リーグ編Vol.04 ライバルたちとの戦い <前編> カントーリーグの開会式が終わり、控え室に戻ってきたオレが最初に見たのは、意外な光景だった。 リーグに出ないはずのアカツキが、出場選手の一人と何やら親しげに話していたんだ。 「…………?」 疑問符を頭に浮かべながらも、オレはアカツキの傍まで歩いていった。 出場選手以外は立ち入り禁止の場所だけど、誰もアカツキを咎めるどころか、尊敬と憧れの眼差しさえ向けているように思える。 まあ、それも無理のないか。 なにせ、アカツキは今年のホウエンリーグの優勝者だ。 カントーリーグの出場選手の中には、ホウエンリーグをテレビで観ていた人も大勢いるようだ。 だから、アカツキのことを知ってるんだ。 それだったら、咎める理由なんてないだろ。 「……知り合いなのか?」 そう思いつつ、オレは手前で立ち止まった。 話の腰を折るようなマネはしたくなかったんだ。 だけど、一目見れば分かる。 アカツキとその人は、単なる知り合いっていうレベルの関係じゃない。 そうだな……たとえるなら、兄弟みたいな…… 確か、歳の離れた兄がいると言ってたか。 それでも、話している二人は似ていない。 親父さんの面影がうっすらと見え隠れしている程度で、本当に兄弟なのか分からない。 後で訊いてみようか……と思った時だった。 アカツキじゃない方がオレに気づいて顔を向けてきた。 釣られるように、アカツキも振り向く。 「あ、アカツキ」 「どうしたんだ、こんなトコで……出場選手以外は立ち入り禁止なんじゃ……」 アカツキはパッと表情を輝かせた。 さっと駆けてくると、オレの手をぎゅっと握って、 「ぼくの兄ちゃんなんだ!! 開会式で見かけたから、会いに来たんだよ!!」 「……マジ……?」 オレは思わず呻いていた。 似ても似つかないだろ…… アカツキよりも何歳か年上で――少なくとも三つは離れているだろう。 整った顔立ちは美少年と呼べなくもないけれど、どこか大人びて見える。 だから、アカツキとは似ても似つかなかったのかも。 アカツキはオレより年上だけど、むしろ年下のように思える部分がたぶんに多いんだ。 「だって、こうやって会って話するの、二年ぶりくらいなんだから」 「そっか……」 兄弟が二年ぶりに再会したんだから、そりゃ積もる話もあるだろう。 アカツキだったら、ここまで乗り込んできてもおかしくはないし…… 逆算すると、アカツキが初めてホウエンリーグに出たその年から、今まで顔も会わせてなかったから、 会いたいという気持ちが極限まで高まっても不思議じゃない。 「……君がアカツキ君?」 お兄さんが話しかけてきた。 柔和な笑顔は、どこかアカツキのお母さんに似ている。 やっぱり兄弟なんだって、漂う雰囲気から容易に想像できた。 ただ、顔つきはあんまり似てないけど。 「弟から聞いたよ。友達になってくれたんだってね。 辛いことがあったらしいけど、君が励ましてくれたから、乗り越えられたんだって、うれしそうに話してくれたんだ」 「はあ……」 初対面でも遠慮なしに話しかけてくるのも、アカツキにそっくりだ。 でも、アカツキもずいぶんといろいろな話をしたんだなあ…… オレはナミとゆっくり戻ってきたんだけど、それでも開会式が終わってから十分くらいしか経ってない。 ナミはトイレに行った。 今この場にいたら、もっと話がややこしくなるだろう。 こういう時だけは席を外してくれた方がありがたい。 「僕はハヅキ。よろしく」 お兄さん――ハヅキさんは手を差し出してきた。 大きくて暖かそうな手だ。 親父にも似た何かを感じて、オレは差し出された手を握った。 すると、ぎゅっと握り返してくれた。 とはいえ、ハヅキさんはカントーリーグの出場選手。 今はアカツキのお兄さんだけど、戦うことになれば敵同士。 いや、優勝を目指すのならいずれは戦うことになるだろう。 それに……オレはハヅキさんの顔を見たことがある。 ジョウトリーグで、サトシを下した相手だったからだ。 でも、そのことには触れなかった。 ハヅキさんの主砲はバシャーモ。アカツキの手持ちであるワカシャモの進化形だ。 その他にヘルガーやハガネールといった強力なポケモンを使い、サトシを下した。 あの時よりも強くなってるのは間違いないから、戦うことになれば、全力を出し尽くさないとあっという間に負けてしまうだろう。 出場選手の中には、オレがカントー地方を旅してた頃に出会ったライバルたちもいた。 ホウエン地方から来た、ハルカとミツルだ。 あいつらも油断ならない相手だし、前途多難って言葉が今のオレには似合いそうだった。 「君のバトルは見せてもらったよ。 このカントーリーグで戦えることを楽しみにしている」 「はい。オレも楽しみにしてます」 ハヅキさんはホウエンリーグの中継を見ていたそうだ。 アカツキが優勝した瞬間は、仲間と共に飛び上がらんばかりの勢いで喜んでいたとか。 この人は強い。 戦う前からでも分かる。 