ユウキ「でも、何でオレよりも先にハルカの方が進化したんだ?それだけが不思議でたまんないよ」  ルビー・サファイヤ探しを続ける二人。 ユウキは、先ほど進化したばかりのハルカのポケモン――ヌマクローを見て、にらんだ。 一方ハルカはむすっとした顔で、ユウキをにらみかえす。 ハルカ「何よ。進化したことで戦力が高まったんだからいいじゃない!あ、わかった。 ユウキったら、あたしより先に進化しなかったことが悔しいんでしょー」 ユウキ「そ、そんなことねえよ!(赤面)と、とにかく、早くいこうぜっ!!」 ハルカ「あ、待って!待ちなさいよ、ユウキ〜〜〜〜!!」  道はどんどん続く。坂道がどんどん続く。 このとき二人は、その行く手にあるものが悪の存在だとは知るはずもなかった。 第6話 VS Rocket-Dan −悪の組織との戦い− ハルカ「ユーキ!ユーキ、待って!待ってったら」  ゼエゼエと息を吐きながら、両手をひざに押しつけ、体を曲げるハルカ。 タタタタタッ――ユウキは立ち止まり、ハルカの元へと戻ってくる。 そして、面倒くさそうな顔をしていった。 ユウキ「ったく、しょうがねーな」  たん、とその場に座り込むユウキ。両足を組、両手はその後ろへとやり、木の幹にもたれかけた。 ハルカは苦しみながらも、ユウキの優しさを感じ取る。 であったときは、オダマキ博士のことをオッサンよばわりしたりして、ちょっとうっとおしかったけど……。 ずいぶん成長したと思う。相手の気持ちを思いやる心――パートナーのアチャモと過ごす日々の中で、 ユウキも少しずつ成長しているんだ。あたしと同じように……。 ハルカ「ありがとう、ユウキ。もう大丈夫だよ」 ユウキ「待てよ。ちょっとは歩いていこうぜ。この辺の景色も、もう二度と見ることがないと思うしさ」 ハルカ「えっ?」  ――ユウキはあたしに、気を使ってくれているのだろうか? ユウキ「信じられないような顔すんなよな。オレだって少しはお前に合わせるようになってきたんだぜ? 感謝しろよ」 ハルカ「あ、あわせるって……」  やっぱり変わってない。心の中でくすっと笑うハルカ。 ハルカ「誰も合わせてくださいなんて頼んでないわよ」 ユウキ「何だとっ!?」 ハルカ「何よ」  ギロッ!にらみ合う二人――そして……ぷっとふきだす。さらに二人は、笑いあった。 ハルカ「あ、そーだ。ポケナビに相手の力がわかる機能がついてるんだって、 オダマキ博士がメール送ってきたの、いうの忘れてたわ」 ユウキ「おいっ、そんな大切なこといい忘れるなよな!どれどれ…」  早速ポケナビを取り出すユウキ。これは文字通り、ポケモントレーナーをナビゲーションしてくれる機能が 搭載されたハイテク機器で、ジョウトでは数年前に「ポケギア」というものが流行ったのだが、それよりももっと進化したものらしい。 このホウエン地方全体のマップは当然見れるし、それだけでなく今まで戦ってきたトレーナーのデータも登録されているのだ。 今までは戦った相手を頭の中でしか記録できなかったトレーナーたちにとって、これは大変便利な機能となっていた。 ちなみにポケナビは、旅立つ日の前にオダマキ博士からもらっていたが、ユウキはそんなことすっかり忘れてしまっていた…。 ユウキ「おおっ、すげえ!ちゃんとデータが出てるぜ。オレがこれまで戦ったヤツの……」 ハルカ「ゴロウ君だけじゃない」 ユウキ「う、うるせえなっ。オレは新米だぞ!?まだこれからだ……」 ハルカ「ふふふ。あたしのはね……じゃーん!」 ユウキ「!!!」  ユウキの目玉が飛び出たのにはわけがあった。 何と、ハルカの戦ったトレーナー人数は合計して……99人だったのである。 ユウキ「きゅ……きゅーじゅーきゅ……」 ハルカ「驚いた?あたしポケナビは、ポケモンレンジャーで修行してたときからあるから」 ユウキ「でもすげえなお前。マナミと戦ったのが50回って…」(第5話参照) ハルカ「へっへっへ〜。驚いた?ユウキが99回戦う日はいつくるのかしらね〜?」 ユウキ「う、うるさいなっ(赤面)!!