Memory ―・・母さん―


――母さん・・おれ、貴方に会いたいです。
    母さん・・・・ニンゲンって、本当にいい奴ですか?


               [1]

「大丈夫。1人じゃないわ。母さんが、貴方をずっと見てるから・・・」

母さん。
おれ、ニンゲンがキライです。



「あにきー! ガラガラのあにきってばー!」



星空。
闇夜に浮かぶ星は。
いろんな姿をかたどっている。

昔。
母さんに教わったことだ。


「あにきー!」

空からバサリと。
黒い影が、舞い降りる。

「・・・・・クロか?」

目の前に降り立つ、ヤミカラス。
名前を呼ばれ、ニヤッと笑った。



                [2]

「あにき。捕まったガーディの子。居場所を突き止めましたぜ!」
「・・わかった。行くぞ」


クロを、ホネこんぼうに止まらせ。
おれは、案内通りに歩いて行った。



おれは、ガラガラ。
親につけてもらった、名前はあったが。
今は、ただのガラガラ。
名前で呼ばれていたのは・・・。
遠い、昔のことだ。




「あにき! ここッス」

一件の家の前で、おれは足を止める。
「クロ、きりだ」
「あいよっ」
クロが何処からか。
くろいきりを出現させる。

その霧に包まれ。
おれたちは闇と化した。


そして。
家の中の様子をうかがう。

これが。仕事だ。



               [3]

「あのウインディのせがれ。いい坊ちゃんにつきましたね」
「ああ。あれならアイツも、文句は言うまい」


帰り。
クロに相づちを打ちながら。
おれは、空を見上げた。

リングマ座と、ヒメグマ座が。
仲良く、輝いている。

確か、どちらかの尻尾が、ひしゃくの形をしていると。
前、母さんに聞いた覚えがある。


「・・・・あにき?」
クロの声に、ハッと意識を戻す。

はあ。
また母さんのことを考えてたみたいだ・・・・・・。
もう、大人になったのに・・・。


「・・大丈夫っすか?」
「ああ。なんでもない」


クロは、しばらく黙っていたが、またおれに声をかけた。
「そういえば。今まで何も気にしてなかったんすけど。・・・なんであにきは、こんなこと、ひき受けてるんすか?」

「・・・別に。深い意味はない。ただ・・・ちょっとな・・・・・」
「・・そッスか・・・・・」

何か立ち入ってはいけないと感じたのか。
クロは、それ以上聞いてこなかった。

そして、そのまま。
互いの住家へと、帰っていった。

いつかクロにも。
話せる時が来るだろうか・・・・・・。



               [4]

おれがまだ、カラカラで。
まだ、母さんがいたころ。
おれ達親子は、ニンゲンに飼われていた。

母さんは、その家の女のニンゲンのポケモンで。
もう、戦いはしないものの、大切に、可愛がられていた。


おれも。
その家の子供と、仲良くやっていて。
いずれは、旅に出るものと思われていた。



あの日が来るまでは・・・・・・・。



あの日。
その家のニンゲンが、逃がしてくれた・・・。


町に、ロケット団がきたんだ。
母さんはそう言ってた。
逃げなくては・・殺されるかもしれない。



おれ達は逃げた。一生懸命にげた。
でも・・・・・・・・。
見つかった。





母さんは死んだ。
おれの目の前で・・・。



               [5]

あの後、知った。
おれ達カラカラ・ガラガラは。
生息数が少なく、希少価値が高かったのだそうだ・・・。
生きていても、死んでいても。
価値があるのだと・・・・・。



おれは生き残った。
母さんに言われて、ひたすら逃げた。



許せなかった。

ロケット団が。
ニンゲン達が。

おれの母さんの命を、奪ったもの達が。



でも、母さんは言った。
「ニンゲンは良いものよ。私達にないものを、持ってるんですもの」


母さん。
ニンゲンが良いとは。
おれには思えません。

確かに。
優しい、素直で正直なものも。
たくさんいます。

でも。
母さんを殺した、奴等みたいのも。
それ同等に、たくさんいるんです・・・・・。



                [6]

おれが、捕まったみんなの様子を見ているのは。
頼まれたからじゃなくて、自分のためだからかもしれない。
みんなの様子を見て。
ニンゲンを判断してるのかもしれない。
母さんの言ってたことを。
確かめたいからかもしれない。


なんで、こんなことをやってるのか。


おれにも、わからない。
けど。
今じゃコレが、おれの仕事。
みんなのためにできる、大切な仕事。
自分のためだけど、みんなのためにもなる。
大切な、存在理由。
おれがここにいても、いい理由。



この仕事を一緒にやってる。
ヤミカラスのクロ。

クロとは、ついこの間出会った。
木に引っかかってるのを、助けてやったのが。
全てのはじまり。
そう。
そのときから、アイツはついてくるようになった。


ニンゲンのこと。
おれのこと。

あいつに話したことはない。

あいつは。
おれのこと、わかってくれるだろうか。
おれの、心の醜さ。
おれの、過去。
少しでも、わかってくれるだろうか・・・・・。




               [7]

ニンゲン。


見てきた結果。
良い奴のような気もするし、悪い奴のような気もする。


結局、全然わからない。

自分のこともわからないんだから、当たり前のことかもしれない。



でも、母さん。
この辺りは、母さんの言ってた良いニンゲンが多いんじゃないかな。
おれは、そんな気がする。


きっと、いつかわかるよな。
母さんの言ってた意味。

きっと、いつかできるよな。
最初からやり直すこと。

でも、今は。
クロと一緒に・・・・・。



――母さん・・おれ、貴方に会いたいです。

 おれ、まだまだです。
 母さんのこと、忘れられないんです。

――母さん・・・・ニンゲンって、本当にいい奴ですか?

 おれには、わからないです。
 まだ、時間が足りない。

 母さん。
 おれ、もうしばらくここにいて。

 それから。
 いつかニンゲンと暮らしてみたい。
 ううん。
 きっと、暮らしてみるよ・・・・・・・・・。