ジョウトリーグでサトシと戦ったところをテレビで観なかったとしても、直感的に分かるんだ。 トレーナーとしてのキャリアなら、圧倒的にハヅキさんの方が上。 でも、知識なら負けない。 この場の誰にも負けないという自信がある。 相手がキャリアで勝負を仕掛けてくるなら、オレは誰にも負けない知識で勝負してやるのさ。 もちろん、相手が誰でも負けるつもりなんてない。 相手が強ければ強いほど、やる気が湧いてくるんだ。 「さて……そろそろ始まるね。 僕は別のスタジアムでバトルがあるから、ここで失礼するよ。 君が勝ち残ってくれることを祈るよ。それじゃあ……」 「頑張ってくださいね」 ハヅキさんは笑顔で頷き、控え室を出て行った。 彼と入れ替わるようにナミが戻ってくる。 不思議そうにハヅキさんの背中を見やりながら小走りにやってくるナミ。 「ね、知り合い?」 「あ、まあな……」 オレは言葉を濁したけど、すぐにアカツキが「ぼくの兄ちゃんだよ」って言ったものだから、もう大変。 当分はナミのバカ騒ぎが止まなかった。 他の選手は迷惑そうにナミを見ていたけれど、あいつがそんなことを気にするはずもない。 落ち着いたのは、天井から吊り下げられたテレビの画面にオレと対戦相手の写真が映し出された時だった。 いよいよ、オレのカントーリーグが始まる!! オレはグッと拳を握りしめ、画面に表示されたスタジアムへと急いだ。 カントーリーグは、四つのスタジアムを使ってバトルが行われる。 一つのスタジアムでは時間がかかりすぎるため、一回戦から三回戦までは四つのスタジアムを使うんだ。 で、四回戦から決勝戦までは一番大きなグランドスタジアムで。 今回のカントーリーグの出場選手は百二十人。 シードが八人いるんだけど、オレとナミは選ばれなかった。 もちろん、ハヅキさんやミツル、ハルカも。 七回勝てば優勝できる。 そのどこで、オレはナミやハヅキさんと戦うんだろう。 そんなことを考えながらスタジアムへ走っていくと、すでに対戦相手が待ち構えていた。 スポットに立ち、フィールドを見渡す。 草が生い茂るフィールドは、背丈の低いポケモンならすっぽり隠れてしまうだろう。 でも、背丈の低いポケモンは進化前のポケモンが多くて、こういったバトルの舞台ではあんまり用いられていない。 だから、生い茂る草むらを利用して、相手に気づかれないように攻撃を繰り出すくらいの用途しかないんだろう。 ともあれ、役者は揃った。 審判が朗々と告げる。 「これより、カントーリーグ一回戦第三試合、マサラタウンのアカツキ選手対、ヤマブキシティのショウ選手のバトルを始めます」 相手はハヅキさんと同年代だった。 ただし、ハヅキさんと違ってどこか勝気で自信満々といった感じだ。 あからさまに侮蔑の視線をオレに向け、 「おまえなど俺には絶対勝てん」 なんて、顔で物語ってる。 あー、そういう風に、天狗になっちゃうヤツっているんだよな。 自分の実力を過信して、いずれ自滅するようなヤツって。 ここでオレが勝てば、こいつの鼻っ柱をへし折ることができるだろうか。 別にそんな趣味があるわけじゃないけど、勝利を確信した顔を露骨に向けられると、なんとなくそういうことをしたくなるんだ。 でもまあ、どんな性格の相手とはいえ、八つのバッジを集めてきた強者であることに変わりはない。 一回戦でも油断はできない。 ここで清々しく勝利し、弾みをつけるのが大切だ。 カントーリーグでは、シングルバトルが用いられる。 三体のポケモンでの勝ち抜き戦。 ただし、決勝は六体のポケモンを用いるフルバトル。 ホウエンリーグと比べると簡単なルールで、戦い方の幅も狭い分、やろうとしていることを相手に見破られる危険性も高い。 それは相手も同じことが言えるわけだけど、そこんとこは五十歩百歩だ。 「では、先攻はショウ選手でお願いいたします」 「了解〜」 そうそう。 カントーリーグとホウエンリーグの違いはもう一つある。 バトルでの先攻・後攻を決めるルーレットはなく、トレーナーとしてのキャリアの長い方が先攻となる。 もちろん、相手の方がキャリアは長い。 半ば自動的にオレの後攻が決まる。 相手に対して有利なポケモンが出せるから、序盤は有利に進められる。 その状態を維持しながら戦えば、勝つことができる。 さあ、どんなポケモンを出す……? ショウがモンスターボールをフィールドに投げ入れた。 草のフィールドに着弾したボールは口を開き、中からポケモンが飛び出してきた!! 「くぅぅぅぅっ……!!」 キュウコンだった。 陽光を受けて、鮮やかなライトイエローの毛並みが金色に輝いて見える。 九本のシッポを束ねたキツネのような外見で、九尾のキツネ……キュウコンと呼ばれるようになったという。 炎タイプのポケモンで、力強さには欠くものの、スピードと炎の威力はかなりのものだ。 悠然と佇むキュウコン。 だけど、ポケモンはトレーナーに似るという言葉があるように、トレーナーに似てる。 勝気で小馬鹿にしたような視線を向けてきていた。 