Memories  ―
Go To The West!



――もういない、行っちゃった。
      ねえ、何が私の心を埋めてくれたの…?――






               
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 私、ネイティ。
 名前はティル。
 夢見る小さな美少女よ。

 え? なーに?
 自分で言うな?
 だって事実だもん、しょうがないでしょ!

 うん、私は可愛いのよ。
 モテモテだもの。
 羽の色、艶。
 そしてスタイル。
 どれも自慢できるわ、自信アリ☆
 それに、ほら。
 見て、このプレゼントの山。
 毎日毎日もらっちゃうのよ。
 これこそ、私が可愛くて美人だっていう証拠よね。


 …でもね。
 つまらないの。
 毎日がつまらない。
 全然面白くない。
 退屈。


 ねえ、何でかな。






               
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 私は幸せモノだと思うわ。
 美人のママ。
 頭の良いパパ。
 森の長のおじいちゃん。
 優しいおばあちゃん。
 いっぱいの友達。
 そして、私を好いてくれる男の子達。

 幸せでしょ?
 幸せのはずなの。


 でも、そうじゃないの。


 胸の中がスカスカ。
 何かが足りない。
 何かおかしい。
 何か違うの。

 ねえ、貴方には分かるかしら。
 この気持ち。
 わかってくれるかしら?

 幸せなはずなのに、そうじゃないの。
 これって、わがまま?
 違う。
 わがままなんかじゃない。


 もっと大切な事だと思うの。


 ねえ、わからない?





               
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「ティールさーん。向こうの湖までデートしませんかあ?」
「ゴメンなさい。また誘って」

「ねえねえ、ティルちゃん。良い天気だし、散歩なんてどう?」
「魅力的だけど、遠慮しときますー」

「ティル! オレと結婚しっ……ぐはぁッ」
「…却・下」


 一番最後にやって来たのは、幼馴染みのネルア。
 ん? ぐはぁッ、てのが何か気になるの?
 アイツがあげた声よ、…私に蹴り飛ばされて。
「な、何すんだよぉ、ティル〜」
 性懲りもなく復活してきたネルアに、溜め息をつく。

 私がこんなに悩んでるってのに、こいつは…。

「なあ、ティルー。オレ、本気でお前の事が…」
「私は好きじゃないの。はい、さようなら」
「あ、おい、ティルー!」

 ネルアを無視して、私はそっぽを向いて飛んでいく。
 ふーんだ。知らないもんねっ。
 ネイティオに進化したからって、私がなびくとでも思ったのかしら。
 単細胞。バッカみたい。

「! おいっ、ティル、危なッ……」

 慌てふためくネルアの声。
 は? 危ない?
 何がよ?


 その二秒後、私は身をもってその言葉が真実だと知ることになった。






               
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「ッ、いっったーーい!」
「…だから言ったのになぁ」

 痛むおでこを押さえる私のもとに、ネルアがパタパタ飛んできた。
 私はキッと睨みつける、涙目で。
 だって、
 何か壁にぶつかったみたい。
 すっっっごい、痛いのォ…。
「もう、なんなの…?」
 ムッとして前を向くと。


 ・・・・・・・。


 壁?


「違う違う」
 ネルアが首を振って否定する。
「もっと上。上見ろよ」
 私は言われた通り、ずーーーーーーーーーっと視線を動かして…
「……あ」
 うん。
 そこにあったのは壁じゃなくて。

「大丈夫ですか?」
「あ、はい。…すみません、ぶつかっちゃって」

 一匹のカビゴンだった。
 気遣ってくれた相手に、私は慌てて謝った。
「いえいえ。こちらこそ、こんなところにいてすみません」
 カビゴンさんはニッコリ笑ってくれた。
 声の感じからして、男の方かな。
 この森にカビゴン一族はいないから、旅人さんよね?
 色々考える私に、カビゴンさんが声をかけてきた。


「ここの長様に挨拶したいのですが、何処にいらっしゃるか分かりますか?」







               
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「へー。じゃあ、カビゴンさんはずっと旅を続けてるんだー」
「そうなりますね。ずっと西へ向かって、真っ直ぐ」


 おじいちゃんに、森への滞在を願い出たカビゴンさんは。
 私たち一家のいる木の下で休む事になった。
 私がお願いしたんだけどね。
 いろいろ、お話を聞かせてもらいたかったから。

 カビゴンさんに名前はないんだって。
 うーん、というか、あるにはあるらしいんだけど、教えてくれない。
 恥ずかしいって。
 カビゴンさんはね、ずっと東の方から来たんだって。
 えーっと、確かカントーって言ってたかなぁ。
 すごいよね、一人で歩いてきたんだよ?
 尊敬しちゃう。

 カビゴンさんはね、ホントいろんなコトを知ってるの。
 やっぱり旅してるからよね。
 私が一番気になったのは、海ってモノの事。
 大きな水溜りが、川を下ってずっと行くとあるんだって。
 その水は何でかしょっぱくて。
 ゆらゆらって、波が行ったり来たりして。


「すごいのね。カビゴンさんて、何でも知ってる」
「そんなことありません。僕はまだまだ。世界には、もっといっぱい知らないことがあるんです」


 気がつけば、私はカビゴンさんの体の上で眠っちゃってた。



 それから毎日、私はカビゴンさんのところへ入り浸った。







                
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「また、あのカビゴンの所に行くのか!?」

 ある日、ネルアがやってきて言った。
 怒って…る?

