズスクールで気のよい親友として接してくれたことすら嘘のように感じられる。 それは…… ポジションにつき、真剣な表情を見せている彼に、嘘偽りが付け入る隙は一分としてなかった。 それだけ、このバトルにこだわりを抱いているのだ。 「あの時の決着、この場でつけようぜ、アカツキ」 「あの時……」 アカツキは思い出した。 三日間通うことになったトレーナーズスクールの初日。 ひょんなことでアカツキとユウスケは昼休みにバトルをすることになったのだが、その時は残念ながら時間切れで引き分けになった。 どうやら、ユウスケはその時のことで、今この場での決着を望んでいるようだ。 アカツキとしても、白黒ハッキリしないのは嫌だったので、それは望んでいるところ。 「そうだね。確か、引き分けだったよね」 「ああ。あの時からずっと納得できなかったんだ。 いつかどこかでおまえと決着つけることだけ考えてさ…… スクール卒業して、ジムリーダーに弟子入りして、誰よりも頑張ってきたつもりだよ。 辛いコトだってそりゃあったさ。 泣きたくなるコトだって、逃げたくなるコトだって。 でもな、おまえとの決着もつけずに逃げるなんて、できるわけないだろ!? おまえがツツジさんに勝ったってのにさ、俺だけ何もせずにいられるわけないだろ!? だから、ジムリーダーに無理言って、今ここでバトルしてもらうことになったんだ。 もちろん、逃げたりなんかしないよな」 「当たり前だよ。 ぼくはもう逃げない……これ以上、みんなに心配をかけたくないんだ」 「上等だぜ。それでこそ、決着をつける相手に相応しいってモンだ」 ユウスケは口の端に笑みを浮かべた。 やはり、アカツキはアカツキだった。 あれから成長したのが、外面だけでもよく分かる。両者共に真剣な表情を突き合わせている。 バトルが始まる前でこれだ……センリはため息を漏らした。 バトルが始まったら、こんなモノでは済まないだろう。 「おまえも、俺に負けないくらい頑張ってきたんだろ? だから、四つもバッジ集めて、ここに来たんだよな」 「うん。 ぼくはホウエンリーグに出て兄ちゃんと戦いたいんだ。 だから、ここで負けてなんかいられない。 負けるのは一度で十分だって分かったから。 こんなところで転んでるヒマなんてないんだ」 「そうだな。お互い目指してるモンがあるのなら、負けたくなんてないよな。 よし、行くぜ!!」 ユウスケは深々と頷き、腰のモンスターボールを引っつかんだ。 そして、相棒の名を呼びながら投げ放った!! 「アルベル、出番だ!!」 その声に応えるようにして、重力に逆らって宙を舞ったボールの口が開き、ポケモンが飛び出してきた!! 「グルルルルル……」 「グラエナ……あの時の?」 「ああ。おまえのアリゲイツを倒し損ねたグラエナが、こいつだよ」 アルベルと呼ばれたグラエナが犬歯を剥き出しにする。 血のように赤い双眸でアカツキを睨みながら低く唸って威嚇しているのを尻目に、ユウスケが淡々と説明などしてのける。 「あの時はニックネームなんて考えたことなかったんだけどな…… 大切にしているのなら名前くらいつけてやれって、とある人に言われてな。 つけることにしたんだよ。 アルベルってのは、なんか昔の偉人だったらしいぜ。 どっかの本で読んだのを憶えてたらしくてさ、なんかたくましそうって思ってつけてみたらビンゴ。 こいつも、その名前を気に入ってくれたらしいからさ。そう呼んでるよ」 「そうなんだ……」 そこまで律儀に説明しなくてもいいのにと思いながらも、アカツキは相槌を打った。 「さ、おまえのパートナーを俺に見せてみろよ。 ま、どんなヤツが出てきたって、アルベルがけちょんけちょんに伸してやるけどな」 白い歯を見せて、不敵に笑う。 それだけ自信を持っているのだろう。