「ね、・・・コレって・・・」 「?」 マコちゃんは震える手で、ボートの外の水面を指差した。 ・・・ん? 何だか黒いカゲが・・・。 カゲが・・・見える、ような・・・、、? 「きゃああああっ!!」 「うわぁっ!?」 次のしゅんかん、黄色いツノみたいなのがにょきっと見えてきたっ。 な、な、なんだこりゃぁっ!? まさか、、、「オニ」っ!? 「なんだこれぇっ!!?」 「ナ、ナナちゃん・・・、、ポケモンだよ!!  このツノは・・・“トサキント”!!」 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART7「トサキントなんて 大嫌い!」 ****************************** やがて、その“トサキント”ってポケモンが水中から完全にその姿をあらわした。 立派なツノ、まるで赤と白のまだらのドレスをきてるような、……これは、ちょっとキレイかもしれない。 でも、その目は怒ってるみたいだっ。感心してる場合じゃないぞっ! ボクは、その場にすっくと立ちあがったっ! 「きっ、きっ、きたなっ、ポケモンっ!!」 「ナナちゃんっ、ナナちゃんっ、はやくっ、バトルよぉっ!!」 マコちゃんは、しゃがんでボクの服をつかんじゃってる。……バトルはニガテ、って言ってたっけ。 仕方ない、ここは、やるしかないみたいだっ!! 「よ、よぉしっ!!おまえなんて、……怖くない、んだから、なっ!!」 「がんばってぇっ、ナナちゃんっ」 マコちゃんは、トサキントから目を離さないまま、そう言った。 ……ひとごとみたいに言わないでよぉっ。 「さ、さあこいっ、かかってこいっ!!」 ボクは、ボートのふちに足をかけて身を乗り出して、トサキントをちょうはつした。 少し、ボートがぐらっと揺れる。バランスくずして転ばないようにしなきゃっ。 ……そうさ、ボクはプリンよりも強いんだ。プリンが勝てるやつなら、ボクなら圧勝しちゃうはずだっ!! むむっ、トサキントの目がさっき以上につりあがってきたっ!! ……まず、トサキントがばっととびかかってくるだろっ。そしたらすかさず、ナナちゃんパンチだ。 あ、でもさっきみたいに“みずでっぽう”なんかやられたら、どうしようかな……。 なんて、ずっと勝つために作戦を考えてるのに、トサキントはなんかヘンな顔をしてこっちを睨みつづけてる。 ……なんだ、かかってこないのかっ?…よぉし、そっちがその気なら……っと。 マコちゃんが、ボクの服のすそをひっぱる。 「ナナちゃんっ、なにしてんのっ!?」 「なにって……、バトル、でしょ?」 「相手はポケモンよっ、こっちもポケモンださなきゃっっ!!」 ああ、そうか。マコちゃん、あのプリンがどんなポケモンでどんなことがあったか、なんて詳しく知らないんだ。 ……でも、この慌てよう。ええと、どう説明したらいいかな……。 「あのさ、ボクのポケモンなんだけど……」 「ちょっ、ナナちゃんっ、トサキントがっ!!」 なんだなんだ、今度はトサキントがどうしたって?? そう思って振りかえってみたけど、肝心のトサキントの姿が見当たらない。……逃げちゃったかな? もちろん、ボクにおそれをなして。 ……なんて、ちょっと安心しかけた、次の瞬間。 どかっっ!! 「わぁっ!!?」 「きゃっ!!」 とつぜん、ボートの船底からあの立派なトサキントのツノが生えてきたっ! ……これが、船底に生えたってことは……つまり。 どばあ〜っ!!! トサキントがツノをひっこぬいた瞬間、ものすごい勢いで水が噴出してきたっ!! や、やばいよこれはっっ!!! 「ああああ〜っ、沈むっ、沈むぅっ!!!」 