俺とライバルのヒビキとの約束はポケモンをもらったときから既に始まっていた。 「イワセ!俺のブビィの勝ちだぜ!!」 初めてのポケモンバトル、俺ことイワセは初めてのバトルで負けた。 俺がもらったポケモンは草タイプのハネッコで、ヒビキが貰ったのは炎タイプのブビィだった。 こうして初めてのバトルを終えて俺とヒビキは故郷の町を旅立っていった。 当然俺達の目的はポケモンリーグに出て、ポケモンマスターになることだ。 最初のうちはヒビキと一緒に旅をして、ポケモンを捕獲したり、暇があればポケモンバトルをしたりしていた。 ポケモンバトルはヒビキの圧勝で俺は負けてばかり、それにヒビキの方が俺より捕まえたポケモンの数が多い。 そんな中で俺達はいろんな出会いをしたり分かれたりなど、旅に出て3ヶ月くらいでいろいろな思い出が出来た。 そんな旅をしていたある日、俺とヒビキはクチバで別れることとなった。 「イワセ、俺はジョウトでバッジを集めてくる。今度会うときはセキエイスタジアムだ!」 「ヒビキ!今まで負けてばかりだが、セキエイでは俺が勝ってやるぜ!!」 俺とヒビキは固く握手を交わしたのを最後に、ヒビキの奴はジョウトに向かい俺はカントーに残った。 こうして俺はヒビキとの再会を夢に見ながらがむしゃらに頑張ってカントーのジムを全て制覇した。 そしてあの別れから半年後、俺はセキエイのポケモンリーグに参加する事が出来た。 だがポケモンリーグの舞台にはヒビキの姿が無く、 ヒビキのことで注意散漫になってしまった俺は予選2回戦で惨敗した。 こうしてポケモンマスターになる事が出来なかった俺は、ヒビキのことが気になって故郷の町に帰った。     **********      The Rain Day     ********** 俺はポケモンリーグで惨敗した事より、ポケモンリーグに姿を見せなかったヒビキのことが気になっていた。 俺が故郷に帰って最初にした事は、ヒビキの家に立ち寄ることだ。 母さんに顔を見せることは2の次3の次にして、セキエイにこなかったヒビキに会うことが何よりも最優先だ。 それでもヒビキが必ずしも家にいるわけではなく、まだジョウトにいるかも知れない。 そんなことを頭の中で考えながらも、俺は広いジョウトを探すより確率が低いが家がある故郷の方を選んだ。 『何故セキエイにこなかったんだ!?この約束はお前が俺に言い出した事だろうが!!』 早速俺はヒビキに会ったらこの言葉を言ってやろうと思いながら、ヒビキの家の前に来た。 そして俺はインターホンに指をゆっくりと動かして、インターホンを押す。 ピンポーン・・・・・・。 インターホンの電子音がヒビキの内の中を響くのが、外にいる俺でも十分に分かる。 俺が鳴らしたインターホンの音に反応して、ヒビキの家のドアがゆっくりと開く。 「ヒビキ!何故セキエイに来なかっ・・・。」 俺は誰がドアを開けたのかを確認もせずに、頭の中で考えていた文句を言おうとしたが途中で止めた。 ドアを開けたのはヒビキ本人ではなく、ヒビキの5歳歳の離れた姉ちゃんだった。 「イワセ君、久しぶりだね・・・。」 「久しぶりっす。」 ヒビキの姉ちゃんは気の抜けた声で俺に挨拶をして、俺はそれを平然と返してしまった。 そんな返事をしたヒビキの姉ちゃんは何故か分からないが、暗い顔を見せている。 「あ、あのヒビキの奴は家にかえってないか? ヒビキの奴・・・ポケモンリーグに参加しなかったから、何があったか気になって・・・。」 俺は彼女にヒビキが家に居ないかを尋ねたが、ヒビキの姉ちゃんはあいつの名前を聞くたびに辛い表情を見せる。 「イワセ・・・君・・・。ヒビキは・・・、ヒビキは・・・・!」 ヒビキの事を尋ねられたヒビキの姉ちゃんは、弟の名前を口にしながら泣き出してしまった。 俺に一体何が何なのか全く分からない。 「どうしたんだ!?ヒビキの奴が何か!?」 今の俺がヒビキの姉ちゃんに出来ることは、ヒビキが何処にいるのかを知ることだけだった。 そんな俺の勝手な推測では、ヒビキの奴が実の姉を泣かせるくらいひどい事をやったとしか考えられなかった。 「ヒビキは・・・3ヶ月前に・・・、交通事故で・・・、パトカーに轢かれて・・・。」 「え!?交通事故で・・・。」 俺はヒビキの姉ちゃんの口から、あいつがセキエイに来なかった衝撃的な理由が分かった。 あいつは・・・ヒビキはもうこの世にはいなかったんだ・・・。 そう・・・交通事故で死んでいたのだ・・・。 「何でヒビキがパトカーに轢かれて死んだんだ!?」 俺は悲しんでいるヒビキの姉ちゃんにそんな質問をしてしまった。 