シャイニング・ブレイブ 第20章 キミの心に光を -We are with you-(4) Side 7 ――アカツキが故郷を旅立って71日目。 その日、アカツキは二度目の旅立ちを迎えた。 昨日は久しぶりに我が家でノンビリとくつろいで、いろいろと心配をかけてしまった両親とも他愛ない話で笑い合えた。 ネイトが普段と明らかに違う様子だったのを目の当たりにしても、両親はアカツキに何も言わなかった。 ちゃんと元のネイトに戻せると信じていたからこそ、敢えて一言も触れなかったのだ。 気遣いを心苦しく思いつつ、アカツキもそんな両親に何も言わなかった。 言わなくても、やると決めた以上はやるのだ。 あれやこれやと話が弾むうちに夜も更けて、話の腰を折る形で中断し、そのまま眠りに就いた。 興奮して眠れないかと思いきや、あれこれ話して想像を膨らませたせいか、思いのほか早く眠りに就くことができた。 そして、今日。 「アーサー、アカツキのことお願いね」 「…………」 玄関まで見送りに来てくれた母ユウナの言葉に、アーサーは小さく頷いた。 アカツキの両親の前でも、アーサーは一言も発さなかった。 とはいえ、両親に紹介された時、 アカツキが『マジメで冗談が通じなくて困っちゃうんだよな〜。あっはははは♪』などと調子付いて言うものだから、 アーサーは心の底から抗議しようかと思った。 さすがに人語を操るポケモンがいると話題になれば、アカツキに報道陣やら興味本位の野次馬が群がるだろうから、 アーサーは喉元まで出かけていた言葉を泣く泣く飲み下した。 まあ、そんなこともあったが、コミュニケーションに関しては概ね問題なかった。 アカツキは傷薬や寝袋、非常食が入ってどっしり重くなったリュックを背負うと、 「そんじゃ、行ってきま〜す!!」 「はい、行ってらっしゃい」 笑顔で見送ってくれる母親に背を向け、アーサーとネイトを伴って歩き出した。 まずはキサラギ博士の研究所に、リータたちを迎えに行かなければならない。 早朝の時間帯は――もっとも、レイクタウンの人口は他の町と比べて少ないため、 昼間でも夕方でも、道が混むようなことはなく、ネイトとアーサーと三人で横一列に並んで歩いても、すれ違う人の邪魔になることはない。 朝のひんやりした空気に、これからが正念場なのだと、アカツキは改めて気持ちを引き締めた。 ようやっと、ネイゼルカップに向けて始動することができる。 アラタ、キョウコ、カイトの三人と比べてかなり出遅れてしまったが、それはやむを得ない。 不足分は、これからの頑張りで補っていけば良い。 今のチームが完璧だと思っていない以上、ラシールだけでなく、他のポケモンもキサラギ博士の研究所に残すこともあるだろう。 それがネイトやアーサーにならない保証もない。 「でも、ネイトはちゃんと戻るまで、オレがずっと一緒にいてやんなきゃいけないんだよな……」 無論、ネイトは元に戻るまで傍にいてもらわなければ困る。 その後は、チームのバランス次第で、誰をネイゼルカップに出すかを決めていくことになる。 緩やかな坂道を下り、大きくSの字にカーブした道に差し掛かる。 「……まずはフォレスタウンだな」 当面は、どう動くか決めている。 まず、フォレスタウンでヒビキやミライと会って、アリウスをミライのエイパムたちと引き合わせる。 それから『忘れられた森』へ赴き、ドラップに一家団欒の一時を過ごしてもらおう。 とりあえず、その時点で五日か六日にはなるだろうから、そこから先は随時決めていけばいい。 アカツキにしては珍しく計画的だが、実のところ、それしか考えられなかったのである。 「…………」 「…………!?」 あれこれ思案しながら道を歩いていると、手に何か暖かいものが触れた。 気づいて顔を向けると、ネイトが前脚をアカツキの右手の甲に重ねていた。 「ネイト、どうしたんだ?」 「…………」 声をかけると、ネイトはアカツキの手の甲に重ねていた前脚を小さく振った。 表情もどこかぎこちないが、アカツキには何が言いたいのか理解できた。 伊達に、五年も一緒に過ごしちゃいない。 「そっか、楽しみだよな。 オレも楽しみなんだ。早く元に戻れるようにガンバろうな♪」 「…………(こくん)」 アカツキがニッコリ微笑みながら言葉をかけると、ネイトは頷いた。 