シャイニング・ブレイブ 第20章 キミの心に光を -We are with you-(3) Side 5 ――アカツキが故郷を旅立って60日目。 その日も、アカツキは病院でノンビリくつろいでいた。 急いでやらなければならないこともなくて、退屈だけどそれなりに充実した日々を送っている。 朝は食事の後にアーサーが車椅子を押して散歩に連れて行ってくれるから、思ったほど辛いわけでもない。 無表情が続くネイトの代わりに、リータたちはアーサーをアカツキの傍に居させることを選んだ。 アカツキに黙って話し合いが進んでいたようだが、それがなくとも、マジメなアーサーは世話を焼くだろう。 そんなこととは露知らず、アカツキは身体を治すことを最優先に考えて、じっとしていた。 入院から一週間が過ぎて、ヒビが入りまくっていた骨も少しずつ修復されてきた。 完全にヒビがなくなったわけではないが、よほどの無茶をしない限りは大丈夫だと言われた。 それでも、一度大丈夫と分かれば無茶をするアカツキの性格を存じている女看護士は、こんなことを言って釘を刺してきた。 『ちょっとでも無茶をしたら、ハンマーでぶっ叩いて、今度こそ骨を折ってあげます。そうしたら、君でもおとなしくなるでしょ?』 まったくもってとんでもない看護士だが、彼女に悪気がないのは明白だったから、何も言わなかった。 まあ、それはどうでも良くて。 アカツキは病院の庭で、車椅子に座ったまま、膝の上でピクリとも動かないネイトに言葉を投げかけていた。 「なあ、ネイト。平和だよな〜。でも、なんか退屈。 先生がさ〜、ムチャしたらハンマーでぶっ叩いて骨を折るってキョーハクしてくるんだよ。 お医者さんって言うより、これじゃあ犯罪者だよなぁ……」 ため息混じりに、思っていることを口にする。 しかし、ネイトは無表情。 セントラルレイクのキラキラ輝く水面をじっと見つめているだけで、アカツキの言葉に耳を傾けているような素振りは見せない。 それでも、言葉は届いているはずだ。 きっと、心の中であれこれ考えているのだ。 だから、見た目では変化がなくても、話し続ける。心の動きを止めさせたりはしない。 「…………」 病院の真っ白な壁にもたれかかり、アーサーは目を閉じて考え事をしていた。 視覚が一時的に消えて、代わりに聴覚と嗅覚が冴え渡る。 風の安らかな音……風が運んでくる大地の豊潤な薫り。 何もしなくても、退屈はしない。 待つことには、慣れている。 そう、たとえば…… ゆっくりと目を開き、ネイトの背中を撫でながら話しかけているアカツキの横顔を見やる。 「おまえもさ〜、そろそろいい加減に心開いてくんないかなあ……張り合いがないじゃんか〜。 おーい、聞いてっか〜?」 ネイトの身体を揺さぶったり、前脚を上げたり下ろしたりしながら言葉をかける。 戻ってきた当初と比べれば、少しは反応を見せるようになっているが、元通りと呼ぶには程遠い状況だ。 時々、アカツキの言葉に頷く代わりに、顔を向けてきて、じっと見つめてくることはある。 それが反応なのだから、少しずつでも、着実に進歩している……そう思ってもいい。 「……んー、なんかつまんないな〜。時々は反応してくれっけど……」 今日はまだ一度も反応を示してくれない。 悪いことだと思いつつも、やっぱり張り合いがない。 「早く身体治さなきゃな〜。 みんなと旅できりゃ、おまえも楽しい思いできるのにな〜」 アカツキがため息混じりに言うと、アーサーが言葉をかけてきた。 「まあ、そう言うものでもないぞ」 「アーサー……寝てたんじゃないのか?」 「誰も寝ていない」 振り向きながら言葉をかけると、アーサーはむすっ、と頬を膨らませた。 考え事をしていただけなのに、寝ていると思われたのが許せなかったらしい。 あれこれ考えていたのも、半分はアカツキのためだというのに……そんな無責任な言われ方をすると、やっぱり『ぶちっ』と来るものだ。 アカツキに悪気がないのは分かっていても。 いかにもマジメな性格の持ち主が陥りそうな罠である。 「まあ、それはいいとしよう……」 ゴホン。 咳払いなどして、アーサーは話題を強引に切り替えた。 「ネイトが反応を見せてくれるようになったとは言え、以前のネイトをよく知るおまえにとっては物足りないのだろう。 それは分かっているが、だからこそ、ネイトに負担をかけるようなことはしない方がいい」 「うん……そうする。ただ待ってるだけってのも、辛いんだよ」 「……だろうな。おまえはそういうヤツだ」 ただ待っているだけなのは辛い。 中途半端にリライブが進んでいる状態だから、なおさら気が急いてしまうのだろう。 アカツキはネイトに視線を落とした。 「尻尾振ったり、目ぇパチパチさせることはあるんだけどなあ……」 ネイトは二股に分かれた尻尾を軽く振っていた。 案外、ネイトもやることがなくて退屈しているのかもしれない。 「オレが元気になってりゃな〜」 「焦ったところで仕方あるまい」 「分かってっけどさ……」 アカツキは深々とため息をついた。 ネイトが一朝一夕に変われないのは分かっているし、増してや身体がすぐに治るわけではないことも分かっている。 だから、なんとなく辛い。 この一週間弱、退屈ながらもネイトの傍にいなければならない……という使命感にも似た気持ちで過ごしてきたが、それもそろそろ限界だった。 張り詰めた気持ちは、そう長続きするものではないのだ。 「今のおまえには問題が二つある」 「えっ?」 アカツキはいつの間にか前に回り込んでいたアーサーを見上げた。 車椅子に乗っているのを承知で『神速』を平気で使うようなポケモンである。 一瞬で回り込むなど造作ない。 あからさまに驚きを示しているアカツキの顔を硬い表情で見やり、アーサーは言った。 「一つは、おまえが身体を治さなければならないこと。 もう一つは、ネイトを元に戻さなければならないことだ」 「そりゃ分かってっけど……」 「では、優先順位をつけられるか?」 「無理」 難しい四文字熟語を突きつけられても、アカツキは即座に頭を振った。 「……なぜだ?」 「どっちも大事だからだよ。簡単に順位なんてつけらんねえっての」 「……では、言い方を変えようか。どちらの方が簡単だ?」 しかし、アーサーは表情をまったく変えずに問いを投げかけてきた。 怪訝な表情で、アカツキは首を傾げた。 アーサーは何を言いたいのだろう……? 難しい言葉を好んで使うのは性格上やむを得ないとしても、何を言いたいのか分からないのが問題だ。 それでも、アーサーは何かを伝えようとしている。 言葉の中に隠された真意を探ることだ。 「どっちって……」 「おまえの身体を早く治すことか。それとも、ネイトの心を開かせるか。話は簡単だと思うがな」 「…………オレの身体の方だよな」 「ならば、余計なことは考えるな」 「…………うん」 半ば強引に話を打ち切られ、アカツキはちょっとだけ、途方に暮れた。 アーサーは優しくない。 厳しいヤツだが、それも何かを考えて欲しいという気持ちの表れだ。それくらいは分かる。 「…………」 「…………」 きっと、アーサーは自分で考えろと言っているのだ。 