第78話 前兆 -Sign of the time- どんっ。 地面の底から突き上げるような衝撃に、アカツキは心地よい眠りから叩き起こされた。 「う、うわ……なんだ……?」 寝ぼけ眼を擦り、起き上がる。 何があったのかと思って室内を見渡すと、天井からぶら下がっている傘つきの電球が小さく左右に揺れていた。 「地震……? めずらしいなあ……ふわぁぁぁ」 アカツキはこんなこともあるのかと思い、欠伸を漏らした。 ホウエン地方は温暖な気候の上に、滅多に地震が起こらない土地としても有名なのである。 地震の原因となるプレートの境界が別の地方にあるため、プレートの上に地方が丸々乗っているのだ。 ともあれ、アカツキもホウエン地方で地震がめったに起きないことを知っていたので、なおさら信じられなかった。 まあ、ポケモンによる『地震』であれば、いくらでも起こる。 だから、あくまでも自然現象における地震は百年に一度あるかないかと言われているくらいだ。 「ポケモンが地震を起こしたのかな……」 その割には大きかったような気がするけど…… そんなことを思いながら、ベッドを降りる。 まだ寝ていたかったのに半ば強制的に起こされて、眠いったらありゃしない。 しかし、一度起きてしまったからには、二度寝を決め込むのも無理そうだった。 どうせもう少しすれば自然に目覚めただろうから、結局は時間が少し早まっただけで……一応、そう思うことにした。 「一体なんだったんだろう。 地震なんて今まで感じたことなかったのに……」 少なくとも自然現象の地震である。 ポケモンが起こす小さな地震は何度か経験しているが、先ほどのような強い揺れは初めてだった。 気のせいならいいのだが、なんだか嫌な予感がした。 ホウエン地方では、地震は不吉の象徴と信じられている節があるので、アカツキがそう思ってしまうのも仕方のないことだった。 「なんか、旅に出てからトラブルばっかり続いてるなあ。 これも旅の醍醐味ってやつなのかな?」 たぶん違うのだろうが、どういうわけかそんなことを思ってしまう。 せっかく起きたわけだし、さっさと朝食摂って、最後のバッジがあるルネシティに向かわなければ。 七つのバッジをゲットできた勢いをそのままに、最後のバッジもゲットしたい。 「えっと、ルネシティは……」 窓の外に目を向ける。 水平線の彼方に、おぼろげに見える山影。 その『中』にルネシティがあるのだ。 ルネシティは、かつて火山だった場所につくられた街である。 すり鉢状になっている山に雨水が溜まり、そこから逃れるように高地へとなだらかに広がっているのだ。 そこに、最後のバッジを守るジムがある。 いつか行ってみたいと思っていたルネシティ。 図らずも、彼の地に最後のジムがあるのだから、俄然やる気になってくる。 「さてと……」 さっさと着替えて、机の上に置いてあるリュックを背負う。 モンスターボールを左右の腰に差し、最後に帽子をかぶって準備完了だ。 忘れ物がないか確認して、そのまま部屋を引き払った。 途中トイレに寄って顔を洗うと、朝食を摂るべくロビーの挟んだ向こう側にある食堂へと向かった。 ロビーまでは廊下が続いているが、飾り気のないものだったので、目の退屈を紛らわすべく、外へと視線を向けた。 まず目に入ったのは海だった。 まるで海のど真ん中を歩いているような気分になる。 もちろんそれは気のせいだが、左右共に海が目立つのは間違いない。 「あ、あれは……」 と、途中で人影が目に入った。 二体のオオスバメの脇で何やら話をしているのは、見慣れた顔だった。 「ダイゴさんとプリムさんだ。どうしたんだろう?」 ポケモンセンターの敷地の外で、真剣な表情を突き合せて何やら話をしている。 思わず足を止めた。 とても割って入れるような雰囲気ではなかったので、遠くから見ていることしかできなかったのだ。 「すごく真剣そう……こんなダイゴさん、今まで見たことなかったかも」 昨日アブソルとバトルした時よりも真剣な表情。 針のように鋭く尖った視線は、本当に人の心を突き刺してしまいそうに思えた。 ダイゴとプリムは互いに頷き合うと、オオスバメの背に乗って飛び立ってしまった。 「あっちは確か……本島の方だったような」 うっすらとミナモシティの街並みが映って見える。 ふたりを乗せたオオスバメはホウエン本島へと向かっているようだ。 「一体なんなんだろ」 真剣な顔で話しているかと思ったらオオスバメに乗って飛んでいってしまった。 ただ事ではないのだろうが、だからといって直接関係がある話とも思えない。 アカツキは今見たことを忘れることにした。 ダイゴはポケモンリーグの役員で……プリムは彼の同僚。考えてみればすぐにでも分かりそうなものだ。 それに、今のアカツキにはやるべきことがたくさんあるのだ。 