「そ、そいつの面倒……??  まさか、このプリンっ!!?」 「ぷぅ?」 「ったく、どういうポケモントレーナーだよっ、自分のポケモンを押しつけるなんてっ!!」 泳ぎつづけるボクの耳に、またあのリズミカルな音が聞こえてくる。 やばっ、カツヤが追い上げてきてるっ!!いそがねばっ! っと、水をかく指の先が何かにさわったっ。 よしっ、ついたっ!!みずうみを泳ぎきったぞっ!! 「よい、しょ……っと。あ〜あ、ずぶぬれじゃんかっ」 「まっ、待て〜っ……!!」 ぜぇぜぇいいながら、カツヤとプリンが追い駆けてきてるのが見える。 ……なんか、こうしてみるとすごい息が合ってるって感じだなぁ、カツヤとプリン……。 なんてっ、考えてるばあいじゃないっ!!早く逃げなきゃっ!!……じゃないっ、早くゴールしなきゃっ!! ボクは、目の前に広がるうっそうと生い茂る森……ポケモングローブめざして、重いからだをひきずるようにして走り出した。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART8「森の中なんて 大嫌い!」 ****************************** ざざざざっ。 ボクは、この森の道なき道をごういんに、どんどんと歩いていく。 ボクの足の下で、ぱきぱきっ、と音をたててたくさんのいろんな枝が折れていくのが感じられる。 さらに、折れきらない枝が、ボクの体にびしびしあたる。けど、きにしない。 こんなことをするのも、最短ルートで森を突っ切るためだっ。 いや、それにしても……ポケモングローブ、なんてかわいらしい名前がついてるけど、立派な森だよ、これ。 きっとこの森をでるころには、体じゅうが枝のひっかき傷だらけ、服はボロボロになっちゃってるんじゃないのかな。 ふと、ボクは後ろを振り返って、自分のきた道を確認する。 ……あちゃー、これはさすがに、ひどいかも。 「ごういんに踏み荒らされました」って感じの茂みが、ボクが来た方向からずっとこっちへ続いてる。 ……それも、かなり「ムラ」がある。あとで、博士におこられなきゃいいけど。 いやいやっ、今はこんなことを考えてる場合じゃなかったっ。 きっとカツヤも、ボクが通ってきた道を辿って、追いかけてくるにちがいないっ。 うーん、なんとかしなきゃなぁ……。 「……作戦そのいちっ!」 ボクはどんどん歩き続けながらも、アイデアをねった。 作戦その1、名づけて「落とし穴作戦」!! こんな、足元もはっきりしないようなところに落とし穴を掘ってやれば、いくらカツヤのやつだって 落ちてしまうだろうっ。 ……で、落ちたカツヤを上から見下ろして、こう言ってやるんだ。 『はっはっはっ、カツヤくん、なにをこんなところで休憩しているんだい?』 そしたらカツヤは、こういうだろう。 『ああっ、カントーいちかわいくて、カントーいち強いナナさま!  …もっ、もしかして、この落とし穴はナナさまが!?  ああ、ナナさま、助けてください。僕一人じゃ、ここから出られません!』 『う〜ん、そうだなぁ。  もう二度と、ボクに逆らわないとちかうか!?』 『ちかいますちかいます、なんでもします!  ナナさまの言うことならなんでも、よろこんで!』 にしししっ、悪くない。 でも、この作戦はだめだ。「ふかのう」だ。 いくらボクが落とし穴名人とはいえ、今でもうしろからカツヤは追いかけてきてる、っていうこの状況で、 今ここで立ち止まって、カツヤが落ちるのに十分なふかさの穴を掘るのは……さすがにちょっとムリだ。 それに、スコップもシャベルも、なにもないし。 なにか、別の……もっといい作戦を考えなきゃ。 「う〜ん、……作戦そのにっ!!」 作戦その2、名づけて「オバケ作戦」!! これは、木登りがとくいなボクが、木の上からブキミな声を出してカツヤを怖がらせるという……。 ……ダメだな。なにか、他にいい考えは……。 と、学校でもこんなに悩んだことのないぐらいアタマを働かせていると、突然、 「ブーン!!」という、背筋がぞくぞくっとするような音が聞こえてきた。 「うわぁっ、なっ……、なにっ??」 ボクは慌てて、周りをキョロキョロと見渡す。 ……すると、右ななめ上の木の枝に、ハチの巣がみえた。けっこうおおきい。 その巣には、かなりでっかいハチがにひき、むらがっている。 やっぱり、巣もでかければ、ハチもでっかい。 そうか、さっきの音はこのハチの……。 やっぱり、ハチの飛ぶ音っていうのはいつ聞いてもイヤなもんだ。 それに、あのカラダ。黄色と黒のしましまの……う〜っ、ダメだダメだ。 はやめにここから……と。 ここでナナちゃん、ひらめいたっ! 「作戦、そのさ〜んっ!」 いししししっ、みっつめの作戦、ひらめいたっ! いや〜ぁ、われながらナナちゃん、ナイス作戦っ。 ボクは、地面に落ちている小石の中から手ごろなものをふたつみっつ拾って、ポケットに突っ込んだ。 そして、ハチの巣ができている木とは違う、登りやすそうな木を見つけて、登り始める。 作戦はこう。カツヤが、プリンといっしょにボクを追いかけてやってくる。 ボクが木に登っているともしらずに。ま、こんなこと言いながら……。 『う〜ん、かわいくて強いナナちゃんが見つからないな〜』 そこでボクが、木の上からこっそりと石を投げて、あのハチの巣にぶつける。 当然、ハチの巣は落ちる。ハチはおこる。ハチたちはカツヤを敵だと思って、こうげきするっ。 で、カツヤはこう言うんだっ。 『うわ〜、ハチだ〜! これはもうどうしようもないぞ!  はやくこの森から逃げ出して、もうポケモントレーナーになるなんてやめよう!』 ……と、なるはずだっ!! どのくらい、そんな感じで作戦けいかくを考えてただろう。 やがて、ボクが来た方向から、がさがさと音が聞こえてくる。 きたきたっ!! ……なんか、言ってるな……カツヤのやつ。 「……ったくあいつ、逃げ足だけは速いのな〜。  おいおい、ほんとにバキバキに折れちゃってるな、この辺の枝…。  あとで博士になんか言われても、オレ、しーらね……。  とんでもない暴力女だぜ、お前のご主人」 「ぷぅ。ぷぅ。ぷぅ」 ぬ、ぬ、ぬわにぃ〜っ!!? ずいぶん、カツヤのセリフが作戦と違うぞ〜っ!? ……くそっ、プリンのやつまでっ。なんだよ、はたから見てたら仲良しこよしじゃないかっ、 カツヤのあとにぴったりひっついて……、おんしらずなやつめっ! 「……おわっ」 お、カツヤもハチの巣に気がついたみたいだ。びっくりしてる。 ふふふ。これからもっと、驚くことになるのだよ〜……っと。 ボクは、枝の上に立ちあがった。じゅんび、ばんたん! ピッチャー、ナナせんしゅ。第一球……! 「巣……スピアーだ。でっかいな……。  気をつけろよプリン、こいつはなにもしなかったら、こっちに危害を加えることはないから」 「ぷぅ。ぷぅ。ぷぅ」 くらえっ!! ボクは、ポケットから取り出した小石を、巣めがけて、サイドスローで投げはなった。 ばしっ。……ぼとっ。 「……え?」 「ぷぅ?」 っしゃーっ!!さすがナナちゃん、百発百中! 小石のごうそっきゅうをまともにうけた巣は、あっさりと木からはずれて落ちた。 おそるおそる、落ちた巣の方を確認するカツヤ。 その瞬間、さっきの何倍もの羽音で、カツヤを威嚇する二匹のハチ!! ぷくくっ、あわててるあわててる。 「そっ……そんなっ、急に巣が落ちるなんて……!!  ま、まさか……!?」 カツヤはなにかに気がついたように、あたりをキョロキョロ見まわしはじめた。 うぬぅ、鋭いヤツ。 カツヤが、木の上に立っているボクを見つけるのに時間はかからなかった。 「……あ〜っ、ナナっ!!」 「やぁ、カツヤ。……ぷくく」 ああ、おかしい。笑いがとまらない。 