Memories ―はじまりの詩―
――僕を選んで。
お願い、僕を見て……――
[1]
「とうとう明日だね」
「うんっ。やっと会えるんだね、ボクらのパートナーに」
皆が楽しそうに話しているのを、僕はぼうっと見ていた。
「どんな人がオレを選んでくれるのかなあ」
「んー。仲良くなれるといいよねー」
チコリータくん、ヒノアラシくん、ワニノコくん。
マリルくん、ミニリュウくん、ワンリキーくん、ヤンヤンマくん。
本当に皆、楽しそうに話す。
僕とは正反対だ。
僕の心は、明日への期待どころか、不安で満ち溢れてる。
僕は皆のように、笑うことはできない。
明日なんか来て欲しくない。
ここから消えてしまいたい。
逃げ出したい・・・・・・。
「メタモンくん、大丈夫? 元気ないみたいだけど」
ここはワカバタウン。
僕らの“仮の親”である、ウツギ博士の研究所だ。
[2]
「あ、ううん。何でもない。大丈夫だよ」
僕の顔を除きこむチコリータくんに、僕は無理やり笑顔を返した。
「ね?」
僕の顔を見て、チコリータくんはニコッと笑った。
「なら、よかったぁ。だって明日はとっても大切な日だもんねー」
直球ド真ん中な言葉のボールに、僕は一瞬たじろいだ。
チコリータくんに悪意は全くない。
でも、その言葉は。
今の僕にとって、物凄く重い。
「・・・・・うん。そうだね」
返事をするので精一杯。笑うことはできなかった。
「一体どんな人が来るんだろうね」
「優しい人だといいなあ」
「オレ、早く旅に出たいっ」
「だから、明日ね、明日」
「あ、そうそう。明日からはみんなライバルだね」
「だな。でもバトルになっても手加減はしないからな」
「それはこっちのセリフだよ」
皆は・・・・・いい。
誰かが望んで選んでくれる。
進んで選んでくれる。
・・でも、僕はどうだろう。
僕はメタモンだ。
相手の姿を借りて戦うポケモン。
“へんしん”しか使えないポケモン。
選んでくれるわけがない。
じゃんけんにでも負けた誰かが、嫌々僕を選ぶんだ。
でも、そんな出会いをするなんて・・・・・・僕は嫌だ。
[3]
「・・僕、もう寝るね」
皆の会話に加わることができないまま、僕は皆に声をかけた。
「皆も早く寝たほうがいいよ」
「うん、そうするー」
「オレはもう少し起きてる。おやすみな、メタモン、チコリータ」
「あれー? メタモンくんたち寝ちゃうの? それじゃボクも寝ようかな」
「えー、もうちょっと話してようよ。ね?」
「うん。ああ、でも寝なきゃ。明日のために」
皆はまだ、わいわい話してる。
・・・・・・いいな。
僕が寝ようとすると、チコリータくんがやってきた。
「メタモンくん、一緒に寝てもいいー?」
「え、あ、うん。いいよ」
僕が答えると、チコリータくんは僕の隣に寝転んだ。
「あれ? メタモンくんは横にならないの?」
「・・・これでも、なってるんだけど」
「えっ、あ、そうなんだ。ゴメンなさい」
まあ、仕方ない。
実体のない粘土のような僕の体じゃ、立ってるとか座ってるとか区別しにくいだろうし。
・・と、いうより区別できないし。
あと、そういう僕も、今座ってるんだか寝てるんだか時々分からなくなるし・・。
僕は{チコリータ}になった。
「わあ、いつ見てもスゴイね、メタモンくん!」
チコリータくんが楽しそうにいう。
・・・・・すごくなんかない。
僕にはコレしかできないんだから。
[4]
そして。
朝がきた。
僕たちはお別れをしてから、ボールに入った。
そして今、僕らは彼らの前にいる。
僕らはボールの中だけど、外の様子はしっかり見える。
そこには、男の子が6人、女の子が2人。
