Memory ―ライバル―
――おれは、負けない。オレも、負けない。
でも・・・・・・たまには・・。
[1]
「ふんっ。今度ばかりは見逃してやるけど。・・いいか。一番強いのはオレだからなっ!」
「けっ。なーに言ってんだか。そういうのを、負けガーディの遠吠えっていうんだぜ」
おれ、オムスター。
この洞窟で暮らしてる。
オムスターはおれ1人だけど。
別にさびしくない。
「いいかー! オレが世界一強いんだからなー!」
「バーカッ! なら、おれは宇宙一強いんだ―!」
わかる?
毎日、こんなだから。
あいつ・・・・・・。
おれと言い争ってた奴は。
カブトプス。
オレと同じ。
この洞窟でカブトプスは1人。
気がつけば。
こいつがいた。
いつも。
ケンカしてた。
[2]
おれは。
この洞窟に住むみんなに。
小さいころから・・・。
オムナイトのころから、育てられてきた。
あいつも。
カブトプスもそう。
カブトの時から。
おれと一緒。
おれにも、あいつにも。
親はいない。
物心つくころには。
みんなと・・あいつと一緒だった。
・・・・・・みんな。
おれ達のことについて、教えてくれなかったけど。
おれは。
なんとなく、わかってた。
おれたちは、ここで生まれたんじゃない。
気がつけば。
おれたちは大きくなって。
みんなよりも、強くなってた。
そして。
おれたちは同じ時に。
進化を迎えた。
大きくなって。
さらにおれ達は強くなった。
そしたら。
みんな、教えてくれた。
もう、いいだろう・・・・・って。
[3]
おれ達は。
地面の下に埋まっていたって。
卵の状態で、凍ってて。
生きてたのが、不思議だった・・・って。
長老は言ってた。
――きっとお前達は、過去に生を受けたものなのだろう・・・・・・。
なにか理由があって。
親が、地に隠したのではないか・・・・・・・・と。
たしかに、そうかもしれない。
おれは、氷のワザを覚えてた。
あいつは、岩のワザを覚えてた。
長老は。
親の持つワザは、子供に継承されることが多いと・・・・言っていた。
でも。
おれ達、ココの子供じゃないってわかっても。
全然気にしなかった。
みんなも。
前と同じに振る舞ってくれた。
でも。
でもな。
おれ達、やっぱりちょっと変わった。
前より。
1人でいるのが増えた。
ケンカの回数が増えた。
[4]
「うわっ、なんだ!?」
おれは、声に飛び起きた。
だって。
よく知ってる声だったから。
住処の横穴を飛び出すと。
目の前は湖だ。
通称、“まんまる湖”。
その湖の岸辺で。
カブトプスが騒いでる。
・・・・・なんだ?
「くっそー。必殺ワザだしてやる!!」
えっ?
ま、まさか・・・・・・。
「げんしのちから!!」
そ、それはー!!
「カブッ! そのワザは使うなって、長老に・・・!!」
おれは慌てて叫んだけど。
その声は、岩の音に遮られた。
あのワザは。
ここが崩れる可能性があるからって。
長老が禁止したのに・・・・。
あいつ、キレると、単純になるからなあ・・・・。
[5]
「ーっ! れいとう!!」
おれは崩れる岩に向かって、れいとうビームを発射した。
崩れる岩、崩れそうな岩が。
カチンと凍る。
「ふう」
ため息。
ふと見ると、スタコラ逃げるモンジャラの姿。
・・・・・ああ。
あれと戦ってたの。
あっ、と思って、カブトプスを見ると。
・・・・にらんでる・・。
お互いの沈黙が、すっごい気まずい。
「言っとくけど」
ケンカになる前に、おれは言った。
「別に助けたわけじゃないからな。ただ、おれも長老に怒られるのはイヤだから・・」
・・・・・まずい。
よけいケンカになりそう。
「・・・・・礼なんか言わねえからな」
カブトプスは。
ただそれだけ言って。
自分の住処に戻っていった。
おれ達。
少し、大人になったかな・・。
[6]
あれから。
ずいぶんたった。
長老に、まだ氷はバレてない。
いや。
バレてないと信じたい。
おれは。
湖にのんびり浮かんだ。
いつも、みんなに迷惑かけてばかりだ・・・。
ふっと、おれは考えた。
おれ。
ここにいていいのかな・・・・・。
おれは、過去に生まれた。
なのに。
今、生きてていいのだろうか?
今、生きてるから。
みんなに迷惑がかかってるんじゃ・・・・。
おれ自身の問題じゃない。
生きてること。
それ事態が、いけないことなんじゃ・・・・・・。
[7]
目の前に、なにか降ってきた。
・・・岩。
えっ、と思って上を見た。
氷が溶け始めてた。
「・・・うそ」
嘘じゃない。
現実に、ほら。
「いてっ」
岩が頭に。
いたい・・・・・。
おれは急いで逃げ始めた。
でも、うまく泳げない。
足に、水草がからみついてる。
・・・死ぬかもな・・。
さっき考えてたこともあって。
なんだか。
これでいい気がした。
だって・・。
もともと。
おれはこの時代に生きるべきものじゃなくて。
別に、生きたくているわけじゃなくて。
でも、生きたくないって訳じゃないけど。
死んだら、こんなムズカシイこと考えなくてもよくて。
・・死んだら。
これ以上、みんなに迷惑かけずにすんで・・・・・・。
[8]
「バカッ!」
いきなり殴られた。
ぼんやりしながら、横を見ると。
カブトプスがいた。
カブトプスは、おれを陸まで運ぶと。
おれを怒鳴りつけた。
「お前、何やってんだよ! あのまま死ぬ気か!!」
何で怒ってんの?
そう聞いたら。
バカって、怒られた。
「お前がバカだから怒ってんだよ!!」
・・・ひどいなあ。
そう言ったら。
お前のほうがひどいって言われた。
なんで?
って、聞いたら。
「あのまま死んで。オレに、1人で生きろって言うのかよ!!」
って、言われた。
「オレ、ヤダからな。1人で未来に生きるのなんか、ヤダからな! 自分で、勝手に死ぬの、許さねえかんな!!」
ごめん・・・って言ったら。
ごめんですむかっ!! って、怒鳴られた。
・・・・ごめんな。
忘れちゃってて。
[9]
また。
元に戻った。
おれ達の関係も。
あの岩も。
おれ達は、何も変わらない。
いつものように。
子供達の前で、水泳競争したり。
どっちが強いかケンカしたり。
大きな岩で。
より正確な長老を彫れるか勝負して。
結局、長老に見つかって。
大人気ないって、説教されたり・・・・・。
とにかく。
変わらなかった。
同じだった。
・・・・うれしかった。
――おれは、負けない。オレも、負けない。
それは変わらない。
だって、ライバルだからな。
――でも・・・・・・たまには・・。
たまには。一緒に考えよ。
・・1人じゃないもんな。