Memory  ―初めての気持ち―


          ――スキ・・ってなあに?
               あたしも、いつかわかるかなあ・・?



                        [1]


          あたし、ムウマ。
          お化けじゃないよ。
          女の子だもん。

          名前はないの。
          でもね、みんなあたしを「ムウちゃん」って呼ぶよ。

          このお山に住んでるの。
          小さい時から、ここにいたよ。
          お山のみんな、みーんなあたしの友達。



          昨日ね。
          あたしの一番のお友達の、ヨーギラスの「ヨーちゃん」が遊びにきたの。
          いつもみたいに。
          おいかけっこや、かくれんぼして、遊んだよ。

          とっても楽しかった。

          あたしが、また明日も遊ぼうね・・・っていったら。
          ヨーちゃん、「うん」って言ってくれたの。
          だからあたし。
          ヨーちゃんにサヨナラして、おうちに帰ったのに。



          ヨーちゃんは、こなかった。
          約束の場所にこなかった・・・・・・。


                         [2]


          あたし、悲しかった。
          ヨーちゃんが、嘘ついたことなかったから。
          よけい、悲しかった。


          お友達は、みんな、あたしを心配してくれた。
          「男の子はね、いつも自分勝手なんだよ」
          「やっぱり、女の子と男の子が、うまくいくはずないんだよ」
          「あの乱暴者のヨーギラスなんか、忘れようよ」


          みんな、あたしに遊ぼうって言った。
          でも、あたし。
          首を振って、いかなかった。



          ヨーちゃんは男の子だけど、あたしに優しかったよ。
          みんなが言う、乱暴者なんかじゃなかった。
          いつも、ニコニコ笑ってくれたもん。
          あたしの。
          一番の、お友達だったんだもん・・・・・。


          ゴルダックのお兄ちゃんが、あたしを慰めてくれた。
          「大丈夫。きっとヨーちゃんは戻ってくるよ。ムウちゃんのお友達なんだから」

          あたし、コクンとうなずいて。
          朝になったら、ねちゃった。


          起きたあたしが聞いたのは。
          ヨーちゃんのことだった。
          リングマのおばちゃんが、わざわざ教えに来てくれたの。

          「ヨーちゃんはね。ムウちゃんと別れた後すぐに、ニンゲンに捕まってしまったのよ」



                          [3]


          あたし、おどろいた。
          そんなこと、考えもしなかった。
          とても・・・・びっくりした。


          その後、おばちゃんに教えられたとおり。
          山を出て、すぐ側にある建物を。
          そっと、のぞきにいった。

          灯はもう消えてて、真っ暗だった。

          別に、そんなに苦手じゃないけど。
          灯がスキじゃないあたしにとって。
          とっても都合がよかった。


          中をのぞくと。
          ニンゲンの男の子が1人、部屋で寝ていた。
          側には、いろんなみんなが眠ってた。


          その中に。
          ヨーちゃんがいた。



          あたしの視線に、気がついたのか。
          1人起きてたヨーちゃんが、こっちを見た。
          そして。
          悲しそうに、笑った。




                           [4]

          お山に戻って、あたしは、ぼうっとしてた。
          ヨーちゃんに、会ったのに。
          せっかく会えたのに。

          あたしは、そのまま戻ってきた。

          声を掛けることができなかった。
          お話することができなかった。
          もう、ヨーちゃんが。
          あたしの知らない子みたいで。


          悲しかった・・・・・・。



          ねえ。
          なんで?
          どうして、ヨーちゃんが捕まっちゃうの?

          なんにもしてないのに。
          楽しく暮らしてたのに。
          ヨーちゃんと一緒で楽しかったのに・・・・・。


          ヨーちゃんは悪くないよ。
          みんな、乱暴者だって言うけど。
          優しいし、あもしろいし、一緒にいると楽しいし。



          あたしは。
          ヨーちゃんのいいとこ、いっぱい知ってるよ。
          だって。
          ずっと一緒だったもん。



                          [5]

          あたしはもう1度、ヨーちゃんに会いに行った。

          「ヨーちゃん」
          真っ暗な中。
          あたしが、そっと呼びかけると。
          タタタッって、音がした。
          「ムウちゃんっ!」
          ヨーちゃんは来てくれた。
          あたし・・・・うれしかった。


          それから、あたし。
          毎日、ヨーちゃんに会いにいった。
          日が昇るまでの短い時間。
          ガラス越しに、ずっと話をしてるんだ。



