■これまでのおはなし  ミシロタウンに引っ越してきたユウキは、途中、ハルカに襲ってくるポケモンから助けてもらう。 そして二人は、ひょんなことから旅に出ることに。 行方不明の「ルビー」「サファイヤ」を、探す旅に出ることになった。 ユウキ「(強い、コイツ……オレは負けるのか!?コイツに……!!) ……っの!アチャモ、ほの……」  バタッ。人が倒れる音がした。ユウキが力尽きて倒れたのだ。そして、ハルカは叫んでいる。 ハルカ「ユウキ!?ユウキ、しっかりしてっ!!!」 第3話 Winner −勝利−  それは、いきなりのことだった。 ミシロタウンから歩き出してまもなくのこと。 ここ、101番道路でとある少年に声をかけられ、勝負を挑まれたのである。 ???「おいっ、そこのお前ら!ポケモントレーナーだな!」 ハルカ「ええ、そうよ。だったら何だっていうの?」 ???「俺はたんぱんコゾウのゴロウ!俺とポケモン勝負しろっ!!」 ハルカ&ユウキ「いいぜ!(いいわよ!)」 ハルカ「って、あ、あんたがポケモンバトル!?初めてなんでしょ、これが……」 ユウキ「何いってんだよ、ハルカ。オレはさっき、野生のジグザグマに勝ったんだぜ! だから今度は、初めてのトレーナー戦だ!この機会を逃すわけにはいかねぇだろ!?」 ハルカ「そりゃそうだけど……」 ゴロウ「はっはっはっは!初めてのバトルか。まぁ、俺も同じようなものだけど。 野生のポケモンとは一杯戦ってるけど、トレーナーバトルは初めてなんだよな。 手加減なしでいこうぜ」  ニヤリと笑うゴロウ。そして、モンスターボールをにぎりしめる。 繰り出されたのは……。 ゴロウ「いけぇっ、ジグザグマ!!」  ジグザグマだった。そして、ユウキはアチャモを繰り出す。 ユウキ「アチャモ、いけっ!」 アチャモ「チャモ〜♪」  スリスリとユウキにすりよっていくアチャモ。 ユウキ「アチャモ。アイツを倒すんだ、いいな!」  いきなりきつくなったユウキの目に、一歩下がるアチャモ。 ちょっと怖かったようで、それでも大好きなユウキのいうことを聞いている。 ジグザグマをにらみつけ、いよいよユウキの初めてのトレーナー戦が行われようとしていた。 ハルカ「ユウキ。気をつけるのよ。 ゴロウのジグザグマは野生のジグザグマとは違って鍛えられてるから」 ユウキ「うるせえな。オレが勝つに決まってるだろ」  その自信はいったいどこからくるのだろうか。 確かに、野生のポケモンとの戦いは2、3度し、それらはすべて勝ってきた。 だが、今度はトレーナーとのバトル。しかも、初めての……。 ゴロウ「ジグザグマ、ひっかく攻撃!」 ユウキ「アチャモ、ひのこだ!」 ジグザグマ「ジッグ〜!!」 アチャモ「チャモーッ!!」  だが、野生ポケモンとの勝負が多いゴロウと、 まだ2、3度しかしていないユウキでは差が当然のようにでてくる。 何と、アチャモが口から炎を出す前に、 ジグザグマのひっかく攻撃が、アチャモを直撃したのだ。 アチャモ「チャモ〜ッ!!」  宙にほうりなげられ、ドサッと草むらに落ちるアチャモ。 ユウキ「アチャモ、がんばれ、たつんだ!」 アチャモ「チャ……モーッ!!」 ユウキ「よし、いいぞ!アチャモ、たいあたり!!」 ゴロウ「がんばれジグザグマ!こっちもたいあたりだっ!!」  体力満タンのジグザグマ。そして、少し疲れ気味のアチャモ。 結果は、少しアチャモのほうが劣っていた。 アチャモ「チャモーッ!!」 ユウキ「あ、アチャモ!!」 ハルカ「アチャモ!」  予期せぬ出来事に、戸惑うユウキ。 絶対勝てると思ってた。