一人の少年が「ゴースト」に襲われている。  少年は「助けて」を繰り返していた。  そしてそこに現れたのは――。 第4話 Fellow −仲間− ユウキ「腹へっても〜うごけねー・・・!!」  パタリ。ユウキはその場に座り込んだ。そして、地面に背中をくっつける。 多少砂がじゃりじゃりして痛かったが、そんなこと関係なかった。 ユウキ、そしてハルカの二人は「トウカのもり」を抜けてから30分。 この方何も食べていない。 ハルカ「だらしないわね!!男だったらもっとシャキっとしなさいよシャキっと!!」 ユウキ「じゃあオレこれから女になる」 ハルカ「馬鹿っ!!」  ハルカはぴしゃりといった。 彼女がまだ「ポケモンレンジャー」に入隊したてのころ(つまり見習い)は大変辛い思いばかりしていた。 食事も就寝も起床もすべて決められた時刻にしなければならない。これは普通の学校も同じだが、 他に弱音をはいたって誰も助けてくれる者がいないのだ。これが学校とポケモンレンジャーの違いだ。 だが、この修行(?)は今後のハルカにとって多いに役立ったのは確かだ。 両親がロケット団から亡命するときも、両親をうまく誘導できたし、 金儲けのためにポケモンバトルに加勢するときの知恵もここからもらった。 はじめて”ポケモンバトル”を見たのも、この修行でのことだった。 ユウキ「……おい、店があるぞ!」 ハルカ「え?こんな人里はなれたところに?」  二人がいるのは104番道路。そう、ここには蒼く澄んだ川と木々しかない。 ユウキ「みろ、ありゃフォークだ!!ぜってぇ食い物屋に違いない!!」 ハルカ「で、でもあたしたち今お金一円もないのよ!?」 ユウキ「そんなこたぁ気にするな!いざとなれば食い逃げ――こんちぁーす!」  ユウキは威勢よくお店に入っていった。店員は二人いた。彼女らはきょとんとしてユウキを見たが、 お客だと判断したらしく、笑顔でふるまった。 ユウキ「何でもいいから安いモンひとつくれ!!」 店員「安いもの・・・?じゃあ、そこにオレンの実がひとつありますけど・・・」 ユウキ「じゃあそれくださ・・・えっ、オレンっていやぁ実じゃねーか!! ふざけんな!オレのほしーもんは食いものだぞ!く・い・も・ん!!」 ハルカ「ばっ、馬鹿、ユウキ!!ここはフラワーショップよ!!」 ユウキ「ええっ!?」  当惑した店員にぺこぺこしながら、ハルカは赤くなって怒鳴った。 ユウキは驚いて看板を見てみると、確かに「フラワーショップ・サン・トウカ」と書かれてある。 そしてその文字の両隣に、スコップとジョウロ、そして上にはお花の絵が・・・。 ユウキ「・・・最悪だ・・・オレ、どうかしてたんだ・・・ボケちまったぜ・・・」 ハルカ「あまりの空腹にね」  どうやらユウキは”スコップ”を”フォーク”に見間違えたらしい。 ユウキ「うるへー。オレ、かえる」 ハルカ「あやまるくらいしなさいよ!!」 ユウキ「あ・・・?ああ・・・すまんかった。んじゃ・・・」 ハルカ「あんたねー!!」 店員2「あの・・・」  先ほどの店員より少し背の低い女の子がたっていた。 年は10代くらい。ハルカらと背丈はあまりかわりなかった。 店員2「よかったらご飯、ご馳走しますけど・・・」 ユウキ「ほんとかっ!?」 ハルカ「え・・・でも、悪いし・・・」 店員「いいのよ、別に。あなたたち旅人そうだし・・・男の子の顔なんてもう腹ぺこで死にそうな顔してるわ」 ユウキ「飢え死にする〜(涙」 ハルカ「嘘はやめなさい!」 ユウキ「でも、腹減ってるのは確かだぞ!」 ハルカ「・・・・しょうがないわ・・・じゃあ、お願いします」  ハルカはユウキをも無理やり頭をさげた。 ユリ「はじめまして。あたし、ユリっていいます。このお店の店長です。こちらは・・・」 カノ「カノよ。見習いだけど、ユリさんはとっても優しいの。よろしくね♪」 ハルカ「あたしはハルカ。ちょっとわけがあってコイツと旅して・・・ユウキ!」 ユウキ「んあおあるか!(んだよハルカ)じゃますんじゃねー!」  