Memory ―おともだち― ――嘘じゃないもん。 ねえ、キライにならないで・・・・・・。 [1] 「ホントだってばぁ、信じてよぉ」 あたし、ブルー。 名前はエルフ。 妖精って意味なんだって。 でもね。 だれも、この名前を呼んでくれない。 誰も知らない。 あたしの、エルフって名前。 だって。 あたしには、もう1つの呼び名があるから。 そっちの方が、有名だから。 あたし、“うそつきブルー”。 でも、あたし、嘘なんかついてない! [2] あたし。 みんなから、“うそつきブルー”って呼ばれてる。 みんなに嘘つくからって。 でもね、あたし、嘘ついてないよ。 みーんな、ホントのことだもん。 あのね。 あたし、風さんの言葉がわかるの。 いつからか、わからないけど。 風さんと、お話できるの。 風さんね、いろんな話をしてくれるんだよ。 お山に住んでる、オバケちゃんの話。 ピンク色のチョウチョさんの話。 いつもケンカしてる、2人の男の子の話や。 お母さんを亡くした、悲しい子の話。 いろんな話を。 風さんは知ってるの。 それをね、あたしに教えてくれるんだよ。 でもね、みんな、信じてくれない。 [3] 「ニャニャ? なんニャ、うそつき。まーた新しい嘘でも考えたのかニャ?」 あたしが歩いていると。 タマが声をかけてきた。 「おミャーの探してる、カモカは。さっき、どっかに行っちまったニャー」 このイヂワルなのは、この辺りを仕切ってるニャースのタマ。 いつも、あたしのこと、うそつきって呼ぶの。 イヂワルだから、キライ! 「こーんどは、ニャーんの話かニャ?」 「ふーんだ。タマなんかに教えてあげないもんッ」 「ニャ! タマって言うニャ! ちゃんとリーダーと呼ぶニャ!」 「ヤダ! じゃあ、あたしのこと、うそつきって呼ばないで!」 「ホントのこと言って、ニャーにが悪いんニャ」 「あ、あたし、嘘ついてないもん」 「どうだかニャア。おミャーの話、信じられニャいニャ。それに、風が話すわけないニャ」 「風さん、ちゃんとお話できるよ!」 「ほら、また嘘言うニャ。やっぱり、おミャーは“うそつきブルー”ニャ。ニャハハハ」 タマは笑って行ってしまった。 ひどい。 嘘ついてないのに。 なんで? 何で信じてくれないの? [4] 「おーい、エールフー!!」 空からの声に、あたしはパアッと顔を輝かせた。 「ごめーん。ちょっとネギ探しに行っててさー」 カモネギのカモカ。 あたしの、たった1人のお友達。 あたしの話、信じてくれるのカモカだけ。 「よっと。や、エルフ。今日の天気、どうだって?」 「ちょっと暑くなるって。でもね、風さんが涼しくしてくれるって」 「へえ、そりゃラッキーだな」 あたしの名前。 呼んでくれるの、カモカだけ。 「で、で? エルフ、今日は何の話?」 「うんとね。2人の女の子の話。キレイハナとラフレシアの女の子の話だよ」 「へえ。どんなの?」 「えーっとね・・・・・・・・」 あたしの話。 聞いてくれるの、カモカだけ。 [5] 「へえ。そっか。ストライクさんには、好きな人がいたんだね」 「うん。でも、2人共、元気に新しい人を探してるって」 「すごいね。よーし、あたしも見習おう」 「カモカ、好きな人いるの?」 「え、いや、そういうわけじゃ・・・・・・・」 カモカだけ。 あたしの話を信じてくれるのは。 あたしの話を聞いてくれるのは。 たのしかった。 カモカが笑ってくれたから。 うれしかった。 唯一のお友達だったから。 だから、なくしたくなかったの。 タイセツナ、トモダチダカラ。 嫌われたくなかったの。 風さんに聞いた話。 誰かに話したくてたまらなかった。 