Memory ―大人になりたい―


――進化したいな。
    そうすれば、きっと認めてもらえるよ。



               [1]

あの羽は。
いつもキレイ。

太陽の下、飛んでいるところを見ると。
まるで、神様の使いのようなんだ。

神々しくて、輝いてて。
とても、威厳にみちあふれているの。



その羽から、キラキラ落ちる粉は。
まるで、光の粉みたい。
ゆらすたびに。
キラキラって、落ちるの。

羽がふれると、シャランって、キレイな音がするの。
ピンクの目は、大きくて可愛いの。
体の色も。
みどりから、青紫にかわって。


私の、自慢のお姉ちゃん。

とってもキレイな、バタフリー。




               [2]

私、キャタピー。
キアラって、いうの。
お姉ちゃんが、つけてくれたんだ。


お姉ちゃんは、バタフリー。
セアラって、いうの。
とってもキレイ。
この森の中で、一番キレイなの。



お母さん達は、いないの。
わからないけど、いないの。
でも。
寂しくないよ。
お姉ちゃんがいるもん。



お姉ちゃんはね。
私に優しくしてくれるの。

花の蜜を、取ってきてくれたり。
きれいな湖に連れて行ってくれたり。
他の、バタフリーのお姉ちゃんたちと。
一緒に遊んでくれたり・・・・・。



あたしね。
お姉ちゃんが大好き。

とーっても、大好きなの。




               [3]

「キアラ。今からみんなで、湖に遊びに行くんだけど・・・一緒に来ない?」


お姉ちゃんが。
私のいるところまで、飛んできた。

「・・ううん。私、ここで待ってるよ」

私がそう言うと、お姉ちゃんは不安げな顔をしたけど。
しぶしぶ、他の友達や、ストライクさんのところに戻っていった。




お姉ちゃんはね。
私が心配なんだよ。
もう。
小さくないのにね。


でもね。
私、普通のキャタピーの子に比べて。
からだが、すごく小さいんだって。

食べる量も少ないし、あまりみんなと遊ばないから。
お姉ちゃん、すごく心配してくれてるんだ。

だから。
いつも私に断りナシに、でかけたりしない。
必ず、確認してから行くの。


うれしいけど。
お姉ちゃんを縛ってるみたいで。
すごくイヤ。



               [4]

「キアラ、ただいま!」
お姉ちゃんが帰ってきた。

「ごめんね、遅くなっちゃって。ハイ、おみやげだよ」

私が来ると。
お姉ちゃんは、すっと花を差し出した。
キレイな、ピンク色の、小さな花。

「うわあ。かわいいね。ねえねえ、お姉ちゃん。これ、なんて花なの?」
「これはね、サクラっていう、木に咲く花なの。湖の側で咲いてたから、とってきちゃった」
「サクラかあ・・・・・」


私は、ピンク色の花を、じっと見た。


・・お姉ちゃんの花だ。


そう、思った。

お姉ちゃんの目の色。
みんなとは違って、あわい、ピンク色なの。
とてもキレイだよ。

友達の中でも、少し目立ってて。
でも。
お姉ちゃん、キレイだから。
それが、ちっとも変じゃないの。


私が、そう思いながらお姉ちゃんを見てると。
お姉ちゃんは私に気づいて、ニッコリ笑ってくれた。


お姉ちゃん、だーいすき。




               [5]

私は迷惑なんだ。
お姉ちゃんに。
大人だって、認めてもらえない。



今日ね。
偶然聞いちゃった。
お姉ちゃんのお友達が、話してるのを。

お姉ちゃんの取ってきてくれた、べにつぼみの花を。
すこしづつ、かじってたら。
声が聞こえた。


「今日も、セアラは花取り?」
「うん、向こうの丘まで行ってる」
「向こうって・・すごい遠いじゃない! そんなとこまで?」
「うん。キアラちゃん、体が弱いでしょ? 自分じゃ取りに行けないのよ」
「ふーん。セアラも大変ね。でも、葉っぱも食べれるんでしょ?」
「うん、たぶんね。でもセアラ、べにつぼみしか取ってこないの」
「あ。子供には好き嫌いがあるからね。大人なら我慢もできるけど」
「やだ、エルルも好き嫌い多いじゃないー」
「あたしはいいの! 迷惑かけないし、もう進化した大人だもーん」




ショックだった。

私、お姉ちゃんに迷惑かけてた?
お荷物だった?
お姉ちゃんにとって、私は。
なんにもできない。
子供だったの・・・・・?




                [6]

進化をすれば、大人なの?
進化をすれば、認めてくれるの?


私、がんばった。

進化したかったから。
お姉ちゃんに、迷惑かけたくなかったから。
大人だって、認めてもらいたかったから・・・。



でも。
できない。


ねえ。
どうすれば進化できる?

ねえ、どうすれば。
お姉ちゃんに迷惑かけずにすむ?




「キアラッ!!」

お姉ちゃんが飛んできた。

「貴方、いったい何を!?」

・・私のまわりには。
気性の荒い、スピアーたちがいた。




「戦えば、進化できるって・・・・・聞いたことあるから・・」




               [7]

「貴方は、なんてことをしたの。あー、ここにも傷作っちゃって・・」


あの後、ケガだらけの私を抱き上げ。
お姉ちゃんは、一目散に飛んでいった。

その羽からは、いつもとは違って。
眠くなるような、甘い感じの粉が落ちていった。
もちろん、その粉が、私を守るためのものだというのは。
・・・・ずっと前から知っていた。


「はい、できた」
薬草をもったお姉ちゃんが、ポンッと私を叩く。
ビクッとして私は、体を堅くした。
「さて、キアラ。なんであんなことしたの?」

私は、じっと黙っていた。

「・・・・・・イヤならいいわ。言わなくても。でも・・」
お姉ちゃんは、私の顔をのぞきこんだ。
「いつかは、きっと。話してくれるわよね?」



泣きそうになった。
ううん、泣いちゃった。

みんな、お姉ちゃんに全部話したら。
お姉ちゃんは、笑った。


「そうね。たしかに私は、貴方を子供だと思ってたわ。ごめんなさい。でもね。気にしないでいいのよ。ね? それに、キアラ。お願いだから。もうしばらく、私のカワイイ、世話のやける妹でいて頂戴・・・・」



               [8]

「キアラ! 慌てないで、もっと、ゆっくり飛んで!」
「はーい、お姉ちゃん」


私は、進化した。

突然の進化。
私は、トランセルになり。
今日、バタフリーになった。


うれしかった。
これで、もう。
お姉ちゃんのお荷物にならないと思った。
でも、違った。
今度は、飛ぶ練習をしなければならない。


「・・お姉ちゃん、ゴメンネ」
「? 急に何言い出すの、キアラ」
「ゴメンネ。まだ、私、迷惑かかるみたい」
「・・なんだ、そんなこと?」
お姉ちゃんは笑った。
「私はウレシイわ。キアラが私から離れないで。なんたって、私の可愛い妹ですもの」




――進化したいな。

 進化できた。大人になれたよ。

――そうすれば、きっと認めてもらえるよ。

 認めてもらえたよ。
 ちゃんとした大人だって。
 でも、変だね。
 もう少し、子供でいたいな・・・・・・なんて。