変なことに首を突っ込んでいるような場合ではない。 さっさと朝食を済ませて、エアームドの背に乗ってルネシティ目指して邁進だ!! 食堂へ向けて歩き出す。 ただ、釈然としない気持ちが消えることはなかった。 食堂に着いても、どうして、という気持ちを抱えたままだった。 だから、いつもならすごく美味しいと感じられたはずの逸品も、普通の美味しさ程度にしか感じられなかった。 「どうしてこんなに気になるのかな……?」 きっと自分とは何ら関係ないことなのだ。 それなのにこんなにも気になってしまう。 傍で競うような勢いでポケモンフーズを食べている六体のポケモンたちと比べても分かるほど、考え込んでしまっている。 これから最後のジムへ赴こうとしているのに、心に波が立っているような状態だ。 いけないとは分かっていながらも、想像することを止められない。 まるで暗示でもかけられているように、考え込んでしまう。 人間、そう簡単に割り切れるような心など持ち合わせていないのだ。 数式で表せるほど単純でなければ、善か悪かと分けて断罪できるほど楽でもない。 考えごとなどしていたせいか、思うように食事が喉を通らなかった。 心なしかあまりお腹も空いてこなくなった。 あっという間に満腹になり、喉に痞えた料理の残骸をジュースで胃に流し込むほどだ。 普段では考えられないような食べ方をしたような気がする。 もっとも、そんなことすらほとんど気にはならなかった。 胸に漠然とした予感が生まれる。 残念ながらそれは好意的なものではなく、大概が嫌な予感と一括りにされてしまうようなものだった。 「追いかけたら、きっと怒るんだろうな。特にプリムさんは」 アカツキは金髪女性の怒る顔を想像し、ぞっと背筋を震わせた。 昨日、カリンと話をしていたダイゴの後ろに現れるなり、いきなり耳を引っ張ってどこかへ連れ出した女性。 ダイゴは敵を作らなさそうな性格だろうから、怒声を浴びせたりはしないのだろうが、プリムは違うだろう。 アカツキが見ても分かるほど、彼女は自分を律している。 自他共に厳しい性格でなければ、あんな風に律することはできないだろう。 だから、無断で追いかけてきたとなれば、ダイゴの目の前であろうとなかろうとほぼ確実に怒りの矛先を向けてくる。 「ううん、考えてても仕方ない。ぼくはルネシティに行かなくちゃ!!」 ダイゴの後を追いかけたところで、結局はトラブルになるだけだと悟り、アカツキは本当に決めた。 ルネシティで最後のバッジをゲットする。 そうしたら、サイユウシティでホウエンリーグの出場エントリーを済ませる。 十二月一日の開催日までポケモンたちを鍛え上げ、トレーナーとして様々な知識を身につけるのだ。 それが自分のやるべきことであり、それ以外には考えられないはずだった。 すでにポケモンフーズを食べ終え、どういうわけか互いに毛繕いなどし合っているポケモンたちの分の食器も一緒に片付ける。 アブソルがワカシャモに毛繕いされて心地よさそうな顔をしているのを見て、アカツキはうれしくなった。 昨日ゲットして、しかしその晩はひと悶着あったものの、少しは仲間に心を開いてくれているようだ。 「みんな、行くよ」 アカツキの言葉に毛繕いを止め、ポケモンたちが一斉に立ち上がる。 「戻って!!」 モンスターボールを六つ両手に持ってかざすと、トレーナーの意に応えてポケモンたちが戻っていく。 アブソルまでもが素直に戻ったのは驚きだったが、それもまた喜びの一つとして捉えていた。 食堂を後にして、ロビーでジョーイにルームキーを返した。 ポケモンセンターを後にしたアカツキは、ルネシティを見つけた。 「よーし……」 気分を新たに、エアームドをモンスターボールから出した。 「エアームド、あそこにぼくをつれてって」 「キェッ!!」 エアームドは承知したとばかりに嘶くと、アカツキに背を向けた。 乗り方は、股下で首を挟みこむようにして背中に座るのだ。 それほど広くないエアームドの背中では、そうするしか方法がないので仕方がない。 エアームドとしても文句は言わないし、辛ければ辛いなりにシグナルを発信してくるだろう。 それがない限りは大丈夫だとアカツキは思っていた。 エアームドの背中に乗ろうとして足を踏み出した――その時。 ぽんぽんっ!! 何かが弾けるような音がして、モンスターボールからミロカロスとアブソルが飛び出してきた!! 「えっ!?」 出てこいと言ってもいないのに、いきなり飛び出してきた二体のポケモンを見て驚いた。 ポケモンがトレーナーの指示によらないでモンスターボールから飛び出してくることは確かにあるが、そうそうあるものではない。 「アブルルル……」 アブソルは低い唸り声を上げると、ホウエン本島の方角に顔を向けた。 うっすらと見えるミナモシティの街並みだが、建物がしっかり識別できるかというと、そうでもない。 