自分のトレーナーとしての力量と、アルベルの実力に。 無論それはスクールでの授業やセンリの弟子として厳しい日々を送ってきたことに裏打ちされた、確かなものだ。 だとすれば…… 「ぼくだって負けてられないんだよね…… だから、絶対に勝つよ。センリさんにも勝って、バッジはもらってくんだ」 アカツキは胸中で闘志の炎を燃やしていた。 静かだったのは、嵐の前の何とやら……だったのかもしれない。 「じゃあ……」 腰のモンスターボールに触れる。 ここに来て迷いが生じた。 誰を出せばいいか。 相性的に有利なワカシャモを出すのが一番だというのは分かっていた。 だが、本当にそれでいいのかと、ふと疑問が過ぎる。 センリは何も言っていない。 それは、今回のバトルの勝敗如何にかかわらず、ポケモンを回復させるかどうかという大切なことだ。 何も言っていないということは、それが『ない』ということか。 あるいは…… チラリとセンリの顔を見てみると、無表情。 冷静にバトルの行方を見守ろうという姿勢がうかがえる。 「ぼくのこと、試してるのかも分からない」 もしかしたら…… センリはアカツキのことを試しているのかもしれない。 ポケモンを回復させないと思わせて、どのポケモンを投入するかを見ているのかもしれない。 次に控えているバトルの参考にするつもりかも……そう思うと、迂闊にワカシャモを投入するわけにはいかない。 裏をかかれる可能性もあるのだ。 そう考えると、必要以上に慎重にならざるを得ない。 とはいえ、そうではない可能性もある。 読み勝つか、読み負けるかは、紙一重。 どちらを選ぶべきか。 だが、アカツキは迷わなかった。 このバトルの決着に、そんなことは些事にしか過ぎなかったのだ。 「アリゲイツ。決着、一緒につけよう!!」 アカツキは迷うことなくアリゲイツを出した。 「ゲイツ!!」 フィールドに出てくるなり、口を大きく開けて、生え揃った鋭い牙をアルベルに見せつける。 ハンムラビ法典よろしく、目には目を、威嚇には威嚇を。 「アリゲイツか……やっぱ、決着はちゃんとした形でつけたいってところか」 「もちろん。アリゲイツ、やる気満々だからね」 「そっか……」 目を閉じて、ふっと息を吐くユウスケ。 アリゲイツが出てきてくれて安心した様子だが、実はそういうわけでもない。 現に、スクールでバトルした時は、アルベルの破壊光線を受けながらも、立ち上がってきたのだ。 そのタフさは賞賛に値すると同時に、驚愕にも相当した。 ゆえに、油断できる相手などではない。 「ジャッジは私が務めよう。それでは両者、準備は良いか?」 『はい』 センリがジャッジを務めることに、アカツキもユウスケも異論はなかった。 むしろ、望むところだ。 「では、バトル・スタート!!」 「アルベル、シャドーボール!!」 先手を取ったのはユウスケだった。 彼の指示に応え、アルベルが口を開いて闇のボールを撃ち出した!! シャドーボール……ゴーストタイプの技で、ヒットすると特殊攻撃に対する防御力を下げることができる。 ユウスケはダメージと共にそういった特殊効果にも期待しているのだろう。 アカツキはそこまでは知らなかったが、お世辞にも見た目がよろしくないシャドーボールを食らうつもりなどなかった。 「アリゲイツ、避けて水鉄砲!!」 シャドーボールのスピードを見る限り、避けられなくはない。 それに…… 「ゲイツ!!」 アリゲイツはシャドーボールをあっさり避けてみせると、アルベルに負けないくらい口を大きく開いて水鉄砲を発射!! ばしゅんっ!! 刹那、狙いが外れたシャドーボールが地面に炸裂した。 軽い音を立てて、闇が霧散していく。 薄く引き延ばされて、無色透明に変化した。 矢のような勢いで突き進んでいく水鉄砲から軽々と身を避わすアルベル。 