リーグ編Vol.01 開幕〜予選 「これより、ホウエンリーグを開催いたします」 突き抜けるような青空の下、観客がひしめき合うスタジアムに、凛とした声が響いた。 声の主は一段高い場所から、ホウエンリーグ開催の歴史やら何やらを事細かに、しつこく熱心に話し始めた。 というのも、その話してる人はポケモンリーグ・ホウエン支部の理事長様なんだ。 理事長って言ってもどっぷり太った、頭の少し寂しいおじいさんじゃなくて、銀縁のメガネをかけた長身の女性。 だけど、その眼光は刃のように鋭く、大舞台とは裏腹に落ち着き払った態度には一片の隙も見当たらない…… まさにキャリアレディという言葉をその身に集大成させたような人に見えた。 「トレーナーが正しい形でポケモンと接していけたなら、いずれ必ず共存という理想を体現することができるでしょう。 そのため日夜努力を惜しまないトレーナー諸君、あるいはブリーダー諸君、その他、ポケモンの研究に携わる方…… わたくしは頭の下がる思いでいっぱいです」 同じ言葉でも、言う人によって全然違う風に聴こえるとはよく言ったもので…… 普通の人ならただの偽善としか思えないその言葉も、怜悧さすら漂う理事長様がおっしゃると、 ずいぶんと現実に近づいているように聴こえるのは気のせいだろうか。 オレは数列に整列させられたトレーナーたちに目をやった。 すぐ左隣には、ミシロタウンのアカツキがいる。 ホウエンリーグに出るのは二度目だというのに、どういうわけかすごく緊張しているようだ。 身体が時折震えるのは、冷たい風が吹いているから、じゃない。 まあ、緊張するのも分かる気がする。 オレが変に緊張していないのが、むしろ不思議なくらいだろうから。 ここに集まった百数十人のトレーナーは、八つのバッジをゲットした強者ばかり。 少しでも油断すれば、あっという間に敗北の憂き目を見るだろう。 だから、緊張感を絶やすことなく保ち続けなければならない……というのはいくらなんでも無理。 むしろオレは少しでも冷静でいたいと思ってるんだ。 バトルで大切なのは、いかに自分のペースを保ち続けられるかどうか。 相手に引きずりこまれず、自分のバトルを展開できるか、なんだから。 適度に緊張感を保ちつつ、冷静でいること……口で言うのは簡単だけど、実際にやってみると結構難しかったりする。 オレも、ホウエンリーグという大舞台に昂る気持ちを押さえ込むのが大変だからさ。 アカツキの方ばかり見てると、どうにも緊張しちゃいそうだったんで、オレは反対側に目をやった。 「トレーナー諸君がこの一年間、身を粉にして努力してきたその結晶を、このホウエンリーグという舞台で、 余すことなく発揮していただきたいと思います」 右斜め後ろには、ドキドキワクワクした表情のサトシ。 その後ろには…… 「あー、長ぇ話……これ以上聞きたくないや、眠くなりそうだし……」 なんて退屈そうな顔で段上の理事長を見つめているユウスケがいる。 その他にも見知った顔がいくつか見受けられたけど、 「勝つか、負けるか。確かにそれは大事なことです。 しかし、それ以上に大切なことを、トレーナー諸君はすでに承知しているはずです。 この場に立ったトレーナー諸君、あなた方の精一杯の戦いを、楽しみにしております」 話が終わり、理事長が一礼して段を降りた。 いつまでかかるんだろうかと思ってたけど、終わりの方は案外スムーズだったな。 どこにでもあるような儀礼的な言葉ばかりが目立ってたのは、仕方がない。 それ相応の舞台だ、ってことなんだからさ。 続いては、観客席の最上段に設けられた聖火台に火を灯す聖火ランナーの登場だ。 ホウエンリーグのオープニングにおけるクライマックスシーンだ。 これを終えて、出場者たちはそれぞれの予選に赴く。 いよいよか…… オレはグッと拳を握りしめた。 観客の大歓声に迎えられ、スタジアムに聖火ランナーが姿を現した。 まさにマラソンの出で立ちで、左手には赤々と燃える炎が灯されたトーチを携え、聖火台へ向かって一歩ずつ走っていく。 二分後、ランナーが聖火台の前に立ち止まり、トーチを高々と掲げた。 そして、トーチを近づけ、聖火台に巨大な炎が灯された。 ランナーが登場した時とは比べ物にならないほどの歓声が上がり、戦いの幕が開けた。 「さあ、これより諸君の戦いが始まるのです!! 死力を尽くして戦い抜きなさい!!」 理事長の激励が始まりを告げるピストルのようにスタジアムに響き―― オレたちはそれぞれの戦いへと赴いた。 「いよいよだね、アカツキ、サトシ」 スタジアムを後に、予選会場となるバトルコートへ向かう途中。 隣を歩くアカツキが緊張を抑えきれない声で話しかけてきた。 反対側にはサトシがいた。 顔見知りってことで、途中までは一緒に行こうということになったんだ。 もちろん、持ちかけてきたのはアカツキだけど。 「ああ。目指すは優勝さ。それ以外はハッキリ言ってどうでもいい」 「そうそう!!」 オレの言葉に大きく頷くサトシ。 ……って。 言ってる意味が分かって頷いてるんだろうか? そう思いたくなるような、バトルしか考えてない表情だった。 優勝以外はどうでもいい…… もちろん、出場するからには全員が優勝の二文字だけを目指すことになる。 オレもアカツキもサトシもそれは同じだ。 優勝の栄光を勝ち取ることができるのは、百以上いるトレーナーの中でたった一人。 順当に勝ち抜いたとしても、いずれはアカツキやサトシとバトルをすることになるだろう。 そんなことをちゃんと考えてるんだか、どうなんだか。 ま、サトシには負ける気がしないんだけどね。 「今まで頑張ってきた成果をここで出すんだ。バトルになったって、手加減はナシだからな」 「もちろん」 何当たり前のこと言ってやがる。 好戦的に、挑発的に言うサトシに頷きかけながら、オレは胸中で愚痴っていた。 悠長に手加減なんぞできる相手かよ……仮にも八つのバッジを集めてきたヤツだぞ。 獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすっていう言葉がある。 相手が初心者であろうがなかろうが、いつだって手加減せずに全力で戦いを挑む…… 手加減こそが不必要で、失礼な行為でもあるんだ、ポケモンバトルにおいては。 「でも、勝つのはぼくだからね」 にぃっ、と口元に笑みを浮かべるアカツキ。 「そう上手く行けばいいけどな……オレたちも、結構頑張ってきたんだぞ。あの時みたく引き分け、なんてことにはならないはずだ」 「あの時の雪辱はここで絶対に晴らすからな、覚悟しとけよアカツキ!! それじゃあな!!」 サトシはアカツキに挑戦状を叩きつけると、一足先にすぐ傍のバトルコートに飛び込んでいった。 すでにコートには観客が押し寄せていて、予選といえども彼らがバトルに抱く期待の大きさを物語っている。 予選は四人一組のブロックを作り、ブロックの中で総当たり戦を行う。 勝ち星のもっとも多いトレーナーがブロックの代表ということで、本選に勝ち進めるんだ。 今年のホウエンリーグの出場者は128人。 ちょうど32ブロックで、十面のコートでそれぞれのブロックのバトルが随時行われている。 総当り戦と言っても、トレーナーは一日に一度しかバトルを行わない。 ポケモンがベストコンディションを得られるよう、休息の時間を置くためだということになってるんだ。 どちらにしろ、総当たり戦である以上は、今日を含めた三日間が予選期間。 遅くとも三日後には本選が始まる。 今日、明日、明後日…… 三日で三回のバトルを勝ち抜けば、本選にコマを進めることができるんだ。 気になるバトルの形式だけど、予選は二体のポケモンを使ったシングルバトル、本選は四体のポケモンを使ったダブルバトルだ。 さらに言えば、決勝は六対六のフルバトル。もちろん形式はダブルバトルだ。 手持ちのポケモンを総動員して、持てる限りの戦略を出し尽くして戦う。 オレは決勝に勝ち残ることを想定し、フルバトルの長丁場を戦えるよう、オーダーを組んだ。 まあ、そこまで先のことを、今考えている必要はない。 目先のことだけど、予選を勝ち抜かなきゃ、本選には進めないんだから。 「……やっぱり、みんな真剣だね」 「そりゃ、空いてる時間は他のヤツのバトル見てていいんだからな…… いずれ戦うかもしれない相手だから、誰だって真剣になるさ」 アカツキの言葉に促されるように、オレは右のバトルコートを見やった。 すでに戦いは始まっていた。 それぞれのトレーナーの指示を受けたポケモンが、激しく戦っている。 観客に混じって、出場者の姿が見受けられた。 というのも、バトルの時間以外は、出場者はどこにいてもいい…… とりわけ、他の出場者のバトルを見ても構わないというルールになっているからだ。 いずれ戦うかもしれない相手のポケモンと戦術を知っておくことが勝利への近道なんだ。 もちろん、同じブロックの別の出場者のバトルを観るのが一番だけどな。 オレはJブロックで、アカツキはKブロック。 ブロックでは隣に当たるけど、本選はコンピューターが無作為に出場者を選んで対戦が行われるから、 いきなり本選の一回戦でぶつかる可能性は低い。 スタジアムの真西にあるバトルコート――ちょうど斜め右に見えてきたコートで、オレは三日間、予選を戦うんだ。 出場者に配られたプログラムによると、オレのバトルは二戦目……明日以降戦うことになる相手のポケモンをよく観ておくに限る。 ということで、 「んじゃ、オレもそろそろ行くぜ。決勝で会おうな!!」 「うん、がんばって!!」 オレはアカツキと別れ、コートに急いだ。 ぐるりと囲む人垣を掻き分けて、コートに入る。 開会式が終わって十分と経っていないのに、すでにバトルは行われていた。 パッと見た感じだと、どっちが優勢とも言えない。 正直、どっちが勝とうがそんなことは関係ない。 なんでって、戦う時はオレが勝つんだから。 予選で三戦全勝を飾れば、問答無用で本選進出が決定する。 二勝だと結構きわどいことになりそうだけど、要は全部勝てば問題ないんだ。 今フィールドでバトルをしているのは、片方は大人の男性、もう片方はオレと同年代の少女だ。 明日と明後日を戦うことになる相手……人相はどうでもいいや。 肝心なのはポケモンなんだから。 バトルコートの脇に高々と掲げられた電光掲示板によると、両方とも二体目のようだけど…… 相性的に見て、どっちが有利とも言えない。 相性が良くも悪くもないから、単純にガチンコ勝負で勝敗が決するだろう。 予選で重要なのは、本選のことまで考えて、できる限り切り札を温存しておくことなんだ。 他のブロックの出場者が本選で少しでも優位に立ち回るべく、すでにこのコートにも何人かやってきている。 たとえば、ラッシーの『マジカルリーフ&状態異常の粉』とか『日本晴れ&ソーラービーム』といったコンボは封印。 となると、予選はラッシー抜きで戦うことになるな…… 後々のことを考えると、エースであるラッシーは出さない方がいい。 どうしてもラッシーじゃなきゃ勝てない……って場合を除いては、出さないことにしよう。 未来の対戦相手のポケモンと、そのポケモンが使う技、トレーナーの戦術を見極めながらじっとバトルの行方を見つめる。 ――五分後、決着がついた。 「サーナイト、戦闘不能!! よって、勝者はリスキー選手です!!」 審判の旗は少女を指し示した。 と同時に、電光掲示板に少女の顔が大きく映し出され、その下に「CONGRATULATIONS!!」の文字。 「やったね、スターミー!!」 勝者である少女は回転しながら飛んでくるスターミーを受け止めると、声をあげて喜んだ。 