漠然とした形が見えるだけで、その建物が何であるかは近づいてみなければ分からないだろう。 ミロカロスは無言で、アブソルと同じ方角を見つめた。 「どうしたの、アブソル、ミロカロス?」 アカツキは自分に背を向ける二体のポケモンに問いかけた。 一体どうして勝手にモンスターボールから出てきたのか。 指示していないのだから、理由など分かるはずもない。 辛うじて感じ取れたのは、アブソルとミロカロスが全身から強い意志を放出しているということだけだ。 いかに鈍感でも、こればかりは身体で感じ取っていた。 「アブルルルッ!!」 アブソルは振り返ると、恫喝するような声を上げた。 真っ赤な瞳をアカツキに据える。 まるで、燃え盛る炎のように見えてくるのは、果たして気のせいか…… アブソルに敵意がないというのはアカツキにも分かった。 トレーナーとして認め始めているのだろう、昨日のようにいきなり襲い掛かってきたりはしなかった。 むしろ、何かを伝えようとしているように思えるのだ。 「ろぉぉぉぉぉん……」 ミロカロスが美しい声で嘶く。 どこか物悲しく聞こえてくるのは気のせいなのか。 何かを嘆いているようで……それでいてアブソルと同じように訴えかけているような声。 「あっちは確かダイゴさんとプリムさんが飛んでいった……」 ふたりはオオスバメの背に乗ってホウエン本島へと飛んでいったのだ。 それが関係しているかは分からない。 ただ、アブソルとミロカロスが勝手にボールから飛び出し、何かを訴えかけるような声を上げたこと自体、ただ事とは考えられなかった。 「何かあるの、あっちに?」 「がうぅっ!!」 アカツキの問いかけに、アブソルは首を縦に振った。 ポケモンの五感はおよそ人間のそれを圧倒的に上回っているのだ。 アカツキが感じられないほど小さな何かでも、ポケモンは敏感に感じ取ってしまう。 それが幸せなのか不幸なのかは分からないが、ポケモンが自然現象の予告をすることも皆無ではない。 「アブソルはホウエン本島に何かあるって言ってる。 ミロカロスも……何か起こってるのかな? ダイゴさんやプリムさんが飛んでいったのは……」 因果関係まで紐解くにはあまりに手がかりが少なすぎた。 どれもが決定的な証拠とは言えず、それゆえに断言できなかった。 アカツキはルネシティに行くと決めたのに、迷いが生じたのを感じてしまった。 エアームドはどちらにするんだと物語る表情を向けてきている。 鳴き声で催促してこないあたりは、トレーナーの判断に任せるという意思表示なのだろう。 「ホウエンリーグまでは五ヶ月もあるけど…… でも、アブソルやミロカロスが訴えてるのは『今』なんだ。 だから……」 ルネジムは逃げないが、アブソルたちの声に耳を傾ける機会は今しかない。 となると…… 「行こう、アブソル。ミロカロス。ぼくはキミたちを信じるよ」 「がうっ!!」 信じてくれたのがうれしかったのか、アブソルは天を仰いで咆えた。 「アブソルは戻って!!」 アカツキはアブソルをモンスターボールに戻した。 さすがのエアームドでも、アカツキとアブソルを背中に乗せて飛ぶことはできないだろう。 せいぜいが片方だけ、といったところか。 あと…… 「ミロカロスは……」 わずかに浮かんでいるミロカロスを見やる。 モンスターボールに戻すか戻さないかを決めかねたのだ。 「飛べる?」 アカツキの問いに、ミロカロスは首を横に振る。 「あ、そう……じゃあ戻って」 アカツキはミロカロスもモンスターボールに戻した。 浮かんでいるから飛べるのかと思ったが、それは単なる思い込みに過ぎなかったようだ。 アブソルとミロカロスのボールを腰に戻すと、アカツキはエアームドに告げた。 「エアームド、場所を変えるよ。あっちに行こう」 「キエェッ!!」 アカツキが背中に乗ったのを確認すると、エアームドは翼を広げて飛び立った。 その視線の先には、ホウエン本島がくっきりと見えていた。 エアームドの『鋭い目』は、モノをしっかりと識別できる能力だ。 だから、ビルの形はおろか、中で働いている人の姿もハッキリと分かる。 超高性能の望遠鏡もいいところだが、エアームドにとって、中で働いている人間などどうでも良かった。 気づけば海に差し掛かっていた。 ぐんぐん速度を上げて、ホウエン本島へ近づいているのがよく分かる。 ミナモシティの街並みが明らかになっていくにつれ、どういうわけか胸騒ぎが大きくなっていくように思えた。 「ダイゴさんたちはどこへ行ったのかな? ホウエン本島なのは分かるけど……」 今頃になって気がついた。 ダイゴとプリムがどこへ行ったのか分からないということに。 彼らはホウエンリーグの役員だ、必要ならどこへでも行くだろう。 ミナモシティの人込みに紛れたら、それだけでその姿を探すのは困難となる。 