それから、うれしそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。 表情がぎこちなくても、言葉を取り戻せていなくても、自己主張の術まで丸ごと奪われてしまったわけではないのだ。 端から見れば噛み合っていななくても、そんなことは当の二人には関係ないことだった。 仲睦まじげにしているアカツキとネイトをまじまじと見やり、アーサーは小さく息をついた。 何か言いたそうにしていることに気づかないまま、アカツキはキサラギ博士の研究所にたどり着いた。 まだ朝も早いためか、敷地のポケモンたちの多くはまだ活動を始めていなかったのだが、リータたちはすでに研究所の建屋の傍に集合していた。 「おっはよ〜♪」 アカツキがニッコリ微笑んで挨拶すると、みんなして一斉に返事をしてくれた。 近所迷惑にならないかと思ってはみたものの、すでに研究所では外付けの設備が唸り声を上げている。 とりあえず、迷惑にはならないようだ。 「ラシールも、見送りに来てくれたんだな。ありがと」 「キシシ……」 今回は残ってもらうことになるが、フォレスタウンで用事を済ませたら、誰かと変わってもらおう。 「何日かしたら、おばさんに連絡入れて、来てもらうからな。 それまで、ゆっくり羽を伸ばしててくれよ。 ……ま〜、今まで十分すぎるくらいゆっくりしてたかもしれないけどさ」 ラシールは特に気にしている様子を見せていないが、本当はアカツキと一緒に行きたいと思っているに違いない。 穴埋めは後日、必ずする。 心に固く誓い、アカツキは勢揃いしたポケモンたちをモンスターボールに戻した。 外に出ているのはネイトとアーサー、そして残していくラシールだ。 ネイトは元に戻るまでずっと傍で接していかなければならないからいいとしても、アーサーはモンスターボールに入ろうとしない。 ……というか、嫌がっている。 昨日の晩、アーサーにはポケモントレーナーのなんたるかをじっくり講義したのだが、 その中で、ポケモンはモンスターボールに入ると説明したところ、なぜか顔を真っ赤にして憤慨した。 『そんな球体に入れと言うのか!! 私は認めん、認めんぞっ!! 死んでもそんなモノには入らんからな!!』 どうやら、アーサーはポケモンがモンスターボールに入るのを、道具代わりに扱われていると思ってしまったらしい。 もちろん違うと説明したのだが、彼の頑なな姿勢を解きほぐすことはできなかった。 「まあ、それならそれでしょうがないから、別にいいんだけど……」 アーサーが入りたくないと主張するのだから、それはそれで別に構わない。 ただ、傷ついて戦えないような状態になったら、その時は遠慮なくモンスターボールに入っていてもらう。 許可は取っていないが、そんな時くらいは大目に見てくれるはずだ。 リータたち四体のボールを腰に差し、アカツキはラシールにニッコリ微笑みかけた。 「そんじゃ、行ってくる!!」 「キシシシシシッ……!!」 ――行ってらっしゃ〜い♪ ラシールの精一杯の声援を受け、アカツキたちはキサラギ博士の研究所を後にした。 時折振り返ってみると、ラシールはずっとこちらを見たまま、翼をバタバタと振っていた。 恐らく、見えなくなるまで続けるのだろう。 振り返った時に一度だけ、手を小さく振り返し、そこから先は振り返らない。 「さて……ようやく旅立ちだな」 相変わらず人通りの乏しい道を歩きながら、アーサーがアカツキに声をかけた。 人が近くにいない場所でなら、アーサーも普通に話しかけてくる。 「うん。やっぱ、病院でじっとしてるのって、つまんなかったからな〜」 アカツキはさも当然と言わんばかりの口調で応じた。 口うるさいあの看護士がその言葉を耳にしていたら、さぞ憤慨するだろうが、そんなことはお構いなしだ。 やはり、じっと退屈な時間を過ごすより、旅先でいろんなものを見たり聞いたり経験したりする方が楽しいに決まっている。 アクティブな性格のアカツキらしいストレートな回答に、アーサーは満足げに口の端を上げた。 清々しい気分で、朝焼けに染まる町を歩く。 小さな町とはいえ、中小企業が点在しており、従業員が我先にと急いで出社しているのを視界の隅に認めた。 