特別講義:ポケモンの特性講座 みなさん、こんにちは。 ナナカマド学長のお招きで本日の特別講義を受け持つことになりました、キサラギ・アツコと申します。 えっと……一応、ポケモンの研究者をやっています。 研究仲間からはキサラギ博士とかアッコちゃんって呼ばれてたり、娘からはマミーとか、娘のお友達からはおばさんって呼ばれてます。 まだ、おばさんって呼ばれるようなトシじゃないんですけどね。困ったものです〜。 ………… まあ、私のことはどうでもいいですね。 では、早速本題に入ります。 今回の講義では、ポケモンの『特性』についてお話します。 『特性』っていうと、なんだか難しいことのように聴こえませんか? でも、そんなに難しいことじゃないんです。 『特性』って言うのは、ポケモンが生まれた時から持っている、ポケモン自身に備わった力のことなんですよ。 学会ではもっと難しい言葉で定義されていますけど、一般ではポケモン自身に備わった力という認識で間違いないと思っています。 みなさんにお尋ねしたいんですけど、ポケモンの『特性』は大まかに二種類に分けられるんです。 どんな風に分けられるか、ご存知ですか? ………… うーん、いきなりの質問じゃダメですかねえ? でも、そんなに難しいことじゃないですよ。 発動の仕方、なんです。 常に発動しているか、一定の条件下で発動するか……の二通りなんです。 この地方では最初の一体としてヒコザル、ポッチャマ、ナエトルが推奨されていますよね。 それら三体のポケモンが備えている特性は、それぞれ『猛火』『激流』『深緑』です。 ピンチになった時に、底力として発揮される特性ですから、普段は特に働いたりしません。 ポケモンバトルにおいては、ポケモン自身に備わっている特性をいかにして使いこなせるか……が、勝敗に関わってきます。 ですから、これから広い世界に旅立つみなさんには、いろんなことを知って、いろんなものに興味を持ってもらいたいと思っています。 私の話が、みなさんの助けになれれば、幸いです。 それでは、お配りした資料の5ページを開いてください。 『不眠』という特性があります。 この地方ではヤミカラスと、その進化形であるドンカラスが備える特性ですが、 他の地方で言えばスリープや進化形のスリーパー、ホーホーと進化形のヨルノズクなどのポケモンが備えています。 効果は呼び名の通り、眠りの状態異常を一切受け付けないというものです。 もちろん、そのポケモン自身が『眠る』を使った時も同様ですから、 そういった技で体力回復を図れないということも考慮しなければならないんですね。 ――さて、ここで質問をしましょう。 みなさん、不思議に思ったことはありませんか? 『不眠』の特性を備えるポケモンでも、ちゃんと眠ることがあるんだって。 もちろん、ポケモンだって生き物ですから、睡眠で身体と脳を休めなければ生きてはゆけないワケです。 そうなると、矛盾してるんじゃないかって思う方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。 私がポケモンの研究者を志したのは、近所に物知りな博士がいらっしゃったからなんです。 その方は、よく私にこう言ってくれました。 『少しでも疑問に思ったことがあるなら、君の気が済むまで解き明かしなさい。そうすることで、君はまた一つ賢くなる』 その言葉を、耳にタコができるくらい聞かされたんですけど、そのおかげでしょうねえ…… 私はポケモンのことをいろいろと知りたいと思うようになりました。 学校でも友達と外で遊ぶよりも、図書館でいろいろ調べ物をするのが好きでしたし、 親に無理を言って大学まで通わせてもらって、博士号の資格も取りました。 ……ああ、話が脱線しちゃいましたね。元に戻しましょう。 私は、少しでも疑問に思うことは納得行くまで解き明かさないと夜も眠れないタチですから、ちょっと調べてみたんです。 そうしたら、面白いことが分かりました。 ポケモンの『特性』というのは、基本的に戦う時……闘争本能が昂っている時に働くことが多いってことなんです。 自分の身を守るために、生まれつき備わっている力を使う。 言い換えれば、それ以外の時は、むやみに相手を傷つけたりせず、無駄な力を使わないようにセーブしてるんです。 だから、普段は『不眠』の特性を備えたポケモンでも、眠たい時にはちゃんと寝るという行動を取るんですね。 当然ですけど、普段とポケモンバトルをやってる時なんかは違うわけです。 私のチームの方に、こんな理論を唱える方がいらっしゃるんです。 ――『不眠』は、ポケモンが無防備な状態を相手にさらさないよう、危険回避のための特性だ。 私もその意見には賛成だったりするんです。 なぜかって? 簡単なことですよ。 ポケモンというのは、眠っている時でも周囲の状況を常に気にかけているんです。 