Memory ―会いたいな―
――風・・・いいね。
ねえ、お父さん・・・・・・。
[1]
私、ファウ。
ポニータ。
ねえ、あなたは私のお父さん、知ってる?
ギャロップの・・お父さん。
私より、足が速くて。
まるで、風みたいで。
赤い炎が、とても、きれいで・・・・。
私。もう何ヶ月も。
お父さんに・・・・・。
会ってない。
[2]
お父さんね。
お仕事に行っちゃったの。
向こうで、しなきゃいけないことがあるって。
いい子にしてるんだよって、言われたから。
私、ずっと、いい子にしてるんだよ。
そうすれば。
はやく、帰ってきてくれるって思ったから。
ねえ、お父さん。まだ、私。
いい子じゃない?
あと、どのくらい、いい子にしてれば。
帰って・・・・・来てくれるの?
お父さん。
はやく、帰ってきて。
ちょっと、さみしいよ。
まだ、泣いてなんかいないよ。
ちょっとだけ。
さみしいだけだもん。
[3]
今日も私、いい子にしてた。
いつもみたいに。
ウインディおばさんの、お手伝いして。
いつもみたいに。
キュウコンのお姉さんに、勉強教えてもらって。
いつもみたいに。
お父さん・・・・・・探しに行った。
お父さんとわかれた、あの小さな丘。
私ね。
毎日行ってるんだよ。
だって。
お父さん、今日帰ってくるかもしれない。
明日帰ってくるかもしれない。
帰ってきたとき、ダレもいなかったら。
お父さん、かわいそうだもん。
だから、私。
待ってるんだよ。
いつもいつも、待ってるんだよ。
でも、暗くなったら。
ちゃんと、ウインディおばさんのところに帰るよ。
いい子だから。
・・いい子は、暗くなったら、お家に帰るんだよね。
[4]
お父さん、今何処にいるの?
あの人と一緒に、何処に行っちゃったの?
ねえ、お父さん。覚えてるよね。
もうすぐ、私の誕生日なんだよ?
毎年毎年、お祝いしてくれたよね。
おめでとうって、言ってくれたよね。
お父さん。
私の誕生日には、帰ってきてくれるよね。
きっときっと、帰ってきてくれるよね。
私、待ってるよ。
だから、誕生日には帰ってきてね。
ぜったい。
ぜったい帰ってきてよ。
[5]
「ファウちゃん」
ウインディおばさんがいた。
「今日も・・・・・・お父さん、待ってるのかい?」
私は、うん、とうなずいた。
「・・そうかい」
おばさんは、何か言いたげに、私のほうを見ている。
「・・・・・あのね、ファウちゃん。お父さん、きっと・・・・」
「ファーウ! こっちにおいでよ、あそぼー!!」
「ファウちゃん! みんなで、おっかけっこしよー!」
向こうで、カモネギのカモカと、ブルーのエルフが手を振ってる。
「はやくー!!」
「うんっ、今行くよー」
私は、おばさんの方を向いて、ペコッとお辞儀した。
「ごめんなさい、おばさん。また後で、おはなし聞かせて」
私はタッと走り出す。
「おばさんとは、夜にお話しできるけど。カモカたちとは、長い時間遊べないから!」
後に残されたウインディおばさんは。
ほっとため息をついた。
「・・・・グッドタイミング・・だねぇ、カモカ」
おばさんは、スッと空を見上げた。
「でも、お礼を言っとこうか。・・今回、また話さずにすんだからねえ・・・・・・・」
[6]
ウインディおばさんは、言えなかった。
ファウのお父さんが、ニンゲンに捕まったなんて・・・。
あのとき、ファウの目の前で。
お父さんのフォールは、ボールの中に吸い込まれた。
一瞬の出来事。
そのため、ファウには訳がわからなかったのだろう。
フォールは言っていた。
しばらく仕事で、遠いところへ行ってくる。
でも、心配するな。きっと帰ってくる。
それまで、ウインディおばさんのところで、いい子に待ってるんだよ・・・
「まったく」
ウインディおばさんは。
丘の麓で遊んでいる、ファウの姿を見守っていた。
「イヤな役目を残してくれたもんだよ、アイツも。・・・・お前がもう戻ってこないって・・・・どう言えばいいんだい・・」
風は今日も。
ゆっくりと、陸を吹き抜けていった。
――風・・・いいね。
いつも、私の側で吹いてくれる。
きっと、お父さんの側でも。
――ねえ、お父さん・・・・・・。
はやく・・。はやく、帰ってきてね・・・・・・・。