でも、みんなに話したら。 そんなことあるわけないって、信じてくれなかった。 でも、カモカは信じてくれた。 笑ってくれた。 「じゃ、またね、エルフ」 「バイバイ、カモカ」 [6] あたし、カモカに嫌われちゃった。 どうしよう。 あたし、ひどいこと言っちゃったのかもしれない・・・・・。 今日ね。 風さんが、またお話してくれたの。 カモネギの女の子の話。 なんとなく、カモカと似てたから。 喜んでくれるかと思ったのに。 「カモカ! ねえ、聞いて聞いて!! 今日ね、風さんが・・・・・」 それは。 カモネギの女の子の話。 友達を大切に思うあまり、自分から好きな人を譲ってしまった。 優しく、けれど、可哀想な女の子の話。 「ね? 優しいよね、その子。ちょっとカモカに似てるし、あたしね、この話・・・・」 「・・・ひどい・・・・・」 カモカは言った。 「ひどい・・・ひどいよ、エルフ。何で風さんに聞いたなんて言うの!? 聞いたんでしょ、みんなから。今までの話も全部!! ・・・・・ひどいよ、エルフ。・・信じてたのに・・ あたし、信じてたのに!!」 カモカは泣いてた。 あたし、なにがなんだか。 ・・・・・・わからなかった・・・・。 [7] 「・・・・・・・」 タマは、ふうっとため息をついた。 「おミャー、本当にそのことを風からきいののかニャー?」 あたし、コクンと頷いた。 「そっか・・・・・・」 タマは少しの間黙ってたけど、すぐに口を開けた。 「あいつ・・・・・・おミャーの話してたとおり・・・・失恋したんニャ」 風さんの言ってたこと。 みーんな、本当のことだった。 この世界で起きてる、本当のことだったの。 ・・あたし、カモカを裏切ったってことなの? 嘘ついたってことなの? あたし、本当に何も知らなかった。 ただ、このごろカモカ、元気なかったから。 この話を聞いて、元気になって欲しかっただけなのに・・・・。 「・・・でも、ブルー。きっと、アイツもわかってるニャ。別に、おミャーが悪いわけじゃニャイ。・・ただニャ。もう少し・・もう少しだけ。時間が必要だったんだニャ・・・・・・・」 [8] “・・エルフ” 風さんがあたしの側に来た。 “・・・・・ごめん。私があんな話したせいで、おともだちが・・・・・” 「・・いいの」 あたしは、小さな声で言った。 「風さんは、悪くない。悪いのは、あたしなの。・・・あたしね、カモカのこと、なんにもわかってなかった。・・・・勝手に友達だって・・・そう・・思って・・・・・・・・」 “・・・エルフ・・” あたしは、そのまま下を向いた。 「・・・あたしが悪いの。みんな、あたしが・・・・・」 “・・・・・・!! そんなことない。エルフだけが悪いんじゃないって、 その子もわかってると思うよ。ほら・・・・・” そう言って、風さんはあたしの側を通りぬけた。 その向こうには。 「・・・・・・ごめんね」 カモカがいた。 「・・ゴメン、ゴメンネ、エルフ。あたし・・あたし・・・・・」 カモカは、わっと泣き出してしまった。 「ゴメンネ、エルフ。あたし、どうしても。どうしても我慢できなくて・・・・」 あたしは、そっとカモカの側に行った。 「・・・いいの、カモカ。あたしこそ、ゴメンネ。カモカのこと、全然わかってなかった。カモカのこと、少しも知らなかった。・・・・許してくれる?」 カモカは、ブンブンと頷いた。 「ゴメンネ、本当にゴメンネ。あんなこと言っちゃって、ゴメンネ・・・」 ――嘘じゃないもん。 そう嘘じゃなかった。はじめから。 ――ねえ、キライにならないで。 ねえ、ずっと友達でいて。 信じてくれなくてもいい。 ずっと、あたしと友達でいて・・・・・・・・。