「きゃ〜ぁっ、いやあ〜っ!!!」 もう、トサキントの姿はどこにも見当たらない。今日のところはこのぐらいでカンベンしてやる、ってことかっ!? くそっ、こんど見かけたら絶対にゆるしてやんないんだからな〜っ!!! ……なんて、いってる場合じゃなかったっ!!!オーキドじいさんちの庭で「タイタニックじょうたい」なんて、シャレにならないよぉっ!! 「ど、どうしよっ、どうしよっ!!」 「うわ〜んっ、ナナちゃんっ、なんとかしてぇっ!!!」 マコちゃんも半ベソだ。うむむ、まずい、なんとかしなきゃっ!! う〜ん、う〜ん、、、、仕方ないっ、やむをえないっ! 「今回だけだぞぉっ、こいっ、プリン!!」 ホントに今回だけ。そう思いながら、僕はモンスターボールを投げる。 そうこうしてるうちに、水はもうボートの1/3、ひざの下ぐらいまできちゃってる。はやくしなきゃっ。 ……だけど。 「ぷ〜ぅ??」 あららやっぱり、すっごく不満そう。なんかこう、「やっと謝る気になったぁ?」みたいな感じ。 う〜ん、仕方ない、この「きゅうち」から抜け出せるなら……。 ……んんっ!?謝るぅっ!!?バカいうんじゃないよっ、誰がこんなおデブポケモンにっ!! 「そんな顔しても知らないんだからねっ!!おまえは、ボクのポケモンなんだ、言うこと聞いて当たり前なのっ!!  さっ、おデブポケモン!!どんどん入ってくる水を飲むんだっ!!得意だろぉっ、こういうのってっ!!!」 「ぷっ、ぷぅっ!!?」 あ、怒った。……ううむ、なんでだ? と思ったら、プリンのやつはその巨体をさらに大きくふくらまして、そのままボクのみぞおちにたいあたり! 「ぐぇっ!!?」 「ナナちゃんっ!?」 効いたっ!これは痛いっ!! どぼーん。 勢いよくぶっとんだボクの体は、そのまま水中へと落ちてしまった。くっそ〜っ!!……ごぼごぼごぼ。 もう許せないっ!!遅かれ早かれ水の中だったかもしれなけど、ご主人様を湖へ突き飛ばすなんてっ!! こうなったら、とことん言うこと聞くまでタコなぐり決定っ!!……そんなことを思いながら、ぷはぁっと水面から顔を出してみたら、 プリンのやつ、もうちゃっかりボールの中に戻っちゃってる。いつのまにっ!! 必死に立ち泳ぎするボクの目の前を、バカにするようにプカプカとうかぶモンスターボール。 「くっ……くっそぉぉ〜っ!!」 「ナナちゃ〜〜〜〜ん………」 マコちゃんが最後の助けをボクに求めるけど……もう、どうしようもない。ボートはみるみるうちに沈んでく。 ボクとマコちゃん、2人仲良く水の中、だ。……ゴメンね、マコちゃん。 と、どのくらいだかわからないけど、半分ボーゼンとして湖に漂っていたら。 後ろのほうからばっしゃばっしゃとリズミカルに聞こえる、オールを漕ぐ音。それも、どんどん近づいてくる。 ……かっ、カツヤだっ!! 「あれぇ??……アイハラさん、こんなところでアタマ冷やしてるの?」 「………」 「……ま、いいんだけどさぁ、……つまんないなぁ、こんなところでもう決着ついちゃうのかぁ〜」 「……なんだとぉっ!?」 「……じゃ、オレはもう行くから♪ お2人さん、ごゆっくり〜っ」 そう言うとカツヤのやつ、少しもボートのスピードをゆるめることなく、通りすがりざまにそう捨て台詞を吐いていく。 「まてこらっ、まだ勝負は始まったばか……話を聞けよっっ!!!」 もちろん、カツヤのボートのスピードは落ちない。……っていうか、どんどん加速してる。 ぬううううっ、許すまじっっ!! トサキントとカツヤだけは……あと、プリンっ!!!こいつらは、なんとしても許さないぃぃっ!! …そうだ。 