と、先にボクの投げたボールがイワークの「みけん」にあたる。 でてきたヒトカゲが、イワークの鼻先にちょこんとのっかる。 「グガァッ!?」 おおっ、あわててるあわててる、イワークのやつっ。でも……もうおそいよっっ!! 「“ひのこ”っ!!」 「グッ……ガガァァッッ!!!?」 そう、「ボクが」めいれいした。だけどヒトカゲはさっきとかわらず、炎のボールをつくりだした。 と、ここでカツヤの蹴ったボールがしっぽにあたり、中からでてきたプリンが、しっぽの先に、ちょこんとのっかる。 「カツヤっ!!!」 「わかってるってっ!!  プリーンっ、いいなっ、“うたう”だっ!!!」 イワークがさっきまで起こしまくっていた「ばくおん」に慣れたボクらの耳に、プリンのやわらかな歌声が やさしく聞こえてくる。 しばらく……といっても、ほんの何秒かだろうけど、ボクはプリンのその歌に耳をかたむけた。 そして、イワークがさいごの「ばくおん」をまきおこす。 地面につっぷしたイワークは、なにごともなかったかのようにスヤスヤとねむってた。 ******************************  ポケモンなんて大嫌い!     最終話「ポケモンなんて、………」 ****************************** ……あれから、10分後。 ボクとカツヤは、ひかくてきゆるやかな山の下り坂を、つかれたからだをひきずるようにして歩いてた。 もう、すぐだ。目的地のロッジは、この山をおりたふもとにあるはずっ。 ……って、カツヤがいってた。 帰りのルートを二人で確認しあって、それからゆっくり、二人で肩をならべて歩いてるんだけど。 「………」 「………」 ……なんだか、きまずい。かいわがない。くうきがおもい。 別に、これといった理由が思い当たるわけでも……。。 ………。 (……オレ、最初は、ナナはただ意地張ってるだけだと思ってたっ。  ただ、意地張ってるだけで……、ふつうに競争できると思ってた…。  でも、お前のやったことってさ……!!  ……オレたちは今、『ポケモン』といっしょにいるんだぜっ!?わかってるのかっ!?) ……ま、まぁ、ね。あのハチポケモンのことは、さっきのイワークのことでチャラ、ってことで……。 ホラね、ボクはなにも悪くないっ。 だってだって、あのときボクの活躍がなかったら……っ!! 「……なぁ、ナナ」 「……へぁっ!!?」 きゅうに話しかけられて、ボクはものすごく間の抜けた声で返事をしてしまった。 カツヤを見ると、ちょっと先の地面ばっかり見つめて、こっちを見ない。 「……さっき、お前が言ったことなんだけど」 「……さ、さっき?」 な、なんて言ったっけっ?? しっかりボールを蹴れ、……とか? もっと前かっ?……まさか、森でメチャクチャののしったのをむしかえそうっていうわけかっ?? ……あ、それとももしかして、ボクがイワークに腰を抜かしてたときのことをバカにしようってんだなっ?? 「……あれ、ホントなのか?」 「バッ、バカいうないっ!!  あれは、腰を抜かした、フ・リっ!! ああやってイワークの目をごまかして……っ」 って、せっかく人がスバラしい作戦のタネあかしをしてやってるっていうのに、なんだかキョトンとした顔をするカツヤ。 ちっ、ちくしょぉっ、この作戦が高度すぎて理解できないかっ!?? と、思ったら。 「……な、何言ってんだよ……。  オレが言ってるのは、お前が『カツヤがポケモントレーナーになるって言ってたから、ボクはトレーナーなんかにはなりたくないんだ』、って  言ってたことだっ」 「……は?  ………」 ……う〜〜〜〜ん。 たしかに、言ったような気は、する。言った直後に、イワークが出てきたんだっけ。 う〜ん。……困った。 