一方で、負けた男性はガッカリするでもなく、肩を落として小さくため息を漏らすだけだった。 一回負けたくらいで本選進出が消えてなくなるわけじゃない。 明日、明後日の二戦を確実にモノにすれば、本選に進出することは十分可能だ。 もちろん、他の選手の勝敗にもよるんだけど…… とはいえ、さすがにリーグバッジを八つ集めて出場権を獲得しただけのことはある。 男性のサーナイトや少女のスターミーはよく育てられている。技も豊富で、キレも良い。 これはオレもウカウカしていられないな…… 「では、これよりフィールドの取替えを行いますので、次のバトルは五分後となります」 サーナイトとスターミーのバトルでいくつもの穴が穿たれたフィールドのまま、次のバトルを行うわけにはいかない。 公平を期すためにも、フィールドの状態を元通りにしなければならないんだ。 小さな地鳴りと共に、フィールドが地面の下に潜っていく。 フィールドを元通りに戻すというより、綺麗な状態の別のフィールドと入れ替えるんだ。 ほどなく、穴ぼこ一つない真新しいフィールドが競りあがってきた。 これで、次のバトルが行える…… さて、誰を出すか。 バトルが始まるまでの数分間で、オレは一番手に誰を出すか考えることにした。 予選、本選ともに、先攻後攻を決めるルーレットが回される。 先攻は、先にポケモンを出す代わりに、先手を取ることができるんだ。 単純に考えれば、相手のポケモンを見てから自分のポケモンを出せる後攻の方が有利。 できれば、後攻になるといいんだけどな…… 優勝するには八回のバトルを経験しなければならない。 毎回ルーレットで選ばれないとも限らない(ルーレットが指し示すのは、先攻のトレーナーだ)。 だから、先攻になった時のことも考えておかなければならない。 一番手に出すなら、弱点が少なくてタフなポケモンだ。 じゃんじゃん弱点を突かれて倒されては、それこそ本末転倒だからさ。 弱点が少ないといえば、やっぱりレキかリーベルあたりが有力か? レキは草タイプにすごく弱いけど、それ以外に弱点が存在しない。 リーベルは虫、格闘タイプの技に弱いけど、相手の攻撃力を下げる『威嚇』で、ダメージを軽減できる。 相手の戦力を見極めるためにも、一番手に出すのはこの二体が手堅いところだろうか…… 裏の裏まで読んだりすると、それこそキリがないんだけど、できるだけ相手の裏を掻けるようにしたい。 考えは止め処なく進んでいき、インターバルの五分はあっという間に経過した。 「これより、Jブロック予選第二戦……マサラタウンのアカツキ選手対ムロタウンのトキヤ選手のバトルを始めます!!」 朗々たる審判の声に、オレは慌ててスポットについた。 反対側のスポットには、落ち着き払った物腰の青年がすでにスタンバイしていた。 「何を慌ててるんだ……」 ……って言いたげな視線で、じっとオレのことを見ている。 冷静そうなヤツだな……サトシみたいにすぐにムキになって燃えて忘我するタイプだと、すごくやりやすいんだけど…… 実際、勢いで燃えて突っ走るヤツよりも、何があっても冷静なヤツほど戦いにくいんだ。 オレの考えてることと同じで、いかにペースを乱されないかを重要視してるから。 「先攻、後攻を決めるルーレットを回転いたします」 審判がやたらと丁寧な口調で言うと、オレと対戦相手を含む全員の視線が電光掲示板に向けられた。 左にオレの写真、右に相手の写真があり、真ん中にルーレットを模したと思われる絵。 針が速度を上げながら回転し、やがてゆっくりになっていく。 針が止まったのは…… 「先攻はアカツキ選手です」 「ちぇっ……」 無情なことに、ルーレットの針が指したのはオレの方。 まあ、一回はそうなるんだし、一度先攻を経験しとけば、次からは先攻になっても慌てずに済むだろう。 マイナス面をプラス思考で補い、オレは腰のモンスターボールに手を触れた。 「相手は冷静そうだ……こういうヤツを相手にする時は、搦め手から攻めるのがセオリーだな」 となると、出すべきポケモンは自然と決まってくる。 「よし、行くぜっ、リーベル!!」 オレはリーベルのモンスターボールをつかみ、フィールドに投げ入れた!! 乾いた土に着弾したボールは口を開き、中からリーベルが飛び出してくる!! 「ぐるるるぅっ!!」 やるぞ、と言わんばかりにリーベルが咆哮をあげると、コートを囲む人垣の空気が一変した。 興奮から一転して、恐怖すら滲ませている。 リーベルの迫力に気圧されたらしい。 しかし、当然相手――トキヤは驚きもしない。それどころか、眉も動かさない。 本気で肝が据わってるのか、単に冷めてる性格なのか……まあ、どっちにしても大差ない。 「グラエナか……では、このポケモンでお相手しよう」 抑揚のない声で言い、相手もボールをフィールドに投げ入れた。 ぽんっ!! 着弾と当時に口を開いたボールから飛び出してきたのは…… 「シャモっ!!」 鋭い鳴き声を上げて構えるワカシャモだ。 アカツキのワカシャモよりは穏やかな印象を受けるけど、全体的に尖った雰囲気をまとっているのは否めない。 そのせいか、アカツキのワカシャモほどうるさくはなさそうだ。 悪タイプのリーベルに対して、格闘タイプのワカシャモを出してきたのは、まあセオリーどおりだし、予想の範疇だ。 でも、ワカシャモは最終進化形じゃないから、進化形のバシャーモと比べると攻撃力は落ちる。 それにリーベルの『威嚇』で、攻撃力が低下するから、スカイアッパーや瓦割りといった技で攻撃されても、数発なら耐えられるはずだ。 リーベルがワカシャモの弱点を突くことはできないけれど、そこはオレの指示しだいでどうにでもなる。 先攻でアドバンテージを一つ得たんだ、方法しだいで相性をひっくり返すことも可能。 「それでは……バトルスタート!!」 審判が旗を振って宣言すると、バトルの火蓋が切って落とされる!! 先攻はオレだ。 拳法のような構えを見せるワカシャモを指差し、リーベルに指示を出す。 「リーベル、シャドーボール!!」 「がるるるぅ……!!」 リーベルは前脚を広げて踏ん張ると、口を大きく開いて、闇を凝縮したボールを吐き出した!! シャドーボールの威力はそこそこ高めだ。 ま、今回のは当たればラッキーのつもりで放った牽制球。 それはトキヤも承知しているらしく、慌てることなくワカシャモに指示を出した。 「ワカシャモ、火炎放射で迎え撃て」 一直線に突き進むシャドーボールを睨みつけながら、ワカシャモが口から炎を吐いた。 炎とシャドーボールがセンターライン上で激突し、轟音と共に弾け飛ぶ!! 威力は互角…… 本家のゴーストタイプでない以上、威力がある程度落ちてしまうのは否めないけど、相手の炎と互角なら十分だ。 ホントのことを言うと、もうちょっと威力が高ければ言うことなしだけど、こればっかりは今から努力してもどうにもならない。 さて、次はどう来る……? できるだけこっちから接近するのは避けたい。 炎で迎撃されるか、自慢の怪力を生かした格闘技で来るか…… どうせなら、向こうから近づかせて、優位な間合いを確保してからじわじわと攻めていけばいい。 ポケモンチェンジができない予選では、相性が不利なポケモンで戦い抜かなければならない。 結構シビアでハードだけど、リーベルなら十二分に勝算がある。 炎とシャドーボールの残照がフィールドから完全に消え失せた瞬間、トキヤの指示が飛んだ。 「電光石火から爆裂パンチをお見舞いしろ」 やはり、一気に距離を詰めて攻勢に出ようという魂胆か。 一秒間に十発のキックを放てる(?)という脚力を生かした電光石火で一気に距離を詰めてくるワカシャモ。 リーベルの『威嚇』で攻撃力が下がったとはいえ、爆裂パンチは威力の高い格闘技だ。 食らうとかなり痛いから、バカ正直に食らうわけにはいかない。 まあ、食らうにしてもワカシャモに手痛い一撃をお見舞いする。 「リーベル、慌てるなよ」 「ぐるぅ……」 ――分かってる。 オレの指示に、リーベルはワカシャモを睨みつけたまま小さく嘶いた。 ワカシャモは攻撃的なポケモンだ。 言い換えれば、攻撃のために激しく身体を動かす。 それは長所であると同時にネックでもある。 ワカシャモとリーベルの距離が五メートルに詰まった時、オレは指示を出した。 近すぎず、遠すぎず……この距離がベストだ。 「リーベル、影分身!!」 オレの指示に、リーベルが左右に分身を生み出し、瞬く間に十体以上になった。 「ん……?」 トキヤはそれを見ても眉をかすかに動かすだけで――実に反応に乏しいヤツだ――、微動だにしなかった。 しかし、ワカシャモにとっては眼前の光景が信じられないものであったらしく、 真正面のリーベルに繰り出した爆裂パンチもその鋭さを幾分か欠いているように見えた。 もちろん、一番手近なところで本体を置くはずがない。 爆裂パンチを食らったリーベルの分身は音もなく掻き消え、動揺しているワカシャモを分身たちがぐるりと取り囲んだ。 「シャモ、シャモ……?」 どれがホンモノなの……? 必死に見極めようと忙しなく周囲を見渡しながら、助けを求めるように小さく声を上げる。 でも、ホンモノを見極める術は、ワカシャモにはない。 少なくとも、影分身を無効にできる『嗅ぎ分ける』や『見破る』をワカシャモが使えないことはすでに調査済み。 確率で攻撃をヒットさせるにしても分が悪いのは分かるだろう。 ワカシャモが混乱している今のうちに、攻撃させてもらおう。 「リーベル、毒々の牙!!」 ばっ!! ぐるりと取り囲んだリーベルと分身たちが一斉にワカシャモに飛びかかる!! さあ、どう来る……!? リーベルが口を大きく開き、遅効性の毒がにじんだ牙をワカシャモの腕に突きたてた!! 「シャモっ!?」 牙を突きたてられた痛みに、ワカシャモが飛び上がる。 同時に、牙を突きたてているリーベルも分身共々飛び上がる。 「切り裂け!!」 「シャモっ!!」 その時だった。 トキヤの指示にワカシャモが痛みを堪えつつ、鋭い爪を振りかざす!! がすっ!! あんまり聞きたくない音がして、リーベルの分身が一斉に掻き消えた。 ホンモノに当たったか……!! 確率的には十パーセントがせいぜいってところだけど……まあ、ゼロじゃない以上、カンを頼りに攻撃したとしても当たる可能性はある。 でも、いくら確率的に低くても、それを可能性と割り切ってしまうのは愚かしいことでしかない。 大方、牙を突きたてているなら手の届く範囲にリーベルがいると踏んで、思い切って攻撃を仕掛けたってところか…… なるほど、肉を斬らせて骨を断つっていう戦法か。 悪くない……悪くないやり方だ。 あっという間に影分身の効果を打ち消し、かつリーベルにもダメージを与える。 さすがに八つのリーグバッジを集めてきただけのことはある。そう簡単に勝たせてはもらえない。 リーベルは切り裂く攻撃を受けながらも、軽やかに着地し、真紅の双眸でワカシャモを睨みつけている。 ダメージはそれほど受けちゃいない。 対するワカシャモは、リーベルが牙を突きたてた部分が薄紫に変色している。 リーベルの『毒々の牙』は徐々に体力を奪う毒を相手に与えるんだ。 動けば動くほど毒の回りが速くなり、結果的に自らの首を絞めることになる。 かといって何もしなければ、時間の経過と共にワカシャモの体力は奪われていくだろう。 結局のところ、短期決戦でどうにかするしかないのさ。 さあ、どうする!? 毒を食らったことは分かってるんだろうけど、トキヤの眼光は相変わらず冷静さを湛えていた。 ここまで無反応だと、本当に分かってるのか疑いたくなる。 