「やだよっ!ボクは絶対、ぜぇ〜ったいに、ポケモントレーナーなんてならないからねっ!」 そういってボクは、おかーさんに思いっきりのアカンベをする。 おかーさん、いままで必死に冷静を保とうとしていたんだろうけど、 みるみるうちに、顔が真っ赤になっていく。まるで動物園のサルだ。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART1「おかーさんなんて 大嫌い!」 ****************************** 「なっ・・・!?  一体どうして、あなたはそんなに聞き分けが良くないの!?」 「別にい〜じゃんかっ。  おかーさんこそ、いつもいつもボクが言うことを聞いてくれると思ったら  大間違いなんだからねっ!」 そういって、いししっと笑ってやる。いい気分。 別にボクは間違ったことは言ってない。・・・はずだ。いや、絶対そうだ。 大体、母親なんてそういうものじゃないのかな。 おかーさんは、外で他人に出会った時は、いつも使わないような口振りで話しているけど、 他のおかーさんもそうだと思うんだよね。 「何を言ってるの、ポケモントレーナーになることは、あなたにとっても  とっても、いいことなのよ!?」 「それ、もう聞き飽きたよっ!  それに、おねえちゃんの時には「ポケモントレーナーになれ」、って言わなかった  じゃんかっ。なんでボクだけっ」 そう。おねえちゃんは「きゃりあうーまん」になりたい、って言ってた。そして、もうすぐなれるんだって。 ・・・どんなものなのかはよくわかんないけど、ボクだって自分でなりたいものぐらい決めたい。 それなのに、勝手に押し付けて・・・、しかもよりにもよってポケモントレーナーだなんて。 ・・・全く、どうかしちゃってるよ。 「・・・ナナっ!!女の子なのに「ボク」なんて言うのはやめなさい、って  何度言ったらわかるのっ!」 ほら来た。答えるのが困ったら、すぐにこのことを指摘するんだ、おかーさんって。 「ボク」が男の子のものだっていうのがおかしいんだ、ってなんでわかんないかなぁ。 でも、こういうときはボクにだって方法があるんだ。 「・・・どうして、わたしにはポケモントレーナーになれって言って  おねえちゃんには言わなかったのですか?」 自分でも気持ちが悪くなるぐらいの声色で、普段は絶対に使わない「わたし」 なんて言葉を使って、ていねいにたずねる。 すると大抵、おかーさんはしぶしぶ口を開く。ひっさつわざ、だ。 ・・・そしてほら、今回も。 「・・・あのねぇナナ、お姉ちゃんはどんな人だった?」 おねえちゃん。ボクの6つ上のなんだ。 おねえちゃんが家にいたときは、いつもケンカばかりだったっけ。 「え〜とねぇ、学校での成績はバツグンだったけど、実は乱暴でガサツで、お菓子が大好きな人」 「こらっ!!」 あはは、言い過ぎちゃったかな。・・・でも、これもホントのこと。 ここいらじゃボクに勝てる男の子はいないけど、 ボクに勝てる女の子はおねえちゃんだけだ。 それにお菓子が大好きなくせに、自分じゃ何もつくれないんだよ。 この前ケーキをお互いに作って食べあったんだけど、おねえちゃんのはとてもじゃないけど 食べれたものじゃなかったんだ。 ボクはすごい顔をしてたのに、おねえちゃんはおいしそうにボクのケーキを食べてたしね。 「・・・それに比べて、あなたは?」 「とってもやさしくておとなしくて、成績も上々の優等生っ」 「ウソおっしゃい」 おかーさんの鉄拳がボクのアタマにめりこんだ。イタい。ほんっとうにイタい。 このイタさはうけてみなきゃわからないよ、きっと。 さすがに反撃するワケにはいかないから、必死に口でうったえる。 「いたた・・・。  で、それが何に関係あるっていうんだよっ」 「お姉ちゃんは立派な働く女性になりたい、と言ったのよ。  ・・・学校の勉強程度でへこたれてるような人はとてもじゃないけど無理な仕事なのよ?  ましてやナナみたいな、おてんばで、落ち着きが無くて、成績も・・・」 「そっ、そんなのないよっ!それがなんでポケモントレーナーになるのっ!?  大体、ボクは別におねーちゃんみたいになりたいワケじゃないんだっ。  ただ、絶対にポケモントレーナーはイヤだっ」 そしてボクはそっぽ向く。ホントにホントでイヤなんだからしょうがない。 