ばたっ、とボクはベットにたおれこむ。 今日、外で干したんだろうか。ふとんがなんだか、あったかい。 ・・・それにしても、ゆううつ。明日からは学校じゃなく、オーキドじいさんのところに いかなくちゃいけない。 ・・・ポケモントレーナーになるために・・・。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART2「講習なんて 大嫌い!」 ****************************** だいたいそもそも、こんな大事なことを相談もせずに勝手に決めちゃうなんてズルい。ヒキョウだ。 おかーさんのバカ。 ・・・毎年、ボクの家族は、テレビでポケモンリーグ大会を見る。 お互いのポケモンが華麗なワザを繰り出し合って、やがて勝負がつく。 おねえちゃんやおかーさんはそれをものすごく興奮してみてたっけ。 「でたでたっ、”りゅうのいかり”よっ!」「決まったぁ〜っ!!」 ・・・”りゅうのいかり”より、”ははのいかり”のほうが絶対に強そうだ。 ボクにはよくわからない。確かにカッコいいと思った場面とかもあったりするけど、 ごはんをそっちのけにするほどじゃないと思うんだけどなぁ。 ボクがポケモントレーナーになったら、おかーさんたちは喜ぶんだろうなぁ・・・。 きっと、テレビなんか比べ物にならないほど興奮するんだろうな。 ・・・そう思って、ボクは慌ててその考えをかきけした。 なんでおかーさんやおねえちゃんのために、ボクがポケモントレーナーにならなきゃいけないんだっ。 でも、本当はどうなんだろう。ボクは本当に、ポケモントレーナーになりたくないのかな? ・・・そんなことを考えてたら、いつのまにかボクは寝ちゃってた。 しゃっ、という音と同時に、ボクの目に光りがさしこんでくる。 うう、まぶしい。なんだこれは? 目をゆっくりと開けると、横でおかーさんが怒った顔して立っていた。 ・・・ここんとこ、怒った顔しか見てないかもしれないなぁ。 「ん〜・・・?」 「いつまで寝てるつもりなの!?今日はポケモン講習の日でしょ!  博士の家までかなりあるんだから。初日から遅刻なんて、絶対にゆるさないわよ!」 そうか、朝だ。どうしても起きないもんだから、カーテンを全開にしたんだな。 それにしてもよく言うよ。自分で勝手に決めたくせに。ボクはまだ一度も行くとは言ってないのに。 ・・・と言っても、いくら粘ってもどのみち行かされるんだけどね。 学校まではボクの足で12分と7秒でつく。言っとくけど、これはカンペキなデータなんだからね。 家で寝ていられる時間をできるだけ増やそうと考えた結果がこれ。だからいつも、遅刻ギリギリ。 ・・・だけど、博士の家にはそんなにしょっちゅう行ってるわけじゃない。 そういうわけで残念ながら、まだデータはカンペキとはいえない。 遅刻ギリギリに登校するのが気持ちいいんであって、遅刻しちゃうのは ボクのポリシーに反するんだよね。 オーキドじいさんの家まで、前回は18分ぐらいかかったっけ・・・。 とにかく正確なデータがないうちは、余裕をみて出発しなきゃ。 な〜んてことを、まだ半分寝ているアタマの中で考えてると。 「ナナぁっ!!今すぐ起きないと、朝食抜きよっっ!!」 ・・・ヤバい。これは本当に怒ってる。 あわててボクは、まだ眠りたがっているカラダを起こして、キッチンへ向かう。 ・・・朝食抜きなんて、ボクにとったら断食修行なみにツラいよ。 「いってきま〜す・・・」 「いってらっしゃい。しっかりがんばるのよ!  わからないことがあったら、ちゃんと博士にお尋ねしなさいよ!」 「わかってるって・・・」 コイツはわかってない。そうおかーさんは思っただろうな。 もちろん、わかってない。ボクだってまったく気がすすまないんだから、しょうがないでしょ。 無理にやらせるおかーさんが悪い。・・・そうだよね? ぼーっとしながら道を歩いてると、うしろから誰かが駆け寄ってきた。 どこかに鈴かなにかをつけてるんだろうか。ぱたぱたという足音といっしょに、 りんりんという軽い鈴しげな音が聞こえてくる。 「ナナちゃ〜ん!」 あっ、この声は同じクラスのリオちゃんだ。赤いリボンをつけてる子。 でもおかしいな。リオちゃんはボクが登校するような時間には絶対登校しないのに・・・。 