あー、なんかカワイソウだな…… 戦う相手に同情しちゃうのは、そういう風に育ってしまったからだ。 キュウコンは元々誇り高い性格で、下手にシッポをつかむと千年は祟られると言われているほどなんだ。 それがこういう風にひねくれてるのを見ると、カワイソウだと思わずにいられないよ。 もちろん、そんなこと、口が裂けても言えないんだけど。 その代わりに、サクッと倒して先に進んでやるんだ。 「アカツキ選手、ポケモンを出してください」 「はい」 審判に促され、オレは腰のモンスターボールに手を触れた。 キュウコンのスピードに勝るポケモンを出そうか……それとも、弱点を突いて攻撃できるポケモンにしようか。 ちょっとだけ迷ったけれど、オレはスピードを選んだ。 「レイヴ、頼むぜ!!」 選んだのはレイヴ。 フィールドに投げ入れたボールからレイヴが飛び出し、激しい声を立ててキュウコンを威嚇する。 鋭い爪は陽光に反射して、ギラギラと輝く。 身体の割に大きいシッポが一気に逆立つ。 シッポが逆立つのは、やる気満々の証拠だ。 元々好戦的だし、相手が強ければ強いほど燃えるのが性分なんだ。 キュウコンの炎さえ食らわなければ、十分に勝てる。 互いの準備が整ったことを確認し、 「ザングース対キュウコン、バトルスタート!!」 審判がバトルの開始を告げる。 「キュウコン、妖しい光で混乱させちゃうのだ!!」 先攻はショウ。 やっぱ、いきなり炎を吐いてくるんじゃなく、搦め手から攻めてきた。 単純なパワーならレイヴの方が圧倒的に上だ。 スピードは互角に近いだろうけど、だからこそいきなり攻撃したところでしょうがない。 でも、それはオレも同じ。 キュウコンの瞳が妖しく輝く。 その瞬間を狙い、オレはレイヴに指示を出した。 「岩砕き!!」 「グゥゥゥスっ!!」 レイヴは大声で頷くと、鋭い爪を地面に振り下ろした!! ザクッ、という音がしたかと思うと、レイヴの爪を中心に土砂が噴き上がって、キュウコンとの間に土砂の壁を作り出した!! いわば土砂のカーテンで、レイヴはキュウコンの放った妖しい光を逃れることができた。 光という形で相手を混乱させるのなら、こちらはその光を遮って防御するだけ。 目をつぶっても完全に回避することはできないけど、光が届かないようにしてしまえば、防ぐことができるのさ。 「ぬうっ!! なかなかやるじゃないか!!」 初手が不発に終わったことに驚いているようで、ショウの声は驚愕の感情を含んでいた。 「ならば、火炎放射!!」 火炎放射なら確実に土砂の壁を突き破れるって算段か。 でも、いつまでも土砂の壁を作ってるワケじゃないさ。 「レイヴ、電光石火から切り裂く!!」 あくまでも、妖しい光を回避する手段として岩砕きを覚えさせただけで、レイヴの攻撃は接近戦でこそその威力を発揮する。 「グウゥッ!!」 レイヴは楽しそうに喉を鳴らすと、地面から爪を引き抜いた。 薄まりつつある砂の壁を自身の身体で突き破り、キュウコン目がけて駆け出した!! レイヴ――いや、ザングースというポケモンは、先祖代々ハブネークと宿敵同士で、互いが出会うと一触即発の空気が漂う。 毒をまぶしたシッポによる攻撃、ポイズンテールを得意とするハブネークと延々戦い続けてきただけあって、 ザングースの特性『免疫』は、あらゆる毒を防ぐことができる。 先祖代々の戦いの記憶が、細胞にまで刻み込まれてるのかもしれない。 だからこそ、レイヴはポケモンバトルになると率先して戦いたがるんだ。 それはともかく、レイヴの好戦的な性格が、思わぬ力を引き出すことがある。 バトルの最中に新たな技を勝手に覚えて繰り出したり、相手の攻撃を寸前で見切って確実に反撃したり…… おかげで、瓦割りやシャドーボール、つばめ返しといった技を自力で習得してはバトルで放っている。 キュウコンが火炎放射を放つ!! さすがに威力は高いけど、直線軌道の技をまともに受けるはずがない。 レイヴはさっと横に動くと、それだけで炎を避わした!! ショウの口元に笑みが浮かぶ。 「……何かある……!?」 近づかせたところでアイアンテールでも食らわすつもりか? いや、アイアンテールじゃレイヴは止められない。 だったら…… 「レイヴ、一旦距離を取ってシャドーボール!!」 「キュウコン、ナインフレイム!!」 オレが指示を切り替えると同時に、聞いたことのない技の名を、ショウが叫ぶ。 ナインフレイム……直訳すれば九つの炎……? じいちゃんなら知ってるかもしれないけど、少なくともオレは知らない。 キュウコンが炎で攻めてくると分かったからこそ、レイヴに距離を取るように指示できたんだ。 「グゥゥゥスっ!!」 レイヴは途中で立ち止まると、左右の前脚で見えない何かを挟み込むようなポーズを取った!! 前脚の間の空間が歪んで、闇色のボールが現れた!! レイヴは雄たけびと共にシャドーボールを放つ!! 同時に、キュウコンも動いた。 口を大きく開くと、その中に赤々と灯る炎。 ここまでなら火炎放射の動作と変わらない。 