野生では倒せたジグザグマ。それなのに、なぜ……。 ゴロウ「どうやら、勝負あったようだね」 ユウキ「……っ!!今のはまぐれだ!もう一度やれっ!!」 ゴロウ「それはかまわないが、今のアチャモじゃあ、もう戦えない。 ポケモンセンターにいって、出直してくるんだな(笑」  鼻で笑うゴロウに、頭にくるユウキ。 そのせいか、ユウキは体力が残り少ないアチャモにこう命じてしまったのである。 ユウキ「アチャモ、ひのこだ!!」 アチャモ「アチャー!!」  それでもユウキのために、必死で攻撃するアチャモ。 ハルカはそんなユウキを見ていた。ただ、じっと。 ゴロウ「ジグザグマ、たいあたり」  余裕をこいた命令に、ジグザグマはアチャモめがけて突進していく。 アチャモ「アチャーッ!!」  案の定、ハルカの予測していたとおり、アチャモはついに力尽きてしまった。 瀕死状態に陥っている。 ユウキ「あ……アチャモ!!」 ゴロウ「かわいそうだな、そのアチャモは」 ユウキ「なにいっ!」 ゴロウ「この勝負は君の判断負けだ。もしも俺がジグザグマに最後のたいあたりを命じる前に、 アチャモにきずぐすりなど回復系の道具を使っていればアチャモは俺に勝てたのかもしれない」 ユウキ「……道具……?」 ゴロウ「いいか。トレーナーバトルはそこらの野生ポケモンとのバトルとは違う。 それぞれの信念において鍛えられた強いポケモンばかりがそろっている。 ユウキくん。つまり君は”井戸の中のカエル”だったということだよ。 野生ポケモンに勝っただけでいい気になっていた。周りの強さを知らずにね」 ユウキ「貴様ァ!いいたいことばっかりいいやがって……!!」  ゴロウのエリをつかむユウキ。 ゴロウ「ごめんだけど、俺は暴力は反対なんだ」 ユウキ「……このやろっ!!」 ハルカ「やめて、ユウキ!!」 ユウキ「何だよハルカ!だってこいつ、オレが井戸の中のカエルだっていいやがんだぜ!?」 ハルカ「そうよ。ゴロウくんのいってるとおりよ!」 ユウキ「何ぃっ!?」 ゴロウ「ほらみろ。君はトレーナー失格だ。自分のポケモンの体力も考えないでバトルしている」  そういうと、ゴロウはユウキの腕をはなし、エリを整える。 そして、ジグザグマをモンスターボールに戻し、こちらに振り向いた。 ゴロウ「戻れ、ジグザグマ!……俺ならいつでも相手してやるよ。 井戸の中のカエルくん。はっはっはっはっは!」  高笑いして去っていくゴロウに、ユウキはくそっ、とこぶしを思い切り切り株にぶつけた。 手が少し痛むが、そんなこと関係ない。負けたのが……負けたのが悔しかった。 それだけでなく、ゴロウに「井戸の中のかえる」とまでいわれてしまったのである。 ハルカ「ユウキ。ゴロウくんのいうとおりよ。この勝負は、あなたの判断ミスで負けたって……」 ユウキ「うるせえ!オレは認めねえぞ!!オレが負けたなんて、ぜってぇ認めネーッ!!」  ダッ!!そのまま走り去っていってしまうユウキ。 ハルカは大きなため息をつき、アチャモのそばによっていった。 ハルカ「アチャモ、お疲れ様。でもユウキは、悪気があってあなたに無理させたわけじゃないのよ」 アチャモ「チャモ……チャモ〜」 ハルカ「そう。アチャモ……あなたはユウキのことが好きなのね。だからあんなに一生懸命だった。 負けると思ってても、せいいっぱいたたかった」 アチャモ「チャモ……」  かすかにうなずくアチャモ。ハルカはそんなアチャモを抱き上げ、空をみあげる。 ハルカ「・・・ったく、馬鹿ユウキ!」  ハルカはそうつぶやくと、ポンと近くにあった石をけるのであった。 <コトキタウン入り口> ユウキ「……はぁ、はぁ、はぁ」  その頃ユウキは、走り走ってコトキタウンまでやってきていた。 ここ、コトキは101番道路の先にある町で、人工も少ない小さな町だ。 ユウキ「……ちくしょう、ちくしょう!!」  知らず知らずに流れてくる涙。 とめようとしてとまらなくて、どうしようもなくこぼれてくる。 どうして涙が出てくるんだろう。自分でもわからなかった。 ユウキ「……ちく……」 ユウ「大丈夫かい、君?」  そのとき、ふと声をかけられた。見ると、ユウキよりも背の高い青年が立っている。 ユウキは急いで涙をふき、その青年を見た。 ???「こんな道端で何をしているんだい?」 ユウキ「……別に何もしてねえよ」  泣いてるところがみられてなかったか。それだけが気がかりだった。 一人になりたかった。一人にしてくれ。 ユウキはそんな気持ちで短く答える。誰だろうとそばにいてほしくなかったのだ。 ???「……ぼくの名前はユウ。たんぱんコゾウだ」 ユウキ「えっ」  はっとなり、顔をあげる。 相手は……あのゴロウと同じたんぱんコゾウだった。 名前は「ユウ」。確かそういっていた。 ユウキ「たんぱんって……」 ユウ「君、ゴロウくんと戦って負けたんでしょ」 ユウキ「!!!」  な、なぜこいつがそのことを!! ちくしょう、アイツ、もしかしてオレが負けたことみんなにいいふらしてんじゃねーだろうなぁ!!  ユウキの頭に、ニヤニヤと笑うゴロウの顔が浮かんでくる。 ユウ「ははは。どうしてそんなこと知ってるのかって?なんせぼくはゴロウの兄だもの」 ユウキ「エエエエエエエエエエッ!!」  驚きを隠せなかった。 大きな声をあげて、ユウキはもう一度たずねる。 ユウキ「…あ、兄って……本当ッスか……?」 ユウ「嘘ついたって何の得にもならないでしょ」 ユウキ「…………」 ユウ「さっき、ヘボトレーナーと戦って勝ったっていってた。ソイツの名はユウキだって」 ユウキ「へぼ……あぁっ、ムカツク!!!」 ユウ「まぁまぁ。それよりぼくの話を聞いてよ」 ユウキ「ヘンッ。聞きたくないね!敵の一味の話なんか!」 ユウ「敵じゃなくて、ライバルだよ」 ユウキ「らいばるぅ!?」 ユウ「ああ。ポケモントレーナー。皆ポケモンマスターを目指して旅してる。 もちろん、マスターを目指しているだけじゃない。他にもいろいろ目的があって、旅してる。 でも、『ポケモンとわかちあい、協力して旅をする』という点だけは、みんな同じだ」 ユウキ「……あのゴロウも……」 ユウ「ゴロウはな。昔ジグザグマに大怪我させてしまったことがあるんだよ」 ユウキ「え!?」  あんな強いジグザグマが?誰かにやられたのかな? ユウ「ジグザグマと一緒に修行してて、 その間にちょっとゴロウは家にご飯をとりにいったんだ。 でも、その間に……ジグザグマはわなにかかっちゃったんだよ」 ユウキ「ワナって……」 ユウ「おそらくロケット団の仕掛けたもの」 ユウキ「!!」  ロケット団。ハルカの弟を監禁し、ポケモンを悪事に使っている人たちのこと……。 ユウ「何とか助かったんだけどね…… いや、ぼくがロケット団をバトルで追い返したんだ。 そしたらアイツ、もっと強くなりたいって。 ジグザグマを自分で助けられるようになるくらい、 ジグザグマも自力で逃げられるようになるくらい…… もうこれ以上ぼくに甘えてばかりいるのはいやだって」 ユウキ「……」 ユウ「それからゴロウは修行を重ねて、強くなったんだ」 ユウキ「……そうだったのか……」  ただの生意気ヤロウだと思っていたのに。 