Frontier―閉ざされた世界の外へ― 注意書き兼前書き ご存知の方もいますが、これはMAP2次審査落選作品であり、 「設定が無駄に多すぎる」ことや「伏線が最後まで消化しきれなかった」などと容赦のない指摘を受けて、 正直に言って一ヶ月くらいノベラーとして立ち直ることが出来ないほど叩きのめされた作品でもあります。 追い討ちを掛けるように某所の内輪ネタ小説第1部完結編執筆途中に鬱になりかけていましたし、 色々とあって公開することを躊躇っていた、ある意味でもマサポケに相応しくない問題作です。 当初は練習板での期間限定公開を予定していましたが、 あえて自分の失敗を晒す意味でも本棚での公開に踏み切りました。 実はこの小説はSub EffectシリーズやReality=Fantasyの時間軸から数世紀後の同一の世界であり、 霧島吾留乃版ポケモン世界の、一つの未来として書いたものとして位置付けています。 正直に言って長編用のネタを短編に無理矢理に収めたものですので、 あえて期待値を低くして読むことをお勧めします。 21世紀以降も人口増加に歯止めがかからない人間の生存圏の拡大により、 多くの自然が破壊されて、多くの生物が絶滅の道を辿っていった。 人口増加が止まらない人間は、宇宙へと自然に進出しなければならず、月に都市を築いた。 次第に自然が失われる地球であったが、 他の生物には無い強い生命力と人間と密接な関係を築いてきたポケモンは例外的に生き延びていた。 ポケモンが一つの種として生き延びたとはいえ、 ポケモントレーナーの全盛期である20世紀中頃から21世紀末に比べると、 その力は大きく弱体化しており、伝説のポケモンと呼ばれるポケモンはその姿を消していた。 森や山、川、野原などの自然が次第に消えていく中での人とポケモンが共存する時代に、 一つの大きな影を落とす事件が起きた。 西暦2343年、北アメリカ大陸を中心に新型の悪性ポケルス『メルカトール』が出現して、 その感染力の強さはポケモンだけに留まる事無く、多くの人間の命を奪っていった。 一般的にはポケモンの能力を向上させるポケルスを良性ポケルス、 逆にポケモンに感染するウイルス性伝染病を発する悪性ポケルスとして分類されている。 このメルカトールの感染地域は急速に拡大して、 その勢いはわずか半年で南北アメリカ大陸の人間とポケモンを全滅させて、 アフリカ大陸やユーラシア大陸へと広がった。 強い感染力を持つメルカトールのワクチンの製造は幾度となく失敗したことで、 メルカトールの感染から逃れた人間とポケモンは生き延びるために, 地上から500メートルの深さに位置する、 第4次世界大戦中に建造された地下都市へと逃れて、 メルカトールを旧時代の遺産として残る核兵器で地上ごと全てを焼き払った。 太刀打ちができなかった悪性ポケルスに感染した人間とポケモン、 そして蔓延する地上は一瞬のうちに核の炎によって消滅し、 地球上に居た130億の人類は、わずか2億3000万人と減少し、 多くのポケモンが絶滅の道を辿っていった。 悪性ポケルスの蔓延で止む無く地上を焼き払った「メルカトールの惨劇」から、 人々とポケモンは核爆発で発した膨大な放射線から逃れるため、 生物が二度と生きることが出来ない地獄と化した地上を捨てて地下都市で生き延びる事となった。 「ここで世界史の再試験の勉強しても頭に入らないよ」 「うるさい!!ミサとは違って俺は世界史が苦手なんだよ!!」 「”世界史が”じゃなくて”世界史も”だろう」 「リョウジも言うか!!」 鉄筋コンクリート製の灰色の壁に覆われた人口の光のみが灯る空間の中で、 15歳の二人の少年と二人の少女が秘密基地を連想させる狭い空間に集まっていた。 世界史の教科書をにらんで左肩にメタモンを乗せている少年がジートは、 童顔から根からの行動派とは思えないキレイハナを連れている少女のミサと、 両手でガーディを抱えている少年のリョウジにからかわれる。 そんな三人のやり取りを、アルナという少女はライボルトの毛繕いをしながら傍観している。 この四人は幼なじみで、ジュニアスクールの最終学年に至る現在もその仲は変わりない。 この四人が『秘密基地』と称している場所は、 かつてはニューキンセツと呼ばれた地下都市の上層に当たる廃墟の一角であり、 一般人の立ち入りが許される範囲の末端に位置する。 四人住む地下都市の居住区はこの場所より50メートルの階層にあり、 この廃墟街は政府の治安が行き徹っていることから、 ポケモンを所持する者達のトレーニング場所となっている。 この地下都市が昔はホウエン地方と呼ばれた場所にあることは誰もが知っており、 三世紀に渡って人々とポケモンがこの地下都市の一つで生き延びてきた。 このような大規模な地下都市は十数箇所存在しており、 各都市との交流は20世紀末に開発されて 現在まで大きく進歩した転送マシンによって行われている。 