ホウエン編Vol.07 母は強し!! <後編> 「行け、ラッシー!!」 オレは腹の底から声を振り絞って叫ぶと、フィールドに投げ入れた。 岩肌の地面にボールが突き刺さり、口が開いてラッシーが飛び出した。 「バーナーっ……!!」 ラッシーは飛び出すなりボスゴドラを威嚇した。 でも、涼しい顔のボスゴドラ。 まったく効果なしか。 威嚇程度で怯むようなポケモンじゃ、殿を任せることはできないだろう。 「フシギバナ……カントー地方に棲息してるポケモンね。初めて見たわ」 アヤカさんは興味深げな視線をラッシーに向けた。 ホウエン地方じゃ、フシギバナはおろか、フシギソウやフシギダネも棲息してないんだったか。 でも、それとバトルは別だ。 「行きますよ!!」 オレは啖呵を切って、ボスゴドラを指差した。 「ラッシー、痺れ粉からマジカルリーフ!!」 状態異常の粉とマジカルリーフの必勝コンボを叩き込む。 そうすれば、後はじっくり料理し放題だ。 ラッシーは無言で背中の花からキラキラ輝く粉をばら撒いた。 「ん? 何をするつもり……」 アヤカさんは訝しげに目を細めたけど、そうしている間に、ラッシーが左右から一枚ずつ葉っぱを打ち出した。 周囲に降り注ぐ痺れ粉を突き抜けてボスゴドラに向かって突き進む。 ソーラービームを発動するには時間がかかるはずだ。 今まで、ボスゴドラはそんな素振りをまったく見せていないところからして、マジカルリーフに対する打つ手がないのは間違いない。 ならば…… 「ボスゴドラ、吹雪!!」 「……?」 アヤカさんの指示に、ボスゴドラは大きく息を吸い込んでから、口を開いた。 ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! その口から、猛烈な吹雪を吐き出す!! ソーラービームのみならず、吹雪まで……単純な威力だけで言えば、最強レベルの技ばかりだぞ。 見た目からして肉弾戦バリバリのボスゴドラには似つかわしくない技だけど…… 接近戦だけじゃなく、距離を取って戦う相手とも渡り合えるように覚えさせたと考えるのが妥当か。 戦えば戦うほど、ただの妊婦さんじゃなくなってくな。 ボスゴドラの吐き出した吹雪の威力は、やはり本家のものと比べるとずいぶん劣る。 でも、草タイプのラッシーにはかなりキツイ。 強烈な冷風にも跳ね返されることなく、ラッシーの放ったマジカルリーフはボスゴドラに肉薄する!! 最初から防ぐつもりなんてなかったってことか。 マジカルリーフの特性を知っていれば、無理に回避しようとか、防御しようとは思わないだろう。 ボスゴドラは岩タイプを持ってるけど、弱点となる草タイプの技によるダメージを軽減する鋼タイプも持ち合わせている。 防御力の高いボスゴドラなら、無理に防御する必要はないってことか。 どうせ食らうなら、ラッシーの動きの鈍さを利用して、吹雪でダメージを与えようと考えても不思議じゃない。 「痺れ粉でボスゴドラを牽制してから、マジカルリーフでダメージを狙ってきたわね。 マジカルリーフは避けられないけど、ボスゴドラの防御力を考えれば、避ける必要はないわね」 アヤカさんの思考はそんな感じだった。 でも、マジカルリーフには痺れ粉がたっぷりついてるのさ。 ボスゴドラの腹に、マジカルリーフがスマッシュヒット!! でも、ボスゴドラはわずかに表情をしかめる程度で、ダメージらしいダメージにならなかったようだ。 ……むしろ、それでいい。 目的はダメージじゃないんだから。 ボスゴドラの自由を奪い、そこからソーラービームの連発でフィニッシュ。それがオレの頭の中にあるプランだ。 「ボスゴドラの防御力を舐めてるの? マジカルリーフ程度じゃ、ダメージらしいダメージにはならないわ」 アヤカさんが勝ち誇った顔で言う。 確かに、ダメージらしいダメージにはならなかっただろう。 さらに、本家に劣るとはいえ、吹雪で確実にラッシーにダメージを与えてきた。 突如襲ってきた寒さに、ラッシーは身体を震わせている。 植物に近い特性を持つだけに、寒さは苦手なんだ。 「それじゃあ、反撃開始と行きましょう。ボスゴドラ、穴を掘る!!」 アヤカさんが指をパチンと鳴らすと、ボスゴドラはその場に穴を掘って、地面の下に身を隠した!! 「……!!」 ソーラービームの連発という作戦を見破られたか……確かにありきたりで強引なパターンだけど、それだけに効果的なんだ。 相手が警戒するのも当然か。 それに、姿が見えなければ、痺れ粉の効果が効いてきてからでも、攻撃を受けずに済む。 アヤカさんがそこまで考えてるのかは分からないけど、『穴を掘る』は有効な攻撃であり、防御でもあるんだ。 ……やられたよ。 ボスゴドラを引きずり出す手立てがない。 今どこにいるのかも分からない。 もしかしたらラッシーの足元まで掘り進んでいて、あとはアヤカさんの指示を待つだけって状態かもしれないし、 道半ばで動けなくなっているかもしれない。 どちらとも分からないような状態じゃ、こっちも迂闊に動くわけにはいかない。 ……こういう時は、こうするか。 「ラッシー、戻って!!」 「んんっ?」 オレはラッシーをモンスターボールに戻した。 ポケモンのチェンジはオレにだけ認められている。 今までそういうのをあんまり使ってこなかったけど、今回はどうすることもできないから、使わせてもらう。 捕獲光線に包まれ、ラッシーがボールに戻った。 「ここで戻すとはね……いい判断かもしれないわ」 アヤカさんが笑みを浮かべる。 「さ、どんなポケモンを出してくるのかしら?」 なんだかリクエストされてるような気分になるけど……出すポケモンならすでに決まっている!! オレはラッシーの代わりに戦うポケモンのボールをつかんで、フィールドに投げ入れた!! 「ルース、頼んだぜ!!」 選んだのはルース。 ボールは一番高い位置で口を開いて、中からルースを放出した!! 「バクっ……?」 ここはどこ? ルースは周囲を見渡した。 バトルフィールドだってことはすぐに認識したと思うけど、相手の姿がないことに気がつくや否や、慌ただしく周囲を見渡し始めた。 姿が見えないと不安なんだろうか…… だからといって、ここでうろたえられても困る!! 「ルース、落ち着け!!」 オレの言葉に鞭打たれたように、ルースが動きを止めた。 ゆっくりと、ボスゴドラが消えた穴に向き直る。 「へぇ、バクフーンですか。なかなかイキなポケモン使ってくるじゃない」 「そりゃどうも……」 オレはアヤカさんの言葉を軽く受け流した。 バクフーンってポケモンに何かしら感じるものがあったんだろうか……そんなこと、オレが気にしたってしょうがないことだけどさ。 「姿の見えないボスゴドラを相手に、どうやって戦うつもりなのかしら?」 彼女の言葉はもっともなものだった。 ボスゴドラの姿は見えない。 地面に潜った穴に突入して追いかけようとしても、待ち伏せされていたら、思うように動けない地面の下じゃ太刀打ちできないだろう。 