「なかなか面白いことをしてくれるじゃないか」 疑い出した矢先、トキヤが口元に冷笑など浮かべながらつぶやいた。 「では、これはどうかな? ワカシャモ、スカイアッパー!!」 ワカシャモが動いた。 腰を低く構えたまま走るのは身体的な負担が大きいけど、スカイアッパーの威力を引き上げる方法としてはこれ以上ない。 でも、そうと分かってみすみす食らうはずがない。 「リーベル、シャドーボール!!」 リーベルがシャドーボールを発射するものの、ワカシャモが受けてくれるはずもない。 さっと横に動いて、何事もなかったように走ってくる。 一気に距離が詰まり―― ここで二撃目を放つ。 「アイアンテール!!」 リーベルが身を翻し、鋼鉄の硬度を得たシッポが横殴りにワカシャモに襲いかかる!! だけど、さすがはワカシャモ。 リーベルに対するスカイアッパーをアイアンテールの迎撃に切り替える!! ごぉんっ!! 天を突くような音がして、両者の一撃が激突する!! 威力はまたしても互角。 体力を奪われていくワカシャモに時間は残されていない。ここで次の攻撃を繰り出すのは目に見えている。 来るとしたら…… 「オーバーヒート!!」 「穴を掘って逃げろ!!」 オーバーヒートで来たか……!! せいぜい火炎放射で止まると思ってたけど、まさか最大威力の攻撃で来るとは思わなかった。 まだ『猛火』が発動できるはずがないから、この一撃で確実に決めるつもりで打って出てきたんだろう。 どちらにしろ、炎技で来るのは読めていた。 ここはオレの読み勝ちだ。 リーベルはアイアンテールを地面に叩きつけて穴を掘ると、ワカシャモの口から全力投球の火炎を吐き出す直前に姿を消した!! 頭上を火炎が通り過ぎる!! 「避けられたか……」 トキヤは残念がる風もなく、簡単に言ってのけた。 オーバーヒートは放つと一定時間は炎の威力がかなり落ちてしまうというリスクを負う。 でも、ワカシャモには格闘技があるから、炎の威力を取り戻すまでの時間を補うことができるだろう。 でも、そうは問屋が卸さない。 「攻撃!!」 さっさと決めたいのはオレも同じなんでね。 オレの指示に、リーベルが地面の下からワカシャモに急襲をかけた!! 真下からの突然の攻撃に対処しきれず、ワカシャモが高々と宙に投げ出される!! このまま逃がしたりはしないぜ。 「破壊光線!!」 リーベルが狙いを定め、破壊光線を発射!! 空中で体勢を立て直せないワカシャモに避わす術はない!! ここで『守る』を使ったところで無意味な時間稼ぎにしかならないことは、冷静なトキヤなら重々承知しているはずだ。 迎え撃つにしても、オーバーヒートで威力の落ちた炎では到底役不足。 火炎放射で我慢しとけば、ここでオーバーヒートを放って破壊光線の威力を削ることができたはずだ。 短期決戦だからと惜しみなくオーバーヒートを使ってきたことが仇になったな。 トキヤは無駄だと分かるとさっさとあきらめてしまう性分らしく、特に指示は出さなかった。 リーベルの破壊光線がワカシャモに突き刺さる!! 大音響と共に地面に叩きつけられ、ぐったりとするワカシャモ。 毒によって体力を奪われて、身動きひとつ取れなくなってしまったようだ。 すかさず審判が旗を振り上げ、告げる。 「ワカシャモ、戦闘不能!!」 これでアドバンテージを得ることができた。 もっとも、次のポケモンでリーベルに対して有利なポケモンを―― あるいは有利となる技を持つポケモンを出してくるであろうことは想像に難くない。 「戻れ、ワカシャモ」 トキヤは潔くワカシャモをモンスターボールに戻すと、そのボールにキスをした。 よく頑張ってくれたという労いのつもりなんだろうけど……いくらなんでもキスはないだろ、キスは。 何があっても驚きませんと公言してるような態度取っときながら、キスっていうのはいくらなんでもロマンチストに過ぎる。 まあ、どうでもいいことなんだけど、だからこそ余計に気になる。 こういうクセ、どうにかならないものだろうか…… なんて思っている間に、トキヤはモンスターボールを持ち替えた。 「子供と思って侮ったわけじゃないが……負けるわけにいかないのはこちらも同じこと。 このポケモン、君に倒せるか……? 行け、ミロカロス!!」 ミロカロス……!! どんな隠し玉を持ってるかと思ったら、よもやミロカロスとは…… ルネジムのジムリーダー・アダンさんのミロカロスにこっぴどくやられた光景が脳裏を過ぎり、 オレは苦虫を噛み潰したような表情にならざるを得なかった。 トキヤが頭上に投げ放ったモンスターボールが口を開き、中からミロカロスが飛び出してきた!! 蛇のような身体は、陸上でも十分に活動できるんだろう。 そうでなきゃ、出してきたりはしない。 「バトルを再開します。バトルスタート!!」 準備が整ったと判断した審判がバトルの再開を宣言すると、すかさずトキヤがリーベルを指差した。 バトルの途中では、次のポケモンを出したトレーナーが先手を取れるルールになっている。 どっちにしろ、リーベルは破壊光線の反動で身動きの取れないんだ。先手を取れたところでどうしようもない。 それに…… むしろ、相手の手を見て、耐えてから反撃することもできるはずだ。 ミロカロスは見た目とは裏腹にタフで、弱点である草、電気タイプの攻撃に耐えてから繰り出されるミラーコートで、 相手に壊滅的なダメージを与える戦い方や、持ち前の体力を生かした持久戦を得意としている。 ルネジムのジムリーダー・アダンさんが繰り出してきたミロカロスはラッシーのソーラービームに耐えて、 ミラーコートで反撃に打って出たんだけど、ミラーコートを食らったラッシーが戦闘不能になってしまったんだ。 恐らく、このミロカロスもミラーコートを覚えているだろうけど……一度見た以上、同じミスは二度と繰り返さない。 もっとも、それ以前にリーベルはミラーコートで倍返しされる技を使えないんだから、心配する必要すらないんだけど。 なんてミロカロスについて考えていると、トキヤが先手を取ってきた。 「ミロカロス、ハイドロポンプ」 いきなりハイドロポンプですか。 ミロカロスは自身の呼び名でもある慈しみの視線をリーベルに固定して、口を大きく開くと、 高速で飛んでいく水の弾丸を発射した!! 何気にやることは過激で大胆だな……でも、リーベルは動けないんだから、避わされる心配もない。 この一撃を食らっても戦闘不能にはならないだろうけど……それに近い状態になるかもしれない。 ミラーコートを使えないくらいのダメージを与えておきたいんだけど、さすがにそう都合よくは行かないかもしれない。 それでも、やれるだけやってみるさ。 突き進む水の弾丸を睨みつけながらも、破壊光線の反動で動けないリーベル。 その身体に弾丸の先端がぶつかった瞬間、内に秘めた水圧が一気に解放されて、凄まじい水流が発生する!! リーベルは悲鳴を上げることもできないまま水流に弄ばれ、数メートルも流されてしまった。 大丈夫か……耐えられたか……? そろそろ破壊光線の反動が切れて、動けるようになる頃だけど……立てるなら頑張って立って欲しい。 無理なら、無理をせずゆっくり休んでて欲しい。 矛盾した想いを抱えながら、オレはじっと待った。 リーベルはびしょ濡れになった身体を引きずって立ち上がろうとしているけど、どうにも足下は覚束ない。 ここまで来ると根性で気合込めて立ち上がったようなものだ。 「ハイドロポンプに耐えるとは、なかなかよく育てられている。 では、吹雪で終わらせよう」 トキヤがパチンと指を鳴らすと、ミロカロスが大きく息を吸い込んだ。 吹雪か…… フィールドの広範囲を攻撃できる大技だけど、その分威力は拡散してしまう。 ただ、今のリーベルを倒すには絶好の技と言える。 攻撃最中で動けない時間を狙って、シャドーボールで一矢報いるべきだろうか…… 下手に接近したら、吹雪をまともに食らって確実に戦闘不能になる。 かといってこれ以上離れたら、シャドーボールを避けられる可能性もある。 次のポケモンに有利に引き継げるよう、少しでも多くのダメージを与えておくべきだと、オレは瞬時に判断した。 「リーベル、シャドーボール!!」 オレの指示に応えてリーベルがシャドーボールを放つとほぼ同時に、ミロカロスが吹雪を吐き出した!! フィールドを縦横無尽に吹き抜ける吹雪がリーベルを直撃するけど、シャドーボールもミロカロスにクリーンヒット!! 単純に受けたダメージを比較するなら、ミロカロスの方がよほど大きい。 だけど…… 「…………」 リーベルが倒れた。 戦闘不能寸前のところで吹雪を受けて、さすがに立っていられなくなったんだ。 すかさず審判がリーベルの表情を横から覗き込み、旗を振り上げ宣言する。 「グラエナ、戦闘不能!!」 これで、数の上ではイーブンだ。 もちろん、オレの有利に変わりはないんだけど。 「リーベル、戻れ!!」 オレは力尽きたリーベルをモンスターボールに戻し、労いの言葉をかけた。 リーベルの奮闘は、確実にオレたちを勝利に近づけているんだ。 問題は……オレは体勢を立て直したミロカロスを見やり、思った。 問題があるとしたら、ミロカロスの体力が推し量れないといったところだ。 ルネジムでのジム戦の後で分かったんだけど、ミロカロスはただでさえタフなのに、自己再生で体力を回復させることができるんだ。 それって、結構どころかすごくむかついたりする。 だって、ミラーコートを発動させるために相手の技を受け、ミラーコートを発動させた後に自己再生を使えば、 結果論で言えばダメージをほとんど受けない状態で相手に壊滅的なダメージを与えたことになる。 それに、ミラーコートが発動できないであろうダメージを与えたとしても、トドメを刺す前に自己再生で回復して、 それまでの頑張りが一瞬で水泡に帰す……とまあ、意外とミロカロスは相手にすると嫌なポケモンだったりする。 それでも、戦わないわけにはいかない。 アカツキのミロカロスは恐らく目の前のミロカロスよりも強いだろうし、同等以上の戦いはやってのけるだろうから。 あいつにだって負けるつもりはない。 だから、ここでこのミロカロスを倒さなければ、あいつと戦うことさえできないんだ。戦えなければ、勝ちも負けもない。 結果論以前に、プロセスの問題だからさ。 だから、頑張らなきゃ。 ミロカロス対策は一応してある。 ……っていうか、頭の中に作戦が閃いている。 少なくともアカツキやサトシに勝てる程度には作戦を立ててあるんだ。 それを使えば、ミロカロスを倒すことはできるはずなんだ。 ルネジムでは不覚を取ったけれど、二度も同じミスでつまずいたりはしない。 「出番だぜ、ラッシー」 オレはラッシーのボールをつかんで、つぶやきかけた。 タフなミロカロスを確実に倒すには、弱点を突くしかない。ミラーコートの反撃を恐れていては、先に進めない。 要は、使わせなきゃいいんだから。 「行くぜっ、ラッシー!!」 オレは腕を振りかぶり、モンスターボールをフィールドに投げ入れた!! ボールは一番高い位置で口を開き、中からラッシーが飛び出してきた!! 「バーナーっ……!!」 フィールドに現れるなり、ラッシーは周囲に轟く咆哮を上げた。 王者としての威圧感、存在感を感じさせる声音に、コートが一瞬静まり返った。 フィールドの外でバトルを観ていた人たちに静寂が降りかかる。 ラッシーの放つ雰囲気に気圧され飲み込まれたかのようだ。 でも、すぐにザワザワしだした。 ギャラリーを背に、トキヤはしかし慌てた様子も見せない。 弱点を突けるポケモンを出してくることは想定の範囲内だと言わんばかりだけど、実際にそうなんだろう。 