地下都市に住む民間人で外の世界のことを知る人間は、誰一人として居ない。 この時代に生きる地下都市の人々の多くがこの生活に疑問を感じる事すらなく、 完全に地上から隔離された空間の中で産まれ育って死んでいった。 照明という人工の光が一定の時間ごとに光度が変化していき、 一年周期で気温が絶え間なく変動する地下都市での生活が当たり前のものとなった。 「あと三ヶ月で卒業だけど、進路は決まった?あたしはハイスクールに進学するけど…」 「俺は軍に志願して、この街を守るために強くなりたい」 「勉強嫌いのジートらしい進路だな。俺はニューコガネのハイスクールの試験を受ける。 そこに進学して俺の夢であるエンジニアを目指すための受験だから絶対に合格するつもりだ」 ジュニアスクールの卒業を目前としている四人は、卒業後の進路を既に決めており、 こうして秘密基地に集う機会も間もなく無くなることは分かっていた。 そんな時間も限られるから、今の時間を大切にしようと習慣的に秘密基地に集まってしまう。 ミサが進路の話を話題の一つとして取り上げたのだが、 アルナはライボルトを撫でながら重苦しい表情でゆっくりと会話に入る。 「私も軍に志願する…。軍は給料がいいし、一刻も早く母さんを楽にさせたい」 「アルナのお父さんは4年前の事故で死んだから、必至に働いているんだったよね…。 あたしも軍に志願すると言ったけど、おじさんやおばさんが進学しろとうるさくて…」 母親一人の片親という家庭の事情から、アルナは進学ではなく軍への志願を選んでいた。 両親の顔を知らないミサも、 一刻も早く養父母の負担になりたくないと思って軍への志願を希望していたが、 育てた義理の娘を兵隊にしたくない養父母の反対で進学することになる。 「ミサも志願するつもりだったんだぜ!自分だけ夢に走る薄情者のリョウジ君!」 「俺一人だけ抜け駆けするような印象だが、俺もいずれは技術士官を目指しているんだ」 この時代にも軍隊と言うものは存在しており、 地下都市の治安維持や都市防衛の他にも、 メルカトールの惨劇以降から警察的な役割も持つ職業となった。 ジュニアスクールを卒業した15歳以上の市民は、任意で軍に志願して2年間の兵役に就く。 そのまま軍に居続ける事も可能で、除隊後は上級市民として社会的な優遇が受けられる。 これは学歴が高ければ高いほど、兵士の他にも技術士官などの配属の選択範囲が広がる。 軍隊への志願は職業的なステータスも高く、卒業後の進路としても魅力的な方向である。 「何故今でも地球上には戦う敵が居ないのに軍隊と言う名称を使うのか?」という疑問を浮かべることなく、 この時代の人々は軍隊を社会的に地位の高い職業として位置付けていた。 『間もなくこの施設は午後5時を持って閉鎖します。 翌日の解放は午前6時30分となります。直ちに民間人は居住区へ戻ってください』 「もうこの時間…、そろそろ母さんが帰ってくる…」 「ジートは再試験があるんでしょう。早く帰って勉強しなきゃね」 「ミサのおせっかいが無くても分かっているよ!!」 「はいはい。時間過ぎてもここに居たら、軍隊に補導されるから、さっさと帰るぞ」 毎日のように午後4時50分に廃墟街全体に階層放送が響けば、 一般人の立ち入りが翌日の解放時間まで立ち入り禁止となる。 いつものようにリョウジの一声で廃墟街を退去して、4人の一日が過ぎていく。 しかし、これから数時間後に彼らの運命を狂わせる一つの出来事が起こる事となる。 「何!?教科書を基地に置きっぱなしだと!?」 「規則は分かっていますが、ジートの奴もこのとおりお願いしていますから…」 「明日の再試験が世界史なんです!教科書が無ければ勉強できないんです!!」 「明日の解放は午前6時30分!この時間まで民間人の立ち入り禁止は規則だぞ!!」 この日の午後9時23分、世界史の教科書を廃墟街に忘れたジートのために、 リョウジは出入口に立つ衛兵に頭を下げながら交渉する。 しかし、一つでも例外を認められない衛兵は二人の必至の嘆願も正面から拒む。 そんな様子を傍観するミサは、どうしようもないと言わんばかりの表情を見せる。 なお、アルナは家庭の事情から、この時間帯での外出はどんな理由でもすることは無い。 ジュニアスクールの授業は、自分で受ける教科を決める事ができるのだが、 この3人の中で世界史を取っているのは無計画に授業計画を立てたジート一人だけだ。 「再々試験決ね」 「ミサ!!ケンカ売っているなら今すぐ買うぞ!」 「はいはい。ここで騒いだら衛兵に迷惑をかけるだろう」 「どう考えても教科書を置き忘れたジートが悪いのよ」 リョウジとミサの指摘が当たっているだけに、反論できないジートは首をうつむける。 壁一枚で隔てられているはずなのに、このときの廃墟街が近くて遠い存在だと感じる。 