そ、それよりっ……この先はいしのどうくつって書いてあるけど、入るのか?」 ハルカ「もちろんよ。もしかしたらミシロの星(*ルビーとサファイヤのこと)が中にいるかもしれないじゃない?」 ユウキ「はぁ?こんなにもすぐみつかるところにいたら、誰だってわかるぜ」 ハルカ「うるさいわねっ。『もしかしたら』いるかもしれないでしょ。もしもいたらどうするの!?…さ、いくわよ!!」 ユウキ「ま、待てよ〜っ!!」 ???「……ボス、発見しやした。裏切り者の娘、ハルカを!」 ボス「ああ、ただちにそいつを捕まえろ。そして裏切り者のことを吐かせるんだ。どんなことをしてもな……」 ???「他に誰かいるようですが、どうしやすか?」 ボス「適当に捕まえておけ」 ???「わかりやした。いけ、ミツル。お前の出番だ」 ミツル「…………」  ニヤリ――二人の後ろの木の陰で、黒い目を光らせているロケット団が二人いるなど、 彼らは気づくはずもなかった――。 ハルカ「うっわぁ!きっれー!!」  ハルカは感激の声をあげ、あたりを見回した。 まるで宝石のようにキラキラ光る壁、特殊な砂でできた洞窟――それが「いしのどうくつ」だった。 人々は宝石のような洞窟という意味をこめて、「いしのどうくつ」と名づけたそうな。 ユウキ「この壁、ほんとに宝石でできてるのか?」 ハルカ「違うわよ。宝石のように見えるのは、光が反射してるからよ。詳しいことはよくわからないけど」 ユウキ「ちえっ。宝石なら高く売れると思ったのに」 ハルカ「!!」  ハルカの目に緊張が走った。ユウキは何だ?と首をかしげる。 ユウキ「どうしたんだよ、ハルカ。何だかピリピリして……うわあっ!?」 ハルカ「ユウキ、伏せて!!」 ユウキ「うぉぉっ!?うわっ、うぉっ!?」  ハルカの目がつりあがっていたのは、どこからともなく攻撃が飛んできたからである。 それは人間のものではない。恐らく、ポケモンの――野生か、それともトレーナーのいるポケモンなのか!? ???「いわくだきっ!!」 ハルカ「きゃああっ!!」 ユウキ「ハルカッ!」  ドドドドドドドーーーッ!! 次の瞬間、たくさんの岩々が二人めがけて落下してきた。 ユウキはとっさにハルカの上に覆い被さり、必死で守ろうとする。 ハルカ「ユーキ……」  わけのわからない中で、ハルカはそっとつぶやいた。 ユウキがあたしを守ってくれている……。 やがて落下が終わったき、ゆっくりと目を開く。 二人は奇跡的にも何とか無事で、わずかに見えるその岩と岩の隙間から犯人を見ようとした。 体は傷だらけだったが、まったく動けないわけではなかった。 ユウキ「子供……?ハルカ、この攻撃をしたのは、子供だぞ!!!」 ハルカ「あんたもあたしも子供でしょっ。でも……あたしたちより、年齢も下みたい……。 それに今のわざ――いわくだきは、相当なレベルまでないとできない技よ! 恐らくポケモンのタイプは岩……?」 ???「違うよ」  くすくすという笑い声とともに、ユウキたちの前にやってきたのは、その攻撃の指示を下した子供と、 そのパートナー――ニューラだった。 ユウキ「ニューラ……だと!?」 ハルカ「ニューラは氷タイプと悪タイプをもつポケモンよ。だとしたらこのいわくだきは……」 ???「技マシンで覚えさせたんだ。幹部が僕のために与えてくれたものをね」  くすっ――嫌な笑い方だ、とユウキが思った直後、ハルカが叫んだ。 ハルカ「ロケット団!!」 ユウキ「なっ!?あ、アイツがか!?」 ???「そのとーり。僕はロケット団のエリート、ミツルだよ。 何でキミたちに攻撃をしかけたのかは言わずともわかるよね? 裏切り者の情報を、その女の子に聞きたいんだ」 ユウキ「何だって!」 ハルカ(……この子、あたしの両親を追って……くっ!) ハルカ「ヌマクロー!!」 ヌマクロー「ヌマ〜ッ!!」 ミツル「この僕にたてつこうって気かい?この『エリート』の僕に……」 ユウキ「何がエリートだ!ガキのくせしてっ。ちょっと技がすぐれているからっていい気になるんじぇねー!」 