ミロカロスを育ててるトレーナーの考えそうなことは分かってる。 持ち前のタフさを生かしてミラーコートによる反撃を狙いつつ、ハイドロポンプや吹雪といった技でチクチク攻める。 同時にミラーコートをちらつかせ、相手が迂闊に弱点を突けないように心理面で圧力をかける。 確かにそれは戦い方として悪くないものだろうし、オレがミロカロスを使うなら、圧力をかけながら攻撃していくだろう。 だから、ミロカロスの対処策ももちろん心得ているのさ。 「バトルを再開します、スタート!!」 双方準備が整い、中断していたバトルが動き出す。 先手はこっちが握ってるんだ、一気に決めてやる!! 「ラッシー、日本晴れ!!」 まずは必殺のソーラービームを楽に放てる下地を作ることからだ。 ラッシーが空を仰ぐと、降り注ぐ陽射しが強まり、フィールドにムンムンとした熱気が漂い始める。 これでソーラービームをチャージなしで放てるんだけど…… 「先手、確かに譲ったぞ。 ――吹雪だ」 トキヤがミロカロスに指示を下した。 やっぱり、こっちの弱点を突いて吹雪を使ってきたか。でも、それならオレも十分に想定している。 日本晴れで威力が落ちたハイドロポンプを使ってくるはずがないし、ラッシーを倒そうとするなら、 弱点の氷タイプの技で勝負を仕掛けてくるだろう。 フィールドに拡散されて威力が落ちた吹雪なら、食らったところで大したダメージにはならない。 ここは食らうことを承知で、確実にミロカロスを倒すことを選ぼう。 「ろぉぉぉぉぉ……」 ミロカロスが身体を震わせ、甲高い声をあげながら吹雪を吐き出した!! ひゅぅぅぅっ…… 風を切る音と共に、大粒の雪が零下の強風に乗ってフィールドを駆け巡る!! ――ラッシー、寒いかもしれないけど、気張ってくれよ。 オレはグッと拳を握りしめた。 「ラッシー、蔓の鞭でミロカロスを捕縛えろ!!」 「バーナーっ……!!」 力強い声を振り絞るようにして、ラッシーが背中から蔓の鞭を生み出した!! さあ、どう来る……!? 蔓の鞭は草タイプの技。ミロカロスにとっては弱点のタイプだ。 吹雪を突き抜けながらミロカロスに肉薄する蔓の鞭に冷静な眼差しを向け、トキヤが指示を下す。 「ミロカロス、吹雪を取りやめてミラーコート」 ……かかった!! 喜びを表面に出さないように努めるのに苦労したけど、内心じゃすごくほほ笑んでたぞ、オレは。 弱点の技を繰り出せば、確実にミラーコートを使ってくる。 少しでもラッシーにダメージを与えるには、ミラーコートが一番だ。 仮に一撃を食らったところで、自己再生で回復させればいい。 恐らく、トキヤはそれを狙っているはずなんだ。 逆にそれを利用してやればどうなるか……? ミロカロスは吹雪を取りやめて、ラッシーを正面からじっと見つめる。 攻撃を食らってからじゃないとミラーコートは発動しない。ミラーコートは発動すれば避わせない。 だったら…… 蔓の鞭が唸りを上げ、ミロカロスの口とシッポに巻きついた!! 「……なっ……!!」 これにはさすがにトキヤも驚きを隠せなかった。 驚愕に目を見開く。 かくいうミロカロスも、口とシッポに蔓の鞭を巻かれて動きを封じられ、慌てて身体を動かすけど、 がっしりと巻きついた蔓の鞭が離れるはずがない。 オレが狙ってたのはこの展開だったのさ。 蔓の鞭で『叩けば』ミロカロスにダメージを与えたことになり、ミラーコートが発動する。 でも、『巻きつければ』ダメージは与えずに済むからミラーコートが発動しない。 その上、動きを封じて冷凍ビームや吹雪を阻止することもできる。 これぞ一石二鳥っていうモンだ!! この状態じゃ攻撃を避わすことも、攻撃することもできない。 「振り解け、ミロカロス!!」 声を荒げるトキヤ。 ミロカロスは身体を激しく動かすけど、蔓の鞭はびくともしない。 当然だ。 単純なパワーなら、ラッシーがミロカロスに負ける道理がない。 「くっ、やられた……!!」 ミラーコートを過信するとこうなる。 反撃して相手に大ダメージを与えられる。 確かにそうだろう。 でも、その反撃自体を封じられれば、完全にゼロになる。 大体のトレーナーは、そこまで深くは考えてないんだ。 アカツキはどうなのか分からないけど……あいつなら考えててもおかしくないか。 ともあれ、今は身動きの取れないミロカロスを狙い撃ちしてやるのが先だ。 「ラッシー、成長!!」 普通のソーラービームじゃ一撃で倒しきれないかもしれない。 ソーラービームの衝撃力で蔓の鞭が離れてしまうのは間違いない。 一撃で倒しきれなかったら、ここぞとばかりにミラーコートで反撃してくるだろう。 ミロカロスの体力ギリギリのダメージを倍にして返されたら、いくらラッシーでも耐えられない。 だから、確実に一撃で倒す!! そのためにも、成長でソーラービームの威力を引き上げなければならない。 ラッシーの身体が淡く輝く。 光合成で身体機能を活発化させ、一時的に草タイプの技の威力を引き上げる。 一撃分なら、それだけで十分だ。 ピンチの時に発動する特性『新緑』でさらに威力を引き上げるべきなんだろうけど、さすがに狙ってそれを使うのは危険だ。 これから何をされるのか薄々察しているらしく、トキヤは焦りに焦っているように見えた。 トレーナーの焦りがミロカロスにも伝わって、いよいよ激しく身体を動かして蔓の鞭の呪縛から逃れようとする。 でも、そうはさせない。 「ラッシー、ソーラービーム!! 発射ぁっ!!」 オレは身動きの取れないミロカロスを指差し、ラッシーに指示を出した。 「バーナーっ!!」 待ってましたと言わんばかりに咆哮をあげ、ラッシーがソーラービームを発射!! 成長によって強化されたソーラービームはいつもよりも太く大きく、威力が跳ね上がっているのが一目で分かる。 「…………っ!!」 トキヤが声にならない声を上げる。 もしかしたらそれは悲鳴かもしれない。どちらにしても、その声を聞き取ることはなかったんだけど。 ソーラービームはミロカロスを直撃!! 衝撃力で蔓の鞭が口とシッポから外れてしまったけれど、確実にヒットした。 威力から見て、これに耐えられるとも思えない。 フィールドに何度も激しく叩きつけられ、ぐったりするミロカロス。 驚愕の表情を貼り付けたまま、ミロカロスに視線を落とすトキヤ。 さっきまでは何があっても驚きませんと宣言していたのに、この慌てようは一体なんなんだか。 まあ、どうでもいいけど。 ぐったりしたまま動かないミロカロスを横から見やる審判。 戦闘不能になったかどうか、確かめてるんだ。 「…………」 もし戦闘不能になってなかったらどうしよう……審判の何気ない――必ずやるはずの行動が、不安を掻き立てる。 どうなる……? 万が一にも、戦えなくなっているとは思うんだけど…… オレもミロカロスに注意を向ける。 耐えられたら終わりだ。 それはアダンさんのミロカロスで十分に味わったからな。 時間が流れ、雲も流れる。 十秒くらい経って、審判が旗を振り上げて宣言した。 「ミロカロス、戦闘不能!! よって、勝者はアカツキ選手です!!」 その言葉が聞きたかった!! 何をするでもなく空を見上げた視界の片隅に電光掲示板が映った。 オレとトキヤの顔写真だけだった掲示板に変化が訪れた。 オレの写真だけが大きく映し出され、「CONGRATUATIONS!!」の文字が躍る。 「ラッシー、よくやってくれた!!」 オレはラッシーに駆け寄った。 「バーナー……」 ラッシーはゆっくりと振り返ると、満足げな微笑みを浮かべてオレを出迎えてくれた。 元に戻した蔓の鞭をオレのほっぺたに当てて、喜びを表現している。 初戦を白星で飾れて、幸先のいいスタートを切れたと思ってくれてるのかもしれない。 でも、それはリーベルとラッシーの頑張りがあったからこそのスタートダッシュなんだ。 「……戻れ、ミロカロス」 トキヤはふっと息を吐き、穏やかな表情に戻った。 ミロカロスをモンスターボールに戻すと、くるりと背を向けてバトルコートを去っていった。 潔いというか、何と言うか…… オレはその様子を視界の隅に捉えていたけど、別に何も言わなかった。 いつの間にやら――たぶん、オレの勝利を宣言した辺りからだろう――、ギャラリーが盛り上がっている。 その盛り上がりに埋没するように、トキヤの姿が人垣に埋もれて見えなくなった。 あー、なんか切ないなあ…… 哀愁漂う背中にそんなことを思ったけど、審判に声をかけられた。 「アカツキ選手。 フィールドの取替えを行いますので、出ていただけますか」 「あ、はい。分かりました」 これから別のブロックの予選が行われるから、フィールドの取替えを行わなきゃいけないんだ。 「ラッシー、ポケモンセンターに戻ろうな。それまでゆっくり休んでてくれよ」 「バーナー……」 オレはラッシーをモンスターボールに戻して、ポケモンセンターに向けて歩き出した。 ギャラリーがどんな反応を見せるかなんて、オレの知ったことじゃない。 別に、誰かを満足させるためにバトルをしてるわけじゃない。 そういうのを生業にしてる人もいるらしいけど、オレはそういう類じゃないんだ。 オレ自身と、精一杯戦ってくれるみんなのためだ。それ以外の理由はない。 歓声を背に受けながら、オレは黙ったまま、ポケモンセンターへと戻った。 ポケモンセンターで待っていたのは、一足先に初戦を勝利で飾ったアカツキの笑顔だった。 オレの姿を見るなり一目散に駆け寄ってきて、 「アカツキ、どうだった? ……って、聞くまでもないよね、その顔を見たら」 オレは別に笑ってたり泣いてたりしてるわけじゃなかったけど、アカツキには分かったらしい。 「やっぱり、アカツキだったら負けるわけないって思ってたよ。良かったね」 「ああ、ありがとう」 オレが勝ったことを、自分のことのように喜んでいるアカツキを見て、思わずオレも表情を綻ばせた。 ポケモンセンターに戻ってくるまでにいろいろと考えることがあって、そのせいで表情がなかったのかもしれないと思った。 まあ、そんなことはどうでもいいとして…… 「おまえとこの舞台で決着つけたいって思ってるんだ。そう易々と負けるかよ」 「うん!!」 ミシロタウンでバトルした時は、途中でカリンさんが止めに入って、決着がつかなかった。 だから、その時の決着はホウエンリーグに持ち越すことになったんだ。 というよりも、アカツキがオレをホウエンリーグに導いてくれたのかもしれない。今になって思えば。 出てみないかと誘われて出るなんて、それこそらしくないことだけど、決着はいずれつけなくちゃいけないと思った。 それ相応の舞台に立つのは当然だし、最強のトレーナーになるためには避けて通れない戦いだと思ったからかもしれない。 あの時はたぶん別のことを考えてたんだと思うけど。 「それより、リーベルとラッシーを回復させたいんでさ、話はそれからにしようぜ」 「うん、ごめん、引き止めて」 アカツキは笑みを潜めて、小さく謝ってくれた。 別にそんなつもりで言ったわけじゃないんだけど…… 弁明するよりも先に、ポケモンを回復させるべきだ。その方がアカツキも気をよくしてくれるだろう。 そう判断して、オレはジョーイさんの待つカウンターに歩いていった。 数歩遅れてアカツキがついて来る。 「ジョーイさん。ポケモンの回復、お願いします」 「分かりました。お預かりいたします」 カウンターに置いたモンスターボールを丁寧な手つきで回復装置に移すジョーイさん。 いつもの笑顔だけど、実際はホウエンリーグが始まって、ポケモンの回復やら何やらで、てんてこ舞いのはずだ。 そんな時でも笑顔を絶やさずにいられるのだから、相当に肝が据わっているんだろう。 