ケーシィなんていい例ですよね。絶えず危険が迫っていないか周囲に気を配って、 危ないと無意識にでも感じればすぐにテレポートで逃げてしまいます。 おかげで、ケーシィは初心者トレーナーには捕まえにくいポケモンだって言われてますけどね。 『不眠』は、ポケモンバトルの時にのみ発動する特性です。 普段眠っている時には、ケーシィと同じ要領で、最低限の余力だけを残して身体と脳を休めています。 ですけど、ポケモンバトルになると、相手を倒すことに全力を尽くさなければなりません。 そういった時に、余力なんて残すことはできませんよね? 相手が自分より明らかに弱ければ話は別ですが、ポケモンバトルの大半はそんな余裕をぶっこいて勝てるシロモノでもありませんから。 全身全霊を尽くさなければならない時だからこそ、ポケモンはそれぞれの種族に備わった『特性』を表に出すんです。 『不眠』は相手に眠らされて無防備な姿をさらさないように、自分の身を守るための特性です。 他にも同じ効果の特性で『やる気』がありますけど、そちらは逆に神経を昂らせることで睡魔を完全に跳ね返すことができますから、 ある意味『不眠』よりも強烈かもしれませんね。 状態異常を防ぐ特性のほとんどは、バトルで全力を尽くすために、余計な力を使わずに済むように、自然に備わったものが多いんです。 麻痺を防ぐのは『柔軟』。凍結を防ぐのは『マグマの鎧』。混乱には『マイペース』。メロメロには『鈍感』……といった具合ですね。 中には種族的な特徴をそのまま特性に転化したポケモンもいますから、そういった種族のことを考えてみるのも楽しいかもしれません。 では、次のページを見てください。 次の特性は『威嚇』です。 シンオウ地方のポケモンではレントラーやムクホークが備えている特性ですね。 他の地方ではアーボやアーボック、オドシシ、ボーマンダといったポケモンが備えています。 これもまた呼んで字のごとく、威嚇することで相手の攻撃力を下げる効果を持っています。 言うまでもありませんが、ポケモンバトルの時にのみ発動する特性ですね。 私がこの特性で疑問に思ったのはですね、人間よりもよほど強靭な心を持つポケモンなのに、『威嚇』で攻撃力を下げられるってことなんです。 本当に不思議ですよね〜。 弱いポケモンの特性でも、高いレベルのポケモンにさえ、効果を発揮するんですよ。 普通に睨めっこするような感覚とは違うんだってこと、お分かりかと思います。 そこで、私なりに考えてみたんです。 攻撃力を下げるということが、何を指すのか……? まだ仮説の域を出ていない推測でしかないんですけど、丁度いい機会ですから、みなさんに聞いていただきましょう。 普段は表に出てこない特性ですけど、だからこそ普段から誰彼構わず威嚇して回っているワケではないんです。 それがポケモンバトルになると、闘争心をむき出しにして、相手を威嚇するんですね。 別に、威嚇したところで相手が怖がって逃げたり、腰を抜かして一歩も動けなくなったりするわけじゃないんですけど…… 私は、そこにヒントがあるんじゃないかって思いました。 能力を下げる特性を持つポケモン以外には必ず効く……というところです。 ……そうですね。 高いレベルのポケモン同士が戦っているとしましょう。 仮に『威嚇』されても、相手のポケモンは大して気にも留めないでしょう。それでもちゃんと攻撃力は下がっています。 そこから考えられるのは、無意識に全力で攻撃できないように相手に制約(ブレーキ)をかけるということです。 相手の潜在意識にまで働きかけて、全力を出せないように暗示をかける……という言い方もできるんじゃないでしょうか。 ………… 確かに、ずいぶんと強引な展開だというのは分かってるんですけど、 そうでもなければ、ビックリしない相手の攻撃力を下げることの説明にはならないんですよ。 雲をつかむような話ですよね。 それでも一つ一つ実証することが必要なんですよ。 『威嚇』に似た特性では『プレッシャー』があります。 こちらは相手が技を放った時に消耗する体力を増加させ、疲れやすくする効果があります。 もちろん、『プレッシャー』も、相手が気後れするようなことはありません。 両者の共通点は、相手が特性を放たれたこと……自分が相手の特性によって抑えられていると感じないことなんです。 さて、『威嚇』による攻撃力低下を受け付けない特性は、潜在意識に働きかける『威嚇』を根本的にブロックしているということです。 『クリアボディ』という特性がありますが、それは『威嚇』だけでなく、 鳴き声や尻尾を振るなど、能力低下の技の効果さえ無効にしてしまいます。 ただし、自分や仲間が仕掛けた能力上昇効果は受け付けますから、上がった能力は基本的に下げられないという強みですね。 とはいえ、『威嚇』によって下げられる攻撃力の割合にも限度があります。 