だけど、そういう相手には、これだ!! 「ルース、咆える!!」 オレの指示に、ルースは背中に炎を灯した。 「バクぅぅぅぅぅっ!!」 半ば悲鳴にも似た声を轟かせる!! ルースなりの、精一杯の声量だったんだろう。 でも、フィールドの壁に幾重に反響し、声が増幅される。申し分ない音量だ。 『咆える』は、相手が野生ポケモンなら問答無用で追い返す効果を持っている。 だけど、追い返せないポケモン――トレーナーがついているポケモンの場合は、モンスターボールに引き戻す効果になる。 でも、ジムリーダーがポケモンを戦闘不能以外の理由で戻すことは敗北を意味する。 そうならないよう、別の効果も持ってるんだ。 どうしてそういう風に使い分けができるのかは、よく分からないんだけど。 今回オレが期待する効果は、強引に引きずり出すものだ。 「なるほどね……」 アヤカさんのつぶやきは、ボスゴドラが地面を割って飛び出してくる轟音でかき消された。 真ん前……!! ボスゴドラが現れたのは、ルースの真ん前だった。 真下や背後を予想していたけど、まさか真ん前に出てくるとは…… すぐに対応できる場所だと思っている場所だからこそ、逆にトレーナーがもっとも警戒していない。 盲点を突かれるとは、まさにこのことを言うんだなって思った。 だけど、攻撃の準備はすでにできている!! 「ルース、火炎放射をぶっ放せ!!」 「ボスゴドラ、岩石封じ!!」 オレとアヤカさんの指示はほぼ同時だった。わずかにオレの方が早かったかと思えるけど、大差ない。 至近距離からなら、火炎放射はまず避けられない。 岩タイプでダメージを減らせても、鋼タイプで耐性まで減らしちゃうんだから、かなりのダメージを与えられるはずだ。 ルースが口を開く。背中の炎がこれでもかとばかりに激しく燃え上がる。 ボスゴドラが後ろ脚で激しく地面を踏みしめる!! ルースの口から凄まじい炎が吐き出され、瞬く間にボスゴドラの全身を包み込んだ!! 時を同じくして、ルースの足元から岩の柱が突きあがり、動きを拘束する!! 岩石封じ……ハルカが使ってきた、あの技か。 ルースの傍に現れた岩の柱は六本。 突然現れた岩の柱にルースはビックリして炎を吐くのを止めてしまったけど、もう十分。 ボスゴドラの全身を余すことなく包み込んだ炎は、確実にダメージを与えている。 さて…… 今のうちに岩の柱から脱け出そう。 見たところ、真上にジャンプすれば、簡単に脱出できそうだ。 「ルース、真上にジャンプして脱け出すんだ!!」 「アイアンテール!!」 「……!?」 オレの指示が終わるか終わらないかのうちに、アヤカさんの指示が響く!! 刹那―― 銀の閃きが視界を横に薙いだ!! がばぁんっ!! 凄まじい破砕音が轟き、岩の柱が真ん中から真っ二つに折れた!! 銀の閃きは岩の柱を真っ二つにするだけじゃなく、ルースまで薙ぎ払った!! 「ルース!!」 砕けた岩の柱の隙間から、ルースが吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる!! 今のは…… オレは炎に包まれているボスゴドラを見やった。 「ゴドラァァッ!!」 ボスゴドラが鋭い声を発したかと思ったら、身体を包んでいた炎が爆ぜ割れた。 「アイアンテールで風を作り出して、炎をかき消した……!? しかも、攻撃まで当てるなんて……」 まさに神技である。 ボスゴドラの身体にはところどころ焦げた痕が見受けられた。 ルースの火炎放射で相当なダメージを受けたらしい。 でも、闘志はまったく衰えていない。 むしろ、ダメージを受けたことでより激しく闘志の炎を燃やしているかのようだ。 アイアンテールでルースを攻撃しつつ、身体にまとわりついた炎をかき消した。 普通の使い方じゃ、ここまで上手くはできないだろう。 ……ただのボスゴドラじゃないな。 「なかなかやるわね……今の、結構ヒヤッとしたのよ……」 アヤカさんは口元に笑みを浮かべたけど、その笑みはどこか引きつっていた。 額には大粒の汗がにじんでいる。 火炎放射をまともに食らって、さすがに焦ったらしい。 でも、焦りの度合いはオレの方がよっぽど上回っていた。 「ルース、大丈夫か!?」 ルースの名前を呼ぶ。 たったそれだけのことなのに、身体が熱い。 喉はカラカラに渇いてるように思えるし、いつからか握りしめた拳にはぬるっ、とした嫌な感覚がある。 初めて戦うポケモンを前に、オレは焦りを隠しきれなかったんだ。 数メートルも吹っ飛ばされながらも、ルースは素早く立ち上がり、ボスゴドラを睨みつけた。 それほどのダメージにはならなかったみたいだな……アイアンテールの威力は高いけど、タイプの相性で結構ダメージを軽減できる。 「バクっ!!」 ルースは一声あげると、消えていた背中の炎を再び燃え上がらせた。 「さて、どうするか……」 あのアイアンテールは強力だ。できれば食らいたくない。 かといって距離を取っても吹雪やら岩石封じやらでも攻撃を仕掛けてくるだろう。 ルースの最大の武器である炎は距離があってもなくても威力を発揮するけど、どうせなら距離を詰めてから当てたい。 打開策を見出そうとしていると、アヤカさんの指示が飛んだ。 「ボスゴドラ、アイアンテールからロックブラスト!!」 「……!?」 ボスゴドラが身を翻す!! 鋼鉄のシッポを地面に叩きつけると、衝撃で砕けた地面が岩となって斜めに打ち上げられた!! 「そういうことか……」 アイアンテールで、ロックブラストに必要な岩を作ったんだ。 打ち上げられた岩の群れは、一斉にルース目がけて飛来する!! こういう手で来るとは思わなかった。 ロックブラストで注意を引いている間に、別の攻撃を用意してくるはずだ。 いや、ロックブラストこそ囮。本当の攻撃はルースが対処している時に繰り出される!! そうと分かれば、無理にロックブラストの処理を行う必要はない。 「ルース、電光石火で潜り抜けるんだ!!」 オレはボスゴドラを指差し、ルースに指示を出した。 どんな攻撃を行うかはともかく、出だしでそれをつぶせばいいだけのこと。 ルースは前屈みになると、矢のような勢いで駆け出した!! ボスゴドラに迫るルースの頭上に、打ち上げられた岩が降り注ぐ!! オレの握り拳くらいの大きさだけど、当たれば痛い。気を紛らわすには申し分ない方法だろう。 アヤカさんの眉間に、かすかにシワが浮かんだ。 ちっ、バレバレだったか…… そう思わせる仕草に、オレは確信した。 「ルース、火炎放射ッ!!」 ボスゴドラとの距離が三メートルまで近づいたところで、オレはさらに指示を出した。 ルースは口を開き、紅蓮の炎を吐き出した!! 次の瞬間、炎に追いついて、ルースの全身が炎に包まれる!! 「これは……!?」 どんっ!! 突然のことにアヤカさんは動揺したんだろう、ボスゴドラに指示を出せなかった。 