まさか、火炎放射をわざわざナインフレイムなんて名前で指示してるわけじゃないだろうな…… よくいるんだよ、こっちを混乱させようと、わざとらしい名前で技の指示を出すヤツが。 しかし、ショウはそういう類のヤツとは違った。 ホントに、オレの知らない技を出してきたんだ。 キュウコンが放った炎は、キュウコン自身の姿を飲み込んだ!! 「……!?」 一体何をする気だ……? キュウコンの特性は『もらい火』。自分の技も含めて、炎タイプの技では一切ダメージを受けない。 その上、自分以外の炎を受けると、その力を自分のものにして、自分が放つ炎の威力を高めることができる。 炎に包まれたキュウコンは、レイヴのシャドーボールを避けようともしない!! ばしゅっ!! シャドーボールが炸裂し、弾ける!! かなりのダメージを与えられたはずだけど、解せない。こんな簡単に攻撃を通すなんて…… ダメージを受けてでも攻撃に打って出たってことか……? 「行けッ!!」 ショウが不敵な笑みをそのままにキュウコンに叫んだ瞬間、キュウコンが自らの全身を包む炎を矢のようにして撃ち出した!! 威力的に見れば、火の粉と火炎放射の間くらいだろう。 だけど、キュウコンのシッポからそれぞれ一発ずつ、タイミングを遅らせながら次々と放った炎の矢は九本になった。 これがナインフレイム……九つの炎っていう意味か? 単純に放ったんじゃ避わされる可能性が高いからと、わざと威力を落として、波状攻撃を仕掛けてきた……? いや、いくらなんでもそれじゃあシャドーボールを受けた理由が説明できない。 いくら自信家で鼻高々なヤツでも、そんな必要がないことくらいは分かるはずだ。 「レイヴ、避けながら近づいて切り裂け!!」 とはいえ、矢の形を取れば、いくら波状攻撃でも、避けることは容易い。 オレの指示に、レイヴは次々と飛来する炎の矢を掻い潜りながらキュウコンに迫る!! 「熱風!!」 続いてキュウコンが放ったのは熱風。 炎の熱を帯びた風を吹かせて攻撃する技だけど、攻撃範囲が広いだけで威力的には大したことない。 でも、キュウコンが巻き起こした熱風が鼻先を掠め、レイヴはビックリしてスピードを落としてしまう。 「……まさか!?」 嫌な予感って、ホントに嫌なくらいよく当たる。 フィールドを駆け抜けた熱風は、さっきキュウコンが放った九本の炎の矢にも当たり―― どんっ!! どんどんっ!! 次々と炎の矢が大爆発を起こし、周囲に猛烈な炎を振り撒いた!! くっ、そういうことか……!! 炎の矢は、囮であり本命でもある。 いや、最初は囮にしといて、熱風を当てることで炸裂させて、相手を背後から攻撃するという意味では本命か…… 背後から猛烈な勢いで広がってくる炎は、瞬く間にレイヴを飲み込んだ!! 「レイヴ!! 気張れッ!!」 オレは炎に消えたレイヴに向かって叫んだ。 レイヴの体力なら、炎を一発食らった程度では倒されないはずだ。 ただ、九本の矢が次々と炸裂して現れた炎は、火炎放射を何発も集めたくらいの火力はあると見ていい。 それぞれのシッポに炎を集めて、放つ。 それだけの芸当ができるんなら、そりゃ自信家で、さぞ鼻高々でいられるわけだ。 自分のポケモンに対する絶対的な自信…… それが、ショウの顔に浮かんだ笑みの正体だったらしい。 自分で新たな技を組み立ててバトルに取り入れられれば、相手の不意を突けることは間違いない。 もっとも…… 今もマジで不意を突かれたし。 「わはははっ!! どうだいっ!? キュウコンのナインフレイムを食らったポケモンは確実に戦闘不能になるッ!!」 フィールドで燃えさかる炎を見やりながら、ショウが豪快に笑い立てる。 スタジアムは騒然としていた。 誰も知らない技なんだから、一体何が起こっているのかを理解することさえ難しかったのかもしれない。 「なぜなら、放った矢の一本一本が、火炎放射と同等の威力を持つんだからね!! いわば、火炎放射を九発同時に放ったのと同じことさ!! カワイソウにね……君のポケモン、もう倒れちゃってるよ……?」 わざとらしい声音で、くくくっ、と小さく含み笑いながら言う。 むかっ……!! いちいち鼻につく言葉を投げかけてくるな…… 何がなんでも、鼻っ柱をへし折ってやらねば!! 一瞬、レイヴへの心配よりも、ショウに対する「むかつき」の方が上回ったけど、それでもオレは冷静さを失わなかった。 確かに、火炎放射を九発集めたのと同じだけの火力はあるだろう。 炎タイプを弱点とするポケモンなら、確実に今の一撃で戦闘不能になる。 水タイプや岩タイプのポケモンでも、かなりのダメージになる。 これを完璧に防ぐのなら、『もらい火』の特性を持ったポケモンで受けるか、『守る』でやり過ごす。 レイヴの場合はそれもできなかったわけだけど、大丈夫。 バトルへの執念は、並々ならぬものがあるんだ。 窮地に追い込まれれば追い込まれるほど、レイヴは本領を発揮する!! だから、今回もきっと…… オレはレイヴを覆い隠して燃えさかる炎から目を離さなかった。 