プリンにとつげきしていくつもりだっただろうハチポケモンは、とつぜんプリンの目の前で方向転換したかと思うと どしーん、と木に激突して、……ぼとっ、と地面に落ちる。 落ちたポケモンは……寝てる、みたいだ。な、なんで?? 「……ふぅ。よくやったな、プリン。がんばったぞ」 腰をかがめて、プリンのアタマをなでるカツヤ。 ……え、これ、プリンがやったのっ?? ま、まさか。 …って、気がついたら、カツヤがじっとこっちを見てる。やばいっ。 「とうっ」 ボクは、枝から飛び降りる。カツヤの、ちょっと目の前にちゃくちする。 「おい、ナナ」 「へっへーん、こっこまでおいで、べろべろべーっだ!」 なにか言おうとするカツヤを無視して、ボクはアカンベする。 そんで、わき目も振らず、一目散に前へと進む。 「待てよ、ナナ!!」 聞こえない、聞こえないっ。 ボクは、かけっこはマサラで1番なんだっ! ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     PART9「イワークなんて 大嫌い!」 ****************************** 「はあっ、はあっ、はあっ」 森の中をただひたすら走りつづけるボクの足に、さっきまでまとわりついてた草木の「ていこう」が、 だんだん軽くなってきたようにかんじる。スムーズに、足が前にでるようになってきたっ。 走りながら足元をみると、……うん、たしかに、足をジャマしてた茂みや「やぶ」が、さっきよりも かなり少なくなってるっ。 ……ってことは、もうすぐ森も終わり、ってことだよねっ。 そう思うと、ちょっと心に「よゆう」がでてきた。 さっきの地図を、思い浮かべる。 入り口から入って、すぐ目の前にあった湖・ポケモンレイク。これをボクは、一直線につっきった。 湖のすぐ上にあった森、ポケモングローブ。これもボクは、一直線につっきってる。 その森のすぐ上には……なにがあったっけ?? ……ゴールじゃ、なかったしなぁ…。 ま、なにがあってもやることは同じ、「一直線につっきる」っ! そんなことを考えながら、さらにのどがカラカラだなぁ、とも感じてきた。そのぐらい、ボクは「よゆう」。 服はまだ濡れたまんまだけど、首筋の部分はきっと湖の水とは違う、ボクの汗でびしょびしょだ。 あごからもぽたぽた、汗がしたたりおちている。 「……あっ」 思わずボクは、声をあげてしまった。……だって、目の前から、射しこんで来たんだもんっ。 なにって、それはもう、森の木の枝の間からもれる、まぶしい太陽の光にきまってるっ! と同時に、後ろも振り返る。……けど、カツヤはまだ来てない。いししっ。 すっかり安心しきって、どんどん光のほうへ突き進んでいくと、やがて森の終わりが見えてきたっ。 あと3歩……あと2歩……1歩……! 「だーっ!!」 最後の1歩は、両足で勢いよくジャンプする。 ジャンプする、……直前までは、ボクはるんるん気分だった。なんてったって、走りにくいこの森が、やっと終わったんだから。 でも、着地して、……ボクの目の前に広がる「こうけい」に、ボクは数秒間、そのままうごけなかった。 着地した、その足元は、さっきまでの鬱陶しい木の枝や草花はなかったけど、 かわりに、ごつごつとした石や岩が、ふつうに転がっていた。 「うそ……でしょ……」 森が終わると、そこはすぐに「山」のはじまりだった。 ホントに……なにか、「森」と「山」とを境界線でキレイに区切ったのか、ぐらいに感じられるほど、 着地した「そこ」は、立派な山の始まりだった。 目の前には、角度……どのくらいかな、わかんないけど……ちょっと見上げるぐらいの坂が、 ずっと続いてる。…はあ。やんなるよ、ホント…。ヘトヘトなのにぃっ。 だけど……ボクは、この山をのぼらなきゃいけないっ。 しぶしぶ、前のほうに体をかたむけて、「よつんばい」にはならないものの、りょううでを 前の方にかざして、コケて転がり落ちないようにしんちょうに、山を上り始めた。 と、山に足をかけて2,3歩ぐらいのとこで。 「いたっ、待てっ、ナナッ!!」 げげっ、もう来た、カツヤ! アタマだけ後ろに回して確認する。