ただの電光石火と侮ると、こういうことになるんだ。 ルースの電光石火+火炎放射のコンボが炸裂!! ボスゴドラの全身に炎が燃え移った。 ここでさっきと同じようにすれば、ルースにダメージを与えられるだろうけど、そうは問屋が卸さない。 「ボスゴドラ、岩石――」 やはり岩石封じでルースの動きを封じる手に出た。 アイアンテールにつなげるか、それとも破壊光線か……どっちにしたって、岩石封じを食らわなければつながりようがない!! ボスゴドラがまたしても後ろ脚で地面を強く踏みしめ――ルースの周囲に岩の柱が突き出した!! その瞬間を狙って、オレは指示を出す。 「ルース、日本晴れからオーバーヒート!! 一気に決めちゃおう!!」 ルースが天井を仰ぐと、ジムの窓という窓から強い日差しが差し込み、見る間にフィールドに熱気が漂った。 そして、必殺のオーバーヒート!! 「バクフーンっ!!」 ルースは岩の柱に囲まれながらも強く地面を踏みしめて、大きく口を開いた。 凄まじい熱波が放たれ、岩の柱を強引になぎ倒し、粉砕!! 「そう来ましたか……!!」 岩の柱が音を立てて砕け散る中、聞こえてきたアヤカさんの声。かすかに悔恨の色が浮かんでいるように聞こえたのは気のせいか。 ごぉぉぉぉっ!! ルースが放った熱波が、ボスゴドラに突き刺さる。 岩石封じは不発。アイアンテールで追撃を行うことはできない。 火炎放射の上に、日本晴れで強化されたオーバーヒートを食らったら、いくらなんでもただじゃ済まないはずだ。 「ルース、距離を取って」 オーバーヒートを放って能力が低下しているけど、ルースは素早い動きでさっと飛び退いた。 最強クラスの威力と引き換えに、放ってから一定時間は反動で能力が低下するというリスクを負う。 でも、その間攻撃を食らわなければいい。 「…………」 アヤカさんは真剣な眼差しをボスゴドラに注ぐ。 熱波に当てられて、ボスゴドラを包む炎はより激しく燃え上がった。 さあ、どう来る……? 相手の動向を注意深く探っていると、 「電磁波!!」 「……なにっ!?」 アヤカさんの指示が終わるが早いか、ボスゴドラを包んでいた炎がキレイに消えて、代わりに電撃の網が瞬く間に伸びてルースを捕らえた!! 電磁波まで覚えてるのか!? 「バクっ!?」 突如まとわりついてきた電磁波に驚き、ルースは右往左往していた。 でも、身体の自由を奪う電撃の網を振り払うことはできない。 「火炎放射とオーバーヒートの二段攻撃に耐えた……マジかよ」 ボスゴドラの身体はあちこち焼け焦げているけど、ルースに向ける視線に、闘志の衰えはわずかたりとも感じられなかった。 なんてヤツだ…… 「ボスゴドラ、そのまま捨て身タックル!!」 アヤカさんの指示が飛び、ボスゴドラが地響きを立てながら駆け出した!! ただ走るだけなのに、地震に見舞われたような揺れがフィールドを叩く!! ちょっとでも足腰の力を抜いたら転んでしまいそうな揺れに、オレはただ踏ん張るしかない。 「ルース、頑張って振り払うんだ!!」 このまま捨て身タックルなんて食らったら、本気でヤバイ。 なんとしても電磁波を振り払ってもらうしかない。 ルースは歯を食いしばって身体を動かそうと四苦八苦するけど、電撃の網を破ることができない。 そうこうしているうちに、ボスゴドラの渾身の力を込めたタックルがルースを吹き飛ばした!! 「ルース!!」 土煙を上げながら地面を拭き掃除するルース。 地面の凹凸に身体が当たって、何度かバウンドして、最後にはフィールドに屹立する岩の柱に背中から叩きつけられて止まった。 ルースの身体は傷だらけで、今の一撃が大ダメージを与えたんだってことが分かった。 アイアンテールなんて目じゃない。 立てるか……? もし、戦闘不能を免れてたら、『猛火』の特性が発動して、火炎放射でオーバーヒート級の威力を出すことができる。 ただ、オーバーヒートで能力が低下してる状態じゃ、そこまで行くかどうか…… 「ば、バクっ……」 ルースは呻き声を上げながら、ゆっくりと身を起こそうとするけど、動きは遅くて覚束ないものだった。 臆病な性格とはまるで違う、根性さえ見せているけど、立ち上がる直前に、プツリと糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。 ピクリとも動かなくなる。 「戦闘不能ね……」 アヤカさんが口元に小さく笑みを浮かべた。 「ルース、よくやった。戻れ」 オレはルースをモンスターボールに戻した。 ボスゴドラも戦闘不能に近い状態だ。あとはラッシーで倒せる……!! 「ゆっくり休んでてくれよ」 労いの言葉をかけ、ボールを腰に差した。 そして、ラッシーのボールを引っつかんで頭上に掲げる。 「ラッシー、出番だ!!」 オレの言葉に応え、ボールが口を開いて、中からラッシーが飛び出してきた!! 「こういう展開を狙ってたっていうの……?」 怪訝そうに眉根を寄せるアヤカさん。 「そういうわけじゃないですよ。ただ、結果がそうなっただけ」 オレは首を横に振った。 あわよくばルースで倒すつもりでいたんだ。 火炎放射とオーバーヒートのダブル砲火で倒せるかと思ってたんだけど……そこまで甘くはなかった。 日本晴れでオーバーヒートの威力を引き上げたのも、それで倒すつもりだったからだ。 でも、結果的にラッシーを出すことになった。 そのための布石でもあったんだよ。 万が一、オーバーヒートでも倒しきれなかった場合、ラッシーに引き継ぐことになった場合のために。 「でも、バトルはまだ終わっちゃいない。行くわよ!!」 アヤカさんは拳を握り、バトルの再開を宣言。 「ラッシー、ソーラービーム連射!!」 オレはすかさずソーラービームを指示した。 日本晴れでチャージ時間を劇的に短縮した状態なら、ボスゴドラが何らかの行動を起こす前に立て続けにソーラービームを叩き込める!! ラッシーは背中の花に、強く差し込んだ日差しを吸収し、一秒と経たずに口からソーラービームを発射!! 強烈なビームが地面を抉りながらボスゴドラに向かう!! ボスゴドラの動きはそれほど速くない。ラッシーよりは速いけど、ソーラービームを避けられるほど素早いわけじゃない。 オレの思ったとおり、ボスゴドラは避けようとした瞬間にソーラービームの直撃を受けた!! ラッシーが立て続けにソーラービームを発射すると、すべてがボスゴドラに命中。 続けて起こる大爆発。 土煙が上がり、フィールドを二分する。 五発ほど撃ったところで、ラッシーが動きを止めた。 無駄に力を使うのを潔しとしないんだな。 これで戦闘不能にならなかったとは思えないけど、相手がどうなったか確認してからでも、手を打つのは遅くない。 濛々と立ち込める土煙が徐々に晴れていく。 オレは目を凝らして、一瞬でも早くボスゴドラがどうなったのか確認しようと努めた。 でも、その必要はなかった。 土煙が晴れた時、ボスゴドラが巨体をその場に横たえていたからだ。 