第99話 愛しき想いが邪悪に染まる時 突然、視界が拓けた。 湿った空気と、生気の感じられない森の景色が一変する。 森に入ってどれくらいの時間が経ったのかは分からない。いろいろと思うことがあって、感覚が麻痺していたのかもしれない。 視界が拓けた先には、腕を組みながら笑みを浮かべているリクヤと、彼を守るように宙に浮かぶミロカロス。 そして、淡い光の柱を立ち昇らせる宝石を擁く台座と、傍らで何かを祈っているラティオス。 「あれがラティオス……?」 アカツキは息を呑んだ。 瞳を閉じて、一心不乱に何かを祈っているようなラティオスの姿は、降り注ぐ淡い光のカケラを浴びて、神秘的ですらあった。 ハヅキも、ユウキも、ハルカも、目の前の光景にただ呆然とするしかなかった。 リクヤは――すべてを理解した上で待ち構えていたのだ。 その口元に浮かんでいるのは、虫をも殺さぬ笑みだった。 ダイゴに睨みつけられても構うことなく、自分こそが覇者であると言わんばかりの表情を浮かべていた。 静寂が、張り詰めた空気の中を漂う。 刹那、ラティアスが声にならない悲鳴をあげ、悲痛な面持ちでその場に膝を突いた。 「あぁぁぁぁぁぁっ……!!」 人の姿になり、声を上げて泣いた。 ラティオスが祈っている……それも、一心不乱に。 自分が逃げたりしたから、一人で苦しい想いをしている。それが分かったから、想いが胸に詰まり、涙が込み上げてきた。 『心のしずく』の力を引き出すためには、ラティオス自身の生命力を媒体として捧げなければならない。 祈っている兄からは、少しずつ命の源が抜け出している。 もう少したどり着くのが遅れていたら、命を落としていたかもしれない……それがせめてもの救いだったのかもしれない。 手遅れにならずに済んだ……ラティアスは声を上げて泣きながらも、兄がまだ生きていてくれたことに人知れず感謝した。 「アカツキの親父さん……」 ユウキが呆然とつぶやく。 七年前に忽然と姿を消したリクヤが、目の前に立っている。 彼にかけられた優しい言葉が、七年の時を越えて、ユウキの胸の中にじわりと響く。 ……が、優しかった親友の父親の目は、氷のように凍てついていた。 本当に同じ人なのかと、疑いたくなるほどに。 七年の月日が、彼を変えてしまったのかと、思ってしまうほどに。 ハルカはリクヤのことをほとんど知らないが、一目見て、アカツキとハヅキの父親だと理解した。 髪の色も顔つきも違うが、穏やかに見える物腰が、二人にどことなく似ていたからだ。 「ダイゴ、遅かったな。 おまえにしては、手際が悪いのではないか?」 止まっていた時を動かしたのは、リクヤだった。 ダイゴに嘲笑を向けながら、事も無げに言ってのける。 光の柱を背にしたその姿は、神々しくさえ見えたが、その顔に浮かぶのは邪悪とすら思える笑み。 「そうかもしれないね……」 ダイゴは深々とため息をつくと、軽く頷いてみせた。 やはり、本質的なところでは、リクヤは変わっていない。とはいえ、上辺だけというワケでもなさそうだ。 「だが、僕がここに来た意味は理解しているだろう?」 「俺を止めるためだろう。 子どもをずらずらと引き連れて……な」 「子ども扱いするのは勝手だが、自身の意志でやってきたんだ。貶めることは許さない」 「ふむ……」 短い会話だったが、脈はなかった。 ダイゴは、リクヤを説得するのは無理だと悟った。 もっとも、説得程度で折れるような弱い心根の持ち主ではないと分かっていたし、ラティオスの命を削ってまで叶えたい願いがあるのだ。 生半可な覚悟ではあるまい。 「ならば、僕のすべてを賭けてでも止めるしかない」 これ以上罪を重ねてほしくはない。 昔の優しかったリクヤに戻ってほしいなどとは言わないが、せめて誰も傷つけることのないように。 ダイゴはこのまま直接対決を挑もうと思っていたが、彼の虚を突くように、リクヤがアカツキとハヅキに視線を向け、口を開いた。 「よく来たな、アカツキ、ハヅキ。 俺の愛しい息子たち……」 息子を見る眼差しは、確かな温もりを帯び、慈愛に満ちていた。 先ほどまで見せた冷酷な笑みは、親が子どもに向ける愛しいものへと変わっていた。 こうも変わるものかと、ユウキは言葉を失っていた。 「…………」 アカツキはリクヤから目を逸らし、台座の傍に浮かび、祈りを捧げているラティオスを見やった。 外傷はほとんど見受けられないが、この森と同じように、生気がまるで感じられない。 立ち昇る光の柱に吸い込まれていくかのように思えてきた。 「どうして、こんなことを……?」 泣き崩れるラティアス。祈りを捧げるラティオス。 二人とも、それが本来の姿ではないだろう。 何かが違う。変わっている。 そうさせたのは、目の前で朗らかな笑みを浮かべている父親だ。 アカツキは居たたまれない気持ちを噛み殺しながら、リクヤに訊ねた。 「お父さん、なんでこんなことするんだ……!! 何を叶えたいのか知らないけど、だからってポケモンを傷つけるなんて!!」 ラティアスとラティオスの生活を脅かし、彼らの運命を狂わせたのは、他ならぬリクヤだ。 許す、許さない以前に、彼がどうしてこんなことをするのか、彼の本心を知りたいと思った。 ポケモンの力など借りずとも、何だってできるだけの強さがある。 人を慈しみ、誰かを守りたいと思うなら、その力で守り抜くことができるはずだ。 それだけの強さがあると、アカツキはそう思っていた。 弟の縋るような眼差しを追いかけ、ハヅキも口を開いた。 「僕もアカツキも、父さんには会いたいと思ってた。 父さんは知っているだろう? 僕はこの一年間、ずっと父さんを捜してた。帰ってきてほしいと思って。 どうして帰ってきてくれなかったんだ? 父さんがどこでどんなことをしようと、僕も母さんも、父さんのことをちゃんと受け入れたのに……」 一年間捜し続けても、見つからなかった父親。 再会を果たしたのは、送り火山の頂。 その時は、父親としてではなく、秘密結社マグマ団の幹部として。 純粋に親子としての再会は、今この時だった。 ハヅキは今まで閉じこめていた想いを出しつくすように、言葉を重ねた。 「僕たちを置いてまで、やるべきことがあったのか? 母さんはずっとあなたのことを待ってたんだ。 僕は何度も見てきたよ。 母さん、僕たちが寝た後にいつも泣いていたんだ。 寝付けなくて、夜風に当たろうと部屋を出たら見てしまったけれど……本当に辛そうだった。 見ている僕の方が、参ってしまうほどに……」 「え……」 驚いたのはリクヤではなく、アカツキの方だった。 まさか、そんなことがあったなんて。 母が自分たちに見られないように、ひとりで泣いていたなんて……知らなかった。 母一人で子供二人を育ててゆくのは容易なことではない。 アカツキはナオミの苦労を知っている。 知っているからこそ、立派な人になろうと想い、今まで頑張ってきたのだ。 