人って、案外わかんないもんなんだな……。 ユウキ「あの」 ユウ「ん?」 ユウキ「オレ、戻ります。勝負したところにアチャモをおいてきちゃったんで……。 仲間のことも気がかりだし……」 ユウ「……そうか」  ふっと微笑むユウ。どうやらユウキは、前向きになってくれたようだ。 さっきまで泣いてばかりいたユウキが、やっと立ち上がる。 ユウキ「それじゃ、いきます」 ユウ「ああ、気をつけてな」  二人は正反対方向に動き出した。 ユウキは駆け足になる。 ユウキ(アチャモ……ごめんなアチャモ…… オレ、自分のことばっかりで、お前のこと、考えてなかった……) ハルカ「あっ、馬鹿ユウキ!!もう、どこにいたの!探したんだからぁ」 ユウキ「ハルカ……!アチャモは!?」 ハルカ「ちゃあんとここにいるわよ」  もうすでに、ポケモンセンターで回復していたのか、元気そうに微笑むアチャモ。 チャモチャモと軽い鳴き声をあげ、それはユウキの心を癒す。 ユウキ「アチャモ……!!」  ユウキはアチャモに抱きついた。 アチャモはハルカの腕の中から、ユウキの腕の中へとジャンプする。 アチャモ「アチャ〜♪」 ユウキ「ごめんなアチャモ!!オレ、オレ……」  涙が流れてきた。 ひとつ、ひとつ……またひとつ。 ユウキ「……もう一度、アイツと戦いたいんだ。やってくれるか?」 アチャモ「チャモ!」 ハルカ「またやるの?」 ユウキ「ああ。今度は負けてもかまわないさ。 アチャモを第一に考えて、バトルするって決めたんだ」 ハルカ「へぇ…」  何かあったのかな。 ハルカはユウキの変化を不思議に思ったが、やがて微笑んだ。 ハルカ「ファイト、ユウキ♪アチャモ♪」 ユウキ「ああ!」 アチャモ「チャモチャモ☆」 <101番道路> ゴロウ「にしても、アイツ馬鹿だよな。 ポケモンのことも考えられないトレーナーなんて、最低だ……」  草むらにしゃがみこみ、ジグザグマの毛の手入れをしているゴロウをみつけ、 ユウキは早速話し掛けた。 ユウキ「どこの誰が最低だって!?」  BGM「アドバンス・アドベンチャー」 ゴロウ「!?」 ユウキ「いっとくけどな。オレはもう馬鹿ユウキじゃないぜ!今度こそバトルに勝ってやる!!」 ゴロウ「ホホォ。いってくれるじゃないか。いけ、ジグザグマ!」 ユウキ「……戦ってくれるか、アチャモ?」 アチャモ「チャモ!」  アチャモはやる気満々だ。それを確認すると、ユウキは早速バトルを開始した。 ハルカ「アチャモ対ジグザグマ!時間無制限、開始!」 ゴロウ「ジグザグマ、たいあたりだ!!」 ユウキ「アチャモ、よけてひのこ!」 アチャモ「チャモーッ」 ジグザグマ「ジグジグー!」 ユウキ「よっしゃ!!」  こちらのほうが一歩早かった。 ユウキは笑顔でアチャモを見張る。 アチャモのひのこが、ジグザグマに「やけど」をおわせた。 ゴロウ「くっ……やけどのせいでダメージが減ってしまう!! ジグザグマ、がんばれ!ひっかく攻撃ッ」 ユウキ「……そのままつっこめ、アチャモ、たいあたりだっ!!」 アチャモ「チャモ〜〜〜〜〜〜ッ!!」  もってる力をすべて出しきって。 それぞれがお互いの信念の中で戦い……そして、勝者は……。 ゴロウ「そ、そんなぁ!」  涙を流すゴロウ。その場にしゃがみこみ、倒されたジグザグマを抱きかかえた。 ゴロウ「よくがんばったな、ジグザグマ……。お前もよくやったじゃないか、ユウキ!見直したぜ」 ユウキ「へへっ、まあな♪」  ウインクし、アチャモを抱き上げるユウキ。 ハルカ「やったね、ユウキ!」  やがて二人は微笑むのであった。