ピクリとも動かず、ただ倒れている。 「さすがに耐えられなかったわね……」 アヤカさんは肩をすくめた。 もしかしたら耐え抜いてくれるんじゃないか、と思ってたんだろう。 少しガッカリしたような表情だ。 「ボスゴドラ、戻りなさい」 何も言わず、ボスゴドラをモンスターボールに戻した。 よし、これでオレたちの勝ちだ!! 「ラッシー、よくやった。サンキュー」 「バーナーっ……」 オレの言葉に、ラッシーはゆっくりと振り向いて、うれしそうに頷いてくれた。 これなら、わざわざルースを出さなくても良かったかもしれない。 ソーラービームの連発だけでも倒せてたかもしれないな……だとしたら、ルースには悪いことをしてしまった。 後でちゃんと埋め合わせをしておこう。 「ふう……」 ボスゴドラのボールをズボンのポケットに入れると、アヤカさんは大きくため息をついた。 ――負けちゃったわね。 きっと、そう思ってるんだろう。 あんまり悔しがってるようには見えないけど、年下のトレーナーに負けて気分を良くする方が無理に決まっている。 でも、彼女は努めて明るく振舞った。 「わたしの負けね。 カナズミジムを制した証、ストーンバッジを――!?」 アヤカさんはモンスターボールをしまった方とは逆のポケットに手を突っ込んで―― 「あぐっ……」 表情が苦痛に歪む。 がくりと膝を折った。 「……アヤカさん!?」 オレは慌てて駆け寄った。 まさかとは思うけど……オレも膝を折って、アヤカさんの顔を覗き込む。 「はあ……」 額には大粒の汗が浮かんでいる。 ズボンに突っ込んでた手を、大きくなったお腹に添えて、優しく撫でる。 「アヤカさん、大丈夫ですか!?」 自分でも分かるくらい、その質問は馬鹿げていた。 大丈夫なはずがない。 でも、少しでも気が紛れるなら、どんな言葉でもかけなければならない。 「大丈夫って、言いたいところだけど、そうもいかない……みたいだわ……」 アヤカさんは息も絶え絶えに答えた。 口元に笑みを浮かべているけど、目は笑ってない。 見えない何か……身体を突き破るような何かに耐えているような…… 「おかしいわね。予定じゃ、来月のはずなんだけど……くぅ……」 陣痛……!! 見る間にアヤカさんの顔色が悪くなっていくのが分かる。 まさか、バトルで興奮したことが原因で、陣痛を早めてしまったのか……!? だとしたら、早く病院に連れて行かないと!! 「はぁ……はぁ……」 アヤカさんは肩で息をしていた。 襲い掛かる痛みがハンパなものじゃないってことなんだろう。 子供を産めない男には分からない痛みだけど……だから、一刻も早くその痛みから解放してあげなくちゃ!! アヤカさんの妹さん――本来のジムリーダーは不在だから、頼れるのは病院だけだ。 ダーリンって人もどこにいるか分かんないから、当てにはできない。 「アヤカさん、電話、ありますか?」 「奥……フィールドの奥に、部屋があって……」 「分かりました!! 病院に電話するから、待っててください!! ラッシー、アヤカさんを頼む!!」 オレはアヤカさんに言われたとおり、フィールドの奥――入り口の反対側の通路に向かって駆け出した。 三十分後。 オレは病室の前にある長椅子に腰を下ろしていた。 「…………」 何を言うでもなく、じっと待ち続ける。 陣痛が始まったからっていうんで、大慌てで救急車を呼んで、アヤカさんを病院に運んでもらったんだけど。 オレも、アヤカさんのご主人が来るまでの間、付き添っててくれって頼まれたから、こうして病室の前の椅子でじっとしてるんだ。 さっき、お医者さんと看護士さんが病室に入っていった。 アヤカさんの具合を確かめるため、ってことらしい。 出てくるまでは何があっても入ってこないように、と念を押された。 別に念を押されなくたって、入るつもりはないんだけど……やっぱ、お医者さんの目には、生意気盛りの子供だって風に映るんだろう。 そこんとこは本気で腹が立つけど、いきり立ったところで仕方がない。 真っ先に分娩室に運ばれなかったところを見ると、今すぐ子供が産まれるわけでもないんだろう。 救急車の中で、アヤカさんのご主人に連絡した。 すぐに産まれるわけじゃないけど、数日中には産まれるかもしれないって言ってた。 ご主人はすぐに向かうって言ってたらしい。 アヤカさんがそれを聞いて、安心して眠った。 ……やっぱり、ジム戦で興奮したことが原因で陣痛が始まっちゃったんだろうか? だったら、どんな脅迫的文言を並べられても、アヤカさんの身体を第一に考えて、ジム戦を辞退すべきだったのかもしれない。 今さら論議したってどうにもならないことは分かってる。 でも、もし流産なんてしようものなら、それこそ責任の取りようがない。 病院に運ばれるまでの間、アヤカさんは心配な表情を向けるオレに、何度も言ってくれた。 「君のせいじゃないわ。気にしないで」 そう言われると、余計に気にしてしまう。 大粒の汗を浮かべた顔で笑みを作られても、気にするなという方が無理に決まってる。 「大丈夫だといいんだけど……」 オレは傍らの観葉植物に目をやった。 南国原産の植物らしい。 少しでも気が紛れれば、それでいい。 大きな葉っぱを触ってみた。 弾力があって、それでいてツルツルしている。ラッシーの背中に咲いた花に似た肌触りだ。 ……と、その時病室の扉が開いて、お医者さんと看護士さんが出てきた。 「アヤカさんの具合は……?」 居ても立ってもいられず、オレは立ち上がって訊ねた。 「数日中に産まれるかもしれないわ。今はまだ大丈夫だから、お話してらっしゃい」 「そうですか……良かった」 看護士さんが笑顔で言ってくれて、オレはホッと胸を撫で下ろした。 救急車が来るまでの間、アヤカさんはとても苦しそうにしてた。 だから、どうなるんだろうって、他人事ながらもずいぶんハラハラしてたんだ。 胸の痞えが一気に吹っ飛んだ気分になった。 「お大事に」 お医者さんが咳払い一つして、足早に立ち去った。 他の患者も診なきゃいけないんだろう。 オレは小さく頭を下げ、病室に入った。 「アヤカさん、大丈夫ですか?」 リクライニングベッドを斜めに起こして、ゆったりした体勢でじっとしているアヤカさんに声をかけると、彼女は返事の代わりに笑みを返してくれた。 「よかった。何かあったんじゃないかって、心配しちゃいましたよ」 オレは病室の隅に置かれていた椅子をベッドの傍に引き寄せて、その上に腰を下ろした。 相部屋だったけど、他に入室してる患者がいなかったんで、気兼ねなく話せるのが救いだ。 「心配かけちゃったわね。 初対面の子にそこまでしてもらっちゃって、本当に悪いわ……」 「困った時はお互い様じゃないですか」 アヤカさんは申し訳なさそうな顔で言ったけど、オレは首を軽く振った。 「やっぱり、無理にジム戦なんてやるもんじゃなかったわね……君の言うとおりになっちゃったな」 「…………」 何かあったらどうするんだ。 