「スピードが上がってる……あの時よりも」 アカツキは驚いていた。 ゴーストタイプのシャドーボールを使うあたり、アルベルの力量があの時を大幅に上回っているのがよく分かる。 スピードもかなりのものだった。 「向こうも飛び道具を持ってる……だったら、近づけさせないようにしても意味なんてない……」 ぎりっ、と奥歯を噛みしめる。 アリゲイツに水鉄砲を連発させられるのは、相手が遠距離攻撃の手段を持っていない時に限られる。 アルベルはシャドーボールなどという技を使えるので、残念ながら水鉄砲に頼りっきりというのはできない。 となれば…… 「アルベル、いちゃもんをつけろ!!」 そこへすかさずユウスケの指示が飛ぶ!! 「グルルルルル……」 低く唸るアルベル。 ただ威嚇しているように思えるが、実際のところ、技は発動されている。 「いちゃもん……? 確か、それって……」 気づいた時には遅かった。 いちゃもんとは、同じ技を二度続けて出せなくする効果がある技。 そのバトルの間は、同じ技を二度続けて出せなくなる。 だが、水鉄砲に頼りっきりにできないことを承知していたので、実際それほど問題視はしていない。 ただ、咄嗟の時に困るかもしれないといった程度だ。 あくまでもユウスケの場合は保険的な意味合いの方が強い。 水鉄砲を連発されたところで避ければいいだけの話だが、不意を突かれて発動させられるとかなり困ったことになる。 スクールで戦った時よりも、水鉄砲の威力が上がっているように思えるのだ。 あれをまともに食らうとさすがに痛そうなので、連発されないよう、手を打っておいたというわけ。 「水鉄砲を次に使えないなら、アリゲイツの切り裂く攻撃で……」 アカツキはすっかり接近戦をやる気になっていた。 距離を置いたところで水鉄砲は使えないし、アルベルのシャドーボールは文字通り撃ち放題だ。 なら、距離を詰めて攻撃するしかない。 延々と避け続けているのも、性に合わないのだ。 「アリゲイツ、切り裂く攻撃だよ!!」 アカツキは未だに唸り続けているアルベルを指差して叫んだ。 「ゲェェェイツッ!!」 金切り声にも似た鳴き声を上げて、アリゲイツが駆け出した!! キラキラ光る前脚の爪を振り上げて。 切り裂く攻撃は、引っかく攻撃よりも威力が高いのが特徴だ。 言い切ってしまえばそれだけだが、威力が高いという点ではとにかくありがたい。 モーションは同じなので、フェイクに使うこともできるというわけだ。 「やっぱり接近戦で来たな。 よしよし、これでこっちのモンだぜ」 ユウスケは口の端に笑みを浮かべた。 アカツキも水鉄砲を連発できないということを知っているからこそ、こうしてアリゲイツに距離を詰めるように指示したのだ。 だが、それはユウスケにとって大いに望むところだった。 アルベルは接近戦でこそその強さの真価を発揮できるポケモンなのだ。 アリゲイツとアルベルの距離が徐々に詰まっていく!! アルベルは脚を広げて、踏ん張った格好でアリゲイツを睨みつけている。 「ゲェイツっ!!」 アリゲイツがジャンプし、勢いよく前脚を振り下ろす!! ギラギラ光る爪がアルベルに迫り―― がすっ!! アリゲイツの切り裂く攻撃がアルベルの顔面にクリーンヒット!! 「!?」 ダメージはそれなりに与えられただろうが、アカツキはそれに気をよくすることはできなかった。 というのも…… 「避ける指示もしてない!?」 ユウスケはアルベルに敢えて一撃を受けさせたのだ。 何もできなかった、ということもあるまい。 ならば、その裏には何かしらの策謀が渦巻いているのは目に見えている!! 「アリゲイツ、水鉄砲で……」 「毒々の牙!!」 いちゃもんの効果で、次に切り裂く攻撃は出せなくなる。 それを見越して水鉄砲を至近距離からブッ放そうと思っていたのだが……ユウスケは一手先を読んでいた。 