というか、この歳で何をするか決めろというのがおかしいとボクはいつも思う。 そうだ。何で今なんだろう。 「・・・ねぇ、なんでそんなことを今決めなくちゃいけないの?  まだボクは十歳だよ?まだ早すぎるよぉ・・・」 「何回も言わせないで。  10歳って、ポケモントレーナーになるための修行を始めるにはとってもいい時期なの。  この前のテレビでも、そう言ってたでしょう」 そうだった、忘れてた。 この間テレビで、「ポケモントレーナーの強さにせまる!」とかいう番組でやってたっけなぁ。 「修行開始は早すぎてもダメだし、遅すぎても身につかなくなる。  10歳という年齢は非常に適している」だとかなんとか。 まったく、修行の旅に出されるこっちの身にもなってほしいよ。 「まったく・・・。  ナナ、どうしてそんなにポケモントレーナーがイヤなの?  かわいいじゃない、ポケモンって」 「かわいくないっ!!イヤなものはイヤなのっ!  おかーさんだってトマトが嫌いなクセにっ」 「それとこれとは関係ないでしょう?」 って、おかーさんがためいきまじりに言う。・・・確かに関係なかったかも。 なんでも、トマトの中のぐじゅぐじゅがイヤなんだって。あんなにおいしいのに、ヘンだよね。 なんて、いろいろ想像してたボクのアタマを、おかーさんががっしりつかんで、目の前に持っていく。 ・・・なんだろう、香水のようなニオイがする。・・・でも、ちょっとつけすぎじゃないかなぁ。 「聞いて、ナナ。  お母さんはね、あなたのそのおてんばで元気いっぱいなところ、とっても好きよ。  成績とかも大事だと思うけど、あなたが外で元気良く遊んでいる姿をみると、  お母さんも元気になれるの・・・」 げげ。よく言うよ。 あれだけ毎日毎日飽きもせずに怒ってるクセに・・・。 ・・・なんてことを口にだして言ったら、また怒られるだろうから、言わないでおく。 これも日々の生活で身につけた、豆知識のひとつ。なんてね。 「ポケモントレーナーって、楽しいと思うわよ?  ナナの知らないようなところを、自由に旅できるんだもの。  それこそ、お母さんのようにあなたをうるさく怒る人だっていないわよ?」 それはいい。うん。かなりのメリットかもしれない。 ・・・でも、ポケモントレーナーは・・・。 それに、ポケモントレーナーになるということになれば・・・。 ボクがいろいろ考えてるのもよそに、おかーさんは話しつづける。 「・・・ね、決まりでしょ?  立派なポケモントレーナーになれば、テレビにだって映れるんだから・・・」 やばい、このままだと本当にポケモントレーナーになるハメになっちゃいそうだ! 「そっ、そんなことはどうでもいいよっ!!  とにかく、ボクはポケモントレーナーにはならないっ!  最低でも今年はっ!」 「今年・・・?」 ボクの言葉に、目の前のおかーさんが首をかしげる。 危ない、危ない・・・。とにかく一刻も早くこの場から脱出しないと。 そう思って、自分の部屋に戻ろうとしたとき、おかーさんが最後に一言だけ、こういった。 いつもの怒ってる時のとは違う、どっしりとした声だった。 「・・・ナナ、あなたはポケモントレーナーになるの。絶対、よ。  明日からのポケモン講習、申し込みしてあるからね。  絶対、ぜぇ〜ったいに、講習に行かせるからね」 ・・・ボクの顔から血の気が引くのが自分でも分かった。 なんてこった。すでにボクは、ポケモントレーナーへの第一歩を踏み出そうとしてるんじゃないか。 ポケモン講習、それはこのマサラタウンで一番のポケモン研究所である「オーキドラボラトリー」に ポケモントレーナーを目指す人が集まり、そこで最低限の勉強をする、というもの。 確か、学校のクラスの半数が、口々にそのことを言っていたような・・・。 その中でもボクは「ポケモントレーナーにはならない」、って断言してたのに。 ああ、運命の歯車はいったいどこで狂い始めたんだろうか。・・・ってドラマで言ってたけど、 こういう時にでるセリフなんだろうな。 ボクはとにかくハラがたって、そのまま部屋にかけこんだ。 ボクのことなのに、知らないうちに勝手に決めちゃうなんてひどすぎる。 おかーさんはなんにも知らないんだ。ボクがポケモントレーナーになりたくない理由なんて。 ・・・でも言えない。言えるもんか。 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)