しかし、これが自分の責任であるにも関わらず、 彼は廃墟街に入ることをあきらめなかった。 合法的に無理ならば、卒業のために世界史の単位が欲しいジートは非合法な手段を思いつく。 「俺は諦めないぞ!!再試験は絶対に受かるために、あそこを通る他無くなった」 「ジート!平時での正面ゲート以外の侵入なんてしたら、憲兵隊本部行き100%確定だぞ!!」 「リョウジ、ジートの諦めの悪さは知っているよね。再試験だってあいつが頼んだものよ」 「仕方ない…。すぐに入ってすぐに出るぞ」 ジートが思い立った廃墟街のもう一つの進入経路、 地下都市で災害や事故が起きた場合に使用される非常用通路である。 この通路の開放は有事の場合に限られるので、普段の生活での利用は禁止されている。 しかし、この通路の扉は普段の生活に馴染みのある電子キーではなく、 電力供給が絶たれた場合を想定して古典的な鍵で施錠されている。 この程度の扉ならジートのメタモンの擬態能力で、鍵穴を元に鍵を偽造することができる。 平時における規則違反の対処より、 有事の際の合理性を選んでいるこの扉のセキュリティが甘いが、 定期的に衛兵が巡回に来るので扉を開けて廃墟街に入るまで油断は出来ない。 今回は運良く巡回する衛兵の姿はなかったが、僅かに灯る照明の光を頼りに、 4人は細心の注意を払いながら秘密基地と呼んでいる場所にたどり着いた。 「世界史の教科書発見。無事に回収したぞ!!」 すぐに秘密基地に放置された教科書を手にしたジートは、 巡回する衛兵に気づかないようにテンションを上げて歓喜する。 それでも教科書を回収しても、彼らにはその後の問題が累積している状況に変わりはない。 「その帰り道に見つかったら話にならないぞ」 「法を犯してまで教科書取りに行ったのだから、必ず合格してもらわなければね。 それならあたしとリョウジが徹夜で見てあげようか?」 「まずはここから兵隊に見つからないうちに出て、勉強はその後で考えようぜ……」 次の課題は衛兵に気づかれないように廃墟街から出ることで、再試験対策は二の次だ。 ジートたちは人影がないことを確認しながら、非常用通路に向かって慎重に進んでいく。 そのとき、人工の光ではない小さな光の玉が、力弱そうに三人の足元にゆっくりと落ちる。 「何なんだよ!!」 「火の粉とか火の玉じゃないの……?」 足元に落ちた光の玉の正体を突き止めようと、ジートとミサは何の躊躇いもなく駆け寄る。 普段見慣れている照明の光でも炎でもない色を放っており、これは未知との遭遇の瞬間だ。 「炎だったら熱をもっているはずだが、これは炎による光なんかじゃない」 リョウジの言う熱くない光の玉は、その輝きを徐々に失ってその正体を次第に見せる。 タマネギのような頭に二本の触覚と大きな青い瞳、 背中に二枚の薄羽をつけた何かの妖精と思われる姿を見せた何かであったが、 その様子から徐々に衰弱していることが分かる。 「これって…ポケモン?確か…図書館にあった絵本で見たことあるような…」 謎の生物の正体をポケモンだと確信するミサは、 何のポケモンであるのかを記憶と知識を総動員して必死にそのポケモンを脳内で検索する。 この時代のポケモン図鑑に載ってないポケモンは、 既に絶滅した種族か空想の存在となった伝説のポケモンのいずれかしかない。 「思い出した!!「時を駆ける妖精」という絵本で出るセレビィというポケモンよ!!」 次第に衰弱していくセレビィと呼んだポケモンに、 ミサは何が出来るのかを考えるより、体を先に動かしてセレビィを抱える。 このセレビィは運良く現在まで生き延びたものなのか、 非現実的に考えれば時渡りの力でこの時代に迷い込んだのかのいずれかだと考える。 「これがセレビィ…。この様子だと命が危ないことは確かだ」 「早速ポケモンセンターに連れて行って…」 「ジート、それは止めろ。”今の時代に存在しないポケモン”が見つかってみろ。 セレビィが当局に連れて行かれたら、街中・・・いや世界中にパニックを起こすぞ!!」 「それにあたしたちがここに無断に侵入したこともばれるのよ」 現在は絵本や神話でしか知られないポケモンであるセレビィは、 この時代に居るべきでないポケモンだということは何と無くだが分かっていた。 三人が廃墟街に不法侵入したという事実が明るみになり、 セレビィは生体調査をされるか、時渡りという現象の是非を問う生物実験が行われる可能性もある。 伝説のポケモンが空想の存在であるこの時代に、セレビィにとっての安住の場所がないのだ。 「この子が…、あたしたち人間のせいで酷い目にあうのね…。 でも…このままセレビィが死んでいくのと分かっていて置いてなんか行けないよ!!」 「ミサは優しすぎる気持ちは俺も分かるけど、セレビィはこの時代に居たらダメなんだ!!」 