そう、この子たちが今日旅立つ。
この子たちの誰かが、僕らの相棒になる。
誰が僕を・・・・・・・。
・・いいや。一体どの子が負けるのかな・・・。
僕は男の子と女の子の顔を、一人一人じっくり見ていった。
右からゆっくり視線を移動させる。
・・もう皆、ウツギ博士からボールの中にいる僕らの話を聞いたのだろう。
皆、目が輝いてる。
もう決めたのだろうか、1つのボールをじっと見つめている子もいる。
勿論、その視線は僕を見ているわけがない。
妙に軽い自分の心を感じながら、僕はそれぞれをじっと見つめた。
ふと、視線を感じた気がした。
一番左隅にいる女の子。
見ているはずのない、こっちを見てる気がした。
その子は、髪を二つに縛ってて、黄色い帽子をかぶってて。
小さいけれど、元気そうな子で。
なんだか気になった。
あの子は一体誰を選ぶのかな。
[5]
「じゃあ、どうしようか。みんな、好きな子を選ばせてあげたいけど、こればっかりはどうしようもないからね」
ウツギ博士が言った。
とうとう。
とうとう、僕らが待っていた時がきた。
「やっぱり、じゃんけん、かな」
博士が言った途端、彼らの間に緊張が走った。
その影で、僕らもひっそり息を飲む。
彼らが拳を握った。
「せーの」
じゃーんけーん・・。
ぽんっ。
・・・・・・・。
「やったー、勝った!」
歓声を上げたのは、あの女の子だった。
チョキの手を高く上げて喜んでいる。
他の子達は、恨めしそうに自分の出したパーを見つめていた。
「それじゃあ、クリスくん。好きな子を選んで」
博士が言って、そのクリスっていうらしい女の子は。
僕らのいるテーブルの前まで歩み寄った。
一体、あの子はどの子を選ぶのかな。
きっと、チコリータくんとかマリルくんとかを選ぶんだろうな。
だって、女の子だから、きっとカワイイのが好きだと思うし。
僕なんか、やっぱりダメだよな。
・・・・・・でも、あの女の子に・・。
「うん、きーめたっ」
[6]
信じられなかった。
他の皆もそうだったに違いない。
一様に黙ってしまって。
僕はただボールを通して、僕を見てニコニコ笑っているその子を見ていた。
ウツギ博士が恐る恐る口を開いた。
「ク、クリスくん? 本当に、本当にメタモンでいいのかい?」
その子はキョトンと博士を見て、それから僕を見て、また博士を見た。
「・・・・・・・・ダメなの?」
「え、いや、だから、その・・・・」
その子の問いにウツギ博士が戸惑う。
僕もそのときの博士と同じ気持ちだった。
なんで、僕をこの子は選んだの?
なんで、僕を?
なんで?
「なら、いいでしょ、博士。あたしの相棒はこの子なの」
「だって、この子、あたしを呼んでたもん。ね?」
・・僕が呼んだ?
僕は、この子を呼んだの?
「あたしもね、わかってたんだ。すぐにわかったよ。だから、この子と行くの。この子があたしを呼んでくれて、あたしはそれに答えたから。・・・声。みんなも聞こえたよね? 聞こえたでしょ?」
わからない。
僕は、この子を呼んだのかな? みんなも、誰かを呼んだのかな?
彼らには、その声が聞こえたのかな・・・・・。
そのあと、彼らは恐る恐るボールの前に立った。
なぜか。
1つのボールの前に、2人以上重なることはなかった。
[7]
「はじめまして。あたし、クリスタルっていうの。みんなはクリスっていうけど」
研究所のそと、僕はボールから出て、クリスと向かい合っていた。
クリスはニッコリ笑っていった。
「えっとね。まずは、ありがとう」
ペコッと頭を下げるクリスに、僕は面食らった。
・・なんでこの子は僕にお礼を言ってるの?