「オレは、大人になったら何するんだろ……」 スーツ姿の会社員を見つけて、アカツキは不意にそんなことを考えた。 もちろん、夢はポケモンマスターだ。 夢を叶えるためだったらどんな努力も厭わないし、厳しい試練が立ちはだかったとしても、格闘道場で培った根性で乗り越えてみせる。 それでも、大人になったら何をしているのか……ということが気になって仕方ない。 今はポケモンマスターになることだけ考えていればいいのだが、大人になっても同じ考えのままでいいのか…… なんとなく、考え始めると歯止めが効かなくなる。 ちゃんとした職について、平凡だけど慎ましやかな幸せを噛みしめて暮らしていくか。 それとも、多少はボンビーで辛くても、やりたいことをやって、人生を謳歌するか。 極端でいて難しい二択だが、残念ながら今のアカツキに即答は無理だった。 なぜなら、そこまで突き詰めて考えたことがなかったからだ。 「んー、いつかは考えなきゃいけないんだろうなあ……」 いつかは真剣に考えなければならないことだろう。 子供のうちから背伸びして大人の世界を覗こうとしても、理解できないか、あるいは足を滑らせて転んでしまうだけである。 当然、考えは長続きせず、アカツキは帽子を取って頭を掻き毟った。 「あー、わかんねぇ!!」 「何が分からないのだ?」 当然と言えば当然か、アカツキの叫びを聞きつけたアーサーが言葉を返してくる。 なにやら真剣に考えていたようなので、何かあったのではないかと思ったのだが…… 「いや、なんつーかさ……」 聞かれた…… 無視するわけにもいかず、アカツキは困ったような顔で、しかし正直に答えた。 「大人になったら、何しようかなって……」 「おまえは子供だ。無理をして考えたところで、ロクな考えにはならないぞ。 今は夢に向かってまっすぐ進んで行けばいい。 それ以外のことを考えたところで、おまえには理解できないだろう」 「むぅ……」 取り付く島もないとはこのことか。 アーサーはいとも容易く辛辣な答えを返してきた。 アカツキは不満げに頬を膨らませたが、彼の言いたいことが多少は理解できるだけに、真正面から反論できなかった。 「だが、私はこう思っているのだ。 おまえなら、思い描く夢を形にできる。現実のものにすることができるとな。 だから、おまえがやりたいことを、やりたいようにやっていけばいい。 それに文句などつけるつもりはこれっぽっちもないのだからな」 「アーサー……」 辛辣な言葉を口にするだけでなく、アフターフォローも万全だ。 厳しい中にもアーサーの思いやりを感じて、アカツキは思わず胸が熱くなった。 やりたいことをやっていけばいい。 当たり前なことだが、アーサーの口からその言葉を聞くと、そう思えないから不思議だ。 それだけ、彼は人生経験が豊富なのだ。 勇者の従者として世界を旅していたのだから、自然と大人の考え方が身につくのだろう。 「ありがとな、アーサー。なんか、少しだけスッキリした」 「世話が焼けるな。もう少し単純に考えることだ。 おまえに熟考などという言葉は似合わん」 「…………」 胸の痞えが取れたような気がして、アカツキは笑顔で礼を言ったのだが、優しいかと思えばやはり手厳しかった。 心の内を見透かされたような言葉に、アカツキの表情はすぐさま苦笑に変わった。 まあ、どちらにしても、余計なことは考えない方がいい、ということだ。 当分はポケモンマスターになることを夢見て頑張っていけばいい。 今のアカツキには、それくらいしか考えられなかったからだ。 朝焼けが目に染みる中、やがてメインストリートの東端――イーストゲートを抜ける。 ここから先は、イーストロード。レイクタウンとフォレスタウンを結ぶ道路だ。 野生のポケモンだって飛び出してくるし、旅しているトレーナーから勝負を挑まれることもある。 気を抜いたら負けという、ある意味過酷なルールが適用される場所だ。 「ま、いっか……」 アーサーが手厳しいのは今に始まったことではないし、それに、厳しい相手が傍にいてくれるというのも、悪くはない。 「それはそうと、町の外に出たことだし、みんな、出てこい!!」 