「お前は薄情な意見を良く言うけど、このままセレビィを見捨てろというのか!?」 「仮にセレビィを連れて行ったとしても何が出来るというんだ!? 手持ちポケモンの傷も治せない俺たちが、セレビィを助けられるか!?出来ないだろう!!」 自分たちが廃墟街を不法侵入していることを忘れて、 衰弱したセレビィを抱きかかえるだけのミサは途方にくれて、 リョウジとジートは口論をはじめる。 そのとき、何かをしようと必死に考えるミサに抱きかかえられたセレビィは、 最後の力を振り絞るかのように彼女の両手から離れて、 地面すれすれの高さで逃げ出した。 「セレビィ…!?」 「やべぇ…。あの体じゃどこかでくたばっちまうぜ!!」 力弱そうにどこかに向かうセレビィを追って、 ミサとジートは無我夢中になって自分たちのことよりセレビィの安全を選んでその後を追いかける。 「あの方向は確か……」 衰弱したセレビィが飛び立った方角から何処に行くのか推測できたリョウジも、 二人の後を追う形でセレビィを追いかけることになった。 廃墟街を巡回する衛兵の目を逃れながら、 四人はセレビィを追って廃墟街でも特徴のある建造物へと向かった。 その場所はここがニューキンセツと呼ばれた時代に造られた、 今は動かない地上へと通じるエレベーターで、 メルカトールの惨劇以降は政府によって電気系統が全て破壊されている。 その動かないエレベーターの一機にセレビィは乗り込んだのだが、 スイッチを押してもドアは閉まることなく、 セレビィがどんなにボタンを押してもエレベーターは動かない。 「セレビィ…。ここまで来れば逃げることは出来ないぞ」 「ジート。あたしたちは誘拐犯とかじゃないから、そんな言い方しなくても…」 「セレビィは伝説のポケモンと言われているから、ハイパーボールが妥当だ」 三人の人間が自分を助けたいという気持ちを理解しようとしないセレビィの目の前に、 球体状のポケモンを捕らえることが出来る脅威の道具が見える。 今のセレビィに時渡りをするための体力は無く、攻撃に転じるための力も残っていない。 追い詰められたセレビィは残る力を振り絞って、 エレベーターに生体エネルギーを流した。 「食らえ!!ハイパーボール………」 「エレベーターのドアが閉まった!?」 リョウジがハイパーボールをセレビィに投げようとした瞬間、 ミサの後ろで動かないはずのエレベーターのドアが閉まって 、機能を取り戻して上の階層へと上がっていった。 「たしか…、俺はこのエレベーターは地上への直通だったと母さんに聞いたことがある…」 「地上への直通ということは……、地上は放射線で汚染された地獄だと教科書にもあるぞ!! 俺はまだ死にたくない!!」 三百年以上も動かなかった地上に直通するエレベーターは、 悪性ポケルスを焼き払うために核兵器を使ったという歴史的背景を知るジートはパニックに陥り、 リョウジはエレベーターが動き出した時点で観念し、 ミサに至っては恐怖のあまりに泣き出しそうになった。 「地上に出るために動かないエレベーターを動かすとは、伝説のポケモンの力はすごい…」 「そんなこと冷静に言われても…、あたしたち…死んじゃうのよ……」 地上へと次第に上がっていくエレベーターの中で、 リョウジは冷静にセレビィの力に驚いており、 ミサはその横で刻々と迫る死の瞬間に恐れて泣いてしまっている。 途中下車が出来ない地上への直通エレベーターは、 地獄になったと聞かされた場所へと向かうのだから、誰もが怖いと思って当たり前である。 次第に地上へと近づいた証拠を示すかのように、 空気の流れは地下都市で馴染んだものとは異なる違和感を覚えて、 冷たいという感覚が皮膚へと伝わる。 こうした状況でセレビィの力で動かされたエレベーターは、地上へとたどり着いた。 「地上にたどり着いたけど、教科書によれば人は三世紀以上も地上に出ていないんだ」 「あたしたちは…ここで死ぬのね…」 「冥土の土産に地獄を見るのも、あの世に行く余興として構えようぜ!!」 地上にたどり着いた時点で恐怖という感覚が麻痺してしまった三人は、 エレベーターの扉が開かれていくのをセレビィと共に待ち構える。 長い間閉じられたエレベーターの扉は、錆び付いた金属音を響かせながらゆっくりと開く。 照明という人工の光とは違う一筋の光が、三人と一匹のポケモンの体に徐々に差し込んだ。 「これが核ミサイルで焼き尽くされた地上だと言っていたのかよ!!」 「冷静に考えれば三百年あれば地上の様子も変わっているんだよな…」 「きれい…。絵本でしか見たことないけど、昔の人たちが暮らしていた地上なのね…」 「散々エレベーターの中で怖がっていたくせに、初めて見た地上の感想がこれか!!」 エレベーターの外から見える学校で教えられた地上の様子にリョウジは驚嘆し、 ジートは先程までと様子が違うミサに呆れながらも地上という世界に立っていた。 