追い込まれちゃうと、オレの指示さえ聞かなくなることがあるんだけどなあ…… 目の色が変わると、倒すべき相手以外は何も見えなくなるのが欠点だけど、それを差し引いても、レイヴのパワーは圧倒的だ。 たぶん、オレの指示がなくても勝手に何かやらかしてるとは思うんだけど…… 炎の中でちょっと動いた程度じゃ、影が映りもしない。 「あはははははははッ!!」 必殺技であるナインフレイムに絶対的な自信があるからこそ、こうやって延々と笑ってられるんだろう。 あー、本気でムカつくぅ……♪ どうやって鼻っ柱をへし折り、自信と傲慢に満ちた笑顔を潰してやろうか。 そう思い始めた時だった。 どごんっ!! キュウコンの目の前の地面がひび割れて、轟音と共に黒い影が飛び出してきた!! 「なぁっ!?」 突然のことに、ショウの笑顔がぐしゃぐしゃになる。 「レイヴ!!」 飛び出してきたのは、白と赤の鮮やかな体毛をあちこち焦がしたレイヴだった。 そうか…… 穴を掘る攻撃で、灼熱の地上から逃れたのか……!! 攻撃だけじゃなくて、緊急的な逃避としても使える技だってこと、すっかり忘れてたよ。 「キュ、キュウコン!! 火炎……!!」 ショウが慌ててキュウコンに指示を出そうとするけど…… がしっ!! レイヴの左前脚が、キュウコンの首をガッチリと捕まえ、ぐいぐい絞めつける!! これじゃあ、炎なんて出せるはずがない。 最大の武器である炎も、吐けなければ脅威にすらならない。 その頃には、燃えさかっていた炎も徐々に弱まって、草のフィールドに大きな円形の焦げた痕が残った。 首を絞められて、キュウコンはじたばたするけれど、身体的なパワーでレイヴに勝てるはずもない。 全身を使ってありったけの攻撃を仕掛けているものの、前脚の一本だけで首を絞めつけているレイヴは苦にもしていない。 なんか、ここまで来ちゃうと、オレの指示もちゃんと聞いてくれるかどうか…… でも、だからってトレーナーとしての責任を放棄するわけにはいかない。 レイヴが冷静でいてくれることを信じ、オレは指示を出した。 「ブレイククロー!!」 「グゥゥゥスっ!!」 レイヴがオレの指示に大きく応える。 よかった……ちゃんと冷静でいてくれた。 頭に血が昇ると、相手を徹底的に痛めつけちゃうことがあるから、結構ヒヤヒヤしてたんだけど…… さすがに、毎回そうなるわけじゃない。 レイヴはキュウコンを真上に投げ飛ばすと、ジャンプ!! 右前脚を大きく振りかぶり、キュウコンにブレイククローを浴びせる!! 岩をも砕く勢いを持った一閃に、キュウコンが弾き飛ばされて地面に叩きつけられた!! ブレイククローはノーマルタイプの技で、相手の物理防御力を下げることがある。 威力もかなりのもので、攻撃力に優れたレイヴが使えば、威力は火炎放射に勝るとも劣らないほどにまで高まるんだ。 地面に叩きつけられたキュウコンは立ち上がって火炎放射を放とうとするけど、レイヴがそんなことを許すはずがない。 フィールドに着地する寸前、レイヴが小さく笑い―― ばっ!! 着地と同時に電光石火の勢いでキュウコンの眼前に迫る!! 「何してる、キュウコン!! 火炎放射だッ!!」 予期せぬ猛攻を受け、ショウは明らかに動揺していた。 さっきまで見せていた、オレの闘志を無意味に掻き立てるような嫌らしい笑みはどこへやら。 すっかり肉食獣に怯えた草食獣みたいな表情になっていた。 トレーナーがそんな状態じゃ、ポケモンがまともに戦えるはずがない。 眼前に現れたレイヴの迫力に怯えきったキュウコンは、トレーナーの指示など聞いていない。 「気合パンチ!!」 こんな状態なら、決められる――!! 気合パンチは、集中力が最大限に高まった時に発動し、最高の威力を誇る技だ。 だからこそ、発動前に集中力が途切れれば、まったくの無に終わる。 レイヴは集中力を研ぎ澄まし、瞬時に最大限に練り上げて高める!! 「グースっ!!」 裂帛の叫びと共に右前脚でフックを繰り出し、キュウコンの腹を打ち据える!! 「……!!」 悲鳴を上げることすら許されず、キュウコンが吹っ飛ぶ!! フィールドからはみ出ただけじゃ勢いは収まらず、観客席眼前の壁に叩きつけられた!! キュウコンを中心に蜘蛛の巣のような亀裂が入っている。 気合パンチの威力が、それだけ凄まじかったということだろう。 ゆっくりと、壁からキュウコンがはがされて地面に落ちる。 「なっ……!!」 ショウは唖然とした表情を、倒れたキュウコンに向けていた。 キュウコンは――ピクリとも動かない。 審判は駆け寄るまでもなく、旗を振り上げて宣告した。 「キュウコン、戦闘不能!!」 「ぬぅぅぅぅ……」 ある意味じゃ非情な宣告に、ショウが悔しそうに唸る。 「戻れ、キュウコン!!」 でも、さすがに引き際は弁えている。 すぐにキュウコンをモンスターボールに戻した。 一方、レイヴは倒すべき相手を倒したこともあってか、逆立っていたシッポを地面に垂らした。 興奮状態が収まったんだろう。 