回復装置が唸りを上げる。 「じゃ、話の続きでもしようか」 「うん」 オレとアカツキはロビーの脇の長椅子に場所を移した。 このまま勝ち進んでいけば、いずれはアカツキと戦うことになる。 覚悟はできてるつもりだし、その時が来ても驚いたりはしないだろう。 だけど…… 「アカツキの相手ってどんなポケモンを使ってきたの?」 椅子に腰を下ろすなり、アカツキがいきなり質問を投げかけてきた。 身を乗り出して、食いつかんばかりに顔を近づけてくる。 それが単なる好奇心の為せるワザじゃないことが分かったから、オレは怒ったりしなかった。 これがナミだったら、ちょっとは怒るのかもしれないけど…… ライバルって不思議だって、つくづくそう思う。 八つのバッジをゲットして、ホウエンリーグが開催されるまでの五ヶ月弱。 オレは毎日、いずれ戦うことになるライバル達のことを考えてた。 もちろん年中考えてるわけじゃない。 特訓に打ち込んでいる時はそれ以外のことを頭の中から追い払うし、眠る時は何も考えないようにしてる。 ただ、毎日どこかで考えてた。 戦っている場面を頭の中に描いてたりもした。 それが今現実になろうとしている。 なんだかとってもうれしいんだ。 アカツキが戦った相手はどんなポケモンを使ってきたのか。それが気になる。 教える代わりに教えてもらう。一種の物々交換だけど、それもなんだか楽しい。 ライバルってマイナスになんてならない、絶対にプラスにしかならない存在なんだって思う。 「ワカシャモとミロカロス。 アカツキも持ってるポケモンだったけど、おまえとは戦い方がずいぶん違ったよ。 もちろん、おまえの方が強いって思う」 「へえ……ぼくと同じポケモンを使ってくるのって、珍しいよね。二体とも、なんて」 「ああ」 アカツキもワカシャモとミロカロスをパーティに入れているだろう。 でも、アカツキのワカシャモとミロカロスと比べれば、さっき戦った相手はハッキリ言って弱い。 確かに苦戦した。リーベルは倒された。 でも、アカツキのポケモンと比べれば弱いんだよ。 戦い終わった後だから、そうやって冷静に分析できるんだけど。 「ミロカロスのミラーコートを食らったらオシマイだったからな。一撃で倒すのにいろいろと考えたよ」 「そうだよね。ミラーコートって怖いもんね」 自分で使ってるからこそ、逆にその恐ろしさも身に沁みているのかもしれない。 「ラッシーにかかれば、それくらいは何とかなったけどな」 ミロカロスのミラーコート封じは完璧だ。 アカツキにだって通じる自信がある。 一撃で倒すこと。それがミラーコートを封じる最善の方法なんだ。 仮に倒しきれなかったとしても、ミラーコートはエスパータイプの技だから、どんな特殊攻撃もエスパータイプで返される。 悪タイプのポケモンをぶつけてやれば、弱点をいくら突こうがミラーコートを食らわない。 そういう方法もあるけど、それは特殊攻撃が使える悪タイプのポケモン…… ヘルガーとかアブソルとかといったポケモンでミロカロスと相対する場合に限る。 リーベルは物理攻撃が得意だから、そういうことはないんだろうけどね。 「そういうアカツキはどうだったんだ? オレほど危なっかしくはなかったんだろ?」 「うん……たぶんね」 かくいうアカツキはどうなのか。 アカツキのポケモンはよく育てられてる。だったら、オレほど苦戦しなかったはずだ。 ホウエンリーグの挑戦は二度目だし、どんなバトルなのかってことを熟知してるんだ。易々と負けるはずがない。 「ぼくの相手は、ライボルトとトドゼルガを使ってきたんだよ」 ライボルトとトドゼルガか…… ライボルトは能力的にサンダースと似ている。素早くて電撃が強力だけど、防御面はずいぶんと薄い。 対するトドゼルガは、動きこそ素早いとは言えないけれど、体力に優れ、氷タイプの技も強力だ。 組み合わせとしては一長一短のペアで、お互いの弱点を補うことができるんだろうけど、 その組み合わせが力を発揮するのはダブルバトルだ。 でも、ライボルトもトドゼルガも、シングルバトルでも十分な強さを発揮できるポケモンだ。 オレが言いたいのは、弱点を補い合うバトルがダブルバトルだということ。 もしもこの組み合わせが本選で登場したら、苦戦は免れないだろう。 「ライボルトはミロカロスのミラーコートで倒したよ。充電してからの雷だったから、結構危なかったんだけど……」 「ヲイ……」 何気なく言ったつもりなんだろうけど…… オレはアカツキの言葉に背筋が凍りつくような感触を覚えずにはいられなかった。 時期的に冬だからそれは当然だろうけど、あいにくと、ここは年中温暖な気候に包まれたホウエン地方だ。 「冗談だって思いたいけど、冗談じゃないんだろうな……」 ホントだよって言われるのが怖くて、オレはその言葉をごくりと飲み下した。 もしもホントに充電後の雷に耐えたのだとしたら、それはマジでシャレになってない。 アカツキのミロカロスなら、それくらいはやってのけるのかもしれないけど…… 充電は、次に放つ電気技の威力を倍化させるための技だ。 効果時間はそれほど長くなく、せいぜい十秒程度。 でも、素早いライボルトなら、十秒もあれば相手に接近して雷を放つことくらいは造作もないだろう。 特殊攻撃力の高いライボルトが、充電で威力を倍にした、電気タイプの技で最強の威力を誇る雷を放った。 弱点の攻撃を受けながらも、アカツキのミロカロスは耐えきった。 一体どんな体力してるんだって思わずにはいられないよ。 マジで全力投球の雷なんて受けたら、普通のミロカロスじゃまず耐えられない。 威力的に見れば、成長を使った後でラッシーが放つソーラービームと互角と言っていい。 だったら、ミラーコート封じも役に立たないんじゃないかと思ってしまうんだ。 ラッシーなら耐えられるだろうし、レキなら雷自体を一切受け付けない。 だけど他のみんななら絶対に耐えられないだろう。 もしもアカツキの相手がオレと戦ってたら、どうなってたか……勝てただろうけど、結構危ないかもしれない。 そんな相手に、アカツキは楽に勝ったのだと言う。 オレもそれなりに強くなれたと思う。 でも、もしかしたらアカツキはその上を行っているのかもしれない。 そう思うと、マジでうかうかしてられない。 ポケモンの回復が終わったら、すぐにでもサイユウシティの郊外でみんなと特訓をしたくなった。 一日で何ができるって思うけど、それでもやらないよりは遥かにマシなはずだ。 「……? どうしたの?」 オレがいろいろと考え込んで何も目に入らなくなってることに気付いてか、アカツキが斜め下から顔を覗きこんできた。 「……ん?」 そうされて初めて、はっと我に返った。 ヤバイ……いろいろとマジで考えてた。 「いや、考えてたことがあったんだ。やっぱりアカツキは強くなったんだって思ってな…… このままじゃマジでヤバイって思った」 「そんなオオゲサなことじゃないよ」 「いや、オレは結構マジだ」 アカツキが大仰な、と言わんばかりに手を振るけど、オレはマジでそう思ってたから、一歩も譲らなかった。 オレの雰囲気が伝わってか、アカツキはそれ以上何も言わなかった。 数秒して、その笑みが深くなった。 オレも自然と笑みを深めた。 やっぱり、何があっても負けられない、負けたくないと思って、知らず知らずのうちに闘志が噴火したように熱く燃え上がっていた。 二日後。 今日は予選の最終日。 オレは、一昨日、昨日と連勝を飾り、いよいよ本選進出を賭けたラストバトルの時を迎えた。 反対側のスポットについているのは、オレと同じく二勝した少女。 確か、名前はリスキーって言ったっけ。年頃はオレと同じくらいで、カスミに似て勝気な表情が印象的な少女だ。 あー、ホントにカスミを見てるみたいで驚くよ。 彼女は挑発的な視線をオレに向けて、不敵な笑みを浮かべている。 「誰が相手だって同じ。勝つのはあたしよ」 と言わんばかりだけど、オレはそのセリフを無言の笑みで返した。 相手が誰であろうと負ける気がしない。 だって、今のオレには戦いたい相手がいるんだ。 それはサトシであり、アカツキでもある。 あいつらと戦うまで、絶対に負けるわけにはいかないんだ。 ある意味崖っぷちみたいな感じで、でも追い込まれれば追い込まれるほど闘志は冴え渡り、その温度を上げていく。 センターラインの先に立つ審判が、オレとリスキーの表情を一頻り見た後で、背筋をピンと伸ばした。 「これよりJブロック最終戦、アカツキ選手対リスキー選手のバトルを始めます。 運命のルーレット、スタート!!」 全員の視線が、電光掲示板に突き刺さる。 回転を始めたルーレットが、徐々にスピードを落としていく。 先攻を指し示すルーレットの先端が向いていたのは…… 「リスキー選手の先攻です」 「あーあ、ついてないなぁ……」 審判の無情な宣告に、リスキーがガックリと肩を落とす。 でも、それは一瞬のことだった。すぐに顔を上げて、不敵な笑みを深めた。 先攻だろうが後攻だろうが絶対に勝つと確信しているからだ。 こういう相手って結構厄介だったりするんだよな…… 一昨日、昨日の戦いぶりを見る分に、予選で一番厳しい戦いになるであろうことは薄々察してた。 リスキーがモンスターボールをつかむ。 「行くよっ、ソーナンス!!」 フィールドに投げ入れたボールが口を開き、中から飛び出してきたのはソーナンスだ。 「ソーナンスっ!!」 名前そのまんまの鳴き声をあげて、その場でじっとするソーナンス。 鮮やかなブルーの細長い身体と、目のような模様がついた黒いシッポを地面に垂らしているのが印象的なポケモンだ。 がまんポケモンと呼ばれていて、一切の攻撃技を持たないという珍種でもある。 攻撃技を持たずにどうやってバトルをするのかと言うと、カウンターやミラーコートで相手の攻撃を返すことで戦うんだ。 使える技は限られているけれど、逆に言えばそれらをふんだんに駆使した戦いができるということ。 分かりきった戦法でも、油断はできない。 ソーナンスは並外れた体力の持ち主でもあるため、一度や二度の攻撃ならカウンターやミラーコートで確実に倍返ししてくる。 その上『神秘の守り』であらゆる状態異常をガードし、『道連れ』で自分が戦闘不能になると同時に相手も道連れにしようとする。 かなり厄介な相手でもあるんだけど、道連れに気をつけつつ、弱点であるゴースト、悪、虫タイプの技で攻めていけばいい。 相手の戦略に惑わされちゃダメだ。 オレはグッと拳を握りしめ、気を強く保った。 ソーナンスの反撃は確かに恐ろしいけど、弱点を突いていけば勝つのは簡単だ。 というわけで、オレの選んだのはリーベルだ。 「行けっ、リーベル!!」 オレは腕を振りかぶり、フィールドにモンスターボールを投げ入れた。 リスキーが何を考えているのかは知らないが、ここは確実に勝たせてもらう。 何らかの思惑はあるんだろう。 でも、そんなのに引っかかりはしないさ。 大丈夫。オレならできる。 フィールドに着弾したボールは口を開き、中からリーベルが飛び出してきた!! 「ぐるるるるぅっ……!!」 いつにも増して低く力強い唸り声を上げ、ソーナンスを威嚇する。 攻撃技を使えないソーナンスの攻撃力を下げたところで無意味なんだけど、それが特性なんだから仕方がない。 そうそう、特性と言えば、ソーナンスの特性は『影踏み』。 バトルに出た相手をモンスターボールに戻すことを許さないという、ずいぶんと強引な特性だったりする。 だから、一旦フィールドに出たリーベルは、戦闘不能にならない限り、 あるいはソーナンスを強制的にモンスターボールに引き戻さない限り、自身もモンスターボールに戻れなくなる。 