って、そういえば今日はボクがちょっと早めに家を出てるんだったっけ。 やっぱ慣れないことはするもんじゃないね。 「リオちゃん、おはよ〜」 「おはよ〜。ナナちゃん、今日は早いんだね」 「うん、まぁ、ね」 「ところでさぁ、ナナちゃんのカバン、いつもと違うみたいだけど・・・?」 さすがリオちゃん、もう気づいたみたい。 やっぱりカバンだけは変えないほうがよかったかなぁ。 ボクが今もってる、いつもと違うカバンには、いつもと違うものが入ってる。 「うん・・・。実はさ、今日からボク、ポケモン講習で・・・」 「えっ!?ナナちゃん、昨日あれほど「ポケモントレーナーにはならない」、って・・・」 うっ、やっぱり予想通りの反応。きっとこれは、みんなに聞かれるんだろうな。 もぉいいや、全部言っちゃえっ。 「ボクはそのつもりだったんだけどさぁ、おかーさんが知らないうちに申し込みすませちゃってて」 「え〜、ひっどぉ〜い。ナナちゃん、あれだけ嫌がってたのに・・・。  お母さん、ナナちゃんの言うこと聞いてくれなかったの?」 「ものわかりのわるいおかーさんだから・・・。」 あぁ、むかむかする。悪口いっちゃえ。 「昨日なんかさ、すっごかったんだよ。  顔をサルみたく真っ赤にして、めちゃくちゃ怒ってんの」 「あははははっ!  でも信じられないなぁ。ナナちゃんのお母さん、とってもやさしそうなのに」 「だぁめだめ、だまされちゃ!  そのうちとって食われちゃうよっ」 なんて、どんどん話していくうちに、おかーさんはどんどんバケモノになっていく。 足はおとーさんよりデカいだとか、いつもお化粧に30分以上かけてるとか。 マサラタウンって結構ウワサ好きな人が多いから、近所で評判になったりして。いしし。 でも、とうとう学校とオーキド研究所の分かれ道に差し掛かってしまった。 右に行けば学校。左に行けば研究所。ここからは別々になってしまう。 「・・・じゃ、ナナちゃん、がんばってね、ポケモン」 「う、うん。リオちゃんも、学校がんばってね」 そういって、リオちゃんは右の道を歩いていってしまった。 うう、ボクも昨日までは、この右の道を決められたペースで、登校してたのになぁ。 ・・・はぁ、まったくなんでこんなことに・・・。 さっきまでの盛り上がりようが、一人になるとかえってむなしくなる。 いっそこのまま、逃げてしまおうか。・・・なんて考えたけど、あのおかーさんがいるんだ、 そんなのは全くムダなことだ。 そして、とうとうついちゃった。ただでさえかなりの大きさのこの建物が、今日はいつもにもまして 大きく見える。 それがいまにも倒れてきて、おしつぶされちゃいそうだった。 それでもなんとか中に入ると、すぐにがやがやという話し声が聞こえてくる。 もうたくさん来てるみたい。うう、いよいよだ。 「講習用教室 2組生徒はここ」と張り紙があるトビラを、ボクはゆっくりと開ける。 ・・・と同時に、教室はいっきに静まり返ってしまう。当然だ。 あれだけ言っておいて、こんなのって恥ずかしいよぉ・・・。 適当に空いてる席を見つけて座ると、教室もだんだんともとにもどっていく。 恥ずかしいなぁ、ホントにもう。こんなことなら、あんなに宣言するんじゃなかったよぉ。 顔を真っ赤にしてうつむいてるボクのそばに、一人、歩み寄ってきたのがいた。 ・・・カツヤだ。日頃からなにかとボクと張り合って、とってもイヤなやつ。 それでも、大体はいつもボクが勝ってるんだけどね。唯一いい勝負だったのがテストぐらいかな。 「よぉ、どうしたんだ、そんなサルみたいな顔して」 「・・・・・」 サル。なんてことだ。 「昨日、「ポケモントレーナーなんてダサい」とかなんとか言ってたのは誰だっけぇ?  いや〜、まさか言ってた張本人が来ちゃうとは・・・」 「・・・・・・」 くそっ、いつもの仕返しとばかりに、イタいところばかり突いてくるなぁ。 見てろよっ、いつか絶対・・・。 「ま、お前みたいな乱暴ジャリンコにはお似合いかもなっ。  ・・・せいぜい、自分のポケモンにからかわれるのがオチだろうけど」 「・・・・・」 うう〜っ、くやし〜ぃ・・・! 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)