アカツキは前方にトレーナーやポケモンの姿がないことを確認してから、腰に差した四つのモンスターボールを手にとって、軽く放り投げた。 競うように次々とボールが口を開き、中からポケモンたちが飛び出してきた。 「ベイっ♪」 やっと外に出られた〜♪ 身体を伸ばしながら、うれしそうに嘶くリータ。 ドラップ、アリウス、ライオットも似たようなものだが、鳴き声の可愛さからか、リータに目が行ってしまう。 「誰もいないみたいだし、みんなで一緒に歩いてこうな」 「キキッ♪」 アカツキの言葉に頷くと、アリウスはぴょんっ、とアカツキの肩に飛び乗った。 「わわっ……!!」 いきなり乗っかられて戸惑うものの、強引に振り落とすわけにもいかず、アカツキはアリウスを肩に乗せたまま歩き出した。 「……ったく、すぐにイタズラするんだから困るんだよな〜」 アリウスのイタズラ好きも、今に始まったことではないのだが…… 「でも、こんなんでよくエイパムたちをまとめられたよな……なんか、不思議」 イタズラが大好きな困った性格だが、これでよくエイパムたちをまとめられたものだ。 もちろん、アリウスは意外としっかりしているところがあるから、エイパムたちに頼りにされていたのだろうが…… 「もしかして、エイパムたちは大事な家族だからってんで、イタズラしてなかったとか? ……そうだよな、それっきゃ考えられねえや」 強引な推理でしかないが、他には考えられなかった。 でも、アリウスには憎めない愛嬌がある。 ちょっとしたイタズラなら笑って許そうと思えるのも、人懐っこさの為せるワザなのだ。 「エイパムたちに会えたら、きっと喜ぶよな〜」 アイシアタウンに流れてくるまで……正確には、ミライがフォレスタウンに帰るとアカツキに話した時まで、ずっと一緒に暮らしてきた家族だ。 血のつながりがあるかは分からないが、そんなことは正直どうでもいい話だ。 血のつながりがあろうとなかろうと、肉眼では決して見えない心のつながりがある。それで十分だった。 だから、アリウスもエイパムたちに会えるとなればうれしいだろう。 そんなことを考えていると、アーサーからアリウスに注意が飛んだ。 「アリウス。あまりアカツキを困らせるな。 以前、カイトとのことがあったからな……厳しく行かせてもらうぞ」 どうやら、カイトとヌオーたちの諍いを思い返しているようである。 あれはアリウスも原因を知っていながらヌオーたちに伝えなかったことにも原因があったから、アーサーとしては見逃せなかったのだろう。 「キキ〜ッ」 しかし、アリウスは知らぬ存ぜぬを決め込んでいた。 尻尾の手で交互にお尻を叩き、あからさまに挑発している。 「…………」 「…………」 アリウスとアーサーの間に、気まずい空気が流れる。 本気でアーサーをどうこうしようとは思っていないのだろうが、マジメなアーサーは冗談だとは受け取るまい。 性格の不一致が、こういう時ほど恨めしい。 一触即発の危険性が急上昇中なのを誰よりも先に察したアカツキは、すぐさま口を開いた。 「お、おい……ここでケンカするのは止めてくれよ。 いくらなんでも、マジでシャレにならねぇからさ。 アリウスも、アーサーを挑発したりするなよ。アーサーはマジメだから、冗談なんて絶対に受け取らないぞ」 根本的に悪いのはアリウスだ。 アーサーも、肩に飛び乗ったくらいで注意する必要などなかったはずだが、見過ごせなかった以上、そこに悪意は見られない。 アカツキの言葉が効いたのか、すぐに気まずい雰囲気は氷解した。 「……安っぽい挑発に乗るほど、私は落ちぶれていない」 ……と、言うものの。 アーサーの口調は明らかに怒りを押し殺していた。 尻を向けられるだけでなく、尻尾の手で尻を叩かれたのだ。冗談だとしても、愉快なはずはない。 「……アリウス。アーサーは許してくれるって言ってるけどさ。 挑発なんてしないでくれよ。仲間同士でケンカなんて、ホントにやっちゃいけないんだからな」 「キキっ……」 アーサーが本気で怒る寸前だったことを察してか、アリウスはアカツキの苦言に素直に従った。 もしもここでアリウスとアーサーがケンカするようなことがあったら、アカツキは実力行使に打って出るだろう。 身体的な能力でポケモンに劣っているとはいえ、人間の中では鍛えられた部類に入るのだ。 