          何日かたった。
          その日は、ヨーちゃん、元気がなかった。
          「・・ムウちゃん。明日ね、あの子が違う町に行くんだ」



          あたし、ヨーちゃんを見た。
          あたしは、ヨーちゃん信じてた。
          嘘つかないもん、ヨーちゃんは。

          でも。
          ヨーちゃん黙ってた。
          自分は行かないって、言わなかった。

          ねえ、ヨーちゃん。
          あたしね。
          これだけは、嘘であってほしかったよ・・・・。


          「ムウちゃん」
          あたしが帰る時、ヨーちゃんが言った。


          「・・・・・・大好きだよ」



                         [6]

          お山に帰っても。
          眠れなかった。
          今日、ヨーちゃんが行っちゃうって考えただけで。
          なんか、ココが苦しかった。



          「おやめっ! 今、外に出たら、消えてしまうんだよ!」
          あたしが、ヨーちゃんのところに行こうとすると。
          リングマのおばちゃんが止めた。
          「ムウちゃん! もうヨーちゃんと、会えなくなるよっ!!」

          それでも、あたし。
          ヨーちゃんに会いたかった。

          今、会わなかったら。
          きっと、もう会えない気がした。

          最後に、1度だけでいいから。
          ヨーちゃんに会いたかった。




          だから。
          あたしは、てりつける太陽の中へと。
          飛び出していった。



          ヨーちゃん。
          会いたいよ・・。
          ねえ。
          どこにいるの?
          もう。
          会えないの・・・・?



                         [7]

          あたしは、フラフラとんだ。
          あつかった、まぶしかった。
          でも。
          あの建物に向かって、とんだ。
          がんばって、とんだ。
          そしたら。
          ・・・ヨーちゃんが見えた。

          「ムウちゃんっ!?」
          ヨーちゃんが、あたしを呼んだ。
          あたし、その声聞いたら。
          なんだか、力が抜けちゃった。

          フラフラッと。
          地面に落ちちゃった。




          「ムウちゃん! ムウちゃんっ!!」

          声がする。

          目を開けたら。
          すぐ前に、ヨーちゃんがいた。
          ・・・・・悲しそうな顔してた。

          あたしね。
          ヨーちゃんのそんな顔、見たくなかったからね。
          へいきだよって、笑ったんだよ。

          そしたらね。
          ヨーちゃん、もっと悲しそうになった。

          あたし、笑おうとしたけど。
          もう、ダメだった。
          目が、トロンって、閉じちゃった・・・・・・。



                          [8]

          いろんなものを見た。

          ニンゲン。
          リングマのおばちゃん。
          ゴルダックのお兄ちゃん。
          お友達のみんな。
          ヨーちゃん。
          そして。
          ヨーちゃんを捕まえた。
          あの、ニンゲンの男の子・・・・。


          みんな、笑ってたよ。
          あたしの大好きな顔で笑ってた。

          しあわせそうだった。
          うれしそうで、たのしそうだった。



          あたし、死ぬのかな。
          いきなり、頭に浮かんできた。
          ちょっと考えた。
          ・・・・・死んでもいいや。
          そう思った。
          だって。
          みんな、しあわせそうだもん。
          それなら、もう、いいや・・・・。


          その時、ヨーちゃんの悲しそうな顔が見えた。
          あっ・・・って、声だしそうになった。


          あたし。
          まだ、ヨーちゃんに言ってないよ・・。




                          [9]

          目がさめたら、知らないとこだった。

          あたしの側で、ニンゲンの声がした。
          「あっ、目を開けたよ!」
          「よかったわ。もう、大丈夫よ」
          「ほんと? ありがとう、ジョーイさん! ・・おいで、ヨーギラス。子のこの目がさめたよ!」

          あたしが、カラダをブルッと動かすと。
          ニンゲンの男の子が笑った。
          「もう、大丈夫だね。カラダが動かせるなら」

          そっと、顔を動かすと。
          ヨーちゃんが見えた。

          ヨーちゃんは、ニンゲンの男の子に抱かれてた。
          大丈夫? って、ヨーちゃんの目は言ってたよ。
          あたしは。
          ニッコリ笑ったよ・・・・・。



          その後。
          あたしは、あのニンゲンの「ぽけもん」になった。
          あのニンゲンは、優しかったし。
          ヨーちゃんと。
          離れたくなかったから。

          あたしも。
          ヨーちゃんが、大好きだから。



          ――スキ・・ってなあに?

           スキってね。
           よくわかんないけど、ドキドキするの。

          ――あたしにも、いつかわかるかなあ・・?

           わかったよ、ちゃんと。

           あたし。
           ヨーちゃん、大好きだもん・・。