単純に言えば、探す手段はないのかもしれない。 それでも…… 「ぼくはアブソルたちを信じたい……」 わざわざモンスターボールから出てきたのだから、それには何かしらの意味があったに違いない。 ならば、それを信じるしかないではないか。 だけど、アブソルとミロカロスは何を見て、何を感じたのか。 それさえ分かったなら、解決の糸口になるのだろうが……ないものねだりなどしても仕方がない。 ただ行くしかないのだ。 瞬く間にトクサネシティから離れ、海の上を翔ける。 同じ方向を目指しているキャモメやペリッパーの群れを追い越す。 それほど時間をかけずにミナモシティ上空に辿り着けたのは、エアームドが文字通りの全速力で飛んでくれた賜物だった。 「えっと……」 エアームドの背から身を乗り出して、通りを行く人の群れからダイゴとプリムの姿を探す。 だが、そう易々と見つかるものではない。 「ダイゴさんたちはミナモシティにいるのかな。それとも……」 別の通りを探してみたが、それでも見つからなかった。 もっとも、どこかの建物に入られたらどう考えても見つかるはずもないし、そもそもこの街にいるかどうかすら疑わしいのだ。 「どうしよう……こんなところまで来ちゃったけれど……」 アカツキはいきなり途方に暮れた。 だが、考え直す。 「ぼくはダイゴさんたちを探しに来たわけじゃないはずだ」 芽が出てからは早かった。 「アブソルとミロカロスが何かを感じたから。ぼくがそれを信じたから、ぼくはここにいる。それだけなんだ」 ここに来た目的を見直し、マイナスへと向かっていた考えを掻き消した。 そうだ。 ダイゴとプリムを探しに来たわけではない。 あくまでも方角が一致しただけだ。それをどういうわけか勘違いして、ダイゴたちを探していた。 「ここは一度下に降りよう。 アブソルたちを出して、もう一度確かめなくちゃ」 アカツキはエアームドに、近くの空き地に降りるように指示を出した。 地面に降り立つと、アブソルとミロカロスをモンスターボールから出した。 「アブソル、ミロカロス。ホウエン本島に戻ってきたよ。 キミたちが何かを感じ取ったのがこの方角だったんだ。今でも感じられる?」 その言葉を理解して、アブソルとミロカロスは別々の方角に顔を向けた。 そこから先はふたりに任せることにした。 ポケモンの気持ちを完全に理解できるわけではないから、その気持ちを言葉に変えることもできない。 だから、任せるしかない。 「アブルルルル……」 アブソルは周囲を見渡した。 何の変哲もない、どこの街にでもある空き地。地面はざらざらしていて、正方形の土地には何もない。 何かを探しているようなアブソルとミロカロスは、まるで母親の匂いを探して彷徨っている仔犬のようだった。 「今のぼくには、アブソルたちが何かを見つけてくれることを期待するしかできない。 人間って、ホントに無力なんだな……」 アカツキは自分の無力さを噛みしめていた。 何もできない。 任せるしかできない。 ポケモンと比べて、生命力、五感、身体能力と三三七拍子で劣っている人間。 ポケモンにすら感じられないほどの微小な何かを感じ取ることなど不可能だ。 ポケモントレーナーなんて言ったって、人間であることに変わりはないのだし…… よくよく考えてみれば、ポケモンはどうしてトレーナーに懐くのだろう。 自分よりも優れたところなどないような相手に。 人間などよりも多感なポケモンなら分かるはずだ――目の前にいる人間は自分より劣っている。 取るに足らない力すら持たない。 不思議なことだと思った。 どうして今までそういうことを考えたことがなかったのか、ということも含めた上で。 「みんなはこんなぼくにでも期待してくれてるってことなのかな…… だったら、裏切るわけにはいかないよね」 同じ地球で生きているもの同士。そこに何の違いがあるだろう。 互いに支え合って生きているということに変わりはない。 なら、それだけで十分ではないか。 必要以上に深く考えることなどなかったのかもしれない。 考え込むという悪い癖をひとつ発見したような気がして、無力なんていうネガティブな考えがあっという間に吹き飛んでいく。 「考えるなんて、らしくなかったかも」 自己完結したところで、アブソルが咆えた。 「アブソル、どうしたの?」 「アブルルルル……がぅっ!!」 アブソルがいつでもバトルできるような体勢で、顔をアカツキに向けることなく、ずっと一点を見つめたまま咆えている。 「ろぉぉぉん……」 ミロカロスも、同じ方向に身体を向けていた。 「あっちは……」 二体のポケモンを交互に見つめ、彼らの視線が注がれている先へと目を向ける。 ミナモシティの西部は高い建物がないので、空が拓けて見える。 低い建物が並ぶ中、顔をのぞかせている山があった。 