だが、ナオミは気丈に振る舞っていても、誰も見ていないところでは涙を流していた。 愛する夫のいない生活が辛くて、何度も逃げ出そうと思ったこともあったらしい。 ハヅキの言葉に、アカツキはなおさら居たたまれなくなった。 自分の父親が、母親を悲しませている。 どんな理由があっても、それだけは許せなかった。 愛しているから結婚し、子供を儲けたのではないのか。それなのに、どうして愛した人を悲しませるようなことをするのか。 アカツキには、リクヤの考えが理解できなかったし、理解しようとも思わなかった。 家庭の事情とやらが根底に横たわっているのを感じ、ユウキとハルカは口出しすることができなかった。 言ってやりたいことはたくさんあるが、アカツキを前に自分の気持ちを素直にぶつけたところで、 むしろ傷を負わせてしまうのはアカツキやハヅキの方だ。 それが分かっているから、ともすれば噴出そうとする想いを抑えるように、拳を固く握りしめる。 ハヅキは眉を十字十分よりも吊り上げ、リクヤに詰め寄った。 「母さんを悲しませてまでやらなきゃいけないことって何なんだ!?」 鋭い言葉が胸にナイフのように突き刺さったのか、リクヤは表情をゆがめた。 そんなことがあったなんて知らなかった。 自らの為すべきことのために、家族を置いて一人戦ってきたのだ。 為すべきことがある。 そのためには、犠牲もやむを得ないと思っていた。 ナオミが一人で子供を育ててゆかなければならないこと。 時には愛する夫の不在で寂しさを募らせ、涙に暮れる夜もあること。 悲しませることは……分かっていた。 それを承知で、リクヤは家を飛び出したのだ。 自らの為すべきことを為すために。 とはいえ、それが現実だと聞かされると、さすがに平常心を保っていられなくなる。 たとえ覇王のような強さを持つリクヤでも、やはり人を愛する心を持っているからだ。 「もう僕たちを置いていかないでよ。 父さんに傍にいて欲しいんだ。僕はそれだけでいい。傍にいてくれるだけで……」 「ハヅキ……すまない。 おまえたちを悲しませていたことは、俺にも分かっていた。 だが、俺にはやるべきことがあった。 今すぐに分かってくれとは言わん。 だが、いつかおまえが俺と同じ父親になったら、その時はきっと分かるだろう……」 「そんなんじゃない!!」 リクヤの言葉を遮って、アカツキは叫んだ。 父親は勝手な理屈ばかり並べている。 それが我慢できなかった。 家族を悲しませてまでやるべきことがあるというのか。 そんな『大義』なるものがこの世界に存在しているというのか。 子供心には、そういうものが理解できなかった。 「ぼくたちと一緒じゃ、できないことだったの? ぼく、小さかったからあまり覚えてないけど……でも、今はお父さんに傍にいてほしいよ」 「アカツキ……」 ハヅキは今にも泣き出しそうなアカツキの顔を、切ない表情を浮かべて見つめた。 リクヤは、顔をそむけていた。 実の息子に立て続けに言われるのは辛いのだろう。今まで向き合ってこなかった分、心が痛い。 自分がやってきたことが決して褒められたものではないことも、承知している。 だが、それもすべては…… 言葉を返そうとするリクヤだったが、機先を制するようにダイゴが割って入ってきた。 「リクヤ。 あなたには、アカツキ君やハヅキ君が来ることが分かっていたんだろう? その上で、僕たちを誘い込んだ……違うかい?」 「えっ……?」 ダイゴの言葉に、アカツキたちが驚いた眼差しを向ける。 「そうだ。 おまえがアカツキとハヅキを監視していることは分かっていたが、機は熟した。 もはや、コソコソ逃げ回る必要もなくなったのでな……」 リクヤは苦笑した。 ホウエンリーグの動きは把握していた。内通者を設けていたわけではないが、ダイゴの考えそうなことは分かる。 伊達に、彼にポケモントレーナーとしての技術や心構えなどを教えてはいない。 現に、リクヤはラティアスがアカツキとハヅキを連れて戻ってくることも、 二人の動きに目を光らせていたであろうダイゴたちがやってくることも読んでいた。 彼らが島にたどり着いた時から、『心のしずく』から引き出した力を使って、監視していたのだ。 「もっとも、余計なのも混じってはいるようだがな……」 「あたしたちのこと?」 「……そうだ、センリの娘。オダマキの息子もいたな。 まさかおまえたちまでついてくるとは思わなかったが……まあ、致し方あるまい」 不満げな眼差しを向けてくるユウキとハルカを一瞥し、リクヤは小さくため息をついた。 幼かった頃の二人には会ったことがあるが、さすがに七年も経つと、あの頃の面影も薄い。 一目見ただけでは、知り合いの息子・娘であることが分からないほどだ。 「だが、構わんさ。何人いようと、変わらない」 すべては予定調和のうち。 どんな横槍も、リクヤの思い描く軌道を歪ませることはできない。 すべてはもはや決まっている。その方向へのみ、時と運命は進んでいる。 「誰が来ようと、俺の行く手を遮ることはできない。 ダイゴ、たとえおまえでもな……」 リクヤも、ダイゴの実力は知っている。 マンツーマンで教え込んだ頃とは比べ物にならないほど成長したのだろうが、それでも自分には敵わない……それだけの自信はあった。 ダイゴは決意を秘めた眼差しで、リクヤをただ睨みつけていた。 しかし、一分でも隙を見出したなら、すぐにポケモンを出せる態勢ではあった。 「……あのさ、言いたいことがある」 緊迫した空気が流れる中、ユウキが口を開いた。 上目遣いにリクヤを睨みつけるが、ダイゴと違って敵意すら滲ませていた。 無論、そんなコケおどしで怯むリクヤではない。静かに睨み返す。 「オレはあんたが何をしようが知ったことじゃねえが、アカツキやハヅキの兄貴を悲しませるようなことをするのが親父か!? あんたが子供のことを誰よりも考えてるってんなら、こんなバカげたことはしねえだろ!?」 ありったけの勇気を振り絞って言葉を叩きつけるも、リクヤは一笑に付した。 「別に、許してほしいとは思っていない。 おまえたちは何か勘違いをしているようだな……」 「…………」 およそ父親の口から飛び出すとは思えない言葉に、ユウキとハルカが身体を震わせた。 子供が自分のことをどう思っているか知っている上で、それでも止めるつもりがないと言うのだから。 「どちらにしても、おまえたちをおとなしく帰すつもりはない。 邪魔立てするなら、排除するだけだ……」 リクヤは目を細めると、腰にただひとつ残っていたモンスターボールを手に取った。 四体のポケモンで、二手に分かれてここに向かっているホウエンリーグ四天王の相手をしているが、そう長くは保たないだろう。 もっとも、時間稼ぎさえできればいい。 そのつもりで、トレーナーの指示なしで戦わせるという捨て鉢な行動を取ったのだ。 残ったポケモンは二体。 一体はリクヤの傍らで周囲に睨みを利かせているミロカロス。 