口を酸っぱくして言ったことが本当になっちゃったんだから、そりゃ申し訳なく思うだろう。 でも、この際結果論さ。 何もなかったんだから、これ以上気にされても困る。 「でも……これに懲りたら、無理しないでくださいね。ご主人、もうすぐ来ますから」 「分かったわ。子供を産むまでは、何もしない」 口の端に笑みを浮かべつつアヤカさんが言った。 なにやら不吉なものを感じ、オレは思わず言ってしまった。 「産んでからも。産後は体調が優れないんだから……」 「…………うふふ」 「……?」 小さく笑い出すアヤカさん。 一体どうしたんだ? 頭がおかしくなっちゃったんだろうか、と思ったけど、そうじゃなかった。 「君って姑みたいね。そこまで口うるさく年下の子に言われるとは思わなかったわ……」 「あ……ごめんなさい」 何気にキツイ言葉に、オレは萎縮してしまった。 人様の家庭の事情に口を突っ込むべきじゃないって分かってたけどさ。 アヤカさんの物言いは、子供を産んだらすぐ復帰、みたいな感じに聞こえたから、どうにも我慢しきれなかった。 オレもまだまだ忍耐力が足りないな……思ったこと、結構ずけずけ言っちゃったりするから。 「でも、あたしはそういうタイプの子の方が好きだわ。 我慢するのって、身体にも心にも良くないからね」 「はあ……」 アヤカさんは窓の外に目をやった。 ここは病院の十階。 十五階建ての大病院で、上階の西に面した窓からは、彼方まで広がる海を見渡すことができる。 アヤカさんは海を見つめて、何を思ってるんだろう。 ガラス窓に映る彼女の笑顔に、オレはつい考えをめぐらせてしまった。それこそお節介なんだけどさ。 「ねえ、アカツキ君」 「……なんですか?」 振り向きもせずに言ってくるアヤカさん。 話し相手になって欲しいってことなんだろう。 笑顔の裏で……本当は不安で仕方ないのかもしれない。 ご主人が来るまで、話で気持ちを確かに繋ぎ止めておきたいんだろうか。 そうじゃなくたって、話し相手くらいならしてもいい。 このままほっといて次のジムへ、なんて気にはなれないから。 「カントー地方ってどんな場所なの? わたし、行ったことがないからよく分からないの。良かったら話してくれないかな?」 「いいですよ」 オレはカントー地方のことをアヤカさんに話した。 一ヶ月少々、旅をしていたことも含めて。 それで気が紛れるなら、これほど安い話もない。そう思った。 故郷マサラタウンは長閑で自然豊かな町。 田舎だけど、静けさや空気の新鮮さは都会とは比べ物にならない。 都会ほど便利じゃないけれど、便利さよりも静けさの方が大切だって思ってる。 それから、カントー地方の名所を、オレの知ってる限りの範囲で話した。 アヤカさんは途中からオレに顔を向けてきた。 一言一言、丁寧にも相槌を打ってくれて、真剣に聞き入ってるんだなって思えたから、俄然話す気にもなってくる。 トキワシティの北に広がるトキワの森や、ハナダシティの郊外にあるゴールデンブリッジ。 海上にそびえるサイクリングロードに、セキチクシティのサファリゾーン。 他にはセキチクシティとグレン島の間にある双子島。 カントー地方の名所らしい名所を大方話し終えると、アヤカさんは満足げに微笑んだ。 「これくらいしか知らないんですけど……」 「ううん、とても面白い話だったわ」 これでも満足してくれたんだろう。 「ありがとう。君は本当に優しいのね。 本当は心細くて仕方ないんだけど……君がいろいろと楽しい話をしてくれたおかげで、心を強く持つことができるわ」 「そんな……オレこそ、無理にジム戦を受けなきゃよかったって思ってるんです」 「受けるように仕向けたのはわたしの方よ。君が気に病むことじゃないわ。 そう言われて、すぐに気にしなくなるようなタイプじゃないんだろうけど」 ……やっぱり、大人には分かっちゃうんだろうか。オレがそういうタイプなんだってこと。 気にするなと言われても、すぐに気にしなくなるようなタイプだって。 だって、無理に決まってるだろ。 踏ん切りが悪い方だとは思ってないけど、すっぱり忘れられるほど無責任なつもりもないからさ。 「あの、アヤカさん」 「なに?」 「アヤカさんはジムリーダーをやってた時期があるんですか?」 「あるわよ。じゃなきゃ、代行なんてしないわよ」 「そりゃそうですね……」 ごくごく当たり前なことを言われ、オレは撃沈された。 ジムリーダーの資格を持ってるって、バトルする前に言われたけど、ただ資格を持ってるってだけじゃないよな、普通。 ボスゴドラなんて強いポケモンを使ってくるあたり、どう考えてもそれなりの経験があったってことだ。 それでも、ただのジムリーダーじゃないって思わせるほどの技のバリエーションと戦い方。 みっちり鍛え上げられてるような気がしてならなかったけど……気のせいかな。 「元々はね、ツツジ――妹の名前よ――じゃなくて、わたしがジムリーダーをやってたの。 だけど、ジムリーダーっていろいろな会議やらなにやらに出席しなきゃいけないでしょ。 結構それって面倒くさくてね。 ツツジはそういうの好きみたいだったし、ジムリーダーをやってみたいと思ってたから、何年か前に譲ったの。 それからは裏方に徹してきたわね」 「そうなんですか……」 なんか自分勝手な理由に聞こえるけど、妹思いなんだってことがひしひしと伝わってくるんだから不思議なものだ。 そう思わせる話し方をしてるんだろう、と思った。 元ジムリーダーか。 一線を退いたって感じに聞こえるけど、実際に戦ってみた限り、現役のジムリーダーよりもよっぽど強い。 「元」でこれなんだから、もし現役時代の彼女と戦っていたら、勝てたかどうかも分からない。 ……オレって、案外運がいいのかもしれない。 それからいろいろと話に花を咲かせていると、壁にかけられた時計の針が、手で進めたんじゃないかと思えるほど進んでいた。 窓の外に広がる青空に、朱色が混じってきた頃になって、病室の扉を叩く音が聞こえた。 ちょうどキリのいいところだったから、そこで話が途切れた。 「アヤカ。入るよ?」 穏やかな男性の声が聞こえた。 んんっ……? 気のせいか、どっかで聞いたことのある声だな。 どこで聞いたのかと、記憶の糸を手繰り寄せていると、アヤカさんが応じた。 扉を開けて病室に入ってきた男性の顔に、オレは心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。 「ええっ!? この人がアヤカさんのご主人!?」 さすがに場所が場所だけに叫びはしなかったけど、危うく言葉が飛び出してくるところだった。 灰色の髪をした、背の高い青年。 濃紺のスーツをビシッと着こなし、一見すると美青年の部類に入るだろう。 どっかで聞いた声だと思ったら、なんてことはない。 アカツキの親父さんを助けた時に、家にいた人だ。