「あの山は……確か送り火山って言ったっけ?」 一際高く見える山を見て、アカツキはタウンマップを取り出した。 送り火山…… 天寿を全うしたポケモンたちの墓が納められている神聖な山だ。 アカツキには縁のない場所と言ってもいい。 エントツ山ほど高くはないが、低地の広がるホウエン地方東部では一際目立つ。 タウンマップをリュックにしまって、送り火山に視線をやった。 「もしかして、あの山なの……?」 位置的に考えると、送り火山と考えるのが妥当だ。 「アブソル。ミロカロス。あの山に何かを感じるのかい?」 「アブルルルル……」 想像が正しいのか確かめるべく口を開くと、アブソルは低い唸り声を上げたまま首を縦に振った。 「あそこに何があるんだろう……?」 ポケモンたちが安らかに眠る場所……すべての命が還る場所。それが送り火山と言われている。 アカツキはそんな言い伝えなど知らないが、なんとなく雰囲気で感じられる。 普通の山ではないと、なんとなく分かるのだ。 と、その時。 「……!?」 かすかな光が目に届いた。 例えて言えば、鏡に反射した光が目に入ったような……そんな感じ。 山の一点が、キラキラと光り輝いている。 「あれは……」 少なくとも、ここからは数十キロは離れている。 「何かあるのかな?」 光が届いたのは偶然なのか。 それとも…… 「アブソルは何かを感じてる。ミロカロスも……」 偶然にしては出来過ぎている気がする。 山の一点が輝いていること。その光が目に届いてきたこと。 それと……アブソルとミロカロスが何かを感じたらしい方角が送り火山と合致していること。 すべてがひとつにつながっているような……漠然とした予感が胸に浸透していく。 「あそこに……」 アカツキは目を細めた。 相変わらず光は届いている。 偶然でないとしたなら…… 仮定してみる。 偶然でなければ、それは必然だ。必然ならば…… 「あそこに何かがある……ってこと?」 あの光は自分を誘っているような気がする。 「なら、行くしかない」 ――たとえ何が待っていようと、ぼくはみんなを信じるだけだ。 胸中で自らを奮い立たせ、決めた。 「アブソル、ミロカロス。行くよ、送り火山に!!」 エアームドの背から送り火山の麓へ降り立ち、アカツキは唖然とした。 ひどく荒らされていたのだ。 「これは……」 地面は抉れ、山道の脇に立派に生い茂っていたであろう木は根元から倒れ、無様な姿を曝している。 さらに、たくさんの足跡が山道の奥へと続いている。 ここで何があったのか、アカツキでさえ容易に想像がついた。 「戦いがあったのかな、ここで……?」 荒れているのはここだけではなかった。 目に見える限り、荒らされていた。 豊かな自然であったはずの空間が、恐らくは人為的な力で荒地と化してしまったのだ。 「アブソルとミロカロスはここで何かあったってことを感じたのかな?」 腰のモンスターボールに触れてみる。 気のせいか、アブソルのボールが熱いような……そんな気がした。 気のせいかどうかは置いておくとしても、気にならないはずがなかった。 ポケモンたちの魂が安らかに眠っている神聖な場所。 そこへ続く道がこんなに荒らされてしまっているのだから。 「ここに来た以上、もう後には退けないのかもしれない……」 アカツキは唾を飲み下した。 何があったのか、確かめるしかない。 アブソルとミロカロスが感じたものを信じて、ここまで来たのだ。 だから、先へ進むしかない。待っているものが神でも悪魔でも。 「アブソル、出てきて!!」 何が待っているか分からない。 アカツキは念のためアブソルを外に出しておくことにした。 モンスターボールを軽く放り投げると、口が開いてアブソルが飛び出してきた。 落下してきたボールを受け止めて、腰に戻す。 「アブソル、答えはここにあるんだろ? 行こう!!」 「がうっ!!」 元気よく頷いてくれたのを見て、アカツキは微かに口元を緩め――しかし真剣な顔をして駆け出した。 そんな男の子の心情を感じ取ったのか、アブソルは黙って彼に併走した。 山道は緩やかな傾斜になっており、走って登るというのは意外と辛いものだった。 だからといって途中で投げ出すような弱気な男の子ではない。 三分くらい走ったあたりから、道の脇にポケモンの墓が見えてきた。 大きめで少々派手なものもあれば、小さくて質素なものもある。 色とりどりの花束が墓前に添えられていたり、お供え物も捧げられている。 死を迎えても、そのポケモンに深い愛情を抱いている人間がいるということが分かる。 墓に両脇を固められるという奇妙な構図ではあるが、アカツキはそんなに気にしていなかった。 まだ縁がないと思っているからなおさらだったが、とても静かで穏やかだったから。 だが、その静寂は突然打ち破られた。 どぉんっ!! 