そして、もう一体は…… アカツキとハヅキが来てくれたのは良かったが、ダイゴたちはリクヤにとって邪魔者でしかない。 互いの主張をぶつけ合っても、たどるのは永遠の平行線。 言葉を尽くしても理解し合えないと最初から分かっている。 だったら、方法は一つしかない。 ――排除することだ。 リクヤが手にしたモンスターボールを投げ放とうとした時だった。狙いすましたように、ハヅキの声が響く。 「これ以上アカツキや母さんを悲しませないでくれ!! 一緒に帰ろう!! 僕は、それだけでいいから……!!」 「それはできない」 「……!!」 しかし、リクヤはモンスターボールを投げようとする手を止め、息子の懇願を突っぱねた。 落雷のような衝撃がアカツキとハヅキの身体を駆け抜けた。 リクヤは決意に満ちた表情で、表情を引きつらせる息子たちに凛とした口調で告げた。 彼の目に、ユウキとハルカ、ダイゴの姿は入っていなかった。 見ているのは、愛すべき息子たちだけ。 「おまえたちの気持ちは理解している。 だが、だからこそ今ここですべてをあきらめるわけにはいかない」 「なんで……?」 リクヤの瞳が氷のように冷たく光り、アカツキは射竦められたかのように言葉が出てこなかった。 言いたいことがあるのに、声が出ない。 それはハヅキも同じようだった。リクヤと目線を合わせたまま、黙っていた。 「アカツキ、ハヅキ。 俺は血肉を分けたおまえたちと、生涯この人だけと愛したナオミのために、すべてを捧げている。 だからこそ、成し遂げるまで俺は止まるわけにはいかない。たとえ何があろうとも……」 「じゃあ、何がしたいの? 僕たちのために何をしようとしているの? ラティオスや他の人たちを傷つけてまでやるようなことなのか!?」 居たたまれなくなったのか、ハヅキは大声で叫んだ。 それは駄々をこねる子供と同じだったが、事実その通りだった。 父親という愛情に飢えた子供の渇いた叫びだった。 自分たちを差し置いてまでやるべきこと。 そんなものが本当に存在するのか。 自分たちのために、他人を傷つけて……そこまでしてやるべきことなんて。 信じたくなかったから、声に出して問い掛けてみたのだ。 だが…… 「今のおまえたちには理解できないだろう」 リクヤは頭を振って、明言を避けた。 息子たちを傷つけたくないという気持ちの表れなのだろうが、逆にそれがアカツキとハヅキを傷つけていた。 良かれと思ったことで傷つけてしまう。 間柄が近しいほど、それも多くなるのだ。 「僕は家族四人で暮らせたらそれだけでいい!! それ以上は何も求めないよ!! 今からだってできるじゃない!?」 今からでも遅くない。 その一心で、ハヅキはリクヤに訴えかけた。 彼の言うとおり、やろうとしていることが今の自分に理解できなくても、家族四人が揃って暮らすということなら、今すぐにできるはずだ。 誰の力を借りずとも、家族四人が望めば、それだけで叶う。 世界で一番簡単に願いを叶えられる。 それなのに……どうして、こんな方法を採るのか? 確かに彼の言うとおり、理解することはできないだろう。 だけど、止めたかった。 これ以上、誰かを傷つけてまで道を切り拓いて欲しくない。 「ハヅキ。おまえの望みは、俺の願いでもある」 おもむろに言うと、リクヤの顔に笑みが浮かんだ。 「もしかして……」 その笑みに、今までなかった父親の温もりを見たような気がして、アカツキは込み上げてくる何かを感じずにはいられなかった。 ハヅキも、リクヤがやっと分かってくれたのだと思い、表情を輝かせた。 しかし、期待は脆くも裏切られた。 笑みを浮かべたまま、リクヤは続ける。 「だからこそ、俺は止めるわけにはいかないんだ。 おまえたちと共に暮らし、幸せになりたいと願うのは、俺の本心だ。 だが、俺が望むのは磐石なる幸せ。 ゆえに、俺はここで願いを叶えなければならない。絶対なる幸せの保証を得るために」 裏切られ、傷ついた表情を見せる息子たちを前に、リクヤは演説でもするように堂々と言った。 「そんな……どうしてだよ……」 ハヅキは肩を落とした。 目を固く瞑って、苦痛に耐えているかのような表情だ。 それを見て、アカツキはさらに深く傷ついた。 どうして分かってくれないのだろう。 傍にいてくれるだけでいいのに。 家族四人で暮らすことが幸せなのに。 ……それ以上は、何も求めていないのに。 不満なのだろうか? リクヤの言う磐石の幸せとは何なのだろうか。 アカツキには、磐石という言葉の意味は分からなかった。 ただ、普通の幸せとはまた違ったもの――言葉にするならば特別なものであることは何となく分かった。 「ぼくたちがほしいのは、そんなものじゃないんだ…… 傍にいてくれるだけで、それだけでいいって、今すぐにできることなのに……!!」 裏切られた気持ちは強いが、それ以上に悲しかった。 どうして分かってくれないのだろう。 ささやかな幸せは、それ以上の幸せのために踏みにじられてしまうものなのか。 ささやかな幸せを感じずして、それ以上の幸せを幸せと感じられるのか。 アカツキの方こそ、リクヤの考えが理解できなかった。 リクヤはラティオスを使い、『心のしずく』の力を引き出して、願いを叶えようとしている。 その願いは、幸せになること。 絶対の幸せを手にすること。 だが、不意に疑問が過ぎる。 絶対の幸せとは、一体何なのか……? アカツキは訝しげに目を細め、徐々に輝きを増していく宝石……『心のしずく』を見やった。 確かに神秘的な力は感じるが、願いを叶えるなど、どう考えてもナンセンス。 リクヤが手を出したのは伊達でも酔狂でもないのだろう。 それだけの力があるからこそ、手を出したのだ。 「父さんが欲しがってる幸せって、何なんだ……? ポケモンを傷つけてまで、無関係な人を傷つけてまで手にする価値のある幸せなんて、あるものか!!」 ハヅキが半ば無意識に投げかけた問いに、リクヤは頷くと、横に一歩動いた。 台座の上で輝きを放つ青い宝石がより鮮明に視界に入った。 「そうだ。そこのラティオスと、おまえたちと共にやってきたラティアスには、 台座の上で輝く『心のしずく』を使って願いを叶える力がある。 そこで俺は願いを叶えてもらうのだ。 家族四人で暮らすと……だが、今のおまえたちにはその方法が気に入らないのだろう。 だが、俺は止めるつもりはない。 それが、おまえたちのためになると、俺はそう信じている。 だからこそ、今しばらく、おまえたちには俺の邪魔はさせない……」 早口で捲くし立てると、リクヤはモンスターボールを軽く頭上に放り投げた。 思わず視線がそちらを向く。 「戦うの……僕たちと?」 「今のおまえたちと戦えばこそ、俺は幸せを手に入れられると信じている」 「そこまでして欲しい幸せって何? こんなの、おかしいよ!!」 アカツキは涙をボロボロ流しながら叫んだ。 なぜ親子が戦わなければならないのか。 同じ幸せを目指しているのなら、手に手を取って共に歩いていくべきでないのか。 