カツヤにめちゃくちゃに言われたあとは、まぁなんとか話はスムーズにすすんだから、ほっと一安心。 赤と白で塗り分けられたまるいボールが、ポケモンを捕まえることのできる唯一の道具、 モンスターボールだってこととか、その使い方とか。 博士の言ってることのなかにはときどき、ボクが知らないようなことがあった。 ・・・だけど、周りの子は「こんなの知ってるよっ」って顔つきだった。 博士の話をじっくり聞いてるボクを、不思議そうに見る人もいた。 ・・・しかたないじゃんか、今までポケモンなんて興味なかったんだから、 なんにも知らないのは当然じゃんっ。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART4「プリンなんて 大嫌い!」 ****************************** ポケモンの「きそちしき」を、博士が長々と30分ぐらいしゃべりつづけた。 ・・・でも、ボクはいつもの学校のように寝てはいなかった。 なんでだろう? ・・・確かに博士の話はおもしろい。学校の先生とは全然違う。 覚えようとしなくても、いろんなことがひとりでに、あたまのなかに入っていくみたいだ。 ・・・でも、しゃべってる内容はポケモンのことなんだぞっ。 どうしてしまったんだ、ボクは。 「・・・さて、ここまで話しつづけてきたんじゃ、そろそろ諸君もくたびれてきたかな。  でも、もう終わりじゃ。つまらん講義は、もうおしまい」 そう博士がいったとたんに、あちこちで「ん〜っ」とか「あ〜っ」とか、 背伸びするような声が聞こえてくる。 ・・・そんなに退屈だったのかなぁ。 やっぱり、ふつーなら知ってることばっかり言ってたのかなぁ。 「さてさて、それではこれから一人ずつ、出席番号順に名前を呼ぶから、前にでてきてくれんかの。  きみたちに渡すものがある」 って、博士は次々と名前を呼びはじめた。 ・・・あっ、出席番号だと、ボクは2番だからすぐ行かなくちゃ。 「アイハラナナくん。・・・はい、これがキミのだ」 そういって手渡されたのは、さっきの説明にもでてきたモンスターボールだ。 ・・・なんでこれを?・・・くれるのかな? でも、実際に持ってみると、結構これって大きいんだなぁ。 手に余るというか、片手でつかむのはちょっとむずかしいかもしれない。 あんまり珍しくて、ずっとモンスターボールとにらめっこをしていたら、いつのまにか 全員にモンスターボールが行き渡ってた。 ・・・その中でも人一倍嬉しそうに、顔を赤くしてモンスターボールを見てるのが・・・、カツヤ。 ばっかじゃない、みんな同じカタチのボールじゃないかっ。 「さてさて、ちゃんとみんなに、モンスターボールが行き渡ったみたいじゃな。  その中には、キミ達のパートナーとなる、最初のポケモンがはいっておる。  キミ達の性格などを参考に、私が決めたものだ。・・・学校からの通知表・・・とかを見てな」 博士がにやにや笑いながらそう言った。 そしてみんながいっせいに騒ぎ始める。 通知表を博士に見られたってことがわかったからじゃない、もちろん、 「今、自分は本物のポケモンを手にしてるんだ」っていう喜びで、だ。・・・・と思うよ。 ・・・だって、ボクだって少しドキドキしちゃってるもん。 ボクの性格にあった、ボクの最初のポケモン・・・。 いったいどんなのなんだろう・・・? そんなことを考えてると、周りのみんなはどんどんモンスターボールをなげ始めた。 ボクもあわてて、ボールを放り投げる。 「ぽんっ」 まったく文字どおりの、「ぽんっ」って軽い音をたててボールが床に落ちて、 光りながら割れた。 ボクのポケモン・・・。ボクにぴったりの、・・・・。 「ぷ〜ぅ」 ・・・な、なんだこりゃ? 気が抜けそうな鳴き声といっしょにボールからでてきたのは、ピンク色のゴムまり。 ・・・みたいなものに、小さな耳と手が二つずつくっついた、とにかくまんまるい・・・。 げげっ、でっかい目っ!とんでもない、とんでもなさすぎるよ、この目の大きさっ。 バランスがおかしいよ・・・。 ボクは、このポケモンがなんていう名前なのか気になって、またマコちゃんに聞いてみることにした。 「ねぇねぇマコちゃん・・・」 そういってマコちゃんを呼んだけど、振り向いてくれなかった。 何かに夢中になってるみたいだ・・・。 マコちゃんの背中から覗き込むと、そこには青い、ころころしたポケモンがいた。 ・・・そっか、これがマコちゃんの・・・。 「ねぇねぇ、マコちゃんっ」 「・・・えっ、なに、ナナちゃん」 「かわいいね、マコちゃんのポケモン。  それ、なんていうの?」 するとマコちゃんは、その青いポケモンを抱き上げた。 ・・・つぶらな目、ながいしっぽ。ホント、かわいいなぁ。 「この子?・・・この子は”マリル”っていうんだよ。  ”みずねずみポケモン”、っていう種類なんだって」 「へぇ〜・・・。  そ、それでさぁ、ボクのポケモンはなんていう名前か、わかる?  こいつなんだけど・・・っ!!」 