「……なぁ。ホントに、そうなのか?」 「え?………ま、まぁ……うん」 返事に困って、あいまいな返事をするボク。 どういう反応をしているのか、と、横目でちらっとカツヤをみると、なんだかものすごくフクザツな表情をしてるのが見えた。 「……う」 「……そうか。  でも、オレは絶対絶対、ポケモントレーナーの旅に出て、いつの日か、トレーナーの中のトレーナー、  『ポケモンマスター』になってやる、ってちかったんだ。  だから……」 「……あ、そう……」 う〜〜。 なんで、こんな話を聞かされてるんだ、ボクは……。 「………。  ……じゃぁナナ、どうするんだよ? 何になるんだ? 何がしたいんだ?」 「…えぇ?」 もうっ、なんだってんだ。 ボクがこのさき、何になって何をやろうと、ボクのかってだろっ。 カツヤは、好きなポケモントレーナーになって、一番のポケモンマスターになりゃいーんだっ。ほっといてよっ。 ボクはこたえなかった。カツヤと同じように、地面ばかり見つめてた。 「……それならお前さ、プロ野球のピッチャーになれよ。  あんな変化球、絶対誰も打てねーって」 「………」 「お前、打つのもうまいしさ。  こないだの試合、4の3だったろ? そのうち一本はツーランホームランだったじゃねぇか」 こないだの試合………4の3……。。 ああ、クラス対抗の野球大会の決勝戦のことか。 もちろん、クラスのエースのボクは、4番・ピッチャーで先発出場っ! 4打数の3安打、4対0の「かんぷうしょうり」だったっけ。 12個の「さんしん」も奪ったんだっけ。あのときはドキドキしたなぁ。 ドキドキ、したけど……。 さっきのカーブボール、あれを投げたときほどのドキドキと、あれほどのコントロールと球のキレは、 今までの「とうしゅじんせい」の中でとびっきりのイチバンだったなぁ……。 この先でも、あんなスゴいボールを放れるかどうか……。 カツヤは一人で話し続ける。 「……まぁ、さっきのオレの、あの見事なシュートもスゴいんだけどな。  でもやっぱ、オレはこのヒトカゲと旅をしていきたいんだよな」 「………、そう」 「………」 そして、また黙ってしまうカツヤ。 なんだか様子がヘンだ。はやくロッジが見えてこないかなぁ。 「なぁ、ナナ」 「……なにさ」 「…お前がピッチャーになっても、……まぁムリだろうけど、たとえば『OL』になってもさ、  ポケモンだけは大事にしてくれよ。 な?  ポケモン、嫌いなわけじゃないんだろ? だったら、そのプリンにも、他のポケモンにも、ひどいことはしないでやってくれよ」 な、なんだぁ?? ……コイツ、そこまでポケモンのことが大好きなのかぁ? 「お前がポケモントレーナーを嫌うのはオレのせいかもしれないけどさ、  ポケモンは何もわるくないんだ。 な?」 「……わ、わかってるよ……。  プリンは……、まぁ、ちょっと生意気で気に入らないトコもたくさんあるけど、  今回は、イワーク相手によくやってくれたし…。 この先、野球とかの練習相手になってもらうことにでもするよ」 このコトバにウソはない。……つもり。 プリンも、カツヤのヒトカゲも、よくやったと思う。 あんなデカくてきょうぼうなポケモン相手に、すこしもひるまずに向かっていけるその「どきょう」は、 しょうがないけど認めてやらなきゃいけないみたいだ。 ……ま、いい練習相手ができた、と思えば……。 どうも、ウチのクラスの連中はフヌケばっかで、「はりあい」がないんだよね。 と、ここでカツヤが水をさす。 「この先……って、お前、ポケモントレーナーにはならないんだろ? 旅には出ないんだろ?  じゃ、ポケモンは博士に返さなきゃ。返して、今までどおり学校で勉強するんだろ」 「……ええっ、そ、そんなぁ……っ」 おもわず、ボクはがっくり肩を落とす。 