全力投球してこないだろうと高を括っていると、手痛い一撃を食らってしまうかもしれませんから、 万が一の保険程度に考えるのが一番でしょう。 ……と、私の知り合いのトレーナーが言っていました。 ポケモンの能力として捉えた上で戦略を立てていく必要がありますね。 ………… あら、もう時間が迫って来ましたね。 それでは最後に『危険予知』についてお話します。 この地方ではグレッグルや進化形のドグロッグが備えている特性ですね。 毒タイプと格闘タイプを併せ持つ珍しいポケモンですよね。みなさんの方がお詳しいんじゃないでしょうか。 グレッグルなんて頬っぺたの毒袋を膨らませたり縮ませたりして独特の可愛らしい鳴き声を上げたり、 「ケッケッケ……」なんて愛嬌のある仕草まで見せてくれたり…… ああ、そうそう、知人に聞いたところだと、ヤンキー座りでいかにもやる気のなさそうな態度がたまらないって話らしいです。 ………… グレッグルって、見た目でちょっと敬遠されてますけど、とんでもないですよ。 私も、三体のグレッグルと日がな一日過ごしてますけど、愛嬌があってすっごく可愛いんです。 気に入らない相手には『毒突き』で黙らせることもあるんですけど、そこもいいんですよ。 ニャルマーに似てるねって言われますけど、あっちよりもよっぽど可愛げがあってたまりませんね。 で、『危険予知』の効果はみなさんもご存知の通り、相手が自分に対して決定打となるような技を覚えているか…… あるいは一撃で倒してくるほどの威力の技を覚えているかどうかを予知して、身震いすることでトレーナーに知らせることができるんです。 エスパータイプでもないのにどうやって予知してるんだって疑問はありますよね? ですが、これは予知というよりも、本能的に身に迫る危険を感じ取っているだけなんです。 『危険予知』はポケモンバトルでのみ発揮される特性なんです。 どうしてそんな風に断言できるか、分かります? ………… 自然災害に対してはまったく効果を発揮しないからなんです。 大雨やがけ崩れといった災害をあらかじめ知ることができないのは、 ポケモンバトルでは相手が『敵意』を持っているからと考えられているからなんですね。 自然災害って、誰かの明確な意志で引き起こされるものではありませんから、感じ取ることができないっていう解釈なんです。 ポケモンバトルでは、相手は明確に自分に対して敵意を抱いています。一応、倒すべき相手ですから。 ですけど、敵意の中に、自分に対する絶対的な優位を確信する自信も見え隠れしていたりします。 たとえば、カントー地方にはポッポと呼ばれる鳥ポケモンがいます。 同じく、虫タイプのポケモンでキャタピーと呼ばれるポケモンもカントー地方に棲息しています。 ポッポはキャタピーを食べることがあると言いますが、 それは自分が相手に対して絶対的な優位を確保していると理解しているからこその本能なんですね。 まあ、中には気性の荒いポケモンもいますから、すべてのポケモンでそういった学説が当てはまるとは限りません。 『危険予知』は、そういった優位をうかがわせる自信を敏感に感じ取ることで、 相手が自分に対して決定打を与える方法があるかどうか識別する特性なんです。 相手の使えそうな技を事前に知ることができるのは、場合によっては大きなアドバンテージになります。 ですが、それ以上でもそれ以下でもないのが、この特性の致命的な弱点です。 ………… そうですね、こういう言い方をすれば分かりやすいでしょうか。 天変地異が起こると分かっても、それを防ぐ手立てがなければ、被害を食い止めることはできない……ということなんです。 ポケモンバトルでは、入れ替えが禁じられているケースもあります。 そういう時には、相手の使う技が分かったところで、対抗策がなければどうしようもないのが辛いところです。 ですが、そういった時には『とんぼ返り』や『バトンタッチ』などの技を使うことで不利な状態から脱するのが有効です。 もちろん、対抗策がある場合には、相手が使ってきそうな技を予測して、その上で相手を出し抜く戦い方をすればいいわけです。 ポケモンの『特性』は、その効果を正しく理解して初めて、使いこなせるものです。 これから広い世界に旅立って、幾多のバトルを経験されるみなさんには、些細なことでも疑問に感じたら、 解決しろとまでは言いませんが、その疑問を放っておかないでほしいんです。 世の中の役に立たないような雑学でも、ご自身の血肉となって、自分の役に立つことはあります。それと同じですね。 短い時間ではありましたが、みなさんのこれからのトレーナー・ライフに少しでもお役に立てれば、幸いです。 雑駁ではありますが、これにて特別講義を終了いたします。 ご清聴、ありがとうございました。 『特別講義:ポケモンの特性講座』 −了−