そういって、ボクも自分のポケモンを抱きかかえ・・・ ・・・って、重いっっ!! それでもなんとか、マコちゃんの目の前まで持ち上げた。 「ナナちゃん、これは”プリン”っていうんだよ。  たしか・・・・”ふうせんポケモン”って種類だったかなぁ」 「プリン・・・」 ボクはとりあえず、このままこいつを持ちつづけていられそうになかったから、机の上に プリンを置いて、向かい合った。 プリン。ふうせんポケモン。ボクのポケモン。ボクの最初のパートナー・・・。 ・・・なんてこった。思わずためいきをついて、独り言を言っちゃった。 「・・・はぁ、なんだってボクにだけ、こんなマヌケそうなポケモン・・・。  ・・・それに、あんなに体重が重いなんて・・・」 「・・・ぷぅ〜っ!?」 ・・・あ、怒った・・・のかな? ホントに風船みたいに、ぷくっとふくれてる。 「な、なに・・・。ほっ、ホントにお前、重かったんだぞ・・・っ」 と思ったら、突然プリンがボクの目の前までジャンプして、ビンタを繰り出してきたっ。 「ぱちーん」 「いてっ」 あんまりにも突然だったから、ボクはよけることができずに、ほっぺにビンタをくらってしまった。 ・・・ポっ、ポケモンが・・・、こんなやつにビンタを・・・っ。 そう思うと、むしょうに腹が立ってきた。 まったく、今日は腹の立つことばっかりだっ。 「おっ、お前はボクのポケモンなんだぞぉっ?  自分のトレーナーを攻撃するポケモンなんて聞いたことないっ」 「ぷぷぅ〜♪」 さぁ、なんのこと〜?・・・とでも言いたそうな、プリンのすました顔。 むむむむっ、もう完っ全にあったまきたっ!! 「こぉの〜・・・っ。  ナナちゃんビンタっ!!」 机の上の、すまし顔のプリン目掛けて、ビンタをしかける。 今までこのビンタをくらってノックアウトされなかった相手は、おねーちゃん以外いなかった。 ましてやこんなフワフワしたポケモン、なおさら・・・っ!! 「すかっ」 あれっ?手ごたえ・・・なし?そんなバカな。 見ると、さっきまで目の前にいたプリンが、いなくなってた。 そのかわりに、ボクの目の前にピンク色の物体があった。 「・・・うそ」 「ぷぅ〜っ!」 プリンは、その体重をいかして僕の顔面にずつきをした! 「ぐえっ!!」 ・・・それだけじゃ終わらなかった。ボクはバランスを崩して、イスから ころげ落ちてしまった。 「いっ、いった〜っ!!」 「ぷぅ〜っ、ぷぅ〜♪」 なんとかアタマをさすりながら起き上がると、プリンは今までボクが座ってたイスに、 まるでチャンピオンになったみたいに、ふんぞりかえってた。 もう、本気の本気でいくぞぉっ! 「こっ・・・こらぁっ、この”おデブ”ポケモンっ!!」 「ぷぅっ!?」 こいつ、”おデブ”にぴくっと反応した。 さ、さっきよりもふくれあがってる・・・。 でも、負けるものか。こっちだってニンゲンの意地があるんだからっ。 周りの友達が、こっちを見てる。・・・けど、構うもんか。 みんなの目の前で、完全勝利してやるんだからっ!! 「お前なんかに負けてたら、”マサラのナナ”の名がすたるってもんよっ!!  くらえっ、ナナちゃんパンチぃっ!!」 「ぷぅ〜っ♪」 プリンめがけて、ボクの鉄拳がとぶ。 すると、プリンは宙にジャンプしてボクのパンチをかわした。まるで本物の風船みたいだ。 たぶん、さっきのボクのビンタもこうやってよけられちゃったんだろう。 ・・・でも、ナナちゃんは同じ失敗を二度繰り返すほどバカじゃないんだっ!! 「今だっ、ナナちゃんずつきぃっ!!」 「ぷっ!?」 プリンがずつきをしてくるよりも早く、今度はボクがずつきをおみまいしてやった。 プリンはそのままコロコロころがって、誰かのイスの足にアタマをぶつけて、ようやくとまった。 へっへへ〜ん、ボクの完全勝利っ♪ 「やったぁっ、ボクの勝・・・っ!!?」 ガッツポーズをするボクの顔めがけて、今度は隣から、突然水が飛んできた。 もちろん、よけれなかった。ボクはびしょぬれだ。 「つめたっ・・・!!  誰だよっ、急に・・・!!?」 そういってとなりを見ると、マコちゃんが抱えている、さっきのマリルってポケモンが、 怒った顔つきでこっちを睨んでる。 そうか、マコちゃんのポケモンがこの水を・・・。 マコちゃんも、いきなりのことで、かなりびっくりしてるみたいだ。 「こっ、こらマリルっ、何してんのよっ!  ごめんねナナちゃんっ、大丈夫!?」 ・・・ははっ、なんてことだ・・・。 そうか、あのプリンと、他のみんなのポケモンは仲がいいんだ。 「う、うん、大丈夫だよ」 「そう・・・?  こらマリル、なんで突然”みずでっぽう”なんてするのっ」 周りを良く見ると、みんなのポケモンがすごい顔つきでこっちを睨んでる。 いくらボクでも、こんなに大勢のポケモンを相手にしちゃ、勝てっこないよ・・・。 うう、これじゃプリンのしたい放題じゃないかっ。 「こらっ、そこで何しとるんじゃ!」 やばい、博士にも気づかれちゃった・・・。 博士がこっちに歩いてくる。 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)