道の先――山頂付近で爆発が起こったのだ。 勢いよく煙が立ち昇る。 「あそこだ!!」 アブソルたちが感じたものの答えはあそこにある。 改めて確認し、アカツキは足を速めた。 「みんな静かに眠ってるのに、どうしてこんなところで戦いなんて……」 アカツキは唇をきつく噛みしめて、胸中でぼやいた。 天寿を全うしたポケモンたちが静かに眠っているはずの場所が、どうしてこんなに荒らされてしまったのだろう。 墓への被害はそれほどでもないが、道や木々はそうもいかない。 ところどころ地面が陥没していたり、木が見た目どおり木炭になっていたり…… 戦いが起こったであろうことは明白だった。 走っている間にも次々に爆発が起こり、煙の立つ箇所が増えていく。 そのいずれもが山頂付近に集中していた。 煙が寄り集まって、噴火寸前の火山のような様相を呈していた。 もっとも、黒ずんだ煙は噴煙とはまた違う色ではあったが。 その違いなどまるで知らないアカツキにとっては、ただ胸が痛むだけだった。 ポケモンたちの静かな眠りを妨げるようなことがこの場所で起こって、とても残念に思っている。 その場所に足を踏み入れることに抵抗がないわけではない。 ただ、アブソルたちを信じたい。 その一心から、足を止めることなく走り続けているのだ。 少しずつ傾斜が緩くなり、やがて平坦な道に変わったところで、道の先に人影が見えた。 どこかで見たことのある男女が背を向けて立っている。 そこで何が起こっているのか、見るまでもなく分かった。 飛び交う光線や岩。ポケモン。 「あ……!!」 アカツキは足を止めた。 十数メートル前で、どこかで見たことのあるコスチュームの団体と戦っているのは、ダイゴとプリムだったのだ。 それに、その相手はマグマ団ご一行様。 見たところ下っ端が十数人。 カガリやリクヤなど幹部の姿はないが、どうにも状況はダイゴたちにとって良いとは言えそうになかった。 アカツキにも分かるくらい、数が違いすぎるのだ。 いくら実力があっても、数で圧されると苦しいはず。 「ど、どうしたらいいんだろう……」 アカツキはその戦いをじっと見つめたまま、しかし何をすべきか迷っていた。 今選ぶべき道は三つ。 ダイゴたちに加勢すること。 このまま見ていること。 この場から立ち去ること。 どれを選べばいいのか、正直言って分からない。 ポケモンたちが眠っている場所で戦っているところに加われば、自分も同じになってしまうのだ。 眠っているポケモンたちの邪魔をすることになる。 だが、このまま見ていても何にもならないような気がする。 だからといってこの場から立ち去れば、結局はアブソルやミロカロスを裏切ることになる。 逃げることなんてできなかった。 しかし、後先考えず戦いに加われるはずもない。 ダイゴからは、マグマ団やアクア団に関わらぬよう釘を刺されているのだ。 堂々と出て行けるはずなどないではないか。 どうすることもできずにただ立ち尽くしていると、 「がうぅぅっ!!」 アブソルが唸り声を上げて戦いの渦中へと駆け出していったではないか!! その声に気づいたダイゴがこちらを振り返り―― 「アカツキ君、どうしてここに!?」 彼はひどく慌てていた。 状況がただでさえ悪かったのか。それともアカツキがこの場にいることに驚いたのか。 それは分からないが、彼はとにかく慌てていた。 「ダイゴさん……」 「トドゼルガ、吹雪!!」 プリムの指示が飛ぶと、凄まじい吹雪が巻き起こった。 「アブルルルルッ!!」 アブソルが大きく跳躍し、輝きを帯びた角を振るう。 アブソルが敵と認識していたのは、揃いのコスチュームに身を包んだ一団が操る炎と悪のポケモンたち。 頭上から降り注いできた強烈なカマイタチなど眼中になかったマグマ団のポケモンたちは、その一撃をまともに食らった!! そこへプリムのトドゼルガが放った吹雪が襲い掛かったものだから、ひとたまりもない。 「撤退〜っ!!」 隊長クラスの団員の指示に、一団はポケモンたちを戻すと、ダイゴとプリムに背を向けて敗走した。 「よくやりました。戻りなさい、トドゼルガ」 当面の危機は去ったということか、プリムはポケモンをボールに戻した。 一方、ダイゴは逃げ出すマグマ団を追いかけることもなく、反対側にいるアカツキの傍へと駆け寄ってきた。 「どうしてここに……?」 訝しげに眉をひそめる青年。 アカツキは彼の言わんとするところを察し、何も言葉を返せなかった。ただ俯くばかりだ。 結果だけを見てみれば、アカツキはダイゴの言いつけを守らなかったことになる。 言い訳などできるはずもないではないか。 ダイゴの後について、ゆっくりとした歩調でやってくるプリム。 彼女の眼差しはとても鋭く、そして冷たかった。 「前にも言ったはずだよ」 ダイゴは俯いたまま目を合わせようとしないアカツキを諭すような口調で言った。 