Memory ―キライだもん―


          ――・・・キライだもん。
                 だいッキライ!!

                         [1]

          「じゃ、いこっか。リール」
          「・・・」


          あたし、マリル。
          マリルだけど、この人は“リール”って呼ぶ。
          ・・・そんな名前キライ。
          あたしは、“マーちゃん”だもん・・。

          つい、この間まで。
          みんなといた。
          楽しかったよ。
          いろんなことを、したもん。

          友達がいたもん。

          ここにも、みんなはいるよ。
          この人の仲間。
          だから。
          あたしの仲間。


          でも。
          仲間じゃないもん。
          そうじゃないもん。


          あたしの友達じゃないもん。



                          [2]

          この人には、仲間がいっぱいいる。
          みんな。
          この人が好き。


          1番仲がいいのは。
          マグマラシの男の子。
          “フィーア”・・って、呼ばれてる。
          この人の、パートナーだって。
          強いよ、とっても。



          みんな。
          この人が好き。

          レディさんも、シャドウくんも、サニーさんも、ナイティくんも。
          この人が好き。



          みんな、いい人。
          やさしくしてくれる。

          そんな。
          みんなが好きなんだから。
          この人も、いい人かもしれない。



          でも。
          あたしは、キライ。
          だいっきらい!



                          [3]

          「リール。リール!」

          振り返ると。
          フィーアくんが、走ってくるのが見えた。

          あたしは。
          じっと、フィーアくんが来るのを待った。


          「はあ、はあ・・・・・」
          「・・だいじょうぶ?」
          あたしが聞くと。
          フィーアくんは、コクコクとうなずいた。


          「ふう・・。リール。さっき。なんで、さっき無視した?」
          やっぱり。
          そのことか。
          「アイツ・・リールと友達になりたいんだよ。だから・・」
          「ゴメン」

          あたしは、そう言って。
          歩き出した。
          「ゴメン・・って、どこ行くんだ! リール!?」

          フィーアくんが、ついてくる。
          「・・1人にしてよ」
          あたしが言うと。
          フィーアくんは、立ち止まった。


          「・・早く、戻ってこいよ!!」


          フィーアくんには悪いけど。
          あたし、戻らないよ。



                         [4]

          青い空。
          小川にそって。
          あたしは歩いた。


          雲が、ゆっくり流れる。
          水も、流れてる。


          こんな。
          気分の悪い時でも。
          時間は、流れていくんだね・・・・。




          あたしは。
          川岸に、ピョコンと。
          腰掛けた。


          水面に、光が反射して。
          キラキラって、光ってる。
          ・・・・・・キレイだな・・。






          ・・・・・あたしは。

          あたしは、別に。
          戦いたくないんじゃ・・・ないの。

          ただ。
          あの人が・・・・・・。



                         [5]

          さっき。
          ほんの、ついさっきまで。

          あたしは、あの人のとこにいた。
          あの人。
          戦いの場に、あたしを出したの。


          それは、別によかった。
          キライだけど、逆らう気はなかったから。


          問題は。
          あたしがイヤなのは。
          その後。



          あの人、なんて言ったと思う?
          「自分の好きなように、戦っていいよ!」



          きっと。
          あの人はあの人なりに・・・考えたんだと思う。
          考えて、考えて、考えて。
          この答えを、出したんだと思う。



          ねえ。
          あたしは、自分からここにきたんじゃないの。
          あなたが、ここに連れてきたんでしょ?
          なのに。
          いきなり自由にするなんて・・・・。
          無責任だよ。


          あたしが自分から進んできたなら。
          自由に戦ったほうがいい。
          でも、あなたが連れてきたんだから。
          めいれいしてよ・・。


          そのほうが。
          ずっと、いい・・・・・・・・。



                          [6]

          あたしね。
          あの後、あの人の戦いを見た。
          すごかったよ。

          バランスよくて。
          絶対、無理しなかった。
          ちゃんと。
          考えてあった。



          だから。
          よけい、イヤだったの。


          あの人。
          みんなの気持ち、わかってくれてた。
          だから。
          適切な命令を。
          出すことが出来た。


          そんなに、みんなの気持ちがわかるなら。
          なんで。
          自由に戦えなんて言ったの?
          なんで。
          あのまま。


          勝負に負けることを・・・・・選んだの・・・・・・・?



                         [7]

          「・・・・・リール」

          みると、あの人がいた。

          「・・ここにいたの」




          あの人は、そのまま座った。

          「・・・・・きれいだね」

          川を見て、そう言った。

          「きみのいたところも・・・・・・こんなだったね」



          あたし、黙ってた。
          じっと、川見てた。

          「・・・・・・ゴメンね」

          あの人は言った。

          「捕まえて・・・・ゴメンね」




          あたし、黙ってたよ。
          となり、見なかった。


          この人。
          ・・・・・バカだよ・・・。



                         [8]

          ヒガクレル。
          でも、あの人は動かない。
          あたしも、動かない。



          夜になった。
          月が昇った。
          でも。
          あの人は動かなかった。



          あたし、立った。
          そしたら、あの人、あたしを見て。
          ニコッて・・・・わらった。

          「じゃ、かえろっか」




          ここにいるのは“リール”。
          “マーちゃん”は・・もういない。



          ――・・・キライだもん。

           キライだよ。
           きらいだもんっ!!

          ――だいッキライ!!

           ・・・・・・キライなの・・・。
           スキじゃ・・・ないもん。