エレベーターがあった場所は何らかの建物が建っていたらしく、 今はその遮るものが無くなっているので地上の世界を一望することが出来た。 漆黒の空間に輝く無数の光点に、その中で一際目立つ黄金色の巨大な球体。 地下都市の空調とは違う不規則に吹き流れる冷たい空気に、 花屋や農業区画でしか見られない草や木などの植物が一面に覆い茂る。 四人がエレベーターから出て行くとコンクリートとは異なった、 湿度の高いやわらかい地面の感触、 全てが初めて経験するものに溢れる世界が一面に広がっていた。 「あっ、セレビィの様子が!?」 「セレビィの奴は、地上に出ると急に元気になったな!!」 先程までエレベーターの中で衰弱していたセレビィは、 地上に上がって何らかの力を得ることで体力を取り戻したかのように地上の世界を自在に飛び回る。 セレビィの元気な姿を見て安心したのか、 ミサとジートには今まで抱えていた全ての不安が払拭されたかのように セレビィの後を追って地上の世界を走っていく。 「セレビィ!!もう二度とここに来るんじゃないぞ!!」 「さようなら!!地上がこんなにきれいな場所だったことを教えてくれてありがとう!」 地上に出ることで体力を取り戻したセレビィは、 ジートとミサの声に応じるかのように手を振って、 黄金色の巨大な球体と無数の光点が輝く漆黒の空間へと飛び立った。 普通に二度と会えない幻のポケモンによって得た感動は、三人の記憶に強く残るだろう。 「地上がこんなにきれいな場所だったなんて…、クラスのみんなに教えてあげたい!」 「さてと、エレベーターに乗って街に帰ろうぜ!!」 セレビィを無事に見送ったミサとジートは、 感動の余韻に浸ったまま地下都市に戻るためにエレベーターのある場所へと浮かれながら戻っていった。 しかし、そこではリョウジが両手を挙げて、ライフルを構える十人の兵士に囲まれていた。 「ジートとミサ…。俺たちは憲兵隊本部じゃなくて、軍の中央本部に行くことになった」 「お前たち二人で最後か。逃亡したらこの場で射殺する許可もある!! 地上の世界を知ってしまったことと、お前たちが見た『セレビィ』や『イレギュラー』について、 キンセツブロックから離れたニューコガネフロントの軍本部で尋問する」 この場に居る兵士たちの装備から見て、三人は地上が核兵器によって 発した膨大な放射線は無くなっていたという確信を得たと同時に絶体絶命の窮地に陥っていた。 相手はライフルと戦闘能力の高いポケモンがいると思われる モンスターボールで武装された兵士であるので、 三人は地上に出たことへの罪を認めて大人しく連行されることにした。 地下都市ニューコガネフトントの中央にある軍本部のある一室で、 連行された三人は憲兵や将官6人に取り囲まれながら、 地上に出て何をしたかについての尋問を受ける。 兵士たちの言っていた『イレギュラー』の意味は分からなかったが、 セレビィに関しては軍の提示する証拠の範囲内でしか答えなかった。 「セレビィがお前たちと居たことは廃墟街に設置してある監視カメラで分かっている!!」 「あたしたちがセレビィを仮に届けたとしても、軍の皆様は安全な場所に放しますか?」 「軍事機密だ!」 「俺たちは廃墟街に不法侵入して世界史の教科書を取りに行っただけで、 セレビィと遭ったのも偶然だ!!たった一匹のポケモンごときで軍が本気になるんだ!?」 「お前たちは質問されたことだけを答えればいい。我々が質問する側だ」 軍人たちは三人が偶然セレビィに出会ったと言い張っても、 頭ごなしに信じようとはせずに、軍にセレビィが必要なことを質問しても、 軍事機密などを免罪符にして答えない。 ミサとジートは廃墟街の不法侵入を認めても、セレビィに関しては強行の姿勢を見せる。 その横でリョウジは法的に認められた黙秘権の行使で、どんな質問にも一切答えなかった。 「大佐、セレビィに関してこれ以上質問しても、我々の望む答えは出ないと思います」 「明朝7時にこの三人の記憶を消してから、廃墟街の不法侵入の罪状で逮捕する。 地上の様子やセレビィ、イレギュラーに関しては”決して漏らしてはならない事実”だ」 「それまで自分が三人を監視します!!」 これ以上の質問は無理だと判断した憲兵の進言で、将官は三人に対する質問を打ち切る。 次々と軍人たちが部屋を出て行った後、一人の兵士がドアの外から施錠して三人を閉じ込めた。 「なんで地獄の世界だとか言って騙してまで、あたしたちに地上のことを隠すのよ!?」 「そんなこと言われても、軍はセレビィの必要性と同じように答えないだろう」 「だったら俺たちの地下都市は一体なんだったんだよ!!」 「今まで知らなかった地上の様子…。正確には知らせなかったと言った方が妥当だな」 尋問の後で将官が言っていたセレビィの存在に自然に満ちた地上の世界の隠蔽、 そしてイレギュラーとは何なのかなどと、 何も知らなかった三人は疑問が次々と浮かんでくる。 