どちらが簡単なのか。それさえ分かれば答えは出ている。 アカツキは再び視線をネイトの背中に下ろした。 相変わらず、尻尾をぶんぶん振っている。 二股の尻尾がパチパチとアカツキの膝や二の腕を叩く。痛みは感じないが、フサフサした感触がこんな時に限っては気持ちよくない。 「オレの身体の方が、簡単に、早く治るんだよな…… アーサーのヤツ、先に身体治して、後でネイトの心を開かせろって言ってんだよな。 分かっちゃいるんだけどさ……」 二兎を追うものは一兎を得ず。 欲を張ると、両方とも手にできないという意味のことわざだ。 学校で教わったきり、記憶のタンスに仕舞いこまれていたことわざが、今になって脳裏を過ぎる。 不思議なものだと思いつつも、アカツキは考えて、考えて、考え抜いた。 時間だけが無意味に過ぎるように感じるが、考えなければ答えは出ない。 余計なことは考えるなと、アーサーはそう言ったが……裏を返せば、必要なことを考えろと促しているのだ。 「分かりやすく言ってくれればいいのになぁ……」 アカツキは右手でネイトの背中を撫でながら、左手で頬を掻いた。 「でも、先にオレの身体を治した方がいいっていうのは、ホントなんだよな…… 両方考えてたんじゃ、どっちから手をつけりゃいいかも分かんないモンな」 結局、どちらかを先に処理しなければならないワケだ。 どうやら、どちらかに転べなかっただけのようだ。 「……ネイト、ごめんな」 アカツキは胸中でネイトに謝った。 今のネイトは、表現こそできないが、心の中でいろいろと思っていることがあるのだ。 たぶん…… ネイトはネイトなりに、必死に頑張っているのだろう。 内側から扉を開けないかと、いつも考えているに違いない。 それなのに、自分は今何をやっているのか……今まで、何をやってきたのか。 分かっていると思い込んでいたのは、上辺だけ。 本当に大事なことを、何も分かっていなかった。 「一個一個片付けなきゃいけないんだよな……オレ、焦ってたのかな〜」 またしてもため息が口からこぼれる。 こんな様子をネイトがちゃんと見ていたら、アクアジェットをぶちかまされるだろう。 元に戻った後で、前々のことを持ち出してくるかもしれないが、まあ、これは自分で撒いた種だから仕方ない。 またしてもいつの間にやら壁にもたれかかっているアーサーに視線を向け、アカツキは口を開いた。 「アーサー、ありがと」 「フン……世話の焼ける主だ。まあ、私がビシビシやらなければならないようだがな」 「厳しいな〜」 「優しいだけでは、勇者の従者など務まらなかった。それだけのことだ」 相変わらず素っ気ない口調で言ってくるが、アカツキには分かった。 アーサーは照れている。 表情こそ硬いが、目が泳いでいる。 ……どうやら、自覚はなさそうだ。 「あいにくと、私は優しくなれない性質らしい。 優しくするのは、アーロン様のお役目だったからな。 おまえも同じだ。おまえは厳しくするより、優しくする方が似合っている」 「……うん、そうする」 アカツキが口の端に笑みを浮かべると、アーサーは困ったようにニコッと笑ってみせた。 「よ〜し、それじゃあ、身体治さなきゃな。 牛乳たくさん飲んでカルシウム摂んなきゃ。アーサー、戻るぜ」 「ああ……」 ――アカツキが故郷を旅立って65日目。 アカツキの身体は少しずつ治ってきており、その日に車椅子生活は終わった。 ただし、走り回ることはできず、普通に歩くだけという条件をつけられた。 とはいえ…… 「やっぱ、何日も歩いてないと、大変なんだなあ……」 ベッドから降りたアカツキは、いきなりその場に転倒しそうになった。 慌ててアーサーが支えてくれたから、鼻っ柱を地面にぶつけることはなかったが、ちゃんと力を入れて地面を踏みしめ、ただ歩くだけでも手間がかかる。 「無理はするなよ」 「分かってる」 アーサーの助けを借りながら、病院内を練り歩く。 当直室の前を通った時、看護士が振り向いて、ニッコリと微笑みかけてきた。 焦らなくていいんだから、もうちょっとゆっくりすればいいのに…… チラリと見た限り、アカツキには困ったように……あるいは呆れているように見えたが、彼女は元々そういう人だ。 「早く、自分の足で歩けるようになんなきゃな……」 病院の外で、歩行訓練を開始する。 十日以上も自分の足で歩いていないが、ただそれだけでも歩き方を忘れてしまうのか。 そう思えるほどに、歩くだけで苦労した。 入院してからは足の筋肉をまったく使っていなかったのだから、運動神経に自信があるアカツキでも普段ほどの力が入らない。 筋肉が少し、衰えているのだ。 分かってはいるが、分かっているからこそ歯がゆい。 「…………」 それでも、アカツキは何も言わず、ただ黙々と歩くことに集中していた。 すぐ傍で、ネイトが目を瞬かせながらその様子を見ている。 日が経つに連れ、ネイトはアカツキの言葉に反応を示すようになったり、自分から動くようになってきた。 ただ、自己主張は思うようにできないらしく、そこのところはネイトの仕草を見てアカツキがあれこれやっている。 「…………」 アカツキがゆっくりとアーサーの傍へ歩いていくのを、ネイトは黙って見ている。 その視線を意識しているのか、アカツキはいつになく真剣な表情で、足腰にありったけの力を込めて歩いていく。 運動神経に自信があるアカツキにとっては、普通に歩くことさえ困難というのは許しがたい状況だった。 だが…… だからこそ、一日も早く自分の足でちゃんと歩いていきたいと思うのだ。 三メートルを歩くのに、一分以上もかかってしまった。 アカツキが胸に倒れこむように飛び込んでくると、アーサーは耳元でそっと囁きかけた。 「少し休んだ方がいい。ネイトだって分かっていてくれる」 「……いや、まだやる」 「…………分かった」 休み休みやった方がいいに決まっているが、アカツキの声音には並々ならぬ気迫が漂っていた。 彼の意気込みに根負けする形で、アーサーは再び距離を取った。 先ほどよりも長く。 「だが、辛いなら辛いと言え。 無理をして治りが遅くなったら、それこそ本末転倒だ」 「うん、分かってる。そんじゃ、行くぜ……」 アカツキは再び歩き出した。 身体が慣れてきたのか、先ほどよりも短い時間で歩いていくことができた。 普段何気なくやっていることだからこそ、擬似的に忘れてしまった時、取り戻すのに時間がかかる。 人もポケモンも、誰に教わるでもなく『歩く』ことを覚える。 もっとも、ポケモンに関しては、歩くことが可能な身体的特徴を持つ種族に限られるが。 「オレがガンバんなきゃな……ネイトだって」 アカツキはアーサーの手を離し、ネイトを見やった。 さっきからずっと、ネイトはアカツキをじっと見つめていた。 特にすることがない……というワケでもない。 部屋の中を走り回ったり、外を羨ましそうに眺めていたり。アカツキが何も言わない時は、いろいろと好き勝手をやっているからだ。 ネイトも頑張っている。 ここでアカツキが踏ん張らなくてどうするのか。 退屈な車椅子生活からやっとサヨナラできたのだ。 普通に歩けるだけでいい。 