Memories ―愛の形―


――貴女に出会わなきゃ良かった。貴女を知らなければ良かった。
     そうしたら、こんなに辛く苦しい思いは、味わなかっただろうから



「どうしたの? 真紅。元気が無いわね」

 貴女は知らないだろう。僕のこの気持ちを。

「・・貴方にはいつも頼ってばかりだものね。ゴメンね、疲れちゃった?」

 知らないでいて欲しい。気づかないでいて欲しい。
 自分でも、否定したい、気持ちだから。

「真紅。本当、無理させちゃってゴメンね。何時も有難う」

 何故、僕は貴女と出会ってしまったのだろう。
 何故、僕は貴女のポケモンになってしまったのだろう。
 何故、僕は貴女を好きになってしまったのだろう。

「これからもヨロシクね。大好きだよ、真紅」


 何故、こんなに心が痛いのだろう・・・・・。



―――――――――――――――――――――――――――――

「真紅。まだカナのこと、好きなの?」
「・・・・・・・・」
「人間だよ、カナは。わかってる?」
「・・・・・・・・」
「真紅は、ポケモンだよ?」
「・・・・・・・・」
「ねえ、いい加減、あきらめようよ」

 自分はポケモン。彼女は人間。
 そんな事は分かっている。
 でも、分かっていても心は痛みつづける。
 自分の意識に、その存在を訴えつづける。
 ・・・・どうしろというんだ。


「真紅さん。真紅さんは、ご主人の事が好きなの?」
「・・・・・・・・・」
「人間なのに?」
「・・・・・・・・・」
「どーして?どーして人間を好きになっちゃうの?」
「・・・・・・・・・」
「あたしもご主人好きだけど、でも、真紅さんの好きって、あたしの好きと違う」

 どうすればいいのか分からない。
 仲間たちの言う通り、自分の彼女に対する思いは、普通じゃない。
 彼らの彼女に対する好きと、自分の彼女への好きは、全然違う。
 何故だろう。
 何処から違ってしまったのか。


「おかしいです、真紅」
「・・・・・・・・」
「ポケモンが人間を好きになるなんて、馬鹿げています」
「・・・・・・・・」
「・・叶うわけ、ないじゃないですか。伝わるわけ、ないじゃないですか」
「・・・・・・・・」
「何故、そんな恋をしてしまったのですか!」

 それは、僕のほうが聞きたい。
 何故彼女を好きになってしまったのか、何故愛してしまったのか。
 僕のほうが聞きたい。



「我、不思議なり」
「・・・・・・・・」
「真紅、主を愛している。これ、悪い事違う。愛、いいこと」
「・・・・・・・・」
「でも、真紅、悲しい。何故。何故、悲しい。何故、悲しいコトする」
「・・・・・・・・」
「真紅、辛い。何故、やめない」

 やめられるものなら、やめてしまいたい。
 こんな気持ち、捨ててしまえるのなら捨ててしまいたい。

 でも、できない。できない。

 辛い。悲しい。

 彼女が好き。愛している。



 辛い。



 この気持ちを持ち続けることが、辛い。
 死ぬまで持ち続けることが、辛い。

 この身が恨めしい。
 せめて人であったらと、切に願う。


 人ならば。


 この気持ち、伝えられただろうに。
 たとえ受入れられなくても、この痛みは消えただろうに。


――――――――――――――――――――――――――――

「・・・・・真紅?」

 貴女は知らない。知るわけがない。

「・・・大丈夫?」

 貴女は何も悪くない。貴女は何も気にしなくていい。

「・・ふふっ、くすぐったいよぉ、真紅」

 この身は、貴女にこの思いを伝える手段を持たない。
 貴女に伝える言葉を持たない。

「真紅ぅ。もう、どうしちゃったの? 甘えん坊さん」

 けれど、この身は貴女の為に役立てる事が出来る。
 貴女を寒さから守る事が出来る。
 貴女を乗せて翔けることが出来る。
 貴女を、守る事が出来る。

「・・・・じゃあ、真紅。行こうか。次の街は――」

 毎日がとてもシアワセで、毎日がとてもクルシイ。
 でも僕は。
 彼女が好きだから。

 僕は死ぬまで、彼女と一緒にいたいから。

 この苦しみは。
 彼女といる限り、消える事は無いだろうけど。

 僕は彼女が好きだから。


 彼女といられるなら。





 でも、やはり僕は、時々思うのです。


――貴女に出会わなきゃ良かった。貴女を知らなければ良かった。
     そうしたら、こんなに辛く苦しい思いは、味わなかっただろうから
――どうして貴女に出会ってしまったのだろうか。
       どうして貴女を知ってしまったのだろうか。
   生命の思いは、星には届かず。
     星へ届けるすべを知らぬ小さな命は、
             儚く、散り逝くしかないのだろうか・・・



END.