下手な威圧は余計な面倒を引き起こすと分かっているのか、いきなり咎めるようなことだけはしなかった。 まあ、場合によればそれもあるのかもしれないが…… 少なくとも男の子の言い分を聞いてからになるだろう。 「マグマ団やアクア団には関わるなと」 「アブルルル……」 ダイゴの言葉を遮り、アブソルが威嚇するような唸り声を上げながらダイゴに詰め寄った。 オレのトレーナーに何しやがると言わんばかりの雰囲気に、ダイゴは思わずたじろいでしまった。 怒っているのが分かる。 いきなり襲い掛かってきたところをゲットしたアブソルだが、少しはアカツキのことをトレーナーと認め始めているのかもしれない。 うれしいような、それでいてどこか物悲しいような……そんな気持ちが渦巻いた。 「ダイゴさま」 「ん?」 「ここはわたくしが話を聞いておきましょう。 ダイゴさまは早く山頂へ。他のお三方も到着されている頃でしょう。お急ぎください」 「そうか、分かった」 ダイゴはプリムの言葉に頷くと、アカツキに背を向けた。 これ以上向き合うのは……正直なところ辛い。 彼にだけは来てほしくなかった……それが正直な気持ちなのだ。 どうしてダイゴがそんなことを思うのか、アカツキがそれを知るのはもう少し先になる。 「オオスバメ、行くぞ」 ダイゴはオオスバメをボールから出すと、その背に乗って山頂を目指した。 「さて……」 ダイゴの姿が小さくなったのを目視で確認し、プリムは腕を組んだ。 俯いたままの男の子の顔を直視し、言った。 「とりあえず、援護してくれたことには感謝しましょう。 ですが……いつまでそうしているつもりです、アカツキ君」 冷厳な言葉に、アカツキはやっと顔を上げた。 だが、申し訳なさそうな顔は変わらなかった。 女性とは思えないような目つきで見つめてくる彼女に、何か抗えないものでも感じ取ったか、アカツキは何も言えなかった。 釘を刺された相手はダイゴであって、プリムではない。 そのことが余計に言葉を出しにくくしているのかもしれない。 「ダイゴさまがあなたに投げかけた言葉を忘れたのですか? 二度とマグマ団やアクア団に関わらないということです。 あなたはそれに同意したはずですね。 現実だけを見てみれば、あなたは半ば約束を破ったということになります。 一応、あなたの言い分を伺っておきましょう」 「……それは……」 アカツキはプリムから目をそらした。 言葉こそ控えめだが、口調はどこか攻撃的で、アカツキの行為を責めているのが明白だったからだ。 だが、何も言わないままでは彼女とて納得はしないだろう。 それだけは雰囲気から嫌でも分かる。 ただ、どう言えばいいのかが分からない。 「あなたにそのつもりがあるのかは分かりません。 黙っていてはそのことも分からないのですよ」 「ぼくは……」 アカツキはピタリと寄り添うように立っているアブソルを見つめた。 今にも泣き出しそうな顔で見つめてくるトレーナーに、アブソルは呆気に取られた表情を見せていた。 何がなんだか、分からなかったからかもしれない。 「アブソルたちを信じたいんです。だから、ここに来ました」 「どういうことです?」 言葉の意味を理解できず、プリムは訝しげに眉をひそめながら問いかけてきた。 単純に言葉尻だけを捕らえて見てみれば、それだけで理解することはまず不可能だろう。 アカツキは顔を上げた。 今にも泣き出しそうな表情はどこにもなかった。 自分の言葉で、自分の気持ちをこの女性に伝えよう。 決めたからには、俯いてなんかいられない。 何を言われてもいい。 自分はダイゴとの約束(?)を破ったのだ。 そのことについて咎められるなら、それは構わない。 ただ、分かってもらいたいことがある。 「トクサネシティで……アブソルとミロカロスが何かを感じ取ったらしいんです」 「何か、とは?」 「分かりません」 鸚鵡返ししてくるプリムに、アカツキは首を横に振った。 分からないものは分からないのだ。 ポケモンの言葉を理解できるわけでもなければ、気持ちを素直に受け止めて、それを訳せるだけの器があるわけでもない。 ただ、アブソルとミロカロスが何かを感じ取り、それをアカツキに訴えかけてきたことしか分からない。でも、それを信じたい。 「ホウエン本島の方から感じたらしくて。 それでミナモシティに行ってみたんですけど、でもそこじゃなくて……アブソルたちはこの山だって」 「それで来たと……そういうことですか」 「はい」 プリムは表情一つ変えなかった。 どうも素直には信じてくれていそうにない。 アカツキは嫌でもそれを理解せざるを得なかった。 冷徹な壁のように、目の前に立ち塞がっている女性は、どう考えてもただの女性ではなかった。 「それを素直に信じろということですか?」 