そうすれば、退院だってできるかもしれないから。 退院できたら…… もちろん、ポケモンたちと共に外を出歩くつもりでいる。 看護しには反対されるかもしれないが、ネイトだってレイクタウンで過ごすことに退屈しているかもしれない。 それに、他のみんなも。 キサラギ博士の研究所はそれなりに広いが、あくまでも『それなり』に過ぎない。外の世界に比べたら、箱庭の自由もいいところ。 グリューニルたちと仲良くするにしても限度があるだろうし、どうせならまた以前のように外に出て、いろんなものを見る方がいいに決まっている。 「…………」 それから、アカツキは一時間以上、一秒も休むことなく歩行訓練を続けた。 一時間もやっていると、普通に歩くだけなら問題なくできるようになる。 もちろん、病院では運動らしい運動ができなかったから、体力がガタ落ちしているのはどうしようもない。 おかげで、アカツキは疲労困憊だった。 その場に座りこみ、肩で息をする有様だったが、格闘道場で鍛えられた賜物か、息を切らすほどではなかった。 「無理をするなと言ったはずだがな……」 アーサーはアカツキの傍で膝を折り、それ見たことかと言わんばかりの口調で苦言を呈してきた。 「…………」 アカツキが座りこんでいるのを見て、ネイトも駆け寄ってきた。 どこか心配そうな表情を向けてくる。 自己主張が完全にできないせいか、鳴き声を上げたり、 水鉄砲やらアクアジェットといった技を使うこともしないのだが、表情や仕草はここ数日、豊かになってきた。 「……無理したつもりはないって。でも、もうちょっと休めば大丈夫」 アカツキはニコッと微笑みながら言うと、手の甲で額の汗を拭った。 思いのほか力んでいたせいか、身体がほのかに熱を帯びている。 「ネイトも、心配してくれてありがとな。 でも、大丈夫さ。オレ、これでも体力には自信あっからさ」 ネイトの頭をそっと撫でる。 表情にこそ変化はないが、目をパチパチさせて反応する。 「だが、普通に歩く分なら、私の手を貸さずとももう大丈夫そうだな」 「うん」 アーサーの言うとおりだった。 一時間もひたすら歩くことばかり考えて動いていたのだから、普通に歩く分には問題ない。 走るとなると、弱った足腰の筋肉を歩くことで解してから……の話になるだろうが。 だが、それでも大きな進歩であることに変わりはない。 火照った身体に、セントラルレイクから吹き上げてくる涼風が気持ちよい。 アカツキはしばらく風の冷たさに身も心も任せていたが、やがて不意に風が止まったところで、口を開いた。 「これからさ、ちょっとずつ歩いてってみて、先生が走っても大丈夫だって言ってくれたら、ここを出てくよ。 そうしたら、またみんなで旅に出る」 「……大丈夫か?」 「もちろんさ。 アーサーも、この町にいるだけじゃ退屈だろ? せっかく封印から解き放たれたんだから、いろいろと外の世界だって見てみたいって思ってんだろ?」 「まあ、そうだな」 最初に旅立った時とは、何もかもが違う。 たとえば…… 「あの頃のオレってさあ……って言っても、二ヶ月ちょっと前の話なんだけどな。 ポケモンのことなんてそんなには知らなかったし、バトルだってマジでド素人だったし。 ネイトだけしかいなかったからさ……こんなに仲間がたくさんできるなんて、思いもしなかったんだ」 「……最初から何もかも手にしている者などそうはいない。 だが、おまえは良い仲間を得た。そして、強くなった……それでいいだろう」 「うん、言われてみるとそうだよな」 アカツキは地面に手をついて、空を見上げた。 二ヶ月前、この町を旅立った。 道行きに何が待っているのか分からないけれど、大概のことなら乗り越えられると高を括っていたりもしたが…… とんでもなかった。 ドラップと出会ったことから、ソフィア団との因縁が始まった。 それに、その因縁がなかったら、他の仲間とも出会えなかった。ラシールとアーサーがいい例だ。 ソフィア団との因縁も断ち切れた今、以前とは違う……しかし新しい気持ちで、この町から旅立つことができる。 それがなぜだか、アカツキにはうれしくてたまらなかった。 これからの道行きに希望を見出しているのが分かる、アカツキの上向いた表情を見て、ネイトはパチパチと目を瞬かせた。 アーサーは、そんなネイトをただじっと見つめていた。 「この時代での旅立ち……か。それも悪くはないな」 せっかく、この時代で封印を解かれたのだ。 今の世界を、見て回ってみるのも悪くない。 昔とは明らかに違っているだろうが、だからこそ楽しみで仕方がない。 心の奥底で、気持ちが急いているのを感じつつも、アーサーはアカツキの身体がちゃんと治るまでは言い出すまいと誓った。 Side 6 ――アカツキが故郷を旅立って70日目。 アカツキはその日の朝方、診察室に呼び出された。 車椅子はすでに返却し、自分の足で歩いていった。 ただし、例によってしっかり者のアーサーと、アカツキの様子が何かと気になっているネイトが付き添っている。 蛍光灯を内側に取り付けた半透明の白いアクリル板にレントゲンを張りつけ、看護士が椅子を回転させて振り向いてきた。 ネイトはともかく、アーサーの姿も見慣れていて、二体が付き添っていても、彼女は顔色一つ変えなかった。 「先生、呼んだ?」 看護士の近くにある椅子を借りて座り、アカツキは声をかけた。 「呼んだわよ。そうじゃなきゃ、来てもらう必要なんてないもの。 まあ、それはいいとして……これを見てちょうだい」 彼女は最初こそ口を尖らせたものの、すぐに穏やかな声音で言葉を継ぎ足してきた。 「君の骨格です。 左がここに担ぎこまれた時のレントゲン。 ……で、右が昨日の晩に撮ったモノ。 見て分かると思うけど、骨のヒビはほぼ完全に修復されているわ。 君が張り切って牛乳を飲んだり日光浴をしたり、摂生に励んだ成果が出てきたといことになるわね」 「ま〜ね。当然♪」 「でもまあ、そこで調子に乗られても困るのよ」 当面の問題が解決されたとあって、アカツキは得意気な表情で胸を張ったが、彼女はすかさず釘を刺してきた。 「いい? 『ほぼ』完全に修復されただけであって、しばらくは骨を強化する状態に入るの。 だから、ここで無理をされると、一気にパァになっちゃうの。 とりあえず、今日で退院してもらって大丈夫だけど、無理は絶対にしないこと。 ここから先は、君自身の責任で頑張ってもらうことになるんだからね」 「今日で退院できんの? やりぃ〜♪」 「…………」 馬の耳に念仏。 暖簾に腕押し。 アカツキは『退院』の二文字にすっかり心躍らせ、なにやら意味不明な鼻歌など交えながら拳を高々と突き上げている。 「聞いてないわね……今に始まったことじゃないとはいえ」 彼女は深々とため息をついたが、アカツキのこの性格が今に始まったものではないと思い返し、渋々納得する。 狂喜乱舞しているアカツキをまっすぐに見据え、彼女は言った。 「君のポケモンはしっかりしているみたいだから、無理をしそうになったら強引に止めてもらうとして…… 昼過ぎにもう一度検査をして、問題がなかったら正式に退院になるわ。 