見た目からして個性の強い集団の一人。 いや、むしろ他の四人の方がむしろ個性が強かったな。 「あら、知り合い?」 アヤカさんが拍子抜けしたみたいに、オレと男性――ダイゴさんを交互に見やった。 「ああ、まあね」 ダイゴさんはオレに向かって小さく会釈すると、アヤカさんの傍に歩いて行った。 「それよりアヤカ。僕は君に『無茶はするな』って言ったはずなんだけど。忘れた?」 「忘れてないわ」 夫婦の会話が始まった。 アヤカさんの表情が、オレに向けるものとは明らかに違っている。 世界で一番大好きな人だから、一緒にいられるだけで幸せなんだろう。 「わたし、別に無茶しただなんて思ってないんだもん」 「やれやれ……そういうところは昔から全然変わってないな。 まあ、君のそういうところを好きになったんだから、強くは言えないなあ……」 ダイゴさんは髪を掻きあげた。 照れてるのか、頬がかすかに朱を帯びた。 「…………彼には礼を言ったのか?」 「もちろん。わたし、これでも礼儀には厳しく躾けられたのよ」 「そうか。それならいいんだ」 ダイゴさんは小さく頷き、オレに向き直った。 「うちの嫁が迷惑かけたね」 「そんなことはないですよ。オレも、いいバトルさせてもらえましたから」 「バトル……」 オレの言葉に、ダイゴさんが眉間にシワを寄せた。 神妙な面持ちでアヤカさんを見やる。 ぎくっ…… アヤカさんは気まずい表情で、視線をあちこちに泳がせていた。 ……もしかして、バトルしてたってこと、知られちゃまずかったんだろうか。 「ほほぅ……」 ダイゴさんが引きつった笑みなど浮かべつつ、ゆっくりと首を軋ませるような音を立てながらアヤカさんの方に振り向いた。 「バトルをやってたのか。 ツツジがいないのは知っていたが……バトルで興奮すれば、身体に良くないってことくらいは分かると思うんだけどね。 大方、無理矢理彼にバトルを受けさせたんだろう」 見事に言い当ててるし。 やっぱり、奥さんのこととなると、手に取るように分かるものなんだろうか。 不思議に思っていると、アヤカさんは気まずい表情のままであれこれ弁明を始めた。 「いや、それはその……適度な運動は赤ちゃんのためにもいいんじゃないかって、どっかの本で読んだ覚えがあって。 それを思い出してね、実践……」 「まあ、くどくど言ったって、お互い嫌な想いをするだけだから、ここでやめておく」 言い訳以上にはなりそうにない弁明を打ち切ったのは、他でもないダイゴさんだった。 アヤカさんがあんまり悪びれてないところを見て、何を言っても無駄だと悟ったんだろう。 それでいいのかと言われれば、他人事でもイエスとはとても言えないんだけど…… 「でも、次同じことをしたら、今度はボスゴドラに縛ってもらって動けなくするから。そのつもりで」 「わ、分かったわ」 恐る恐る頷くアヤカさん。 ボスゴドラって……ジム戦で使った、あのボスゴドラだろうか? ポケモンに縛られて動けなくされるのは、さすがに嫌だったらしく、アヤカさんは額に大粒の汗など浮かべて、うろたえている。 ジム戦の時には見せなかった表情だけに、タジタジしてる時のものでも、とても新鮮に思えた。 「絶対安静。いいね?」 「分かったわ……これ以上、あなたのジャマをするわけにもいかないしね。 結構、今回ので懲りたのよ。ツツジが戻ってくるまで、あのジムは閉めとくわ」 アヤカさんはため息混じりに頷いた。 いとも容易く言ってくれるけど、それって結構大変なことじゃないか? 確か、ツツジさん――アヤカさんの妹で、現ジムリーダーであるその人が戻ってくるのは明後日だって言ってたっけ。 一日か二日でも、ジムを閉めるのって、トレーナーからすればあんまりいいこととは言えない。 ポケモンリーグの支部に苦情が寄せられるだろうし、ジムに対する印象も悪くなるんだ。 代役を立てられないから「ジムを閉める」なんて言ったんだろうし、口調とは裏腹に、実際は結構深刻な状況なのかもしれない。 それを大したことがないと言い切っちゃうあたりが、普通じゃないけど。 「それは僕の方から理事に連絡しておく。心配せず、ここでゆっくり休むといい。 今まであまり戻ってあげられなくて、僕の方こそすまないと思っているよ。 その埋め合わせになるとは思えないけど、十日ほどは休みを取ったから。その間は君と一緒にいられる」 「十分よ」 ダイゴさんが手を取ると、アヤカさんは満足げに微笑んだ。 やっぱり夫婦なんだなあ……って思わされる瞬間だ。 お互いに見つめあうだけで、自分の気持ちを伝えているように見えたんだ。 いわゆるアイコンタクトってヤツだろうか。 新婚夫婦……っていうより、アツアツな夫婦を見ているような気分になるけど、やっかむような気にはなれない。 新鮮な夫婦だからかな? なんて思っていると、ダイゴさんがアヤカさんの手を離した。 振り返ってくる。 「アヤカを助けてくれた礼がしたいんだ。屋上に来てくれないか?」 「屋上……?」 オレは眉をひそめた。 なんだって屋上で礼を受け取らなきゃいけないんだか。 別に、お礼が欲しいわけじゃないけど……なんか、場所が場所だから、気になるんだよな。 即答でイエスと言うわけにもいかず、どうしようかと考えていると、 「なんでそんなところに? ここでいいじゃない」 アヤカさんが呆れたように言ってきた。 ただ礼をするだけなら、ここでいい。 気兼ねなどしないでくれ、という意思表示なんだろう。 でも……ただ礼をするだけじゃないから、屋上って場所を持ち出したんだって、その一言でピンと来た。 「いろいろと込み入った事情があってね。 そこのところは他言したくないんだ。君であっても」 「そう……分かった。事情があるのなら、仕方ないわね」 詫びるようにダイゴさんに言われ、アヤカさんは肩をすくめた。 一応納得してくれたらしい。 後で根掘り葉掘り聞かれなきゃいいんだけど…… 「じゃあ、ついてきてくれ」 「分かりました」 オレは頷き、ダイゴさんの後について病室を出た。 十階から十五階まではエレベーターで行けたけど、十五階から屋上へ行くには階段を使わなくてはならなかった。 でも、そんなに時間をかけずに屋上にたどり着けた。 海からの潮風がパチパチと頬を叩くように吹き付けてくる。 高いところだと風が強くなるようだ。 暮れなずむ夕空の下、東側には明かりが灯り始めたカナズミシティの街並みが眼下に広がり、振り返れば西側には夕陽にきらめく海が一面に広がる。 ロケーションとしては申し分ないんだけど……一体、なんの話があってここまで連れてきたんだか。 気になるのはそこだった。 礼なんてどうでもいいんだよ。 何か込み入った話があるから、人気のない屋上に場所を移したってことだろ。 「わざわざこんなところまで来てもらってすまないね」 オレの疑問を察してくれたようで、ダイゴさんが振り返りざま、穏やかな口調で言った。 