今日のようなドキドキも、ハラハラも、……ホントに今日かぎりでおわりなのか……。 いいライバルができたと………って、いやいやっ、ポケモンであるプリンをライバルとして認めるなんてことは……っ。 ……あ〜、でもなぁ………おしい「じんざい」だ……。 はぁ、とおおきなためいき一つつくボク。 ふと見ると、そんなボクの様子を見ながらニヤニヤしているカツヤの顔が目に入る。 う、この顔はっ。 長年、ボクがずっと見続け、そして追いやってきたその顔そのものっ!! ……はて、なんだか妙にひさしぶり、という感じもする。 「……へっへっへ〜♪」 「な、なんだよ……っ?」 「……おいナナ、これなんだか知ってるか?」 そういって、カツヤがズボンのうしろポケットから何かをとりだした。 そのためにカツヤがたちどまったから、ボクも思わず、足をとめた。 「? ……赤い、べんとうばこ??」 「ばぁ〜か、違うよ。 ホントに何も知らねぇんだなっ。  ……よし、今これがどういうものか見せてやるよ。ホラ、お前のプリン、かしてみ」 「バカとはなんだ、マヌケのカツヤのクセにっ!」 言われた分はちゃんと言い返してから、カツヤにボールをわたす。 さっきもらったばっかだけど、ボールのあちこちにはもう小さなキズがたくさんついている。 「このボタンの部分を、こっちの『べんとうばこ』のコネクタにセットするだろ?  で、チョチョイのチョイ、と」 「……?」 たしかに、ただのべんとうばこじゃぁ、ないみたいだ。 フタが開いて、中はなんだかボタンがたくさん。テレビ画面みたいなものもある。 「ほい、そんで次はオレのボールを、同じようにセットする。  ……ちょっと、この緑のボタンを押してくれ」 べんとうばこと二つのボールを持ってて両手がふさがってたカツヤが、ボクに助けをたのんでくる。 仕方なく言われるまま、ボクは右下の緑のボタンをおす。 ほんのかすかに、ボールの中から「シュイ〜ン」っていう音が聞こえてくる。 「よし、こっちは完了。  そんでもう一度、お前のボールをセットして、緑のボタンを押す。  ………よしっ、完了っ!! ほらよっ」 そういって、カツヤがボクのボールを放り投げる。 あわてて受け取るボク。そして、まじまじとボールをかくにんする。 ……? 別に、何もかわったようすはないけど……。 「……なんなんだよカツヤっ? なにしたんだっ」 「まぁまぁ。 この赤いべんとうばこな、実は、アニキのお古の『ポケモンずかん』なんだ。  まぁ、壊れてて、図鑑のいくつかのページと、通信機能しか使えねーんだけどな」 「ポケモンずかん……、、これが?」 ウワサにはきいたことがある。ポケモントレーナーはみんなこれを持ってるんだって。 たしかに、おふる、というだけはあるなっ。あちこちくろずんでて、「つかいこまれてる」って感じがする。 「……それで、そんな壊れたポケモンずかんで何したのさっ」 「あけてみな」 「…?」 「モンスターボールをだよ。 お前の、プリンが入ってる『はずの』モンスターボールを、さ」 ったく、なんなんだ、いったい。 さっきから急にエラそうだし、わけわかんないし……。 ぶつくさいいながらもボクは、モンスターボールを放り投げる。 いつもどおりパカっと割れて、なかからプリンが出てくる。 出てくる……中から……プリ……っ!!? 「!!!?」 違う!! しっぽにともったほのお、くりっとしためんたま、赤いウロコでおおわれたカラダ、 ……これはまちがいなく、カツヤのヒトカゲっ!! あわてた。なんだなんだっ、カツヤはボクに手品をみせたかったのかっ?? 「へっへっへ〜♪ おどろいてるなっ」 「な、な、な、なんのっ、つもりだよっ!!」 