少なくとも、それまではおとなしく過ごしていてね」 言い終え、アーサーをチラリと見やる。 硬い表情ばかり浮かべている彼を見て、マジメでしっかりしていると思ったのだろう。 実に分かりやすいポケモンだが、アーサーは相変わらず無表情だった。 彼女の言うことが見事に当たっていたから、胸中では「当然だな」とさえ思っていた。 「言いたいことはそれだけよ。昼まで、ゆっくり過ごしていなさい」 「うん、分かった。先生、ありがと〜っ!!」 アカツキは看護士に小さく頭を下げ、意気揚々と診察室を後にした。 「…………」 本当におとなしくしていられるだろうか…… アーサーはアカツキが楽しそうにしているのを見て、なんとなく不安になった。 だが、無茶をしそうなら、その時はその時で、力ずくで止めてしまえばいい。 簡単なことではあるが、実力行使に打って出るのはどうしても躊躇われる。 心配に思っているのは看護士も同じだったが、彼女はアカツキが幼い頃から何度か面倒を見てきただけあって、 肝心なところでは無茶をしないと分かっていたから、その分、アーサーよりも深刻に心配はしていなかった。 四角く切り取られたドアの向こうにアカツキとアーサーの姿が消えてから、小さくため息をつく。 「一言、大丈夫って言ったら……それだけであんな状態だもん。 また、逆戻りしてこなきゃいいけどね」 ため息混じりにつぶやいて、スイッチを切る。 ただの黒いフィルムと化したレントゲン写真を取って、カルテと一纏めにしてレターケースに放り込む。 「でもま、元気な方があの子らしいかな。 まさか、一ヶ月と経たずに治っちゃうなんて……ありえないと思ったけど、あの子なら別だわね」 元気なのはいいが、元気すぎるのも困りモノだ。 周囲がついていけないこともあるが、本人が気づいているとは思えない。 だけど、そんなところが憎めない。 それに、昔から身体だけはむやみやたらと頑丈だった。 普通の子なら骨折して当然のケガをしても、骨にちょっとヒビが入る程度で済んでいる。 その上、治りも早い。 ある意味超人的な肉体能力の持ち主だが、アカツキだからねぇ……と、大して気にもならないところがすごい。 診察室で一人、看護士が惚けた顔をしながら思案していることなど露知らず、病室に戻るなり、アカツキは逸る気持ちを爆発させた。 「やりぃ〜♪ 明日からまた旅に出るぜっ、イェイっ♪ うっれし〜なっ、うっれし〜な……っと」 音程をことごとく外しまくった、天地がひっくり返っても歌とは呼べそうにないシロモノを口ずさむアカツキに、 アーサーは苦痛に耐え忍ぶような渋面を向けていた。 なんとかならないものかと思ったが、喜びに満ちたアカツキの顔を見ていると、どんな言葉も彼に水を差す結果にしかならないだろう。 一頻り言わせた後で、苦言を呈せばいい。 アーサーとネイトが何も言わないのをいいことに、アカツキは声を上げてはしゃぎ続けていた。 それだけ、病院での生活は窮屈で、退屈したものだったのだろう。 考えるよりも身体を動かす方が好きな男の子にとって、外の世界で自由に遊んだりできるのは、何にも代えがたい喜びなのだ。 「そんじゃ、さっさと支度しなきゃな〜」 アカツキは一頻りはしゃいだ後で、そそくさと荷物の整理を始めた。 アーサーが口を挟む間もなかった。 家から持ってきてもらった服や靴をスポーツバッグに押し込んで、さっと着替える。 「ふんふふ〜ん♪」 旅をしていた頃の服装だが、動きやすくて、気持ち的にもしっくり来る。 赤いマフラーを首に巻き、アクセントに赤いベレー帽をかぶれば、準備完了だ。 「ほう……」 着替えたアカツキを見て、アーサーは先ほどから言おう言おうと思っていた苦言を忘れ、代わりに感嘆の声を上げた。 「馬子にも衣装とはよく言ったものだ。なかなか似合っているぞ」 「そうか? ありがと!!」 難しい言葉の意味は分からないが、アーサーが褒めてくれているのは分かる。 アカツキはその場でくるっと一回転して、旅をしていた頃の服装を存分に披露した。 ソフィア団のアジトでネイトを助けようと身体のあちこちが傷ついた際に、 服もズボンもかなり凄惨な状態になっていたのだが、母ユウナが直してくれたのだ。 おかげで、お気に入りの服を失くさずに済んだ。 母曰く、同じ服を見つけてくるとなると、ウィンシティやディザースシティまで足を伸ばさなければならないとか。 「…………」 そんな事情はさておいて、得意気な表情でベレー帽をいじっているアカツキに、ネイトはずっと視線を注いでいた。 旅をしていた頃のことを、思い返しているのかもしれない。 パチパチと瞬きの回数が多いのも、それなりにいろんなことを考えている証拠だろう。 アカツキはネイトに笑みを向け、歩み寄った。 膝を屈めて、ネイトと同じ視線に立つ。 「ネイト、似合ってるだろ? また、このカッコでおまえと一緒に旅をするんだ。 でもさ……無理しなくっていいからな。ゆっくりゆっくりやればいいんだ。 焦って無理するなよ。 オレは……ううん、オレたちはいつまでもおまえのこと、待ってっからさ」 頭を撫でながら、優しく言葉をかける。 「…………」 「…………」 ネイトはそんなアカツキをじっと見つめていた。 「はしゃいでいるだけでもないな……」 ただはしゃいだり、相手に合わせているだけではない。 純粋に相手を思いやり、自分の気持ちを包み隠さずに伝えている。 そんなアカツキを見て、アーサーは何度目かになる感動を覚えていた。 普段はどうしようもない子供なのに……こういう時になると、並大抵の大人よりもよほど度量の大きいところを見せ付ける。 普段とのギャップがなければ最高なのだが、それは言わない約束だ。 ギャップの激しさもまた、アカツキの魅力なのだから。 「さ〜て……と。昼まではノンビリ過ごすとすっか」 アーサーが胸中であれこれ考えていることなど露知らず、アカツキはネイトを抱いて、ベッドで横になった。 最初はあまり寝心地が良くなかったが、住めば何とかと言うように、 ちょっと固めのマットレスと、清潔な香りが染み込んだ薄手の毛布や布団が心地良い。 今日でお別れかと思うと、なぜだか名残惜しい気持ちになるが、外の世界で待っているドキドキやハラハラと比べれば、些細なことだ。 「…………」 ネイトはアカツキの胸にしがみつくようにモゾモゾすると、そのまま寝息を立てた。 ノンビリ過ごそうと思っていたのは、トレーナーだけではなかったらしい。 規則的に上下する胸部を見やり、アカツキは笑みを深めた。 「ちょっとずつ、ネイトは元に戻ってんだな……」 「そのようだな。徐々にだが、反応を示すようになっている。この分だと、さほど時間はかからないかもしれない」 「分かるのか?」 アカツキが驚いたような顔を向けると、アーサーは事も無げに頷いてみせた。 「私には、ネイトの心を包んでいる『力』が視えるからな。 少しずつ、ネイトが心を開いているのが分かるのだ」 「そっか。アーサーが言うんだったら、間違いないんだよな」 「もちろんだ」 「…………!?」 少し、笑ったように見えた。 一瞬だけ見せた、得意げな表情。 