しかし、そんな後悔は言葉を全て言い終わってから急に襲い掛かる。 「ご、ごめん・・・。俺、半年間ヒビキと離れていたから、何も分からないんだ・・・。」 俺はヒビキの姉ちゃんに謝った。 俺はこの半年間ヒビキとは何の連絡も取っていないし、旅やバッジ集めに夢中になってて、 あいつが何をやっているのかを全く考えていなかった。 ―――何も気に掛けようとはしなかったなんて・・・、友達どころかライバル失格だ・・・。――― そんなことが脳裏に浮かんで、俺はとてもヒビキの姉ちゃんの心の傷を土足で踏みにじった事を後悔した。 旅やバッジ集めが夢中になってたことを、言い訳にして正当化しているにしか過ぎない。 俺って、すごく最低だ・・・。 「ヒビキは今イワセ君にとても会いたがっているわ・・・。 気付かなかったイワセ君が悪いわけじゃないよ。単にヒビキが死んだことを知らされなかっただけなんだよ。 そんなことより、今すぐヒビキのお墓に行かない・・・?」 そんなことを考えている俺にヒビキの姉ちゃんが、ヒビキの墓参りに誘ってくれた。 そんな最低な俺でもヒビキはかけがえの無い友達だということを忘れていた。 俺はヒビキの姉ちゃんの誘いを即答で『YES』と答えた。 こうして俺はヒビキの姉ちゃんに案内されて、その途中で花を買ってから近くの墓地へと歩いていった。 でも今日は雲行きがあやしく、いつ雨が降ってもおかしくないくらいに雲がかかっており空気が湿っぽく感じる。 「イワセ君。傘持って来ようか?」 「いいです。まだ雨が降るわけじゃありませんから・・・。」 「私は傘買ってくるから先に墓地に行っててくれる?」 「墓地の場所くらい分かりますから、いいっすよ。」 ヒビキの姉ちゃんは傘を買いに、近くのコンビニに入っていき、俺は墓地の方を目指して歩いていった。 こうして墓地に着いた俺はヒビキの姉ちゃんを待つわけではなく、ヒビキの墓を探しに行った。 俺は悠著に彼の姉を待つことがどうしても嫌というか、早くヒビキに言いたいことを言っておきたいという気持ちから墓地をさ迷う。 当然同じような墓石がいくつもある場所で、見たことが無い知人の墓を探すことは難しいことだった。 なんだかんだと結局は、ヒビキの姉ちゃんに指定された場所で待つことにして、二人で彼の墓標のある場所に向かった。 俺はやっとヒビキの墓を見つけた。 俺はヒビキの墓に、買ってきた花を供えて線香に火を着けて、あいつに語りかけるかのように手を合わせる。 (ヒビキ、セキエイに来れなくて悔いが残っただろうな。 俺はポケモンリーグで戦っているときもお前のことを心配していたんだぜ。それが敗因にもなったけど・・・。) 俺はヒビキに対して、かなり心配していたことを手を合わせながら心の中で叫ぶ。 (俺はセキエイでヒビキと戦うことが楽しみだった。それがこんな形で再会するとはな・・・。) 出来れは俺は生きているヒビキと会いたかった。 「何でヒビキが事故で死んだんだ?」とそんな疑問を浮かんだとき、ヒビキの姉ちゃんがゆっくりと口を開く。 「イワセ君。ヒビキがパトカーに跳ねられて死んだのは雨の日だったわ・・・。 道路を走る車に阻まれて動けなくなったポケモンを助ける為に・・・。」 ヒビキの姉ちゃんがモンスターボールを取り出した。 そのモンスターボールから出てきたのは、子ねずみポケモンのピチューだ。 「このピチューが、ヒビキに助けられたポケモンですか?」 俺がピチューを見てヒビキの姉ちゃんに聞いてみると、彼女は即座に首を縦に1回振る。 「このピチューはヒビキに助けられなかったら、もうこの世界にはいなかったのよ。 ヒビキがピチューを助けたときは、車は信号待ちと一部区間が工事中だったから動くことが出来なかったの。」 ヒビキの姉ちゃんは涙を流しながらヒビキが死んだときの状況を語った。 「ヒビキは・・・、車が来なくなった隙を見て・・・、ピチューを助ける為に道路に飛び出して行ったのよ。 ヒビキがピチューを助け出した直後に・・・・、 サイレンを鳴らしながら走ってくるパトカーに跳ねられたの・・・・。 ピチューはヒビキがしっかりと抱き締めて庇ったから、幸い軽い怪我で済んだの・・・。 でも、その代わりヒビキが・・・パトカーに正面衝突して・・・、 跳ね飛ばされて道路・・・に叩きつけられたわ・・・・・・。」 ヒビキの姉ちゃんはついに泣き出してしまった。 ヒビキの両親は7年前に交通事故で死んでしまっていて、彼女にとっての弟のヒビキはたった一人の肉親だった。 