「そうそう、これは手品〜♪ ……なんかじゃなくてっ。  言っただろ? このずかん、通信機能だけは壊れてなくて使えるんだ、って」 「それとこれとなんのかんけいがっ!!」 「お前、ホンっトにバカだな〜。  交換だよ、こ・う・か・ん!! オレのヒトカゲと、お前のプリンを、とりかえっこ!!」 ワケがわからない。いったい何がしたくて……いや、なにをしたんだっ? なんの意味があるんだっ?? 「はぁ〜〜っ!!?」 「プリンの『おや』は、このオレ様。ヒトカゲの『おや』は、ナナ、お前ってワケ。  これでプリンはオレの言うことしか聞かないし、お前を見てもしらんぷり〜、だっ」 「〜〜っ???」 なんてヒドいはなしだ。 つまり、ボクのおかーさんが、勝手にボクを他のこどもとこうかんするようなもんじゃないかっ。 しかも、言うことを聞かないなんて……。。 ……まあ、ボクは今でもそんなに、おかーさんの言うことを聞いてるってワケでも……ないけど、さ。 そんなボクの心配をよそに、ハナたかだかのカツヤがつけくわえる。 「いや〜、このプリンの体力・パワーと、あいてを眠らせるワザがとっても『みりょくてき』でさぁ〜っ。  返してほしくば、“ポケモントレーナーの”オレのあとをついてくるんだなっ!!」 そういって、ふもとへの道を走り出すカツヤ。 ボクは……ああ、ダメだ。アタマがこんらんしちゃってるよ……。 「いっとくけど、そのヒトカゲじゃ〜、お前のハードな練習に耐えられるかどうかわからんぞ〜っ!!」 走りながら振り返って、大声でそう叫ぶカツヤ。 ちょ、ちょ〜っと待てよ……。よし。ゆっくり、一つずつ整理しようじゃないかっ。 まず……カツヤが、プリンをムリヤリ交換してもっていった。 ボクの手元にあるのは、カツヤのもってたヒトカゲだ。 ヒトカゲの体力じゃ、ボクのハードな練習……、たとえば「じごくのせんぼんノック」にも、たえられそうもない。 プリンを持ってるであろうカツヤは、目の前で逃げてった。 交換しなおせば、プリンはまたボクのてもとにもどってくるはず……。 結論がでたっ!! …プリンを、とりかえさなきゃっ♪ ボクは、追いかけてもいいんだっ! カツヤのあとを、カツヤの歩む道を、同じようにたどっていけるっ!! カツヤからプリンを取り返すために、しょうがないから、ボクはポケモントレーナーになるんだ! いってみれば、アイツは半分「ドロボー」だっ。あいつを追いかけることは、「せかいきょうつう」の、正義っ!! 「まっ、待て〜っ、カツヤっ!!  ボクのプリンを、かえせ〜っ♪」 ボクも、遅れてはしりだす。 それをみたヒトカゲが、あわててボクのあとをついてくる。 ボクは、きにしない。このぐらい、ちゃんとついてきてくれないとっ! ボクに気がついたカツヤが、大声を上げる。 「わっはっはっはっ、今ごろになってやっとすべてを理解したかっ!!  なんだったら今ここで、ポケモンバトルしてやってもいいんだぞっ!」 「うるさいっ、カツヤっ、お前にはちょくせつ『ナナちゃんパンチ』をおみまいしなきゃ気がすまないっ♪」 ちっ、もう下り坂は終わりかっ。 いつのまにか、さっきとおなじようなムネのドキドキが、よみがえってた。 こんな「たんじかん」に、じんせいサイコーの「ドキドキ」が、はやくも二回目。 もう、目の前にゴールのロッジが見える。 他のみんなが、ボク達を待っていたかのようにこっちを見てる。 ……なぁんだ、ビリっけつかぁ。 でも、でもでもっ。 ゴールについたと同時に、ボクはスタートだ。 今度は、負けるもんかっ。 誰にも、負けないっ! 特に、カツヤだけには、ねっ!! 「ポケモンなんて 大嫌い!」 お・わ・り♪ 感想などなど、お待ちしております。 by えんげつ(a.know.3373@gmail.com)