アーサーも笑うことがあるのかと、アカツキは呆然とした顔を隠そうともしなかった。 「失敬な……私だって笑うことくらいはある」 アカツキが何を思っているのか、手に取るように理解できる。 アーサーは顔をしかめ、そこで初めて苦言を呈した。 「普段は特に面白いと思うようなこともないから、笑わないだけだ。勘違いはするなよ」 「悪かったよ。でも、やっぱりそうでなくっちゃ」 「……?」 アカツキは取り繕うでもなく、心の底からニッコリと微笑んでみせた。 「アーサーもさ、楽しいんだったらちゃんと笑おうよ。 その方が、みんなもうれしくなるって」 「……そうだな。そうしてみよう」 勇者の従者として旅をしていた頃は、とても笑えるような状況ではなかった。 戦乱の続く土地で、勇者が引き締まった顔をしているのに、従者が笑うことなどできなかった。 子供を励ますのに、ニッコリと微笑んだことはあるが、せいぜいがその程度。 もちろん、アカツキの言葉は素直に受け入れるつもりでいる。 笑うと、明るい気分になれるものだ。 ――ピンチの時ほど、ふてぶてしく笑うものだよ。 いつだったか……旅の途中で、アーロンに言われた言葉を思い出す。 旅から旅の暮らしで、いつどこでどのように過ごしたのかなんてほとんど覚えていない。 だが、アーロンに言われた言葉は忘れていない。誰よりも敬愛している、大いなる勇者なのだから。 「……アーサー、なんか楽しそうだな」 「……!? ……まあな」 しみじみと昔のことを思い返していると、突然、言葉をかけられた。 アーサーは肩を小さく震わせたが、とっさに話を切り替えた。 瞬時の判断力が優れているのは、勇者の従者など務めていた賜物だろう。 「楽しいに決まっているさ。おまえたちと共に旅ができるのだから。 それより……旅立ちは明日ということで良かったのか?」 「うん。そうするつもり」 アカツキは話を変えられたことに気づく様子も見せず、淡々と言葉を返した。 話の内容はもちろん重要だが、仲間とコミュニケーションを深められるなら、それに越したことはないと思っているのだ。 アーサーが、アカツキの『さり気なさ』を気に入っていることも知らないようだが、自覚がないからこそ輝いて見えるものだ。 「退院してから準備とかしなきゃいけないしさ。 そりゃあ、今日いきなり飛び出してければいいんだけど……でも、何の準備もしないで行くわけには行かないからな」 「賢明な判断だな。目的地は決めたのか?」 「ん〜、そうだなぁ……あんまり考えてないんだよ。 ネイゼル地方って、そんなに広いワケじゃないし。気の向くまま足の向くままっていうか」 「なるほど、おまえらしい」 苦笑するアーサー。 旅に出るからには、目的地が定まっているとばかり思っていたが、そうでもなかったらしい。 ネイゼル地方は南方のホウエン地方やジョウト地方と比べるとそれほど広くなく、人が立ち入れる場所も限られている。 気の向くまま足の向くままと言っても、行ける場所などそれほど多くはない。 さて、どうしたものか…… アーサーはアカツキの言葉を待ったが、思いのほか早く彼は口を開いた。 「でも、どーせなら自然が豊かな場所がいいな。フォレスタウンなんかいいかもな」 「フォレスタウンというと……ここから東に行ったところにある、森に囲まれた静かな町だな?」 「うん。よく知ってるな〜。カナタ兄ちゃんから聞いてた?」 「ああ。少しでも、この時代のことを知っておきたかったからな。 頼み込んで、いろいろと教えてもらった」 アーサーがこの時代のことをいろいろとカナタから教わっていたと聞いても、アカツキはさほど驚かなかった。 マジメで堅物と来れば、それなりに勉強していたとしても不思議はない。 この時代で生きていく以上、知らなければならないこともある……そう思っていたに違いない。 「でもま、その方が話も早くて助かるぜ。 じゃ、とりあえずはフォレスタウンに行ってみる。 ヒビキさん、元気にしてっかな〜?」 アカツキはフォレスジムのジムリーダー・ヒビキの顔を脳裏に思い浮かべた。 ミライの父親で、すごく強いジムリーダーだ。 彼女が誇りに思っているのも頷ける、人格者でもある。 アイシアタウンへ向かう途中、アクシデントに巻き込まれてミライとトウヤの二人とはぐれたアカツキの前に現れて、 フォース団のアジトで数日間、一緒に過ごした。 それ以来、彼には会っていないし、連絡も取っていない。 ソフィア団との戦いでは裏方に徹していたと聞いたが、今はフォレスタウンに戻っているのだろう。 ジムリーダーとして、挑戦者と熱いバトルを繰り広げているのかもしれない。 そう思うと、もう一度会いに行きたい気持ちが募る。 「ヒビキさんに負けてから、オレ、いろいろとガンバったモンな〜……」 初めてのジム戦を黒星で飾ってしまったが、その代わりに得られたものも多い。 ここまで頑張れるキッカケを作ってくれたのがヒビキであったと言っても、過言ではない……アカツキはそう思っている。 旅をしていたのは二ヶ月と経たない短い間だったのに、いろんなことがあった。 だから、今まで生きてきた中で一番長い二ヶ月だと思わずにはいられない。 辛いことも嫌になることもあったけど、みんなの助けがあったから、乗り越えてこられた。 そう思うと、みんなと出会えたことがとても喜ばしかった。 「…………」 アーサーは、アカツキが瞳をキラキラ輝かせながら考えに耽っているのを見て、言葉を駆けようかと思ったが、やめた。 今くらい、ゆっくりさせてやろう。 旅に出たら、持ち前の陽気な性格を存分に発揮して、あちらこちら、忙しく歩き回ることだろう。 「それに……アリウスも、エイパムたちに会いたいかもしれないしなぁ……」 アカツキがフォレスタウンに赴こうと思ったのは、ヒビキがどうしているか気になっているから、だけではない。 今頃は、ミライもブリーダーとして歩み始めているだろう。 彼女がどうしているのかも気になるし、それ以上に、アリウスもエイパムたちに会いたいと思っているだろうと考えたからだ。 いつだったか……アリウスは胸を張って、エイパムたちは大事な家族と言っていた。 アイシアタウンでアカツキにゲットされた後、エイパムたちと離れるのが嫌だと言っていた。 一緒に暮らしてきた家族だから、たとえトレーナーの傘下に入ったとしても、一緒に行きたいと思っていた。 だから、アカツキは一計を案じて、手持ちがパチリスだけで、ちょうど五体分の空きがあるミライにエイパムたちの世話を任せた。 結局、今は離れ離れになってしまっているが、それはアリウスとエイパムたちも納得した上の結果だ。 ……とはいえ、気にならないはずがない。 顔にも言葉にも出さずとも、アリウスが淋しがっているのは分かる。 フォレスタウンまでは徒歩で三日程度の距離だ。 会おうと思えばいつでも会える。 でも、どうせなら一番に会わせてやりたいものだ。 「後で、みんなを迎えに行かなきゃいけないし。今はちょっとだけ休もうっと……」 アカツキは欠伸を欠いて、ネイトの背中に手を回した。 一緒にいて、接すれば接するほど、リライブは進む。元に戻るまでの時間も短縮される。 