突如として疑問に満ちた世界に突き落とされた三人の問いに反応するかのように、 兵士は施錠したドアを開けて、何かが有るかを探るように部屋を見回してから入ってきた。 「監視カメラが無いから、俺がその質問に答えてやる」 「てめえは軍の兵士か!?監視の目が無いから民間人の虐待でもするのか!?」 突如として部屋に入ってきた軍人に対して、ジートがモンスターボールを構えて虚勢をとる。 しかし、彼の構えるモンスターボールは開閉スイッチを押しても一切作動しなかった。 「おい!何でメタモンが出ないんだよ!!」 「モンスターボールの開閉を出来なくするボールジャマーがあること忘れてないか? それが無ければお前たちの手持ちはとっくの昔に没収されているぞ」 この部屋ではモンスターボールの機能を麻痺させる ボールジャマーと呼ばれるシステムが作動しているので、ポケモンを繰り出すことは出来ない。 警戒心を見せるミサとリョウジを横目に、兵士は机の上に座って敵ではないことを示す。 「俺の名前はローランド。将官どもが言うイレギュラーの一人で地上からのスパイだ」 「地上…スパイ…?」 「ますます分からなくなってきた!!」 ローランドと名乗る兵士の登場は、三人の味方だという雰囲気を漂わせるのだが、 ミサが抱えている疑問を深めさせてしまい、ジートに至っては混乱する始末だ。 「ローランドさん、ジートはともかくミサも単純なところがありますから、 分かりやすい順序で丁寧に説明したください」 「悪りぃ。イレギュラーというのは地上で生きている人間やポケモンのことで、 単刀直入に言えば地下都市の中枢部が毛嫌いする野犬みたいなものだ」 事情が飲み込めない三人のためにも、ローランドは地上で生きる人間であることを話す。 彼はメルカトールの惨劇の最中で、奇跡的に生き延びた数千人余りの人間の子孫であり、 同じくポケモンも地下都市には居ない種も存在しており、荒廃した地上で生き延びていた。 ここで地上でも人間とポケモンが生存している事実を、軍が必死に隠す理由が疑問となる。 「地上の人間はみんな死んだと教科書にあるのは…」 「イレギュラーが野犬みたいなものとは、どういうことですか?」 「政治的な理由で歴史を改ざんすることは今に始まったことじゃない。 地下都市は『ROE』によって、人間とポケモンは”資源”として生かされているんだ。 俺たちイレギュラーはROEから見ると野犬であって、君たちは飼い犬というわけだ」 ROEとは地球上の地下都市の居住環境や情報管理を行う環境管理コンピュータであり、 人間から見れば生きるために使わなければならない道具でしかない。 地下都市で育った三人には馴染みのある物だが、 ローランドには敵対の対象でしかなく、憎しみを込めた口調で淡々と話し続ける。 「ROEが人間とポケモンを支配している…。ROEは単なる機械なのよ!!」 「ROEは君の言うように単なる機械でしかないが、人間がシステムを拡張していくに連れて、 知能をつけて人間やポケモンを”資源”や”道具”として利用するようになった。 ROEは自らの力を維持するために、地上の世界の様子を今でも偽っているんだ」 自分たちが地下で生きるために必要なROEが、 逆に生物を支配しているというローランドの語る事実が、 三人には彼が巧妙に嘘をついている感覚に聞こえてしまう。 あくまで真実を語っている彼が言うには、 地上世界の存在は地下都市の統制に邪魔な存在でしかなく、 ROEにとっては害虫と同じく邪魔なものでしかないのだ。 「嘘だ!!道具であるはずのROEが俺たちを道具にしているなんてよ!!」 「君が持っているこの教科書にあるメルカトールというポケルスは、宇宙に出た人間…、 正確には月面都市の管理コンピュータ『LAND』がROEのもつ資源を減らすための生物化学兵器で、 メルカトールの惨劇は天変地異ではなく人災なんだよ」 コンピュータに支配されていたという事実が信じられないジート達に追い討ちをかけるかのように、 ローランドはメルカトールの惨劇が自然界の現象でないことを語る。 ここでも出てきたLANDと呼ばれるコンピュータの存在は三人には初めて聞くが、 これが二つのコンピュータによる戦争であったことを理解する。 「メルカトールが生物化学兵器……。だからワクチンが作れなかったんだ…」 ここでリョウジはメルカトールのワクチンの製造が失敗した理由、 あれは自然界から発生したポケルスではなく、 人間の手で作られたポケルスだから困難だったと考察した。 「今の人間とポケモンはROEとLANDが分けた陣営に分かれて戦争している。 二つのコンピュータにとって、人間とポケモンは道具や兵器、エネルギー資源でしかない。 石油や石炭などの化石燃料が尽きた時代に、 人類はポケモンの生体エネルギーを電力として利用する方法を生み出している。 