「なにか話があるんでしょう? そうじゃなきゃ、こんなところまで連れてきませんよ、普通」 「鋭いね。さすがはオーキド博士のお孫さんだけのことはある」 「……なっ……!?」 オレは驚きつつも、とっさに身構えた。 腰のモンスターボールに手を伸ばす。 この人、一体何者様!? 会ったのは今日で二度目のはずだ。 それなのに、どうしてオレのことを知ってるんだ……? 昔に会ったことがあるのかと思ったけど、だったらアカツキの家で会った時に何かしらのリアクションがあったはずだ。 「…………」 オレはじっとダイゴさんの目を睨みつけた。 油断してたら付け込まれてしまうような、根拠のない想像が浮かんできたから。 「悪いけど、あれから君のことを調べさせてもらったんだ。面白いトレーナーだったから」 イタズラ盛りの子供のような笑みを浮かべるダイゴさん。 オレのこと、調べたのか。 面白いトレーナーってどういう意味なんだか……それを問い詰めてやろうかと思ったけど、そうする前にダイゴさんが口を開いた。 「僕が何者か、君は気になってるようだね。 ……そうだね。人を使って調べさせることができる立場にある、とだけ言っておくよ。 今はまだ詳しいことは言えないんだ。悪いけど」 「…………」 人を使って調べさせることができる立場……か。 結構な地位だってことか。 まあ、そんなことは正直どうでもいいんだ。 コソコソと人の身辺を調べるってマネが気に食わない。 なんでそんなことする必要があったんだ? オレに感づかれちゃまずかったとでも言うのか。だったらわざわざそんなことを言う必要もない。 ……余計分かんねえ。 頭ん中がごっちゃになっていると、ダイゴさんは困ったような笑みを浮かべた。 「コソコソするのはポリシーに反するんだけど、僕の同僚が、そういったことは表立ってやるべきことじゃないって助言をくれたんでね。 前に会った時にいた四人のうちのひとり。一番お年を召した方だよ」 「あの人が……」 オレは脳裏にダイゴさんの言葉の人を思い浮かべた。 船長さんのような格好をした、壮年の男性が、確かいたな。 あの人の言葉はとても堪えたよ。 言ってることが正論だから言い返せなかったのが悔しかったけど。 でも、あの人がいなかったら、オレはアカツキのことを助けてやれなかったかもしれない。ある意味で恩人……かな。 「君も、アカツキ君というんだね。名前を知った時には、正直驚いたよ」 「オレも驚きましたよ」 オレは相槌を打った。 ここで食ってかかったって、どうなるものでもないし…… シャクだけど、恩人の同僚ってことで、気持ちの中で許してあげることにしたんだ。 アヤカさんの旦那さんだけあって、凛とした雰囲気を身にまとっている。 普通の、どこにでもいるような男なら、アヤカさんの尻に敷かれて逃げ出してるだろう。 そんなこと、口にはとても出せないけどね。 「君も、ってことは、アカツキのことはよく知ってるみたいですね」 「ああ。二年前からの付き合いだからね」 「ふーん……」 少なくとも、オレよりはアカツキのことを知ってるってわけか。 ついでに言うと、アカツキの親父さんのことも。 親父さんに限っては、ずいぶんと昔から知ってるような口ぶりだった。 まあ、オレには関係ないけど。 「アカツキのこと知ってるってことは、あいつの戦術とかも知ってるってことなのかな……?」 もしそうだとしたら、ちょっと話を引き出してみるだけで、あいつのポケモンバトルに対する考え方とかもつかめるかもしれない。 そこから戦い方とかを割り出せれば、次に戦う時は優位に立てるかもしれない。 ……ただ、そう都合のいいことをベラベラしゃべってくれるとは思えない、ってのがネックだけどさ。 こういう時は―― 「ダイゴさんはじいちゃんと知り合いなんですか?」 「いや、名前を存じているだけだよ。 僕の同僚の一人が実際にお会いしたことがあって、尊敬できる人だと言っていた」 「そうですか……」 じいちゃんの話でつなげといて、そこから核心に迫ってみよう。 でも、いきなりその目論見がへし折れちゃった感じがした。 だって、じいちゃんのことを『尊敬できる人』って言われると、とてもうれしくなるんだ。 オレだってじいちゃんのことを誰よりも尊敬してる。 だから、じいちゃんは他にもたくさんの人から尊敬の念を抱かれてるんだって思うだけでうれしくなる。誇りに思えるんだ。 「それより、君に礼をしたい。 アカツキ君を助けてくれたこと。それと、アヤカを助けてくれたことも」 「別にいいですよ。見返りが欲しくてそんなことをしたわけじゃないですから。 そういうの、あんまり性に合わないし……」 オレの辞意を無視する形で、ダイゴさんはスーツのポケットをまさぐった。 「いや、僕の気持ちが収まらないんだ。 偶然とはいえ、二度も助けられたんだから……すごく感謝してるんだ」 ポケットから取り出した手には、モンスターボールが握られていた。 ……って!? 彼が何を言い出すのか、想像に難くはなかった。 こういう展開、どっかであったような気がしたんだ。 デジャブーって言うんだっけ、こういうの。 ダイゴさんはモンスターボールを持っていない方の手を伸ばして、オレの手首をつかんだ。 「……!?」 意識が向くと同時に、ダイゴさんが手に持ったモンスターボールをオレの手にそっと置いて、軽く握らせた。 「このポケモンを君に譲るよ。 僕からの……いや、僕たちからの感謝の印だ」 「そんな……ダイゴさんのポケモンでしょう。 受け取れませんよ。せめてトレードとかなら分かりますけど……」 オレはダイゴさんにモンスターボールを突き返そうとしたけど、残念ながら向こうの方が上手だった。 すぐに手を引っ込めて、受け止めてくれない。 「確かに僕のポケモンだけど、君ならきっと強く育ててくれるんじゃないかって思うんだよ。 ポケモンはトレーナーの育て方で強くも弱くもなる。それが極端に形に出てくるポケモンなんだ。 弱く育てるようなトレーナーに渡すなんて、それこそおかしいことだと思わないか?」 「え……」 ダイゴさんの言葉に、オレは出鼻を挫かれたように、何を言おうとしていたのか忘れてしまった。 ポケモンは育て方で強くも弱くもなる。 それは当然だ。 技の構成や戦い方ってのは人それぞれ違うから、それが強さと言う名を借りて形に出るのは当たり前のことだけど…… それが極端に形に出てくるポケモンっていうのは一体なんなんだ!? オレの手が握っているモンスターボールの中にいるポケモンが、無性に気になって仕方がない。 だって、そういう言われ方をしたら、気になるのが当たり前じゃないか。 そう仕向けるような言葉を選んだとしか思えない。 「僕の立場ってものを少しでも考えてくれるのなら、素直に受け取ってもらいたい。 こいつも、結構日常に退屈してるクチでね、旅をしていると、いい経験にもなるんじゃないかと思うんだ」 「本当にいいんですか? タダでもらっちゃって……」 「ああ。