確実に相手を道連れにするための特性じゃないかって勘繰っちゃうんだけど、あながち間違ってもいないだろう。 「あらあら、グラエナちゃんね……予想通り……」 リスキーが小さくつぶやくのが風に乗って耳に届いた。 わざとそんな言葉を口にして、オレを動揺させようとしているのがミエミエだ。 そんな浅い手に引っかかるほど落ちぶれちゃいない。 オレは毅然とした表情を保った。 道連れにしてくるつもりなのは明白だけど……予想通りってつぶやきが気になる。 やっぱり、それ以外にも何か考えてるってことか……? 「…………」 どっちにしても、油断はできないってことだ。 道連れとカウンターに注意しながら攻めていけばいい。 ソーナンスにタイミングを合わせられないように立ち回っていけば、勝つのは難しくない。 「グラエナ対ソーナンス。バトルスタート!!」 審判がバトルの開始を告げると、リスキーが先手を取った。 「ソーナンス、神秘の守り」 「ソーナンスっ!!」 ソーナンスはだらしなく垂れ下がった腕を頭上に翳してデタラメに振りかざす。 すると、薄い緑のベールがソーナンスの全身を包み込んだ。 神秘の守りで、相手からの状態異常攻撃を一切シャットアウトして、カウンターやミラーコート、 道連れといった攻撃をしやすくする……初手としては、まあそんなところだろう。 もちろんそれくらいは想定してある。 「リーベル、噛み砕く!!」 オレの指示に、リーベルがソーナンス目がけて力強く地を蹴った。 噛みつくとか噛み砕くといった技は、一見物理攻撃に思えるけど、実は悪タイプの技だ。 だから、特殊攻撃扱いになり、ミラーコートで返されてもリーベルにはダメージが一切及ばない。 下手にシャドーボールで弱点を突こうものなら、カウンターで倒される恐れがあるんだけど、当然そんなことをする理由はない。 どちらにしろ、ノーダメージでソーナンスを倒せば、残り一体がどんなポケモンで来ようが、確実に勝てる。 リスキーもそれなりに考えてはいるようだけど、オレを相手にソーナンスを一番手に出したのは失策だ。 リーベルはその場を動かないソーナンスに狙いを定めて、ジャンプ!! 大きく口を開くと、口の中にズラリ生え揃った鋭い牙が鈍く光った。 あれで噛みつかれたら、それだけで皮膚がズタズタになりそうなものなんだけど、 ポケモンってやっぱり人間とは比べ物にならないくらい丈夫で強い。 ちょっとした傷はできるだろうけど、それも回復装置にかければものの五分と経たない間に見えなくなって完治してしまうんだ。 まあ、それはともかく…… がぶっ!! そんな音がして、リーベルがソーナンスの頭に噛みついた!! 「ソーナンスっ!!」 噛みつかれているとは思えない呑気な表情で悲鳴を上げるソーナンス。 いや、本人は痛がってるんだと思うけど……顔と陽気すぎる声がそうと気付かせないところが何気にテクニシャンかも。 これでミラーコートを発動しても、リーベルにはダメージを与えられない。 あとは…… 「リーベル、離れろ」 連続で噛みついてもいいけど、それではリスキーに「道連れのタイミングは今だ」と教えるようなもの。 できるだけ不規則に、予測されない程度にやるしかない。 「なかなかの威力ね。でも、想定の範囲内……」 単なる強がりにしか思えないセリフだ。 でも、それだけじゃない。 オレは直感的に感じた。 直後―― 「アンコール」 「……っ!?」 やられた……!! リスキーの指示に、オレは胸中で舌打ちせざるを得なかった。 表面にも出てると、自分でも分かる。 彼女が満足げに口の端を吊り上げたのを見れば。 しかし…… ここでアンコールをするとは思わなかった。 いや、予測してしかるべきだったんだけど。 ソーナンスは手を叩くようなポーズを見せた。それだけで、この技は発動する。 アンコール……相手が最後に繰り出した技以外を一定時間封じてしまうんだ。 つまり、リーベルは一定時間、噛み砕く以外の攻撃ができなくなる。 タイミングを外し、なおかつ噛みつくや挑発などの技を織り交ぜながら、 可能な限り道連れにされないようにと考えていたんだけど…… タイミングを強引に一致させようとアンコールを使ってくるとは思わなかった。 オレが考えている以上に、リスキーは賢い。 ソーナンスを使って、相手のポケモンを確実に破滅させる……女にしとくのがもったいないくらいの度胸だ。 でも、噛み砕く以外が一定時間使えないのなら、その時間が過ぎるのをじっと待てばいいと思うんだけど、それも無理だ。 こういう大きな大会だと、戦闘の意志がないと見なされ、戦闘不能と同等の扱いを受けることがある。 あるいは、リスキーはそれを狙ってアンコールを出させたか……同じ手で二体目も戦闘不能扱いにして勝つつもりかもしれない。 さすがにそれはいくらなんでもムシが良すぎる。そう都合よくは行かない。 でも待てばそれだけで終わる。 こういう時は、ソーナンスの体力がまだまだ有り余ってることを利用して、可能な限り体力を減らしてやるのが一番か…… 「リーベル、攻撃だ!!」 ソーナンスなら、あと二発くらい食らっても大丈夫。 わざと体力を少なくしといて……なんてことまではしてないはずだ。 カウンターやミラーコートを使う前に倒れちゃ、それこそ本末転倒。 オレの指示に、リーベルが再びソーナンスに噛みつく!! 「もう一発!!」 口を開き、ソーナンスの頭を離してから、また噛みつく!! これで三発…… どうにもつかみ所のない表情をしてるから、本当にどれだけの体力が残っているのか、それを窺い知ることはできない。 ここからは慎重に攻めていかないと…… まるで、詰め将棋でもしているような気分だ。 リスキーの策にどっぷり嵌っちゃってるのは疑いようがないけど、そこから抜け出す術はすでに心得てある。 よもやそこまで予見しているとも思えないけれど。 リスキーは笑みを浮かべている。 予想通り……と言わんばかりだ。 確実に道連れにできるタイミングを虎視眈々と狙っている。 そこまでしようとするんだから、次のポケモンで、オレの二体目を確実に倒せるという確証がなければおかしい。 すでに、確証なら得ているのか。確信してるって感じだな。 「リーベル、アイアンテールで決めるぞ!!」 こういう時は、違う技を交えて、相手のペースを崩すのが一番だ。 リーベルは一旦ソーナンスから離れると、勢いをつけて跳躍し、 鋼鉄の硬度を得たシッポをソーナンスに叩きつけるべく身体を縦に回転させた!! その時、リスキーの目が妖しく輝いた――ように見えた。 「今よ、道連れ!!」 やっぱり、カウンターじゃなくて道連れを選んできた。 この一撃で確実にソーナンスが道連れになると確証しているから……!! ならば…… 「わざと外せ!!」 「なっ……!!」 リスキーが小さく悲鳴をあげるのと、リーベルが身体の向きを変えたのはほぼ同時だった。 無論、ここで当てれば確実に道連れにされてしまうだろう。 そうならないためにも、わざと外す必要があったんだ。 狙いを外して放ったアイアンテールは、ソーナンスのすぐ脇に叩きつけられ、地面に小さな穴を穿った。 道連れの効力はせいぜい五秒。 五秒が経過してから、次の道連れが発動するまでの間に、確実にソーナンスを倒す。 それが可能だ。 完全にタイミングを外されて、リスキーの顔に焦りの色が浮かぶ。 1、2、3…… 今だ!! 「アイアンテール!!」 「道連れ!!」 オレとリスキーが同時に叫ぶ。 イチかバチかの賭けってワケか……いいだろう。 リーベルが身を翻してアイアンテールを放つ!! 水平になぎ払うような一撃を受けて、ソーナンスが吹っ飛ぶ!! 刹那、その身体から紫とも黒とも見分けのつかないような色をしたオーラが立ち昇る!! 道連れが発動しただと……!? イチかバチかの賭けに成功するなんて、何気に運がいい。 いや、オレがついてなかっただけか。 どっちにしても、道連れが発動してしまった以上、リーベルが戦闘不能になるのは免れない。 ソーナンスが倒れると、立ち昇ったオーラがリーベルに乗り移り―― 「……!?」 何が起こったのかリーベル自身も分からなかったんだろう。 唖然とした顔で倒れると、そのまま動かなくなる。 相打ちか…… まんまとリスキーの思い描いたとおりに事が運んでしまった気がするけど…… 胸中で舌打ちしていると、審判が両手の旗を振り上げて告げた。 「グラエナ、ソーナンス共に戦闘不能!!」 その一言に、コートを取り囲んでいたギャラリーの間からざわめきが起こる。 いきなり相打ちになるとは、思わなかったんだろう。 仮にソーナンスのことを知っていたとしても、カウンターでリーベルを倒すと思っていたに違いない。 でも…… 正直、オレは驚いてる。 相手の罠にみすみす陥ってしまうとは思わなかったけど、格段に不利になったわけじゃないと理解できるから、 取り乱すようなことはしない。 道連れで『相手』を戦闘不能にした場合、次のポケモンを先に出すのはリスキーの方だ。 オレは、向こうのポケモンを見た上で、優位に立てるポケモンを選ぶことができる。 大丈夫。 今のままなら問題なくバトルを進められる。 リスキーの出すポケモンにもよるんだけど…… 「ソーナンス、戻ってちょうだい」 「リーベル、戻れ」 オレとリスキーはほぼ同時にポケモンをモンスターボールに戻した。 リーベルって一体目で出ることが多く、戦闘不能になる率が高いんだけど、こればかりはしょうがない。 その分、本選では出番を他のポケモンに譲るとしよう。 リスキーが今までに使ってきた中で、一昨日と昨日、両方で出てきたのがスターミーだ。 恐らくはスターミーが主砲で、次に出てくるのも…… 彼女がポケモンを出すのを待っていると、 「んじゃ、そういうワケで行くわよスターミー!!」 どういうワケかは分からないけど、やっぱりスターミーを出してきた。 フィールドに投げ入れられたボールの口が開いて、中からスターミーが飛び出してきた!! 「%#&※♂@!!」 電子音とも声とも区別のつかない声を上げるスターミー。 星型の身体を二つ重ね合わせた容姿で、真ん中には宝石と見紛うような核(コア)が明滅している。 リスキーの主砲……というだけあって、見た目からしてよく育てられている。 「どう、あたしのスターミーは!! チョ〜最高でしょ!?」 あはははは、と笑うリスキー。 それだけこのスターミーに自信があるってことらしい。 確かに、スターミーはどちらかといえば強いと言えるポケモンだ。 水とエスパータイプの持ち主で、自身のタイプ以外にも、さまざまなタイプの技を使いこなせるんだ。 10万ボルトや冷凍ビームといった多彩な攻撃技や、コスモパワーや保護色といった補助の技もある。 その上、素早いと来た。 たくさんのポケモンの弱点を突ける主砲なら、どんな場面でも活躍が見込めるだろう。 能力が高く、たくさんの技を使いこなすポケモンを相手に、弱点を突かれるようなことがあってはならない。 相性で言うならラッシーのソーラービームで叩き潰すのがセオリーだけど…… 素早い動きで冷凍ビームを連発されると、さすがのラッシーでも負けてしまうかもしれない。 できれば、切り札は本選の……しかもギリギリのタイミングまで温存しときたい。 弱点を突かれないポケモンという考えで行けば、対策の余地はある。 手持ちのポケモンはラッシー、リンリ、ルース、レキ、リーベル、ロータスだ。 弱点を突かれないのはレキとロータスだけ。 どちらかに絞るのが一番なんだけど…… 実力はどちらも同じくらい。 となると、パワーの面でやりやすいレキが妥当か。 