さて……次はどんなポケモンを出してくるんだ? オレはレイヴから視線を移し、ショウの顔を見やった。 自慢のキュウコンを倒されて、さぞかし悔しそうに表情をゆがめていると思いきや、何気に冷静そうだ。 ただ、笑みなど浮かべていられる状況じゃないから、真剣な顔つきになっている。 「なるほど……思ったよりはやるな。正直、侮りすぎていたよ……」 いきなり悟り出すし。 こいつ、自信家の割には冷静なところがあったりして、ホントに意味分かんねえ…… でもまあ、どんなポケモンを出してくるつもりなのか。 あんな隠し玉を持つキュウコンを一番手に出してきたんだ。 キュウコンだけで三体のポケモンを続けて倒すだけの自信があったのか、あるいは……本命が別にいるのか。 ……後者だろうと、オレは思った。 確証はない。 けれど……切り札は最後の最後まで取っておくべきだ。 もちろん、手遅れになるくらいまで温存しすぎても無意味だけど。 「だが……!! 君の進撃もここまでだッ!!」 一転、咆えるように声を張り上げると、次のモンスターボールを引っつかみ、フィールドに投げ入れた!! 「行くぞッ!! エレブー!!」 次のポケモンはエレブーか…… フィールドに投げ入れられたボールが口を開き、飛び出してきたのは、でんげきポケモンのエレブーだった。 人に似たフォルムのポケモンで、黄色い身体のところどころに、黒い縞模様が入っている。 身長はレイヴと同じくらいだけど、レイヴと比べると細身で頼りない印象を受ける。 けれど、エレブーは何気に手強いポケモンだったりするんだ。 電気タイプで、弱点は地面タイプのみ。 二番手に出すにはもってこいだろう。 物理防御力は低いものの、特殊攻撃のパワーとスピードなら、かなり上位にある。 こいつはどんな技を隠し持っているのやら…… 推し量っている間に、審判がバトルの再開を告げた。 「ザングース対エレブー。バトルスタート!!」 「ここからは本気で行かせてもらうぞッ!! エレブー、10万ボルトだ!!」 今までは本気じゃなかったのか……? そんなツッコミを入れたくなるような文言を織り交ぜつつ、エレブーに指示を出すショウ。 絶対に本気だったと思うぞ…… 「エレブーッ!!」 エレブーは唸り声を上げると、全身を震わせて、電撃の槍を撃ち出した!! 威力はなかなかのものだ。 でも、受けるわけにはいかない。 「レイヴ、電光石火からブレイククロー!!」 レイヴはキュウコンとのバトルでかなりのダメージを負っている。 ここは時間をかければかけるほど、体力の消耗が激しくなって、不利になる。 だから、速攻で勝負を仕掛ける!! オレの指示に、レイヴが駆け出す!! 電撃の槍を軽々と避わして、エレブーに迫る!! エレブーの弱点は、物理防御力の低さ。 ブレイククローや破壊光線を決められれば、大ダメージを与えられるはずだ。 でも、さすがに簡単には決めさせちゃくれない。 「エレブー、雨乞いから雷で決めてやれっ!!」 正攻法で来た!! エレブーが空を仰いで、額の触角の間でビリビリと電気を起こすと、フィールドを雨雲が覆い、ポツリポツリと雨が降り出した。 雷は威力が高いものの、距離を置いた時、命中率がとても低くなる。 でも、雨が降っている状態なら、降り注ぐ雨を伝って標的に命中するという強みを持つ。 電気の量が膨大な分、それが顕著になる技でもあるんだ。 でも、雷を放つ前に攻撃を決めてやる!! オレの意気込みが通じたか、レイヴがスピードをあげ、エレブーの眼前に躍り出た!! よし、決めろ!! 「グースっ!!」 レイヴが右前脚を振りかぶり、ブレイククローを繰り出す!! しかし、エレブーはさっと飛び退いて、渾身の一撃をあっさりと避わした!! 「今だ、雷ッ!!」 「エレブーッ……!!」 着地した瞬間、エレブーが雷を放つ!! 膨大な電気量を誇る電撃は、降り注ぐ雨を伝って、いとも容易く、命中するのが当然と言わんばかりにレイヴに突き刺さった!! 雨乞いからの雷…… エレブーのみならず、電気タイプのポケモンを使うなら、このコンボは必須と言ってもいい。 下手な手で攻めるより、セオリーに則った堅実なバトルを行う相手の方が、やりにくいんだ。 強烈な電撃を受け、レイヴがその場に倒れる!! 大丈夫か……? 耐えられないことは……ない。 そう思ったんだけど、レイヴは大の字で倒れたまま、ピクリとも動かなかった。 「ザングース、戦闘不能!!」 「くっ……戻れ、レイヴ!!」 審判の無情な宣告に、オレは悔しい想いを隠そうともせずに、レイヴをモンスターボールに戻した。 これでイーブンに持ち込まれたか。 残りのポケモンは互いに二体ずつ。 有利なタイプのポケモンを出せて、先手を取れる分、少しはオレの方が有利なはず。 さ、誰を出すか……? 電気タイプのポケモンを相手にする時は、電気タイプの技を一切受け付けない地面タイプのポケモンを出すのが一番なんだけど…… 生憎と、リンリは手持ちにいない。 毎日交代でバトルに出そうと思ってたんだけど、こういう時に限って手持ちにエントリーしてないんだ。 