「…私が、カビゴンさんのところへ行っちゃいけないの?」
「……そんなこと、ないけど」
「じゃ、いいでしょ。カビゴンさんね、今日は歌を聞かせてくれるの。早く行かないと」
「……ティル」
「なに? ネルア」
「お前、あのカビゴンのことが……好きなのか?」

 突然の質問。
 私はキョトンとした。

「……ネルアは嫌いなの?」
「ちっ…! ・・そうじゃなくて、…あ、愛してるのかって、コトだよ」
 さらに私はキョトンとした。
 私が?
 カビゴンさんを?
 ネルアの真っ赤な顔をまじまじと見る私に、必死に彼は言い募る。
「だって、お前っ。カビゴンが来てから、ずっとアイツのところにいってばかりで! オレたちのことなんか目もくれないで……」
「それは前から」
「う……で、でも、ティル」

 不安げな目が、私を見つめる。

「…………だって、面白くないんだもの」
「え?」

 ネルアが私の微かな呟きを聴き止め、首を傾げた。
 私は黙って首を振る。


「なんでもない。カビゴンさんはそんなんじゃないよ。…じゃ、私行くから」






                
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 …わからないくせに。

「? どうしたんですか、ティルさん。さっきから黙って」

 ぽろろん…。
 出来たばっかの小さな竪琴を、カビゴンさんは優しく鳴らす。
 柔らかい、素敵な音がした。
「何か、あったのですか?」
「…うん………」
 私は一瞬迷って、でも、思い切って口を開いた。









「……それは、辛かったですね」

 私の話を聞いた後、カビゴンさんはそう言った。

「そのように感じることは、悲しい事です。僕にも、わかります」
「ほんと? でもね、カビゴンさんに会ってからは、あまりスカスカを感じなくなったの! ねえ、なんで? どうして? カビゴンさん、何か知らない?」
「……どうでしょう。心の病は人それぞれ。いい治療法は、自分で見つけるしかないのです。生憎、僕にはティルさんの心の病の治し方はわかりません」

 残念そうに首を振るカビゴンさん。
 私は項垂れる。


 せっかく、分かったと思ったのに。
 この心を埋める術を、見つけたと思ったんだけどな。




 そんな私を、カビゴンさんはじっと見ていた。









               
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 カビゴンさんは、いなかった。


 次の日、またいつものようにカビゴンさんの所へ行った私は。
 カビゴンさんがいないことにショックを受けた。
 カビゴンさんは、私に黙って、また旅に出てしまったのだった。

「なんで? なんでよ。黙って行っちゃうなんて酷いよッ」

 私は叫んで、空を翔けた。


 澄んだ青空。
 …まるで、私の心ね。
 いくら広くても、いくら綺麗でも。
 決して、満たされる事はないの。
 どんな色に染まれても、それは偽りでしかなくて。
 でも、満たされたくて。偽りを重ねて。
 ・・・何時の間にか、本当の色なんて、思い出せなくなってて・・・



「お、おいっ、ティル!!」

 後ろから、ネルアの声がした。
 私が羽を止めて待っていると、ここまでやってきた。
「何?」
「あのカビゴンから、伝言…」
 ネルアの言葉に、私はビックリした。
 カビゴンさんから伝言!?
 で、でも、なんでネルアが?
「……偶然会ったんだよ。で、頼まれた」
「な、なんて言ってたの?」



 ネルアは言った。


 私は。
 すぐに飛んでった。








               
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 私は、カビゴンさんの後を追った。
 でも、その姿は何処まで行ってもなくて、見つからなくて。
 暗くなるまで探し続けたけど、結局、私は家に帰った。


“僕も、ティルさんと同じなんです……”


 ネルアから聞いたカビゴンさんの言葉を、私は頭の中で繰り返す。


 カビゴンさんも、私と同じだったの?
 それとも、皆そうなの?
 皆、足りない何かを抱えて生きているの?
 そうして、ずっと生きていくの?
 わからないまま、未完全なまま。
 そんな人生を……私も送るの?

 その足りない何か。
 人それぞれ違う、その何か。
 探す事すらしないで、私は死にたくない。
 生きたくない。


 ……カビゴンさんも、そう思ったのかしら。





 夜。  私は書置きを残して、家を出た。





――もういない、行っちゃった。

 でも、追いついてみせる。
 だって、探し物は似てるじゃない。
 一人より二人。 ね?

――ねえ、何が私の心を埋めてくれたの…?

 さあ? でも、見つけてみせる。
 きっと、ね。