Memory ―信じること―
――君は、僕がキライ?
信じる・・・って、なんだろう・・・・・・?
[1]
僕、ワンリキー。
名前はあるよ。
僕のオヤが付けてくれた。
親はいるけど、そうじゃない。
僕のオヤは、ニンゲンの男の子。
僕の、大切なオヤ。
僕の名前は、リキー。
オヤの男の子と旅してると。
いろんな仲間が増える。
1番最初は、僕だけだったのに。
今じゃ、数え切れないほど、友達がいるよ。
でもね。
友達になれてないのも・・・・・・いる。
僕のオヤが、このあいだ連れてきた仲間。
バルキー。
僕のオヤは。
“バルン”って、名前をつけた・・・・。
[2]
バルンと、僕は仲良くなりたかった。
でも、バルンはいつも。
ボールの中だった。
「くっ・・・・・・。リキー! がんばって!!」
僕のオヤは。
今まで、1度も戦いの場に、バルンを出すことがなかった。
その理由はわからない。
だって。
バルンは、男の子が連れてきたんだから。
「・・なあ、リキー。お前は、バルンと仲良くしたいかい?」
僕は、オヤに向かってうなずいた。
もちろん。
だって、同じ仲間だもん。
「・・・・・・・そっか。・・・仲良くしてやってな」
僕は、内心不安を持ちながらも。
コクンと、大きくうなずいた。
男の子が言うまでもない。
僕は、バルンと仲良くしたい。
どんな奴かを、知りたい。
オヤが、何を考えてるかは、わからないけど。
僕は。
みんなと、友達になりたいんだ。
[3]
オヤの言っていたことは、すぐにわかった。
アイツは・・・・・バルンは。
すごい、乱暴者だったんだ。
その日。
戦いの場に。
僕のオヤは、バルンを始めて出した。
僕は、オヤの側で。
バルンを見ていた。
スゴイ戦いだった。
力の差は歴然だった。
誰が見ても、バルンの方が上だった。
なのに・・・・・・。
バルンは、手加減しなかった。
相手が抵抗しなくなるまで。
傷つけ、追い詰め、そして。
・・いたぶった。
信じられなかった。
アイツの全てが。
あんなになるまで戦わせる、アイツの冷酷さが。
バルンは、僕のオヤの言うことを聞かなかった。
だから、結局。
無理やり、ボールの中に戻された。
・・・・・・信じられなかった・・・。
[4]
その後。
僕のオヤは、バルンのことを話してくれた。
僕に話しても、意味ないと思ってたと思う。
ただ。
誰かに、話してしまいたかったんだろう。
バルンは。
傷つき、倒れていた。
オヤが、1人で行った洞窟の中に・・・。
ポケセンで回復させても。
バルンはしばらく、意識を取り戻さなかった。
まるで。
起きるのが、イヤダというように・・・・・・・。
そもそも、何故バルンがあそこにいたのか。
オヤが通ったのは、人口のトンネル。
そこに、ポケモンは生息していない。
なら、なんで?
「・・・・・そばに、人の足跡があったんだよ・・」
震えながら言った、オヤの言葉。
僕は、そっと。
オヤの手を取った。
「・・・・・きっと。あいつは、僕ら人間に傷つけられたんだ。僕が、あいつに、何かを言う資格は・・・・全然ないよ・・・・・。あいつ
が、あんなことをするのも。きっと、どうしようもない『いかり』からなんだよ。僕ら人間が。バルンを、あんなにしちゃったんだよぉ・
・・・・・・」
男の子は・・・・・・泣いていた。
[5]
僕は、男の子が眠った後。
バルンの入ったボールを、そっと持ち出した。
「・・・・・・・・・なんだよ」
ボールから出たバルンは、とても不機嫌だった。
「何の用だよ」
僕は、一生懸命、オヤのことを話した。
バルンのことを心配してるということ。
人間のしたことを許せないということ。
そして。
バルンと、友達になりたいということ。
僕の話を聞いて、バルンは馬鹿馬鹿しいと笑った。
「おれのことを心配してるって? 人間のことを許せない? ハンッ、なんとも気のいい坊ちゃんだぜ」
僕は、バルンを見た。
バルンの目には、暗い闇が渦巻いてた。
「口でなら何とでも言えるさ。どんな綺麗事も、いかにも本心のように並べ立てることができる。自分の心に嘘ついて、どんな甘っ
たるい言葉も言える。そんな奴のこと、おれはもう・・・信じない」
バルンは鋭い目で、僕をにらみながら言った。
「お前もそうだ。おれのこと、信じてるとか何とかぬかしやがって・・。