あーっ、なんか偶然って嫌だな…… でも、誰かを出さなきゃいけない。 電気タイプの技が効きにくいポケモンに限る。 「いきなり出番だけど、ホウエンリーグの分まで存分に暴れてくれよ……」 オレが選んだのはラッシーだ。 ホウエンリーグでは存分に戦えなかった分を、ここで如何なく発揮してもらうとしよう。 「行くぞっ、ラッシー!!」 オレは思いきり、ラッシーのボールをフィールドに投げ入れた!! 草のフィールドに着弾したボールから、ラッシーが飛び出してきた!! 「バーナーっ……!!」 降りしきる雨などものともせず、ラッシーは飛び出してくるなり咆哮を上げた。 エレブーは雨が降っているのをいいことに、雷を連発してくるだろう。 ラッシーなら、一発や二発食らったところでダメージは微々たるものだけど、素早さを生かして、 逃げ回りながら放たれ続けたら、さすがにややこしいことになる。 逆立ちしてもスピードでは勝ち目はない。 一発の威力で勝負するか、搦め手から攻めるか。 「フシギバナ対エレブー。バトルスタート!!」 審判が旗を振り上げ、バトルの再開を告げる。 先攻はオレだ。 長期戦はこっちとしても望むところじゃない。状態異常の粉とマジカルリーフのコンボで一気に決めよう。 「ラッシー、眠り粉!! エレブーを近づけるな!!」 オレの指示に、ラッシーが背中の花からキラキラ輝く粉を舞い上げる。 降りしきる雨にも負けずに舞い上がり広がっていく眠り粉。 これで迂闊には近づけないだろうけど、オレは何も、エレブーを近づけまいと眠り粉を放ったワケじゃない。 マジカルリーフを放つための布石で、わざとらしい指示を出しただけだ。 「ふん……それで近づけさせない手を打ったつもりかな? 甘い、甘〜いッ!!」 ……見破られた? ショウは自信たっぷりに笑ってみせた。 でも…… 「エレブー、雷!! どかーん、と食らわせろ!!」 トレーナーの指示に、エレブーが再び雷を放つ!! フィールドに降る雨を伝って、ラッシーに命中!! 草タイプの防御で、ダメージは軽い。雷だけでラッシーを倒すことは不可能。 電気タイプの技じゃ、ラッシーの体力を削り取ることはできない……それくらい、ショウなら分かるはずだ。 もちろん、分かるからこそ、ああやって誘いをかけたんだけどね。 わざと、近づかせるための、罠の指示を出したんだ。 「ラッシー、大丈夫か!?」 これもまたわざと心配した言葉を出す。 芝居って苦手なんだけど…… 「バーナーっ……」 ラッシーはオレよりもよっぽど芸達者らしい。 役者(オレ)がダイコンだと、黒子(ラッシー)の方が苦労しそうなものだけど、ラッシーもわざとらしく頭を振った。 いかにもダメージを受けました、みたいなリアクションを見せる。 名演者ラッシーっていう称号があってもいいかもしれない……なんて一瞬本気で思った時だった。 「エレブー、冷凍パ〜ンチ!!」 ショウの指示が飛ぶ。 エレブーは電光石火のスピードで、あっという間にラッシーとの距離を詰めた!! 冷凍パンチか…… 電気タイプの技だけかと思ったけど、さすがにそれはなかったか。 冷気の力を宿したパンチを繰り出す、氷タイプの技だ。同じ要領で、炎のパンチっていう技がある。 雨の影響で威力が落ちた炎のパンチより、冷凍パンチの方がラッシーにダメージを大きく与えられると踏んだんだろう。 だとすると、炎のパンチも覚えさせているということに…… 地面タイプのポケモンを返り討ちにするために、冷凍パンチを覚えさせる。 さらに、電気タイプの技が効きにくい草タイプのポケモンに対しては、炎のパンチ。 一体で様々なタイプのポケモンに対応した戦い方を叩き込んでおけば、あらゆる局面で活躍できるってワケだ。 なるほど、面白い育て方をしている。 ……って、感心するのは止めだ。 ラッシーじゃ相手の攻撃を避わせない。 一発食らうのは覚悟の上で、反撃でエレブーにダメージを与えるしかない。 「エレブーっ!!」 裂帛の気合と共に、エレブーの拳に冷気の蒼白い輝きが宿り―― ごっ、びきっ!! ラッシーの頭に、冷気をまとったパンチが直撃した!! 思わず仰け反るラッシー。 「気張れよ、ラッシー!!」 一発なら大したダメージにはならない。 さすがに立て続けに食らうと危ないけど、そうなる前に対処できる。 「どうだ、見たかッ!! エレブーは様々な局面に対応できるよう、万能に育ててあるのだ!!」 だから、何? 冷凍パンチを指示した時点で、そんなことは分かりきってる。 今さらそんなつまらないことを自慢タラタラに言ってのけるショウに、苛立ちを通り越して呆れるしかない。 口から生まれたんじゃないかと思わせるような饒舌ぶりに、決定的な隙が生まれたんだってことにも気づいてないようだ。 まあ、ベラベラしゃべるヤツってのは、自分が口にした一言から自滅する場合が多いんだよな。 「ラッシー、もいっちょ眠り粉!! ついでにマジカルリーフ!!」 「離れて10万ボルト!!」 