「……くらえっ」 ボクは、目の前を漂っていたモンスターボールをおもむろにつかんで、えいっとカツヤのボートの中に放りこんでやった。 少し遅れて、パニックになったカツヤの声が向こうの方から聞こえてくる。 「うわぁっ、なんだよお前、なんなんだよっ、ここは水の上だぞっ!?  なんで……っ!?」 「ぷぅ、ぷぅぷぅぷぅぅっ!!?」 「ぷぅぷぅぷぅぷぅ、って、お前何言ってんだよっ、このおデブっ!!」 「ぷぅ!!?」 ぱしーん、と、渇いた音が聞こえる。 うしししっ、してやったりっ!!なるほど、こうやって使うのか、ポケモンはっ。 そうだ、マコちゃんはっ!? 「ごめんマコちゃんっ、だいじょう……!?」 って、振り返って見たら、マコちゃんたらさっきのみずねずみポケモン・マリルに、しっかりとしがみついちゃってる。 でも、その顔はすごく申し訳なさそう。……もとはといえばボクが悪いのに。 「ごめんねナナちゃん、もうちょっとマリルちゃんの体が大きかったら、ナナちゃんも……」 「いやっ、いいよいいよっ、気にしないでっ!  あとさ…、やっぱボク、絶対にカツヤには負けられないし。…けど、それにマコちゃんもつき合わせちゃ悪いしっ。  マコちゃんは、ゆっくりマリルとみずうみを渡ればいいよ、ボクは……アイツを追いかけるっっ!!!」 「そ、そう??……わ、わかった…」 マコちゃん、ちょっとあっけにとられてるようだ。 でも、マコちゃんと一緒に行ったら、この先もこういうことがないとは言えないし。マコちゃんは、ゆっくり慎重に行ったほうがいいだろうっ。 それにこれは、ボクとカツヤの“しんけんしょうぶ”っ!! 「ゴメンね、勝手言っちゃってっ。  ……よぉぉぉしっ!!!」 すぅ、っと大きく息を吸いこみ、大きく水をひとかきする。 ふふふんっ、ボクは水泳もクラスで一番っ、おデブのプリンがのっかったカツヤのボートなんて、軽〜く……!! さばさばさば〜っ!! ……ほら、ね。あっという間に、パニック状態のカツヤのボートと横一列、並んだぞっ!! イルカのように華麗に泳ぐボクに気づいたカツヤが、ボートの上からおどろきの声をあげる。 へへんっ、ざまあみろってんだっ!! 「ああっ、こいつ!!みずうみを泳いでやがるっっ!!!信じらんねぇっ!!」 「へへ〜ん、おさきに〜っ♪  あ、そいつの面倒、よろしく〜っ!!」 そういいながら、自慢のクロールでボクは泳ぎつづける。さっきのおかえしでいっ、くやしがりなっ!! ちらっと前を見ると、もうあと25mほどでみずうみの対岸だっ!!さすが、クラスで一番のナナちゃん、速いな〜♪ 「そ、そいつの面倒……??  まさか、このプリンっ!!?」 「ぷぅ?」 「ったく、どういうポケモントレーナーだよっ、自分のポケモンを押しつけるなんてっ!!」 泳ぎつづけるボクの耳に、またあのリズミカルな音が聞こえてくる。 やばっ、カツヤが追い上げてきてるっ!!いそがねばっ! っと、水をかく指の先が何かにさわったっ。 よしっ、ついたっ!!みずうみを泳ぎきったぞっ!! 「よい、しょ……っと。あ〜あ、ずぶぬれじゃんかっ」 「まっ、待て〜っ……!!」 ぜぇぜぇいいながら、カツヤとプリンが追い駆けてきてるのが見える。 ……なんか、こうしてみるとすごい息が合ってるって感じだなぁ、カツヤとプリン……。 なんてっ、考えてるばあいじゃないっ!!早く逃げなきゃっ!!……じゃないっ、早くゴールしなきゃっ!! ボクは、目の前に広がるうっそうと生い茂る森……ポケモングローブめざして、重いからだをひきずるようにして走り出した。 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)