たとえ何があったとしても、親子で戦うなんておかしい。 リクヤの固い決意を、自分たちの必死な気持ちが上回ることはないのだと思い知らされたような気がした。 まるで、すべてを否定されてしまったような……そんな気持ちさえ芽生えてしまった。 「アカツキ、ハヅキ。 おまえたちを傷つけるつもりはない。 ……ラティオス、やれ」 リクヤの言葉が終わるが早いか、アカツキとハヅキは見えない力に押さえ込まれたように、身動きが取れなくなっていた。 「なっ……」 「う、動けない!!」 突然全身に加えられた荷重に、アカツキとハヅキは身を捩るも、顔から下が石像になったかのように、動かなかった。 「アカツキ、ハヅキの兄貴!!」 ユウキが叫び、駆け寄るが、リクヤは『心のしずく』から得た『願いを叶える力』を使った。 身動きできないアカツキとハヅキが、彼の傍へ音もなく引きつけられる。 「おまえたちには見ていてもらう……俺が、幸せを手にするその瞬間を……」 「な、何をするつもりなんだ……?」 「決まっているだろう? 邪魔者は排除する……」 「……!!」 「アカツキ!!」 リクヤが静かに告げると、アカツキは絶望に似た感情を顔に浮かべた。 ユウキが悲痛な声で叫び、アカツキに手を伸ばすが、ダイゴに止められた。 「ここで飛び出したら、あいつの思う壺だ!! ここは僕に任せて、君たちは下がりなさい!!」 万が一飛び出されでもしたら、人質にされかねない。 もちろん、リクヤが実の息子であるアカツキとハヅキを人質になどしないと理解しての行動だ。 ただでさえ実力的に拮抗している相手である。 目的のためなら、卑怯な手段さえ厭わないだろう。 それが理解できるから、下がっていてもらうしかない。 ユウキは渋々、ハルカに手を引かれて後ろに下がった。 「ダイゴ、おまえがどんなに屈強なポケモンを出そうと、俺には通用しない。 それを見せてやる」 リクヤは口の端に笑みを覗かせると、手にしたモンスターボールを投げ放つ。 口を開いたボールから飛び出してきたのは、巨大な蛇……いや、竜のポケモンだった。 蛇のように細長い緑の身体に、鋭い爪を宿した脚を持つ獰猛そうなポケモンだ。 その長さは、十メートルを優に超えていた。 障害物の多い森の中では、とぐろを巻くようにしなければ動けないのだろう。 パッと見た目では細身に見えるが、ただ普通に佇んでいるだけなのに、冷厳な雰囲気が針のように身体と心を射抜く。 アカツキはリクヤのポケモンの背を見つめたまま、呆然としてしまった。 何も考えられなくなっていたのは、ほんの一瞬だった。 しかし、まるで何十分も経ったように感じられる。 「このポケモンは……?」 見たことはないが、かなり大型で、明らかに強いのが分かる。 そもそもリクヤのポケモンが弱いはずなどないのだ。 今まで戦ってきたサイドンやミロカロスは、アカツキでは太刀打ちできない強さを秘めていた。 そうなると、このポケモンも…… 見たことのないポケモンだが、実力は最強クラスと見ていいだろう。 それでも、ダイゴなら勝てるはずだ。 ホウエンリーグのチャンピオンを務める実力は伊達じゃない。 しかし…… 「レックウザ!? ンなバカなッ!! なんでそんなポケモンを持ってんだよ!!」 ユウキが表情を引きつらせて叫ぶ。 ハルカはリクヤのポケモンの雰囲気に圧されてか、口を開け放ったまま呆然と固まっており、ダイゴなど驚愕に目を見開いている。 「レックウザ……?」 聞いたこともない名前だが、ユウキの言葉は間違っていなかった。 「よく知っているな……さすがは研究者の息子だけのことはある」 リクヤは冷淡な笑みを湛えたまま、余裕綽々といった口振りで説明した。 「そうだ。このポケモンはレックウザ。 グラードン、カイオーガすら凌ぐ、最強のポケモン……それゆえ、人の手には余ると言われている」 「…………力ずくで従えたのか?」 「いや、違うな。 レックウザ自身が望んだことだ。 俺と一緒にいると、存分に暴れられて楽しいそうだ」 「…………」 緑のポケモン……レックウザは、グラードン、カイオーガと並ぶほどの実力を持つポケモンだ。 いわゆる『伝説のポケモン』の一体であり、人間に隷属するような存在ではない。 しかし、リクヤの言葉もまた正しかった。 人の力で従えられる存在ではないが、だからこそ、レックウザ自身が好んで彼について行っているのだ。 トレーナーとして認めているのか、それとも単純に、暴れたいから一緒にいるだけなのか……それは分からないが。 アカツキは間近で見る伝説のポケモンに、背筋を震わせっぱなしだった。 ただそこにいるというだけで、心までも凍てついてしまうようだ。 だが、どうしてリクヤがそんなポケモンを手にしているのか……考えてみて、思い当たる節があった。 「伝説のポケモンまで……もしかして、グラードンをあきらめたのって……?」 アカツキがつぶやいた言葉に、リクヤは顔を向け、首肯した。 「そうだ。 グラードンはあくまでも保険に過ぎない。 ラティオスとラティアスは不思議な力を使うポケモンだからな…… 伝説のポケモンが二体いれば、少しはやりやすくなると思ったが、そうでもなかったようだ。 ただ破壊的に行動するだけのポケモンは、邪魔者でしかない。 だから、俺はあの場で連中を斬り捨てた。 レックウザだけで十分だと、思ったからな」 リクヤがマグマ団の計画に乗ったのは、グラードンが自らの手足となって働くポケモンであるかを見定めるため。 マグマ団さえ、そのための道具にしていたに過ぎなかったのだ。 目覚めの祠で眠りから醒めたグラードンは、ただ粗暴で、リクヤにとっては手足どころか、厄介者にしか過ぎなかった。 ゆえに、斬り捨てた。 レックウザだけで十分だと思ったからだ。 伝説のポケモンさえ手玉に取るリクヤの狡猾さに背筋を震わせるアカツキから目を逸らし、リクヤは言った。 「おまえたちにも分かるだろう。感じているだろう。 レックウザは最強のポケモンだ。どのようなポケモンを出そうとも勝ち目はない。 分かったなら、あきらめることだな」 「いや、それはできないな……」 リクヤは勝ち誇ったように言ったが、ダイゴは聞き入れなかった。 聞き入れるはずもなかった。 レックウザが伝説のポケモンであろうと、引き下がるわけにはいかない。 なぜなら、為すべきことを為すため、ここに来たからだ。目的を達せずに戻ろうなど、露ほども考えてはいない。 ダイゴはともすれば笑い出しそうになる足腰に力を込め、モンスターボールを手に取った。 「メタグロス、出てこい!!」 彼が最も信頼する最高のパートナー……メタグロスを出した。 ダイゴが知る限り、レックウザはドラゴンタイプのポケモンだ。 どれほどのパワーを秘めているかは想像もつかないが、耐性の多い鋼タイプで挑めば、少しは勝率が上がるだろう。 いざとなれば、すべてのポケモンを同時に駆って戦いを挑む。 