「ぼくには、そうとしか言えないんです。ポケモンを信じちゃいけないんですか? トレーナーとしてポケモンを信じるのって、当たり前だって思うから」 アカツキはキッパリと言い張った。 そうとしか言えないのだ。 アブソルたちを信じたからここに来た。 ここに来なければ、何かを感じたであろうアブソルたちを裏切ることになる。 それだけはしたくなかった。 プリムはアカツキの言葉のひとつひとつを冷静に分析した。 真剣な面持ちで自分を見つめてくる男の子の顔にウソは見られなかった。 だが、素直に信じる気にはならない。 言い訳にしてはできすぎているような気がしたからだ。 じっくりと意味を咀嚼して、理解しようと努める。 「アブソル……わざわいポケモンですね……」 プリムはアブソルを見つめた。 トレーナーが疑われているのを不快に思っているのか、口の端から鋭い牙をのぞかせながら上目遣いでプリムを睨みつけている。 「このポケモンが何かを感じたと……まさかとは思いますが……」 可能性だけなら考えられた。 今、ダイゴが向かっている山頂で起こっていることと結びつける。 人間を超越した感覚を持っているポケモンたちが何かを感じ取ってしまうことも十二分にあり得る。 どう理解して、どういう対応を採ろう。 ダイゴが任せてくれた以上は、責任を持って対処しなければならない。 場合によっては実力行使で彼を追い返さなくてはならないだろう。 荒事を好まないプリムは、どうしてもそういう気にはなれなかった。 じっくりと判断したい。 一刻も早くダイゴに追いつきたい気持ちが強いのに、ここを離れるわけに行かないという使命感が彼女を縛っていた。 「ひとつ聞かせてください。 あなたはポケモンを信じたからここに来たと言いました。 ですが、何が待っていても、誰がそこにいても…… そういう覚悟を持っているということですか?」 プリムの氷のような眼差しと、刃のような言葉が突きつけられる。 それでも、アカツキは彼女の視線を真正面から返した。 「……はい。何が待ってたって、ぼくはみんなを信じたいんです。 アブソルはゲットしたばかりですけど、ぼくの『家族』ですから」 「家族……」 その単語に懐かしいものが込み上げて、プリムは胸が熱くなった。 あまりいい想い出がないだけに、そういうものには強く憧れてしまう。 「わかりました」 「え?」 「あなたにそれだけの覚悟があるというのなら……わたくしについてきなさい。 すべてを見届けなさい。 これからホウエン地方に起こるであろう騒乱を……」 「いいんですか?」 「ただし、自分の身は自分で守ってくださいね。 わたくしたちとしても余力はありません。さあ、行きましょう」 プリムはそれだけ言うと、モンスターボールからオオスバメを出して、その背に乗って飛び立った。 「プリムさん……」 アカツキは胸中でプリムに感謝した。 彼女なら、力づくで追い返すこともできたはずだ。 ダイゴの同僚というのだから、それくらいの実力は持ち合わせているはず。 それをしなかったということは…… 「よし、行こう!!」 アカツキはアブソルを戻すと、エアームドを出した。 その背に乗って、プリムの後を追った。 彼女はオオスバメに速度を抑えるようにしていたのだろう、アカツキは意外と簡単に追いつくことができた。 「プリムさん、ありがとう……」 ギリギリまでオオスバメに接近し、アカツキはプリムに礼を言った。 彼女は気のせいか、顔を少し赤らめ――そんな自分自身に気づいてか、すぐにそっぽを向いた。 つっけんどんな口調で返してくる。 「勘違いしないでください。 あなたがどのような目に遭われようと、わたくしが責任を持つわけでないから、了承したまでです。 もっとも、ダイゴさまがどう思われるかは分かりません」 「それでも……」 「そろそろ到着します。無駄口を叩いていられるヒマはありません」 鞭のようにぴしゃりと言うと、プリムは降下を始めた。 彼女に倣ってアカツキもエアームドに高度を下げるように言った。 ふたりは山頂付近に降り立つと、それぞれのポケモンをボールに戻し、駆け出した。 この先で何が待っていようと、アブソルを信じた以上、何を言うつもりもない。 少し傾斜のついた山道を駆け上がっていくにつれて、視界が拓けてきた。 山頂には神殿のような祠があり、その前で激闘が行われていた。 マグマ団とアクア団が入り乱れる中、ダイゴや見知らぬ三人組が彼らを追い払おうと奮闘している。 祠を守るように立ち塞がる人物を見て、アカツキは言葉を失った。 プリムとの距離が開いていくことなど、取るに足らないほど些細なものでしかなかった。 「リクヤさん……」 祠の前で腕組みをしているのは、紛れもなく、マグマ団三幹部のひとり。 アカツキにとっては妙な因縁を持つ相手、リクヤだったのだ。 第79話へと続く……