わからなくて、あせあせとしている僕を尻目に、クリスは言葉を続けた。
「あたしを呼んでくれてたよね。もしかしたら、あたしの勘違いかもしれないけど、君があたしを読んでるみたいな気がしたんだ」
クリスはじっと僕を見た。
「うれしかった」
僕もクリスをじっと見た。
「誰も、あたしなんか選んでくれないと思ってたから。ほら、あたし、チビだし、女だし」
僕は黙ってクリスの言葉を聞いていた。
・・不思議だった。
「だからね、だから。君の声が聞こえて、とても嬉しかったんだ。・・でもね、君の声が聞こえてなくても、あたしは君を選んでたよ。見て分かったもん、君があたしの相棒だって。・・・・でもやっぱり」
クリスは1度言葉を切った。
「・・選んでくれて、ありがとう」
・・・・・・僕のほうこそ、ありがとうだよ。
僕は言いたかった。
同じことを、クリスに。
ありがとう。
[8]
僕は、“タル”と名前をつけてもらった。
クリスは、
「二人で一つだから」
と言っていた。
結局、僕はクリスと一緒にいる。
僕はクリスに選んでもらったと思ってる。
でもクリスは、僕がクリスを選んだという。
どっちだろう。
でも、どっちでもいいと思う。
結局、クリスと一緒なんだから。
クリスといられるんだから。
そう思うよ。
――僕を選んで。
選んでくれたのかな、それとも選んだのかな。
でも、どっちでもいいや。
――お願い。僕を見て・・・・・・。
君は僕を見てくれてたね。それが、とっても嬉しかったよ。
[0]
「ああいう考え方もあるんだね」
ウツギ博士は誰に言うでもなく呟いた。
「ポケモンが、トレーナーを選ぶか」
「・・ねえ、博士。クリスが一番強くなるよ、きっと」
「ゴールドと同じく。俺もそう思う」
「うん。ポケモンもそうだけど、それだけじゃなくて」
「・・心、だな」
「そうー、ボクもそう思うの」
「なぬっ。ブロンズ、このっ、偉そうなこと言いやがって!」
口々に言う男の子らの声が聞こえた。
それぞれ、自分が選んだ、いや、自分を選んでくれた相棒を抱いていた。
博士は振り向いて、彼らを見た。
「・・・なんで、そう思うんだい?」
女の子が答えた。
「なんとなく」
★どうも。ひろみっていいます。
このホムペでは、初投稿です。皆さん、どうぞよろしくお願いします。
感想くれると嬉しいです。泣いて喜びます。
★あとがき…本当は、クリスにしゃべらせようと思ったんですが。
そんな気力が残ってないので、今度からってことで。ははは。
そう、あとがきで、その話にでてきた人キャラに喋らせようと思ってます。
今回だったらクリス・・みたいに。あと、今まで送ったMemoryシリーズに出てきた子らも紹介しようかなって。
★そう。ちゃんと名前あるんです。細かく決まってます。はい。
・・・じつは、私の考えた話の中のキャラたちだったりして・・・。
いつか、全キャラ紹介したいです(夢)。
★あーと。今回から、MemoryからMemories、複数形に変えました。・・勝手なことしてスミマセン。理由は、・・なんとなくです。
★話題かわりまくりですね。
・・・・・今回の話。まとまってるようで、まとまってませんっ。
せっかく初投稿だし。はじまりの話にしよう!
と、いい気になって書いたバチがあたりました。だから。
もう、どうにでもなれって感じで終わらせちゃいました。すみません。
★そう、投票に私の話が入ってました!!嬉しいです!!いれてくださった皆さん、ありがとうです〜!!
★★ああ、もう。まとまりのないあとがきっ。
そこの、こんなとこまで読んでくれたお方、どうもありがとうです!!
そだ。もし読みきりで書いて欲しい子がいたら、リクください。
・・・・・いるわけないか。
・・それでは。あとがきでした〜♪