いくらレックウザが強くとも、ホウエンリーグのチャンピオンの鍛え抜かれたポケモン相手に苦戦は免れないはずだ。 「ほう、メタグロスか……」 メタリックブルーの身体を持つメタグロスは、いかにも硬く強そうなポケモンだ。 ダイゴなら、恐らくは鋼タイプのポケモンを出すだろうと思っていた。 防御的に見て、ドラゴンタイプの技のダメージを軽減できるのは、鋼タイプのポケモンだけだからだ。 予想通り……ゆえに、恐れることなど何もない。 「だが、無駄だな。 どんなポケモンを出そうと無駄になる。 それを今、教えてやる……」 リクヤが右手を挙げると、その動きに呼応するように、彼の頭上に映像が映し出された。 「……!?」 全員の視線が、映像に集まる。 テレビのように多少のノイズを含みつつも、映し出された映像はそれなりに鮮明だった。 「……これは?」 「見て分かるだろう。ホウエンリーグ四天王だ。おまえが二手に分けた……な」 ダイゴは都合のいい幻が映し出されているのかと疑っていたが、それはなかった。 リクヤの言うとおり、そこに映し出されていたのは、二手に分かれたホウエンリーグ四天王が、 リクヤのポケモンと激しい戦いを繰り広げている様子だった。 二組は絶妙なコンビネーションを発揮し、指示を出すトレーナーがいないリクヤのポケモンを一体ずつなぎ倒していく。 映し出されてから一分と経たずに、リクヤのポケモンは四体とも戦闘不能になった。 いくら強く育てられていても、指示を出すトレーナーがいなければ、思うように戦えないものなのだ。 人に育てられ、野生としてのカンを失くしたポケモンの典型的な例だったが、 リクヤは自身のポケモンが倒されたのを見ても、表情ひとつ変えなかった。 ダイゴだけでなく、アカツキたちもぐったりと倒れたポケモンがリクヤの手持ちであることは分かっていた。 さすがに、ホウエンリーグ四天王が相手では分が悪いであろう、ということも。 「だが、あなたのポケモンはすべて倒れた。 フヨウたちがここにやってくるのも時間の問題だ」 ダイゴは、リクヤが何の意味もなくこんな映像を見せたとは思っていない。 だが、状況としては、五分になりつつあると感じていた。 レックウザは強敵だが、ホウエンリーグ四天王と共に戦えば、撃破することも不可能ではない。 そう思うダイゴに、リクヤが冷たく告げる。 「さて、それはどうかな?」 パチン、と指を鳴らすと、映像に変化が現れた。 地面から突如、植物の蔓のようなものが生えたかと思ったら、ホウエンリーグ四天王の身体に絡みつき、動きを封じてしまったのだ。 映像の中で、フヨウたちは突然の出来事に困惑しながらも、絡み付いた蔓を解こうともがいていた。 「……く、そういうことか……」 「詰めが甘いな、ダイゴ。おまえらしくもないぞ」 握りしめた拳をわなわな震わせるダイゴ。 リクヤはいたぶるように言ったが、最初からこうするつもりでいたのだ。 だからこそ、どんなポケモンを出しても無駄だ、と言った。 「あれは……!!」 アカツキは、ホウエンリーグ四天王に絡み付いて動きを封じている蔦を呆然と見つめていた。 リクヤの仕業だろう。 どんなトリックを使ったのかは知らないが、ダイゴの攻め手を封じるにはもってこいだった。 やがて四天王は完全に身動きを封じられてしまった。 ハヅキも、ユウキも、ハルカも、為す術なく見つめているしかない。 今ここからできることなど、何もありはしないのだから。 リクヤが罠を張って待ち構えていたと、今さらだが実感してしまう。 ホウエンリーグ四天王が身動き取れないのを見上げながら、リクヤが言う。 「さて、ダイゴ。 おまえに、こいつらを見殺しにしてまでもレックウザと戦うだけの覚悟はあるか?」 「…………」 「ないだろうな」 押し黙り、怒りに満ちた眼差しを向けてくるダイゴに笑いかけ、リクヤはレックウザに指示を出した。 「レックウザ、ドラゴンクローで倒せ。おまえの力を見せてやれ」 レックウザは、彼の指示に迅速に応えた。 シャァァァッ!! 空気が掻き混ぜられるような声をあげ、レックウザがとぐろを巻いていた身体を伸ばし、脚に生やした鋭い爪でメタグロスを切り裂く!! ダイゴの意を汲み取り、避けることも防ぐこともできなかったメタグロスは、強烈な一撃を受け、その場に倒れ伏した。 鋭い爪が一閃した跡には、赤く立ち昇る陽炎のような力の残滓が漂うのみ。 「…………タイプの防御すら役に立たないとは……」 ダイゴは一撃でメタグロスが倒されたのを見て、唖然とした。 ドラゴンタイプの技なら一発くらい受けても戦闘不能になりはしないと高を括っていたが、それは間違いだった。 圧倒的な能力の前に、タイプの防御など焼け石に水ほどの効果もないのだ。 これなら、どのポケモンを出そうと同じと言えるわけだ…… リクヤは完璧な策を講じていた。 ホウエンリーグ四天王を人質に取ることで、障害となるダイゴの動きさえ封じてしまったのだ。 「僕には……みんなを見殺しにしてまでレックウザとは戦えない……!!」 もし、目の前に動きを封じられた四人がいたなら、自分に構うことはないからリクヤを止めろと口を揃えるだろう。 だが、四人はダイゴが今どういう状況に置かれているのかも分かっていないのだ……それは無理な相談だろう。 仲間を見殺しにしてまで得た勝利に何の意味がある? 結局、ダイゴの胸に残るのは味方殺しの汚名と、永遠に消えることのない罪の意識だけだ。 彼にとって、ホウエンリーグ四天王はただの仲間ではない。言いたいことを気兼ねなく言い合える、友達のような存在でもある。 だからこそ、どんなことがあろうと見捨てられないし、逆に自分が犠牲になって皆が救われるなら、進んでこの身を捧げようすら思う。 ダイゴの瞳から戦意が喪失していくのを見て、リクヤはガッカリしたように肩をすくめた。 「やはり、おまえはその程度か……俺が買いかぶりすぎていたようだな」 味方を犠牲にしてまでも戦い抜くだけの覚悟がないなら、ここへ来ようが来まいが同じこと。 どちらにしても、手間が省けたと思える分、彼の潔さには感謝している。 「メタグロスさえ一撃か。これじゃ、普通に戦ったんじゃ勝ち目なんてねえな……」 ユウキはダイゴの背中から立ち昇る気迫が薄れていくのを肌で感じながら、メタグロスを叩き伏せたレックウザを見やった。 この程度のことなど児戯も同然。 レックウザはそう主張するかのように、攻撃のために伸ばした身体を引っ込めると、鋭い爪をガチャガチャと鳴らした。 普段なら耳ざわりとさえ思わないようなその音が、妙に背筋を冷たくなぞっていくように聞こえるのは気のせいか……? ユウキもハルカも悟っていた。 どう考えても勝ち目などない。 ダイゴにとって、ホウエンリーグ四天王は仲間以上の存在だ。だからこそ、メタグロスもレックウザの一撃をまともに食らった。 彼が戦意を喪失した状態で、リクヤからアカツキたちを救い出すことは不可能。 