食べ物を口の中にほうりこみながら、ユウキが怒鳴る。 ハルカはムカッとしたが、ユウキにかまう価値などないとにっこりした。 ハルカ「この馬鹿はユウキ、よろしくしてやってくださいね」  ユリとカノは微笑んだ。ユウキが礼儀の悪いことは特に気にしていないらしい。 ユリはいつもカノに、「お客様にはどんな方でも店員としてふるまいなさい」といいつけているのもある。 カノ「ユウキ、もう食べた?」    ・・・ではなかった。確かにユリはカノに「どんなお客にも誠実に」といいつけてあるが、 誰に対してでも守るわけではない。カノはまだ幼い。嫌いな人だって好きな人だっている。 そしてその例が、たまたまユウキだっただけだ…。 ユウキ「・・・はあ、満腹だ・・・ん?」  ユウキは次の瞬間、とあるポケモンに目をやった。 先ほど居間に入ってきた、燃えるような可愛いポケモン……ロコンだ。 ユウキ「え、え、えええええ!?」 ハルカ「ゆ、ゆうきっ!?どーしたの・・・!!」  びっくりしたハルカは危うくひっくりかえそうになった。 ユウキはそんなハルカを気にも求めず、ダッシュしてロコンを抱きしめた。 ロコンもうれしそうに微笑み、にっこりとする。 ユウキ「……お前は……もしかして――」 カノ「もしかしてあなたが!?」 ハルカ「えっ……」 ユリ「数年前、フラワーショップに迷い込んできたポケモンなの…。何度も捜索ビラを配ったりしたんだけど 見つからなくって……だから、ここであずかることにしたんだけど……」 ユウキ「…………お前……だよな?ロコン……」 ユウキ「……オレ、あのときはほんとにガキで…」  ユウキは思い出していた。 数年前――いや、5年前のことを。 あのときはまだジョウト地方にすんでいた頃のことだ。 ちょうど両親が就職活動に忙しいときで、一人で遊ぶことが多かった。 5歳の彼は、当然ポケモンを持つことを許されてはいなかった。(ポケモン協会が定めた『ポケモン所持法案』による) だが彼はひそかに「ポケモンがほしい」と思い続けていた。 そしてある夜。 ユウキ「何さっ、ママもパパも!!ボクの誕生日忘れて仕事仕事ばっかり!!」  はっきり覚えている。思い出した。 ユウキのパパも、ママも、「ユウキ」という呼ぶ声を聞いたが、それを無視して、家を飛び出していったことを。 二人は今は無事に就職してその転勤のためにミシロに引っ越してきたわけだが…。 あのころのジョウトは非常に就職が困難だった。今は少しマシになっているようだが。 そんなことはどうでもいい。ジョウトやミシロの経済状況の話をしているんじゃない。  走り出して何分かたったころ、ユウキはあるポケモンに襲われた。 そう、夜の森は危険だ。ママもパパもいつもそう話していたっけ。 だがユウキはそんなことすっかり忘れていた。 そして……野生の「ゴースト」に出くわしてしまった。 ユウキ「……な、何だお前……!!ぽ、ぽけもんか!!」  ポケモンについて相当の知識もなく、ユウキはただ逃げることしかできなかった。 そしてそのとき彼は、自分の無力さを思い知った…。 ポケモンなんて、すぐにやっつけられると思ってた。 自分がポケモンさえもっていれば……もっていれば! ???「コーン」 ユウキ「えっ…」 ???「コン……コーン!!」  そのときだった。みたこともない(ユウキにとっては)ポケモンが一匹草むらからゴーストにアタックをかけたのだ。 そのアタックをポケモンに詳しい人々は「ひのこ」という。 たまたまこのゴーストはレベルが低かったため、逃げ出していった。 ユウキ「…………」  ユウキは事態がよく飲み込めないでいた。 だが、可愛らしい燃えるようなポケモン――ロコンを見て、はっとなった。 顔をばちばちとし、夢でないことを確かめる。 ユウキ「た、助かった……!!ぼく、助かったんだ!!」 ロコン「コン♪」  なぜかそのロコンはユウキに懐いていた。 ただたんに人懐こかっただけかもしれないが…。 ユウキ「ありがとう、君……もしも君がいなかったら、ボク、どうなっていたのかわからないよ。 