“ For...  <百分の一> ”  だから貴方は、私に名前をくれなかったのかもしれませんね。 「……くぅ。………駄目なんだ…ここで、負けるわけには……死ぬわけには……!!」  そうです。  貴方は死んではいけない。  貴方には、まだやらねばならないことがある。  それを終えるまで、貴方は死んではならない。 「………っ、くっそぉ……ぼくは……ぼくは………!!!」  いいんんです。  そのための私でしたから。  さあ、はやく。  私は……貴方についてきたことを、後悔なんてしていません。 「………ごめん…ごめんよぉっ!」  あの時。  貴方と初めて会ったあの時。  私は、自らの使命と誇りを持って。  仲間と共に、果てるつもりだった。  それがあの場に残された…ロケット団基地に残された、私たちの使命であったから。  でも私は。  貴方に出会ってしまった。  貴方に出会い、共に行きたいと望んでしまった。  誇りを持って使命を全うする仲間たちと決別し、  私は、彼の手を取ってしまった。  …………行きたかったんです。貴方と。  とても楽しそうに進む、貴方と。その仲間たちと。 「……ぼくっ……ぼくはっ………」  そんな顔をしないで下さい。  自分の役割くらい、心得ております。  貴方は、私のこの技を、ずっと覚えさせていましたね。  いいえ。  責めるつもりは無いのです。  むしろ、感謝したいのです。  私に、貴方の役に立つ道を残しておいてくれて。  貴方のことですから。  優しい貴方のことですから、意図してこの技を残したわけではないのは、重々承知しております。  無意識だったんでしょうね。  深い深い心の奥底で働いた、貴方の保険だったのでしょう。  こういった、いざという時のために……と。  ええ、保険は必要です。  貴方は優しく、そして強い。けれど、万能ではない。  そう、保険は、無くてはならないものであり。  そのために、私の存在は必要不可欠だったのです。  さあ、もう時間がありません。  行ってください。  そして、言ってください。  私は、後悔なんてしてませんよ。  気に病むことは無いのです。  これが、我々の本来の宿命なのですから。  さあ。  早く。 「…………ビリリダマ…。………………………自爆、だ」  イェス、マスター。  貴方と共に来たこと、後悔などしておりません。  ここでこうして果てること、悲しんでなどおりません。  もともと、地の底で果てる命だったのですから。  こうして貴方と共に、日の下を歩けただけで。  私は、十分幸せでした。  いままで……ありがとう、ございました。  私の、小さなマスター。 「…………ぼくは、最低だ…」  長く高い階段を前に、少年は一人、立っていた。  …長い道のりだった。ここまで来るのに。  ここで…全てが終わるのだろうか。本当に。  ・・・・・わからない。  でも、終わらせなければならない。 「……ビリリダマ…」  先程散った、一つの命。  少年は、自己嫌悪の念にかられていた。  …自分の都合で、命を一つ奪った。  死にたくなかったから。自分が死んだら、もう、止められないから。  ……でも、本当に良かったのか?  本当に、自分は正しかったのだろうか。  ・・・・・わからない。  でも、どんなに悩んでも、もうビリリダマは帰ってこなくて。  自分が奪ったことに、変わりはなくて。  事実は依然として、少年の前に横たわる。 「…………進まなきゃ」  すっ、と。  少年は顔を上げた。  涙を堪え、眼前を見据える。  少年の行くべき道。少年を待つ、彼の者のもとを。 「………今行くよ………………」  思いを振りきるように、少年は、口を開く。  その少年に付き従う、一匹のマグマラシ。 「……ゴメンネ、フィーア。付き合わせちゃって。……これで、終わり…だから」  よろよろの少年に、同じく傷つき疲れ果てたマグマラシが体を摺り寄せる。 「…………さあ。行こう」  そして少年たちは、一歩を踏み出した。  全てを、終わらせるために。  *** 20030803 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  あとがき。  ビリリダマ。自爆についての話を送らせていただきました。  ゲームでは何回も使える自爆というワザ。けれども、実際そんなはずはなくて。  …そんなことを、なんとなく形にしてみたく思って、この話が出来ました。  これは、人間の私の視点で書いたお話です。  なので、非常に優しい話になってます。  けれども、実際にこのようなビリリダマがいるか…私には分かりません。  彼のビリリダマはそうだったけれども、でも、他のビリリダマは?  ……人の気持ちも、ビリリダマの気持ちも、様々です。  ゆえにこれは、百分の一。  そんなことを言い始めたら、私の話は全て百分の一になってしまいますがね(百分の一シリーズだ(苦笑  そういうわけで、私的自爆の受け止め方、御理解頂ければ幸いです。                           *20031210 大好きな小説の新刊を買ってきた日に。                                          ひろみ。