博士が、床を転がって目を回してたプリンを抱きかかえた。 ・・・やばいっ。怒られちゃうっ? 「かわいそうに、目を回して・・・。  ナナくん、何てことをするんじゃっ」 「・・・っ」 何てこと・・・って言われても、ボクはただ反撃しただけなのにっ。 でも、そんなことを言ったって博士は取り合ってくれるはずがない。 わかってるんだ。ボクのいつものパターンなんだから・・・。 「ほら、モンスターボールを貸しなさい。  ・・・もどれ、プリン」 プリンが、博士の手の中のモンスターボールへと消えていく。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART5「ガーデンなんて 大嫌い!」 ****************************** プリンの入ったモンスターボールを、もう一度博士は手渡してくれた。 「いくらキミが気に入らなくたって、プリンはキミの最初のポケモンじゃ。  キミの性格にあったポケモンを選んだつもりじゃ。仲良くするんじゃぞ」 そう言って博士は、前に戻ってしまった。 仲良くぅ?あいつと?・・・じょうだんっ! だいいち、ボクの性格にあってない。ぜんっぜん! なんていうのかなぁ、ボクの言うことをちゃんと聞いてくれて、 もっと”あいきょう”があって、そんでもって強くて・・・。 ・・・いつのまにか黒板の前に帰った博士が、手を叩きながら言う。 「さぁさぁみんなも、ポケモンをもらってうれしいのはわかるが、  ひとまずポケモンをモンスターボールにしまうんじゃ」 そう言われて、みんながしぶしぶポケモンをモンスターボールに戻し始める。 マコちゃんのマリルも、赤い光に包まれて、ボールの中へ入っていく。 ・・・はぁ、ボクは周りのポケモン全員に嫌われちゃったんだよなぁ・・・。 あんなプリンのどこがいいんだっ。かばいだてすることないのにっ・・・。 「・・・さて、キミ達も一週間後にはポケモントレーナーとしてマサラを出て行く身。  今初めてポケモンを手にして、改めてそれを実感している子も多いと思う」 一週間後にはこのプリンといっしょにマサラを・・・。 はぁぁ、今から気が重い・・・。 「トレーナーの旅というものは、ごちゃごちゃ理屈をならべて成り立つ・・・、  というものではないんじゃ。  そりゃ、全く知識がないのでは困り者じゃがな。  なによりもまずは経験じゃ。アタマで色々考えるより、実際に自分でやってみた方がいいのじゃ」 ・・・なんか、博士らしくない発言だなぁ。 けっこうおおざっぱな”博士”なんだなぁ・・・。 そんなことを考えてると、博士が黒板の横にある赤いスイッチを押した。 がーっという音といっしょに、黒板の前になにやら地図のようなものが降りてきた。 「さて・・・、これは何だか、わかるかな?  ・・・え〜と、カツヤくん」 カツヤが勢い良く席を立ち、答える。 「オーキド研究所の、ポケモンガーデンの地図・・・じゃないですか?」 「うむ、そうじゃな。座ってよろしい。  ・・・わしの研究所が所有しているポケモンガーデンは、全国有数の広さなんじゃ。  それでも、ポケモンの、できるだけ自然に近い生態を知るための必要最低限の広さなんじゃがな。  じゃから、いろんなポケモンが生きていけるよう、ガーデンの中にはいろいろな地形がある。  水系ポケモンが暮らす広くきれいな湖、”ポケモンレイク”。  多くのポケモンが走り回る、広々とした草原、”ポケモンステップ”。  ポケモンの生態系の宝庫である深い森林、”ポケモングローブ”。  そして自らの体を周りに合わせるポケモンが生息する岩山、”ポケモンマウンテン”。  これらがすべてあるんじゃから、その広さは諸君らも想像がつくじゃろ?」 ・・・すごい。ポケモンの研究のために、ここまで広い庭をつくっちゃうなんて。 湖でしょ、それに草原に森、岩山だって・・・。 と、いうことは、目の前にある地図の水色の部分が湖で、茶色いところが岩山、 黄緑っぽいのが草原で、濃い緑が森なのかぁ。 地図では、ガーデンの入り口のすぐ近くのところに、水色が広がってる。 その上の方には、茶色がまとまってる。 湖の右側に草原が広がってて、その上に森がある・・・ってことかぁ。 「そんなポケモンガーデンなんじゃが、この地図のどこかに、研究者用の小さなログハウスを  建てておる。あまりに小さすぎて、この地図にはかかれていないんじゃが・・・。  どこにあるかわかる人はおるかな?」 「はいっ、ポケモンマウンテンのさらに北にある、って聞いたことがあります」 あてられてもないのに、またもカツヤが答える。 ・・・なんであいつってば、こんなに知ってんの・・・? 周りの子もそこまでは知ってなかったみたいで、目を丸くしてる。 「・・・ほぉ、よく知ってるね、カツヤくん」 「いや、僕の兄ちゃんが・・・、ポケモントレーナーなんですけど、去年そんなことを言ってた  なぁ、って」 なんだ、ズルじゃん。どうりで詳しいワケだ。 「そうかそうか。  ・・・そう、ポケモンマウンテンのさらに北・・・、ここじゃな。  ここに、本当に小さなログハウスが建っておる。  ・・・さぁ、ここからが本題じゃ」 なんだなんだぁ?