もらってくれ」 「……分かりました」 ダイゴさんは迷いを微塵も見せなかった。 最初からそうするつもりでいたかのようだけど……多分そうなんだろうな。 ここまで言われちゃうと、もらわないわけにはいかない。 『僕の立場を考えてくれ』って言ってたけど、彼なりの気持ちの整理をつけるのに、それが必要だったからなんだろう。 「じゃあ、ありがたくいただきます」 オレは深々と頭を下げた。 アヤカさんを助けたのは偶然だけど……それに対して見返りなんて、オレは求めてはいなかった。 でも、あんな言われ方されたら、もらわないわけにはいかない。 ……どんなポケモンなんだろう? 育て方が極端に表に出てくるポケモンって。 「あの……出してもいいですか?」 「ああ、構わないよ」 胸の奥から突き上げてくる『見たい』という衝動に、オレは我慢できなかった。 意志が弱いなあって思うけど、仕方がない。 我慢すべき時と、我慢しなくてもいい時を履き違えなければ、それでいいんだから。 「出て来い!!」 オレはボールを軽く頭上に放り投げた。 沈みゆく夕陽とボールの姿がピタリと重なった瞬間、ボールの口が開いて、中からポケモンが飛び出してきた。 それは…… 「……?」 初めて見るポケモンだった。 青い鉄を思わせるような色と質感で、何かの腕のような……いや、棒と言った方が正しいだろうか、そんな形状の持ち主だ。 頭と身体の区別がないんでよく分からないけど、眼窩(?)のような黒い窪みがあって、そこには赤い目(?)が一つ。 反対側には鋭い爪が三本ついていて、正三角形の頂点を描いている。 何の支えもないのに宙に浮かび、赤い一つ目でオレをじっと見つめている。 これが本当にポケモンなのか? そう思い、オレはズボンからポケモン図鑑を取り出して、センサーを向けた。 ピピッ、と電子音。ちゃんと認識したってことは、ポケモンか。 思っていると、液晶に同じ姿が映し出され、説明が流れてきた。 「ダンバル。てっきゅうポケモン。 鋼鉄の身体は、血液の代わりに磁力がめぐっており、それを地磁気と反発させることで宙に浮くことができる」 「ダンバルっていうのか……」 オレは図鑑と実物を見比べた。 確かに説明どおり、ぷかぷか浮いている。 「鋼とエスパーの二タイプを持つ珍しいポケモンだよ。 ここから二段階、進化を控えているけど、そこまで行けるかどうかは君の育て方一つにかかってる」 「…………」 ダイゴさんの言葉が重くのしかかってくるのを感じた。 二段階の進化……そこまで行けるかどうかはオレの采配一つで変わってくる。 下手に育てれば進化できない――いや、進化までに時間がかかるってことなんだろう。 言い換えれば、上手に育てることができれば、これ以上ない戦力になりうる可能性がある。 ダイゴさんは、ダンバルでオレのトレーナーとしての実力を試そうとしてるのか……? だとしたら、どうしてわざわざバトルじゃなく、ポケモンの育成で試そうとしているのか。考える必要なんてなかった。 バトルという刹那的なものじゃなく、ポケモンの育成という長期的な結果を形にしたものの方が、 トレーナーとしての資質や実力を試せるって思ったからなんだ。 なんか、宿題出された気分だ。 「ん?」 ダンバルがゆっくり近づいてきた。 鉄の身体で、オレに擦り寄ってくる。 表情がないからなんとも言えないんだけど、懐いてくれているみたいだ。 「よしよし……」 オレはダンバルの身体を撫でた。 鉄の質感……血がめぐってないから冷たいのかと思ったけど、とんでもなかった。 磁力のおかげなのか、身体はポカポカと暖かい。 まるで湯たんぽを触ってるみたいな心地になる。 「ふふ、さっそく懐いているみたいだね。君に譲って正解だったよ」 ダイゴさんが満足げに笑みを浮かべた。 ほら、やっぱりオレのことを試してたんだ。 オーキド博士の孫だ、なんてことをわざわざちらつかせたり、ダンバルの育て方でトレーナーとしてどうか試したり…… 趣味が悪いのは間違いないけど、彼に純然たる悪意がないのだから、責めることなどできない。 ……ちょっと悔しいけど。 「君なら、ダンバルを強く育ててくれるだろう」 「そりゃ、譲ってもらったからには強く育ててみせますよ」 オレは口元に笑みを浮かべ、ダンバルを撫でていない方の手を握り、親指を立てた。 トレーナーの育て方が極端な形となって出てくるポケモンなんて、すっげえ育て甲斐あるじゃん? これでも、結構ワクワクしてたりするんだ。 「これからも、アカツキ君とはいい友達でいてあげて欲しい。 父親が記憶を失っていると聞いて、とても傷ついたはずだから。 そんな時に、支えになってあげられる人が一人でもいれば、ずいぶんと違ってくるからね」 「分かってますよ。 あいつは……オレの親友だから。辛い時はひとっ飛びして、ミシロタウンに駆けつけてやります」 「そうか……彼は本当にいい友達を持ったようだ」 ダイゴさんは笑みを深めた。 言われなくたって、オレはずっとずっとアカツキの親友でいるつもりだ。 ユウキには敵わないかもしれないけど、オレにはオレなりの接し方ってものがあるんだから。 「君はホウエンリーグに出場するのかい?」 「そのつもりですよ。アカツキとも決着つけなきゃいけないんで」 「そうか……その時が楽しみだね」 オレの答えを聞くと、ダイゴさんは小さく頷いた。 「……風が冷たくなってきたね。そろそろ戻るとしようか」 「はい」 ダンバルがダイゴさんを見つめる。 表情がないから、どんな気持ちなのかは正直分かりづらい面があるけど、どこか名残惜しそうな雰囲気が伝わってくる。 外の世界を見られてうれしいと思う反面、今までずっと一緒にいた人と離れて旅をしなければならないってことで、複雑な心境なんだろう。 手持ちになったポケモンを不安のままにさせてはおけない。 オレはダンバルの身体を撫でながら、明るく言った。 「ダイゴさんとはいつだって会えるさ。 そんな顔してちゃ、ダイゴさんの方が不安だって思うだろ」 「ダン……バル?」 ――本当に? 抑揚のない声。 オレは頷いて、言葉を続けた。 「ダンバルがもっと大きくなるってこと、ダイゴさんが望んでるんだよ。 オレだってできる限りのことはする。だから、これから一緒に旅する日々に期待しようぜ。な?」 「その通りだよ、ダンバル。 僕は君に広い世界を知ってもらいたいと思っている。 仕事で忙しい僕じゃ、それもままならないだろう。 だから、彼に頼んだんだよ。 不安に思う気持ちは分かるけれど、僕が見込んだ相手に間違いはないさ」 ダイゴさんの言葉の効果は絶大だった。 今まで一緒に過ごしてきた人の言葉には、ダンバルにしか分からない重みがあったんだろう。 ダンバルの放つ雰囲気が少し柔らかくなったように感じられた。 「よろしくな、ダンバル」 「ダンバルっ」 新しい仲間はオレに向き直ると、棒状の身体を大きく振って応えてくれた。 To Be Continued…