そんなことを意識して考えていたわけではなかったが、アカツキは寄せては返す心地良い小波のような睡魔に、身も心も任せていた。 昼過ぎに検査を受けたところ、医師から退院しても問題なしという太鼓判を押され、アカツキは正式に退院した。 病院を出ていく直前に、検査を担当した初老の医師からこんな言葉を投げかけられた。 「あー、キミってホントに身体治るの早いから、こっちもあんまり儲からないんだよね〜。 できたら、もう二度と来ないでね」 冗談か本気かよく分からなかったから、アカツキは適当に笑ってごまかした。 まあ、それはともかく。 アカツキはアーサーとネイトを連れて、キサラギ博士の研究所へ向かっていた。 明日から旅に出ることをキサラギ博士や、大切な仲間たちに伝えるためだ。 相も変わらず人通りの少ない道を貸切気分で歩きながら、アカツキは空を仰いだ。 なぜだかとっても気分が良い。 一眠りして諸々の疲れが取れたのと、明日からまた広い世界に旅立てると思うと、やはりうれしくなるものだ。 「ふんふふ〜ん、ふふ〜ん♪」 音程の外れた鼻歌を交えながら、道を行く。 自己主張の乏しいネイトですら、相変わらずのオンチぶりにはズッコケそうになるなど、 いい意味でも悪い意味でも、アカツキの明るい気分は周囲に影響を与えているようである。 アーサーは視線をセントラルレイク周辺に逸らし、聴こえないフリを決め込んでいるが、苦渋に耐えるような表情までは隠せなかった。 「明日は朝イチで行こっ!! フォレスタウンまでは三日くらいだけど、ライオットに乗ってけば、すぐ着いちゃうんだよな。 でも、それじゃつまんないから、みんなと一緒に歩いてくのが一番かな」 鼻歌も足も止めることなく、アカツキはこれからのことを考えた。 フォレスタウンに行こうと思っているが、ポケモンの背中に乗って一っ飛びではあまりに味気ない。 それはそれで風を感じられていいのかもしれないが、やはり徒歩の旅に醍醐味を感じるものだ。 レイクタウンとフォレスタウンを結ぶイーストロードは、他の道路と比べると通行量が少ないことから、 ポケモンを外に出したまま歩いても、大したトラブルにはならないだろう。 「…………」 少しは鼻歌の音程もマシになってきたか……と思ったところで、アーサーは思い切ってアカツキに訊ねた。 話に誘うことで、耳を破壊せんばかりのオンチ鼻歌を終わらせようという魂胆だった。 「それより、アカツキ。フォレスタウンに行った後はどうするつもりだ? まさか、一箇所に滞在し続けるわけでもないだろう」 「うん、まあね〜。 でも、そっから先のことはあんまり考えてない」 「……やるべきことがたくさんあるから、考える必要はないということか?」 「たぶん」 「いい加減だな……」 常に先を考えるのはいいことだが、一体どこまで考えているのか。 アーサーはそれを推し測ろうと思ったのだが、予想以上に彼の考えは浅かった。 せめて、ネイゼルカップまでの道筋くらいは立てているのだろう……なんてことを考えていたが、甘かった。 しかし、よくよく考えてみると、年端も行かぬ子供にそこまでの計画性を求めるのも酷な話だろう。 むしろ、アカツキは何も考えていないように見えて、考えている方かもしれない。 「考えすぎるのが私の悪いクセということか。 ……昔は、絶対に考えられなかったことだがな」 そう思うと、自分が無意味に考えすぎているだけか……という結論に達する。 果てしない争いに疲弊しかかっていた世界では、争いをいかにして終結させ、人々に明るい笑顔をもたらすか、ということばかり考えていた。 その頃はそれが正しいことだと思っていたし、疑問に感じたことさえなかった。 しかし、時代は変わったのである。 「だが、私がしっかりしなければならん。 せっかく、こいつと一緒に歩いていくことになったのだからな……」 相手に合わせるのも大事なことだが、それよりも、互いに欠けているものを補い合うことが大切なのだ。 アーサーが何度目になるかも分からない誓いを立てていると、 「…………」 「…………!? ネイトか、どうした?」 ネイトに手を引っ張られた。 無表情だが、何か言いたそうな様子だ。 自己主張の最たる『言葉』をまだ取り戻せないが、それでも何気ない仕草で大まかなことは理解できるものだ。 アカツキは明るい気分に酔っているのか、ネイトがアーサーの傍にいることに気づいていないようだ。 ……いや、気づいているかもしれないが、敢えて反応を見せていないだけかもしれない。 「…………」 「……そうか。明日からの旅を楽しみにしているのだな」 「…………(こくん)」 握った手を前後に振るだけだが、アーサーにはネイトが何を言いたいのか理解できた。 その通りだと言わんばかりに、頷くネイト。 少しずつだが、自己主張の術を取り戻しつつある。 頷くという、普段なら大して意識せずにできるようなことでも、ここ数日になってようやく見られ始めたのだ。 ネイトは明日からの旅を楽しみにしている。 そんな気持ちを、アーサーに伝えたかったらしい。 「しかし、どうして私なのだ? 最初にアカツキに伝えるべきだと思うぞ。あいつは、おまえのことを常に心配していたからな」 しかし、解せないところがある。 アーサーはアカツキの耳に入らない程度の小声でネイトに訊ねた。 「…………」 ネイトは相変わらず言葉こそ発しなかったが、細かな仕草でアーサーに気持ちを伝えた。 「そうか……あいつにはいろいろと考えていることがあるから、邪魔をしたくないと思っているのだな。 だが、邪魔だとは思っていないはずだ。 あいつは、おまえのことを大切に思っている。この首を懸けてもいいぞ」 ネイトはどうやらアカツキに遠慮しているようだ。 心配をかけた……心理的な負担を強いてはいないかと思っているようだが、アーサーに言わせれば、そんなことはネイトが気にする問題ではない。 こんなことになったのも、ネイトに原因があったわけではない。 ダークポケモンになってしまったのは、シンラがボルグに作らせた『クローズドボール』のせいなのだ。 ネイトが気にする必要はない。 アーサーが優しい声音で伝えると、ネイトは深々と頷いた。 ありがとう……と言っているようだ。 背後でそんなやり取りが行われているとは露知らず、アカツキは明るい気分を維持したまま歩いていた。 本当は走って行きたいところだけど、身体が治ったばかりの状態では無理などできない。 検査をしてくれた医師も、こんなことを言っていた。 「キミ、身体治るの早いけど、一週間くらいは無理すると前の状態に逆戻りするからね。 病院としては、無理してケガしてくれた方が、儲かっていいんだけどね」 ケガしてくれた方がいいとは、とんでもない医師である。 もちろん、アカツキとしても病院の退屈な生活に逆戻りするのは嫌なので、当分は活発な動きを抑えようと思っている。 だけど、必要に迫られたら、その時はすぐに解禁だ。 「みんなと一緒だし、あんまり危険なこととかもないもんな……」 ふっと、小さくため息。 みんなが一緒なら……外に出ている状態なら、断崖絶壁でドラピオンの大群に囲まれるとか、 夜の砂漠でノクタスの大群に襲われるという状況でもない限りは、アカツキが無理をする必要はない。 