考えなくても、嫌でも理解できてしまう窮状。 「でも、おまえはあきらめちゃいないんだよな……昔から、そうだったもんな」 リクヤはダイゴに冷めた視線を向けるばかりで、傍らでアカツキが必死の形相で身体を捩ろうとしていることに気づいていない。 「そうだよな……おまえがあきらめてないのに、オレたちがあきらめちゃ、いけないんだよな」 アカツキの必死の形相は、ハヅキの心をも動かしていた。 弟が必死になっているのに、自分が何もしないわけにはいかない……と。 二人して身体を動かそうとしているのを見て、ユウキとハルカは勇気付けられた。 昔から、何もせずにあきらめて、流れにただ身を任せることを嫌っていた親友は、こんな窮状でもあきらめようとしていない。 まだなんとかなると、無謀にもそんな風に思い込み、行動を起こそうとしている。 そう、無謀だ。 戦力差は如何ともしがたいし、ホウエンリーグ四天王を人質に取られている状態では、ダイゴは戦えない。 だが、それでもあきらめないのはなぜか。 それこそ、考えなくても理解できることだ。 「普通にやったら勝ち目ねえし……せめて、アカツキたちが動けりゃ、どうにかなりそうなモンなんだけど……」 普通にやったら勝ち目はない。 何もしないままでも、変わらない。 せめて、見えない鎖で縛られているように身動き一つ取れないアカツキたちさえ動ければ、あるいはどうにでもなるのかもしれないが…… と、不意に気づいた。 「方法はある……か?」 ユウキが一つの可能性に思い当たった時、リクヤがダイゴに向かって言葉を発した。 「おまえは必要な時に冷酷になれない。 おまえは優しすぎる。非情になれぬ者に、俺の道を妨げることなどできはしないのだ」 「…………」 ダイゴは拳を握りしめた。 下ろした拳が小刻みに震えているのは、悔しさからか、それとも…… 爪が食い込む痛みだけが、彼の意識をこの場に繋ぎ止めていた。 ホウエンリーグのチャンピオンなどと言われていても、仲間を人質に取られただけで何もできなくなってしまう。 それでは、何のためのチャンピオンか。 マグマ団とアクア団の野望を阻止することができても、目の前で祈りを捧げているポケモン一体救えない有様だ。 「所詮、誰も俺を止めることなどできはしない。 『心のしずく』の力を手に入れた俺は、無敵だ。 ……む?」 リクヤは饒舌な語り口で言葉を紡いだが、ユウキは今しかないと思った。 チャンスがあるなら、賭けるしかない。 必死に現状を打破しようとしている親友のためにも。 「ジュカイン!! 行けっ!!」 無謀に等しい策だが、やった悔いよりやらなかった悔いの方が大きいのだ。 ユウキが投げ放ったモンスターボールから、ジュカインが飛び出す。 ……と、ユウキはリクヤの視線がジュカインの身体で遮られたタイミングを狙い、モンスターボールを一つ後方に軽く転がした。 「……何のつもりだ?」 ジュカインが飛び出してきたのを見て、リクヤは訝しげに目を細めた。 オダマキ博士の息子が出したのはジュカイン。 そんな雑魚でレックウザをどうにかできるとでも、本気で思っているのか? どうしようもない状況に、とうとう血迷ったかと思った。 「決まってんだろ!! あんたからアカツキとハヅキの兄貴を取り返すんだよ!! あんたにそんなことしてほしくないって思ってんのに、なんで子供の気持ちを無駄にしようとするんだ!! それが親父のすることだってんなら、オレはそんなの認めねえ!!」 ユウキはありったけの想いを振り絞り、リクヤに言葉を叩きつけた。 声を張り上げなければ、この場から逃げ出してしまいたくなると思ったからだ。 「認めてもらうつもりなどない。 誰に認められなくても良い……結果さえ伴えば」 リクヤはしかし、顔色一つ変えなかった。 ユウキとリクヤが会話をしている間に、後方に転がったボールが口を開き、中から音もなくカクレオンが飛び出してきた。 すぐにお腹のギザギザ模様以外が森の景色に溶け込んだ。 リクヤのミロカロスとレックウザだけがそれに気づいていたが、特に指示も出されていなかったし、 倒そうと思えばいつでも倒せると思い、手は出さなかった。 だが、その傲慢さが状況を動かす鍵となる。 「血迷ったかどうかは知らんが、忘れてもらっては困るな。 こちらには、ホウエンリーグ四天王という人質がいる」 リクヤが映像を振り仰ぐと、身動きの取れない四人に巻きついた蔓が、その身体を激しく締め上げ始めた。 苦悶の表情を浮かべる四天王を見て、ユウキのみならず、リクヤ以外の顔が青ざめた。 そんなことまでできるとは思っていなかったからだ。 「レックウザ、ジュカインを倒せ」 人質がいてもいなくても変わらないが、使えるものがあるのなら使うべきだろう。 リクヤはホウエンリーグ四天王を人質として有効活用したまま、レックウザにジュカインを倒すよう指示を出した。 レックウザが身体を伸ばす。 一撃必殺のドラゴンクローの間合いにジュカインを捉えるべく、蛇のような身体を再び伸ばし始めた。 しかし、ユウキはこの瞬間を狙っていた。 「今だ、カクレオン!! ラティオスを攻撃しろっ!!」 「ええっ!?」 「なんだと……?」 彼の指示に、さすがのリクヤも驚きを隠せなかった。 まさか、カクレオンを出していたとは思わなかったからだ。 だが、今になって思えば、ジュカインが飛び出した時、ユウキとの間で視線を遮られていた。 その時、密かにボールを転がしておいたのだろう。 レックウザは命じられた通り、ジュカインをドラゴンクローの一撃で叩き伏せた。 ここで無理に避けたら、あまりに強大な力がトレーナーたちに襲いかかるだろう。 ジュカインはまともに攻撃を受け、メタグロスと同じように、地を這うハメになった。 「ジュカイン、すまない……」 思いつきとはいえ、策を成功させるには誰か一体を犠牲にしなければならなかった。 ユウキは胸中で詫びたが、許してもらえなくてもいいとさえ思っている。 レックウザはジュカインを攻撃し、カクレオンのことなど忘れてしまっていた。 その隙に、カクレオンが素早い動きでレックウザとミロカロスの合間を縫って、祈り続けるラティオスに迫る!! 「く、そういうことか……」 そこで初めて、リクヤは表情を変えた。 驚き、狼狽している彼は息子に負けないほど必死な形相をしていた。 ミロカロスで迎撃しようにも、確実にレックウザやアカツキたちを巻き込んでしまうだろう。 力の強いポケモンは、その力を一点に集中して攻撃する……攻撃の範囲を狭めることが難しい。 レベルの高さを逆に利用したような策に、リクヤは打つ手がなかった。 カクレオンは姿を消したまま、ラティオスに引っ掻く攻撃を繰り出した。 「……!?」 鋭い爪に引っかかれる痛みに、ラティオスの意識が覚醒する。 その瞬間、輝きを強めていた光が薄れ、アカツキとハヅキを縛りつけていた見えない鎖が解けた。 「動ける……!?」 