……まぎれもない、あのにくたらしい顔は、カツヤだ。 ……ん、プリンのやつ、みえないな……。さては、はぐれたなっ。 それだけ確認すると、カツヤには構わず、ボクはふたたび1歩1歩進む。 「くっそっ、聞こえてんだろっ!!  待ってろっ、すぐに追いついてやるっ!」 待てといわれて待つやつがいるかってんだっ! …そういってやりたかったけど、今はもう、この足場の悪い山登りに必死。 しかたないから、心の中でそう言ってやったことにした。 「はーっ、はーっ」 …どのくらいたっただろ? ちらりと後ろをみると、つかずはなれず、カツヤもしっかり登ってきてる。 うーん、敵ながらあっぱれっ。 と、急に坂がなだらかになった、やや平地の部分にさしかかった。 チャンスっ、ここで一気に差をひろげてやるっっ!! 「へへーんっ、おっさきーっ!!」 足場はごつごつしてるけど、普通に走って走れないこともないぐらいのなだらかな平地。 ここは、マサラ1の足の速さを見せつけてやるところでしょっ! 7,8メートルぐらい走ったところで、カツヤも平地まで登りきって、こっちへ走りはじめたみたい。 わっはっはっ、ボクに追いつこうなんて、ムダなことを……! 「はっ、はっ、はっ……!  ……、ん……?」 なんだか後ろがみょうに気になって、ちょっと振り返るボク。 ……ってっ、カツヤが追い上げてるっ!!追いつかれるうっ!! なっ、なんでだっ!?ぜったい、足の速さはボクのほうが……!! 「そっ……そうかっ……」 わかったっ。この、水をうんとすった服のせいだっ!! 森の中や山登りしてる間は、服のせいでダウンする足のはやさよりも、森や山の足場で足が遅くなる方のが 大きいから、そんなにカツヤに追い上げられなくてすんだんだっ…。 でも今は、普通に走れるなだらかな地面っ。いくらマサラ1の「しゅんそく」ナナちゃんでも、 こんな水を吸った重い服を着て、マサラで2番目に足の速いカツヤを相手にするとなると……キツいっっ!! それにしてもナナちゃん……こんな「ぶんせき」もできるのねっ!きゃっ。 なんてっ、言ってる場合じゃないかっ! 後ろから、カツヤのかけ声が聞こえてきた。 「わるいなプリンっ!!  ……いけっ、バナナシュートっ!!!」 「!?」 その声のあと、遅れて聞こえてくる“ばしっ”という、何かを激しく蹴り上げるような音。 な……なに? そんなことを考えるのもつかのま、カツヤから逃げるボクの「はいご」から、ボクのまよこを通っていく、なにか、丸いボールのようなもの。 ……あれ、モンスターボールっ?? そのボールはくくっと変化して、ボクのまよこをとおったあと、左に大きく曲がる。 曲がった先には……大き目の岩。 岩にあたったボールは、ぱかっと開いて……、ボクのすぐ目の前に、見なれたポケモンがあらわれたっ。 「うわわ〜っ!!?」 「ぷぷぅ〜〜〜っ!!!」 …なんなら、そのまま蹴飛ばして行ってもいいと思った。 でも、ダメだった……。蹴飛ばそうとした瞬間、つんのめって、思いっきりコケてしまった。 ……ホントに、こいつは重いだけのおデブポケモンだっっ!! どしーん。 ……山の荒れた「いわはだ」に、ボクはあつい「ちゅ〜」をしてた。 「……いって〜っ!!!」 思わずその場をころげまわって、顔をさする。 うううっ、なんてことするんだっ。マサラ1の「びぼう」の、この顔にっ!! みたら、プリンもひっしに顔をさすってる。……ボクのあしがたが、くっきり残ってる。 へんっ、ざまぁみやがれってんだ、ボクはタダじゃぁコケない………、ん? 気がつくと、カツヤが目の前に立って、ボクを見下ろしてた。 ……いかん、目が「まじ」だっ。 「……な、なにさっ」 「なにさ、じゃねーだろっ!! おまえ、一体何考えてんだよっ!!?」 ……意味がわからない。だけど、そのカツヤの言葉と、がんめんの痛みから、ふつふつと怒りがわいてきた。 「何って、競争してんだろっ!!  お前が言い出したん……!」 「いくら競争でも、やっていいことと悪いことがあるだろっ!!」 カツヤにことばをかぶせられて、ボクはことばをつまらせてしまう。 ……ああ、こういうふうに、何度もいわれたなぁ。お母さんにも。 そして、ボクはそのことばの意味を考え始めた。「やっていいことと悪いこと」……? 「……オレ、最初は、ナナはただ意地張ってるだけだと思ってたっ。  ただ、意地張ってるだけで……、ふつうに競争できると思ってた…。  でも、お前のやったことってさ……!!  ……オレたちは今、『ポケモン』といっしょにいるんだぜっ!?わかってるのかっ!?」 ボクは、ずっと考える。まだひりひりしてる顔をさするのも忘れて。 やっていいことと悪いこと。 ボクが、やったこと…。 「いくら仲が悪くても、おまえとプリンはこのさきずっと一緒にやってくんだっ!  それを、あんなつかいかたするなんて……ちょっとひどくねえかっ!?」 あんなつかいかた……。 カツヤのボートにプリンを投げ入れて、そのままつっぱしって行っちゃったこと? 「それに、スピアー!  なんで、あんなヒドいことするんだ!  いくら競争で負けたくないからっていって……オレを足止めできるからっていって、それだけのためにあんなことするなんて、  思いもよらなかったっ」 あんなヒドいこと……。 カツヤをあしどめするために、木の上から石を投げて、ハチポケモンの巣を打ち落としたこと……か。 「……ふつうなら、あそこまでしないっ。  そんだけポケモンが、ポケモントレーナーがいやだ、ってことなんだろうけどさ。  ……いや、ほんっとうによくわかったよ。それが、さ」 そのことばをきいて、なんだかからだじゅうがざわざわいうような、そんなかんじがした。 すごくびっくりした、そんなときの感じにも似てるけど……。 今はもう走ってないのに、汗がだらだらと流れつづける。 「けど、まだひとつわかんねーんだ。  なんで、そんなにポケモンがイヤになったのか、って。  お前がホントにポケモンを嫌いってのは十分わかったけどさ、なんでかっていうのが未だにわかんねー」 「ちっ、ちがっ……!」 …いま、自分でもびっくりした。 思わず、ボクのくちが勝手に、しゃべりだした。 カツヤが、えっ、とわけがわからないって感じでボクの顔をみる。 うぐっ、予想どうりのリアクション。そりゃそうだよな……、困ったっ。 「なにが違うんだよ?  ポケモン、嫌いじゃないってのか??」 「う……、うん」 「じゃぁ、なんでだよ?  なんで、さんざんオレをバカにしたり……、  なんで、ポケモントレーナーになりたくない、なんて言ったんだよ?」 ………こまった。 なんていおう。なんていおう。なんていおう。 なんていおう。なんていおう。なんていおう。 ことばの「いとぐち」がみつからず、したをむいたままひっしに考える。 地面のジャリを、手でもてあそびながら、ひっしに。 「……おいっ!」 「……るって言ってたからっ!!」 うわ。カツヤが大声あげるから、つい、口が反応していってしまった。 けっきょく、ちょっきゅう・どまんなか・ストライクになっちゃった。 でも、カツヤはなんだかなっとくしてないような表情だ。 「…え?なんだよ、ハッキリ言えよっ!!」 「……ああっ、もうっ!!  カツヤが、ポケモントレーナーになるって言ってたからだよっ!!!」 「……はあっ??」 まのぬけたこえで、カツヤがききかえしてくる。 そんなふうにきかれても、これいじょうの答えはない……っ!? ごごごご……!! …突然、ぐらぐらっと地面が揺れる。同時に、からだの底からぶるぶる震わせるような、 大きく低いうなりごえのようなものも聞こえてくる。 「なっ、なんだっ、……まさか地震っ??」 「こっ……この声、まさかっ!」 カツヤは、これがなんだかわかったのかどうなのか、あたりをきょろきょろ見まわしてる。 腰のモンスターボールに手をかけて……。「けいかい」してるみたいだ。 と、さっきプリンのはいったモンスターボールが当たった岩から、ぼこぼこっと一列に地面がもりあがってきたっ! なっ、なっ、なんじゃこりゃぁっ!!? 「……やばいっ、イワークだっ!!逃げるぞっ、ナナっ!!!」 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)