アリゲイツが口を開くよりも早く、アルベルの牙がアリゲイツの前脚に食い込んだ!! 「ゲイツゲイツゲイツ!!」 いきなりかぶり付かれるとは思わなかったようで、アリゲイツは身をよじって叫びまくった。 振りほどこうと必死になっていたからだろうか、その勢いでアルベルがアリゲイツの脚から牙を抜いた。 心なしか、牙を突きたてられたところが紫色に変わっているような気がしたが――アカツキは取り合わなかった。 幸いなことに、ダメージはそれほどでもなかったらしい。 アリゲイツは怒りに満ちた目で、小さく飛び退いたアルベルを睨みつけている。 怒りの導火線に火がついてしまったようだ。 「よし、食らったな。 後は時間が解決してくれる。 それまで稼ぐか……」 ユウスケはニヤリとした。 アリゲイツの傷口を見ると、紫に見える。 あとは予定通りに行けば……勝利は自分のものとなる。 「アリゲイツ、水鉄砲!!」 「ゲイツ、ゲイツ、ガーッ!!」 アリゲイツは怒りの咆哮と共に、水鉄砲を発射した!! 先ほどよりも距離が狭まっているため、さすがのアルベルも避けきれなかった!! 水の奔流を真正面から食らって、アルベルは吹き飛ばされた!! だんっ!! フィールドに叩きつけられ、そのまま数メートルほど床を拭き掃除する!! 「よし、決まった!! 次は……」 このまま攻撃を当て続ければ勝てる。 アカツキは防御を捨てて攻撃に打って出た。 「切り裂く!!」 「驚かす!!」 アリゲイツが再び前脚を大きく振りかぶり―― その目の前にアルベルの顔が出現する!! 「!?」 一瞬で間合いを詰められ、さすがのアリゲイツもたじろいでしまった!! 切り裂く攻撃はアルベルにヒットしなかった。 驚いてしまって、攻撃どころではなかったのだ。 アリゲイツが怯んだのは一瞬にしか過ぎなかったが、ユウスケとアルベルにとってはそれだけで十分だった。 「アイアンテールで吹っ飛ばせ!!」 ユウスケの指示に応えて、グラエナが身を翻す!! 一瞬で頭とシッポの位置が逆転する!! 一時的に鋼の硬度を得たシッポが、アリゲイツの横っ面を激しく打った!! 「ゲーイツ!!」 悲鳴を上げ吹っ飛ぶアリゲイツ!! アイアンテールは威力の高い技だ。それをまともに食らってしまった。 ダメージはかなり大きそうだ。 「アリゲイツ、踏ん張って!!」 アカツキが喝を入れると、アリゲイツは何とか着地に成功した!! 危うくバランスを崩しかけたが、気力で何とかカバーできたらしい。 「ちっ……さすがにしぶといな。 でも……もうすぐだ」 ユウスケは舌打ちしながらも、しかし自分の勝利を確信していた。いささかの揺るぎもない。 「水鉄砲!!」 アカツキは躊躇わず水鉄砲を指示した。 命中すればそれでよし。 万が一外れたとしても、即座に追い討ちをかけられるようにプランを練ってあるのだ。 アリゲイツは口を開いて―― そのまま動きを止めた。 「え……?」 一体何が起こったのか。 今頃、アリゲイツの口から発射された水鉄砲が、グラエナ目がけて突き進んでいるはずなのだ。だが、それがない。 それは…… 「アリゲイツ、どうしたの? 水鉄砲だってば!!」 「ゲ、ゲイ、ツ……?」 アリゲイツはがくりと膝を突いた。その表情は引きつっている。 「アリゲイツ!?」 「ようやく効いてきたようだな……毒が」 「毒!?」 「そうさ」 アカツキは素っ頓狂な声を上げた。 毒などいつ盛られたというのか。 そんな素振りなどなかったではないか。 まさか、毒をそのまま吹っかけたというわけでもあるまい。 だが、アリゲイツの様子はただ事じゃない。 小刻みに身体を震わせているその様は、身体に回りつつある毒と戦っているように見えた。 とはいえ、その毒は致死的なものではなく、あくまでも体力を奪い、そして動きを封じるための毒だった。 