「アカツキ、やるぞ!!」 「うん!!」 動けると悟った瞬間、アカツキとハヅキはリクヤに飛びかかった。 いくらポケモンが強くとも、リクヤは普通の人間だ。 狡猾な策を弄する策士であろうと、人としての身体の強さには限界がある。 アカツキは父親を止めるという想いを胸に、雄叫びを上げて飛びかかっていった。 ――たくさんの炎ポケモンを各地のトレーナーから奪い取り、その力でエントツ山を噴火させ、陸地を広げようとしていたのは? ――自分の野望のため、グラードンを蘇らせるのに必要な『紅色の珠』を手に入れるため、 ポケモンたちの魂が安らかに眠っている送り火山を荒らしていたのは? ――圧倒的な力を持つグラードンを、しかし不要と打ち捨てて、 自らが属していた組織を捨て、信頼していた仲間を易々と裏切ったのは? ――願いを叶えるために、ラティオスを、ダイゴたちを傷つけたのは? 父親の願いが、たとえ自分たちと幸せになるためだとしても、そうするにはあまりに多くのことを為しすぎていた。 他人から奪い取った幸せという名の水を糧に、自分たちの幸せの花を咲かせようとした。 それは決して許されることではない。 「……!!」 アカツキとハヅキが飛びかかってくることに気づき、リクヤはさっと飛び退いた。 驚きながらも、俊敏な動きは健在だった。 さすがに、マグマ団の幹部として幾多の修羅場を潜り抜けてきただけのことはあるが、息子に攻撃されるなど、夢にも思っていなかったのだろう。 戸惑いに満ちた表情を浮かべていた。 しかし、それでも自身の目的を見失っていなかったのか、それからの反応は素早かった。 祈りから解放され、意識を取り戻したラティオスの傍に飛び退くと、その耳元で小さく囁いた。 「おまえの妹がどうなってもいいなら、ここで俺に逆らってみるがいい」 「……!!」 人間の言葉を正確に理解する知能の高さゆえ、ラティオスは彼の言葉に逆らうことはできなかった。 すぐに目を閉じ、再び祈りに入る。 アカツキとハヅキがすかさず追撃にかかったが、リクヤの方が一枚も二枚も上手だった。 「止まれ。こいつらがどうなってもいいのなら、話は別だが」 「え……?」 「くっ……」 「あうっ!!」 アカツキとハヅキが足を止めると同時に、ユウキとハルカの呻き声が聞こえた。 ハッとして振り向いてみると、ダイゴ、ユウキ、ハルカの三人がホウエンリーグ四天王と同様に、 突如地面から生えた蔓に全身を絡め取られていた。 「…………」 視線をリクヤに戻すと、ハヅキは怒りに満ちた表情を浮かべた。 いくら自分の目的のためとはいえ、関係ない人間まで……増してや、子供を傷つけるなど、許しがたかった。 しかし、ここで飛び出していけば、リクヤは手を進めるだろう。 彼は、目的のためならどんな非情なこともこなしてしまう……それだけの強さを持つ人間だ。 「ユウキ、ハルカ!! ダイゴさんっ!!」 アカツキは悲痛な叫びを上げた。 どうして、こんなことに……? ユウキとハルカは関係ないのに、どうして無関係な人まで傷つけようとするのだろう。 これでは、親として認めるどころか、愛情すら持てなくなってしまうだけなのに。 「今、助けるから!!」 そう言って動きたいのに、動けばリクヤが何かするだろう。 それに、レックウザとミロカロスが黙ってはいない。 先ほどはカクレオンに不意を突かれたが、そのカクレオンもミロカロスに倒されていた。 「……なるほど、なかなか面白い手を使うが、残念だったな。 ラティオスがいる限り、俺に負けはない」 リクヤは背筋が凍るような笑みを、ユウキに向けた。 さすがは研究者の息子だけのことはある。発想自体は悪くないが、タイミングを最後に読み違えた。 ラティオスを押さえる手段などいくらでも思いつく。 レックウザとミロカロスが残っていれば、ラティアスを捕らえることも容易い。ゆえに、ラティオスはリクヤの手に落ちたまま。 彼の計画は、多少の衝撃でずれた程度ではすぐに軌道を修正できるよう、緻密な計算が随所に組み込まれているのだ。 計算によって追いつく計画を根本から破壊するような手段はない。 ユウキの無謀な策を受けて、リクヤは確信した。 それ以上に望むものなど、なかったからだ。 「アカツキ、ハヅキ。 こいつらの命が惜しければ、動くな」 「…………」 言われなくても、動くことなどできなかった。 手を伸ばせば、触れられる距離に自分は立っている。 だけど、手を伸ばすより、『心のしずく』から引き出した力を使ってユウキたちをどうにかする方が早いに決まっている。 「くそっ……」 ハヅキは舌打ちした。 打つ手はない。 少しでもリクヤの意に沿わぬ行動を取れば、ユウキたちを危険にさらすだけだ。 アカツキも、どうにかしたいと思いつつも、有効な手立てがなかった。 「ラティアス、こっちに来い。 ラティオス一人に負担はかけられまい?」 「…………」 今まで動かずにいた――正確には動けずにいた――ラティアスは、リクヤの言葉に顔を上げ、ポケモンの姿に戻った。 そして、言われたとおり、彼の元へと向かっていった。 状況は最悪だが、それでもラティオスを……ただ一人の兄を見捨てるわけにはいかなかった。 ラティアスはラティオスと二人で『心のしずく』を挟み込む位置に移動すると、ラティオスと同じように祈り始めた。 刹那、『心のしずく』から溢れんばかりの光が迸った。 輝きが蘇り、より強い光となって天を突き刺す。 ラティアスが加われば、ラティオス一人で祈らせた時よりも強く豊かな力が生まれるのだ。 神秘的な光が森の隅々まで照らし出すのを見て、リクヤは恍惚の笑みを浮かべた。 そう……この力を望んでいたのだ。 この力で、絶対の幸せをつかむ。 そのために、今まで各地で暗躍してきたのだ。 時に仲間ごっこを演じ、無意味とも思えるようなこともしてきた。 すべては、家族四人の幸せのために。 「ど、どうすれば……」 このままでは、リクヤは目的を達成してしまうだろう。 そうなったら、ダイゴたちはどうなるのか……? 願いが叶ったから、特赦によって無罪放免、というわけにもいかないはずだ。 冷酷なリクヤが、理由はどうあれ一度は楯突いた者をタダで帰すとは思えなかった。 きっと、どうにかするのだ。 「……ユウキやハルカも……このままじゃ……!!」 ユウキとハルカにまで危害を加えるのだ。 放っておいたら、本当に何をしでかすか分からない。 アカツキは人やポケモンを傷つけてまで願いを叶え、幸せになろうとするリクヤを止めたいと思っていたが、 今は親友を助けたい気持ちでいっぱいだった。 苦しげに表情をゆがめる二人に目を向けているのが辛くて、アカツキはきつく目を閉じた。 どうにかしなければ……でも、どうすれば? 焦りがさらなる焦りを呼び込み、どうしようもない気持ちが膨れ上がっていく。 そんな息子の気持ちに気づいて、リクヤが言葉をかけた。 「助けたいか?」 「…………!!」 