ミツル「(怒)……どうやらキミが最初にやられたいみたいだね。ニューラ、生意気なガキにアイアンテールだ!」 ニューラ「ニュ〜ッ!!」 ハルカ「ッ!!」  ザザザザーッ!! 何とか起き上がり、ユウキの前に立ちはだかるハルカ。 ユウキ「ハルカ!お前っ……」 ハルカ「ヌマクロー、水でっぽうよ!!」 ヌマクロー「ヌマヌマーッ!!」 ニューラ「ニュゥ〜!!」 ハルカ&ユウキ「!」  結果は意外なものだった。ヌマクローの「水鉄砲」を交わし、ニューラのアイアンテールはユウキの元へ再び襲い掛かってくる。 ユウキ「アチャモ!!」 アチャモ「チャモーッ!!」 ミツル「あちゃも?ハハハ、そんなポケモンでこの僕に挑もうとは……その根性だけはほめてあげるよ。クク」 ユウキ「チィィッ!!アチャモ、ひのこだ!!」 アチャモ「チャモチャモーッ!!」  モンスターボールから繰り出されたアチャモは、叫び声とともに「ほのお」を口から吐き出した。 そしてそれは、ドドドドドッ、とニューラめがけて突進していく。 ニューラ「ニュ〜ッ!!」 ハルカ「効いてる!!」 ミツル「っ!!」  ばっと顔を両腕でおおい、ミツルはそれを回避する。 だが逃げ遅れたニューラをミツルは守ろうと、アチャモの「ひのこ」攻撃の前へと飛び出した! ユウキ「ば、ばかっ、やめ……!!」 ハルカ「危険よっ!!」 ミツル「ぐああああっ!!」  案の定、ミツルはアチャモの「ひのこ」を背中にまともに受け、その場にたたずんでしまう。 いくら進化していないアチャモの弱い攻撃だとしても、それはポケモン同士でのこと。 人間には相当なダメージをくらわせるはずだ。 ――よって、ポケモンバトル法ではポケモンから人間に攻撃することは禁止されているのである。 だがしかし……。 ユウキ「大丈夫か、お前!怪我はないか!!」 ハルカ「……」 ミツル「……なぜ……そんなことを聞く?」 ユウキ「えっ…」 ミツル「僕は君たちの敵だ。それなのになぜ、僕を心配するようなことを聞くのかって聞いているんだ!」 ハルカ「だめよ、まだ立ち上がっちゃ…!!」  ミツルは痛々しくも立ち上がろうとする。だがそれをハルカは制した。 アチャモ「ちゃも……」 ユウキ「お前のせいじゃないよ」  申し訳なさそうにうつむくアチャモに、ユウキは優しく微笑んだ。 そしてすぐに、その目はミツルにうつる――。 ハルカ「敵とか味方とか関係ないわ。困っているときはお互い様でしょ」 ???「そう。敵とか味方とか関係ないのなら、我々に君の両親の話を聞かせていただきたいものだな」 ユウキ「!!!」 ハルカ「ロケット団!!」 ???「我はロケット団の幹部だ。全く、ミツルのやつめ、手間をとらせやがって……!」  その幹部はのしのしと歩み寄り、ミツルの腕をつかみ、背中へとまわしておぶった。 その大きな体は通常の人の2倍くらいはある。ロケット団の服もきっとこれが最大の大きさだろう。 そしてニューラはというと、まるでゴミくずを捨てるかのようにモンスターボールをなげ、元に戻した。 その姿にユウキは腹を立てる。仲間なのに……そのニューラは、ミツルの仲間なのに!! 幹部「我々は今必死で貴様の両親を捜索している。それなのに見つからない。なぜだ!」  幹部は怒りを全てハルカに向けていた。目はつりあがり、こぶしは今にもハルカを殴りつけそうにゴリゴリしている。 ハルカ「見つかるわけないわ。パパとママはこの地方にはいないもの」 幹部「なんだと?ならばその場所をいえ!」 ハルカ「知っていてもいえないわ!!」 幹部「チイイッ!!」 ユウキ「やめろっ!!」  幹部がハルカを殴ろうとしたその右手のこぶしを、ユウキはとっさに前に出て防いだ。 ハルカ「ユウキ……」 幹部「……お前、そんなに我にはむかってもいいと思っているのか?」 ハルカ「!」 ユウキ「まだいうか、コイツ!!……っ、うわぁぁ!!」 ハルカ「ユーキッ!!」  幹部はユウキにパンチをくらわした。 すでに体は傷だらけだというのに、その体で地面をズズズズズッと滑り落ちていく……。 