オレはレキのボールを手に取った。 レキを選ぼうと考えているせいか、ボールの中から、レキが「あたしを出して」とせがんでるように思えてくる。 それなら、信じようか…… レキじゃスターミーの弱点を突けないけど、接近戦でなら確実に勝てる。 「レキ、君に決めた!!」 オレはそのままモンスターボールをフィールドに投げ入れた!! ここはレキに託そう。 ボールの口が開いて、レキが飛び出してきた!! 「マクロっ!!」 飛び出すなりスターミーを睨みつけ、声を張り上げる。 まだラグラージに……最終進化形にはなってないから、まだまだ成長途中。 だけど、地震やハイドロポンプといった大技を覚えて、戦力的にはかなり頼もしくなっている。 戦い方によっては、スターミーを倒すことができるし、オレならそれができるはずだ。 互いの準備が整ったところで、審判が口を開いた。 「ヌマクロー対スターミー。バトルスタート!!」 「スターミー、ハイドロポンプ!!」 先手はリスキー。 いきなり大技で仕掛けてきたか……小細工は無駄と悟って、強気に攻めることを選んだらしい。 スターミーが後ろ側の身体を激しく回転させると、核から水の弾丸が撃ち出された!! どうやって撃ち出してるのかが気になるところなんだけど、今はそれを解明してる場合じゃない。 レキ目がけてまっすぐに突き進んでくる水の弾丸。 まともに食らえばレキでもかなりのダメージを受けるだろう。 もちろん、まともに食らうつもりなんてこれっぽっちもないんだけど。 「マッドショット!!」 ハイドロポンプは、何かしらの物体に触れた時、蓄えられていた水圧が一気に解放されて、相手にダメージを与える技だ。 それなら、レキに届く前に物体に触れさせればいい。 レキが口を開いて、泥のボール――マッドショットを放つ!! マッドショットでハイドロポンプを消してから、スターミーに接近戦を挑む。 スターミーの主力は、ハイドロポンプや10万ボルトといった、接近戦よりも距離を置いた戦いで力を発揮する技ばかりだ。 接近戦でもある程度は食らうかもしれないけど、出す前につぶせばいい。 それに、接近戦ではレキの方が強い。 タイミングを計って、スターミー目がけて突進させる。 しかし、オレの思い描いたタイミングはやってこなかった。 「念力」 リスキーの指示が聴こえたかと思うと、レキ目がけて突き進んでいた水の弾丸が突如その動きを止めて、真上に引き寄せられた。 ……そう来たか!! レキのマッドショットが、水の弾丸のいた場所を虚しく通り過ぎ、スターミーの三メートル前に着弾して泥を撒き散らす。 念力で水の弾丸を自在に操って、予期せぬ方向からレキに直撃させようとしてるんだろう。 念力なら、スターミーにかかる負担も少なくて済む。 いっそサイコキネシスでレキ自身の動きを封じた方が、ハイドロポンプを確実に命中させられるんだろうけど、 それを使ってこないということは、サイコキネシスを覚えさせていないということか…… いや、そう思わせるための小細工かもしれない。 サイコキネシスを覚えさせているのなら、早々に接近しておかなければ…… どのような軌道で水の弾丸を操るのかは分からない。だからこそ、時間をかけられない。 「レキ、スターミーに向かって走れ!!」 一秒でも早ければ早い方がいい。 オレの指示に、レキがスターミーに向かって駆け出す!! 「ふふ、そう来ると思ったわ。スターミー、やるのよ!!」 リスキーが笑いながらスターミーに指示を出す。 スターミーが身体を少し動かしただけで、空中で制止していた水の弾丸が動き出した!! 明らかに操られているとしか思えない動きで、途中で半円を描いて、レキに背後から迫る!! 速度までは自在に操れないらしい――実際に放たれた時と同じスピードだった。 この分だと、ギリギリで間に合うか…… スターミーが念力を放棄しない限り、次の技を繰り出すことはできない。 万が一ハイドロポンプを食らっても、地面に抑えつけた状態で地震を放てばそれだけで大ダメージだ。 レキが必死の形相で走る。 背後から水の弾丸が迫っていることを、頭上のヒレで察しているんだ。 でも、レキと水の弾丸の距離は徐々に狭まっている!! こうなったら…… オレはグッと拳を握りしめた。 爪が皮膚に食い込んで痛いけど、これくらいは我慢する。 レキが水の弾丸に追いつかれる寸前、オレは叫んだ。 「ストップ!!」 レキが慌てて動きを止めたところに、その背中に水の弾丸が炸裂!! レキはそのまま前方に投げ出された形になったけど、すぐにオレが止まれと言った意味を察したらしく、すぐに体勢を立て直した!! 「……!?」 リスキーの表情に怪訝の色。 よし、出し抜いた……!! スターミーの眼前に迫ったところに水の弾丸をレキにぶつけることで、スターミーを通り過ぎさせようとしていたんだろう。 そこで念力を解除、無防備に背中を向けたレキにハイドロポンプか冷凍ビームで追い討ちをかけようとする…… 大方、そんなトコだろう。 でも、そうはさすがに問屋が卸さないぜ。 直前で立ち止まったことで、レキが水の弾丸に弾き飛ばされてスターミーに豪快にボディプレス!! 「そのまま地面に抑え付けるんだ!!」 予想外のアクシデントだけど、できる限りそれを利用させてもらう!! 「げ、何っ!?」 驚くリスキーを尻目に、レキはスターミーに覆いかぶさると、そのまま地面に押し倒して抑えつけた!! 「地震!!」 そのまま後ろ脚で強く地面を踏みつけると、フィールドを強烈な揺れが走り抜けた!! 震源地のすぐ傍で地面に抑えつけられているスターミーに与えるダメージはかなり大きいはずだ。 「そう上手く行くかしら!? スターミー、ハイドロポンプ!!」 どんっ!! スターミーが生み出した水の弾丸が至近距離からレキを捉え、炸裂!! 猛烈な水圧に吹っ飛ばされて、十メートル近く地面を擦った。 まさかあのタイミングでハイドロポンプを放ってくるとは……!! レキとの間で炸裂した水圧はレキのみならず、スターミーまで反対側に吹っ飛ばした。 バックファイアを覚悟で、確実にレキにダメージを与えようとしか思ってない。 肉を斬らせて骨を断つ……か。 無傷で勝とうなんて考えを捨てたってことだな。 こうなると厄介だ。 道連れまがいのやり方で攻めてくるぞ。 レキもスターミーも時を同じくして立ち上がったけど、レキはハイドロポンプを二発も受けて、かなりダメージを受けている。 スターミーも、地震とハイドロポンプのバックファイアで同じような状態。 顔には出してないけど、それくらいは手に取るように分かるんだ。 あと何発耐えられるか…… 考えたところで分かるわけもないし、今はスターミーを倒すのが先だ。 素早さで対抗するのは無理。 だったら…… 「レキ、穴を掘れ!!」 これは賭けだ。 オレの指示にレキは素早く反応し、穴を掘って地面に潜った。 少なくとも、これでサイコキネシスの対象にはならない。 念力は形のないものを、サイコキネシスは形のあるものをそれぞれ操ることができる。 でも、両方とも視界に入っていなければ効果を発揮しないんだ。 地面に潜ってしまえば、この二つの技のことは気にしなくても済む。 サイコキネシスを覚えているか、覚えていないか……? それすらも分からない現状では、覚えていると仮定してバトルを進めていくべきだ。 「それで勝ったつもりでいるわけじゃないわよね……」 そう言わんばかりの笑みを浮かべているリスキー。 穴を掘られて動揺するどころか、逆に余裕たっぷりの態度を見せている。 実際に攻撃されたところで、スターミーの素早い動きで避けられると確信しているんだろう。 それに、心理的な動揺を誘う手は通じない。 こうなるかもしれない……というシチュエーションは、ホウエンリーグが始まる前に想定してたんだ。 用意がいいというか、自分でそんなことを言うのもなんだけど、考えられるシチュエーションに対して手を用意してある。 たとえば、穴を掘っても相手が動揺しない場合。 「レキ、作戦Aで行くぜ!!」 「……?」 作戦A。 ありがちなネーミングだけど、下手に複雑な名前をつけると、レキが聞き間違えてしまうかもしれない。 でも、これで大丈夫だ。 レキの耳はとてもいい。 あとは十秒くらい待てば…… その十秒がとても長く感じられそうだ。 「いつまで逃げてるつもり? 正面きって攻撃するだけの度胸がないってことじゃない?」 リスキーが声を立てて笑う。 「作戦AだかBだか知らないけど、無駄よ、無駄。あたしのスターミーは世界一強いスターミーだからね」 正面きって戦う度胸がないから、穴を掘るだの、作戦Aだのという回りくどいことをしたんだ。 リスキーがオレを痛烈に批判する。 遠慮なんかしないで、皮肉のスパイスをたっぷりに塗した言葉だ。 でも、そんなものは何にもならない。 オレを嘲笑うつもりでいるようだけど、逆にオレの作戦の時間稼ぎをしてくれたことに気付いているのか、いないのか…… どっちでもいい。 時は満ちた。 「今だ、やれ!!」 オレの指示がフィールドに響いた直後、スターミーの足下が陥没した!! 「……なっ!?」 穴の下から突き上げるような攻撃を予想していたであろうリスキーが動揺する。 他人を笑うヒマがあるのなら、対策を考えるんだな。 スターミーはいきなりの陥没に驚いて対応できず、足下に生まれた泥たまりに落下した!! 「レキ、マッドショット!!」 続いて、スターミーが宙に投げ出される!! レキが真下からマッドショットを放って、スターミーを弾き飛ばしたんだ。 単純な穴を掘る攻撃なら、確実に避わされる。 だから、単純じゃなくしただけだ。 リスキーは明らかに慌てている。 さっきまでは余裕綽々だったのに。 バカにした相手から予期せぬ攻撃を受けたんだから、それは当たり前のことなんだけど…… でも、別に大したことをしたわけじゃない。 レキはスターミーの真下に空洞を作り出し、そこを泥たまりにしていただけだ。 あとは、下から力を加えてスターミーの足下を崩してやれば、スターミーは落下する。 短い距離だけど、相手の不意を突くにはむしろ距離が長くては意味がない。 短いからこそ、一瞬の隙を的確に突くことができるんだ。 スピードが自分より優れた相手に対して、レキができる最大限の攻撃なんだから。 でも、今の一撃でスターミーが戦闘不能になったとは思えない。 あと一発、デカイ一撃を食らわせれば、間違いないんだ。 「破壊光線!!」 オレの指示にレキは泥たまりから姿を現し、スターミーに破壊光線を発射した!! 「立て直して!!」 リスキーも必死だ。 ここで破壊光線を受ければ、確実に戦闘不能になる。 それは彼女も分かっているからだろう。 だが、スターミーは破壊光線を避けることができなかった。 どぉんっ!! 天を突くような音と共に、破壊光線がスターミーに炸裂!! 力なくフィールドに叩きつけられて、そのままぐったり動かなくなる。 核が明滅するけど、そのペースが徐々に落ちていって、次第には明滅すらしなくなる。 「スターミー、戦闘不能!!」 審判がオレの方の旗を振り上げる。 「よって、本選進出を勝ち取ったのはアカツキ選手です!!」 勝者が決まったことで、コートを囲むギャラリーの盛り上がりが最高潮になる。 拍手が、歓声が、 「よく頑張った」 そう誉めてくれているように感じられて、オレはとてもうれしかった。 「レキ、やったなっ!!」 「マクロっ!!」 レキは振り返ると、満面の笑みを浮かべて駆けてきた。 身体についた泥を振り払おうともせず、一目散に走ってきたものだから、オレは腕を広げて飛び込んできたレキを受け止めた。 