たった一人の弟を両親と同じ交通事故で亡くして、平然と出来る方がおかしい。 ヒビキの姉ちゃんは、あいつが死んでから一人ぼっちだったんだ。 それと後で聞いた話だがヒビキをパトカーで轢いた警察官は、 最悪にも処分されるどころか、ただ注意されただけで何の責任も取らなかったのだ。 ポケモンリーグであいつと戦うことが出来なかった俺より、ヒビキの姉ちゃんが誰よりも一番辛かったんだ。 「それと・・・パトカーに跳ねられた・・・ヒビキは・・・、すぐには死ねなかったの・・・・。 病院に搬送される救急車の中で・・・、救急救命士の人が教えてくれたことが・・・、 私と・・・イワセ君の名前を何度も・・・苦しそうに・・・言っていた。 それと救急車の・・・中で・・・意識を失う前に・・・、 『イワセ・・・姉ちゃん・・・ごめんな・・・・。』 そう言ってヒビキは・・・、二度・・・と目を覚ますこと・・・がなかったの・・・。」 ヒビキの姉ちゃんは大粒の涙を無数に流しながら、ヒビキが言った最後の言葉を伝えた。 そんなヒビキの姉ちゃんに同調するかのように、あやしい雲行きの空から雨が降り出してきた。 次第に雨は勢いを増して、俺とヒビキの姉ちゃんを体温を下げて体を濡れさせていく。 ヒビキの最後を話したヒビキの姉ちゃんは、先程コンビニで買った傘をさす気力は無く、 俺はピチューと彼女を雨で濡れさせない為にも、傘を開いてさしてやっている。 「今日は・・・ありがとうございます・・・。」 俺はヒビキに会えたことを、ヒビキの姉ちゃんにお礼を言った。 「イワセ君、これからあなたはどうするの?」 「俺は、しばらくしてからホウエン地方に行こうかと思います。」 俺が再び旅立つことを聞いたヒビキの姉ちゃんは、バックの中から3ポケモンが待機している3個のモンスターボールを取り出した。 「これはヒビキが持っていたモンスターボールよ。最初にもらったブビィも今ではブーバーに進化しているわ。」 ヒビキの姉ちゃんがそう言うと、俺にそのモンスターボールを渡してきた。 「ヒビキが大切にしていたポケモンだから、イワセ君に受け取って欲しいの。 そのことはあなたを一番の親友と思っていた・・・ヒビキが一番望んでいるから・・・。」 ヒビキの姉ちゃんは、ヒビキの手持ちポケモンだったポケモン達を俺に託した。 ある日突然たたれた夢を俺に引き継いで欲しいかのように・・・。 「イワセ君なら、ヒビキが目指していた場所に行けるわ・・・。だから・・・ヒビキの代わりに・・・。」 「俺はヒビキの代わりになれません。」 俺は『ヒビキの代わり』と言われたことが気に入らずに、思わず彼女に反論してしまった。 「ご、ごめんなさい・・・。イワセ君なら、ヒビキが目指していた目標に一番近いから・・・。」 「俺とヒビキの目標はポケモンマスターなんです。だから同じ目標をもつ俺はヒビキの代わりにはなれない。 俺はポケモンマスターを目指す為にも、ポケモンのためにも命を張れるような、ヒビキ以上のトレーナーになります。」 降りしきる雨の中で、俺はヒビキを越えることを彼女に大声で宣言した。 あいつに勝ち逃げされているという気持ちも歩けど、 俺が一番印象に残ったのは、ポケモンの為に命を投げ出したヒビキの覚悟に胸を打たれたのだ。 だから俺はヒビキを越えたいと、雨の中の墓地で大声であの世にいるヒビキに宣言してやったのだ。 それから数日後の晴れた日、俺はホウエン地方に行く為に故郷を再び離れていった。 今度はヒビキのポケモンを手持ちとして加えてからの再スタートだ。 俺に最後まで勝ち星を譲らなかったヒビキの為にも、今度こそはポケモンマスターになって見せる。 そんな気持ちと、見送ってくれたヒビキの姉ちゃんの期待を背負って・・・、 こうして俺は再び目標を実現させる為の再長い旅に出た。 The Rain Day   〜The Fin〜 あとがき、 ほんの思いつきから始まって書いたThe Rain Dayですが、連載中のSE2をさぼって結構気合を入れて書いて見ました。 今回のテーマは『親友の意志』ということで、主人公のイワセをヒビキより劣った感じにしています。 相変わらず人が死ぬ小説を書いていると皆さんに言われそうですが、これを書いている自分の方もヒビキの無念が伝わって結構辛かったりします。 これは自分が初めてかいた不出来な短編小説ですが、最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。 それではSE2ともども今後ともよろしくお願いします。 2002/10/25 Written by 長谷川紫電