「みんなと一緒って、やっぱりいいな〜」 旅立った頃は、ネイトしかいなかった。 もちろん、ネイトがいてくれたから、いろいろと辛いことがあっても乗り越えてくることができたから、それについて悪く言う気はない。 でも、今はみんながいる。 ネイト、リータ、ドラップ、ラシール、アリウス、ライオット、そしてアーサー。 出会いはそれぞれ異なったシチュエーションだったが、異なる者同士が同じ時間を共に生きている偶然。 アカツキには、それがとても素敵なことだと思えてならなかった。 何を今さら……と思うかもしれないが、こんな時だからこそ強く感じる絆だった。 そんなことを考えながら歩くうち、あっという間にキサラギ博士の研究所にたどり着いた。 「おっ、もう着いたんだ、早いな〜」 病院からここまでの景色をよく覚えていないが、それだけいろんなことを考えていたのだろう。 話に聞いたところだと、アラタ、キョウコ、カイトの三人はネイゼルカップに向けてすでに動き始めており、 数日前に三人ともレイクタウンを発ったとのことだ。 アカツキだけ取り残される形になったが、すぐに追いついてみせる。追いつけるに決まっている。 だから、焦ったりはしていない。 「そんじゃ、みんなに会って話しなきゃな」 アカツキはキサラギ博士に会っていこうかと思ったが、みんなと話をしてからの方が二度手間にならずに済むと考え、先に敷地に入った。 ……と、すぐにアカツキは立ち止まった。 アカツキだけでなく、アーサーもネイトも、すぐに立ち止まる。 「あれ、みんな……」 三人の視線の先には、リータたちの姿があった。 五体揃って、こちらに向かって駆けてくるではないか。 「何かあったのかな〜」 今日、この時間に行くとは伝えていないのだが、もしかしてアカツキたちが来ることを察していたのだろうか? だとしたら、恐るべき勘の鋭さだが、さすがにそれはないだろうと思った。 もしかしたら、アーサーかネイトが裏でコッソリ伝えていたのかもしれない。 まあ、どちらにせよ会いに行く手間は省けたわけで、結果オーライだった。 「なんかみんな、すっごく楽しそうだ」 リータたちの表情は一様に明るかった。 いいことがあったのか、それとも…… 「手間が省けたな」 「うん、まあね」 アーサーの言葉に頷いて程なく、リータたちがやってきた。 「ベイっ♪」 「おう、元気そうだな〜」 軽いスキンシップとして、アカツキはリータの頭上の葉っぱを撫で回した。 「ごぉぉぉ、ごぉ、ごぉぉぉぉっ?」 すかさず、ドラップが話しかけてくる。 ここ数日会わないうちに、ずいぶんと明るくなったような気がする。 角が取れたというか、持ち前の暖かさが表に出てきたというか…… 「うん。元気だよ。みんなが応援してくれたおかげかな♪」 ドラップは「身体は大丈夫か?」と心配してくれていた。 しかし、旅をしていた頃の服装でやってきたのを見れば、元気なのは分かるはずだ。 念には念を……を実践しているだけかもしれない。 何しろ、ドラップはパパ――奥さんと結ばれ、子供を儲けているのだ。 いろいろあってアカツキと旅をすることになったが、ドラップに子供がいると聞かされた時は、さすがのアカツキも驚きを隠せなかった。 「ん……? そういや、ドラップの奥さんって……」 ドラップが所帯持ちであることに今さらのように気づいて、アカツキは顔を上げた。 ドラップの奥さん(同じくドラピオン)は、ソフィア団に捕らえられ、ダークポケモンにさせられた。 ヨウヤはダークポケモンと化した奥さんを繰り出してきたが、アカツキがライオットで征し、モンスターボールに戻した。 他のダークポケモン共々サラが回収し、『リライブホール』で元のドラピオンに戻り、今頃は『忘れられた森』に戻されているはずだ。 「奥さんのこと、気になってるよな。絶対……」 ドラップはアカツキが元気になったと聞いて喜んでいるようだが、しばらく会っていない妻や家族のことを気にしていないはずがない。 気丈に振る舞っていても、アカツキには分かっていた。 ルカリオ(アーサー)を完全型ダークポケモンにするための素材として捕らえられ、自力で逃げ出した先で、アカツキに出会った。 本当は家族のところに戻りたかったはずだが、それでは家族にまで迷惑がかかると思ったのだろう。 それからも各地を旅してきたが、『忘れられた森』に赴いたのは、ソフィア団のアジトに乗り込む時だけだった。 束の間の再会を果たしただけで、一家団欒の時間を設けることもできなかった。 「ドラップにとって、家族って大事だもんな。オレも、そうだけど……」 今でこそアカツキの仲間としてここにいるが、家族が今何をしているのか、気になっているはずだ。 しかし、ドラップはアカツキにそんな顔は一つも見せないだろう。 言われなくても分かることだ。 「じゃ、フォレスタウンの後で『忘れられた森』にでも行ってみるか」 ドッキリ番組さながらに、フォレスタウンに赴いた後でドラップの家族に会いに行くのも悪くない。 考えに一区切りつけて、アカツキはすぐ傍に飛んできたラシールとライオットに微笑みかけた。 「ラシールもライオットも、退屈してただろ? でも、明日からはまた外に出られるからさ。期待して待っててくれよ」 「キシシシ……」 「…………」 アカツキの言葉に、ラシールとライオットは翼を広げて応えた。 「そういうことらしい。明日からまた旅に出るそうだ」 「うん、そうなんだけどさ〜」 頼まれてもいないのに、アーサーが総括する。 しかし、大きな問題が一つ残っている。 それを解決してから、旅に出ることを話そうと思ったのだが…… さすがに、アーサーもポケモンに関する職業に課せられる『掟』までは知らなかったようだ。 思案するアカツキに、一同の視線が突き刺さる。 もしかしたら、アーサー以外の六体は分かっているのかもしれない。 「……どうした?」 アーサーだけが、キョトンとした顔を見せている。 ポケモンに携わる者が最低限守らなければならないことを、カナタは話さなかったらしい。 敢えて話さなかったのか、それとも話す暇がなかったのか……定かではないが、アーサーが知らないのは間違いなかった。 アカツキは目の前に佇む七体のポケモンを順番に見やった。 「誰か、ここに残してかなきゃいけないんだよな……うーん、困ったな〜」 トレーナーやブリーダーのみならず、手持ちのポケモンは六体までと決められている。 本当のことかは分からないが、どこかの著名な博士曰く、理論上、均等に愛情を注げるポケモンの限度が六体だと言う。 法律で定められた手持ちの定数はともかく、この場に誰かを残していかなければならない。 七体連れているのを誰かに見られて通報でもされようものなら、大人だろうと子供だろうと関係なく事情聴取され、 最悪の場合はトレーナーの停職処分を食らうことになる。 そんなリスクを背負ってまで、七体全員を連れていこうとは思わないからこそ、悩ましいところだ。 「あのさ……」 言いにくいことだとは思うが、明日になれば誰かを残していかなければならない。 