入ってしまえば、とりあえずはラクだった。 きっとみんなも、いつかはわかってくれるにちがいないさ。 ボクがここに来るハメになっちゃった理由ぐらい。 ・・・一人をのぞいて、だけどね・・・。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART3「博士なんて 大嫌い!」 ****************************** それから少しして、オーキドじいさんが入ってきた。 相変わらず、アタマも服も、真っ白け。 いかつい顔つきも、いつもどおりだ。もっとやさしい顔はできないのかなって、いつも思う。 「ようこそオーキド研究所へ、ナンバーワンのポケモントレーナーを目指す諸君。  ・・・といっても、みんながみんな、ポケモントレーナーを目指すわけじゃあ、ないのかな」 え?それはどういうこと? 「そうだな、少し聞いてみるとするか。  ・・・キミは、ポケモントレーナーになりたくてこの講習を?」 って、オーキドじいさんが、一番前に座ってたトモちゃんにたずねる。 ボクは周りのだれよりも神経をしゅーちゅーさせて、トモちゃんの言葉を待った。 みんなもやっぱり、ポケモントレーナーになりたくて来てるのかな? 「いえ、違います。わたしはポケモンナースに・・・」 「おお、そうかそうか。ポケモンナース、つまりジョーイさんじゃな。  しかし、ジョーイさんになるにはタイヘンじゃぞ。  ポケモンのことについてももちろん、学校の勉強も大事じゃからな」 「・・・はい」 何を言ってるんだ。トモちゃんはクラスでも成績ゆーしゅーなんだぞ。 それなのに勉強について言うなんて、失礼ってものだ。 ・・・それにしても、ポケモンナースなんてあったのかぁ。 他にも何かあるのかな、そう思ってたとき。 「じゃぁ、キミは?」 今度はトモちゃんの横の、ツトムくん。 「僕は、ポケモンウォッチャーになりたいです。  小さいころからずっとあこがれてたんです」 「小さいころから・・・?  はっはっはっ、そうかそうか。小さいころから、か。  ポケモンウォッチャーからの資料にも、ワシは時々目を通すが・・・。  どれもこれも、おどろくばかりの出来栄えじゃ。キミもがんばりたまえ」 ポケモンウォッチャー?これもまた初耳だなぁ。 それにしても、このじいさんは笑っても顔が恐い。 顔の筋肉がひきつってるみたいだなぁ。 「それじゃぁ、キミはどうかな?」 あっ、今度はカツヤが聞かれた。 ・・・アイツは何になるつもりなんだろう・・・。 「オレですか?・・・オレは・・・」 アイツはポケモンウォッチャーってガラじゃないよね。 ましてやポケモンナース・・・。うげげっ、想像しちゃダメだっ。 さて、ホントは何だろう・・・。 「オレは、ポケモンマスターになりたいです!」 ふたたび、教室が静かになる。でもボクには、それがどういう意味の静けさなのかわかんない。 ポケモンマスター?・・・でもまぁ、アイツが言うことだから、とんでもないものなんだろうなぁ。 「ポケモンマスター、・・・かね」 「はいっ!!」 「・・・・・・・・。  ・・・・ウム、キミならば、なれるかもしれんな。わっはっはっは!」 と、またじいさんが笑う。何がおかしいんだろう。 なんなんだよぉ、ポケモンマスターって。 あんまり気になったから、隣のマコちゃんに聞くことにした。 「ねぇ、マコちゃん」 「なに?」 「ちょっと聞くんだけどさぁ。  ・・・・ポケモンマスター、って・・・何?」 「え?・・・え〜っと、つまり・・・。  ポケモントレーナーの中のポケモントレーナー、世界一のポケモントレーナー、  負けることを知らないポケモントレーナー・・・ってところかなぁ」 げ。アイツはそんなものになるつもりなのかっ。 ・・・ばっかみたい。そんなスゴいものに、カツヤみたいなやつがなれるわけない。 オーキドのじいさんも、そんなお世辞なんか言わなくてもいいのに。 ちょうどボクはカツヤの背後だ。さっきのお返しもふくめて、おもいっきりのアカンベをする。 あっかんべ〜・・・・、・・・え? ・・・やばっ、じいさんと目があっちゃった。 