幹部「どうやらわかっていないようだったので教えてあげたのだよ。 君が我々にさからうとどうなるか――そのクソ生意気なガキのように、 君の弟・ヒカルの命の保障はないと――」 ハルカ「やめて!それだけは、それだけはやめてっ!!」 幹部「クク……」  ハルカのまぶたの裏に、「おねえちゃん」と呼んでいるヒカルの姿が映った。 そしてその笑顔は、すぐに涙目にかわっていく――ハルカは幹部の前にすがりつき、必死で訴えた。 ハルカ「ヒカルだけは……ヒカルだけはっ!!」 幹部「ならば両親の居場所をいうことだな。きっとお前は知っているはずだ。さぁ、どこにいる。答えろ!!」 ユウキ「ちっくしょーっ!!このクソ野郎がぁ!!」 幹部「!!!」  ユウキはやっとの思い出立ち上がると、幹部に向かってこぶしをふりあげた。 いや、こぶしではなく、それは――モンスターボールだ。 ユウキ「オレと勝負しろ!!」 ハルカ「えっ!?」 幹部「??」 ユウキ「オレとポケモン勝負しろ!!勝ったらハルカの両親の居場所を教えてやる! そのかわり、まけたら二度とハルカにまとわりつくな!それと、ヒカルも開放しろ!!」 幹部「……ククク、ククク、ハーッハッハッハッハッハ!コイツはおもしろい。 この我と勝負だと!?受けてたとうじゃないか。まぁ、勝負は見えているがな……」 ハルカ「ちょ、ちょっとユウキ、本気なの!?相手は幹部なのよ!! あなたのアチャモなんてまだ進化もしてないじゃない!」 ユウキ「だから何だってんだ!!アチャモは、アイツに腹を立てている。オレもアイツに腹を立てている。 だったらコイツと一緒に戦う。オレはそう決めた!もう決めたんだ!!」 アチャモ「チャモ!」  アチャモは「そのとおりだ」といいたげに、こっくりと強くうなずく。 ハルカ「……そ、そりゃあ、あなたの気持ちもわからなくはないけど……ありがたいとは思うけど、でも!」 ユウキ「あきらめたくねえんだよ!!」 ハルカ「……えっ」 ユウキ「やる前からダメだ、コイツにはかなわないって思うのがイヤなんだ! そんなんじゃ、これ以上強くなれない。そう思うから……だから――」 ハルカ「み、見て、ユウキ!!」 幹部「っ!?」  何と――ハルカが指さした先には、光輝くアチャモの姿が。 そう、進化がはじまったのだ。アチャモの第2進化系、ワカシャモに! ワカシャモ「ワッカー!!」 幹部「進化……だと!?」 ユウキ「おっしゃあ!勝負だ、クソ野郎!!」 幹部「ケッ。どっちみち勝負の結果は一緒だぜ。いけ、サメハダー!!」 ボス「待て、ジュエリー!!」 幹部「ぼ、ボス……!!」 ユウキ&ハルカ「ボス!?」  だがその姿はどこにもない。ユウキとハルカがきょろきょろしている間に、幹部はわかった。 その姿はないことが確定された。というのも、幹部のポケギアから通信されているからだった。 つまり、ボスはこの場にはいない。アジトから通信しているのだ。 ボス「そのくらいにしておけ。もうお前たちにはウンザリだ。我々の予定にはバトルすることなどなかったはずだ」 幹部「し、しかしボス……コイツ(ミツル)の失敗で!」 ボス「ええい!お前はソイツの失敗の上にさらに失敗をかさねる気か!! それにだ」  苦笑するボス――顔は見えないが、ミツルと同じく嫌な笑い方だった。 ボス「ヒカルは結構我々にとっても役に立つ存在だ……まだ5歳だというのに悪しきポケモントレーナーとしての素質はある。 そうやすやすと手放してはいかん」 ユウキ「悪しきポケモントレーナー……だと?」 ボス「そういうわけだ。ここはおとなしくミツルと退散することを命じる。 アイツの両親の居場所など、いつでも吐き出せるのだからな」 幹部「チッ、わかりやしたよ、ボス!」  幹部は怒ったようにポケギアの電源を切り、ミツルを背負いなおした。 そして、とうとう二人に背を向ける。 ユウキ「待てよ!逃げるのかよっ。勝負はどうすんだーっ!!」  そんなユウキの声もむなしく、幹部とミツルはどうくつをあとにしていくのであった――。