一体今度は、何を言おうっていうんだっ? ボクのプリンとガーデンのポケモンとを交換、っていうんなら大歓迎だけどなぁ・・・。 「ここはひとつ、トレーナー修行の旅の予行演習だと思って、  みんなにこのログハウスまで行ってもらおうと思う。  このことで、ポケモントレーナーはどういうものかを、実際に感じてほしい。  順番を競うものではないが、見事に到着できた人には、素晴らしい賞品を用意しておるからな」 みんながいっせいに騒ぎ出す。 ・・・聞いてない、こんなことって聞いてないよっ!! 「ただ、今までに言ってきたように、ガーデンのいたるところに、いろんなポケモンがおる。  その種類は、軽く200を超えておる。  ポケモンの総数でいうと、・・・まぁ1000匹以上はおるじゃろうな」 そ・・・、そんなところに、これからボクが行かなくちゃいけないのっ? ・・・あ、でも野生のポケモンってわけじゃないだろうし・・・、 いきなりおそってきたりはしないよね?・・・多分・・・。 そんなボクにさらにおいうちをかけるかのように、博士が続ける。 「いろんなポケモン、とは種類の上でもそうじゃが、性格でもそうじゃ。  みょうに人懐っこいポケモンもいれば、少し不機嫌だったり、お腹が空いていたり。  ワシら人間と同じってワケじゃな。  怒りっぽい人もいれば、ハラペコでいらいらしてる人もいる・・・。  もしも運悪くそういうポケモンに出会ってしまったら、・・・わかるじゃろ?  そう、キミ達のポケモンで、ポケモンバトルじゃ」 さ・・・、さいあく・・・。 大体、研究所のポケモンなんでしょっ!? 不機嫌だったり、ハラペコだったりするポケモンを放っといていいのっ!? 冗談じゃない、ボクはまだポケモンについて今日初めて知ったばかりなんだっ。 しかもその頼みの綱のポケモンが・・・プリンだなんて・・・っ!! 冷や汗をタラタラ流してるボクに、マコちゃんがいたって明るくたずねてくる。 「ねぇねぇナナちゃんっ、緊張するねぇっ」 「え・・・、あ、うん・・・、そだね・・・」 緊張どころの問題じゃないよぉ・・・。 こっちは命の危険があるんだからっ。 「私のマリルといっしょに冒険・・・。  う〜〜っ、楽しみっ」 ボクのプリンといっしょに冒険・・・。 ・・・う〜〜っ、せいぜいずつきを食らわないようにしなくちゃ・・・。 「とはいえ」 博士の声が、また聞こえてくる。 今度は何を言うの・・・?まったく、気が気じゃないよ・・・。 「キミ達はまだ、今日初めてポケモンを手にしたばかりのポケモントレーナーじゃ。  手持ちのポケモンが一匹でいきなり、というのも問題じゃろうし、不安もあるじゃろう。  一人でいきたい、というのなら別じゃが、別に2〜3人のグループを組んで、  ログハウスを目指してくれてもかまわんからな」 地獄に仏っ、天はボクを見放してなかったっ! ボクはすぐにマコちゃんに声をかける。 「マコちゃんボクといっしょに行こうよおねがいっ!」 マコちゃんは少し面食らったようだったけど、すぐに いつもの笑顔で返事をくれた。 「うんっ、いいよっ。  がんばろうね、ナナちゃんっ」 「うんうんっ!」 やった・・・これでもう大丈夫だ・・・っ。 これで、マコちゃんのマリルにお願いできるっ。 ・・・と、マコちゃんがうれしそうにボクの顔を見ながら言ってきた。 「実は私、バトルってニガテなんだ〜。  ナナちゃんとプリンちゃんがいれば、とっても心強いよっ」 「・・・は?」 「ナナちゃん、バトルの仕方、教えてねっ」 「・・・う、うん?」 ・・・ど、どういうこと? ボクが、ポケモンバトルについて詳しいハズがない。 ましてや、このプリンを使って、なんて・・・。 だいたい、プリンを使って勝てるんなら・・・、勝てるんなら・・・。 ・・・そっ、そうかっ! ボクは、プリンに勝った!ってことは、あんなポケモンをあてにするより、自分の力を 信じた方がいいに決まってるっ! あんなヤツが勝てて、ボクが勝てないなんて、そんなのはおかしいっ。 ここで出てくる一つのギモンを、博士にぶつけてみる。 「はかせっ、ガーデンのポケモンはボクのポケモンでも勝てるんですか?」 博士はにこにこ笑いながら答えてくれた。 「もちろんじゃ。いくらバトルとはいえ、そんなにムチャなバトルは危険じゃからな。  狂暴なポケモンは、研究所のモンスターボールにしまっておるよ。  ・・・・まぁ、トレーナーのバトルの運び方にもよるが、な」 ってことは、そういうことだっ。 プリンは、ガーデンのポケモンよりも強い。 そしてボクは、そのプリンよりも強い。 つまりっ、ボクはガーデンのポケモンより、もっと強いワケだっ! 「・・・ど、どうしたのナナちゃん?」 首をかしげてるマコちゃんに、ボクは笑って答えた。 「ははははははっ、もう大丈夫だよっ!!  まかせてよ、どんなポケモンがきたって、ボクがやっつけてやるんだからさっ!」 ・・・あんなプリンなんてアテにできるもんか。 ボクのナナちゃんパンチのいりょく、見せてやるっ!! 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)