オレの指示に対して、ショウが回避してからの攻撃を指示した。 これも、予想通り。 エレブーは素早い動きでラッシーから遠ざかると、10万ボルトを発射!! 電撃の槍はラッシーにかすかなダメージを与えたに過ぎない。 対して、ラッシーは落ち着き払った動作で眠り粉を発射し、続いてマジカルリーフを発射!! 魔法の葉っぱは眠り粉をまとって、エレブーに迫る!! 「マジカルリーフか……避けられぬなら、攻撃だ!! 雷!!」 電気タイプの技でじわじわと体力を削って、冷凍パンチで一気に決めるという魂胆か。 なるほど、気づかないうちに体力をガンガン削っておけば、後で慌てて対処しても遅いってことだろう。 でも、飛来する魔法の葉っぱを、ただのマジカルリーフとタカをくくった時点で、もう遅い。 エレブーは雷を発射!! ラッシーに命中!! 刹那―― しゅっ!! マジカルリーフが、エレブーを左右から挟み撃ちで攻撃した!! 表情をゆがめるエレブーだけど、すぐに得意気な表情に戻る。 ダメージは小さいぞ、と誇示しているようにも見えるけど、それは幸か不幸か、トレーナーの影響を受けているからだろう。 「一発じゃ大したダメージにはならんさ!! エレブー、雷を連発だ!!」 勝ち誇った顔で、ショウがエレブーに指示を下す。 なんていうか、ここまで完璧に引っかかってくれると、喜びを通り越して、なんだか怖くなる。 だけど、エレブーが七発雷を繰り出したところで、突然その場に崩れ落ちた!! 「なっ!? どういうことだ!?」 何が起こったのか理解できないと言った様子で、ショウが狼狽する。 当のエレブーはというと、倒れたまま寝息を立てている。 それはもう、カビゴンを思わせるような、いい寝っぷりで、見てるとなんだかほのぼのとしちゃうほどだ。 「眠った、だと!? どういうことだ、欠伸で眠りを誘ったのか!?」 ショウは完全に動転している。 頼みもしないのにベラベラとしゃべり出して、止まらない。 「いや、欠伸にしてはあまりに早い……!! 催眠術など、使えるはずもないし……うーむ、どうなっている!?」 欠伸は、相手の眠気を誘う技だけど、時間がかかる。 催眠術は即効性があるけど、相手の目を見ていなければ効果がない。 オレが使ったのは、もっとシンプルで、確実性のあるヤツさ。 ショウはオレの仕掛けた攻撃に気づく様子もない。 まあ、気づく前に倒した方が、次のポケモンも同じ手で倒せるだろうから、サクッ、とやらせてもらうけど。 「ラッシー、日本晴れ!!」 草のフィールドに雨が降るのはここまでだ。 ラッシーが空を仰ぐと、フィールドを覆っていた雨雲が徐々に小さくなっていく。 そして、雨雲が完全に消えた後には、燦々と降り注ぐ陽光が熱気をもたらした。 雨が止み、明るく照らし出されたフィールドには、雨露をしたたらせた緑の草が生い茂る。 ラッシーが戦うには打ってつけの場所だな。 日本晴れで下地が整ったところで、一気に倒させてもらう。 「エレブー、起きろ、起きるんだ!!」 ショウは懸命に呼びかけているけど、エレブーは夢の世界から出てくる気配すらない。 そりゃ、現実よりも夢の方が優しいからな……冗談は抜きにして、決める!! 「ソーラービーム!!」 「バーナーっ!!」 ――待ってました。 とばかりに、ラッシーが瞬時にチャージを終え、口からソーラービームを発射!! 眠りこけているエレブーに回避の術などあるはずもない。 どがぁぁぁぁぁぁぁんっ!! ソーラービームはエレブーを直撃し、その身体を軽々と宙に放り出した!! 痛みを与えれば目を覚ますだろうけど、このエレブーに限っては、そういう心配もしなくてよさそうだ。 地面に叩きつけられたエレブーは、目を覚まさなかった。 眠りの代わりに、目を丸くして倒れて、戦闘不能になっていたからだ。 「エレブー、戦闘不能!!」 審判の宣言で、完全に戦闘不能。 「ぬぅぅぅぅ……」 握り拳をわなわな震わせながら、ショウが唸る。 自慢のエレブーだけに、倒されたショックが大きいんだろう。 怒っているのか悲しんでいるのかも分からないような…… 感情が複雑に入り混じった感情が、どうしようもない悔しさを如実に漂わせている。 「戻れぇ、エレブーッ!!」 とはいえ、倒れたエレブーをこのままにしておくわけにもいかない。 ショウはモンスターボールを掲げて、戦闘不能になったエレブーをモンスターボールに戻した。 「……よし、ラッシー、その調子でガンガン行くぜ!!」 「バーナーっ!!」 オレもラッシーも、バトルの流れが完全に変わったことを感じずにはいられなかった。 風は、オレの方に吹いている。 次のポケモンが飛行タイプだろうと炎タイプだろうとエスパータイプであろうと、必ず勝てる。芽生えた予感は、すぐに予感じゃなくなっていた。 ――確信に変わったからだ。 そして、その確信は顕現する。 ショウが最後に繰り出してきたエーフィを、ラッシーは苦戦しながらもソーラービームで撃破して、二回戦進出を見事に決めた。 To Be Continued...