お前に、何がわかる! 何も知らないくせに。何もかも、わかったような口たたきやがって! おれは、そういう奴が1番信じらん
ねえ! そういう奴こそ、後で裏切るに決まってんだ!!」
バルンは一息にそういうと、すっと口を閉ざした。
まるで、ネジのきれた、ぜんまいのオモチャのように・・。
「・・・・・・なんで、あのまま死なせてくれなかったんだよ・・・・・」
[6]
僕は、バルンに何があったか知らない。
オヤに聞いたかぎりじゃ。
何があったか知るのは、不可能だ。
でも。
バルンは悲しんでる。
それだけは。
痛いほど、伝わってくるよ・・。
それから、毎晩毎晩。
僕は、バルンを説得し続けた。
けれど。
いつも答えはNOだった。
『信じられない・・・・』
僕は、そんなひどいニンゲンがいるとは思えない。
でも、逆にバルンは。
そんないいニンゲンがいるとは・・思ってない。
考えから違うんだ。
育った環境が違うから。
僕はオヤのように。
優しいニンゲンしか見たことない。
戦いの後も、相手のニンゲンは。
がんばって戦った僕達に、優しい言葉をかけてくれる。
そんな姿しか、僕は見たことない。
そんなニンゲンしあK、僕は見たことない。
それとも。
ただ、僕が世界を知らないだけか・・・・・・・。
[7]
「ねえ、バルンー」
「・・・しつこいぞ」
何回、夜が明けたことか。
それさえも僕はわからなくなった。
それだけ、僕の意思も、バルンの意思も。
とても。
強かった。
「・・・おまえ」
ふいにバルンが声を出した。
「?」
僕が近づくと、バルンは聞いた。
「お前は・・あのニンゲンが好きなのか?」
意味がわからなかった。
でも、“あのニンゲン”が僕のオヤのことだとわかると。
すぐに僕はうなずいた。
「・・・なんで?」
「だって。僕のこと、対等に扱ってくれるし。寂しいとき、いてくれるし。僕のこと、わかってくれるし・・・・」
僕の言葉の途中で、バルンが口を挟んだ。
「それ、あのニンゲンじゃないと。・・できないことなのか?」
「・・うん」
僕はうなずいた。
そしたら、バルンは大声をあげた。
「うそだ! そんなこと、他の奴にだってできる! 誰だって、お前のことわかってくれるし、側にいてくれるし、こうやって話もして
くれる!!」
「でも」
バルンは僕を見た。
「・・・僕は、あのニンゲンが好きだから・・」
[8]
ふいに、後ろから殺気を感じた。
僕が振り向くと、そこには、クヌギダマの集団がいた。
・・・・・僕らが大声出したから・・。
僕は、ハッとして、姿勢を直した。
・・クヌギダマは、あまり友好的ではない。
っていうか、ハッキリ言って・・・・・好戦的。
「・・・・っ! バルン! 逃げて!!」
僕は迷わず、クヌギダマの集団に飛びこんだ。
バルンじゃダメだ。
あの性格じゃ、すぐにクヌギダマを自爆させてしまう。
なんとか、僕がここから離さなければ。
ここから離すだけでいい。
離すだけ離したら、すぐ逃げればいい。
僕は走った。
クヌギダマが、動く僕に、気をとられてくれることを願って・・・・・・。
後ろで、バルンの声を聞いた気がした。
・・その直後。
僕は、意識を失った。
なにがどうなったのか。
僕にはわからない・・・・・。
バルン。
無事、逃げられたかな・・・・・。
[9]
「おいっ、このバカッ! しっかりしやがれ!!」
僕は、フッと目を開けた。
・・・・目の前に、バルンがいた。
「・・ったく、なんてムチャすんだよぉ!!」
バルンは早口で言った。
「やっと・・。やっと、信じられるような気がしてきたのに・・。お前がいなくなっちまったら、おれ・・・・・・今度は誰を信じればいいん
だよぉっ!!」
バルンは、僕の腕をつかみ、ぶんぶんと振った。
「・・・いたいよ、バルン」
僕が言うと、バルンはクシャッと顔をゆがめた。
「・・・・バルンが助けてくれたんだね。・・ありがとう」
バルンは僕を、悲しそうな顔でじっと見た。
「ありがとう、か・・・・。そんなこと、言われたことなかったよ」
バルンは震えてた。
とっても小さく。
「・・・バルン。あの子のところに帰ろう」
――君は、僕がキライ?
キライでもいいよ。
僕は、君が好きだから。
――信じる・・・って、なんだろう・・・・・・?
・・わからない。
でも、僕は。
君のこと、信じてるよ・・・・・。