驚いて目を開けると、リクヤの笑みが視界に飛び込んできた。 縋れるものがあるのなら、たとえ悪魔でも地獄の大王でも構わなかった。 ……そう、相手がたとえリクヤであっても。 アカツキはすかさず頷いた。 ユウキとハルカを……他のみんなを助ける方法があるのなら、どんなことをしても構わなかった。 リクヤの足の裏を舐めようが、ホウエン地方を敵に回しても構わないとさえ思っていた。 追い詰められたがゆえに、そんな決意も半端ではなかった。 「ならば、何もするな。俺の為すことを黙って見ていろ」 アカツキと同じように、ハヅキも理解を示したと見て取って、リクヤはよく言い含めた。 こうして人質を取っておけば、無茶をされる心配もない。 しかし…… 「構うな、アカツキ!! オレたちはどんなに痛くても我慢するから!! 早く親父さんをぶっ倒して、ラティアスとラティオスを助けるんだ!!」 「そうよ、早く……!!」 ユウキとハルカが、声を荒げる。 少しくらい危害を加えられても我慢できる。 だから、今のうちにリクヤの手からラティオスとラティアスを解き放て……と。 「で、でも……」 言われたからといって、はいそうですかと答えを返すこともできず、アカツキは戸惑うばかりだった。 ハヅキも同じだった。 自分たちが行動を起こせば、ユウキたちがどうなるか分からないのだ。 そんな状態で、迂闊に行動など起こせるはずがない。 ただ、リクヤは子供の都合など構いはしなかった。 「黙れ……」 悪鬼のごとき形相を二人に向けると、引き出した力を使い、身体に絡み付いた蔓の力を一段と強めた。 「ぐあっ!!」 「ああっ……!!」 細い蔓からは想像もできないような強い力で締め上げられ、ユウキとハルカが悲鳴を上げる。 そんな親友の苦悶の表情を直視することができず、アカツキはその場に崩れ落ちた。 「ダメだ……このままじゃ、本当にユウキとハルカが殺される……」 自分たちが何もしなければ大丈夫だと思っていたが、事実はより一層残酷だった。 ユウキとハルカが言葉を発しても、より窮地に追い込まれる。 これでは、黙っていることも、手を出すこともできない。 八方塞の状況。 それこそが、リクヤの思う壺だった。 「どうにかしなきゃ……どうにかできるのは、ぼくたちだけなのにっ……!! ぼくには何もできないのか……? ユウキとハルカを、助けることさえ……」 今、この状況を打破することができるとしたら、それは自分とハヅキを置いて他にない。 しかし、手立てがない。 親友を助けることさえできず、こうして無力感に打ちひしがれているしかできないなんて…… もどかしくて、そんな自分自身の存在を握りつぶしたいとさえ思う。 「ラティアスも連れていかれた…… ぼくが願いを叶えられたら……そうしたら、きっと……」 ラティアスとラティオスが引き出している『心のしずく』の神秘の力。 それさえ使えればと思うが、今はリクヤが支配権を握っている。 どうにかしない限り、ユウキとハルカを助けることもできない。 自分の力で本当にそれができるのか? ユウキとハルカが苦しむ顔を一目見ただけで、こうして膝を突いてしまっている自分に……何の力がある? 人の力など、ポケモンや大自然のものと比べれば、本当に微々たるものだ。 以前から分かりきっていたことが、今になって重くのしかかる。 「あ、アカツキ……おまえ、何もしないであきらめるつもりかよ……?」 「……?」 ユウキが途切れ途切れに、苦しそうに呻きながら発した言葉に、アカツキは恐る恐る顔を上げる。 「黙れと言っているだろう……!!」 リクヤの怒号と共に、ユウキを締め上げる蔓の力はその勢いを増していくが、彼は構うことなく続けた。 「なんて顔、してんだよ……おまえ、あきらめるの、嫌い、なんだろ……?」 「…………!!」 「黙れ、クズがっ!!」 「ぐぁっ……く……」 リクヤの感情の昂りに伴って、ユウキの顔に苦悶の色が色濃く浮かぶ。 全身がバラバラに引きちぎられるような痛みに襲われ、徐々に身体の感覚が失われていく。 死ぬってこういうことなのかと思いながらも、ユウキは悲痛な表情を見せるアカツキに微笑みかけた。 「オレ、おまえに……期待、してんのにさ……」 「…………ぼくは……」 ユウキは、苦痛に苛まれながらも、何かを伝えようとしている。 何を……? 考えて……アカツキは理解した。 今の自分がやるべきことは一つだ……と。 ハヅキもまた、ユウキの言葉に心が揺り動かされるのを感じずにはいられなかった。 二人の瞳に意志の輝きが戻る。 だが、リクヤはいよいよ激昂した。 意に沿わぬ子供の戯言が許しがたいのかと思ったが、それだけではなかった。 「オダマキの息子、おまえがアカツキを惑わせる……!! センリの娘、おまえもだ!!」 堰を切ったように、激しい憎悪が言葉と共に溢れ出た。 悪鬼のごとき表情は、まさに地獄の使者が降り立ったかのような迫力だった。 「下らぬ言葉を発さなければ、おまえたちからアカツキとハヅキの記憶を消し去るだけで済ませるつもりだったが、気が変わった。 おまえたちをこの世から消して、アカツキとハヅキの記憶から、おまえたちの存在も思い出も、すべて!! 悉く消してやる!! 無論、カリンやオダマキ、センリも同様にな!!」 「なっ……!!」 リクヤの理不尽極まりない言葉に、アカツキとハヅキの全身が粟立つ。 本気だ…… リクヤは本気で、ユウキとハルカを殺すつもりだ。 彼らの言葉が、アカツキの気持ちを揺り動かしたから……リクヤに言わせれば、愛すべき息子を惑わす存在は誰であろうと許せなかった。 それが身勝手であると知らず、自分のしたことを棚に上げて。 愛しい息子への、愛しい想い。 純粋すぎるその一途な想いゆえ、邪悪に染まるのも容易かった。 半紙に墨汁を垂らしたら、その染みがやがて半紙を黒く染め上げるように。 リクヤの心は容易く邪悪に染まった。 誰も気づいていなかったが、『心のしずく』から溢れる白い輝きが、徐々に曇っていく。 やがて輝きが禍々しい黒に染まった時、リクヤはレックウザに指示を出した。 「跡形も残らぬほど消し去ってやる……レックウザ、ドラゴンフレア!!」 レックウザは彼の指示通り、口を開くと、血の色をした炎を吐き出した!! 「ユウキ、ハルカーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 ダメだ、今度こそ…… アカツキは絶望に満ちた表情で、親友の名を叫んだ。 血の色をした炎は虚空を突き進むうち、手のように広がっていく。 まるで、炎の津波。 灼熱の業火が、間もなく親友を焼き尽くす……骨すら残るかも分からぬ、灼熱の業火が。 離れていても、肌を焼くように熱い。 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」 アカツキの悲鳴だけがただ、その場に響いていた。 第100話へと続く……