両者に痛い思いをしてもらうことくらいは造作もない。 アカツキが本気でそう思っていることを、ポケモンたちは皆、理解した。 本気になった彼が、怒るとすごく怖いことを知っているのだ。 「分かってくれりゃ、それでいいんだ。んじゃ、行こうぜ」 黙りこくったのを了承の返答と受け止めて、アカツキは明るい口調でパッと言い放ち、歩を進めた。 時々はこんなこともあるだろうが、基本的にポケモンたちの仲は良い。 付き合いの浅いアーサーに対しては、まだ分からないことが多いだろうが、それでも仲良くしようという姿勢は見せてくれている。 アーサーも、もう少し頭を柔らかくしてくれればいいのだが……それを口にすれば、また真っ赤な顔で反論されてしまうだろう。 説教顔負けの口の速さと小言の多さは、姑にも勝るほどだ。 どこかシコリが残った感じは誰もが感じていながらも、これ以上ややこしくさせたくないと思っていたのも共通していた。 「でも、どんなことでも言葉に出さなきゃ伝わらないからな〜。それでケンカされても困るけど」 アカツキは背後にみんなの気配を感じつつ、歩きながらいろんなことを考えていた。 果し合い寸前のケンカなどされても困るというのが正直なところだが、どんな言葉でも口にしなければ相手には伝わらない。 互いに想い合っている間柄なら、気持ちは口にしなくても伝わるものだ…… よく、人はそんな風に思い込む。 だが、それは間違いである。 気持ちはあくまでも気持ちであって、相手によって受け止め方は変わってくる。 無論、言葉についても同じことが言えるのだろうが、言葉は気持ちを形にしたものだ。 目には見えなくても、耳から入って、人は頭でその言葉の意味を咀嚼する。 そして、相手が何を言いたいのか、どんな気持ちでいるのかを、表情や仕草といった要素と共に判断する。 「ま、今のうちにガンガンぶつかってくれた方が、互いにいろんなことが分かっていいんだろうけどな」 ケンカはしてもらいたくないが、思っていることを素直にさらけ出すことで、相手のことを理解できるなら、それはそれで必要なことかもしれない。 「…………」 アカツキは傍らを黙々と歩くネイトに目を向けた。 すぐにアカツキの視線に気づいてか、ネイトは目をパチパチさせながら、見上げてきた。 「ネイトとも、ケンカしたことあったもんな〜」 出会ってから五年が経つ。 何度もケンカして、時には絶交寸前のところまで友情にヒビが入ったこともあった。 しかし、それではダメだと思い立って、もう一発水鉄砲でぶっ飛ばされる覚悟で謝りに行ったり、 自分の正直な気持ちを伝えたりして、亀裂の入った友情を共に修復してきた。 ケンカするのも、自分の思っていることを相手に伝えようとして、相手に素直に受け入れられずにムキになったからだ。 結果的に、心の奥底までさらけ出して、そうやって理解り合ってきた。 「今は……ネイトはそんなことできないけど」 ネイトはケンカなどできる状態ではない。 思い切り暴れたいと思っても、それができないのだ。 「でも、どんだけ時間がかかっても、オレたちが絶対元に戻してやっからな。おまえの心に光を当ててやる」 今は、抱いた気持ちを言葉には出さなかった。 ありえないことだが、言葉を口にしたら、なんとなくその気持ちが薄っぺらく感じられてしまうのではないか、と思ったからだ。 「……なんでもない。ちょっと、気になっただけ」 アカツキはネイトに微笑みかけ、なんでもないと言った。 「…………?」 ネイトは釈然としないような面持ちを見せたが、すぐに興味をなくしたのか、視線を前方に戻した。 「……今は、ネイトを元に戻すことを一番に考えなきゃな。 そうじゃなきゃ、ネイゼルカップになんて集中できやしない」 旅に出たのも、まずはネイトの気分転換を図るためだ。 その方がリライブも加速すると言われたし、何よりアカツキ自身が外の世界を久しぶりに見てみたいと思っていた。 だけど、ネイトを元に戻すことが最優先。 どれだけ時間がかかっても、絶対に元のネイトに戻してみせる。 熱く強い気持ちを胸に、アカツキは視線を前方に据えた。 少し曲がりくねった道の先に、おぼろげながらもフォレスの森が見えてきた。 第21章へと続く……