「まさか……」 アカツキは脳裏に浮かんだ想像に蒼ざめた。 「そうさ。 アルベルが噛みついたよな。 あの時牙から毒が染み出してたんだよ。身体に掠りでもすればじわじわ効いてくる毒さ。 時間と共に効果を現す……それが毒々の牙だ。 アリゲイツは毒が身体に回って動けねえだろ。じっくり料理してやるぜっ!!」 口の端に笑みを浮かべ、ユウスケが右手を挙げた。 それを合図に、アルベルが口を開く。 口の中にオレンジの光が灯った。 「破壊光線!?」 「前もこんな感じだったよな、確か。 ま、あん時は不完全なシロモノだったわけだけど……でも、今は違うぜ。 ホンモノの破壊光線を見せてやる!!」 朗々とそう言ってのけるのは、自分の勝利を完全に確信しているからだ。 毒を食らって体力を削り取られているアリゲイツに負けることなどあり得ない。 破壊光線に耐えられたとしても、毒で間違いなくノックアウトだ。 つまり、負ける要素は皆無。 「今回は俺の勝ちだな。さすがにここまでやっときゃ大丈夫だろ」 完全に勝利に酔っているユウスケから、歯を食いしばり真剣そのものの表情を見せるアカツキに視線を移すセンリ。 「あの瞳……まだ勝負を捨てていないな。 どうするか、必死に考えている……だが、破壊光線を凌ぎきれなければ、ユウスケに負けてしまうな。 さあ、どうする? ここが正念場だぞ」 ジムリーダーとして、ひとりのトレーナーとして、この勝負は実に興味深い。 それに、最後まで見届ける義務もある。 「あれを持ってきてくれ」 「はい、分かりました」 傍に控えていたひとりの少女に指示を下した。 彼女は踵を返してバトルフィールドを後にした。 そんなことは露知らず―― 「どうすれば……」 毒に冒されたアリゲイツと、オレンジの光を口の中に宿すアルベル。 交互に視線を向けながら必死に思案した。 時が経てば、アルベルが破壊光線を発射しなくとも、毒でアリゲイツがノックアウトされてしまうだろう。 何が何でも負けるわけにはいかない。 ここで負けたら、夢がその分遠のいていくのだから。 「破壊光線を撃たせたら負けちゃう……でも、どうすればいいんだ……」 アリゲイツは…… 身体に回り始めた毒と戦うので精一杯で、アルベルの方にまでは手を伸ばせないだろう。 だからといって何もしないままでは、確実に負ける。 「負けたくないのに……負けられないのに……」 最大のピンチだ。 それは認めなければならない。 その上で、勝つための方法まで見つけなければ。 「……毒がなくなればって、なくなるわけないし。せめて考えないようにできれば……ん?」 もしかしたら…… 窮地にあってこそ、アカツキの脳は冴え渡る。 トレーナーとしての才覚が芽生え始めた瞬間だった。 「どうせ、これに賭けるしかないわけだし……よし」 腹を括った。 この賭けに失敗すれば負ける。 成功すれば勝てる……という保証があるわけではないが、何もしないまま敗北を甘んじて受け入れるよりはマシである。 「とはいえ……やっぱおとなしく負けてくれるわきゃないんだろうけど……」 真剣な顔つきのアカツキを見つめて、ため息を漏らすユウスケ。 無論自分の勝利について疑ってなどいないが、下手に足掻かれると、手を抜けなくなる。 ユウスケとしても、徹底的なまでにアリゲイツを攻撃するのは躊躇いがあった。 だから、負けるならおとなしく負けて欲しかった。 だが、残念ながらそうはいかないようだ。 「アリゲイツ、暴れて!!」 「構うことはない、撃てアルベル!!」 アルベルが破壊光線を撃ったのと、アリゲイツが毒を跳ね除けるように勢いよく立ち上がったのはほぼ同時だった。 「ほう……」 センリは感嘆のため息を漏らした。 徐々に戦闘能力を奪っていく毒に対して、アカツキが『暴れる』という技を指示したのは良い手だと思ったためだ。 