勢いあまって押し倒されちゃったり、服に泥がへばりついたりしたけど、そんなことは気にしない。 「マクロっ!!」 「よくやったよ、レキ。君なら勝つって信じてたんだ」 レキはうれしそうな顔でじゃれ付いてきた。 本選進出という言葉の意味は分からなくても、何か大きなことを成し遂げたということは分かっているのかもしれない。 オレたちがじゃれ合っているのを尻目に、リスキーはため息混じりにスターミーをモンスターボールに戻すと、 こちらに向かって歩いてきた。 「やられたわ……完敗よ。キミたちの力、確かに見せてもらったわ」 「いや、こっちこそ、面白い戦いを見せてもらったよ」 オレはレキを抱えたまま立ち上がり、リスキーに言葉を返した。 バトルの時には見せなかった、柔らかくて優しい笑みを浮かべていた。 十人十色という言葉があるように、トレーナーの数だけの戦い方がある。 今回は、ソーナンスで相手を確実に破滅させるという戦い方を見せてもらった。 「本選、頑張ってね。 あたしを倒した相手だからって、負けて欲しいなんて思わない。 ううん、あたしを倒した相手だからこそ、頑張って欲しいと思うのよ。負けるんじゃないわよ」 「オッケー、任せとけ」 オレは親指を立てて、彼女の声援に応えた。 そんな風に思われちゃ、何がなんでも負けるわけにはいかない。 今まで倒してきたトレーナーの分まで、頑張ってかなきゃいけないんだから。 オレとリスキーはどちらともなく手を差し出して、固く握手を交わした。 ギャラリーの声援がさらに高まった。 オレはポケモンセンターに戻り、傷ついたリーベルとレキをジョーイさんに預け、ロビー脇の長椅子に深く腰を下ろした。 予選の最終戦ということで、思いのほかヒートアップして、その分疲れがどっと身体にのしかかってくるのを感じたよ。 だけど、その疲れを吹き飛ばすような喜びで、心は躍っている。 これで本選に進出できる。 さらに相手は強くなるけれど、その方が燃えてくるんだ。 予選の相手でも十分に強かったけど、それに輪をかけた相手が、優勝を目指すオレの前に立ち塞がるだろう。 アカツキだったりサトシだったりユウスケだったりと、みんな強敵ばかりだ。 でも、そういった連中に勝ってこそ、優勝の二文字の重みが理解できるし、さらに自分自身を高みに導くことができる。 また一歩、最強のトレーナーに近づけるんだ。 そう思うと、居ても立ってもいられないんだけど、今はリーベルとレキの回復を待つしかない。 そして、アカツキやサトシが本選進出の切符を手に凱旋してくるのを待つんだ。 火照った心を鎮めるのには、それが一番いい。 「……本当の戦いは、これからなんだ……」 窓の外――赤レンガの道を忙しなく行き交う人に目を向ける。 その中には、息を弾ませながらポケモンセンターに戻ってくるトレーナーもいる。 決勝進出を決めて舞い上がってるようだ。 でも、オレはそんな風にはならない。 うれしいことはうれしいけど、だからってそれで我を忘れては意味がない。 むしろ、本当の戦いはこれからなんだから。 意識だけは燃やしすぎちゃいけない。 予選は二対二のシングルバトル。 明日から行われる本選は、四対四のダブルバトルだ。 形式がまったく異なる。 確実に気持ちを切り替えられなければ、為す術もなく負けてしまうかもしれない。 そんな時に、自分を見失ってはいられないんだ。 ダブルバトル用の戦術はすでに用意してある。 みんなにはコンビネーションをバッチリ仕込んどいたし、あとは実戦でそれを試し、可能ならさらにレベルを高めていくことだけ。 いろいろと考えながら待っていると、ジョーイさんがやってきた。 「ポケモンの回復が終わりましたよ」 「ありがとうございます」 リーベルとレキのモンスターボールを受け取り、礼を言った。 ジョーイさんは笑みを深め、賛辞を贈ってくれた。 「本選進出を決めたそうですね。おめでとうございます。頑張ってくださいね」 「はい」 オレの返事に満足してか、ジョーイさんは小さく頷いてから、カウンターに戻っていった。 誰に言われなくても頑張るさ。 オレが戦うのはオレ自身と、オレを信じてついてきてくれているみんなのためだ。それ以外の誰のためでもない。 オレはリーベルとレキのモンスターボールをじっと見つめた。 今はゆっくり休んでいるだろう。 でも、明日になれば…… 今まで以上に厳しい戦いが待っている。 今はゆっくり休んでほしい。明日からの激戦に備えて。 「……あと、ポケモンの入れ替えもしとかないとな……」 オレの予選での戦いを見たトレーナーの中に、本選進出を決めたヤツも何人かはいるだろう。 特にアカツキやサトシ、ユウスケは確実に見ていたはずだ。 バトルに集中してて、あいつらがいたかどうかも分からなかったけど、確実にあの場にいたはずだ。 できれば、面の割れてるメンツで本選を戦うのは止めておきたい。 ラッシーやルースといった主力級のポケモンを外せないのは仕方がないけど、 他の四体はじいちゃんの研究所に預けているポケモンと入れ替える必要があるだろう。 さて、どうするか…… リーベルは相手の攻撃力を下げる『威嚇』と、エスパータイプを一切受けつけないという強みがあるし、 意表を突いた技で相手を撹乱させることができるから、外せない。 残り三体でどうオーダーを組むか……ってところだな。 ダブルバトルに参加する四体が互いの弱点を補い合うことができて、なおかつ誰と組んでも大丈夫なメンバーにしなければならない。 それが意外と面倒でややこしいんだけど、やらなきゃいけないんだから仕方がない。 ラッシーとルースがペアを組むのは決定だ。 日本晴れとソーラービームのコンボを生かすのに、炎タイプの技が主力のルースを加えておけば心強い。 炎の威力は上がるし、素早いルースなら相手を撹乱させつつ炎を浴びせることもできるだろう。 さらには、互いの弱点を補い合える。 攻守共に優れた、オレの主砲となるだろう。 できればその二体で勝ち抜いていきたいんだけど、さすがにそれは無理。 コンビネーションの隙を縫って攻めてくる相手がいるのは間違いない。 だとすると…… 明日からの激戦に備えていろいろと考えをめぐらせる。 時間が十分、二十分と瞬く間に過ぎていくけど、オレは全然気づきもしなかった。 物事を考えてると、時間はあっという間に過ぎていくものらしい。 「おーい、アカツキ〜!!」 オレを呼ぶ声に顔を上げると、サトシがニコニコ笑顔で手を振りながら走ってきた。 その様子を見る分に、サトシも本選進出を決めたんだろう。 「おまえも本選に進出するんだろ!?」 「ああ。これで大きな舞台でおまえと存分に戦えるってモンだ」 五ヶ月前に戦った時はラッシーが勝ったけど、今回はそう上手く行くか……? どこで戦うにしても、サトシが強敵になることに変わりはない。 相性だって根性でどうにかしちゃうようなヤツだ、侮っていては手痛いしっぺ返しを食らう。 「あの時は負けたけど、今回は勝つからな」 自信たっぷりの笑みを浮かべて、サトシが握り拳を突きつけてきた。 相手が誰だろうと必ず勝つっていう意気込みがあれば、相性なんてどうにでもなるってことなんだろう。 「ダブルバトル用のオーダーは組んであるのか?」 「もちろんさ」 「おまえにしちゃ用意がいいよな。マサラタウンにいた頃は、行き当たりバッタリだったのに」 「そ、それは言うなよ!!」 オレはオレなりに誉めたつもりだったんだけど、なぜかサトシは顔を真っ赤にした。 まあ、それも分かるんだけど…… なにぶん、熱く燃える性分なものだから、旅立つ前はずいぶんと場当たり的な行動でみんなにいろいろと迷惑をかけてきた。 学校の遠足の時もそう。 シゲルがちょいと皮肉っただけで食ってかかって大喧嘩。 オレはサトシが手当たり次第に放り投げた石の直撃を食らったんだっけ。 一週間しなきゃ消えないタンコブをこさえるハメになっちまったんだ。 あの時のこと、どうやら覚えてるらしい。 そうでもなきゃ、そんな顔は見せないだろう。 だけど、そこまで覚えてるってことは、これは後々までからかえるってことだろうな……ふふ、面白いネタを拾っちまったよ。 「ま、そんなことはどうでもいいんだけど……」 からかうのは後でいい。 今は、共に本選進出を決めたライバルとして接しよう。 「生半可なコンビネーションじゃ、確実にぶち破って勝つからな。覚悟しとけよ」 「アカツキの方こそ!!」 二人して挑発的な笑みを浮かべる。 自分でも分かるんだけど、目だけは本気で笑ってないんだ。 目からビーム……じゃなくて、見えない火花が飛び出して、両者の中間で激しい音を立ててビシビシぶつかり合っている。 サトシのポケモンで一番の強敵はピカチュウ。 自慢の電気タイプの技を無効にでき、アイアンテールのダメージを半減できるレキも外せないか……? あー、考えれば考えるほどみんな必要になってくる。 四体だけに絞り込むのはかなり難しいな…… どうしようかと思っていると、 「おーい、アカツキ〜、サトシ〜!!」 どっかで聞いたようなセリフに、オレとサトシの間に流れていた緊迫の空気が一気に掻き消える。 同時に振り向くと、満面の笑みを浮かべたアカツキが走ってくるところだった。 やっぱり、本選進出を決めた顔をしている。 アカツキがむざむざ予選で敗退するはずがない。 それは、色違いのリザードンと最強技の応酬をしたオレだからこそよく分かる。 これで三人揃って本選進出か……なかなか面白いことになってきた。 「お、アカツキ。おまえも本選進出!?」 「うん!! キミたちも同じなんでしょ? 良かった、予選で負けてたらどうしようって心配しちゃったんだから」 「ヲイ……」 いくらなんでもそれはヒドすぎ。 なんでオレらが予選で負けなきゃいけないんだ。戦いたいヤツがいるんだ、負けてられるか。 「でもまあ、三人揃って本選進出なんだ。今はそれ以上にいいことはない。素直に喜ぼうぜ」 「そうだな」 オレの言葉に、サトシは喜びを隠しきれない表情で頷いた。 今はこうして談笑してられるけど、明日からはそうもいかない。 言い方は悪いけど、いわば敵同士だ。 戦って勝たなきゃいけないライバルなんだ。 優勝を目指すなら、いずれ二人と戦って勝たなきゃいけない。 生半可なレベルじゃなくて、激戦以上の激戦、死力を尽くした総力戦になるだろう。 「確か、本選の一回戦だけは誰と戦うのか分からないんだったよな?」 「うん。ランダムで決められるんだって。二回戦からはトーナメントになってるから、すぐに分かるけど」 問題はそれだ。 戦う直前まで相手のことが分からない。 オレを除いた三十一人の中の誰かと戦うわけだけど…… いきなりアカツキやサトシ、まだ予選中のユウスケと戦うことになるかもしれない。 ないとは言い切れないから、そうなることも覚悟しとかなきゃいけないのが辛いな。 「誰が相手だって関係ないぜ」 サトシはグッと拳を握りしめた。 「戦って勝つ!! それがおまえらだって、変わりはしないさ!!」 「ああ、そうだな」 「負けないからね!!」 三人が三人、口の端に笑みを浮かべる。 お互いに勝つ自身があるってことだろう。 負けるつもりで出場しちゃ、予選を勝ち抜くことさえできない。 明日からの激戦に、オレは不安なんて全然抱かなかった。 相手が誰だって関係ない。 戦うからには勝つ。 勝って、活路を切り拓いて、そして優勝する。 それだけなんだから。 オレとサトシとアカツキと、三人の間に、見えない炎がメラメラと燃え上がっていくのを感じていると、 少し遅れてユウスケが本選に進出したとの報せが届いた。 To Be Continued…