こういう時は、決まってかならず・・・、そう。 「・・・じゃぁ、今度はキミに聞こうか。  そこの、アカンベしてる子」 当てられるんだっっ! みんながこっちを向く。あわてて口から手を放す。 「・・・キミは、何になりたい?」 「え・・・・、あ・・・・の、その・・・」 何になりたい? これにはどう答えればいいんだろう・・・。 ホントのところは、こんなところには来たくなかった・・・けど、今ボクはここにいるから・・・。 とにかく、ポケモン関係の何かを答えなきゃっ。 ポケモントレーナー・・・は、ボクがなりたいわけじゃない。おかーさんがならせたいだけだ。 ポケモンウォッチャー。とんでもない。 ポケモンナース。・・・かえってケガをするポケモンが増えそうだ。 ボクがいっしょうけんめい、アタマをフル回転させて考えてると。 「いろいろと迷ってるみたいだね。  ・・・キミ、名前は?」 って、じいさんが聞いてきた。 ボクが答えようとした、その時。 「そいつの名前は、そいつがいつも算数のテストでとってる点数と同じですよ。博士」 カツヤの声が突然響いた。・・・算数のテストの点だぁ?いったいどういう・・・。 ボクはナナだ。それなのに・・・、・・・ナナ? 次の瞬間、教室中がどっと笑い声につつまれた。 それと同時に、ボクの怒りもバクハツした。何が「7」だぁっ! 「誰が算数のテストでそんな点を取るかぁっ、このやろーっ!」 「あれぇ?違ったっけぇ?」 カツヤがにやっと笑ってこっちを見る。イヤなやつだっ! 「違ぁ〜うっ!!」 ホントに違うんだよ?いくら算数がニガテなボクでも、7点はヒドい。 「・・・なんだよ、自分だってポケモンマスターになりたい、だなんてバカなこと言ってるクセにっ」 「なんだとぉっ!!?ポケモンマスターのどこがバカだっ」 なんだか予想以上に怒ってるみたい。だけど、ここで負けるわけにはいかないもんね。 町内悪口チャンピオンの座にかけてもっ。 「カツヤみたいなやつが、ポケモンマスターになんかなれるわけないじゃんかっ!  そんなこともわからないのっ!?」 「じゃぁ、お前は何になりたいんだよっ」 「ボクは・・・・!!」 ヤバい。何になりたいか、まだ決めてないままだった。 でもこのまま何も言わないと、また何か言われるに決まってる。 それだけは避けなきゃ。 「・・・どうしたんだ、まさかポケモンナースとか言うんじゃないんだろうなっ」 「違うよっ。  ・・・ボクは、・・・ポケモンなんて大嫌いだっ!!」 教室が静まり返る。今日でもう三度目だ。 カツヤはきょとんとしている。当然といえば当然かもしれない。 「こらこらキミたち、ケンカはよくない。  ・・・話を戻そう。キミの名前は?」 「・・・・ナナ」 なんだか、もうどうでもよくなってきた。 はぁ、今日は人生最大の不幸日かも。 「ナナ?・・・・はっはっは、そうか、そりゃ怒るのもムリないなぁ。  ・・・カツヤくん、算数のテストが7点というのは、ちょっと言い過ぎじゃぞ?」 じいさんはカツヤをしかってるけど、しかってる本人が笑ってるから全く効果がないよ。 それどころか、かえって逆効果に・・・。 「いえ、博士。ナナさんは、理科のテストになるとロクさんになります」 ・・・ほら、言われちゃった・・・。 静けさから、また大爆笑。・・・もう、怒る元気も気力もないよ。 ・・・でもっ!理科のテストであろうがなんだろうが、 ボクは確かにナナだけど、テストでナナやロクになんてなったことは一度もないんだからねっ! 博士も博士だ。ボクの友達ならともかく、カツヤなんかがボクのテストの点なんて 知ってるわけないじゃないか。 ポケモンの、とはいえ博士は博士。それなのに、そんなこともわからないのっ? 「はっはっは、そうか、ロクさんになるのか。  いやいや、傑作じゃ」 ・・・バカ博士めっ。 自然と、握りこぶしに力がこもってしまう。 「・・・落ち着いて、ナナちゃん・・・っ」 ひどい、マコちゃんも笑ってる。 くそっ、カツヤめっ。いつかこのうらみ、必ずはらしてくれるっ。 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)