アカツキは口ごもりながらも、言うべきことをちゃんと言葉に出した。 「ポケモントレーナーは、ポケモンを六体までしか連れてっちゃいけないことになってるんだよ。 明日、また旅に出るんだけど、誰かここに残ってもらわなきゃいけないんだ」 「…………」 「…………」 当然と言えば当然の反応。 ネイトを除く六体は、互いに顔を見合わせ絶句した。 分かってはいても、改めてアカツキの口から言われると、やはり違ってくるのだろう。 「……どういうことだ?」 アーサーは珍しく焦ったような表情を見せた。 普段しっかりしているからこそ、一旦焦り出すと歯止めが効かなくなるのかもしれない。 ある意味、難しい年頃かもしれない。 「アーサー、カナタ兄ちゃんから聞いてない? トレーナーだけじゃなくてさ、ブリーダーとかも、ポケモンは六体までしか手持ちとして連れ歩いちゃいけないんだよ」 「なにっ!? それは知らなかった。カナタめ……私に言い忘れていたな!?」 アカツキの返答に、アーサーは憤慨した。 落ち着き払った普段の彼からは想像もできないような熱弁に、リータたちは思わず後ずさりした。 普段、物腰穏やかな人やポケモンほど、火がつくと一気に大爆発してしまうものだ。 しっかりしている分、アーサーは理知的に大爆発していた。 アカツキは困った表情を浮かべ、今にも『波導弾』を放ちそうな雰囲気を漂わせるアーサーの肩に手を置いた。 「カナタ兄ちゃんだって忙しかったんだしさ。 それに、オレもちゃんとアーサーには説明してなかった。悪いのはオレも同じだって。 だから、そんなにカリカリするなよ。みんな、引いちまってるじゃん」 なるべく角を立てないように考えた言葉を口にすると、効果覿面だった。 今にも噴火せんばかりのアーサーの昂った感情が、一気に冷めていく。 「…………」 少し冷静さを取り戻したところで、改めて周囲に目を向けてみる。 ネイトは相変わらず惚けた表情を見せているが、リータたちはかなり驚いている様子だった。 「わ、私としたことが……」 昔なら絶対に考えられない醜態をさらしてしまった。 アーサーはどうしようもない後悔に刈られた。 どう繕えばいいものか分からずに、ただひたすらにうろたえていると、 「まあまあ、気にすんなって。誰だってそーゆーことあるからさ」 アカツキが朗らかに笑いながら、フォローになるのかならないのかよく分からないことを言った。 それで気が楽になればいいのだろうが、アーサーは飾りっ気のないその一言に救われていた。 「……そうだな。すまない……私としたことが、取り乱してしまった」 「でも、ちょっと安心した」 「安心? どういうことだ?」 アカツキがホッと胸を撫で下ろしているのを見て、アーサーは不思議に思った。 取り乱したところを見て安心したというのは、一体どういうことか? マジメな性格を少しでも柔らかくできたらいいのだろうが、残念ながら、アーサーは彼自身が思っている以上に不器用だった。 「だってさ、アーサーっていつもマジメで堅苦しい顔しか見せてないだろ? だから、何考えてんのかよく分かんないことがあるんだ。 でも、アーサーだって慌てたりうろたえたりするんだなあって思うと、安心するんだよ」 「…………」 「別に、悪口言ってるワケじゃねえぞ。ホントのことだからさ」 ……どうやら、堅苦しくしすぎるなと言いたいらしい。 普段からカリカリしていると、他のポケモンたちからしても取っ付きにくいのだ。 「そうか……そうだな。 少し、落ち着いていくことにしよう。アカツキ、ありがとう」 「な〜に。それくらいは朝飯前ってね♪」 「ふっ……」 アカツキがおどけてみせるものだから、アーサーは小さく笑った。 どうしようもないお調子者だが、他人に対する気遣いを忘れない……なんとも面白いヤツだ。 まあ、なんにせよ場の雰囲気を上手く整えてくれたことに変わりはない。 アカツキの明るい雰囲気に触れて、リータたちも何事もなかったように振る舞っている。 ぎこちなさは残っているが、それは仕方ないだろう。 「で……話戻るんだけどさ〜」 「……誰かをここに残していかなければならない……ということだな?」 「うん」 アーサーが取り乱したことで脱線した話を戻す。 「ネイトはずっと一緒にいてやんなきゃダメだから外せないだろ? それに、ドラップも外せないし……アーサーもいろんなものを見てもらわなきゃいけないから外せない。アリウスも……だな。 んー、困ったなあ……」 アカツキは言い終えると、本当に困ったような顔で頬を掻いた。 誰かを残すと言っても、ローテーションで回していくつもりなので、延々とここに留まり続けるといったことはない。 スパッと決められればいいのだろうが、そんな簡単に決められるような間柄でもない。 「…………」 みんなして、オレを連れてけと言わんばかりの表情をしているだけに、迷いはいよいよスピードメーターが振り切れんばかりに加速する。 アカツキは黙りこくったまま考えをめぐらせるが、皆の視線が重すぎたのか、途中で顔を逸らした。 やがて、生暖かい風が何度か吹きつけてきたところで、答えを出した。 どのみち、誰かを残していかなければならないのだから。 「悪いんだけどさ、ラシール。少しだけ、ここに残っててくんないかな? 何日か経ったら、他のみんなと代わってもらうからさ」 アカツキが残すと決めたのは、ラシールだった。 ネイトとドラップ、アリウス、アーサーは連れて行くことが決定している。 となれば、残り三体の中から決めなければならない。 決定的な理由なんてモノはないが、とりあえず、当面はラシールに残ってもらうことになった。 オレも連れてけと言わんばかりの表情を浮かべていたため、ヘドロ爆弾だのエアカッターだのをぶっ放して抗議するかと思いきや、 「キシシシ……」 ラシールは意外とあっさり頷き返してきた。 ――ちょっとだけだぞ。 ここでワガママを捏ねてアカツキやみんなを困らせるくらいなら、自分が残ると言ってくれたのだ。 誰を残したとしても、アカツキは申し訳ないと思っただろう。 だが、ラシールが残ると言ってくれたのだから、フォレスタウンでアリウスがエイパムたちと再会した後で、変わってもらおう。 「ごめんな、ラシール。ちょっとだけだからさ」 「キシシシ……」 重ねて言うと、ラシールは『皆まで言わなくてもいい』と返してきた。 旅の目的までは聞いていないが、ネイトの気を紛らわすためだということも分かっている。 だったら、存分に楽しんできてもらいたい。 「うん、決まったな……」 ラシールを除く六体を連れて、明日、この町を発とう。 とりあえずの方向性も決まったことだし、アカツキは自宅に戻ることにした。 旅に出るなら、色々と支度を整えなければならない。 「明日の朝に、迎えに来るからさ。それじゃ、またな!!」 即断即決。 思い立ったが吉日と言わんばかりに、アカツキはあっさりと踵を返し、ネイトとアーサーを連れて駆け出した。 本当は歩くよりも激しい運動をしてはならない状態なのだが、幸い、骨に再びヒビが入るようなことはなかった。 To Be Continued...