そのためにROEとLANDは兵器にならないポケモンは燃料資源として生かして、 そのポケモンを育てたトレーナーの記憶は何事も無かったかのように消去される」 地上で生きた人間が語る残酷な真実に、 ジートは真実が分からなくなって頭の中が混乱してしまい、 ミサはポケモンが兵器かエネルギー資源であることを知ってショックを受ける。 そしてリョウジはローランドの語ったことをどこかで否定したくても、 全てが事実であったが故に否定することが出来なかった。 「子供たちは外の世界に出たことで、この世界がいったい何なのか分からなくなっただろう。 それにイレギュラーのスパイが紛れ込んでいたとは、思わぬ失態だったな」 「俺たちは15で子供なんかじゃない!!」 「誰だ…って、監視カメラがないと思ったがミスったぜ…」 ローランドが真実を話す間に、先程まで三人を尋問していた将官の一人が 数人の兵士を率いて戻ってきており、唯一の出入り口を完全に塞いだ。 子供扱いされて興奮するジートを他所に、 ローランドは将官の手にする何らかの機械に気づいて机の下を探ると、 盗聴器が仕掛けられていたことに気づく。 一つのミスで正体がばれた彼であったが、開き直って将官に向かって正面から睨む。 「お前たちはROEの道具として生きていて何の疑問が無いのか!?」 「我々はROEに直接育てられて選ばれた人間。我が母のROEこそが絶対の正義なのだ」 不利な状況でありながら強気のローランドは、将官に自身の存在が何なのかを問い詰める。 彼らはROEに育てられて真実を知る”子供たち”であるからこそ、 母親に教えられたことが正しいことだと思うように信じている。 それでも彼がこの疑問を何度も問い詰めても、”子供たち”は同じ事しか答えないだろう。 「そこの軍人!!俺たちはROEの道具だったって、本当のことか!?」 「人間にとってROEは道具のはずです。それなのに立場が逆というのは何のためですか!?」 「人間とポケモンはROEのために尽くす道具で、地上は我々に必要の無いものだ。 ここで事実を語っても、このイレギュラーを殺してお前たちの記憶を消せば問題ない」 現実を飲み込みたくないジートとミサは、事実の否定を将官から求めようとするが、 彼はその事実を否定することなく地上の存在を否定する。 かつては地上で生きてきた生物が、三世紀前まで生きてきた場所を不要だと言ったのだ。 この言動で三人は今まで生きてきた場所に対して、深い嫌悪感が胸中を包み込んだ。 一市民でしかない三人が何を叫んでも、 将官たちにとっては記憶を消して「何も無かったことになる」ので平然とした顔を見せる。 「こいつらの記憶を消して俺を殺すのなら、冥土の土産でセレビィが必要な理由を教えろよ」 「セレビィが時渡りポケモンだということは知っているだろう。 我々はセレビィでメルカトールの惨劇以前に行って、LANDと月面都市を破壊する。 こうして全てはROEの意思に従って、人類やポケモンを今の時代から開放するのだ!!」 勝利を確信している将官は、「何も無かったこと」に出来るローランドの質問に答える。 軍がセレビィを求める目的は、過去を変えることで宇宙に居るものを歴史上からも抹殺して、 自らの勢力の拡大を図る、戦争という人間が過去に何度も繰り返した愚行を行うのだ。 そのためにもメルカトールの惨劇以降も軍が存続していたのは、 この事件に対する報復戦争を仕掛けるための戦力として残されていたのだ。 「そんな世界にしたのはお前たちやROEとLANDなんだろう!! 過去に行って初めから無かったことにするなんて、ジャンケンの後出しじゃないか!!」 「確かにジャンケンの後出しかもしれないが、管理コンピュータは一つで十分だ!! 理想の世界を作るには、時には邪魔者を排除する必要もあるのだ」 たとえジートに卑怯者呼ばわりされようと、過去への憎しみと歪曲した完全統治を求める彼らには、 自分たちが正義であるから、その姿勢を変えるつもりは微塵もない。 五世紀という長い年月に渡って、地球に住むものの復讐心は次第に加速されていたのだ。 「お前たち!ボールジャマーはこの部屋は壁の4隅にある!!俺は正面をやる!!」 「ローランド…って…おい!」 「俺が右の壁でミサは後ろ。ジートは左の壁。ボールは壊せ!!」 「分かった!!」 ローランドの掛け声と共にリョウジの指示で、ジートとミサはモンスターボールを取り出して、 コンクリートの床に激しく叩きつけたり乱暴に踏みつけたりすることで、 モンスターボールの安全機能であるポケモンの強制開放を作動させる。 ボールジャマーの影響下でポケモンを繰り出すには、モンスターボールを壊すしかない。 モンスターボールから強制開放されたリョウジのガーディとミサのキレイハナは臨戦態勢を取り、 ジートのメタモンはゼニガメに変身する。 