「暴れる技はその荒々しさゆえに一時的に自我を喪失する。 痛みを痛みとして認識しなくなる。 だからこそ、我を取り戻した時に混乱してしまうが、それまではどんな毒も毒と感じなくなるという利点もある。 そういうことを利用したか。 とすれば、この勝負、あるいは……」 際どい均衡は最小の力で崩せる。 ゆえに、勝負はまだ分からない。 「ゲイツゲイィィィィィツッ!!」 アリゲイツは猛り狂ったように奇声を上げると、アルベルめがけて駆け出した!! 「なに、毒が回ってたんじゃないのか!?」 予期せぬ光景に、ユウスケの『勝利』が揺らぐ。 アルベルの『毒々の牙』は、センリの傍に控えている同級生(ジムトレーナー)のポケモンを何体も苦しめた。 毒が表面に出てきてからは、一方的だった。 アルベルのやりたい放題と言った感じでバトルに勝利してきたものだ。 だから、アカツキのアリゲイツは初めてのケースだった。 先ほどまで毒に苦しんでいたかと思ったら、いきなり何事もなかったようにアルベルに向かってくる。 「冗談じゃないぜ。でもな、勝つのは俺だ!!」 その意志を代弁するかのように、アルベルの破壊光線が一直線にアリゲイツへと進んでいく!! 「アリゲイツ、お願いだから避けて!!」 アカツキは胸中で祈った。 衝動に駆られるようにして暴れている以上、我を取り戻すまではトレーナーの声さえ届かない。 ただ目の前の敵を叩きのめすのみだ。 破壊光線にまで目が行っているかは疑わしいところだが、それでも祈らずにはいられない。 破壊光線など食らったら確実に負ける。 だが、アリゲイツは飛来してくるオレンジの光線をハードルのように判断したのだろう。 大きくジャンプして、紙一重のところで避わす!! 「な……!!」 ユウスケは自分でも分かるほど表情を強張らせた。 毒の回った身体で向かってきたかと思えば、破壊光線まで避けてしまうではないか!! 「おい、嘘だろ……」 喉がカラカラに渇いていた。 極度の緊張状態になるとそういった症状が出てきてしまうのだ。 スクールの卒業試験の時もそうだった。 マイクのキモリを相手にバトルした時は本気で緊張していた。 もっとも、今はそれ以上だ。 「こうなったら……」 ユウスケは覚悟を決めた。 アカツキも覚悟を決めて『暴れる』技など指示したのだろう。 ならば、受けて立ってやる。彼と同等、あるいはそれ以上の覚悟でもって。 「アルベル、シャドーボール連発!! ありったけ叩き込め!!」 破壊光線を避けられて動揺しているアルベルに喝を入れる。 アルベルはきっ、と赤い双眸を見開き、口から闇を凝縮したようなボールを次々に吐き出した!! トレーナーの覚悟を肌で感じ取ったのだろう。鬼気迫る表情で、文字通り全力投球だ。 ばしゅっ、ばしゅっ!! シャドーボールは狙い違わずアリゲイツを直撃し、闇を周囲に撒き散らした!! だが、一時的に神経が切れているような状態なので、アリゲイツは痛みなどまるで気にしていない!! 「こうなりゃ意地だ。どっちが倒れるか、な」 シャドーボールが五発命中したところで、アリゲイツがアルベルの眼前に躍り出た!! 「ギェィィィィィィィィツッッッ!!」 完全に据わりまくった目で睨まれ、アルベルが身体を震わせた。 こんな気迫、感じたこともない。 思わず怯んでしまい―― ざくっ!! アリゲイツの引っかく攻撃が炸裂!! がぶりっ!! 続いて噛みつく攻撃が鼻と口をまとめて挟み込む!! 「アルベル!!」 まさにやりたい放題ではないか。 アルベルの『毒々の牙』にかかった相手に逆襲されるなど、つい先ほどまで予想していなかった。 だが、現実としてアルベルは一転窮地に追い込まれた。 本気でやりたい放題にされている。 「負けるなアルベル!!」 