君って素敵だね」  その言葉――君って素敵だね、がかなり気に入ったようで、ロコンはユウキにすりよった。 そうしていると、パパとママの声が聞こえた。 パパ&ママ「ゆーきっ……ゆーきっ!!」 ユウキ「ぱぱ、まま!!」  ユウキは立ち上がり、ロコンにもう一度お礼をいおうとした。 だが、そこにはもう、ロコンの姿はなかった――。 ユウキ「………」 ユリ「それがこの、ロコンなの――」 ユウキ「オレ、だいたいわかる。コイツ、あんときのロコンだって。雰囲気とか、しぐさでわかるんだ」 ハルカ「……」  ハルカは知らなかったな、とつぶやいた。 ユウキにも両親に反抗したことがあったんだ。 カノ「どーりで飼い主がみつからないはずだわ!!」 ユウキ「おいお前。何でこんなところにきたんだよ。お前はジョウトにすんでたはずだろ?」  すっかり打ち解けあったユウキは、ロコンにそうといかける。 と、ロコンはにっこりした。そして尻尾を巻き上げ、ユウキに再度ほほずりする。 ユウキ「……あっ、くすぐったいよもう!!」 カノ「あ、わかった!!きっとロコン、ユウキをおいかけてきたんだ!!」 ユウキ「えっ!?」 ユリ「そうよ。きっとそうに違いないわ!」 ハルカ「もしもまだ野生だったら、あなたのモンスターボールでゲットしてあげればいいんじゃないの? 旅も一緒にすれば、いっそう楽しくなるかもよ♪」  ハルカはウインクし、ミズゴロウの入ったモンスターボールを見せた。 すると……ユウキは少し不安になった。 このロコンもあのミズゴロウの「水でっぽう」を食らうはめになるかもしれない。 でも……ロコンと一緒に旅できるなんて最高な旅になりそうだ、と。 ユウキには予測がついていた。多分このロコンは、誰にもゲットされていないって。 たかが「カン」だが――。 ハルカ「ねっ、ゆーきっ」 ユウキ「うん……よし、決めた!!もしも飼い主がいたときゃぁ、オレが探してやる。 そのつもりでいくぞ!いいな、ロコン!」  ロコンはもちろん、といいたげに笑顔になった。 さっきよりももっと笑顔で。 ユウキはポケットから「モンスターボール」を取り出し、そして――。 ユウキ「いけっ、モンスターボール!!」  案の定、ロコンはモンスターボールにしっかりおさまった。 ユウキはそれを見て大喜びし、その場をとびはねた。 あんまり飛び跳ねるので、家が壊れるのではないかと思った。  翌朝――。 ユウキは寝坊した。ハルカにたたきおこされ、ぼんやりとしながらロコンのことを思い出した。 ユウキ「ロコン!!でてこいっ」 ロコン「コーン♪」 ユウキ「アチャモも、でてこいっ!」 アチャモ「あちゃ〜!!」  だが、アチャモはロコンのことをあまり気に入っていないようだ。 アチャモの『ご主人様は「自分のものだ」』とロコンに威嚇している顔を、ユウキは見た。 ユウキ「お前もロコンも、みんなオレの仲間さ!だから、絶対守ってやる。絶対にな」  ユウキはそういって二匹に微笑んだ。そして、心の中でそっと思う。 お前たちにはいっつも助けられてばかりだ。 オレは何もできない。無力だから……いいや、違う。 無力だからこそ、守らなければ。 大切な、「仲間」たちを――。 ユウキの目は、アチャモとロコン以外にも、ハルカにも見つめていた。 ハルカ「お世話になりました!」  ハルカはミズゴロウをすでに外に出していた。朝の新鮮な空気をすわしたいのか、 それともユウキに水でっぽうをくらわしたいのか…。 ユリ「また近くにきたら、いつでもよってね♪大歓迎するわ」 ハルカ「ありがとうございます」 ユウキ「コイツのこと、今まであずかってくれててありがとう」 カノ「ホント、ダメな男なんだから」 ユウキ「何だとっ!!」 ハルカ「ユウキ!!……それじゃ、失礼しますっ」  ハルカは苦笑いし、そして微笑んだ。 ユリとカノも笑顔で二人を見送っている――。 今回はルビーとサファイヤの情報は見つけられなかったが、ユウキにとって大切な経験となった。