続いてローランドのモンスターボールから強制開放させたゴルダックは、 ライフルを構える兵士たちと対峙する。 「ガーディは火炎放射で壁右端を燃やせ!!」 「キレイハナ!後ろを向いてマジカルリーフ!!」 「ゼニガメに変身したメタモンのハイドロポンプの威力は本物と同じだ!!」 「ゴルダック!!サイコキネシス!!」 ボールジャマーの能力を過信したが故に、何も出来ないと思った将官たちは、 四人の手持ちポケモンがそれぞれ得意な技を繰り出して、 兵士たちへの攻撃ではなく壁の中の機械を壊す。 ボールジャマーにはポケモンの能力をダウンさせる機能があることから、 四人の手持ちポケモンで何かをするためにもこの機械を破壊する必要があった。 「ローランド!全部壊したぞ!!」 「ゴルダック、彼らを連れて何処でもいいからテレポートするぞ!!」 部屋の四方を見回してボールジャマーの残骸を確かめたことで、 ローランドはジートたちを近くに連れてゴルダックと共にテレポートで姿を消した。 残された兵士たちは慌てて彼らの姿を探すが、ピカチュウ一匹の気配すら感じなかった。 「長距離テレポートのためにボールジャマーを壊したのか!?」 「地上でキレ者のあのローランドが相手だったら無理も無い。 あの三人は二度とここには帰れないし、戻ってきたとしても記憶を消去して万事解決さ」 完全に敵として位置付けた四人の姿が無いことで、将官は相手が逃げても勝利を確信する。 真実を知った三人の少年少女には地下都市に戻ることは出来ず、 たとえ戻ってきても記憶を消して「何も無かったこと」に出来るのだから、 敗北の要素は何処にも無い。 それに地下都市の”道具”がいくつか失っただけで、今後の統治に与える影響も無いのだ。 空間的にも閉鎖的な地下都市には見られない、 次第に漆黒から蒼空に染まる様子を見せる地上では、青い背景と白いものが漂う空間に、 眩いばかりの光を放つ球体が地上を照らす。 光を放つ球体からは僅かな熱気も放たれて、不規則に流れる空気が草木を揺らす。 地上に人間が生きてきた名残を残す場所では、ポケモンが姿を見せて自然界の歯車を動かす。 無機質な人工物に溢れていた地下都市から脱出した四人と四匹のポケモンは、 地上世界の始まりの瞬間を見届けていた。 ジートは地上世界の開放感に身を任せて、 リョウジは興味津々に野性ポケモンの動きを監察、 ミサは二度と来られないと思った空間に再び自分が居ることに感動していた。 「記憶を消されるだけで済むうちに地下都市に戻してもいいぞ。 家族や友達とは二度と会えなくなるし、最悪の場合は友達と敵同士になるんだぞ」 地下都市からの脱出成功の余韻と初めて見る地上の夜明けの感動に浸る三人に対して、 ローランドは最後の選択をさせることにする。 地上に居ることは地下都市の敵となって、知人同士で戦うことを避けられない。 彼は残酷な未来が待ち構えていることを教えるが、三人の答えは既に決まっていた。 「本当のことを知って見て見ぬ振りが出来るわけが無いだろう!!」 「初めて地上に出たこととセレビィに会った時点から、俺たちは後戻りが出来ないんだ」 「あたし達が地下都市に居ることは、おじさんやおばさん…、 それにアルナや街のみんなにも迷惑になるし、それに覚悟はもう決まっています」 「これからは君たちはイレギュラーとして、地上の世界で生きることになる。 地上は地下と違って無法地帯ばかりで、全てが生きるための戦いばかりになるぞ」 これから地下都市を出た三人が待っているものは、 地上で生きるための厳しい戦いであるが、地下には無い雨や雪などの不規則な天候の変化、 森や砂漠に荒野が広がる広大な自然、そして新たな未知の世界に踏み出すことへの強い期待である。 ここで三人は厳しい世界の中で自分自身を鍛えて、後に世界を変える力を身に付ける。 「それでROEやLANDの争いが止められるなら、俺は何でもやるぜ」 「地上には君たちのように、地下都市から出た人間やポケモンも居るし、町だってある。 まずは俺が拠点とする町に行って、君たちを仲間として迎えよう」 地上で生きることは地下には無いことが、多くの学んで経験することが待ち構えている。 真実を知って新たな世界に飛び出して決意を抱く二人の少年と一人の少女は、 一人の青年と出会ったことで本当の自分を見つけることが出来たのかもしれない。 二つのコンピュータの対立で分断された世界の間にある地上は辺境[Frontier]であるが、 昔は人間とポケモンが共に生きた母なる大地であり、全ての始まりの場所でもあった。 そう、ここは白き始まりの場所、三世紀前までマサラタウンと呼ばれた平野である。 The Fin それから5年後にローランドをリーダーとする地上の小規模勢力が、 ROEとLANDによる長い対立に終止符を打つことになる。