ユウスケは張り裂けんばかりの声量でアルベルを応援するが、残念ながらそれは届かなかった。 「キャウーン……」 何度目かの攻撃が炸裂したあたりで、アルベルが力なく嘶いた。 そして、怯えまくった表情を隠すことなく、ユウスケのもとへと駆け寄ってきた。 心なしか涙すら浮かんでいるように見える。 「クゥゥゥン……」 凄まじい気迫をみなぎらせたアリゲイツに睨みつけられ、アルベルは尻尾を巻いてユウスケの後ろに隠れてしまった。 徹底的にやられてしまったため、戦意を失ってしまったのだ。 「お、おい、アルベル……バトルはまだ終わっちゃいないんだけどさ」 仁王立ちのままアルベルを睨みつけているアリゲイツ。 ユウスケの後ろに隠れてしまったので、その視線は自然と彼に向けられることになって…… 「う……」 なんとも言えない迫力が針のように突き立っていて、痛いような気がするのは本気で気のせいだろうか。 「ユウスケ。アルベルは戦意喪失だ。残念だがこの勝負は……ん?」 ユウスケの負けを宣言しようとした時だった。 「ゲイツ……」 アリゲイツは我を取り戻し、身体中に回った毒に耐えられなくなった。 途端にうつ伏せに倒れてしまう。 「アリゲイツ!!」 アカツキはアリゲイツのもとへ駆け寄った。 ぐったりしているアリゲイツを抱き上げると、小刻みに身体を震わせていた。 一時的なものとはいえ、毒は毒、お世辞にも身体にいいわけがない。 「ごめんね、アリゲイツ。 こんなになるまで戦わせちゃって……」 アリゲイツの肌をさすりながら詫びると、モンスターボールに戻した。 暴れれば暴れるほど毒の回りが早くなるのは知っていた。 だが、勝つためにはそうするしかなかった。負けたくなかった。 そのせいでアリゲイツをここまで苦しい目に遭わせてしまったのだ。 言い訳をするつもりはない。 後でどれだけ怒られてもいい。 そう思っていると―― 「この勝負は引き分けだ。残念だが、決着は次に持ち越してくれたまえ」 「しょうがないな……ジムリーダーとの勝負もあるから、俺はここいらで終わりにするよ。 アカツキ、楽しかったぜ」 「うん……」 引き分けという形は、アカツキとしてもユウスケとしても不本意だった。 しかし、この状況で勝敗が決するまでバトルを続行するというのもマズイので、仕方なく受け入れることにした。 「ジムリーダー、ありがとうございました」 アルベルをボールに戻すと、ユウスケはセンリに頭を下げた。 ワガママを聞き入れてくれただけでもありがたいのに、ジャッジまで務めてもらったのだ。 感謝感激雨霰(かんしゃかんげき・あめあられ)である。 「さて……」 センリはアカツキの傍まで歩いていくと、表情を緩めた。 いいバトルを見られた、というのが正直な感想だから。 「悪いが、君のことを試させてもらった。 どんなポケモンを出し、どんな戦い方をするのかを見せてもらったよ。 あの状況を覆して五分五分にまで持ち込んだだけでも大したものだと分かったよ。 では、アリゲイツの回復が終わり次第、バランスバッジを賭けて私とバトルをしてもらおう」 「はい!!」 アカツキは大きく頷いた。 試されていることくらい、はじめから分かっていた。 センリならそれくらいのことはするだろう。 ジムリーダーなら、挑戦者のことをよく知っておこうとするだろうから、気に障るようなことではない。 「やっとセンリさんとバトルできるんだ……」 ユウスケとの激しいバトルを終えて少し疲れていたが、その疲れすら吹き飛ばしてしまうほど、アカツキはドキドキしていた。 初対面から一ヶ月の時を経て、やっとバトルの申し出を受けてもらえることになったのだ。 「さあ、君のポケモンを回復しよう」 どうやって? 聞き返そうとしたアカツキの前に、ジムトレーナーがポケモンの体力を回復させる装置をカートで運び入れてきた。 第58話へと続く……