Memory ―ボクの記憶―
――なんのために生きるんだろう・・・・・
なんで生きてるの?
[1]
ボクはコラッタ。
名前なんかない。
ただのコラッタ。
小さな町の側で生まれた。
ずっと今まで、そこにいた。
いろんなみんなと暮らしてた。
ある日、ボクの目の前に現れたニンゲンが言った。
「あっ、コラッタだよ。ねえ、捕まえるの?」
「バーカ。コラッタなんか、どこにでもいるよ。そんな弱いのより、オレはもっと強くて、めずらしいのを捕まえるさ」
弱い?
どこにでもいる?
・・・・・・・・ボクが?
あの日、男の子と女の子がボクに向かっていった。
ボク、くやしかった。
弱いとダメなの?
どこにでもいるとダメなの?
[2]
それからボクは、いろんな所に行った。
強くなるために、ニンゲンを見返すために。
ボクはニンゲンがキライだ。
ボクのことをバカにした。
ボクが珍しくないからって、笑って行ってしまった。
ボクだって生きてる。
カラダには血が流れてる。
傷つくのは、カラダだけじゃないんだ。
ボクは町で変なニンゲンと会った。
ボクが隠れてる草むらにある、大きな岩の上で。
きれいな音のするものをもって、きれいな声で歌ってた。
「――君はいったい何処にいるの?
当てもなく僕はさまよっている
君の聞いたあの言葉
今でも心に残ってるよ
人はなんのために生きるの?
そう君は僕に聞いたね
あの時はちゃんと答えられなかったけど
今はちゃんと答えられる
人は、大切な人と一緒に行くために
ずっと歩き続けているんだよ・・・・・・――」
切ない歌だった。
ボクは歌を聴きながら。
そっと目を閉じた。
次の日、ボクが起きたときには。
もう、そのニンゲンはいなかった・・・・・・・。
[3]
ボクはラッタになった。
強くなったんだよ。
もう、ニンゲンに負けないほど・・。
ラッタになったとき、とても、うれしかった。
やっと、特別になれた気がした。
でも・・・・・・・。
かわらなかった。
みんな、ニンゲンはみんな。
ボクのことを前以上に避けた。
狂暴。
怖い。
それに。
何処にでもいるって・・・・・・・。
結局、ボクがボクである限り。
ニンゲンは、ボクをさけ続ける。
きっと。
ボクが死ぬときまで。
ボクは戦った。
ニンゲンと、みんなと。
そして、自分自信と。
ニンゲンと戦うのが一番ラクだ。
何も考えないで。
ただ、がむしゃらに戦えばいいんだから。
自分と戦うのが一番イヤだ。
とっても。
イヤなやつだから。
[4]
ボクはここにいた。
気がついたら、ここだった。
別に。
来たくて来たわけじゃない。
別に。
コラッタになりたかったわけでもない。
でも、だからといって。
他のものになりたかったわけでもない。
けど。
他のものだったとしても。
ボクはボクなんだ。
これ以上、良くも悪くもならない。
緑がおどる。
かわが歌う。
空が誰かを見つめてる。
そんな中、ボクは1人で立っている。
黄金色に輝く水面。
そこに漂う、紅色のきれいな花。
海より深い、紺碧の空に浮かぶ、真っ白な空。
ボクらは、みんな。
ここっていう場所に生きてるんだよね・・・・・・・。
ここっていう場所が。
みんなの故郷なんだね。
[5]
ニンゲンに会った。
ボクは戦った。
必死に戦った。
ボクを残すため。
戦ったんだよ。
「なあ、おまえ、なんで今ごろラッタなんか捕まえるんだ?」
「だって、こいつ捕まえなきゃ、図鑑完成しねーもん。最後じゃないけど、
捕まえられるときに、捕まえときゃいいんだし」
「ふーん。あっ、そろそろいいんじゃねーの?」
「よーしっ、いけっ」
“ニンゲンのなかま”と戦っていたボクは。
簡単に。
ボールの中に入った。
「やったー! ゲットだぜ!!」
「おい・・。はあ、次いこーぜ」
遠くのほうで。
ニンゲンの声を聞いた気がした。
その声を聞いて。
なぜか、ほっと安心した気分になった。
・・・・・・・・なんでだろう・・・?
[6]
ほんとなら。
ボールをよけることもできた。
あのくらいのスピードなら。
ボクの力で逃げられないこともなかった。
でも。
あえてボクは捕まった。
逃げなかった。
ボクは。
あのニンゲンが好き・・だと思う。
きっと好きなんだ。
だから、捕まった。
ボールを投げるとき。
一瞬、目が合った。
そしたら・・・・・・。
そしたら、そのニンゲン、笑った。
あざける、勝ち誇る、バカにする。
そんなんじゃなかった。
本当に笑ったんだ。
ボクを見て。
うれしそうに・・・・・。
その顔を。
ボクは、好きになった。
好きになってしまったんだ・・・・・・・。
[7]
きっとボクは、あのニンゲンと一緒に行動することなく終わると思う。
だって、あのニンゲンは、ボクのデータが欲しかっただけなんだから。
別に、このボクを・・たった1つの、きまった命を。
あのニンゲンは欲しがったわけじゃない。
でも、ボクはいい。
満足だ。
あのニンゲンはボクに向かって笑ってくれた。
ボクには、仲間などいなかった。
ずっと、1人だった。
でも、あのニンゲンは笑ってくれたんだ。
それでボクは、もう、満足なんだ。
・・・あの時のニンゲンが。
ボクを認めてくれただけで・・・。
――なんのために生きるの?
歌を歌ったニンゲンは、『大切な人と歩くため』だって言ってた。
じゃあ、ボクは?
――なんのために生きるの?
ボクはね。
大切な人を探すために、生きてきたよ。
――なんで、今生きてるの?
少しでも、あのニンゲンの力になりたいから。
だから、ボクは生きるんだ。
これからも・・・・・・ずっと。