「なっ、何がおかしいんだっ!!  お前、このスピアーの巣……うわっ!」 突然、怒ったそのハチが、ハリをミサイルのようにしてカツヤに飛ばす。 これを、間一髪のところでかわすカツヤ。 「くそっ、あとでひどいからな、ナナっ……。  いけっ、ヒトカゲっ!!」 おっ、カツヤがポケモンを出した。 カツヤの出したポケモンは、体が燃えるような赤色で、尻尾に炎がともっている、 トカゲのようなポケモン。……だからヒトカゲ、か。たんじゅんだなぁ。 ってことは、このハチ……ポケモンだったのかっ。 と、カツヤがポケモンを出したのを見た瞬間、もう一匹のハチがものすごい勢いで ヒトカゲ目掛けて飛んでいった! カツヤは……、カツヤは、さっきとは打って変わって、全然落ちついてる。 「プリン、下がってなっ。  ……ヒトカゲっ、“ひのこ”っ!!」 カツヤがそういうとヒトカゲは、ぱちんとその尻尾をムチのように動かした。 それにより、ドッヂボールぐらいの大きさの火の玉が生み出された。 それは、ヒトカゲの目の前にただよって……おもいっきりとつげきしてきたハチのポケモンは、それに突っ込んでしまう。 ぼうっ、と燃え上がるハチポケモン。火がついたまま、どこかへ飛んで、逃げていってしまった。 「……あと、一匹…」 カツヤが、そうつぶやいた。さすがにもう一匹のハチポケモンは、カツヤを警戒しだしたようだ。 ……やるじゃん、カツヤのやつ。 「さあ、こいよ。お前も、ヒダルマにしてやるよ」 そういった瞬間、ハチポケモンは、さっきのハリをミサイルのように飛ばすワザをもう一度繰り出した! 全部、ヒトカゲを狙ってる! 「“ひのこ”だ、ヒトカゲ! 全部“ひのこ”でうちおとせっ!」 ぱぱぱぱぱぱんっ、と、ヒトカゲはしっぽを振り回す。 振りまわされて飛び散ったひのこが、確実にハチポケモンのこうげきを、……飛んでくるハリをふせいでる。 ……くやしいけど、ちょっとすごいかも…。 「しまったっ!!」 だけど、カツヤのその声で、ボクもはっとした。 なにがしまったんだ……と思ってみてみると、さっきのように、ハチポケモンがものすごい勢いで迫っていってる! だけど、今度の狙いはヒトカゲでも、カツヤでもない。……プリンだ。 プリンは、その大きな目をさらに大きくして、動けないでいる。 ……バカなやつだなっ、ぼーっとしてるからだっ!ポケモンのくせにっ! 「……プリンっ!!!  “うたう”だっ、できるだろっ、“うたう”んだーっ!!」 ……見ている映像が、いっしゅん、スローモーションのように感じた。 カツヤのその声が聞こえた次のしゅんかん、プリンの大きな口から、信じられないようなきれいな歌声が聞こえてきた。 どこかできいたことのあるような、ないような……、心がなごむっていうのかな。うん……悪くない。 プリンにとつげきしていくつもりだっただろうハチポケモンは、とつぜんプリンの目の前で方向転換したかと思うと どしーん、と木に激突して、……ぼとっ、と地面に落ちる。 落ちたポケモンは……寝てる、みたいだ。な、なんで?? 「……ふぅ。よくやったな、プリン。がんばったぞ」 腰をかがめて、プリンのアタマをなでるカツヤ。 ……え、これ、プリンがやったのっ?? ま、まさか。 …って、気がついたら、カツヤがじっとこっちを見てる。やばいっ。 「とうっ」 ボクは、枝から飛び降りる。カツヤの、ちょっと目の前にちゃくちする。 「おい、ナナ」 「へっへーん、こっこまでおいで、べろべろべーっだ!」 なにか言おうとするカツヤを無視して、ボクはアカンベする。 そんで、わき目も振らず、一目散に前へと進む。 「待てよ、ナナ!!」 聞こえない、聞こえないっ。 ボクは、かけっこはマサラで1番なんだっ! 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)